車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法
【課題】第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合わせる際のエア溜り、浮き発生の防止、剥離等外観に影響する要因を少なくすることのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供することにある。
【解決手段】車両用シートに用いられる車両用表皮材10であって、車両用シートの少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材11と、この第一の表皮材11の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材11に埋設され一体に接合された第二の表皮材12と、を備え、第二の表皮材12の裏面側に通気手段12bを形成した。
【解決手段】車両用シートに用いられる車両用表皮材10であって、車両用シートの少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材11と、この第一の表皮材11の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材11に埋設され一体に接合された第二の表皮材12と、を備え、第二の表皮材12の裏面側に通気手段12bを形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法に係り、特に二三輪車用シートに好適な車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法に関する。なお、本明細書において、二三輪車用シートとは、オートバイ、スクーター、スノーモービル、ジェットスキー、バギー、ゴルフカーなどの屋外で直接風雨に曝されるシートをいうものとする。
【背景技術】
【0002】
屋外での使用に適した二三輪車用シート(座席)は、外観が画一的なものとなっており、車体のデザインや乗員の好みに対応した、デザイン性の高い座席が要望されている。そして、デザイン性を確保するため、例えばシートカバーを被せることなどにより、シートに所望のデザインとなるような手段を用いていた。しかし、このような手段では、シートカバーとシートとの一体感が得にくく、良好な外観が得られないという不都合があった。
【0003】
また、デザイン性を確保するための他の手段としては、クッション材をボトムプレートに対して取り替え可能とし、クッション材の色彩やデザインを変えることにより、乗員の好みに合ったシートとすることが知られている。しかしこの技術では、タイプに合わせて異なる形状のクッション材を準備する必要があり、クッション材自体が外部に露見する構成であるため、クッション材の材質が耐候性のある材質に限られるという不都合があった。
【0004】
さらに、成形型の型面に絵柄インキ層を形成し、真空成形することにより、表皮材に絵柄インキ層を転写する加飾技術も知られている。しかしこの技術では、インキに基因する対応、即ちインキの種類や濃度などの調整や型面のインクを掃除することが必要となり、製造工程における工数が多くなる等の不都合があった。
【0005】
さらにまた、座席を被覆している表皮材とは別に、別色や別素材の表皮材を準備し、縫製により加飾を行う技術も考えられる。しかし、この場合は、縫製部分で表皮材に穴が開いてしまうため、この部分から雨水等が浸入し、クッション材を劣化させてしまうため、雨水等の浸入防止対策が必要となり、外観性を損なうという問題がある。また、加飾表皮材の端部がめくれてしまい、外観上も好ましくないという不都合があった。
【0006】
このような問題を解消するために、本出願人は、座席の少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材と、この第一の表皮材の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材に埋設され一体に接合された第二の表皮材とからなる技術を提案している(特許文献1、請求項、図7)。
また、本出願人は、表面材と裏布とが積層された防水表皮材であって、表面材はメイン表面材に重畳して、サブ表面材の端部がメイン表面材に埋め込まれて一体に接合され、前記サブ表面材には、該サブ表面材の色と異なる色のステッチ意匠が形成された技術も提案している(特許文献2、請求項、図3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−125845号公報
【特許文献2】特開2009−101867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で開示された技術は、一枚ものの状態を保ちながら、その表面をデザイン性に富んだ外観とすることが可能で、絵柄部が印刷等ではなく、表皮材から構成されており、しかもこの表皮材は埋設されているので、印刷と比較して経時によるかすれや剥がれ等が発生することなく、長期に渡って好適な外観を保つことが可能であるため、例えば屋外に曝される物品にも好適に用いることが可能であるという優れた効果を奏するものであった。
【0009】
また、特許文献2で開示された技術は、従来のようにメイン表面材の上にサブ表面材を単に貼り付けたようなものとは異なり、防水表皮材として、サブ表面材がメイン表面材に埋め込まれて剥がれ難く、メイン表面材とサブ表面材との一体感を有することが可能で、サブ表面材に個別の刺繍・印刷を施すことでカスタム化を図り、ユーザー毎の個性のある車両用表皮材を得られるという優れた効果を奏するものであった。
【0010】
しかし、特許文献1及び特許文献2の技術は、加飾材への縫製追加による意匠性の向上に関するものである。例えば、図12で示すように、加飾部材120を真空凹型(不図示)にセットし、表皮材110の真空成形と同時に加飾部材120の接着と、表皮材110への埋没を行う工程で、車両用表皮材100は、表皮材110と加飾部材120の間に入った空気が閉じ込められたままとなって、空気抜けが出来ず、エア溜り150が生じ、加飾部材120の浮きや剥離が発生するという課題を解決できなかった。
【0011】
また、図12で示すように、加飾部材120へ塗布した接着材140が表皮を加熱した際の熱により再活性し、表皮材110と加飾部材120の境界より食み出し、外観及び品質に影響を及ぼすだけでなく、表皮成形型の汚れによる清掃工数の増加を招くという課題、更には加飾部材120の端末まで、均一に接着材140が回り込む事が無く接着強度が低下するという課題を解決できなかった。
【0012】
さらに、加飾部材120へ接着材を塗布するとき、例えば図13で示すように、ロールコータにてホットメルトを塗布する工程の場合、ホットメルトの熱が加飾部材120へ直接伝わることによって、加飾部材120の変形、収縮が発生しており、これを防止するという課題を解決できなかった。
【0013】
本発明の目的は、第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合わせる際のエア溜り、浮き発生を防止することのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、第二の表皮材である加飾部材の剥離を防止し、接着材の意匠面への食み出しによる外観や品質の低下を防止し、表皮成形型の汚れによる清掃工数の低減を図ることのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合せる際に、接着材の塗布時の熱により加飾材の変形や収縮を防止することのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供することにある。
以上のように、外観に影響する要因を少なくすることのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、本発明の車両用表皮材によれば、車両用シートに用いられる車両用表皮材であって、車両用シートの少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材と、第一の表皮材の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材に埋設され一体に接合された第二の表皮材と、を備え、第二の表皮材の裏面側に通気手段を形成したこと、により解決される。
【0015】
このように、第二の表皮材の裏面側に通気手段を形成することにより、第一の表皮材と第二の表皮材との間に入った空気が第二の表皮材である通気手段によって、抜けることが可能となり、エア溜り、浮きの発生を防止することが可能となる。
【0016】
このとき、第二の表皮材に形成された通気手段は、通気層として形成されていると好適である。さらに、第二の表皮材は、第一の表皮材の露見しない側の面積を、第一の表皮材の表面側に露見する側に対し大きくして埋設されてなると好適である。
したがって、成形時に加熱され、軟化し或いは溶融した第一の表皮材が、第二の表皮材である加飾部材の端末部分と成形型の隙間に流れ込み、第二の表皮材である加飾部材の端末が第一の表皮材に覆われることとなり、第二の表皮材である加飾部材端末からの剥離の抑制が図れると共に、第一の表皮材と第二の表皮材との一体感が得られる。そして、第二の表皮材は、第一の表皮材の露見しない側の面積を、第一の表皮材の表面側に露見する側に対し大きくして埋設されているので、加熱された表皮材の熱によって接着材が再活性(溶融)し、第一の表皮材と第二の表皮材(加飾部材)との間を通りやすくなり、端末部の接着強度が向上する。これにより、第一の表皮材と第二の表皮材(加飾部材)との剥れを防止し一体的になり、表皮材の意匠面の外観品質の向上を図ることが可能となる。
【0017】
また、このとき、第二の表皮材は、第一の表皮材の表面側に露見する側の面積を、第一の表皮材の露見しない側に対し大きくして埋設されて構成することもできる。このように構成しても、第二の表皮材の意匠面側(外観側)の面積が、第一の表皮材の基布側に対し大きくなる様裁断することによって、上記したように、加熱された表皮の熱によって再活性(溶融)した接着材が、第一の表皮材と第二の表皮材(加飾部材)との間を通りやすくなり、端末部の接着強度が向上するという効果を奏することが可能となる。
【0018】
前記課題は、車両用表皮材の製造方法によれば、請求項2乃至4のいずれかに記載の車両用表皮材の製造方法であって、第二の表皮材の露見する部分以外の領域で、第二の表皮材に設けられた通気層に接着材を塗布する接着材塗布工程と、第一の表皮材を加熱する加熱工程と、真空型に露見する部分が金型面に接するようにして第一及び第二の表皮材を配置する表皮材配置工程と、第一の表皮材及び第二の表皮材を真空引きする真空引工程と、を備えた、ことにより解決される。
【0019】
より具体的には、接着材塗布工程は、ホットメルト塗布工程であって、第二の表皮材をローラーの間を通して、ホットメルトを第二の表皮材の通気層としての断熱層に塗布してなると好適である。
上記のように構成することにより、請求項2乃至4のいずれかに記載の車両用表皮材を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合わせる際のエア溜り、浮き発生の防止できる。
また第二の表皮材である加飾部材の剥離を防止し、接着材の意匠面への食み出しによる外観や品質の低下を防止し、表皮成形型の汚れによる清掃工数の低減を図ることができる。
さらに第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合せる際に、接着材の塗布時の熱により加飾材の変形や収縮を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両用表皮材を用いたシートの一例を示す概略斜視図である。
【図2】車両用表皮材の説明断面図である。
【図3】図2の一部拡大した説明図である。
【図4】車両用表皮材の他の例を示す説明断面図である。
【図5】図4の一部拡大した説明図である。
【図6】車両用表皮材の更に他の例を示す説明断面図である。
【図7】図6の一部拡大した説明図である。
【図8】第二の表皮材を説明する断面図である。
【図9】第二の表皮材に接着材を塗布する工程の説明図である。
【図10】成形工程の説明図である。
【図11】他の成形工程の説明図である。
【図12】従来例を示す車両用表皮材の説明断面図である。
【図13】従来例を示す第二の表皮材に接着材を塗布する工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることはもちろんである。
図1乃至図11は本発明に係る実施態様であり、図1は車両用表皮材を用いたシートの一例を示す概略斜視図、図2は車両用表皮材の説明断面図、図3は図2の一部拡大した説明図、図4は車両用表皮材の他の例を示す説明断面図、図5は図4の一部拡大した説明図、図6は車両用表皮材の更に他の例を示す説明断面図、図7は図6の一部拡大した説明図、図8は第二の表皮材を説明する断面図、図9は第二の表皮材に接着材を塗布する工程の説明図、図10及び図11は成形工程の説明図である。
【0023】
本発明に係る表皮材10は、車両用シートSに用いられる車両用表皮材であり、第一の表皮材11と第二の表皮材12とから構成されている。第一の表皮材11は、車両用シートSの少なくとも着座部を被覆し、第二の表皮材12は第一の表皮材11の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材11に埋設され一体に接合されている。
第一の表皮材11及び第二の表皮材12は、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等から形成されている。なお、必要に応じて可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、無機充填剤等の各種添加剤を添加しても良い。また、第一の表皮材11及び第二の表皮材12の表面に、例えばウレタン系塗料層、シリコーンウレタン塗料層等の表面処理層を設けても良い。また、これらの塗料層に必要に応じて帯電防止剤、老化防止剤、顔料等を添加配合しても良い。
【0024】
