説明

車両用空調装置

【課題】空気路中に配置された熱交換器を加熱若しくは冷却し、車室内に配置された空気路出口の空気を温度調節する車両用空調装置において、熱交換器の体積は抑制しつつ放熱面積を大きくすることによって、熱交換効率を高め暖房時の熱交換器の温度を低くする。
【解決手段】繊維の集合体から成る繊維パッド2を空気路中で熱交換器1に隣接して設け、繊維は、繊維表面に当該繊維より熱伝導率の高い金属により表面をコーティングされたものから成り、熱交換器1の熱が繊維パッド2に伝導伝熱されるようにした。熱交換器1の熱が繊維パッド2に伝わり、繊維パッドの繊維も熱交換機能を果たし、しかも繊維は集合体とされ、全体としての表面積が体積比では大きいため、熱交換効率が向上し、暖房時における熱交換器1の温度を従来に比べて低くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気路中に配置された熱交換器を加熱若しくは冷却し、車室内に配置された空気路出口の空気を温度調節する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両乗員の足元を暖めるために、シート下から温風を吹き出す車両用空調装置が知られている(下記特許文献1参照)。かかる車両用空調装置は、温風吹出口の上流側の空気路中に設けられた熱交換器によって空気温を上昇させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−79820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、温風を適温(例えば、35〜40℃)とするためには熱交換器を適温よりも高い温度(例えば、200℃)とする必要がある。そのため熱交換器周辺部品に熱害対策が必要となる。即ち、周辺部品が高温に曝されても熱劣化を起こさないようにする必要がある。
本発明は、このような問題に鑑み、熱交換器の体積は抑制しつつ放熱面積を大きくすることによって、熱交換効率を高め暖房時の熱交換器の温度を低くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1発明は、空気路中に配置された熱交換器を加熱若しくは冷却し、車室内に配置された空気路出口の空気を温度調節する車両用空調装置であって、熱伝導性を有する繊維の集合体から成る繊維パッドを前記空気路中で熱交換器に隣接して設け、前記熱交換器の熱が前記繊維パッドに伝導伝熱されるようにしたことを特徴とする車両用空調装置である。
第1発明によれば、熱交換器の熱が繊維パッドに伝わり、繊維パッドの繊維も熱交換機能を果たし、しかも繊維は集合体とされ、全体としての表面積が体積比では大きいため、熱交換効率が向上する。その結果、暖房時の熱交換器の温度を従来に比べて低くすることができる。そのため、熱交換器周辺部材に従来必要とされていた、高温に曝されることに伴う熱対策を簡略化できる。なお、繊維パッドは繊維の集合体から成るため、熱交換機能を果たす繊維の表面積を大きくしても、体積はその割合に比較して抑制することができる。また、この発明は、暖房時のみでなく冷房時にも有用であり、冷房時の熱交換器の温度を従来に比べて高くすることができる。
【0006】
本発明の第2発明は、第1発明の車両用空調装置において、前記繊維は、繊維表面に当該繊維より熱伝導率の高い金属により表面をコーティングされたものであることを特徴とする車両用空調装置である。
第2発明によれば、繊維表面は熱伝導性の良い素材とする必要があるが、芯となる繊維自体の素材は制約を受けないため、軽量化や低コスト化に配慮するなど設計の自由度が増す効果がある。
【0007】
本発明の第3発明は、第1又は第2発明の車両用空調装置において、前記繊維パッドは前記熱交換器の下流側に配置されていることを特徴する車両用空調装置である。
第3発明によれば、熱交換器の下流側に配置された繊維パッドの吹出口側は空気流の最下流側となり、暖房時には温度はより低くなるため、乗員が直接触れても良いくらいの位置に配置することができる。従来のように熱交換器の温度が高い場合には熱交換器を乗員近くに配置することができないが、第3発明によれば吹出口の近く、即ち乗員近くに熱交換器及び繊維パッドを配置できるためエネルギー効率が良くなる。
【0008】
本発明の第4発明は、第1発明の車両用空調装置において、前記繊維はカーボン繊維から成ることを特徴とする車両用空調装置である。
第4発明によれば、一般的な化学繊維にカーボンを含有させることで熱伝導性の良い繊維とすることができるので、低コストで軽量化された繊維パッドを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を示す車両用シートの側断面図である。
【図2】図1の一実施形態の熱交換器部分の拡大図である。
