説明

車両用配管の表面処理構造

【課題】 無電解ニッケル層を有していても高い生産性を確保できる車両用配管の表面処理構造を提供すること。
【解決手段】 基材としての金属管10の内周表面上には、Ni皮膜の電気ニッケル層20とNi−B合金皮膜の無電解ニッケル層30とニッケル層30の拡散層31とから構成される表面処理構造が形成されている。ニッケル層20は、金属管10の表面上に電気メッキ法によって形成される。ニッケル層30は、ニッケル層20の表面上に無電解メッキ法によって形成される。拡散層31は、金属管10に対して施される焼鈍処理(熱処理)に伴って形成される。このように、拡散層31を有する表面処理構造を形成することにより、金属管10に対して2次加工を施した場合であってもニッケル層30の割れや剥がれを防止することができるため、従来からの生産方法を採用して高い生産性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面における表面処理構造に係り、特に、車両に搭載されてフューエル又はウォータを流通する金属製の車両用配管に施す表面処理構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される各種配管は、フューエル(ガソリン等)やウォータ(冷却水等)すなわち流通する液体の酸化作用に対応するために、これらの液体と接触する内周側表面に高い耐食性が要求される。この要求に対して、従来から、自動車用配管の内周側表面に、例えば、電気メッキ法によるニッケル層を形成することが広く行われている。ところが、この優れた耐食性能を発揮するニッケル層は、車両に搭載するために所定の管形状に成形加工する場合、特に、熱処理を伴って成形加工する場合において、その層厚が減少する場合があった。
【0003】
このように、電気メッキ法により形成されたニッケル層の層厚が減少することに対して、例えば、製品形状まで成形した配管に電気メッキ法によってニッケル層を形成する、又は、再度ニッケル層を形成することが考えられる。しかしながら、電気メッキ法の技術的な制約から、複雑な形状に成形された配管に対してニッケル層を形成することは極めて難しい。
【0004】
この問題に対して、従来から、例えば、下記特許文献1に示すような、パイプ成形物の製造方法及びパイプ成形物は知られている。この製造方法及びパイプ成形物は、最終的な製品形状まで加工された成形物に対して、例えば、下記特許文献2に示す従来の無電解メッキ方法及び装置を用いてニッケル(Ni)−リン(P)合金を無電解ニッケルメッキすることにより、パイプ成形物の表面に対して均一に無電解ニッケル層(すなわち、Ni−P合金皮膜)を形成するようになっている。したがって、例えば、エンジンに燃料を供給するフューエルデリバリパイプ等のように種々の部品が組み付けられる場合であっても、これらの部品を組み付けた後に無電解ニッケル層を形成することができるため、熱処理を伴う加工による耐食性の低下を防止することができる。すなわち、熱処理を伴う加工を経ることなく無電解ニッケル層を形成することにより、燃料と接する表面に無電解ニッケル層を適切に維持することができるため、ニッケルの優れた耐食性を発揮することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−34877号公報
【特許文献2】特開平10−121256号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記従来のパイプ成形物の製造方法及びパイプ成形物において無電解メッキ法によって形成される無電解ニッケル層は、一般的に、その硬度が大きいため、脆くて割れやすい特性を有する。又、上記従来のパイプ成形物の製造方法及びパイプ成形物において無電解ニッケル層として形成されるNi−P合金皮膜は、その融点が比較的低いため、例えば、種々の部品を組み付けるための炉中ロー付け法等を実施した場合には、この熱処理によって無電解ニッケル層が適切に維持できない可能性がある。したがって、上記従来のパイプ成形物の製造方法及びパイプ成形物においては、これまで長らく採用されてきた生産方法とは異なり、例えば、フューエルデリバリパイプの生産では最終的な形状まで成形された種々の部品を熱処理を伴う加工を経て組み付けた後に無電解ニッケル層を形成する必要がある。しかしながら、特に、車両用配管においては、最終的な形状として長尺物となったり複雑な三次元形状となる場合が多く、最終的な形状まで成形した後に無電解ニッケル層を形成することが困難となって、生産性が低下することが懸念される。
【0007】
