説明

車両用空調装置

【課題】外気温が非常に低い状態での車両の始動初期に、空調装置による車室内の暖房を開始したとき、冷たい空気が車室内に吹き出されることのない車両用空調装置を提供すること。
【解決手段】車両用空調装置4は、圧縮機11の冷媒吐出口にバイパス流路を介してメインコンデンサ12と並列に膨張手段又は減圧手段14に接続され且つ送風装置(ブロワ6a)とエバポレータ7aとの間に配設されたサブコンデンサ20を有する。また、車両用空調装置4は、圧縮機11の冷媒吐出口を前記メインコンデンサ12とバイパス流路とのいずれかに切り換え連通させる切換弁(三方電磁切換弁17)と、ヒーターコア8aへの流路途中に介装された水用熱交換手段(水用熱交換器26)及びバイパス流路の途中に設けられて水用熱交換手段(水用熱交換器26)との間で熱の授受を行う冷媒用熱交換手段(外部熱交換器18)を有する水加熱用熱交換手段27を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷却水を利用して車室内の暖房を行う車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置は、冷却水を利用した暖房装置および冷凍サイクルを利用した冷房装置を設けているのが普通である。
【0003】
この暖房装置では、車室内の暖房時に、冷却水を車室内空調用のヒーターコア(車室内熱交換器)に循環させると共に、ヒーターコア通過風を車室内の吹出口から吹き出させるようにして車室内を暖房可能にするものが知られている。
【0004】
このような車両用空調装置により車室内の暖房を行う場合、冷却水の水温が充分に上昇するまでは車室内に吹き出される空気の温度が低く、乗員が快適と感じるまで長い時間を要することがあった。
【0005】
これの解消方法としては、外気温度が低い場合に冷房装置を作動させると共に、この冷房装置の圧縮機で圧縮される高圧冷媒の熱を利用して冷却水を加熱して、加熱された冷却水をヒーターコアに供給する一方、送風ファンにより車室内の空気をヒーターコアに供給することにより、ヒーターコアで車室内の空気を暖める冷却水式の暖房方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−310227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、外気温度が非常に低い状態においてエンジンを始動した場合、エンジン始動初期にはエンジン冷却水が高圧冷媒の熱で暖まるまでに時間がかかるものであった。このため、この状態で送風ファンにより車室内の空気をヒーターコアに供給し循環させても、空気が冷たい状態で車室内に吹き出されるので、即暖性が悪いものであった。
【0008】
また、外気温度が非常に低い場合、エバポレータは送風ファンから送風される空気から吸熱する為、エバポレータ内の冷媒温度を空気温度以下とする必要がある。この際、冷媒圧力が低下し、冷媒の物性により圧縮機への吸入冷媒の密度が低くなることにより冷媒流量(冷媒循環量)が減少し、必要な性能を発揮することができないことがあった。
【0009】
そこで、この発明は、外気温が非常に低い状態での車両の始動初期に、空調装置による車室内の暖房を開始したとき、冷たい空気が車室内に吹き出されることのない車両用空調装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明の車両用空調装置は、車室内へのエア吹出口が設けられた空調風路内に配設されたヒーターコアと、エアを吸い込んで前記空調風路内に送風する送風装置と、冷却水を前記ヒーターコアとの間で循環させる暖房用冷却水循環回路と、冷媒を、圧縮機、車室外の冷媒凝縮用のメインコンデンサ,膨張手段又は減圧手段,前記空調風路内の前記送風装置と前記ヒーターコアとの間に配設されたエバポレータ、アキュームレータの順に循環させる冷房用冷媒循環回路と、前記圧縮機の冷媒吐出口にバイパス流路を介して前記メインコンデンサと並列に前記膨張手段又は減圧手段に接続され且つ前記送風装置と前記エバポレータとの間に配設されたサブコンデンサと、前記圧縮機の冷媒吐出口を前記メインコンデンサとバイパス流路とのいずれかに切り換え連通させる切換弁と、前記ヒーターコアへの流路途中に介装された水用熱交換手段及び前記バイパス流路の途中に設けられて前記水用熱交換手段との間で熱の授受を行う冷媒用熱交換手段を有する水加熱用熱交換手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明の車両用空調装置によれば、外気温が非常に低い状態での車両の始動初期に、空調装置による車室内の暖房を開始したとき、冷たい空気が車室内に吹き出されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係る車両用空調装置の概略配管図である。
【図2】図1の車両用空調装置のうち車室内に配設される空調ユニットの概略説明図である。
【図3】図1の車両用空調装置の制御回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[構成]
図1において、1は車両(自動車)の車室、2は車両のエンジンルーム、3はエンジンルーム2内に配設された水冷式のエンジンである。このエンジン3には、エンジン冷却のためのエンジン冷却水を流す周知のウォータージャケット(図示せず)が設けられている。
【0014】
また、車室1の前部に設けられたインストルメントパネル(図示せず)内には、車両用空調装置(車両用空調システム)4の空調ユニット5が配設されている。この空調ユニット5は、内部に空調風路5aを有する。
<空調ユニット5>
この空調ユニット5は、図2に示したように、ブロワユニット6,サブコンデンサ20,クーラユニット7,ヒーターユニット8をこの順に備えている。尚、空調ユニット5のサブコンデンサ20,クーラユニット7,ヒーターユニット8内には、ブロワユニット6から送風される空気が流れる一連の空調風路5aが形成されている。
【0015】
ブロワユニット6は、送風装置であるブロワ(送風ファン)6aを有すると共に、インテークユニット6bを有する。このインテークユニット6bは、外気取入口(第1のエア取入口)6b1と内気取入口(第2のエア取入口)6b2を有すると共に、外気取入口6b1と内気取入口6b2の開閉用のインテークドア6cを有する。このインテークドア6cは、モータ等のドア駆動装置(ドア駆動手段)6c1により駆動(回動)させられて、外気取入口6b1と内気取入口6b2の開閉又は開度を調整し、車室外の外気と車室内の内気との流量吸込量を調整可能に設けられている。
【0016】
そして、この外気取入口6b1から取り入れられた外気または内気取入口6b2から取り入れられた内気、或いは外気取入口6b1及び内気取入口6b2から取り入れられた外気と内気の混合された空気は、ブロワ(送風ファン)6aによりクーラユニット7へ送風されるようになっている。
【0017】
このクーラユニット7には冷房用冷媒が循環するエバポレータ(空気冷却用の熱交換器)7aが設けられている。そして、ブロワユニット6により送風される取入空気は、エバポレータ7aの図示しないエア通路を通過する際に、エバポレータ7aが熱交換により冷却することができるようになっている。そして、このエバポレータ7aを通過した空気はヒーターユニット8へ送られるようになっている。
【0018】
ヒーターユニット8内には、エンジンの冷却水が循環するヒーターコア(空気加熱用の熱交換器)8aが設けられている。また、ヒーターコア8aの側部(図では下部)には当該ヒーターコア8aを迂回するバイパス風路8bが設けられ、またヒーターコア8aの前面にはミックスドア8cが設けられている。そして、このミックスドア8cは、モータ等のドア駆動装置(ドア駆動手段)8c1により駆動(回動)されられて、ヒーターコア8aの上流側の図示しないエア通路(エア風路)の開度を調節することにより、ヒーターコア8aのエア通路内を流れる空気の量とバイパス風路8bを流れる空気の量との比率を調節できるようになっている。
【0019】
このヒーターコア8aの下流には混合室8dが形成され、この混合室8dには室内のデフロストグリル、ベントグリル及びフットグリルへそれぞれ連通する複数のエア吹出口8eが設けられている。