第一の表皮材11は、例えば、車両用シートSとして、図1で示すように、屋外に露出した自動二輪車のシートに適用されるもので、クッション材及びボトムプレート(不図示)を被覆するものであり、クッション材及びボトムプレートを被覆可能な大きさに形成されている。
この第一の表皮材11は、合成樹脂層と繊維基材層とから構成することができる。繊維基材層は、織物、編物などの織布、または天然繊維や合成繊維などの不織布からなる。特に、編物等は伸縮性があり、第一の表皮材11の表面にステッチ模様やシボ模様を設けたときに追従するため好適である。或いは、よりソフトな感触や高級感を出すために、第一の表皮材11の裏面に発泡層(図示せず)を設けた構成としても良い。
【0025】
本実施形態の第二の表皮材12は、加飾部材であり、表皮層12aの裏面で第一の表皮材11と接合する側に、通気手段が形成されている。本実施形態の通気手段としては、通気層であり、具体的には、通気可能な基布層12bが接合されている。この基布層12bに接着材12cとしてのホットメルトが塗布されて、第一の表皮材11と接合される。第一の表皮材11と第二の表皮材12は、図2で示すように、加飾部材としての第二の表皮材12が第一の表皮材11に、接着材12cを介して、成形によって圧着され、埋設され一体に接合されている。本実施形態では、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12は、圧着によって、面一となっており、引っかかりがなく、剥れにくく形成できる。
【0026】
このように、加飾部材としての第二の表皮材12に、通気手段としての基布層12bを設けることで、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12との間に空気が入り込んでも、図3の矢印で示すように、第一の表皮材11と貼り合せる際のエア抜き経路を確保し、空気が抜けて、図11で示すようなエア溜まりが生じるのを防止でき、エア溜まりによる浮きの発生を防止して、外観品質を良好な状態に保持することが可能となる。
【0027】
上記実施形態では、第二の表皮材12に通気手段として基布層12bを設けた例を示したが、第二の表皮材(加飾部材)12に基布層12bを設けず、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12との間にエア吸収手段を形成することもできる。このエア吸収手段としては、格子状の平面材を用いて、空気が流通できるようにすると共に、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12を接合できるようなものが適用できる。
【0028】
また、第二の表皮材(加飾部材)12の接着材(ホットメルト)の塗布面に、上記通気手段としての基布域は発泡層等の断熱層を設けるように構成することができる。この断熱層は、連通気泡を含んで形成されている。これにより、断熱及び通気が可能となり、エア溜まりを防止できるだけでなく、接着材の塗布時の熱を遮断することが可能となり、接着材の塗布による第二の表皮材(加飾部材)12の変形、収縮などを防止することができる。
【0029】
上述のように、第二の表皮材12の端末部分が、第一の表皮材11に埋設され一体に接合されているものであり、第一の表皮材11の表面に配置されて幾何学模様や文字などを含むデザイン形状を形成するものであり、前述した材料を所定形状に裁断することにより形成されている。第二の表皮材12は、例えば図1に示すように、炎をイメージしたデザイン形状に形成されている。
【0030】
なお、本実施例では成形による圧着によって第一の表皮材11と第二の表皮材12を接合しているが、第一の表皮材11と第二の表皮材12とを接合するときに、第一の表皮材11に予め凹部11aを形成し、この凹部11aに配設して形成してもよい。
また、第二の表皮材12は、車両のデザインや乗員の好みに合わせて形成されるものであり、図1に示す形状に限らず、人物や動物をモデファイしたキャラクター、アニメ、風景、文字形状、円形、矩形、多角形、ストライプ、幾何学模様、植物や動物の形状など、自由な形状に形成することができる。
【0031】
さらに、第二の表皮材12は、第一の表皮材11と色,表面の模様,材質のうち少なくとも一つが異なるようにすると、第二の表皮材12がより際だつようになり好適である。例えば、第一の表皮材11の色が黒である場合、第二の表皮材12を赤,黄,青,白などの色にすると良い。或いは、第二の表皮材12にストライプ模様や水玉模様が印刷されていても良い。また、第一の表皮材11にシボ模様が付されている場合は、第二の表皮材12のシボ模様を異なるものとし、或いはシボ模様を付さない状態としても良い。さらに、第二の表皮材12の材質として、第一の表皮材11の材質と異なるものとすると良い。例えば、第二の表皮材12として、樹脂製シートと樹脂発泡体の積層体、パール系レザー、本革、不織布または織布等の布材、布材に熱可塑性樹脂を含浸させたシート、布材に熱可塑性樹脂を積層した積層体等を用いると良い。
【0032】
図4及び図5は車両用表皮材の他の例を示すものであり、図6及び図7は車両用表皮材の更に他の例を示すものであり、これらの実施形態において、前記実施形態と同様部材、材料、配置等には同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
本実施形態では、第二の表皮材(加飾部材)12の端末、つまり第一の表皮材11との厚さ方向の接合部分に角度を付けることで、第一の表皮材11との接着を強固なものとするものである。図4乃至図7で示すように、第二の表皮材(加飾部材)12の端末に角度を付けて裁断することで、或いは、接着材12cの車両用表皮材10の意匠面への食み出しを抑制し、外観品質の向上を図ることができ、第一の表皮材11との接着工程で発生する不具合を解決することができる。
つまり、接着材12cが第二の表皮材(加飾部材)12の端末まで流れ易くなることで、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12の接着強度(特に端末部)が向上し、接着材12cが車両用表皮材10の意匠面へ食み出すことを抑制することができるので、外観品質の向上や、表皮成形型の汚れ防止による清掃工数の低減を図ることが可能となるものである。
【0033】
要するに、図4及び図5で示す実施形態では、単純化するために、同じ所定幅とした場合、第二の表皮材12は、第一の表皮材11の露見しない側の面積(長さY×所定幅)を、第一の表皮材11の表面側に露見する側の面積(長さX×所定幅)に対し大きくして埋設されているものである。このように、Y側の面積がX側に対し大きくなるように、裁断する事によって、成形時に加熱され、軟化(溶融)した第一の表皮材11が、第二の表皮材(加飾部材)12の端末部分と成形型(不図示)の隙間に流れ込み、第二の表皮材(加飾部材)12の端末が、第一の表皮材11に覆われることとなり、第二の表皮材(加飾部材)12の端末からの剥離の抑制と共に、第一の表皮材11との一体感が得られるように構成することができる。また、加熱された第一の表皮材11の熱によって接着材12cが再活性(溶融)して、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12の間を通り、車両用表皮材10の意匠面の外観品質の向上を図ることが可能となる。
【0034】
また、図6及び図7で示す実施形態では、前記図4及び図5で示す実施形態と、X側とY側の長さを逆にした例であり、第二の表皮材12は、第一の表皮材11の露見しない側の面積(長さY×所定幅)を、第一の表皮材11の表面側に露見する側の面積(長さX×所定幅)に対し小さくして埋設されているものである。このように、車両用表皮材10の意匠面側の面積が、意匠面側と反対側の面積より大きくなる様裁断することによって、加熱された表皮の熱によって再活性(溶融)した接着材12cが、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12の間を通り易くなり、端末部の接着強度が向上する。
【0035】
次に、車両用表皮材の製造方法について説明する。車両用表皮材10を成形する金型としては、通気性を有する材料からなる、例えば、ポーラス電鋳真空成形金型又はセラミック真空成形金型、成形面に多数の微細な孔が穿設された金型を使用する。成形面に多数の微細な孔を穿設する場合は、加工が容易な樹脂型を用いると好適である。
【0036】
第二の表皮材(加飾部材)12は、図8で示されるように、通気手段としての基布或いは断熱層12b(前述したように断熱層の場合には連通気泡を含んで、通気を確保する)が一体に形成されている。これにより、通気手段としての基布或いは断熱層12bに、次に説明するホットメルト等の接着材12cを塗布しても、第二の表皮材(加飾部材)12への熱を遮断することが可能となり、第二の表皮材(加飾部材)12の変形、収縮を防止出来る。
【0037】
先ず、第二の表皮材12に接着材12cを塗布する。塗布は、図9で示すように、公知のローラー手段A,B,Cを備えた塗布装置によって行なうが、公知の塗布装置であるので、その詳細は省略する。接着材12cは、第二の表皮材12の外側に露見する面を除き、それ以外の領域に塗布される。すなわち、図9に示すように、接着材12cは、第一の表皮材11との接合面に塗布される。接着材12cとしては熱可塑性接着材(いわゆるホットメルト)が使用され、ポリウレタン系接着材(例えば、ハイボンXA086−2;登録商標;日立化成ポリマー株式会社製)が使用されるのが好ましい。本実施形態では、基布或いは断熱層12bが形成されているので、塗布時の熱が第二の表皮材12へ伝播するのを遮断することが可能となり、第二の表皮材(加飾部材)12の変形、収縮を防止出来る。このように変形、収縮を防止することで、接着時に第二の表皮材(加飾部材)12が均一に密着することとなり接着強度、外観品質の向上が図れる。なお、ホットメルト接着材の場合、塗布した後で、非活性となる。
【0038】
次に、接着材12cが塗布された第二の表皮材12を真空成形型20にセットする。このとき、第二の表皮材12が、外側に露見する面(意匠面)が金型面を向くようにセットし、真空成形型20で吸引して、第二の表皮材12は金型面に吸着するようにする。次いで、図示しないヒータにより第一の表皮材11を加熱する工程を行い、真空成形型20に、加熱された第一の表皮材11を、第二の表皮材12を覆って配置する。成形を行う際は、第一の表皮材11の端末部が、クランプ装置等により真空成形型20の周縁部に固定するようにして行なわれる。
【0039】
第一の表皮材11が真空成形型20にセットされると、第一の表皮材11,第二の表皮材12は、真空引きにより金型面に引きつけられ、所定の三次元形状に成形される。このとき、金型面にシボ模様やステッチ模様等の凹凸模様が形成されている場合は、この凹凸模様が第一の表皮材11の表面に転写される。
第二の表皮材12がセットされている部分では、加熱により軟化した第一の表皮材11が第二の表皮材12を被覆しながら金型面に吸い付けられ、第二の表皮材12の厚さ分だけ第一の表皮材11が凹んで成形され、第二の表皮材12が第一の表皮材11に食い込んで成形される。
このとき、第一の表皮材11の熱により、第二の表皮材12に塗布された接着材12cが活性化され、さらに真空引きにより第一の表皮材11と第二の表皮材12とが圧着され、第一の表皮材11と第二の表皮材12とが一体に、しかも第二の表皮材12が第一の表皮材11に埋め込まれて接合される。
【0040】
第二の表皮材12には、第一の表皮材11との接合面に接着材12cが塗布されているので、真空成形型20から取り出した後も、端末部を含め、第二の表皮材12は第一の表皮材11に確実に固着される。このようにして、第一の表皮材11と第二の表皮材12が一体に成形された表皮材10が得られる。
表皮材10は、第二の表皮材12が第一の表皮材11に埋設されて一体に成形されているので、表面側から見ると、第一の表皮材11の表面に、第二の表皮材12の形状によるデザイン形状が付された外観となっている。したがって、第二の表皮材12の形状や色,表面の模様,材質,配設箇所を変えることにより、様々なデザインの表皮材10を得ることが可能となる。
【0041】
車両用表皮材の製造方法は、上記実施形態の他に、図11で示すように、第二の表皮材12に接着材12cを塗布後、予め第一の表皮材11と第二の表皮材12を接合し一体化して、その後、第一の表皮材11側から加熱し、図11で示すように、真空成形型にセットするように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 表皮材
11 第一の表皮材
11a 凹部
12 第二の表皮材(加飾部材)
12a 表皮層
12b 通気手段,基布層,断熱層
12c 接着材
20 真空成形型
S 車両用シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法に係り、特に二三輪車用シートに好適な車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法に関する。なお、本明細書において、二三輪車用シートとは、オートバイ、スクーター、スノーモービル、ジェットスキー、バギー、ゴルフカーなどの屋外で直接風雨に曝されるシートをいうものとする。
【背景技術】
【0002】
屋外での使用に適した二三輪車用シート(座席)は、外観が画一的なものとなっており、車体のデザインや乗員の好みに対応した、デザイン性の高い座席が要望されている。そして、デザイン性を確保するため、例えばシートカバーを被せることなどにより、シートに所望のデザインとなるような手段を用いていた。しかし、このような手段では、シートカバーとシートとの一体感が得にくく、良好な外観が得られないという不都合があった。
【0003】
また、デザイン性を確保するための他の手段としては、クッション材をボトムプレートに対して取り替え可能とし、クッション材の色彩やデザインを変えることにより、乗員の好みに合ったシートとすることが知られている。しかしこの技術では、タイプに合わせて異なる形状のクッション材を準備する必要があり、クッション材自体が外部に露見する構成であるため、クッション材の材質が耐候性のある材質に限られるという不都合があった。
【0004】