この点に関し、Ni−P合金よりも融点が高く、具体的に、例えば、炉中ロー付け法による熱処理温度よりも融点が高く、無電解ニッケルメッキ方法によって形成可能な無電解ニッケル層として、ニッケル(Ni)−ホウ素(B)合金皮膜が知られている。したがって、Ni−B合金皮膜を無電解ニッケル層として形成することによって、無電解ニッケル層を形成した後に種々の部品を組み付けることができるため、これまでの生産方法を採用して生産性を向上させることが可能となる。ところが、このNi−B合金皮膜は、Ni−P合金皮膜よりも硬度が高くて硬いため、無電解ニッケル層として形成された後に機械的な2次加工(例えば、曲げ加工や端末加工等)を施すと、形成した無電解ニッケル層(Ni−B合金皮膜)に割れや剥がれ等が容易に発生することが懸念され、単純にこれまでの生産方法を採用できない場合がある。
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、無電解ニッケル層を有していても高い生産性を確保できる車両用配管の表面処理構造を提供することにある。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両に搭載される車両用配管の表面処理構造であって、無電解メッキ法により基材の表面上に形成された無電解ニッケル層と、前記無電解ニッケル層から前記基材に向けて所定の層厚を有するように形成された前記無電解ニッケル層の拡散層とから構成したことにある。この場合、表面処理構造が、さらに、前記基材と前記無電解ニッケル層との間に電気メッキ法により前記基材の表面上に形成された電気ニッケル層を有することもできる。
【0010】
この場合、前記無電解ニッケル層の拡散層は、前記車両用配管の加工に伴う熱処理によって形成されるとよく、具体的に、前記車両用配管の加工に伴う熱処理は、例えば、前記車両用配管に対する焼鈍処理及び前記車両用配管と他部材との接合に伴うロー付け処理のうちの少なくとも一方であるとよい。ここで、前記ロー付け処理によって前記車両用配管に接合される他部材は、例えば、車両のエンジンに組み付けられて燃料を供給するためのフューエルデリバリパイプである。
【0011】
また、これらの場合、前記無電解メッキ法により形成された前記無電解ニッケル層は、ニッケル(Ni)−ホウ素(B)合金皮膜であり、この場合、前記拡散層の所定の層厚が1μm〜60μmの層厚となるように前記ニッケル(Ni)−ホウ素(B)合金皮膜が形成されるとよく、より好ましくは、前記拡散層の所定の層厚が2μm〜10μmの層厚となるように前記ニッケル(Ni)−ホウ素(B)合金皮膜が形成されるとよい。
【0012】
これらによれば、流通する液体の酸化作用に対して良好な耐食性が長期間に渡り必要な車両用配管の表面処理構造を、無電解メッキ法によって基材の表面上に形成される無電解ニッケル層(例えば、Ni−B合金皮膜)と、無電解ニッケル層の拡散層とから構成することができる。このように、基材に対して無電解ニッケル層及びこの無電解ニッケル層の拡散層を熱処理に伴って形成することにより、例えば、硬度の高いNi−B合金皮膜を無電解ニッケル層として形成した場合であっても、拡散層を有することにより、割れや剥がれ等の発生を抑制して機械的な2次加工が可能となる。また、表面処理構造は、さらに、電気メッキ法によって基材と無電解ニッケル層との間に電気ニッケル層(例えば、Ni皮膜)を形成することもできる。この場合、熱処理を伴う加工を経ることによって電気ニッケル層の層厚が減少した場合であっても、電気ニッケル層上に形成される無電解ニッケル層によって耐食性を確保することができる。
【0013】
また、熱処理、具体的には、車両用配管の製造時に必要な焼鈍処理や、車両用配管と他部材(例えば、フューエルデリバリパイプ)とを接合するための炉中ロー付け処理等に伴って無電解ニッケル層(例えば、Ni−B合金皮膜)の拡散層を所定の層厚となるように形成させることができ、この形成された拡散層によって割れや剥がれ等の生じない良好な2次加工を車両用配管に施すことができる。すなわち、無電解メッキ処理後であっても、その後の熱処理によって拡散層を形成することによって、無電解ニッケル層の割れや剥がれ等の発生を防止して車両用配管に2次加工することが可能となる。したがって、車両用配管の良好な耐食性を確保することができるとともに、従来からの生産方法を採用して高い生産性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る車両用配管としての金属管の表面処理構造を説明するための断面図である。