<冷媒循環回路>
また、図1に示すように車両用空調装置4は、冷媒循環回路9と、暖房用冷却水循環回路10を有する。この冷媒循環回路9は、冷房用の冷凍サイクル(即ち冷房サイクル)を行わせる冷房用冷媒循環回路(冷媒循環回路)9aと、冷却水加熱用の冷凍サイクルを行わせるバイパス冷媒循環回路(第2の冷媒循環回路、冷却水加熱冷媒循環回路)9bを有する。
(冷房用冷媒循環回路9a)
この冷房用冷媒循環回路9aは、エンジン駆動される圧縮機11と、一端が圧縮機11の図示しない冷媒出口(冷媒出口側)に接続された第1の冷媒配管11aと、この第1の冷媒配管11aの他端に接続され且つ車室1外に配設された冷媒凝縮用のメインコンデンサ12を有する。
【0020】
また、冷房用冷媒循環回路9aは、冷媒入口(図示せず)がメインコンデンサ12の冷媒出口(図示せず)に接続されたリキッドタンク13と、一端がリキッドタンク13の冷媒出口(図示せず)に接続された第2の冷媒配管13aと、第2の冷媒配管13aの途中に介装された一方向弁15と、第2の冷媒配管13aの他端に冷媒入口(図示せず)が接続された膨張手段又は減圧手段14と、この膨張手段又は減圧手段14の冷媒出口(図示せず)が接続された上述の空気冷却用のエバポレータ7aを有する。この冷房用冷媒循環回路に適用される膨張手段又は減圧手段とは、例えば膨張弁や冷媒配管11aの流路を絞るオリフィスである。
【0021】
この膨張手段又は減圧手段14は、エバポレータ7aの冷媒出口(図示せず)から吐出(流出)する冷媒温度及び冷媒圧力を感知(検知)して、エバポレータ7aの冷媒入口(図示せず)に流入する液体冷媒の流量を負荷にあった冷媒流量になるように調整し、即ちエバポレータ7aの冷媒出口(図示せず)から吐出される(流出する)冷媒が設定した目標の(所定の)温度・圧力の過熱状態(過熱度)になるように、エバポレータ7aの冷媒入口(図示せず)に流入する液体冷媒の流量を調整するようになっている。この構成には、周知の構成を採用できるので、その詳細な説明は省略する。
【0022】
更に、冷房用冷媒循環回路9aは、一端がエバポレータ7aの冷媒出口(図示せず)に接続された第3の冷媒配管7a1と、第3の冷媒配管7a1の他端に接続された気液分離用のアキュームレータ16と、アキュームレータ16を圧縮機11の冷媒流入口(図示せず)に接続している第4の冷媒配管15a等を備えている。
【0023】
そして、圧縮機11から吐出される冷媒は、第1の冷媒配管11a,三方電磁切換弁17,メインコンデンサ12,リキッドタンク13,第2の冷媒配管13a,一方向弁15,膨張手段又は減圧手段14,エバポレータ7a,第3の冷媒配管7a1,アキュームレータ16,第4の冷媒配管15aの順に流れた後に、圧縮機11に戻されて循環する冷凍サイクルを繰り返すことができるようになっている。
【0024】
この際、圧縮機11は冷媒ガスを圧縮して高温高圧の圧縮冷媒(圧縮冷媒ガス)にし、メインコンデンサ12は圧縮冷媒の熱を外気に放熱して圧縮冷媒を冷却することにより凝縮させて液体冷媒(凝縮冷媒、冷媒液)にし、リキッドタンク13は液体冷媒を貯留し、膨張手段又は減圧手段14はリキッドタンク13からの高圧の液体冷媒を膨張させて低圧の液体冷媒(凝縮冷媒)にするようになっている。この膨張手段又は減圧手段14からの液体冷媒は、エバポレータ7a内に供給されて空調風路5a内の空気の熱を吸熱し(奪い)、空調風路5a内の空気を冷却する際に、蒸発させられて冷媒ガスになる。この冷媒ガスは、第3の冷媒配管7a1,及びアキュームレータ16を介して圧縮機11に戻される。
(冷却水加熱用のバイパス冷媒循環回路9b)
このバイパス冷媒循環回路9bは、圧縮機11と、第1の冷媒配管11aの途中に介装された三方電磁切換弁(電磁弁)17と、一端が三方電磁切換弁17に接続され第1バイパス冷媒配管17aと、車室1外に配設され且つ第1バイパス冷媒配管17aの他端に冷媒入口(図示せず)が接続された冷媒凝縮用(冷却水加熱用)の外部熱交換器(冷媒用熱交換手段)18を有する。
【0025】
