説明

車両用走行制御装置

【課題】路上物体や上方物体を車両制御対象としない。
【解決手段】車両用走行制御装置1は、自車両の走行軌跡を推定する自車走行軌跡推定部31と、レーダ装置15および自車走行軌跡推定部31の出力に基づいて自車両の追従制御対象とすべき先行車両を判定する制御対象決定部34と、先行車両に対して追従走行制御を行う車両制御部37と、レーダ装置15により検出された物体が停止物であるか否か判定する停止物判定手段と、自車両が安定走行状態であるか否か判定する自車挙動推定部33と、備え、制御対象決定部34は、自車両が先行車両に対して追従走行制御を実行中であり、先行車両と自車両との間に検出された物体が停止物と判定され、自車両が安定走行状態であると判定された場合には、停止物と判定された物体を先行車両として判定しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自車両を先行車両に追従走行させる車両用走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自車両前方にレーザを発射し、このレーザが先行車両等の物体に反射した反射波を受信して物体を検知する物体検知装置としてのレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、このレーダ装置により自車両の直前を走行する車両(先行車両)を認識し、先行車両との車間制御を行って自車両を追従走行させる車両用走行制御装置が知られている。また、渋滞路での追従走行を想定し、先行車が低速状態から停止状態に至るまで車間制御を行い、先行車両停止時には自車両を停止保持させる車両用走行制御装置も知られている。
この種の車両用走行制御装置では、自車両のヨーレートに基づいて自車両の推定軌跡を算出し、その推定軌跡上に存在する物体を車両制御対象、すなわち先行車両として検出している。
【特許文献1】特開2000−9841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、自車両が先行車両を追従中に、自車両および先行車両が路上物体または上方物体(例えば背の低いゲート)を通過した場合、先行車両が路上物体または上方物体を通過した時点で、自車両の推定軌跡上に存在する最も近い物体は路上物体または上方物体となるが、このときに車両制御対象が先行車両から路上物体や上方物体へと切り替わり、路上物体や上方物体に対して車両制御を実行してしまうと、運転者の意図に反することになる。
【0004】
この課題を解決する方法として、レーダの上下方向の分解能を向上させ、車両と、路上物体や上方物体とを識別し、路上物体や上方物体を車両制御対象としない方法が考えられるが、上下方向の分解能を向上させるには上下方向のスキャニング走査が必要になり、システムが複雑になって、コストアップになる。
【0005】
また、レーダの上下方向のビーム幅を狭め、路上物体や上方物体を検知領域から外す方法も考えられるが、このようにすると、自車両のピッチング挙動に対する先行車両の検知タフネスが低下し、先行車両を検知することができなくなるという不具合が生じる。
【0006】
そこで、この発明は、路上物体や上方物体を車両制御対象としないようにした車両用走行制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る車両用走行制御装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、自車両の進行方向に存在する物体を検出する物体検出手段(例えば、後述する実施例におけるレーダ装置15)と、自車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段(例えば、後述する実施例におけるヨーレートセンサ11)と、自車両の走行速度を検出する車速検出手段(例えば、後述する実施例における車速センサ13)と、前記ヨーレート検出手段および前記車速検出手段の出力に基づいて自車両の走行軌跡を推定する走行軌跡推定手段(例えば、後述する実施例における自車走行軌跡推定部31)と、前記物体検出手段および前記走行軌跡推定手段の出力に基づいて自車両の追従制御対象とすべき先行車両を判定する先行車両判定手段(例えば、後述する実施例における制御対象決定部34)と、先行車両に対して追従走行制御を行う走行制御手段(例えば、後述する実施例における車両制御部37)と、備えた車両用走行制御装置(例えば、後述する実施例における車両用走行制御装置1)において、前記物体検出手段により検出された物体が停止物であるか否か判定する停止物判定手段(例えば、後述する実施例におけるステップS108)と、前記ヨーレート検出手段の出力に基づいて自車両が安定走行状態であるか否か判定する安定走行状態判定手段(例えば、後述する実施例における自車挙動推定部33)と、を備え、前記先行車両判定手段は、走行制御手段により自車両が先行車両に対して追従走行制御を実行中であり、且つ前記停止物判定手段により先行車両と自車両との間に検出された物体が停止物と判定され、且つ前記安定走行状態判定手段により自車両が安定走行状態であると判定された場合には、停止物と判定された前記物体を先行車両として判定しないか、あるいは停止物と判定された前記物体を先行車両として判定するまでの時間を遅らせることを特徴とする。