【図2】図1の金属管の形状加工工程にて形成されたビード部における減少した電気ニッケル層及び無電解ニッケル層を説明するための断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るフューエルデリバリパイプの概略図である。
【図4】図3のフューエルデリバリパイプのA−A線に沿った拡大断面図である。
【図5】図3の燃料供給管の曲げ加工を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
a.第1実施形態
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の第1実施形態に係り、自動車等の車両用配管として車両に搭載されるフューエル配管及びウォータ配管等を構成する金属管10すなわち基材に形成された表面処理構造を断面図により概略的に示している。この表面処理構造は、基材である金属管10の内部表面上に形成される電気ニッケル層20と、同ニッケル層20上に形成される無電解ニッケル層30と、この無電解ニッケル層30から拡散することによって1μm〜60μm、より好ましくは、2μm〜10μmの層厚に形成される拡散層31とから構成されている。なお、図1は、金属管10の内周面側を概略的に示したものである。したがって、金属管10の外周面側には、必要に応じて、例えば、車両に搭載される燃料配管として従来から広く採用されている周知の保護層(例えば、クロメート層や樹脂被覆層(フッ素やナイロン等))が形成されることは言うまでもない。又、本実施形態においては、表面処理構造として電気ニッケル層20を有するように実施するが、後述するように無電解ニッケル層30が形成されることに伴って、電気ニッケル層20を省略して実施することも可能である。
【0016】
この金属管10は、電気ニッケル層20であるNi(ニッケル)皮膜を形成する電気ニッケルメッキ工程と、金属管10を管状に成管する形状加工工程とを経て製造される。そして、金属管10は、形状加工工程後に、周知の方法により電気ニッケル層20を酸洗して電気ニッケル層20上に無電解ニッケル層30であるNi(ニッケル)−B(ホウ素)皮膜を形成する無電解ニッケルメッキ工程を経ることにより、図2に示すように、金属管10の内周表面上に電気ニッケル層20と無電解ニッケル層30とが所定の層厚を有して形成される。さらに、このように電気ニッケル層20と無電解ニッケル層30とが形成された金属管10は、形状加工工程による加工硬化を除去するために焼鈍処理(熱処理)が施され、この焼鈍処理によって無電解ニッケル層30の拡散層31が所定の層厚となるように形成される。以下、各工程を具体的に説明する。
【0017】
電気ニッケルメッキ工程は、基材としての金属管10を形成する、例えば、SPCC鋼板に対して、例えば、0.5μm〜9μmの層厚を有する電気ニッケル層20を形成する工程である。この電気ニッケルメッキ工程は、周知の電気メッキ法を採用することができる。したがって、詳細な説明を省略するが、以下に簡単に説明しておく。電気ニッケル層20を形成する電気ニッケルメッキ工程は、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸などを所定の割合で含有するメッキ液を用いる。そして、このメッキ液に対して、少なくとも、基材であるSPCCの一面側(より詳しくは、金属管10の内周面側)を接触させるとともに、所定の電流密度により所定時間通電することにより、上述した層厚範囲内の電気ニッケル層20が形成される。
【0018】
形状加工工程は、電気ニッケル層20が形成されたSPCC鋼板を、例えば、ロールフォーミング法を用いて管状に成管すなわち電気ニッケル層20が形成されたSPCC鋼板から金属管10を成形する工程である。ここで、形状加工工程においては、電気ニッケルメッキ工程によって電気ニッケル層20が形成されたSPCC鋼板を所定幅に切断してコイルに巻き取ったコイル材(所謂、フープ材)が用いられる。そして、形状加工工程においては、機械的にコイルから巻き戻されたSPCC鋼板のフープ材を複数の成形ローラで管状に成管した後、突き合わされたフープ材の両端を連続的に溶接する。これにより、図2に示すように、まず内周表面に電気ニッケル層20のみが形成された金属管10が連続的に成形される。ここで、金属管10の溶接部分11(以下、ビード部11と称呼する。)は、内周面側に突出した状態となる。
【0019】
このように、内周表面に電気ニッケル層20のみが形成された金属管10は、周知の方法によって酸洗されることにより、内周表面に形成された電気ニッケル層20の表面が活性化する。この酸洗においては、例えば、塩酸溶液を用いることができ、この塩酸溶液に対して、金属管10を浸漬することによって電気ニッケル層20の表面を活性化させることができる。
