説明

車両用負荷の制御装置

【課題】マイクロコントローラ4に異常が発生した場合には、制御対象となるモータ負荷9への電源電圧の供給を停止させることにより、該モータ負荷9の暴走を防止することのできる車両用負荷の制御装置を提供する。
【解決手段】12V電源B1と、42V電源B2を有し、制御対象となるモータ負荷9を駆動させる電源として42V電源B2を用い、モータ負荷9を制御するECU1の電源として12V電源B1を用い、且つ、モータ負荷9を操作するために入力された操作信号を、バスラインL1を介して通信によりECU1に供給し、この供給された操作信号に基づいてモータ負荷9を制御するようにした車両用負荷の制御装置において、ECU1は、モータ負荷9を制御するマイクロコントローラ4とこのマイクロコントローラ4の状態を監視するバスガーディアン7とを備え、マイクロコントローラ4に異常が発生したことが検知された際に、42Vバスを遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載あれた負荷をバスガーディアンを用いて制御する車両用負荷の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載されるブレーキやステアリングを電気信号を用いて制御するシステムが構築されつつある。即ち、ブレーキの操作量、或いはステアリングの操作量を電気信号として検出し、これを通信手段によりブレーキ或いはステアリングの制御装置に送信して操作量に応じたブレーキ或いはステアリング操作を行うようにしている。
【0003】
このようなシステムでは、大容量負荷が用いられるので、大容量負荷を駆動させるための動力用電源(例えば、42V,288V等)と、計装用及び小容量負荷を駆動させるための計装用電源(例えば、12V)の2系統の電源を備えていることが多い。
【0004】
更に、通信手段による通信エラーを検知するために、バスガーディアンと称するシステムが構築されている(非特許文献1参照)。バスガーディアンとは、一つのチャネルに連結される各ノード(車両用の場合には、各ECUに相当する)にそれぞれ設けられ、該ノードのクロック状態、或いはその他の制御手段の状態を監視し、異常が検知された場合には、この異常が検知されたノードによる通信を停止させることにより、チャネル全体が停止するというトラブルを防止するための機能ある。
【0005】
ところで、このようなバスガーディアンを用いた通信システムで前述したような大容量負荷を制御する場合には、バスガーディアンによりクロック異常、或いは制御手段の異常が検知された場合には、このノードの通信を停止することにより全体の通信システムを保護することができるものの、大容量負荷と動力用電源とは連結状態が保持されたままとなるので、制御不能状態となった大容量負荷が暴走することがある。
【非特許文献1】FlexRay Requirements Specification Copyright2000 by BMW AG,DaimlerChrysler AG,RobertBosch GmbH,GeneralMotors/Opel AG(Version2.0.2,9th of April,2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来における車両用負荷の制御装置では、ノードとしてのECUが有する制御手段に異常が発生した場合には、負荷を制御することができなくなる場合があり、このような場合において、負荷に動力用電源が供給され続けると、負荷が暴走してしまうという問題点があった。
【0007】
この発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、制御装置に異常が発生した場合でも、制御対象となる負荷を停止させることにより該負荷の暴走を防止することのできる車両用負荷の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、第1の電源と、該第1の電源よりも出力電圧の高い第2の電源を有し、制御対象となる負荷を駆動させる電源として前記第2の電源を用い、前記負荷を制御する制御手段の電源として前記第1の電源を用い、且つ、前記負荷を操作するために入力された操作信号を、通信により前記制御手段に供給し、該制御手段は、供給された操作信号に基づいて前記負荷を制御するようにした車両用負荷の制御装置において、前記制御手段は、前記負荷を制御する負荷制御部と該負荷制御部の状態を監視する監視部とを備え、前記監視部にて前記負荷制御部に異常が発生したことが検知された際に、前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記監視部は、前記負荷制御部に発生する異常状態として、該負荷制御部の停止を検知した場合には、即時に前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