説明

車両用空調装置

【課題】エネルギー的に極めて効率のよいドライバー用等の個別空調を可能とするとともに、空調装置の一部を車室内に設置する場合にあっても、車室内スペース確保の要求を満たすことが可能に構成された車両用空調装置を提供する。
【解決手段】圧縮機、凝縮器、膨張手段、蒸発器を備えた冷凍回路を有する車両用空調装置において、圧縮機と凝縮器を車両上の車室外に配置し、膨張手段と蒸発器を、好ましくはユニットに組み込んだ状態にて、車室内の選択された1以上の特定部位に局所的に配置したことを特徴とする車両用空調装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関し、とくに、通常の乗用車における省エネルギーや、乗員のための車室内空調の効率化や車室内前部スペース確保のために好適な車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設車両等を除く通常の乗用車用の車両用空調装置は、通常、冷媒の圧縮機、凝縮器、膨張手段(膨張弁)、蒸発器を備えた冷凍回路を有しており、これら機器を備えた冷凍回路は、通常、インスツルメントパネルよりも前部(以下、「インスツルメントパネル内」と称することもある。)にまとめて配置され、そこから各所に配置した空調風の吹出口を通して車室内へと送られるようになっている。また、膨張手段、蒸発器に送風機を加えて一つのユニットとして組み立て、このユニットを同様にインスツルメントパネル内やインスツルメントパネル下方に配置することもある。このような車両用空調装置により、通常、車室内全体を冷房できるようになっている。
【0003】
なお、本発明に関連する従来技術として、ショベルカー等の建設車両について、操縦者の座席のシート下に空調ユニットを配置することは知られているが(例えば、特許文献1)、建設車両では元々操縦者(ドライバー)の前部にエンジンルーム等の空調装置設置用スペースが無いため、空調装置は座席下や座席後部などに設置せざるを得ない構成となっている。したがって、特許文献1における解決課題は、以下に述べるような本発明の解決課題とは本質的に異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−192997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような従来の通常の乗用車用の車両用空調装置においては、基本的に、空調装置により車室内全体を冷房するようになっている。ところが、車両の乗員がドライバーのみの場合には、車室内全体を冷やす必要のないことが多く、そのような場合に車室内全体を冷やすことは、エネルギー的に不利である。
【0006】
また、車両用空調装置全体の占有体積は比較的大きいため、エンジンルーム内に装置全体の占有体積を確保することが難しい場合もあり、空調装置の一部、例えば膨張手段、蒸発器、送風機等からなるユニットをインスツルメントパネルの下方に配置する場合には、助手席足元確保や運転席・助手席のウォークスルーの妨げになるおそれもあり、車室内スペース確保の要求を満たすのが困難になるおそれもある。
【0007】
そこで本発明の課題は、上記のような従来の通常の車両用空調装置における問題点に着目し、エネルギー的に極めて効率のよいドライバー用等の個別空調を可能とするとともに、空調装置の一部を車室内に設置する場合にあっても、車室内スペース確保の要求を満たすことが可能に構成された車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用空調装置は、冷媒の圧縮機、凝縮器、膨張手段、蒸発器を備えた冷凍回路を有する車両用空調装置において、前記冷凍回路の前記圧縮機と凝縮器を車両上の車室外に配置し、前記膨張手段と蒸発器を、車室内の選択された1以上の特定部位に局所的に配置したことを特徴とするものからなる。
【0009】
圧縮機で圧縮され凝縮器で凝縮された冷凍回路内の高圧側冷媒は、膨張手段で減圧膨張されて蒸発器内で蒸発され、該蒸発器内の冷媒と蒸発器外の空気との間で熱交換され、冷却された空気が車室内空調のための冷房用空気として用いられる。本発明に係る車両用空調装置においては、上記膨張手段と蒸発器が、圧縮機と凝縮器の設置位置とは離れた、車室内の選択された1以上の特定部位に局所的に配置されるので、空気冷却を司る膨張手段と蒸発器用の設置スペースとしては小さくて済み、この部分の薄型、小型化が可能になる。また、冷凍回路における圧縮機および凝縮器と、膨張手段および蒸発器は冷媒配管を介して接続されるので、冷媒配管を適切に引き回すことにより、膨張手段と蒸発器は車室内の任意の位置に設置可能である。したがって、上記特定部位として、車室内の適切な部位、例えば助手席の足元等の位置以外で、かつ、従来それほど有効に活用されていなかったデッドスペースに近い場所等を選択すれば、その場所に設置された膨張手段と蒸発器を介してその場所近傍の局所的な(スポット的な)冷房が可能になる。車室内全体ではなく、そのとき必要とされる局所的な冷房とすることにより、圧縮機の駆動負荷を必要最小限に抑えることが可能になり、省エネルギー化が可能になる。また、上記特定部位として、後述の如き座席下等を選択すれば、インスツルメントパネル下方のスペースを使用しなくて済み、助手席の足元スペースを広く確保することが可能になって、車室内前部スペース確保の要求に応えることが可能になる。