【図3】図2と同様の熱交換器部分の拡大斜視図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す車両用シートの側断面図である。
【図5】図4の実施形態の変形例である空気路切換機構を示す説明図である。
【図6】図5の空気路切換機構の動作状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示し、空調装置を車両用シートのシートクッション部に適用したものである。周知のようにシートクッションは脚ブラケット44により車両フロアに固定された前後スライドレール42上に設けられており、クッションパッド53が表皮54に覆われてロッド55を含むフレーム上に固定されている。フレームの一部を成すクッションパネル51に対し、取付ブラケット52を介して空調装置の空気路を成すダクト34が取り付けられている。ダクト34は内部に図示しないモータによって駆動されるファン32を設け、このファン32によってダクト34内に形成される空気流の下流側に熱交換器1と繊維パッド2が配置され、空気の吹出口(本発明の空気路出口)31はシートクッション前方のシールド前面に開口されている。なお、ダクト34の空気取入口は図示を省略したが、シートクッションの構造内部に開口されている。
本発明の特徴部分である熱交換器1及び繊維パッド2は、図2、図3に拡大して示されるように一般的な熱交換器1に接触させて繊維の集合体から作られた繊維パッド2が設けられている。繊維パッド2の繊維は、一般的なポリエステル繊維の表面に、熱伝達率を高くするため、例えば銀のコーティングを施されたものであり、コーティングは一般的な電気溶解メッキ法により行われる。繊維パッド2は、銀コーティングされた繊維を不織布状に一体化されたものであり、そのように集合体とされた繊維同士は互いに複雑に絡み合い、しかも熱交換器1に面する部分では熱交換器1とも接触している。このため、熱交換器1の熱は、繊維パッド2の繊維に伝達伝熱され、繊維パッド2はダクト34内の空気流に曝されることにより熱交換器として機能することになる。なお、繊維パッド2は、その内部を空気が流れるときの通流抵抗が大きくなり過ぎないよう繊維の密度を調整される。
【0011】
このように構成されているため、ダクト34内を流れる空気は熱交換器1のみならず繊維パッド2によっても熱交換され、暖房時であれば空気が加熱されて吹出口31から送風され、車両乗員の足元を暖房することができる。このとき、繊維パッド2の繊維全体の表面積が一般的な熱交換器の表面積に対し体積比で大きく、熱交換効率が良いため、吹出口31から所定温度(例えば、35〜40℃)の空気を得るために必要とされる熱交換器1における温度が繊維パッド2のない場合に比べて低くできる(例えば、150℃程度となる)。このため、熱交換器1の周辺部材に従来必要とされていた、高温に曝されることに伴う熱対策を簡略化できる。なお、繊維パッド2は繊維の集合体から成るため、熱交換機能を果たす繊維の表面積を大きくしても、体積はその割合に比較して抑制することができる。そのため、狭い場所にもコンパクトに配置できる。ダクト34内の空気流で見て熱交換器1の下流側に配置された繊維パッド2の吹出口31側は空気流の最下流側となり、暖房時には温度はより低くなるため、乗員が直接触れても良いくらいの位置とすることができる。従来のように熱交換器の温度が比較的高い場合には熱交換器を乗員近くに配置することができないが、この実施形態のように吹出口31の近く、即ち乗員近くに熱交換器1及び繊維パッド2を配置できるためエネルギー効率が良くなる。
【0012】
繊維パッド2の繊維は、上述のような銀コーティングされた繊維に限らず、アルミニウムなど他の金属によってコーティングされた繊維でも良く、繊維を成す素材にカーボンを含有させることによって熱伝達率を高めたものでも良い。また、熱伝達率の比較的高い材料、例えば銀、銅、アルミニウムなどを繊維状にしたものでも良い。
繊維パッド2は熱交換器1からの伝達伝熱を受けるために熱交換器1に接触させて配置したが、上述のように互いに接触させず両者が離間して配置されても伝達伝熱が生じるように互いが熱伝達率の高い別部材で連結されていれば良い。また、繊維パッド2は、熱交換器1に対し空気流の下流側ではなく上流側に配置されても良い。
【0013】
図1において、前後スライドレールのロック解除操作のためのプルハンドル43は、吹出口31の下方に配置され、常時は吹出口31からの温風に曝されていないため、プルハンドル43が高温になってしまうことはない。プルハンドル43操作時にプルハンドル43が吹出口31に接近しても、その時間は操作時の短時間だけであるため高温になることはない。