断し、前記負荷制御部に発生する異常状態として、該負荷制御部の暴走を検知した場合には、ある時間間隔を持って前記負荷制御部にリセット信号を出力すると共に、リセット信号を所定回数出力した後、再度暴走が検知された際に、前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線は、配線経路上にヒューズを有し、前記監視部は、前記ヒューズと前記負荷との間の配線経路をグランドに接地してヒューズを溶断させることにより、前記第1の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願請求項1の発明では、監視部により負荷制御部の状態を監視し、異常の発生が検知された際には、第2の電源と負荷とを連結する配線を遮断するので、負荷制御部が制御不能状態となった場合に、負荷に電源電圧が供給され続けることを防止することができ、負荷の暴走を防止することができる。これにより、フェールセーフを達成することができる。
【0012】
請求項2の発明では、負荷制御部に発生する異常状態を、停止及び暴走の2つの状態に分類し、負荷制御部が停止した場合には、明かに負荷を制御することができない状態であると判断して即時に第2の電源と負荷とを連結する配線を遮断する。また、負荷制御部が暴走した場合には、1回または複数回リセット信号を与えることにより、負荷制御部の復旧を試み、所定回数のリセット信号を与えた後において、未だ暴走が回避されない場合に、第2の電源と負荷とを連結する配線を遮断する。これにより、負荷制御部の異常の状態に応じた適切な制御が可能となる。
【0013】
請求項3の発明では、第2の電源と負荷とを連結する配線中にヒューズを設け、配線を遮断する際には、ヒューズと負荷との間の配線をグランドに接地させることにより、ヒューズに過電流を流して該ヒューズを溶断させるので、極めて簡単な構成で、且つ確実に第2の電源と負荷とを連結する配線を遮断させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両用負荷の制御装置の構成を示すブロック図である。同図に示すように、この制御装置は車両に搭載されて、車載された負荷を制御するものであり、直流12ボルトの電圧を出力する12V電源(第1の電源)B1と、直流42ボルトの電圧を出力する42V電源(第2の電源)B2と、例えば車両のステアリングの操舵角度を操作するモータ負荷9と、該モータ負荷9を制御するためのECU(制御手段)1を備えている。
【0015】
ECU1は、バスラインL1を介して主制御部(図示省略)と連結されている。該主制御部は、他の複数のECUと連結されており、この主制御部に連結された複数のECUを同一チャネルとして総括的な制御を行う。
【0016】
また、ECU1は、バスラインL1を介してモータ負荷9の操作信号が入力された際に、この操作信号に基づいてモータ負荷9を制御するものであり、バスドライバー5と、マイクロコントローラ(負荷制御部)4と、通信制御部6と、バスガーディアン(監視部)7と、レギュレータ8、及び電子スイッチT1を備えている。
【0017】
バスドライバー5は、バスラインL1にデータを送信すると共に、該バスラインL1を介して送られて来るデータを受信する制御を行う。通信制御部6は、このECU1と、他のECUとの間の通信を制御する。
【0018】
また、マイクロコントローラ4は、ECU1全体を総括的に制御すると共に、バスドライバー5を介してモータ負荷9の操作信号が入力された際には、この操作信号に基づいて、モータ負荷9を制御する。更に、モータ負荷9の状態を監視し、異常がある場合には、この情報をバスラインL1を介して他のECUへ送信する。
【0019】
電子スイッチT1は、バスガーディアン7より出力される制御信号によりオン、オフが切り換えられるものであり、オン時にはモータ負荷9と42V電源B2とを連結する42Vバスをグランドに接地させる。
【0020】
レギュレータ8は、12V電源B1より12Vバスを介して供給される電源電圧を所定の電圧レベルに変換して、バスガーディアン7に供給する。
【0021】
バスガーディアン7は、マイクロコントローラ4のクロックを監視し、このクロックが、このチャネルのグローバルクロック(このチャネルに連結された複数のECUのクロックから求められる代表的なクロック)から大きく異なることが検出された際には、クロック異常信号をバスドライバー5に出力し、バスドライバー5からの送信を停止させる。また、通信制御部6の動作状態を監視し、異常が検知された場合には、前述と同様にバスドライバー5からの通信を停止させる。
【0022】
更に、マイクロコントローラ4の動作状態を監視し、該マイクロコントローラ4が暴走、或いは停止していることが検知された際には、後述する手順により、電子スイッチT1をオンとして、42Vバスをグランドに接地させる。