【0020】
無電解ニッケルメッキ工程は、酸洗されて活性化された電気ニッケル層20の表面に対して、図2に示すように、無電解ニッケル層30を形成する工程である。この無電解ニッケルメッキ工程は、周知の無電解メッキ法を採用することによって無電解ニッケル層としてNi−B合金皮膜である無電解ニッケル層30を形成するものである。すなわち、無電解ニッケルメッキ工程は、例えば、硫酸ニッケル、水酸化ナトリウム、エチレンジアミンを主成分とするとともにテトラヒドロホウ酸ナトリウム等の添加剤を補助成分と知るメッキ液を満たした層に対して、金属管10を浸漬することにより無電解ニッケル層30(Ni−B合金皮膜)を形成する。
【0021】
ここで、この無電解ニッケル層30を形成するにあたり、均一かつ所定の層厚の無電解ニッケル層(Ni−B合金皮膜)を形成するために、メッキ層の形成に伴って変化するメッキ液の化学組成を一定に維持するとともに、メッキ液のpHやメッキ液の液温などを一定に維持するとよい。また、メッキ液を金属管10の内部まで到達させるために、メッキ液槽中に金属管10を浸漬した状態で、金属管10を振動させたりメッキ液を攪拌するとよい。
【0022】
そして、予め設定された所定の浸漬時間の経過後、金属管10をメッキ液から取り出して乾燥させる。なお、所定の浸漬時間に代えて、例えば、メッキ液槽に投入された層厚検査用部材のニッケル層の層厚を測定することにより、金属管10の無電解ニッケル層30の層厚を推定して取り出すようにしてもよい。このように無電解ニッケルメッキ工程を経ることにより、図2に示すように、活性化された電気ニッケル層20上に所定の層厚の無電解ニッケル層30が形成される。
【0023】
ところで、上述したように形状加工工程を経て成管された金属管10においては、加工硬化が生じており、金属管10を車両に搭載するために必要な曲げ加工や端末加工を施す際に割れ等の加工不良が発生する可能性が高い。このため、無電解ニッケル層30まで形成された金属管10は、雰囲気温度として略800度以上に設定された炉中に金属管10を数分間投入(流入)させる焼鈍工程を経て焼鈍される。
【0024】
このとき、一般に、無電解ニッケル層30を形成するNi−B合金の融点は略1350度程度であり、Niが基材方向に拡散し始める温度は略700度といわれている。このため、無電解ニッケル層30が形成された金属管10を焼鈍工程により焼鈍すなわち金属管10を熱処理した場合には、無電解ニッケル層30は基材方向に拡散し、金属管10に形成される表面処理構造が無電解ニッケル層30の拡散層31を有するようになる。
【0025】
ここで、拡散層31は、上述したように、1μm〜60μm、より好ましくは、2μm〜10μmの層厚となるように形成される。このような層厚を有する拡散層31を形成させるために、本発明者等は各種実験を実施した。その結果、熱処理条件として、熱処理温度を700度〜1350度(より好ましくは、900度〜1200度)に設定し、熱処理時間を120分以下(より好ましくは、10分以下)に設定すればよいことがわかった。
【0026】
そして、焼鈍工程において金属管10に施される焼鈍処理は、上述したように設定される熱処理条件を満足するものであるため、焼鈍工程を経た金属管10においては1μm〜60μm、より好ましくは、2μm〜10μmの層厚を有する拡散層31が形成される。このように拡散層31が形成されることによって、金属管10に対する2次加工、具体的には、端末加工や曲げ加工を施しても無電解ニッケル層30に割れや剥がれ等が発生することが良好に抑制され、言い換えれば、良好な密着性が得られ、その結果、良好な耐食性を得ることができる。以下に、具体的に説明する。
【0027】
まず、密着性に関して、本発明者等は、電気ニッケル層20、無電解ニッケル層30及び拡散層31からなる表面処理構造を有する金属管10に対して、熱処理を施すことなく2次加工したテストピース及び熱処理を施して2次加工したテストピースの表面処理構造を確認した。その結果、Ni−B合金皮膜の硬度は高い(すなわち、硬い)ため、熱処理を施すことなく(言い換えれば、拡散層31を形成させることなく)金属管10に2次加工した場合には、その硬さに起因した無電解ニッケル層30の延び変形不足によって割れ(ひび)や剥がれ等が発生した。これに対して、熱処理を施すことによって拡散層31を形成した場合には、拡散層31を介して無電解ニッケル層30の延び変形が改善されて(すなわち、Bの拡散やNiとFeの相互拡散によりNi−B合金皮膜が有する本質的な硬さを和らげることができ、その結果、延び変形が可能となって)、割れ(ひび)や剥がれ等の発生が良好に抑制されることを確認した。