【0008】
自車両が先行車両に対して追従走行制御を実行中であって、自車両が安定走行状態であるときには、自車両と先行車両との間に停止車両が発生することはあり得ない。したがって、自車両が先行車両に対して追従走行制御を実行であって、自車両が安定走行状態であるときに、自車両と先行車両との間に停止物体が現れた場合には、該物体を先行車両と判定せず、制御対象としない
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記安定走行状態判定手段は、所定時間におけるヨーレートの積分値の絶対値が第1の所定値以下の場合に安定走行状態と判定することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記安定走行状態判定手段は、ヨーレートと車速から算出される所定時間当たりの自車両の横移動量の絶対値が第2の所定値以下の場合に安定走行状態と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、自車両が先行車両に対して追従走行制御を実行であって、自車両が安定走行状態であるときに、自車両と先行車両との間に停止物体が現れた場合には、該物体を先行車両と判定せず、制御対象としないことにより、自車両の推定走行軌跡上に存在する路上物体や上方物体を制御対象として追従走行制御するのを防止することができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、ヨーレートの積分値からヨー角を算出することができ、したがって所定時間におけるヨー角の変位量に基づいて自車両の安定走行状態を判定することができる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、所定時間当たりの自車両の横移動量に基づいて自車両の安定走行状態を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明に係る車両用走行制御装置(以下、走行制御装置と略す)の実施例を図1から図11の図面を参照して説明する。
この発明に係る走行制御装置1は、図1の機能ブロック図に示すように、ヨーレートセンサ(ヨーレート検出手段)11、舵角センサ12、車速センサ(車速検出手段)13、ナビゲーション装置14、レーダ装置(物体検出手段)15、設定スイッチ18、減速アクチュエータ21、加速アクチュエータ22、制御状態告知装置23、制御装置30とを備えた車両に搭載されている。
【0015】
ヨーレートセンサ11は自車両のヨーレートを検出し、舵角センサ12は自車両の操舵角を検出し、車速センサ13は自車両の車速を検出して、それぞれ検出結果に応じた検出信号を制御装置30へ出力する。
【0016】
ナビゲーション装置14は、例えば装置内部で記憶する地図データに対して、GPS(Global Positioning System)やD−GPS(Differential GPS)等を利用して得た現在位置情報に基づいてマップマッチングを行うことで自車両の現在位置を算出し、算出した現在位置に基づいて目的地までの経路探索や経路誘導等の処理を行い、自車両の現在位置等の情報を制御装置30へ出力する。
【0017】
レーダ装置15(物体検出手段)は、例えばレーザ光やミリ波等の電磁波を適宜の検知方向(例えば、自車両の進行方向前方)の検知領域に向けて発信すると共に、この発信した電磁波が自車両の外部の物体(例えば、先行車両)によって反射されたときにその反射波を受信し、発信した電磁波と受信した電磁波(反射波)とを混合してビート信号を生成し、制御装置30へ出力する。
【0018】
設定スイッチ18は、運転者が走行制御システムへの指示内容を設定する各種スイッチからなり、例えば、走行制御システムをON/OFFさせる走行制御メインスイッチ(走行制御スイッチ)、車間制御モードと車間制御機能付きクルーズモードの一方を選択可能な制御モードスイッチ、クルーズコントロール時の設定車速を増減する加減速操作スイッチ、車間制御時の車間距離の大きさを設定する車間距離設定スイッチ等が含まれ、指令内容に応じた指令信号を制御装置30へ出力する。
【0019】