【0023】
また、各電源B1,B2とECU1との間には、ジョイントボックス2が設けられており、過電流発生時に42Vバス、或いは12Vバスを遮断するためのヒューズFが設けられている。
【0024】
図2は、バスガーディアン7による処理手順を示すフローチャートであり、同図を参照しながら、本実施形態に係る車両用負荷の制御装置の動作を説明する。
【0025】
ECU1の駆動時において、まずマイクロコントローラ4のクロックをチェックし、このクロックがこのチャネルのグローバルクロックに対して大きく相違していないかどうかが判断される(ステップST1)。そして、クロック異常が検出された場合には(ステップST1で「異常」)、バスドライバー5によるデータの送信を停止させる(ステップST2)。
【0026】
また、クロック異常が検出されない場合には(ステップST1で「正常」)、通信制御部6の動作状態をチェックする(ステップST3)。そして、異常が検出された場合には(ステップST3で「異常」)、上記と同様にバスドライバー5によるデータの送信を停止させる(ステップST4)。
【0027】
更に、通信制御部6の動作が正常である場合には(ステップST3で「正常」)、マイクロコントローラ4の動作状態をチェックする(ステップST5)。そして、マイクロコントローラ4が正常に動作していることが検知された場合には(ステップST5で「正常」)、ステップST1からの処理に戻る。
【0028】
また、本実施形態では、マイクロコントローラ4が異常である場合として、停止している状態、及び暴走している状態の2つの場合に分けて以後の処理を変更している。
【0029】
即ち、マイクロコントローラ4が暴走していることが検知された場合には(ステップST5で「暴走」)、バスガーディアン7が内部的に備えているカウンタを「0」に設定し(ステップST6)、マイクロコントローラ4にリセット信号を出力して、該マイクロコントローラ4をリセットする(ステップST7)。
【0030】
次いで、ステップST5と同様にマイクロコントローラ4の動作状態をチェックし(ステップST8)、正常であれば(ステップST8で「正常」)、ステップST1からの処理に戻る。
【0031】
他方、異常(暴走状態)であれば(ステップST8で「異常」)、カウンタをインクリメントし(ステップST9)、再度マイクロコントローラ4をリセットする処理を繰り返し、カウンタ値が予め設定された規定値(この例では2回)に達した場合には(ステップST10でYES)、電子スイッチT1に制御信号を出力する。
【0032】
これにより、電子スイッチT1がオンとなり、42Vバスがグランドに接地され、ジョイントボックス2内のヒューズFが溶断されるので、42V電源B2からモータ負荷9への電力供給が遮断され(ステップST11)、モータ負荷9が停止する。
【0033】
また、ステップST5の処理にて、マイクロコントローラ4が停止していることが検出された場合には(ステップST5で「停止」)、即時に電子スイッチT1に制御信号を出力してモータ負荷9への電力供給を停止させる。
【0034】
こうして、マイクロコントローラ4の異常が検知された際に、モータ負荷9を強制的に停止させることができるのである。
【0035】
図3は、マイクロコントローラ4が停止した際に、電子スイッチT1をオンとする際の波形を示すタイミングチャートであり、同図(a)に示す時刻t1にてマイクロコントローラ4が停止した場合には、同図(b)に示す時刻t2にてバスガーディアン7から電子スイッチT1に制御信号が出力される。そして、該電子スイッチT1がオンとなって、42Vバスが遮断される。
【0036】
また、図4は、マイクロコントローラ4が暴走した際に、電子スイッチT1をオンとする際の波形を示すタイミングチャートであり、同図(a)に示す時刻t3にてマイクロコントローラ4の暴走が検出された場合には、同図(b)に示すように、時刻t4にてマイクロコントローラ4にリセット信号が出力される。その後、時刻t5にて再度マイクロコントローラ4の暴走が検出された際には、同図(c)に示すように、時刻t6にてバスガーディアン7から電子スイッチT1に制御信号が出力され、42Vバスが遮断される。
【0037】
このようにして、本実施形態に係る車両用負荷の制御装置では、バスガーディアン7により、クロック異常、或いは通信制御部6の異常が検出された際には、バスドライバー5からの送信が停止されるので、車両内全体の通信ラインを保護することができる。
【0038】
更に、ECU1の動作状態をバスガーディアン7により監視し、マイクロコントローラ4の停止、或いは暴走が検知され、モータ負荷9を制御することができないことが確認された場合には、モータ負荷9への電力供給を強制的に停止させるようにしている。
【0039】
その結果、モータ負荷9を保護することができ、更に、モータ負荷9が制御不能状態となった際に、該モータ負荷9が暴走することを回避することができ、フェールセーフを実現することができる。