【0010】
このような本発明に係る車両用空調装置においては、少なくとも一つの膨張手段と一つの蒸発器が一つのユニット内に組み込まれ、そのユニットが上記特定部位の数に対応した数だけ設けられている形態とすることができる。このように膨張手段と蒸発器をユニット内に組み込むことで、そのユニット全体を薄型化、小型化することが容易になるとともに、これら機器が組み込まれたユニットを上記の如く選択された車室内の特定部位に容易に設置できるようになる。
【0011】
この場合、各ユニット内に送風機も組み込まれている構成とすることができる。このようにすれば、各ユニットにおいて、必要に応じて、送風機から送られてきた空気を蒸発器と熱交換させ、空調用空気として所望の行き先に送ることができる。
【0012】
また、各ユニット内にヒータも組み込まれている構成を採用することもできる。このようにすれば、必要に応じて、ヒータによって暖房も可能になり、やはり、送風機から送られてきた空気をヒータと熱交換させ、空調用空気として所望の行き先に送ることができるようになる。
【0013】
また、本発明に係る車両用空調装置においては、基本的には、上記車室内の選択された特定部位を複数設定し、複数の特定部位のうち、その時必要とされる特定部位に対して、局所的に空調できるようにすることが好ましい。このような構成は、冷凍回路の分岐構成(冷媒配管の分岐構成)により実現できる。すなわち、冷凍回路における一つの圧縮機と一つの凝縮器に対し、冷凍回路の分岐により複数組の上記膨張手段と蒸発器が接続されている構成である。
【0014】
また、上記特定部位としては、少なくともドライバー用の座席周囲部位(座席下部を含む座席周囲部位)または座席内部位(座席自体の内部部位)またはそれらの両部位を含むことができる。このようにすれば、ドライバー用の座席部位のみのスポット空調も可能になり、乗員がドライバーのみの場合、消費エネルギー的に最も効率のよい空調を行うことが可能になる。なお、上記特定部位として、他の部位の選択、設定も可能であり、例えば、特定部位としてルーフパネルやその近傍部位等も選択可能である。
【0015】
また、上記特定部位が、ドライバー用の座席を含むいずれかの乗員用の座席の周囲部位(座席下部を含む座席周囲部位)または座席内部位またはそれらの両部位からなり、該特定部位に、該座席の背面側から後方に向けて空調風を吹き出す吹出口が設けられている構成を採ることも可能である。このように構成すれば、例えば運転席と助手席に対しては、例えば上述した少なくとも膨張手段と蒸発器を組み込んだユニットをそれぞれ設置して各特定部位を空調できるようにし、後部座席部分に対しては、運転席や助手席の座席の背面側に設けられた吹出口から後方に向けて吹き出される空調風により、必要に応じて空調できるようにすることが可能になる。したがって、膨張手段と蒸発器を組み込んだユニットの数を必要最小限に抑えつつ、局所空調から車室内全体の空調に至るまで、要求に応じた空調を行うことが可能になる。
【0016】
乗員用の座席の周囲部位等を本発明における特定部位とする場合、この特定部位に、この座席の側部から前方に向けてエアーカーテン機能を有する空調風を吹き出す吹出口が設けられている構成を採用することもできる。このように構成すれば、この吹出口から吹き出された空調風を、その座席に座っている乗員の側方(例えば、両側の側方)から前方に向けてエアーカーテン状に流し、しかる後にその乗員の前方へと回り込むように流すことも可能となる。したがって、その乗員に関しては、その乗員の直周囲雰囲気とそれよりも外側の雰囲気を温度的に適度に遮断でき、最も効率のよい局所空調(スポット空調)が可能になるとともに、空調風が直接肌に当たる際の不快感を生じさせないので、快適な空調状態が得られることとなる。
【0017】
このような本発明に係る車両用空調装置は、あらゆる種類の車両に搭載可能ではあるものの、基本的には、車両が乗用車からなる場合にとくに有用なものである。
【0018】