また、バイパス冷媒循環回路9bは、一端が外部熱交換器18の冷媒出口(図示せず)に接続され且つ上述したサブコンデンサ20の冷媒流入口(図示せず)に接続された第2バイパス冷媒配管18bと、サブコンデンサ20の冷媒出口(図示せず)とエバポレータ7aの冷媒流入口(図示せず)に接続された冷媒配管18cを有する。
【0026】
更に、バイパス冷媒循環回路9bは、上述したエバポレータ7aと、一端がエバポレータ7aの冷媒出口(図示せず)に接続された第3の冷媒配管7a1と、第3の冷媒配管7a1の他端に接続された気液分離用のアキュームレータ16と、アキュームレータ16を圧縮機11の冷媒流入口(図示せず)に接続している第4の冷媒配管15a等を備えている。
【0027】
そして、圧縮機11から吐出される冷媒は、三方電磁切換弁17,第1バイパス冷媒配管17a,外部熱交換器18,第2バイパス冷媒配管18b,サブコンデンサ20の冷媒出口(図示せず),冷媒配管18c,一方向弁15b,膨張手段又は減圧手段14,エバポレータ7a,第3の冷媒配管7a1,第4の冷媒配管15a,アキュームレータ16の順に流れた後に、圧縮機11に戻されて循環する冷凍サイクルを繰り返すことができるようになっている。
<暖房用冷却水循環回路10>
この暖房用冷却水循環回路10は、エンジン3のウォータージャケット(図示せず)内の流路と、図示しないウォータポンプによりウォータージャケット(図示せず)の冷却水出口(図示せず)から吐出される冷却水をヒーターコア8aに流した後にウォータージャケット内の流路に戻す冷却水循環流路24を有する。
【0028】
この冷却水循環流路24は、エンジン3のウォータージャケット(図示せず)の冷却水出口(図示せず)とヒーターコア8aの冷却水入口(図示せず)を接続する(連通させている)第1の冷却水流路24aと、ヒーターコア8aの冷却水入口(図示せず)を接続する第1の冷却水出口(図示せず)とエンジン3のウォータージャケット(図示せず)の冷却水入口(図示せず)とを接続する(連通させている)第2の冷却水流路24bを有する。
【0029】
この第1の冷却水流路24aの途中には水用熱交換器26が設けられている。尚、水用熱交換器26内には第1の冷却水流路24aの一部が形成される。
【0030】
この水用熱交換器26は冷媒用の外部熱交換器18と一体に設けられて、この水用熱交換器26と外部熱交換器18は、水加熱用熱交換手段27を構成している。そして、この水加熱用熱交換手段27は、水用熱交換器26と外部熱交換器18との間で熱の授受を行って、圧縮機11から外部熱交換器18に供給される高温高圧の圧縮冷媒の熱で水用熱交換器26内のエンジン冷却水を加熱する。
【0031】
この熱の授受により、外部熱交換器18からの液体冷媒は、ヒーターコア8aからエンジン3のウォータージャケット(図示せず)側に流れるエンジン冷却水を加熱するようになっている。
<コントロールユニット(制御手段)>
上述した空調ユニット5のブロワ6a,圧縮機11及び三方電磁切換弁17等は、車両各部を制御するオートアンプ等の図3のコントロールユニット(演算制御回路等の制御手段)29により動作制御させられるようになっている。
【0032】
また、第1の冷却水流路24aの途中には、冷却水温度を検出して検出信号を水温信号(温度信号)として出力する信号通信システム(図示せず)の水温検出センサ(水温検出手段)30が設けられている。この水温検出センサ30からの検出信号はコントロールユニット29に入力されるようになっている。更に、コントロールユニット29には、冷房スイッチ31からの操作信号(ON・OFF信号)及び暖房スイッチ32からの操作信号(ON・OFF信号)が入力されるようになっている。
【0033】
尚、水温検出センサ30はエンジンのウォータージャケット、又は冷却水循環流路24の少なくとも一方に設け、信号通信システムを介してコントロールユニット29に入力する。
【0034】
更に暖房スイッチ32は、コントロールユニット29により自動的にON・OFFさせてもよいし、乗員の手動操作によりON・OFFさせるようにしてもよい。
[作用]
次に、このような構成の車両用空調装置の作用を説明する。
