説明

車両用電動コンプレッサ

【課題】車両用電動コンプレッサ10にて漏電が生じるリスクを低減する。
【解決手段】コンプレッサハウジング11には、突起部210が設けられている。突起部210は、走行用エンジン側に突出するように形成されている。突起部210のうち走行用エンジン側の後面210aは、インバータハウジング200の走行用エンジン側端面201よりも走行用エンジン側に位置する。したがって、車両衝突時において車両用電動コンプレッサ10が変形したサイドメンバ2から荷重を受けて取付脚部が折損してたときでも、インバータ装置20に先だって突起部210の左側面210cが走行用エンジン4に干渉する。このため、車両用電動コンプレッサ10が移動することを止めることができる。これにより、インバータ装置20が走行用エンジン4のリブやその周辺機器等の干渉物に干渉してインバータ装置20が破損することを未然に防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより駆動される車両用電動コンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動コンプレッサを車両のエンジンルームのうち走行用エンジンの車両前側に配置し、車両用電動コンプレッサを走行用エンジンに取り付けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、電動モータを駆動するインバータ装置(モータ駆動装置)を電動コンプレッサのハウジングに装着したインバータ一体型の電動コンプレッサがある。
【特許文献1】特開平11−159338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両安全性の要求が高まる中で、車両衝突時の保護についての技術の確立が要求されている。
車両衝突時、高圧電源装置を備えるハイブリット自動車、電気自動車等の車両では、エアバッグが作動する程度の重度の衝突が生じたときには車両側において電源カット(例えば、高圧電源装置からインバータ装置等への電力供給停止)を行うものの、比較的軽度の衝突(エアバッグが作動しない程度の車速)に関しては電源カットを行わないのが一般的である。
【0005】
このため、車両に比較的軽度の衝突が生じたときには、電源カットが行われず、例えば、インバータ一体型の電動コンプレッサを搭載している場合には、インバータ装置への電源が供給された状態でインバータ装置(モータ駆動装置)の高電圧部が衝突の衝撃により破損して高電圧が漏電する可能性がある。
【0006】
本発明は、モータ駆動装置がコンプレッサハウジングに装着された車両用電動コンプレッサにおいて、車両衝突時にモータ駆動装置が破損し難くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明では、車両前方のエンジンルームのうち走行用エンジンの車両前方に配置される車両用電動コンプレッサであって、
冷媒吸入口(11a)および冷媒吐出口(11b)を有するコンプレッサハウジング(11)と、
前記コンプレッサハウジング内に配置され、前記冷媒吸入口を介して冷媒を吸入し圧縮して高圧冷媒を前記冷媒吐出口から吐出する圧縮部(400)と、
前記コンプレッサハウジング内に配置され、前記圧縮部を駆動する電動モータ(300)と、
前記コンプレッサハウジングの外壁に装着され、前記電動モータに電力供給して前記電動モータを駆動するモータ駆動装置(20)と、を備え、
前記コンプレッサハウジングには、ボルトが貫通する貫通孔を有する複数の取付脚部(12a、12b、12c)と、を備え、
前記ボルトを前記貫通孔に貫通した状態で前記ボルトが前記走行用エンジンに対して締結されることにより、前記コンプレッサハウジングが前記走行用エンジンに対して固定されるようになっており、
前記コンプレッサハウジングには、前記走行用エンジン側に突出する突起部(210)が設けられ、
前記突起部のうち走行用エンジン側端部(210a)は、前記モータ駆動装置のうち走行用エンジン側端部(201)よりも前記走行用エンジン側に位置することを特徴とする。
【0008】
例えば、図10に示すように、車両が前方の壁1に対して斜めに衝突したときに、サイドメンバ2が矢印Rの如く変形してこのサイドメンバ2が車両用電動コンプレッサ10に干渉する可能性がある。
【0009】
このとき、サイドメンバ2から車両用電動コンプレッサ10へ荷重が加わり、車両用電動コンプレッサ10の取付脚部が折損して走行用エンジン4から車両用電動コンプレッサ10から外れて移動する可能性がある。この際、車両用電動コンプレッサ10のモータ騒動装置が走行用エンジン4のリブ(突起部)やその周辺機器等の干渉物に干渉してモータ騒動装置が破損する可能性がある。
【0010】