この走行制御装置1では、設定スイッチ18の制御モードスイッチによって、先行車両との車間制御のみを行う車間制御モードと、先行車両との車間制御を行うとともに車間制御対象が存在しないときに自車速度を一定に保つ車間制御機能付きクルーズモードのいずれかのモードを選択することができる。
【0020】
減速アクチュエータ21は、制御装置30の指令にしたがって例えばスロットル開度やブレーキ液圧を制御し、自車両を減速する。
加速アクチュエータ22は、制御装置30の指令にしたがって例えばスロットル開度を制御し、自車両を加速する。
制御状態告知装置23は、制御装置30から入力した情報をメータ等の表示手段を用いて運転者に告知する。
【0021】
制御装置30は、自車走行軌跡推定部(走行軌跡推定手段)31、制御対象領域設定部32、自車挙動推定部(安定走行状態判定手段)33、制御対象決定部(先行車両判定手段)34、制御モード決定部35、制御目標値決定部36、車両制御部(走行制御手段)37とを備えて構成されている。
【0022】
自車走行軌跡推定部31には、ヨーレートセンサ11、舵角センサ12、車速センサ13の検出信号(出力)、およびナビゲーション装置14で算出した自車両の現在位置等の情報が入力され、自車走行軌跡推定部31は、これら入力に基づいて自車両の推定走行軌跡を算出し、制御対象領域設定部32へ出力する。
【0023】
制御対象領域設定部32は、自車走行軌跡推定部31から入力した自車両の推定走行軌跡に対して直交する基本幅を有し該推定走行軌跡に沿って延びる一定の距離範囲内を制御対象の範囲(以下、制御対象領域という)に設定し、設定した制御対象領域を制御対象決定部34へ出力する。図2に、レーダ装置15の検知領域と、制御対象領域設定部32により設定される制御対象領域との関係を示す。
【0024】
自車挙動推定部33は、ヨーレートセンサ11と車速センサ13の検出信号(出力)に基づいて自車両の挙動を推定し、自車両が安定走行状態にあるか否かを判定する。例えば、自車挙動推定部33は、ヨーレートセンサ11で検出された自車両のヨーレートを積分処理して算出されるヨー角に基づいて自車両の絶対方位を算出する。また、自車挙動推定部33は、車速センサ13で検出された自車速度と自車両の絶対方位に基づいて、所定時間当たりの自車両の横移動量を算出する。さらに、自車挙動推定部33は、所定時間当たりの自車両のヨー角変位量あるいは所定時間当たりの自車両の横移動量に基づいて、自車両が安定走行状態にあるか否かを判定し、判定結果を制御対象決定部34へ出力する。
【0025】
例えば、図3に示すように、自車両の安定走行時にはヨーレートおよびヨー角に変化がなく、自車両が瞬間的にふらついたようなときには、自車両のヨーレートには一時的に変化が生じるが、ヨー角は殆ど生じない。
また、図4に示すように、自車両が車線変更を行ったりカーブを走行するようなときには、ヨーレートが一定時間変化し、ヨー角が発生する。
このことから、例えば、所定時間当たりの自車両のヨー角変位量の絶対値が所定値以下であるとき、あるいは、所定時間当たりの自車両の横移動量の絶対値が所定値以下であるときは、自車両が安定走行状態にあると判定することができる。
【0026】
制御対象決定部34は、レーダ装置15によって検出された物体の検出データの中から、制御対象領域設定部32で設定された制御対象領域に存在する物体を抽出するとともに、該物体と自車両との相対距離、相対速度等を算出し、さらに、該物体の移動特性や、自車挙動推定部33により推定された自車両の挙動等に基づいて、制御対象領域に存在する物体を追従制御対象とすべきか否かを判定する。また、制御対象決定部34は、前記物体を追従制御対象とすべき先行車両であると判定した場合に、自車両と先行車両との相対距離、相対速度等の情報を制御目標値決定部36へ出力する。
【0027】
制御モード決定部35は、設定スイッチ18の制御モードスイッチおよび自車両の車両制御状態に基づいて、自車両の制御モードが車間制御機能付きクルーズモードか車間制御モードのいずれであるかを判定し、判定結果を制御対象決定部34および制御目標値決定部36へ出力する。
【0028】
制御目標値決定部36は、設定スイッチ18の車間距離設定スイッチからの出力に基づいて目標車間距離を算出し、算出された目標車間距離と、制御対象決定部34から入力される自車両と先行車両との相対距離、相対速度等の情報に基づいて、追従走行制御に必要な制御目標値、例えば目標車速、目標加減速度等を決定する。なお、前記車間距離設定スイッチは、例えば自車両と先行車両との車間距離を時間に換算して設定するスイッチであり、例えば短距離、中距離、長距離の3等級から選択可能になっていて、各等級に対応して設定された時間に自車速度を乗じて目標車間距離を算出する。
車両制御部37は、制御目標値決定部36で決定された制御目標値(目標車速や目標加減速度等)に基づいて、減速アクチュエータ21および加速アクチュエータ22を制御するとともに、現在の制御状態を制御状態告知装置23へ出力する。