(1).通常の冷房運転
エンジン3の始動後に冷房スイッチ31からのON信号がコントロールユニット29に入力されると、コントロールユニット29は通常の冷房運転の制御を開始する。
【0035】
この際、コントロールユニット29は、三方電磁切換弁17を作動制御して、この三方電磁切換弁17により、圧縮機11の冷媒出口(図示せず)と第1バイパス冷媒配管17aとの連通を遮断させると共に、圧縮機11の冷媒出口(図示せず)とメインコンデンサ12の冷媒入口(図示せず)を連通させる。
【0036】
この後、コントロールユニット29は、ヒーターユニット8のドア駆動装置(ドア駆動手段)8c1を作動制御して、ミックスドア8cによりヒーターコア8aのエア通路(図示せず)の上流側を閉成すると共に、インテークユニット6bのドア駆動手段6c1を作動制御して、インテークユニット6bの外気取入口6b1を閉成すると共に内気取入口6b2を開かせる。
【0037】
これに伴い、コントロールユニット29は、ブロワ6aを作動させて内気取入口6b2から車室1内の空気を吸い込ませる。この吸い込まれた空気は、空調風路5aを流れてエバポレータ7aの図示しないエア通路(エア風路)内を流れて通過した後、ヒーターユニット8のバイパス風路8b,混合室8dを介してエア吹出口8eから車室1内に吹き出される。
【0038】
一方、コントロールユニット29は、圧縮機11を作動制御してガス状の冷媒(冷媒ガス)の圧縮を開始し、高温高圧の圧縮冷媒を第1の冷媒配管11aに吐出する。この圧縮冷媒は、三方電磁切換弁17を介してメインコンデンサ12に供給されて、メインコンデンサ12で冷却され、凝縮し液体冷媒(冷媒液)となる。この液体冷媒は、リキッドタンク13に貯留された後、第2の冷媒配管13a,一方向弁15を介して膨張手段又は減圧手段14に供給されて膨張(減圧)される。
【0039】
この減圧された液体冷媒は、車室1内のエバポレータ7aに供給されて、ブロワ6aから送風され且つエバポレータ7aの図示しないエア通路を流れる車室1の空気の熱を吸収し、空気の温度を低下させる。この温度が低下した空気は上述したようにエア吹出口8eから車室1内に吹き出されて、車室1内を冷房する。
【0040】
この際、吸熱により膨張手段又は減圧手段14からの液体冷媒(冷媒液)は蒸発させられてガス状の冷媒(冷媒ガス)となり、この冷媒(冷媒ガス)は第3の冷媒配管7a1,アキュームレータ16,第4の冷媒配管15aを介して圧縮機11に戻されて循環し、圧縮機11で圧縮される。
(2).外気温度が低い場合の暖房運転
また、車両の図示しないイグニッションスイッチをONさせて、エンジン3を始動させると、エンジン3のウォータージャケット(図示せず)のエンジン冷却水の水温が水温検出センサ30で検出され、この水温検出センサ30から温度検出信号が出力され、この温度検出信号がコントロールユニット29に入力される。
【0041】
このエンジン3の始動に伴い、エンジン3(図示しない)のウォータージャケットからエンジン冷却水は、水用熱交換器26を介してヒーターコア8a内に流入した後、ヒーターコア8aから流出してエンジン3のウォータージャケット(図示せず)に戻されて循環する。
【0042】
この状態で、暖房スイッチ32をONさせて、このON信号を車両用空調装置4の暖房運転の指令としてコントロールユニット29に入力すると、コントロールユニット29は水温検出センサ30の温度検出信号からエンジン冷却水の温度が車室1内の暖房に必要な温度(所定温度)に達しているか否かを判断する。
【0043】
そして、コントロールユニット29は、例えば、冬期等の外気温度が低い場合(例えば、−10℃以下の場合)におけるエンジン始動初期に、エンジン冷却水の温度(水温)が車室1内の暖房に必要な温度(所定温度)に達していないと判断すると、三方電磁切換弁17を作動制御する。
【0044】
この際、コントロールユニット29は、三方電磁切換弁17により、圧縮機11の冷媒出口(図示せず)とメインコンデンサ12の冷媒入口(図示せず)を遮断すると共に、圧縮機11の冷媒出口(図示せず)とバイパス流路の第1バイパス冷媒配管17aとを連通させる。この状態でコントロールユニット29は、圧縮機11を作動させて冷媒出口から圧縮冷媒を吐出させる。この圧縮冷媒は、第1バイパス冷媒配管17aを介して外部熱交換器18に流入させられる。
