説明

車両用表示装置

【課題】フロントガラス下部に、フード部を設けることなく、高いコントラストで良好な表示視認性を得ることができる表示部を設ける。
【解決手段】フロントガラス6の周囲に形成されている遮光マスク部8の下側遮光マスク部8aとインストルメントパネル2の前部2cとの間に形成される遮光領域Aに、発光表示部10aを配設する。発光表示部10aを遮光領域Aに配設することで、下側遮光マスク部8aを遮光フードとして機能させることができ、高いコントラストで良好な表示視認性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントガラスに形成されている遮光マスク部とインストルメントパネル前部との間に形成された遮光領域に発光表示部を配設した車両用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントガラスに、車速や警告等の各種情報を表示させるものとしてヘッドアップディスプレイ(HUD)が知られている。このヘッドアップディスプレイは、表示素子からの投射画像をフロントガラス上に虚像として表示させ、その表示された情報を運転者に視認させることで、当該運転者に各種情報を伝えるものである。運転者はフロントガラスを透過した前方の虚像を視認することで、運転中に視線を大きく移動させること無く、各種情報を容易に把握することができる。
【0003】
しかし、各種情報をフロントガラスに表示させた場合、車両前方の風景が背景画像として運転者に入射されるため、背景が明るい場合、その輝度差によって視認性が大きく低下してしまう場合がある。
【0004】
この対策として、例えば特許文献1(特開2008−132915号公報)には、表示素子から投射された画像を、フロントガラスの下縁部に形成されている遮光マスク部に表示させることで、車両前方の風景を背景画像として取込まれないようにした技術が開示されている。
【0005】
更に、特許文献2(特開2008−308090号公報)には、画像が表示される遮光マスク部の上部をフードで覆い、遮光マスク部に表示される画像に車室前方の光が入り込み難くし、コントラストを向上させることで、良好な表示視認性を得ることができるようにした技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した文献に開示されている技術では、遮光マスク部を、いわばスクリーンとして利用する技術であるが、遮光マスク部はセラミックを焼成して形成する場合が多く、表面が粗いため、乱反射により表示が不鮮明になり易く、表示を鮮明にするためには、遮光マスク部の表面を研磨する必要があり、製造工数が嵩み、コスト高となる問題がある。
【0007】
更に、遮光マスク部の投影される部位が、例えば車幅方向の中央であった場合、運転者は、当該遮光マスク部に投影された情報を側方から視認することとなり、運転者の目視位置によっては、鮮明に認識することが困難となる場合がある。この対策として、表示素子の投射位置を調整したり、表示状態を補正する回路を別途設けなければならなくなり、装置全体の構造が複雑化してしまう問題がある。
【0008】
又、遮光マスク部の上部をフード部で覆った場合、運転者の目視位置によっては、遮光マスク部に表示されている画像の一部がフード部で遮られてしまい、視認性が低下してしまう問題もある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、大きな表示補正を必要とせず、しかもフード部を設けることなく、運転者に画像を容易に視認させることができて、高いコントラストで良好な表示視認性を得ることができると共に、構造の簡素化、及び低コスト化を実現することのできる車両用表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明による車両用表示装置は、車両の前部窓枠に固定されているフロントガラスの下側に遮光マスク部が形成され、前記車両の車室内前部に設けられているインストルメントパネルの前部と該前部から上方へはみ出ている前記遮光マスクとで挟まれた領域に遮光領域が形成され、前記遮光領域に発光表示部が配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フロントガラスに形成された遮光マスク部とインストルメントパネルの前部とで形成された遮光領域に発光表示部を配設したので、運転者を含む搭乗者は発光表示部に表示される情報を直接視認することができる。そのため、大きな表示補正を必要とせず、画像処理が簡素化される。又遮光マスク部を遮光フードとして機能させることができるので、遮光フード部を特別に設けることなく、コントラストが高く、良好な表示視認性を得ることができる。その結果、構造の簡素化、及び低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】車室内前部を車室側から見た斜視図