これに対し、請求項1に係る発明では、突起部のうち走行用エンジン側端部(210a)は、モータ駆動装置のうち走行用エンジン側端部(201)よりも走行用エンジン側に位置する。したがって、車両衝突時にボルトが損傷して車両用電動コンプレッサが走行用エンジンから外れたときには、モータ駆動装置に先だって、突起部を、エンジンおよびその周辺機器等の干渉物に干渉させることができる。このため、モータ駆動装置に対してエンジンおよびその周辺機器が干渉することを避けて、車両衝突時にモータ駆動装置が破損し難くすることが可能になる。これにより、モータ駆動装置の破損に伴う漏電のリスクを減少させることができる。
【0011】
ここで、走行用エンジンは複数のエンジンシリンダを車幅方向に配列してなる横置き型エンジンである。
【0012】
請求項2に係る発明では、前記突起部は、前記コンプレッサハウジングに一体に成形されたものであることを特徴とする。
【0013】
これにより、突起部を設けても、部品数の増加を抑えることができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、前記突起部のうち前記走行用エンジン側端部には、鉛直方向に広がる走行用エンジン側端面(210a)が形成されていることを特徴とする。
【0015】
これにより、突起部に対して走行用エンジン側からサイドメンバ等の干渉物が干渉する場合、突起部がサイドメンバ等の干渉物を確実に受け止めることができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、前記突起部のうち前記走行用エンジン側端面に対して走行用エンジン側には、前記走行用エンジン側端面に沿うように配置されるプレート(220)が配置されており、
前記プレートが前記突起部に対して締結部材(211)により締結されていることを特徴とする。
【0017】
これにより、プレートを用いない場合に比べて、突起部の剛性を高めることができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、前記突起部は、
前記コンプレッサハウジングから前記走行用エンジン側にそれぞれ突出する複数のボス部(230)と、
前記モータ駆動装置の前記走行用エンジン側端部より前記走行用エンジン側に配設され、前記複数のボス部に対して締結部材により締結されているプレート(220)と、を備えることを特徴とする。
【0019】
これにより、突起部をコンプレッサハウジングに一体に成形したものに比べて、軽量化を図ることが可能になる。
【0020】
請求項6に係る発明では、前記コンプレッサハウジングは、略筒状に形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項7に係る発明では、前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの軸線方向一端側に配置されており、
前記突起部は、前記コンプレッサハウジングのうち前記軸線方向で前記モータ駆動装置と同一側に配置されていることを特徴とする。
【0022】
請求項8に係る発明では、前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの軸線方向一端側に配置されており、
前記突起部は、前記コンプレッサハウジングの軸線方向他端側に配置されていることを特徴とする。
【0023】
請求項9に係る発明では、前記コンプレッサハウジングは、その軸線方向が車幅方向に一致するように配置されており、
前記突起部は、水平方向に対して天地方向上側に傾斜する傾斜方向に突出するように形成されていることを特徴とする。
【0024】
これにより、突起部により斜め上側の干渉物を容易に干渉させることができる。
【0025】
請求項10に係る発明では、前記コンプレッサハウジングは、その軸線方向が車幅方向に一致するように配置されており、前記突起部は、前記コンプレッサハウジングの軸線側から水平方向に突出するように形成されていることを特徴とする。
【0026】
これにより、突起部の重心をコンプレッサハウジングの重心に近づけることができるので、突起部を設けても、車両用電動コンプレッサの重量バランスの悪化を抑えることができる。
【0027】
請求項11に係る発明では、前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの外壁で径方向外周側に配置されていることを特徴とする。
【0028】
これにより、車両用電動コンプレッサにおいて軸線方向寸法を小型化することができる。
【0029】
請求項12に係る発明では、前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの外壁のうち前記軸線方向一端側に配置されていることを特徴とする。
【0030】
これにより、車両用電動コンプレッサにおいて径方向寸法を小型化することができる。
【0031】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(第1実施形態)
図1〜図3に本発明の車両用車両用電動コンプレッサの第1実施形態を示す。
【0033】