【0045】
これに伴い、圧縮冷媒は、外部熱交換器18を流れる際に、外部熱交換器18と水用熱交換器26との間で熱の授受を行い、水用熱交換器26内をヒーターコア8a側に流れるエンジン冷却水を加熱する。
【0046】
一方、コントロールユニット29は、ヒーターユニット8のドア駆動装置8c1を作動制御して、ミックスドア8cによりヒーターコア8aのエア通路(図示せず)の上流側を開くと共に、インテークユニット6bのドア駆動手段6c1を作動制御して、インテークユニット6bの外気取入口6b1を閉成すると共に内気取入口6b2を開かせる。
【0047】
この状態で、コントロールユニット29は、ブロワ6aを作動させて内気取入口6b2から車室1内の空気を吸い込ませる。この吸い込まれた空気は、空調風路5aを流れてサブコンデンサ20の風路を通過させられた後、サブコンデンサ20内の圧縮冷媒から吸熱して、温度が上昇させられる。この吸熱により温度が上昇させられたエアは、エバポレータ7aの図示しないエア通路(エア風路)内を流れて通過し、エバポレータ7aを加熱し、エバポレータ7a内の冷媒を蒸発させた後、ヒーターユニット8のエア通路(図示せず),混合室8dを介してエア吹出口8eから車室1内に吹き出される。
【0048】
また、サブコンデンサ20からエバポレータ7a内に流入した冷媒は、エバポレータ7a内で蒸発し、第3の冷媒配管7a1,アキュームレータ16,第4の冷媒配管15aを介して圧縮機11に戻されて循環させられる。
【0049】
従って、エバポレータ7a内の冷媒温度が外気温と同じに低い状態で、エンジン3を始動させると共に、ブロワ6aを作動させて内気をエバポレータ7aのエア通路(図示せず),ヒーターユニット8のエア通路(図示せず),混合室8dを介してエア吹出口8eから車室1内に吹き出させても、エア吹出口8eから冷たい空気が車室1内に吹き出されることはない。
【0050】
このようにすることで、エンジン3のウォームアップ初期の冷媒圧力の起動に、エンジン冷却水の温度上昇のエネルギーを使って、冷媒を暖めることで、圧力(Pd)の上昇を早める事が可能となる。エバポレータ7aに当たる風を暖めることができ(エバポレータの吸気温度を上昇することができ)、エバポレータ7aの吸熱量が増え、冷媒流量の確保ができ、十分な暖房性能を得ることが可能となる。
【0051】
以上説明したように、この発明の実施の形態の車両用空調装置4は、車室1内へのエア吹出口8eが設けられた空調風路5a内に配設されたヒーターコア8aと、エアを吸い込んで前記空調風路5a内に送風する送風装置(ブロワ6a)と、冷却水を前記ヒーターコア8aとの間で循環させる暖房用冷却水循環回路(冷却水循環流路24)を有する。また、車両用空調装置4は、冷媒を、圧縮機11,車室1外の冷媒凝縮用のメインコンデンサ12,膨張手段又は減圧手段14,前記空調風路5a内の前記送風装置(ブロワ6a)と前記ヒーターコア8aとの間に配設されたエバポレータ7a、アキュームレータ16の順に循環させる冷房用冷媒循環回路9aを有する。更に、車両用空調装置4は、前記圧縮機11の冷媒吐出口にバイパス流路を介して前記メインコンデンサ12と並列に前記膨張手段又は減圧手段14に接続され且つ前記送風装置(ブロワ6a)と前記エバポレータ7aとの間に配設されたサブコンデンサ20を有する。また、車両用空調装置4は、前記圧縮機11の冷媒吐出口を前記メインコンデンサ12とバイパス流路とのいずれかに切り換え連通させる切換弁(三方電磁切換弁17)と、前記ヒーターコア8aへの流路途中に介装された水用熱交換手段(水用熱交換器26)及び前記バイパス流路の途中に設けられて前記水用熱交換手段(水用熱交換器26)との間で熱の授受を行う冷媒用熱交換手段(外部熱交換器18)を有する水加熱用熱交換手段27を有する。
【0052】
この構成によれば、外気温が非常に低い状態での車両の始動初期に、空調装置による車室内の暖房を開始したとき、冷たい空気が車室内に吹き出されることがない。