【0040】
以上、本発明の車両用負荷の制御装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0041】
例えば、上記した実施形態では、ECU1の制御対象となる負荷として、モータ負荷9を例に挙げたが、その他の負荷であっても良い。
【0042】
また、モータ負荷9に駆動電圧を供給する電源として42V電源B2を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、288V等の他の電圧とすることも可能である。
【0043】
更に、上記した実施形態では、暴走発生時のリセット回数を2回に設定したが、本発明はこれに限定されるものではなく、3回以上とすることも可能である。
【0044】
更に、本実施形態では、ヒューズFを溶断することにより、42Vバスを遮断する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の手法を用いて42Vバスを遮断する構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0045】
制御用電源と動力用電源の2つの電源を用いた車両にて大容量負荷を制御する上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態係る車両用負荷の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る車両用負荷の制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
【図3】マイクロコントローラの出力波形と、該マイクロコントローラが停止した際の電子スイッチの制御信号の波形を示すタイミングチャートである。
【図4】マイクロコントローラの出力波形と、該マイクロコントローラの暴走が検出された際のリセット信号、及び電子スイッチの制御信号の波形を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1 ECU(制御手段)
2 ジョイントボックス
4 マイクロコントローラ(負荷制御部)
5 バスドライバー
6 通信制御部
7 バスガーディアン(監視部)
8 レギュレータ
9 モータ負荷
L1 バスライン
B1 12V電源
B2 42V電源
T1 電子スイッチ
F ヒューズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電源と、該第1の電源よりも出力電圧の高い第2の電源を有し、制御対象となる負荷を駆動させる電源として前記第2の電源を用い、前記負荷を制御する制御手段の電源として前記第1の電源を用い、且つ、前記負荷を操作するために入力された操作信号を、通信により前記制御手段に供給し、該制御手段は、供給された操作信号に基づいて前記負荷を制御するようにした車両用負荷の制御装置において、
前記制御手段は、前記負荷を制御する負荷制御部と該負荷制御部の状態を監視する監視部とを備え、前記監視部にて前記負荷制御部に異常が発生したことが検知された際に、前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断することを特徴とする車両用負荷の制御装置。
【請求項2】
前記監視部は、前記負荷制御部に発生する異常状態として、該負荷制御部の停止を検知した場合には、即時に前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断し、
前記負荷制御部に発生する異常状態として、該負荷制御部の暴走を検知した場合には、ある時間間隔を持って前記負荷制御部にリセット信号を出力すると共に、リセット信号を所定回数出力した後、再度暴走が検知された際に、前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断することを特徴とする請求項1に記載の車両用負荷の制御装置。
【請求項3】
前記第2の電源と前記負荷とを連結する配線は、配線経路上にヒューズを有し、前記監視部は、前記ヒューズと前記負荷との間の配線経路をグランドに接地してヒューズを溶断させることにより、前記第1の電源と前記負荷とを連結する配線を遮断することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の車両用負荷の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−21610(P2006−21610A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200755(P2004−200755)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】