【0029】
次に、制御対象決定部34において実行される追従走行時の先行車両決定処理を、図5のフローチャートに従って説明する。図5のフローチャートに示す先行車両決定処理ルーチンは一定時間毎に繰り返し実行される。
【0030】
まず、ステップS01において、レーダ装置15により物体を検知する。
次に、ステップS02に進み、自車両の推定走行軌跡を算出する。
次に、ステップS03に進み、ヨーレートセンサ11と車速センサ13の出力に基づいて自車両の挙動を推定する自車挙動推定処理を実行する。自車両挙動推定処理については後で詳述する。
次に、ステップS04に進み、自車両の推定走行軌跡上に物体が存在するか否かを判定する。
ステップS04における判定結果が「NO」である場合には、ステップS05に進み、先行車両なしと判定して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0031】
ステップS04における判定結果が「YES」である場合には、ステップS06進み、自車両の推定走行軌跡上に存在する物体が複数か否かを判定する。
ステップS06における判定結果が「NO」(単数)である場合には、ステップS07に進み、その物体を先行車両として決定し、本ルーチンの実行を一旦終了する。
ステップS06における判定結果が「YES」(複数)である場合には、ステップS08に進み、先行車両切替最適化処理を実行して複数存在する物体の中から先行車両とすべき物体を決定し、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0032】
次に、ステップS08において実行される先行車両切替最適化処理を図6のフローチャートに従って説明する。図6のフローチャートに示す先行車両切替最適化処理ルーチンは一定時間毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS101において、図5に示される先行車両決定処理ルーチンを前回実行したときに先行車両が存在したか否かを判定する。
ステップS101における判定結果が「NO」(前回、先行車両なし)である場合には、ステップS102に進み、自車両の推定走行軌跡上において自車両から最短に位置する物体を先行車両として決定する。
【0033】
ステップS101における判定結果が「YES」(前回、先行車両あり)である場合には、ステップS103に進み、前回の先行車両(以下、前回先行車両という)よりも近くに物体が存在するか否かを判定する。すなわち、自車両と前回先行車両との間に、新たな物体が存在するか否かを判定する。
【0034】
ステップS103における判定結果が「NO」(前回先行車両よりも近い物体なし)である場合には、ステップS104に進み、前回先行車両を継続して先行車両として、本ルーチンの実行を一旦終了する。
ステップS103における判定結果が「YES」(前回先行車両よりも近い物体あり)である場合には、ステップS105に進み、前回先行車両よりも近い物体を制御対象候補とする。
【0035】
例えば、図7に示すように、自車両VSが先行車両VTを追従中に、自車両VSおよび先行車両VTの走行車線前方に路上物体または上方物体(以下、路上物体として説明する)が存在する場合(図7(A)参照)に、先行車両VTが路上物体Pを通過するまでは路上物体Pよりも先行車両VTの方が自車両VSに近いので、自車両VSの推定走行軌跡上の先行車両VTを継続して制御対象として認識するが(図7(B)参照)、先行車両VTが路上物体Pを完全に通過すると自車両VSと先行車両VTとの間に路上物体Pが現れ(図7(C)参照)、この路上物体Pは新たな制御対象候補となる。
【0036】
また、例えば、図8に示すように、自車両VSが先行車両VTを追従中に、自車両VSおよび先行車両VTの走行車線前方の路側に物体(以下、路側物体と称す)Qが存在する場合(図8(A)参照)に、自車両VSが一時的にふらついても先行車両VTが路側物体Qの横を通過するまでは路側物体Qよりも先行車両VTの方が自車両VSに近いので、自車両VSの推定走行軌跡上の先行車両VTを継続して制御対象として認識するが(図8(B)参照)、先行車両VSが路側物体Qの横を通過した後に自車両VSがふらつくと、自車両VSと先行車両VTとの間の自車両VSの推定走行軌跡上に路側物体Qが現れ(図8(C)参照)、この路側物体Qは新たな制御対象候補となる。
【0037】
また、例えば、図9に示すように、自車両VSが先行車両VTを追従中に、自車両VSが隣車線へ車線変更を行うため操舵したところ、隣車線に自車両VSよりも前方であって先行車両VTよりも後方に別の車両VT2が存在している場合には、自車両VSの推定走行軌跡上に前記別の車両VT2が現れ、この別の車両VT2は新たな制御対象候補となる。