【0028】
次に、耐食性に関して、本発明者等は、電気ニッケル層20、無電解ニッケル層30及び拡散層31からなる表面処理構造を有する金属管10に対して、例えば、アルコール系燃料を封入した状態で所定温度雰囲気中にて所定時間だけ放置することによって耐食性を確認した。その結果、金属管10に2次加工を施さないテストピースにおいては何ら腐食の発生は認められないことを確認した。また、上述した密着性の結果に基づき、金属管10に2次加工を施したテストピースにおいても腐食の発生が良好に抑制されることが容易に想像される。すなわち、上述したように、金属管10に2次加工を施した場合であっても無電解ニッケル層30の密着性が良好に確保されるため、金属管10の表面処理構造である電気ニッケル層20及び無電解ニッケル層30が基材の腐食を確実に防止することができる。
【0029】
以上の説明からも理解できるように、この第1実施形態によれば、電気メッキ法によって基材(SPCC)の表面上に形成されるNi皮膜からなる電気ニッケル層20と、無電解メッキ法によって電気ニッケル層20上に形成されるNi−B合金皮膜からなる無電解ニッケル層30と、無電解ニッケル層30の拡散層31とを有する表面処理構造を金属管10に形成することができる。これにより、形状加工工程において、例えば、電気ニッケル層20の層厚が減少しても、より詳しくは、金属管10のビード部11表面の電気ニッケル層20の層厚が減少しても、無電解ニッケル層30を適正に形成して維持することができ、金属管10に形成される表面処理構造の耐食性を極めて良好に確保することができる。
【0030】
また、熱処理(具体的には、金属管10の製造時に必要な焼鈍処理)に伴ってNi−B合金皮膜からなる無電解ニッケル層30の拡散層31を形成させることができ、この形成される拡散層31によって割れ(ひび)や剥がれ等の発生を抑制した良好な2次加工を金属管10に施すことができる。すなわち、無電解メッキ処理後であっても、無電解ニッケル層30の割れ(ひび)や剥がれ等の発生を防止して金属管10に2次加工することが可能となる。その結果、金属管10の良好な耐食性を確保することができるとともに、従来からの生産方法を採用して高い生産性を確保することができる。
【0031】
b.第2実施形態
次に、車両の燃料配管を形成してエンジンに燃料を供給するフューエルデリバリパイプ100(より具体的には、フューエルデリバリパイプ100に接続される燃料供給管104)に本発明に係る表面処理構造を形成した第2実施形態について説明する。フューエルデリバリパイプ100は、図3に示すように、エンジンに供給する燃料を一時的に溜めるものである。
【0032】
フューエルデリバリパイプ100は、図3に示したA−A断面を表した図4に示すように、種々の部品として断面略U字状の下部ケース101と上部ケース103とが互いに組み付けられて形成されている。なお、下部ケース101と上部ケース103とが一体的に組み立てられたフューエルデリバリパイプ100の内周表面上には、後述するように、電気ニッケルメッキ法により2μm以上の層厚を有するニッケル層が形成されている。
【0033】
下部ケース101には、図示省略の燃料噴射弁を連結するための4個の筒部102が所定の間隔をおいて形成されており、各筒部102の底部には貫通孔102aが設けられている。上部ケース103の一端部には、図示省略の燃料ポンプからの加圧された燃料が供給される燃料供給管104が連結されている。燃料供給管104は、上述した第1実施形態の金属管10と同様に製造されるものであり、その内周表面上には、電気ニッケル層20、無電解ニッケル層30及び拡散層31が形成されている。そして、燃料供給管104には、2次加工として、その基端部側に図3に示すように上部ケース103への組み付け位置を規定するためのスプール104aが周知の端末加工方法によって形成されており、その先端部側に図5に示すように他部材(例えば、燃料タンクから燃料を供給する燃料配管)と接続するためのスプール104bが周知の端末加工方法によって形成されている。また、下部ケース101には、2個の取付用ブラケットが筒部102間の中間にて、例えば、プロジェクション溶接などによって固着されている。
【0034】
なお、図4は、フューエルデリバリパイプ100の内周面側を概略的に示したものである。したがって、フューエルデリバリパイプ100の外周面側には、従来から広く採用されている周知の保護層(例えば、クロメート層や被覆層など)が形成されることはいうまでもない。