さらに、成形型の型面に絵柄インキ層を形成し、真空成形することにより、表皮材に絵柄インキ層を転写する加飾技術も知られている。しかしこの技術では、インキに基因する対応、即ちインキの種類や濃度などの調整や型面のインクを掃除することが必要となり、製造工程における工数が多くなる等の不都合があった。
【0005】
さらにまた、座席を被覆している表皮材とは別に、別色や別素材の表皮材を準備し、縫製により加飾を行う技術も考えられる。しかし、この場合は、縫製部分で表皮材に穴が開いてしまうため、この部分から雨水等が浸入し、クッション材を劣化させてしまうため、雨水等の浸入防止対策が必要となり、外観性を損なうという問題がある。また、加飾表皮材の端部がめくれてしまい、外観上も好ましくないという不都合があった。
【0006】
このような問題を解消するために、本出願人は、座席の少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材と、この第一の表皮材の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材に埋設され一体に接合された第二の表皮材とからなる技術を提案している(特許文献1、請求項、図7)。
また、本出願人は、表面材と裏布とが積層された防水表皮材であって、表面材はメイン表面材に重畳して、サブ表面材の端部がメイン表面材に埋め込まれて一体に接合され、前記サブ表面材には、該サブ表面材の色と異なる色のステッチ意匠が形成された技術も提案している(特許文献2、請求項、図3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−125845号公報
【特許文献2】特開2009−101867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で開示された技術は、一枚ものの状態を保ちながら、その表面をデザイン性に富んだ外観とすることが可能で、絵柄部が印刷等ではなく、表皮材から構成されており、しかもこの表皮材は埋設されているので、印刷と比較して経時によるかすれや剥がれ等が発生することなく、長期に渡って好適な外観を保つことが可能であるため、例えば屋外に曝される物品にも好適に用いることが可能であるという優れた効果を奏するものであった。
【0009】
また、特許文献2で開示された技術は、従来のようにメイン表面材の上にサブ表面材を単に貼り付けたようなものとは異なり、防水表皮材として、サブ表面材がメイン表面材に埋め込まれて剥がれ難く、メイン表面材とサブ表面材との一体感を有することが可能で、サブ表面材に個別の刺繍・印刷を施すことでカスタム化を図り、ユーザー毎の個性のある車両用表皮材を得られるという優れた効果を奏するものであった。
【0010】
しかし、特許文献1及び特許文献2の技術は、加飾材への縫製追加による意匠性の向上に関するものである。例えば、図12で示すように、加飾部材120を真空凹型(不図示)にセットし、表皮材110の真空成形と同時に加飾部材120の接着と、表皮材110への埋没を行う工程で、車両用表皮材100は、表皮材110と加飾部材120の間に入った空気が閉じ込められたままとなって、空気抜けが出来ず、エア溜り150が生じ、加飾部材120の浮きや剥離が発生するという課題を解決できなかった。
【0011】
また、図12で示すように、加飾部材120へ塗布した接着材140が表皮を加熱した際の熱により再活性し、表皮材110と加飾部材120の境界より食み出し、外観及び品質に影響を及ぼすだけでなく、表皮成形型の汚れによる清掃工数の増加を招くという課題、更には加飾部材120の端末まで、均一に接着材140が回り込む事が無く接着強度が低下するという課題を解決できなかった。
【0012】
さらに、加飾部材120へ接着材を塗布するとき、例えば図13で示すように、ロールコータにてホットメルトを塗布する工程の場合、ホットメルトの熱が加飾部材120へ直接伝わることによって、加飾部材120の変形、収縮が発生しており、これを防止するという課題を解決できなかった。
【0013】
本発明の目的は、第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合わせる際のエア溜り、浮き発生を防止することのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、第二の表皮材である加飾部材の剥離を防止し、接着材の意匠面への食み出しによる外観や品質の低下を防止し、表皮成形型の汚れによる清掃工数の低減を図ることのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合せる際に、接着材の塗布時の熱により加飾材の変形や収縮を防止することのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供することにある。
以上のように、外観に影響する要因を少なくすることのできる車両用表皮材及び車両用表皮材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、本発明の車両用表皮材によれば、車両用シートに用いられる車両用表皮材であって、車両用シートの少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材と、第一の表皮材の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材に埋設され一体に接合された第二の表皮材と、を備え、第二の表皮材の裏面側に通気手段を形成したこと、により解決される。
【0015】
このように、第二の表皮材の裏面側に通気手段を形成することにより、第一の表皮材と第二の表皮材との間に入った空気が第二の表皮材である通気手段によって、抜けることが可能となり、エア溜り、浮きの発生を防止することが可能となる。
【0016】
このとき、第二の表皮材に形成された通気手段は、通気層として形成されていると好適である。さらに、第二の表皮材は、第一の表皮材の露見しない側の面積を、第一の表皮材の表面側に露見する側に対し大きくして埋設されてなると好適である。
したがって、成形時に加熱され、軟化し或いは溶融した第一の表皮材が、第二の表皮材である加飾部材の端末部分と成形型の隙間に流れ込み、第二の表皮材である加飾部材の端末が第一の表皮材に覆われることとなり、第二の表皮材である加飾部材端末からの剥離の抑制が図れると共に、第一の表皮材と第二の表皮材との一体感が得られる。そして、第二の表皮材は、第一の表皮材の露見しない側の面積を、第一の表皮材の表面側に露見する側に対し大きくして埋設されているので、加熱された表皮材の熱によって接着材が再活性(溶融)し、第一の表皮材と第二の表皮材(加飾部材)との間を通りやすくなり、端末部の接着強度が向上する。これにより、第一の表皮材と第二の表皮材(加飾部材)との剥れを防止し一体的になり、表皮材の意匠面の外観品質の向上を図ることが可能となる。
【0017】