図1は車両用電動コンプレッサの車両搭載図である。図2(a)は車両用電動コンプレッサの正面図(車両前方から視た図である)、図2(b)は図2(a)中A−A断面図である。図2(b)中の車両用電動コンプレッサ10の内部構成は便宜上省略してある。図2(c)は車両用電動コンプレッサ10の上面図、図2(d)は車両用電動コンプレッサの背面図(車両後方から視た図である)である。図3は車両用電動コンプレッサの内部構成を示す断面図である。
【0034】
図中の前矢印は車両搭載時の前側を示し、後矢印は車両搭載時の後側を示し、右矢印は車幅方向右側を示し、左矢印は車幅方向左側を示している。図中矢印Yは車両衝突向きを示す。
【0035】
本実施形態の車両用電動コンプレッサ10は、凝縮器、減圧器、および蒸発器とともに、冷媒を循環する車両空調装置用の周知の冷凍サイクル装置を構成している。
【0036】
車両用電動コンプレッサ10は、図1に示すように、自動車の前方側エンジンルーム1内において、横置き型の走行用エンジン4の車両前側に配置されている。車両用電動コンプレッサ10は、走行用エンジン4の車両前側側壁に固定されている。
【0037】
横置き型の走行用エンジン4とは、前方側エンジンルーム1内において、複数のエンジンシリンダが車幅方向に配列して、クランクシャフトが車幅方向に配置されるエンジンのことである。
【0038】
車両用電動コンプレッサ10は、図2(a)〜(d)に示すように、コンプレッサハウジング11を備えている。コンプレッサハウジング11は、略筒状に成形されたものである。コンプレッサハウジング11は、その軸線方向が車幅方向に一致するように配置される。なお、本実施形態のコンプレッサハウジング11は、アルミニウム等の金属材料から鋳型鋳造により成形されている。
【0039】
コンプレッサハウジング11のうち軸線方向一端側(具体的には図2(a)中右側)には、冷媒吸入口11aが設けられており、コンプレッサハウジング11のうち軸線方向他端側(具体的には図2(a)中左側)には、冷媒吐出口11bが設けられている。
【0040】
コンプレッサハウジング11のうち軸線方向一端側(具体的には図2(a)中右側)で、かつ径方向外周側には、突起部210が設けられている。突起部210は、走行用エンジン4に対して車幅方向右側に位置している。突起部210は走行用エンジン側(すなわち、車両後方側)に突出するように形成されている。
【0041】
具体的には、突起部210は、コンプレッサハウジング11の軸線S1(図2中(b)、(c)参照)側から斜め上側に突出するように形成されている。斜め上側とは、水平方向(車両後方)に対して天地方向上側に傾斜する傾斜向きのことである。
【0042】
突起部210のうち車両後側には、後面210aが形成されており、後面210aは、鉛直方向(天地方向)に広がるように平坦な長方形に形成されている。後面210aは、後述するインバータハウジング200の走行用エンジン側端面201よりも走行用エンジン側に位置する。
【0043】
すなわち、突起部210のうち走行用エンジン側端部は、インバータ装置20のうち走行用エンジン側端部よりも走行用エンジン側に位置することになる。
【0044】
突起部210のうち車両幅方向には、右側面210bおよび左側面210cが形成されており、左側面210cが走行用エンジン4の右側部に対向している。また、突起部210には上面210dおよび下面210eが設けられており、上面210dは、図2(b)、(c)に示すように、インバータ装置20のインバータハウジング200のうち天地方向上端部よりも、天地方向上側に位置する。
【0045】
コンプレッサハウジング11には、図3に示すように、取付脚部12a、12b、12cが設けられている。取付脚部12aは、コンプレッサハウジング11の図2(a)中左上壁部に配置されている。取付脚部12aは、図3中上側に突出し、かつコンプレッサハウジング11の軸線方向に直交する直交方向(以下、直交方向Tという。)に直線的に延出する角柱状に形成されている。取付脚部12aには、ボルト13が直交方向Tに貫通する貫通孔が設けられている。
【0046】
取付脚部12b、12cは、取付脚部12aと同様に、直交方向Tに延出する角柱状に形成されている。取付脚部12bは、コンプレッサハウジング11の図3中左下壁部に配置されており、取付脚部12cは、コンプレッサハウジング11の図3中右下壁部に配置されている。
【0047】
取付脚部12b、12cには、取付脚部12aと同様に、貫通孔がそれぞれ設けられている。ボルト13は、後述するように、エンジン30の前側側壁に対してコンプレッサハウジング11を固定するために用いられる。取付脚部12a、12b、12cの貫通孔に貫通するボルト13の長手方向は、直交方向Tに一致している。
【0048】
コンプレッサハウジング11の上側外壁のうち取付脚部12aに対して図3中右側には、取付け平面部11cが設けられている。すなわち、取付け平面部11cは軸線に対して径方向に形成されている。取付け平面部11cはコンプレッサハウジング11のうちインバータ装置20が接触する接触面を構成している。