【0038】
そして、ステップS105からステップS106に進み、前記先行車決定処理におけるステップS03で実行した自車挙動推定処理の結果が安定状態か否かを判定する。
ステップS106における判定結果が「YES」(安定状態)である場合には、ステップS107に進み、自車両の車速、制御対象候補の相対速度に基づいて、制御対象候補が停止物体であるか否かを判定する。なお、この実施例では、制御装置30がステップS107の処理を実行することにより、物体が停止物であるか否か判定する停止物判定手段が実現される。
ステップS107における判定結果が「YES」(停止物体)である場合には、ステップS108に進み、制御対象候補を先行車両とせず、前回先行車両を継続して先行車両として決定し、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0039】
つまり、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の挙動が安定しており、且つ、新たな制御対象候補が停止物体であるときには、自車両と先行車両との間に停止車両が発生することはあり得ないので、新たな制御対象候補は停止車両ではなく、路上物体あるいは上方物体であると推定して制御対象とせず、従前から制御対象としていた前回先行車両を継続して先行車両として追従走行制御を行う(図7参照)。
【0040】
一方、ステップS107における判定結果が「NO」(停止物体でない)である場合には、ステップS109に進み、制御対象候補を先行車両として決定し、本ルーチンの実行を一旦終了する。
つまり、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の挙動が安定しており、且つ、新たな制御対象候補が停止物体ではなく移動しているときには、自車両と先行車両との間に別の車両が割り込んできたと推定し、前回先行車両から制御対象候補に先行車両を切り替えて追従走行制御を行う。
【0041】
また、ステップS106における判定結果が「NO」(安定状態でない)である場合には、ステップS110に進み、前記先行車決定処理におけるステップS03において実行した自車両挙動推定処理の結果が車線変更状態であるか否かを判定する。
ステップS110における判定結果が「YES」(車線変更状態)である場合には、ステップS109に進み、制御対象候補を先行車両として決定し、本ルーチンの実行を一旦終了する。
つまり、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の挙動が車線変更であるときには、隣車線上の車両が検出されたと推定し、前回先行車両から制御対象候補に先行車両を切り替えて追従走行制御を行う(図9参照)。
【0042】
一方、ステップS110における判定結果が「NO」(車線変更状態でない)である場合には、ステップS104に進み、制御対象候補を先行車両とせず、前回先行車両を継続して先行車両として、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0043】
つまり、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の挙動が安定しておらず、且つ、車線変更の挙動でもないことから、自車両は一時的な不安定状態(ふらつき状態)にあるので、新たな制御対象候補は路側物体であると推定して制御対象とせず、従前から制御対象としていた前回先行車両を継続して先行車両として追従走行制御を行う(図8参照)。
【0044】
次に、ステップS03において実行される自車挙動推定処理を図10、図12のフローチャートに従って説明する。
図10のフローチャートに示す自車挙動推定処理は自車両の横移動量ΔYに基づいて自車両の挙動を推定する方法であり、図12のフローチャートに示す自車挙動推定処理は自車両のヨー角変位量Δθに基づいて自車両の挙動を推定する方法であり、いずれの方法も採用可能である。
【0045】
初めに、横移動量ΔYに基づいて自車両の挙動を推定する方法を図10のフローチャートに従って説明する。図10のフローチャートに示す自車挙動推定処理ルーチンは一定時間毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS201において、ヨーレートセンサ11により検出された自車両のヨーレートを積分処理して、ヨー角θを算出する。
次に、ステップS202に進み、所定時間t1におけるヨー角変位量Δθを算出する。
【0046】
次に、ステップS203に進み、車速センサ13により検出された自車両の車速に基づいて、所定時間t1における自車両の移動距離(走行距離)ΔXを算出する。