また、このとき、第二の表皮材は、第一の表皮材の表面側に露見する側の面積を、第一の表皮材の露見しない側に対し大きくして埋設されて構成することもできる。このように構成しても、第二の表皮材の意匠面側(外観側)の面積が、第一の表皮材の基布側に対し大きくなる様裁断することによって、上記したように、加熱された表皮の熱によって再活性(溶融)した接着材が、第一の表皮材と第二の表皮材(加飾部材)との間を通りやすくなり、端末部の接着強度が向上するという効果を奏することが可能となる。
【0018】
前記課題は、車両用表皮材の製造方法によれば、請求項2乃至4のいずれかに記載の車両用表皮材の製造方法であって、第二の表皮材の露見する部分以外の領域で、第二の表皮材に設けられた通気層に接着材を塗布する接着材塗布工程と、第一の表皮材を加熱する加熱工程と、真空型に露見する部分が金型面に接するようにして第一及び第二の表皮材を配置する表皮材配置工程と、第一の表皮材及び第二の表皮材を真空引きする真空引工程と、を備えた、ことにより解決される。
【0019】
より具体的には、接着材塗布工程は、ホットメルト塗布工程であって、第二の表皮材をローラーの間を通して、ホットメルトを第二の表皮材の通気層としての断熱層に塗布してなると好適である。
上記のように構成することにより、請求項2乃至4のいずれかに記載の車両用表皮材を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合わせる際のエア溜り、浮き発生の防止できる。
また第二の表皮材である加飾部材の剥離を防止し、接着材の意匠面への食み出しによる外観や品質の低下を防止し、表皮成形型の汚れによる清掃工数の低減を図ることができる。
さらに第一の表皮材である表皮材と、第二の表皮材である加飾部材を貼り合せる際に、接着材の塗布時の熱により加飾材の変形や収縮を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両用表皮材を用いたシートの一例を示す概略斜視図である。
【図2】車両用表皮材の説明断面図である。
【図3】図2の一部拡大した説明図である。
【図4】車両用表皮材の他の例を示す説明断面図である。
【図5】図4の一部拡大した説明図である。
【図6】車両用表皮材の更に他の例を示す説明断面図である。
【図7】図6の一部拡大した説明図である。
【図8】第二の表皮材を説明する断面図である。
【図9】第二の表皮材に接着材を塗布する工程の説明図である。
【図10】成形工程の説明図である。
【図11】他の成形工程の説明図である。
【図12】従来例を示す車両用表皮材の説明断面図である。
【図13】従来例を示す第二の表皮材に接着材を塗布する工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることはもちろんである。
図1乃至図11は本発明に係る実施態様であり、図1は車両用表皮材を用いたシートの一例を示す概略斜視図、図2は車両用表皮材の説明断面図、図3は図2の一部拡大した説明図、図4は車両用表皮材の他の例を示す説明断面図、図5は図4の一部拡大した説明図、図6は車両用表皮材の更に他の例を示す説明断面図、図7は図6の一部拡大した説明図、図8は第二の表皮材を説明する断面図、図9は第二の表皮材に接着材を塗布する工程の説明図、図10及び図11は成形工程の説明図である。
【0023】
本発明に係る表皮材10は、車両用シートSに用いられる車両用表皮材であり、第一の表皮材11と第二の表皮材12とから構成されている。第一の表皮材11は、車両用シートSの少なくとも着座部を被覆し、第二の表皮材12は第一の表皮材11の表面側に露見する部分を有し、第一の表皮材11に埋設され一体に接合されている。
第一の表皮材11及び第二の表皮材12は、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等から形成されている。なお、必要に応じて可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、無機充填剤等の各種添加剤を添加しても良い。また、第一の表皮材11及び第二の表皮材12の表面に、例えばウレタン系塗料層、シリコーンウレタン塗料層等の表面処理層を設けても良い。また、これらの塗料層に必要に応じて帯電防止剤、老化防止剤、顔料等を添加配合しても良い。
【0024】
第一の表皮材11は、例えば、車両用シートSとして、図1で示すように、屋外に露出した自動二輪車のシートに適用されるもので、クッション材及びボトムプレート(不図示)を被覆するものであり、クッション材及びボトムプレートを被覆可能な大きさに形成されている。
この第一の表皮材11は、合成樹脂層と繊維基材層とから構成することができる。繊維基材層は、織物、編物などの織布、または天然繊維や合成繊維などの不織布からなる。特に、編物等は伸縮性があり、第一の表皮材11の表面にステッチ模様やシボ模様を設けたときに追従するため好適である。或いは、よりソフトな感触や高級感を出すために、第一の表皮材11の裏面に発泡層(図示せず)を設けた構成としても良い。
【0025】
本実施形態の第二の表皮材12は、加飾部材であり、表皮層12aの裏面で第一の表皮材11と接合する側に、通気手段が形成されている。本実施形態の通気手段としては、通気層であり、具体的には、通気可能な基布層12bが接合されている。この基布層12bに接着材12cとしてのホットメルトが塗布されて、第一の表皮材11と接合される。第一の表皮材11と第二の表皮材12は、図2で示すように、加飾部材としての第二の表皮材12が第一の表皮材11に、接着材12cを介して、成形によって圧着され、埋設され一体に接合されている。本実施形態では、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12は、圧着によって、面一となっており、引っかかりがなく、剥れにくく形成できる。
【0026】
このように、加飾部材としての第二の表皮材12に、通気手段としての基布層12bを設けることで、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12との間に空気が入り込んでも、図3の矢印で示すように、第一の表皮材11と貼り合せる際のエア抜き経路を確保し、空気が抜けて、図11で示すようなエア溜まりが生じるのを防止でき、エア溜まりによる浮きの発生を防止して、外観品質を良好な状態に保持することが可能となる。
【0027】
上記実施形態では、第二の表皮材12に通気手段として基布層12bを設けた例を示したが、第二の表皮材(加飾部材)12に基布層12bを設けず、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12との間にエア吸収手段を形成することもできる。このエア吸収手段としては、格子状の平面材を用いて、空気が流通できるようにすると共に、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12を接合できるようなものが適用できる。
【0028】
また、第二の表皮材(加飾部材)12の接着材(ホットメルト)の塗布面に、上記通気手段としての基布域は発泡層等の断熱層を設けるように構成することができる。この断熱層は、連通気泡を含んで形成されている。これにより、断熱及び通気が可能となり、エア溜まりを防止できるだけでなく、接着材の塗布時の熱を遮断することが可能となり、接着材の塗布による第二の表皮材(加飾部材)12の変形、収縮などを防止することができる。