【0049】
ここで、取付脚部12a、12b、12cおよび突起部210は、コンプレッサハウジング11に一体成形されたものである。
【0050】
インバータ装置20は、モータ駆動装置をなすものであって、扁平形状で、かつコンプレッサハウジング11の軸線方向(後述する回転軸の軸線方向)に並行(略平行)に配置されている。
【0051】
インバータ装置20は、インバータハウジング200とインバータ回路210とを備えている。インバータハウジング200は、アルミニウム等の金属材料から形成されており、インバータハウジング200は、インバータ回路210を上から覆うように断面コ字状で、かつ扁平形状に形成されている。インバータハウジング200は、図示しないボルト等の締結部材によりコンプレッサハウジング11に対して固定されている。インバータ回路210は、後述するように電動モータ300を回転駆動させるための駆動電圧を出力する。
【0052】
コンプレッサハウジング11の内部600には、電動モータ300とともに、圧縮部400が配置されている。電動モータ300は、軸線方向一端側(車幅方向左側)に配置されている。電動モータ300は、ロータ310、ステータ320、および軸受け330a、330bを備えている。
【0053】
ロータ310は、筒状に形成される永久磁石であり、このロータ310の中空部には回転軸310aが貫通している。回転軸310aがロータ310に対して固定されている。回転軸310aは、コンプレッサハウジング11の軸線方向に延出するように配置されている。すなわち、回転軸310aの軸線方向はコンプレッサハウジング11の軸線方向と一致することになる。回転軸310aは、軸受け330a、330bにより回転自在に支持されている。
【0054】
ステータ320は、ロータ310に対して回転軸310aの径方向外周側に配置されており、ステータ320は、コンプレッサハウジング11の内周面に固定されている。ステータ320は、ステータコアおよび電磁コイルから構成されており、ステータ320は、インバータ回路210から出力される駆動電圧に基づいて回転磁界を発生する。
【0055】
コンプレッサハウジング11の内部600において取付け平面部11c側には、後述するように低温冷媒が軸線方向に流れる冷媒流路500が設けられており、冷媒流路500は、コンプレッサハウジング11の内壁とステータ320との間に形成されている。
【0056】
圧縮部400は、軸線方向他端側(車幅方向右側)に配置されている。圧縮部400は、固定スクロール部と可動スクロール部とから構成される周知のスクロール型コンプレッサである。可動スクロール部は、電動モータ300により駆動されて、固定スクロール部に対して旋回して、冷媒を吸入、圧縮、吐出する。
【0057】
次に、本実施形態の車両用車両用電動コンプレッサ10の作動について説明する。
【0058】
まず、インバータ装置20に電源投入され、インバータ装置20のインバータ回路210がステータ320に対して制御電圧を出力すると、ステータ320からの回転磁界を発生する。これに伴い、ロータ30は、回転磁界により回転軸310aとともに回転する。すると、固定スクロール部に対して可動スクロール部が旋回する。
【0059】
これに伴い、蒸発器の冷媒出口からの低温低圧冷媒が冷媒吸入口11aを介して吸入され、この吸入された低温低圧冷媒(すなわち、低温冷媒)が図3中の矢印の如く冷媒流路500内を軸線方向に流れる。この冷媒流路500を通過した低温低圧冷媒は、固定スクロール部と可動スクロール部とにより圧縮されて高温高圧冷媒となる。この高温高圧冷媒は、冷媒吐出口11bから凝縮器の冷媒入口に吐出される。
【0060】
このとき、インバータ回路210は、ステータ320に対して制御電圧を出力するに際して熱を発生するものの、インバータ回路210は、コンプレッサハウジング11の取付け平面部11cを介して冷媒流路500内を流れる低温低圧冷媒により冷却される。
次に、本実施形態の作動について図1、図4を参照して説明する。図1に車両が斜め衝突が生じたときの車両状態を示す。
【0061】
車両が前方の壁に対して斜めに衝突したときに、図1に示すように、衝突の衝撃によりサイドメンバ2が斜めに変形してこのサイドメンバ2が車両用電動コンプレッサ10に干渉すると、サイドメンバ2から車両用電動コンプレッサ10に矢印Wの如く荷重が加わる。
【0062】
これに伴い、車両用電動コンプレッサ10の取付脚部12a、12b、12cが折損して走行用エンジン4から車両用電動コンプレッサ10から外れる。このため、走行用エンジン4の前側壁に沿って車幅方向に移動し始める。このとき、インバータ装置20に先だって突起部210の左側面210cが走行用エンジン4に干渉する。このため、車両用電動コンプレッサ10が移動することを止めることができる。
【0063】
次に、車両が前方(正面)から衝突した例について図4を参照して説明する。
【0064】