次に、ステップS204に進み、所定時間t1における自車両の横移動量ΔYを算出する。自車両の移動距離ΔXと横移動量ΔYとヨー角の変位量Δθとの間には図11に示す関係があるので、自車両の横移動量ΔYは式(1)に基づいて算出することができる。
ΔY=ΔX・tanΔθ ・・・ 式(1)
【0047】
次に、ステップS205に進み、所定時間t1における横移動量ΔYの絶対値が閾値(第2の所定値)ΔY1よりも小さいか否かを判定する。
ステップS205における判定結果が「YES」(|ΔY|<ΔY1)である場合には、ステップS206に進み、自車両は安定状態であると判定して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0048】
ステップS205における判定結果が「NO」(|ΔY|≧ΔY1)である場合には、ステップS207に進み、所定時間t1における横移動量ΔYの絶対値が閾値ΔY2よりも小さいか否かを判定する。なお、閾値ΔY2は閾値ΔY1よりも大きい値である(ΔY1<ΔY2)。
ステップS207における判定結果が「YES」(ΔY1≦|ΔY|<ΔY2)である場合には、ステップS208に進み、自車両は一時的な不安定状態(ふらつき状態)であると判定して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0049】
ステップS207における判定結果が「NO」(|ΔY|≧ΔY2)である場合には、ステップS209に進み、自車両は車線変更している状態(車線変更状態)であると判定して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0050】
次に、自車両のヨー角変位量Δθに基づいて自車両の挙動を推定する方法を図12のフローチャートに従って説明する。図12のフローチャートに示す自車挙動推定処理ルーチンは一定時間毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS301において、ヨーレートセンサ11により検出された自車両のヨーレートを積分処理して、ヨー角θを算出する。
次に、ステップS302に進み、所定時間t2におけるヨー角変位量Δθを算出する。
【0051】
次に、ステップS303に進み、所定時間t2におけるヨー角変位量Δθの絶対値が閾値(第1の所定値)Δθ1よりも小さいか否かを判定する。
ステップS303における判定結果が「YES」(|Δθ|<Δθ1)である場合には、ステップS304に進み、自車両は安定状態であると判定して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0052】
ステップS303における判定結果が「NO」(|Δθ|≧Δθ1)である場合には、ステップS305に進み、所定時間t2におけるヨー角変位量Δθの絶対値が閾値Δθ2よりも小さいか否かを判定する。なお、閾値Δθ2は閾値Δθ1よりも大きい値である(Δθ1<Δθ2)。
ステップS305における判定結果が「YES」(Δθ1≦|Δθ|<Δθ2)である場合には、ステップS306に進み、自車両は一時的な不安定状態(ふらつき状態)であると判定して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0053】
ステップS305における判定結果が「NO」(|Δθ|≧Δθ2)である場合には、ステップS307に進み、自車両は車線変更している状態(車線変更状態)であると判定して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0054】
以上説明するように、この実施例における車両用走行制御装置1によれば、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の走行状態が安定しており、且つ、新たな制御対象候補が停止物体であるときには、自車両と先行車両との間に出現した新たな制御対象候補を制御対象としないので、推定走行軌跡上に存在する路上物体や上方物体を制御対象として追従走行制御するのを防止することができる。
【0055】
また、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の走行状態が安定しており、且つ、新たな制御対象候補が移動物体であるときには、新たな制御対象候補は自車両と先行車両との間に割り込んできた割り込み車両と推定して、前記先行車両から新たな制御対象候補に制御対象を切り替えて追従走行制御を行うことができる。
【0056】
また、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の走行状態が車線変更であるときには、新たな制御対象候補は隣車線上の車両であると推定し、先行車両から新たな制御対象候補に制御対象を切り替えて追従走行制御を行うことができる。