【0029】
上述のように、第二の表皮材12の端末部分が、第一の表皮材11に埋設され一体に接合されているものであり、第一の表皮材11の表面に配置されて幾何学模様や文字などを含むデザイン形状を形成するものであり、前述した材料を所定形状に裁断することにより形成されている。第二の表皮材12は、例えば図1に示すように、炎をイメージしたデザイン形状に形成されている。
【0030】
なお、本実施例では成形による圧着によって第一の表皮材11と第二の表皮材12を接合しているが、第一の表皮材11と第二の表皮材12とを接合するときに、第一の表皮材11に予め凹部11aを形成し、この凹部11aに配設して形成してもよい。
また、第二の表皮材12は、車両のデザインや乗員の好みに合わせて形成されるものであり、図1に示す形状に限らず、人物や動物をモデファイしたキャラクター、アニメ、風景、文字形状、円形、矩形、多角形、ストライプ、幾何学模様、植物や動物の形状など、自由な形状に形成することができる。
【0031】
さらに、第二の表皮材12は、第一の表皮材11と色,表面の模様,材質のうち少なくとも一つが異なるようにすると、第二の表皮材12がより際だつようになり好適である。例えば、第一の表皮材11の色が黒である場合、第二の表皮材12を赤,黄,青,白などの色にすると良い。或いは、第二の表皮材12にストライプ模様や水玉模様が印刷されていても良い。また、第一の表皮材11にシボ模様が付されている場合は、第二の表皮材12のシボ模様を異なるものとし、或いはシボ模様を付さない状態としても良い。さらに、第二の表皮材12の材質として、第一の表皮材11の材質と異なるものとすると良い。例えば、第二の表皮材12として、樹脂製シートと樹脂発泡体の積層体、パール系レザー、本革、不織布または織布等の布材、布材に熱可塑性樹脂を含浸させたシート、布材に熱可塑性樹脂を積層した積層体等を用いると良い。
【0032】
図4及び図5は車両用表皮材の他の例を示すものであり、図6及び図7は車両用表皮材の更に他の例を示すものであり、これらの実施形態において、前記実施形態と同様部材、材料、配置等には同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
本実施形態では、第二の表皮材(加飾部材)12の端末、つまり第一の表皮材11との厚さ方向の接合部分に角度を付けることで、第一の表皮材11との接着を強固なものとするものである。図4乃至図7で示すように、第二の表皮材(加飾部材)12の端末に角度を付けて裁断することで、或いは、接着材12cの車両用表皮材10の意匠面への食み出しを抑制し、外観品質の向上を図ることができ、第一の表皮材11との接着工程で発生する不具合を解決することができる。
つまり、接着材12cが第二の表皮材(加飾部材)12の端末まで流れ易くなることで、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12の接着強度(特に端末部)が向上し、接着材12cが車両用表皮材10の意匠面へ食み出すことを抑制することができるので、外観品質の向上や、表皮成形型の汚れ防止による清掃工数の低減を図ることが可能となるものである。
【0033】
要するに、図4及び図5で示す実施形態では、単純化するために、同じ所定幅とした場合、第二の表皮材12は、第一の表皮材11の露見しない側の面積(長さY×所定幅)を、第一の表皮材11の表面側に露見する側の面積(長さX×所定幅)に対し大きくして埋設されているものである。このように、Y側の面積がX側に対し大きくなるように、裁断する事によって、成形時に加熱され、軟化(溶融)した第一の表皮材11が、第二の表皮材(加飾部材)12の端末部分と成形型(不図示)の隙間に流れ込み、第二の表皮材(加飾部材)12の端末が、第一の表皮材11に覆われることとなり、第二の表皮材(加飾部材)12の端末からの剥離の抑制と共に、第一の表皮材11との一体感が得られるように構成することができる。また、加熱された第一の表皮材11の熱によって接着材12cが再活性(溶融)して、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12の間を通り、車両用表皮材10の意匠面の外観品質の向上を図ることが可能となる。
【0034】
また、図6及び図7で示す実施形態では、前記図4及び図5で示す実施形態と、X側とY側の長さを逆にした例であり、第二の表皮材12は、第一の表皮材11の露見しない側の面積(長さY×所定幅)を、第一の表皮材11の表面側に露見する側の面積(長さX×所定幅)に対し小さくして埋設されているものである。このように、車両用表皮材10の意匠面側の面積が、意匠面側と反対側の面積より大きくなる様裁断することによって、加熱された表皮の熱によって再活性(溶融)した接着材12cが、第一の表皮材11と第二の表皮材(加飾部材)12の間を通り易くなり、端末部の接着強度が向上する。
【0035】
次に、車両用表皮材の製造方法について説明する。車両用表皮材10を成形する金型としては、通気性を有する材料からなる、例えば、ポーラス電鋳真空成形金型又はセラミック真空成形金型、成形面に多数の微細な孔が穿設された金型を使用する。成形面に多数の微細な孔を穿設する場合は、加工が容易な樹脂型を用いると好適である。
【0036】
第二の表皮材(加飾部材)12は、図8で示されるように、通気手段としての基布或いは断熱層12b(前述したように断熱層の場合には連通気泡を含んで、通気を確保する)が一体に形成されている。これにより、通気手段としての基布或いは断熱層12bに、次に説明するホットメルト等の接着材12cを塗布しても、第二の表皮材(加飾部材)12への熱を遮断することが可能となり、第二の表皮材(加飾部材)12の変形、収縮を防止出来る。
【0037】
先ず、第二の表皮材12に接着材12cを塗布する。塗布は、図9で示すように、公知のローラー手段A,B,Cを備えた塗布装置によって行なうが、公知の塗布装置であるので、その詳細は省略する。接着材12cは、第二の表皮材12の外側に露見する面を除き、それ以外の領域に塗布される。すなわち、図9に示すように、接着材12cは、第一の表皮材11との接合面に塗布される。接着材12cとしては熱可塑性接着材(いわゆるホットメルト)が使用され、ポリウレタン系接着材(例えば、ハイボンXA086−2;登録商標;日立化成ポリマー株式会社製)が使用されるのが好ましい。本実施形態では、基布或いは断熱層12bが形成されているので、塗布時の熱が第二の表皮材12へ伝播するのを遮断することが可能となり、第二の表皮材(加飾部材)12の変形、収縮を防止出来る。このように変形、収縮を防止することで、接着時に第二の表皮材(加飾部材)12が均一に密着することとなり接着強度、外観品質の向上が図れる。なお、ホットメルト接着材の場合、塗布した後で、非活性となる。
【0038】
次に、接着材12cが塗布された第二の表皮材12を真空成形型20にセットする。このとき、第二の表皮材12が、外側に露見する面(意匠面)が金型面を向くようにセットし、真空成形型20で吸引して、第二の表皮材12は金型面に吸着するようにする。次いで、図示しないヒータにより第一の表皮材11を加熱する工程を行い、真空成形型20に、加熱された第一の表皮材11を、第二の表皮材12を覆って配置する。成形を行う際は、第一の表皮材11の端末部が、クランプ装置等により真空成形型20の周縁部に固定するようにして行なわれる。