【0053】
また、この発明の実施の形態の車両用空調装置4は、前記冷却水の温度を検出して温度信号を出力する水温検出センサ30と、前記冷却水の温度が所定値以下のときに前記圧縮機11を作動させると共に前記切換弁(三方電磁切換弁17)を作動制御して前記圧縮機11の冷媒吐出口を前記バイパス流路に連通させる制御手段(コントロールユニット29)とを備えている。
【0054】
この構成によれば、外気温が非常に低い状態での車両の始動初期に、空調装置による車室内の暖房を開始したとき、水温検出センサ30で冷却水の温度を検出して、冷却水の温度が所定値以下のときに圧縮機11の冷媒吐出口から吐出される圧縮冷媒をサブコンデンサ20に供給して、圧縮冷媒の熱をサブコンデンサ20で空調風路5a内に放熱して空調風路5a内の空気を加熱するので、車室内の空気(又は外気)を送風装置(ブロワ6a)で空調風路5a内に吸い込んで車室内に吹き出させても、冷たい空気が車室内に吹き出されることがない。
【0055】
更に、この発明の実施の形態の車両用空調装置4は、前記サブコンデンサ20からの冷媒がメインコンデンサ12に逆流するのを阻止させる一方向弁15を前記メインコンデンサ12の冷媒出口と前記エバポレータ7aの冷媒入口との間に介装している。この構成によれば、メインコンデンサ12に圧縮冷媒を供給したときに、圧縮冷媒がリキッドタンク13側に逆流するのを防止することができる。
また、通常の冷房運転時には一方向弁15bにより前記メインコンデンサ12からの冷媒がサブコンデンサ20へ流入することを防止することができる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・車室
7a・・・エバポレータ
8a・・・ヒーターコア
9・・・冷媒循環回路
9a・・・冷房用冷媒循環回路
10・・・暖房用冷却水循環回路
11・・・圧縮機
12・・・メインコンデンサ
14・・・膨張手段又は減圧手段
17・・・三方電磁切換弁(電磁切換弁)
18・・・外部熱交換器(冷媒用熱交換手段)
26・・・水用熱交換器(水用熱交換手段)
29・・・コントロールユニット(制御手段)
30・・・水温検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内へのエア吹出口が設けられた空調風路内に配設されたヒーターコアと、エアを吸い込んで前記空調風路内に送風する送風装置と、冷却水を前記ヒーターコアとの間で循環させる暖房用冷却水循環回路と、冷媒を、圧縮機、車室外の冷媒凝縮用のメインコンデンサ,膨張手段又は減圧手段,前記空調風路内の前記送風装置と前記ヒーターコアとの間に配設されたエバポレータ、アキュームレータの順に循環させる冷房用冷媒循環回路と、前記圧縮機の冷媒吐出口にバイパス流路を介して前記メインコンデンサと並列に前記膨張手段又は減圧手段に接続され且つ前記送風装置と前記エバポレータとの間に配設されたサブコンデンサと、
前記圧縮機の冷媒吐出口を前記メインコンデンサとバイパス流路とのいずれかに切り換え連通させる切換弁と、前記ヒーターコアへの流路途中に介装された水用熱交換手段及び前記バイパス流路の途中に設けられて前記水用熱交換手段との間で熱の授受を行う冷媒用熱交換手段を有する水加熱用熱交換手段と、を備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置において、前記冷却水の温度を検出して温度信号を出力する水温検出センサと、前記冷却水の温度が所定値以下のときに前記圧縮機を作動させると共に前記切換弁を作動制御して前記圧縮機の冷媒吐出口を前記バイパス流路に連通させる制御手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219048(P2011−219048A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93018(P2010−93018)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】