従来、車両が正面衝突してそれに伴いサイドメンバ2に対して車両後方に向けて荷重が加わると、図4中鎖線で示すように、その荷重によりサイドメンバ2が折れてサイドメンバ2の後側端部がエンジンルーム内から車室内に侵入する可能性があった。
【0065】
これに対し、本実施形態では、車両が正面衝突に伴い、その折れたサイドメンバ2が突起部210の後面210aに干渉したときには、突起部210が後面210aによりサイドメンバ2のうち折れた端部を支える。これに伴い、衝突に伴う荷重が矢印Wの如くサイドメンバ2のうち他の箇所4aに加わりその他の箇所4aでも折れる。したがって、サイドメンバ2が折れて車室内に侵入することを未然に防ぐことが出来る。
【0066】
以上説明した本実施形態によれば、コンプレッサハウジング11には、突起部210が設けられている。突起部210は、走行用エンジン側(すなわち、車両後方側)に突出するように形成されている。突起部210のうち走行用エンジン側の後面210aは、インバータハウジング200の走行用エンジン側端面201よりも走行用エンジン側に位置する。
【0067】
したがって、車両衝突時において車両用電動コンプレッサ10が変形したサイドメンバ2から荷重を受けて取付脚部12a、12b、12cが折損してたときでも、インバータ装置20に先だって突起部210の左側面210cが走行用エンジン4に干渉する。このため、車両用電動コンプレッサ10が移動することを止めることができる。これにより、インバータ装置20が走行用エンジン4のリブやその周辺機器等の干渉物に干渉してインバータ装置20が破損することを未然に防ぐことができる。したがって、漏電が生じるリスクを低減することができる。
【0068】
本実施形態の突起部210の左側面210cは、鉛直方向(天地方向)に広がる平坦面を形成している。これにより、車両衝突に伴い折れたサイドメンバ2が突起部210の後面210aに干渉したときには、突起部210が後面210aによりサイドメンバ2のうち折れた端部を確実に支えることができる。これにより、サイドメンバ2のうち他の箇所でも折れることを促進させることができる。したがって、車両衝突に伴いサイドメンバ2が 折れて車室内に侵入することを未然に防ぐことが出来る。
【0069】
本実施形態の突起部210は、コンプレッサハウジング11に一体に成形されたものであるので、突起部210を追加しても、部品数の増加を抑えることができる。
【0070】
本実施形態では、コンプレッサハウジング11の径方向外周側にインバータ装置20を配置したので、車両用電動コンプレッサ10において軸線方向寸法を小型化することができる。
【0071】
本実施形態の突起部210は、コンプレッサハウジング11の軸線S1側から斜め上側に突出するように形成されている。これにより、突起部210により斜め上側の干渉物を容易に干渉させることができる。
【0072】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、コンプレッサハウジング11のうち軸線に対して径方向にインバータ装置20を配置した例について説明したが、これに限らず、本第2実施形態では、図5(a)〜(d)に示すように、インバータ装置20をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向一端側(車幅方向左側)に配置されている。
【0073】
図5(a)は車両用電動コンプレッサの正面図、図5(b)は図5(a)中B−B断面図である。図5(b)中の車両用電動コンプレッサ10の内部構成は便宜上省略してある。図5(c)は車両用電動コンプレッサ10の上面図、図5(d)は車両用電動コンプレッサの背面図である。なお、図5(a)〜(d)において、図2(a)〜(d)と同一符号ものは、同一のものを示し、説明を省略する。
【0074】
本実施形態では、インバータ装置20をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向一端側に配置されているので、車両用電動コンプレッサ10の径方向寸法を小さくすることができる。
【0075】
(第3実施形態)
本第3実施形態では、図6(a)〜(d)に示すように、上述の第1実施形態の突起部210の後面210aに金属製プレート220を取り付ける。
【0076】
図6(a)は車両用電動コンプレッサの正面図、図6(b)は図6(a)中C−C断面図である。図6(b)中の車両用電動コンプレッサ10の内部構成は便宜上省略してある。図6(c)は車両用電動コンプレッサ10の上面図、図6(d)は車両用電動コンプレッサの背面図である。
【0077】
金属製プレート220は、突起部210の後面210aに沿うように配置されており、金属製プレート220は、鉛直方向に広がるように形成されている。金属製プレート220は、3本のボルト211により突起部210に対して締結されている。なお、金属製プレート220は、アルミニウムよりも機械的強度の強い鉄等の金属からなるものである。
【0078】