【0039】
第一の表皮材11が真空成形型20にセットされると、第一の表皮材11,第二の表皮材12は、真空引きにより金型面に引きつけられ、所定の三次元形状に成形される。このとき、金型面にシボ模様やステッチ模様等の凹凸模様が形成されている場合は、この凹凸模様が第一の表皮材11の表面に転写される。
第二の表皮材12がセットされている部分では、加熱により軟化した第一の表皮材11が第二の表皮材12を被覆しながら金型面に吸い付けられ、第二の表皮材12の厚さ分だけ第一の表皮材11が凹んで成形され、第二の表皮材12が第一の表皮材11に食い込んで成形される。
このとき、第一の表皮材11の熱により、第二の表皮材12に塗布された接着材12cが活性化され、さらに真空引きにより第一の表皮材11と第二の表皮材12とが圧着され、第一の表皮材11と第二の表皮材12とが一体に、しかも第二の表皮材12が第一の表皮材11に埋め込まれて接合される。
【0040】
第二の表皮材12には、第一の表皮材11との接合面に接着材12cが塗布されているので、真空成形型20から取り出した後も、端末部を含め、第二の表皮材12は第一の表皮材11に確実に固着される。このようにして、第一の表皮材11と第二の表皮材12が一体に成形された表皮材10が得られる。
表皮材10は、第二の表皮材12が第一の表皮材11に埋設されて一体に成形されているので、表面側から見ると、第一の表皮材11の表面に、第二の表皮材12の形状によるデザイン形状が付された外観となっている。したがって、第二の表皮材12の形状や色,表面の模様,材質,配設箇所を変えることにより、様々なデザインの表皮材10を得ることが可能となる。
【0041】
車両用表皮材の製造方法は、上記実施形態の他に、図11で示すように、第二の表皮材12に接着材12cを塗布後、予め第一の表皮材11と第二の表皮材12を接合し一体化して、その後、第一の表皮材11側から加熱し、図11で示すように、真空成形型にセットするように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 表皮材
11 第一の表皮材
11a 凹部
12 第二の表皮材(加飾部材)
12a 表皮層
12b 通気手段,基布層,断熱層
12c 接着材
20 真空成形型
S 車両用シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートに用いられる車両用表皮材であって、
前記車両用シートの少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材と、該第一の表皮材の表面側に露見する部分を有し、前記第一の表皮材に埋設され一体に接合された第二の表皮材と、を備え、前記第二の表皮材の裏面側に通気手段を形成したことを特徴とする車両用表皮材。
【請求項2】
前記第二の表皮材に形成された前記通気手段は、通気層として形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用表皮材。
【請求項3】
前記第二の表皮材は、前記第一の表皮材の露見しない側の面積を、前記第一の表皮材の表面側に露見する側に対し大きくして埋設されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用表皮材。
【請求項4】
前記第二の表皮材は、前記第一の表皮材の表面側に露見する側の面積を、前記第一の表皮材の露見しない側に対し大きくして埋設されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用表皮材。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の車両用表皮材の製造方法であって、
第二の表皮材の露見する部分以外の領域で、前記第二の表皮材に設けられた通気層に接着材を塗布する接着材塗布工程と、
第一の表皮材を加熱する加熱工程と、
真空型に前記露見する部分が金型面に接するようにして前記第一及び第二の表皮材を配置する表皮材配置工程と、
前記第一の表皮材及び前記第二の表皮材を真空引きする真空引工程と、を備えた、ことを特徴とする車両用表皮材の製造方法。
【請求項6】
前記接着材塗布工程は、ホットメルト塗布工程であって、第二の表皮材をローラーの間を通して、ホットメルトを第二の表皮材の通気層としての断熱層に塗布してなることを特徴とする請求項5記載の車両用表皮材の製造方法。
【請求項1】
車両用シートに用いられる車両用表皮材であって、
前記車両用シートの少なくとも着座部を被覆する第一の表皮材と、該第一の表皮材の表面側に露見する部分を有し、前記第一の表皮材に埋設され一体に接合された第二の表皮材と、を備え、前記第二の表皮材の裏面側に通気手段を形成したことを特徴とする車両用表皮材。
【請求項2】
前記第二の表皮材に形成された前記通気手段は、通気層として形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用表皮材。
【請求項3】
前記第二の表皮材は、前記第一の表皮材の露見しない側の面積を、前記第一の表皮材の表面側に露見する側に対し大きくして埋設されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用表皮材。
【請求項4】
前記第二の表皮材は、前記第一の表皮材の表面側に露見する側の面積を、前記第一の表皮材の露見しない側に対し大きくして埋設されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用表皮材。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の車両用表皮材の製造方法であって、
第二の表皮材の露見する部分以外の領域で、前記第二の表皮材に設けられた通気層に接着材を塗布する接着材塗布工程と、
第一の表皮材を加熱する加熱工程と、
真空型に前記露見する部分が金型面に接するようにして前記第一及び第二の表皮材を配置する表皮材配置工程と、
前記第一の表皮材及び前記第二の表皮材を真空引きする真空引工程と、を備えた、ことを特徴とする車両用表皮材の製造方法。
【請求項6】
前記接着材塗布工程は、ホットメルト塗布工程であって、第二の表皮材をローラーの間を通して、ホットメルトを第二の表皮材の通気層としての断熱層に塗布してなることを特徴とする請求項5記載の車両用表皮材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−76548(P2012−76548A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222065(P2010−222065)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】
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