上記のように、少なくとも膨張手段と蒸発器が配置されるのは車室内の選択された特定部位であるが、圧縮機と凝縮器が配置される車両上の車室外部位としては、例えばインスツルメントパネルより車両前部側部位(例えば、エンジンルーム内)またはインスツルメントパネルの後方部位とすることができる。これらの他にも、例えばトランクルームなども採用可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る車両用空調装置によれば、車室内の局所的な空調が可能になり、圧縮機の駆動負荷を必要最小限に抑えて省エネルギー化が可能になる。また、膨張手段および蒸発器が設置される車室内の特定部位として座席下等を選択することにより、助手席足元スペースの拡大等が可能になり、車室内前部スペース等の確保の要求に応えることが可能になる。また、特定部位からの空調風にエアーカーテン機能を持たせれば、より効率のよいスポット的な空調およびより快適な局所空調が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施態様に係る車両用空調装置の車両搭載状態における概略縦断面図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る車両用空調装置の車両搭載状態における概略平面図である。
【図3】座席下に設置されるユニットの一構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1および図2は、本発明の一実施態様に係る車両用空調装置の車両搭載状態の一例を示している。図において、1は車両用空調装置全体を示しており、車両用空調装置1は、冷媒が循環される冷凍回路2を備えている。冷凍回路2には、一つの冷媒の圧縮機3と凝縮器4と、該圧縮機3、凝縮器4と冷媒配管を介して接続された、膨張手段としての膨張弁5と蒸発器6とを一つのユニット内に組み込んだ局所空調ユニット7が複数設けられている。本実施態様では、各局所空調ユニット7は、ドライバーの座席(運転席)8aを含む各座席8の下にそれぞれ局所的に配置されており、これら座席下の部位が、本発明で言う、車室9内の選択された1以上の特定部位に相当している。圧縮機3と凝縮器4は、車両上の車室外部位としてのインスツルメントパネル10よりも前部側に配置されており、複数の局所空調ユニット7はすべてインスツルメントパネル10よりも後部側の車室内に配置されている。なお、本実施態様では、上記のような車室内に配置される局所空調ユニット7とは別の個別空調ユニットとして、フロントガラス下方にデフロスタ用空調ユニット11が設けられている。デフロスタ用空調ユニット11は外気も取り入れ可能に構成されており、複数の局所空調ユニット7はすべて、基本的に内気(車室内空気)取り入れ方式に構成されている。
【0022】
図2に示した冷凍回路2における冷媒配管は、実線で表示した配管が高圧冷媒配管12、破線で表示した配管が低圧冷媒配管13を示している。各局所空調ユニット7への高圧冷媒配管12は分岐部14で分岐されており、弁等を介して、必要なユニット7にのみ冷媒を流すことが可能に構成されている。各局所空調ユニット7からの低圧冷媒配管13は、合流された後、圧縮機3へと接続されている。したがって、稼働させるべき局所空調ユニット7を選択できるようになっている。
【0023】
各局所空調ユニット7は、それが設置されている部位を個別に局所空調できるようになっている。例えば、図に示すように座席下、とくに運転席下に配置される場合、座席の背部から前方に向けて、さらに座席の側方から前方に向けてドライバー15の前部に回り込むように、空調風16、17が吹き出されるようになっている。とくに空調風17は、エアーカーテン状の流れとして吹き出され、ドライバー15の直周囲部の雰囲気をそれよりも外側の雰囲気に対して温度的に適度に遮断できるようになっており、この部位の局所空調効率を高めている。また、空調風17は、ドライバー15に対して前面側から直接的には当たらないようになっているので、局所空調において不快感を与えることも防止されている。また、このように運転席8aまたは助手席8に対して局所空調ユニット7を配置する場合には、図1に示すように、空調風を一部、後部座席側に向けて吹き出し可能に構成することも可能である。図示例では、空調風18が後部座席用VENT空調風、空調風19が後部座席用FOOT空調風とされている。このような空調風18、19の吹出し口を設ける場合には、後部座席下の局所空調ユニット7は省略可能である。なお、本実施態様では、膨張弁5は車室9側に配置された形態としているが、膨張弁5はエンジンルーム内に設けることもできる。そうすることにより、車室内のスペースをより大きく確保できる。
【0024】
各々の局所空調ユニット7は、例えば図3に示すように構成されている。図3は、運転席8aまたは助手席8の下部に局所空調ユニット7を設置した場合を示しており、図示例では、ユニット7内に、蒸発器6に加え、空調用空気を車室内から取り入れて蒸発器6に向けて送り出す送風機20と、暖房や、蒸発器6を通過した空気とのエアミックスが可能なヒータコア21が設けられている。22は、ユニット7における座席8上への(乗員の上体部への)空調風のVENT吹出し口を、23は、乗員の足部への空調風のFOOT吹出し口を、それぞれ示しており、FOOT吹出し口23からの吹き出しは、ユニット7内に設けられたFOOT用ダンパ24によって制御可能となっている。両吹出し口22、23から空調風を吹き出す、VENT/FOOTのBILEVELモードも可能となっている。