【図2】フロントガラスを車室側から見た正面図
【図3】車室前部の断面側面図
【図4】図3のIV部拡大図
【図5】車両の要部平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
【0014】
図1〜図3に示すように、自動車等の車両1の車室1aの前部にインストルメントパネル2が車幅方向に配設され、運転席側のインストルメントパネル2にコンビネーションメータ3が配設され、又、コンビネーションメータ3の下部にステアリング4が配設されている。コンビネーションメータ3には、スピードメータ、タコメータ、燃料メータ、水温メータ等のメータ類に加え、各種警告灯等が所定に配設されており、このコンビネーションメータ3の両側及び上部が、インストルメントパネル2に一体形成されているメータフード部2aにて覆われている。
【0015】
又、車両1は、インストルメントパネル2の前方に前部窓枠5を有しており、この前部窓枠5にフロントガラス6の外縁が、前方から接着剤(図示せず)を介して固定されている。フロントガラス6の周縁の全周には、遮光マスク部8が帯状に形成されている。尚、図1、図2においては、遮光マスク部8を便宜的にハッチングで示す。
【0016】
この遮光マスク部8は、フロントガラス6の内側表面に形成されている。或いはこのフロントガラス6が合わせガラスの場合、二枚のガラスの間に形成されている。尚、以下においては、便宜的に、遮光マスク部8がフロントガラス6の内表面に形成されているものとして説明する。
【0017】
この遮光マスク部8は遮光性を有しており、具体的には、黒色等の暗色系セラミックを焼成して形成されている。この遮光マスク部8により、フロントガラス6の内面側が外部から遮光されるため、接着剤の紫外線による劣化が防止されると共に、接着剤等の取付け部位が外部から覆い隠される。
【0018】
又、図4に示すように、フロントガラス6の下側の接着部位は、インストルメントパネル2の前端面よりも下方にある。又、図2に示すように、遮光マスク部8はその全周が前部窓枠5の内縁よりも内側にはみ出しており、更に、フロントガラス6の下側に形成されている遮光マスク部(下側遮光マスク部)8aはインストルメントパネル2の前端よりも上方に比較大きくはみ出している。図3に示すように、この下側遮光マスク部8aの最大幅W(フロントガラス6の下端から下部遮光マスク部8aの上端までの幅)は、運転席に着座する運転者の視線100cが、下側遮光マスク部8aの上端を通過してフロントフード9の後端が視認できる位置、すなわち、運転者が通常運転を行う際の視線を遮らない位置まで設定することが可能である。尚、100aは運転者が通常走行において前方を認識している際の視線である。
【0019】
又、車両1には表示装置10が搭載されている。図1、図2、図4に示すように、本実施形態では、この表示装置10が、中央発光表示部10a、運転席側発光表示部10b、助手席側発光表示部10cの各薄型発光表示部と、各発光表示部10a〜10cに表示する車両情報を演算する車両情報演算部21と、この車両情報演算部21で演算した表示情報を駆動信号として各発光表示部10a〜10cに出力する表示駆動部22等を備えている。
【0020】
車両情報演算部21は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、図示しない各センサ類で検出したパラメータに基づき、各発光表示部10a〜10cに表示する情報を演算する。尚、車両情報演算部21に接続されているセンサ類は、自車両の運転状態を検出するセンサ類以外に、先行車情報等の車外情報を検出する車載カメラ、ミリ波レーダ等の車外情報検出手段も含まれる。
【0021】
この各発光表示部10a〜10cは、インストルメントパネル2に形成されているデフロスタ吹き出し口2bの前方であって、下側遮光マスク部8aとインストルメントパネル2の前端側とで挟まれて、前方からの光が透過せず日陰となる領域(以下、「遮光領域」と称する)Aに配設されている。図4にハッチングで示す遮光領域Aは、本来デッドスペースであり、各発光表示部10a〜10cを配設しても、運転者の視野が妨げられることはない。尚、各発光表示部10a〜10cは、液晶表示装置、EL(Electro Luminescence)表示装置、プラズマ表示装置、複数のLEDランプの集合により構成されたドットマトリクス表示装置等、電気光学的発光により情報を直接表示する薄型のものであれば何れのものであっても良い。
【0022】
ところで、図5に示すように、フロントガラス6は車幅方向左右に湾曲した形状に形成されている。そのため、本実施形態では、発光表示部を、中央発光表示部10a、運転席側発光表示部10b、助手席側発光表示部10cの3枚とし、この各発光表示部10a〜10cが平板状であっても、遮光領域Aからはみ出すことなく配設できるようにした。この各発光表示部10a〜10cの長さ(車幅方向に配設する部位の長さ)は、この各発光表示部10a〜10cが遮光領域Aからはみ出すことなく、しかも、後述するように、この遮光領域Aが遮光フードとして機能する位置に配設することが可能な範囲に設定されている。