【0035】
次に、このフューエルデリバリパイプ100を製造する各工程を説明する。なお、この第2実施形態に係る各工程を説明するに当たり、上記第1実施形態と同一の工程に関してはその詳細な説明を省略する。このフューエルデリバリパイプ100は、下部ケース101および上部ケース103を成形する形状加工工程と、下部ケース101および上部ケース103にニッケル層を形成する電気ニッケルメッキ工程と、上記第1実施形態と同様に製造された燃料供給管104、下部ケース101及び上部ケース103等を一体的に組み立てる組立工程と、炉中ロー付け工程とを経ることにより製造される。そして、これらの各工程を順に行うことにより製造されたフューエルデリバリパイプ100において、図5(a),(b)に示すように燃料供給管104に曲げ加工が施されて最終的な製品が形成される。
【0036】
形状加工工程は、例えば、SPCC鋼板をプレス加工することにより断面略U字状の下部ケース101および上部ケース103を成形する工程である。ここで、下部ケース101は、プレス加工によって筒部102が一体的に形成される。そして、下部ケース101および上部ケース103は、プレス成形された後、筒部102の貫通孔102aおよび燃料供給管104の取付孔を形成するための孔あけ加工が施される。
【0037】
電気ニッケルメッキ工程は、プレス加工および孔あけ加工された下部ケース101および上部ケース103に対して、ニッケル皮膜からなるニッケル層を形成する工程である。そして、この電気ニッケルメッキ工程により、2μm以上の層厚を有するニッケル層が形成される。なお、この第2実施形態における電気ニッケルメッキ工程に関しては、メッキする対象が形状加工された下部ケース101および上部ケース103となる。又、下部ケース101および上部ケース103に対して、他の表面処理がなされる、例えば、ニッケル(Ni)−リン(P)合金皮膜が無電解メッキ法によって形成されるときには、この電気ニッケルメッキ工程を省略することも可能である。
【0038】
組立工程は、ニッケル層が形成された下部ケース101及び上部ケース103と、上記第1実施形態における金属管10と同様に電気ニッケル層20、無電解ニッケル層30及び拡散層31とからなる表面処理構造の形成された燃料供給管104および取付用ブラケット105を一体的に仮に組み立てる工程である。具体的に説明すると、形状加工された下部ケース101および上部ケース103は、互いに向かい合わせた状態で、その開口側の全周において嵌合される。また、上部ケース103には、形成された取付孔に対して、燃料供給管104がスプール104aにより規制される位置まで挿入される。そして、下部ケース101および上部ケース103の嵌合部分および上部ケース103と燃料供給管104の連結部分は、ロー材が塗布されて周知の炉中ロー付け法を採用した炉中ロー付け工程を経ることにより液密に一体的に接合される。さらに、下部ケース101には、取付用ブラケット105がプロジェクション溶接によって接合される。
【0039】
炉中ロー付け工程においては、ロー付け条件(すなわち、熱処理条件)として、雰囲気温度が略1100度〜1200度程度に設定されており、還元雰囲気とされた炉中にて、上述したように組立工程にて仮組付けされた下部ケース101、上部ケース103及び燃料供給管104を数分〜数十分間処理する。したがって、炉中ロー付け工程における熱処理も、上記第1実施形態にて説明した熱処理条件を満たすものであり、表面処理構造の形成された燃料供給管104においては、焼鈍工程の熱処理に加えて、さらに、炉中ロー付け工程の熱処理が施されて拡散層31が形成される。
【0040】
そして、この第2実施形態においても、燃料供給管104には上述した第1実施形態の金属管10と同様の表面処理構造、すなわち、Ni皮膜からなる電気ニッケル層20と、NI−B合金皮膜からなる無電解ニッケル層30と、拡散層31とが形成されている。これにより、燃料供給管104においては上記第1実施形態と同様の効果が期待できる。すなわち、特に、この第2実施形態においては、図5(b)に示すように、炉中ロー付け工程を経てロー付けが施された後に、燃料供給管104に対して曲げ加工が施される。この場合、燃料供給管104においては、上述した各工程を経ることにより、ロー付けが施された後に曲げ加工が施されるときには、拡散層31が確実に形成されている。したがって、曲げ加工に伴って燃料供給管104に形成された表面処理構造が破壊されることがなく、具体的には、無電解ニッケル層30に割れ(ひび)や剥がれが発生することがなく、その結果、極めて良好な耐食性と密着性を確保することができる。又、種々の部品をロー付けによって組み付けた後に、車両に搭載するために必要な2次加工を施すことができるため、従来からの生産方法をそのまま採用することができて高い生産性を確保することができる。