【0025】
このように構成された本実施態様に係る車両用空調装置1においては、冷凍回路2の膨張弁5と蒸発器6を組み込んだ局所空調ユニット7が、車室内の局所空調を要求されるそれぞれの特定部位に配置されるので、その時空調が必要とされる車室内部位に対してのみ、必要最小限のエネルギーにて、効率よく空調を行うことができるようになる。したがって、車両全体にとって省エネルギー化が可能になり、省燃費もはかることができる。
【0026】
また、各特定部位に配置される各局所空調ユニット7は、小型、薄型のユニットに構成可能であるので、デッドスペースであった部位、例えば座席下等を有効に活用して容易にかつ適切にユニット7を配置できるようになる。その結果、インスツルメントパネル下に代えて例えば運転席や助手席下部に配置することにより、助手席の足元スペースを広く確保することも可能になって、車室内前部スペース確保の要求に効果的に応えることが可能になる。また、インスツルメントパネルの前部に配置される機器の総ボリュームを小さく抑えることも可能になることから、エンジンルーム内のスペース確保にも寄与できることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る車両用空調装置は、とくに乗用車に好適なものであり、より現実的には、ドライバー周りの局所空調可能構造として好適なものである。
【符号の説明】
【0028】
1 車両用空調装置
2 冷凍回路
3 圧縮機
4 凝縮器
5 膨張手段としての膨張弁
6 蒸発器
7 局所空調ユニット
8、8a 座席
9 車室
10 インスツルメントパネル
11 デフロスタ用空調ユニット
12 高圧冷媒配管
13 低圧冷媒配管
14 分岐部
15 ドライバー
16、17、18、19 空調風
20 送風機
21 ヒータコア
22 VENT吹出し口
23 FOOT吹出し口
24 FOOT用ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の圧縮機、凝縮器、膨張手段、蒸発器を備えた冷凍回路を有する車両用空調装置において、前記冷凍回路の前記圧縮機と凝縮器を車両上の車室外に配置し、前記膨張手段と蒸発器を、車室内の選択された1以上の特定部位に局所的に配置したことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
少なくとも一つの膨張手段と一つの蒸発器が一つのユニット内に組み込まれ、該ユニットが前記特定部位の数に対応した数だけ設けられている、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
各ユニット内に送風機も組み込まれている、請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
各ユニット内にヒータも組み込まれている、請求項2または3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記冷凍回路における一つの圧縮機と一つの凝縮器に対し、冷凍回路の分岐により複数組の前記膨張手段と蒸発器が接続されている、請求項1〜4のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記特定部位が、少なくともドライバー用の座席周囲部位または座席内部位またはそれらの両部位を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記特定部位が、ドライバー用の座席を含むいずれかの乗員用の座席の周囲部位または座席内部位またはそれらの両部位からなり、該特定部位に、該座席の背面側から後方に向けて空調風を吹き出す吹出口が設けられている、請求項1〜6のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記特定部位に、前記座席の側部から前方に向けてエアーカーテン機能を有する空調風を吹き出す吹出口が設けられている、請求項7に記載の車両用空調装置。
【請求項9】
車両が乗用車からなる、請求項1〜8のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項10】
前記圧縮機と凝縮器が配置される車両上の車室外部位が、インスツルメントパネルより車両前部側部位またはインスツルメントパネルの後方部位である、請求項1〜9のいずれかに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−121461(P2011−121461A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280327(P2009−280327)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】