なお、繊維パッド2が長時間空気流に曝されることにより、あるいは吹出口31から浸入する埃や塵により目詰まりし、それに伴い空気抵抗が増加して空気流量が少なくなってしまうことが考えられる。その場合には、繊維パッド2が空気流により冷却され難くなるため、設定値以上の高温になってしまう可能性がある。そのような問題に対しては、繊維パッド2の下流側に温度センサ(不図示)を設け、この温度センサによって検出される温度が設定値(例えば、摂氏50度)以上となると、熱交換器1の温度を低下させるように構成することができる。こうすることにより吹出口31からの送風温度が高くなり過ぎないようにすることができる。
また、かかる問題に対し、熱交換器1をPTC素子によって構成すれば、PTC素子は周知のように温度に応じて自らの抵抗値が変化して、素子の発熱量をセルフコントロールする機能があるので、余分なセンサなしで熱交換器1の異常な温度上昇を防止できる。
【0014】
図4は、本発明の他の実施形態を示し、ここではファン32の下流側通路を2つに分け、一方は図1と同様にシートクッションの前方へ吹出し、他方はクッションパッド56の内部を通して表皮57の開口57aから吹出すようにしている。他方側の通路を成すダクト35bには一方の通路を成すダクト35aと同様に熱交換器12と繊維パッド22とが互いに接触された状態で配置されている。ダクト35bの出口はクッションパッド56内の空気通路56aに連通されている。空気通路56aはクッションパッド56内で下から上に向かう過程で複数の通路に分岐されており、分岐路の下流端(図4では上側端)は表皮57に形成された複数の開口57aに連通されている。そのためダクト35bから送られる空気は表皮57の開口57aから吹出される。この場合の熱交換器12と繊維パッド22の配置は上述の一実施形態の熱交換器1と繊維パッド2の場合と同じであるが、他方のダクト35bの熱交換器12は、空気流を加熱するか、冷却するか切換えられるように構成されている。これは例えば、ペルチェ素子を使い、その電流の方向を切換えることにより実現できる。空気流を加熱するようにすれば、シートクッション表面を暖房することができ、冷却するようにすれば着座部の蒸れ防止として機能させることができる。
図4の実施形態の場合も、図1の実施形態の場合と同様、熱交換器12に接触させて繊維パッド22を設けたことにより同様の作用効果を達成できる。
【0015】
図5には、図4の実施形態の変形例が示されており、2つのダクト35a、35bの通路をそれぞれ連通・遮断できるように構成されている。そのため、各ダクト35a、35bには、開閉弁36a、36bと開閉弁36a、36bを開閉制御するストッパ37a、37b及び解除ケーブル38a、38bが設けられている。開閉弁36a、36bは空気圧を受けて弾性変形することによりダクト35a、35bの通路を開閉するものであり、図5のように開閉弁36a、36bがストッパ37a、37bによりダクト35a、35bの壁との間に挟まれているときは通路は閉じられ、図6のように解除ケーブル38a、38bが引かれ、ストッパ37a、37bが開閉弁36a、36bから離れると通路は開かれる。開閉弁の構成は周知の各種のものの中から任意に選択可能である。
このように各通路を任意に開閉可能とすることにより空調空気の吹出しを選択的に行うことができる。
【0016】
上記各実施形態では、車両用シートのシートクッション部に本発明を適用した場合について説明したが、シートバック部に適用しても良い。また、シート以外の車室内部位に適用しても良い。
その他、本発明は、その発明思想の範囲内で各種形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0017】
1 熱交換器
2 繊維パッド
31 吹出口
32 ファン
34 ダクト
35 ダクト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気路中に配置された熱交換器を加熱若しくは冷却し、車室内に配置された空気路出口の空気を温度調節する車両用空調装置であって、熱伝導性を有する繊維の集合体から成る繊維パッドを前記空気路中で熱交換器に隣接して設け、前記熱交換器の熱が前記繊維パッドに伝導伝熱されるようにしたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1の車両用空調装置において、前記繊維は、繊維表面に当該繊維より熱伝導率の高い金属により表面をコーティングされたものであることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項1又は2の車両用空調装置において、前記繊維パッドは前記熱交換器の下流側に配置されていることを特徴する車両用空調装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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