【0041】
本発明の実施にあたっては、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0042】
例えば、上記各実施形態においては、拡散層31が形成された後も無電解ニッケル層30が存在する場合を説明した。この場合、熱処理条件によっては、無電解ニッケル層30からの拡散量が大きくなって、例えば、全てが拡散して無電解ニッケル層30が存在しなくなる場合も想定される。しかし、このように無電解ニッケル層30が拡散によって存在しなくなる場合であっても、上述したように拡散層31が形成されることにより、耐食性及び良好な加工性が維持されるため、従来からの生産方法をそのまま採用することができて高い生産性を確保することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…金属管、11…ビード部、20,…電気ニッケル層、30…無電解ニッケル層、31…拡散層、100…フューエルデリバリパイプ、101…下部ケース、102…筒状部、102a…貫通孔、103…上部ケース、104…燃料供給管、104a,104b…スプール(2次加工部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車両用配管の表面処理構造であって、
前記表面処理構造を、
無電解メッキ法により基材の表面上に形成された無電解ニッケル層と、
前記無電解ニッケル層から前記基材に向けて所定の層厚を有するように形成された前記無電解ニッケル層の拡散層とから構成したことを特徴とする車両用配管の表面処理構造。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用配管の表面処理構造において、
前記無電解ニッケル層の拡散層は、
前記車両用配管の加工に伴う熱処理によって形成されることを特徴とする車両用配管の表面処理構造。
【請求項3】
請求項2に記載した車両用配管の表面処理構造において、
前記車両用配管の加工に伴う熱処理は、
前記車両用配管に対する焼鈍処理及び前記車両用配管と他部材との接合に伴うロー付け処理のうちの少なくとも一方であることを特徴とする車両用配管の表面処理構造。
【請求項4】
請求項3に記載した車両用配管の表面処理構造において、
前記ロー付け処理によって前記車両用配管に接合される他部材は、
車両のエンジンに組み付けられて燃料を供給するためのフューエルデリバリパイプであることを特徴とする車両用配管の表面処理構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか一つに記載した車両用配管の表面処理構造において、
前記無電解メッキ法により形成された前記無電解ニッケル層は、
ニッケル(Ni)−ホウ素(B)合金皮膜であることを特徴とする車両用配管の表面処理構造。
【請求項6】
請求項5に記載した車両用配管の表面処理構造において、
前記拡散層の所定の層厚が1μm〜60μmの層厚となるように前記ニッケル(Ni)−ホウ素(B)合金皮膜が形成されることを特徴とする車両用配管の表面処理構造。
【請求項7】
請求項6に記載した車両用配管の表面処理構造において、
前記拡散層の所定の層厚が2μm〜10μmの層厚となるように前記ニッケル(Ni)−ホウ素(B)合金皮膜が形成されることを特徴とする車両用配管の表面処理構造。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか一つに記載した車両用配管の表面処理構造において、さらに、
前記基材と前記無電解ニッケル層との間に
電気メッキ法により前記基材の表面上に形成された電気ニッケル層を有することを特徴とする車両用配管の表面処理構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−219370(P2012−219370A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89753(P2011−89753)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000113942)マルヤス工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】