【0023】
又、図4に示すように、フロントガラス6が、車体前部から後部上方へ比較的鋭角に傾斜されている場合、下側遮光マスク部8aを最大幅Wで形成すると、この下側遮光マスク部8aとインストルメントパネル2の前部2cとの間に形成されている遮光領域Aを、車体前後方向に比較的広く確保することができる。各発光表示部10a〜10cは、下側遮光マスク部8aとインストルメントパネル2の前端側とで挟まれた遮光領域A内であって、下側遮光マスク部8aが遮光フードとして機能する位置に配設されている。
【0024】
又、各発光表示部10a〜10cが取付けられているインストルメントパネル2の前部2cは、後部側上面2dに対して段差部2eによりやや落とし込まれていると共に、前方下方へ傾斜(以下、「前傾」と称する)されている。この段差部2eは、運転者の各発光表示部10a〜10cを視認する際の視線100bが、インストルメントパネル2の後部側上面2dによって視界を妨げられることなく、各発光表示部10a〜10cを視認できる位置まで落とし込まれている。更に、このインストルメントパネル2の前部2cの前傾角度は、運転者が表示装置10の各発光表示部10a〜10cを視認する際の視線100bとほぼ平行な角度に設定されている。
【0025】
インストルメントパネル2の前部2cを、運転者の視線100bが妨げられない範囲まで落とし込み、且つ運転者の視線100bとほぼ平行な角度で前傾させることで、各発光表示部10a〜10cの高さHを比較的大きく確保することができる。その結果、多くの情報を各発光表示部10a〜10cに表示させることができる。更に、この前部2cの傾斜角度を運転者の視線100bとほぼ平行にすることで、各発光表示部10a〜10cを前部2cに立設(垂立)させるだけで、この各発光表示部10a〜10cの表示面を運転者の視線100bに対して直交させることができ、各発光表示部10a〜10cの角度調整を簡素化することができる。
【0026】
その結果、図3に示すように、運転者は視線100aにて前方を視認している通常運転において、メータフード部2aに囲まれているコンビネーションメータ3(図1参照)を視認する際の視線の移動に比し、視線100bで示すように、その視線を大きく移動させることなく各発光表示部10a〜10cを視認することができる。
【0027】
この場合、助手席側発光表示部10cを固定するインストルメントパネル2の前部2cの前傾角度は、助手席に着座する搭乗者が、この助手席側発光表示部10cを視認する際の視線とほぼ平行な角度に設定しても良い。
【0028】
このように、本実施形態によれば、平板状に形成されている各発光表示部10a〜10cを、インストルメントパネル2の前部2cであって、下側遮光マスク部8aによって形成された遮光領域Aに配設したので、このデッドスペースを有効利用することができる。更に、下側遮光マスク部8aを、各発光表示部10a〜10cの遮光フードとして機能させているため、遮光フードをインストルメントパネル2に特別に設ける必要がなく、構成の簡素化が実現できるばかりでなく、インストルメントパネル2の造形の自由度を向上させることができる。又、各発光表示部10a〜10cは、電気光学的手段により情報を直接表示するものであり、ヘッドアップディスプレイ(HUD)のように反射光を運転者を含む搭乗者に視認させるものではないので、画像がずれ難く、大きな表示補正をする必要がなく、画像処理を簡素化することができる。その結果、フード部を設けることなく、コントラストの高い、良好な視認性を得ることができる。
【0029】
又、下側遮光マスク部8aを遮光フードとして機能させたので、各発光表示部10a〜10cは、この下側遮光マスク部8aによって形成される遮光領域Aに載置するだけで良いため、構造が簡単で、簡単に後付けすることができ、従って、高い汎用性を得ることができるばかりでなく、低コスト化を実現することができる。
【0030】
更に、遮光領域Aは本来、搭乗者の目に付き難い位置であり、この領域に各発光表示部10a〜10cを配設したので、この各発発光表示部10a〜10cの外観自体は目立ち難く、インストルメントパネル2の周辺が煩雑化せず、すっきりとした外観を得ることができる。
【0031】
ところで、各発光表示部10a〜10cには多くの情報を表示することができる。例えば、車両1に先行車両を認識する車載カメラ、ミリ波レーダ等の前方認識手段が搭載されている場合、中央発光表示部10aに先行車両を検出した場合に、その旨を表示し、運転席側発光表示部10bと助手席側発光表示部10cに先行車との車間距離、及び先行車の車速を表示するようにしても良い。そして、先行車との車間距離が設定車間距離よりも狭まった場合、中央発光表示部10aに、それを警告する旨の表示を行うことができる。