本実施形態の突起部210は、上述の第1実施形態のコンプレッサハウジング11とともにアルミニウム等の金属材料から鋳型鋳造により成形されている。しかし、金属製プレート220を突起部210の後面210aに固定することにより、突起部210の機械的強度を補強することができる。したがって、サイドメンバ等の干渉物が金属製プレート220に干渉しても、突起部210が破損することを防ぐことができる。
【0079】
本第3実施形態では、コンプレッサハウジング11のうち軸線に対して径方向にインバータ装置20を配置した例について説明したが、これに限らず、インバータ装置20をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向一端側に配置してもよい。
【0080】
(第4実施形態)
上述の第1実施形態では、突起部210として、コンプレッサハウジング11と一体成形したものを用いた例について説明したが、これに代えて、本第4実施形態では、図7(a)〜(d)に示すように、突起部210を構成する。
【0081】
図7(a)は車両用電動コンプレッサの正面図、図7(b)は図7(a)中D−D断面図である。図7(b)中の車両用電動コンプレッサ10の内部構成は便宜上省略してある。図7(c)は車両用電動コンプレッサ10の上面図、図7(d)は車両用電動コンプレッサの背面図である。
【0082】
本第4実施形態の突起部210は、二本のボス部230と、金属製プレート220とから構成されている。二本のボス部230は、コンプレッサハウジング11から走行用エンジン側(車両後方)に向けて水平に突出するように形成されており、二本のボス部230は、天地方向に並べられている。
【0083】
金属製プレート220は、上述の第3実施形態の金属製プレート220と同一のものであって、二本のボス部230に対して走行用エンジン側(車両後方)に配置されている。金属製プレート220は、鉛直方向に広がるように形成されている。金属製プレート220は、二本のボス部230に対してボルト211(締結部材)により締結されている。
【0084】
本第4実施形態では、突起部210として、二本のボス部230と、金属製プレート220とから構成されているものを用いたので、突起部210として一体成形されたものを用いた場合に比べて、軽量化することができる。
【0085】
本第4実施形態では、コンプレッサハウジング11のうち軸線に対して径方向にインバータ装置20を配置した例について説明したが、これに限らず、インバータ装置20をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向一端側に配置してもよい。
【0086】
(第5実施形態)
上述の第1〜4実施形態では、突起部210をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向でインバータ装置20と反対側に配置した例について説明したが、これに代えて、本実施形態では、突起部210をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向でインバータ装置20と同一側に配置する。
【0087】
本実施形態の車両用電動コンプレッサ10の突起部210を図8(a)〜(d)に示す。
図8(a)は車両用電動コンプレッサ10の正面図、図8(b)は図8(a)中E−E断面図である。図8(b)中の車両用電動コンプレッサ10の内部構成は便宜上省略してある。図8(c)は車両用電動コンプレッサ10の上面図、図8(d)は車両用電動コンプレッサの背面図である。
【0088】
本実施形態の突起部210は、上述の第1実施形態と同様、コンプレッサハウジング11から走行用エンジン側に突出するように形成されている。具体的には、突起部210は、コンプレッサハウジング11のうち軸線S側から水平方向に突出するように形成されている。突起部210の断面(すなわち、軸線方向に直交する方向の断面)は、図8(b)に示すように台形になっている。
【0089】
図9に本実施形態の車両用電動コンプレッサ10の車両搭載図を示す。
本実施形態の車両用電動コンプレッサ10は、突起部210の後面210aが走行用エンジン4のリブ4cに向けて配置される。リブ4cは車両前方に突出している。このため、車両の正面衝突に伴い荷重が車両用電動コンプレッサ10側に車両後方に向けて加わって取付脚部12a、12b、12cが折損したときでもインバータ装置20に先だって、突起部210が走行用エンジン4のリブ4cに干渉する。
【0090】
したがって、車両の正面衝突に伴い荷重が車両用電動コンプレッサ10側に加わっても、インバータ装置20が走行用エンジン4のリブやその周辺機器等の干渉物に干渉してインバータ装置20が破損することを未然に防ぐことができる。したがって、漏電が生じるリスクを低減することができる。
【0091】
本第5実施形態において、突起部210をコンプレッサハウジング11のうち軸線S側から水平方向に突出するように形成されている。このため、上述の第1実施形態の如く、突起部210をコンプレッサハウジング11から斜め上に突出するように成形した場合(図2参照)に比べて、突起部210の重心をコンプレッサハウジング11の重心に近づけることができるので、突起部210を設けても、車両用電動コンプレッサ10の重量バランスの悪化を抑えることができる。