さらに、自車両が先行車両に対し追従走行制御を実行しているときに、自車両と先行車両との間に新たな制御対象候補が現れた場合に、自車両の走行状態が安定しておらず、且つ、車線変更の挙動でもないときには、自車両は一時的な不安定状態であり、新たな制御対象候補を制御対象としないので、自車両の推定走行軌跡の路側に存在する路側物体を制御対象として追従走行制御するのを防止することができる。
【0057】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、自車両が追従走行制御中のときに自車両と先行車両との間に停止物体が出現した場合に、自車両の走行状態が安定状態であるときには前記停止物体を先行車両と判定しないことにしたが、先行車両と判定するまでの時間を遅らせてもよい。このようにすると、先行車両と判定するまでの遅延時間を適正に設定することにより、遅延時間経過後には前記停止物体が自車両の物体検知領域から外れ、制御対象とならなくなるので、結果的に前記停止物体を先行車両とすることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明に係る車両用走行制御装置の実施例における機能ブロック図である。
【図2】実施例における車両用走行制御装置の制御対象領域を示す図である。
【図3】ヨーレートが一時的に変化したときのヨー角の変化を示す図である。
【図4】ヨーレートが一定時間継続して変化したときのヨー角の変化を示す図である。
【図5】実施例における先行車両決定処理を示すフローチャートである。
【図6】実施例における先行車両切替最適化処理を示すフローチャートである。
【図7】自車両が路上物体を通過するときの様子を時系列に示した図である。
【図8】自車両が路側物体の横を通過するときの様子を時系列に示した図である。
【図9】自車両が車線変更しているときの様子を示す図である。
【図10】実施例における車両用走行制御装置において第1の自車挙動推定処理を示すフローチャートである。
【図11】実施例において自車両の横移動量算出の原理を示す図である。
【図12】実施例における車両用走行制御装置において第2の自車挙動推定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用走行制御装置
11 ヨーレートセンサ(ヨーレート検出手段)
13 車速センサ(車速検出手段)
15 レーダ装置(物体検出手段)
31 自車走行軌跡推定部(走行軌跡推定手段)
33 自車挙動推定部(安定走行状態判定手段)
34 制御対象決定部(先行車両判定手段)
37 車両制御部(走行制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の進行方向に存在する物体を検出する物体検出手段と、
自車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、
自車両の走行速度を検出する車速検出手段と、
前記ヨーレート検出手段および前記車速検出手段の出力に基づいて自車両の走行軌跡を推定する走行軌跡推定手段と、
前記物体検出手段および前記走行軌跡推定手段の出力に基づいて自車両の追従制御対象とすべき先行車両を判定する先行車両判定手段と、
先行車両に対して追従走行制御を行う走行制御手段と、
を備えた車両用走行制御装置において、
前記物体検出手段により検出された物体が停止物であるか否か判定する停止物判定手段と、
前記ヨーレート検出手段の出力に基づいて自車両が安定走行状態であるか否か判定する安定走行状態判定手段と、
を備え、前記先行車両判定手段は、走行制御手段により自車両が先行車両に対して追従走行制御を実行中であり、且つ前記停止物判定手段により先行車両と自車両との間に検出された物体が停止物と判定され、且つ前記安定走行状態判定手段により自車両が安定走行状態であると判定された場合には、停止物と判定された前記物体を先行車両として判定しないか、あるいは停止物と判定された前記物体を先行車両として判定するまでの時間を遅らせることを特徴とする車両用走行制御装置。
【請求項2】
前記安定走行状態判定手段は、所定時間におけるヨーレートの積分値の絶対値が第1の所定値以下の場合に安定走行状態と判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用走行制御装置。
【請求項3】
前記安定走行状態判定手段は、ヨーレートと車速から算出される所定時間当たりの自車両の横移動量の絶対値が第2の所定値以下の場合に安定走行状態と判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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