【0032】
又、運転者がターンシグナルスイッチをONさせて、右折或いは左折しようとした場合、ターンシグナルランプが点滅している側の発光表示部10b或いは10cに、後方確認、及び横断中の歩行者の確認を促す旨の表示を行うこともできる。
【0033】
又、運転席側発光表示部10bと助手席側発光表示部10cには、運転者専用の警告表示と、助手席に着座する搭乗者専用の警告表示とを個別に行うことができる。例えば、運転席側発光表示部10bには運転者に対してシートベルトの装着を促す旨の警告を表示させ、同様に、助手席側発光表示部10cには、助手席に着座した搭乗者に対してシートベルトの装着を促す旨の警告を表示させる。更に、運転席側発光表示部10bには運転席側ドアの半ドアを報知する警告を表示させ、助手席側発光表示部10cには、助手席側ドアの半ドアを報知する警告を表示させる。
【0034】
又、中央発光表示部10a、或いは運転席側発光表示部10bに、コンビネーションメータ3に本来設けられている各種警告灯と同様の警告を表示をさせることで、相対的にコンビネーションメータ3の各種警告灯を省略することができる。同様に、水温メータ、燃料メータによる表示を中央発光表示部10a、或いは運転席側発光表示部10bで行えば、これらのメータもコンビネーションメータ3から省略することができる。
【0035】
又、各発光表示部10a〜10cの表示態様は、文字や記号による表示に限らず、単純なLEDの点灯或いは点滅により行うようにしても良い。更に、例えば中央発光表示部10aは、情報を文字や記号で表示し、運転席及び助手席の発光表示部10b,10cは単なるLEDを配列したものとすることも可能である。
【0036】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば発光表示部は、中央発光表示部10cのみであったり、運転者側或いは助手席側発光表示部10b,10cのみであっても良い。
【0037】
或いは、1つの発光表示部を、数ミリ〜数十ミリ幅の発光表示素子を複数連ねて形成することで、この発光表示部をフロントガラス6の内曲面の曲面に沿った形状とすることもできる。この場合、1枚の発光表示部でフロントガラスの内曲面に沿ってインストルメントパネル2の車幅方向全体に配設することも可能である。
【0038】
更に、発光表示部は、任意の長さで、且つ任意の位置に後付けすることが可能であるため、レイアウトの自由度が増し、高い商品価値を得ることができる。
【0039】
又、この発光表示部は、フロントピラー(Aピラー)からはみ出ている遮光マスク部8aの車室側表面に配設することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…車両、
2…インストルメントパネル、
2c…前部、
2d…後部側上面、
2e…段差部、
5…前部窓枠、
6…フロントガラス、
8a…下側遮光マスク部、
10a…中央発光表示部、
10b…運転席側発光表示部、
10c…助手席側発光表示部、
A…遮光領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【特許文献1】特開2008−132915号公報
【特許文献2】特開2008−308090号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部窓枠に固定されているフロントガラスの下側に遮光マスク部が形成され、
前記車両の車室内前部に設けられているインストルメントパネルの前部と該前部から上方へはみ出ている前記遮光マスクとで挟まれた領域に遮光領域が形成され、
前記遮光領域に発光表示部が配設されている
ことを特徴とする車両用表示装置。
【請求項2】
前記インストルメントパネルの前記前部が前方下方へ傾斜されており、該インストルメントパネルの該前部に前記発光表示部が立設されている
ことを特徴とする請求項1記載の車両用表示装置。
【請求項3】
前記インストルメントパネルの前記前部が該インストルメントパネルの後部側上面に対して段差を有して落とし込まれている
ことを特徴とする請求項1或いは2記載の車両用表示装置。
【請求項4】
前記発光表示部が平板状で、且つ前記遮光領域に収まる長さに形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用表示装置。
【請求項5】
前記発光表示部が前記フロントガラスの前記遮光マスクが形成されている部位の内曲面に沿って配設されている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280247(P2010−280247A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133306(P2009−133306)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】