【0092】
本第5実施形態において、突起部210の後面210aに上述の第3実施形態の金属製プレートを配置して、3本のボルトにより突起部210に対して締結してもよい。
【0093】
本第5実施形態では、コンプレッサハウジング11のうち軸線に対して径方向にインバータ装置20を配置した例について説明したが、これに限らず、インバータ装置20をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向一端側に配置してもよい。
【0094】
(他の実施形態)
上述の第1〜第5の実施形態では、本発明に係る車両用電動コンプレッサ10を車両空調装置に適用した例について説明したが、これに限らず、本発明に係る車両用電動コンプレッサ10を車両空調装置以外の他の機器に適用してもよい。
【0095】
上述の第1〜第4の実施形態では、突起部210を走行用エンジン4に対して車幅方向右側に配置した例について説明したが、これに代えて、突起部210を走行用エンジン4に対して車幅方向前側に配置してもよい。
【0096】
上述の第1〜4実施形態では、突起部210をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向でインバータ装置20と反対側に配置した例について説明したが、これに限らず、第1〜4実施形態においてそれぞれの突起部210をコンプレッサハウジング11のうち軸線方向でインバータ装置20と同一側に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1実施形態の車両用電動コンプレッサが車両に搭載された状態を示す図である。
【図2】第1実施形態の車両用電動コンプレッサの単体を示す図である。
【図3】第1実施形態の車両用電動コンプレッサの内部構成を示す断面図である。
【図4】第1実施形態の車両用電動コンプレッサが車両に搭載された状態を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態の車両用電動コンプレッサを示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態の車両用電動コンプレッサを示す図である。
【図7】本発明の第4実施形態の車両用電動コンプレッサを示す図である。
【図8】本発明の第5実施形態の車両用電動コンプレッサを示す図である。
【図9】第5実施形態の車両用電動コンプレッサが車両に搭載された状態を示す図である。
【図10】比較例において車両用電動コンプレッサが車両に搭載された状態を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
2…サイドメンバ、4…走行用エンジン、10…車両用電動コンプレッサ、
11…コンプレッサハウジング、200…インバータハウジング、
210…突起部、210a…後面、210b…右側面、210c…左側面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方のエンジンルームのうち走行用エンジンの車両前方に配置される車両用電動コンプレッサであって、
冷媒吸入口(11a)および冷媒吐出口(11b)を有するコンプレッサハウジング(11)と、
前記コンプレッサハウジング内に配置され、前記冷媒吸入口を介して冷媒を吸入し圧縮して高圧冷媒を前記冷媒吐出口から吐出する圧縮部(400)と、
前記コンプレッサハウジング内に配置され、前記圧縮部を駆動する電動モータ(300)と、
前記コンプレッサハウジングの外壁に装着され、前記電動モータに電力供給して前記電動モータを駆動するモータ駆動装置(20)と、を備え、
前記コンプレッサハウジングには、ボルトが貫通する貫通孔を有する複数の取付脚部(12a、12b、12c)と、を備え、
前記ボルトを前記貫通孔に貫通した状態で前記ボルトが前記走行用エンジンに対して締結されることにより、前記コンプレッサハウジングが前記走行用エンジンに対して固定されるようになっており、
前記コンプレッサハウジングには、前記走行用エンジン側に突出する突起部(210)が設けられ、
前記突起部のうち走行用エンジン側端部(210a)は、前記モータ駆動装置のうち走行用エンジン側端部(201)よりも前記走行用エンジン側に位置することを特徴とする車両用電動コンプレッサ。
【請求項2】
前記突起部は、前記コンプレッサハウジングに一体に成形されたものであることを特徴とする請求項1に記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項3】
前記突起部のうち前記走行用エンジン側端部には、鉛直方向に広がる走行用エンジン側端面(210a)が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項4】
前記突起部のうち前記走行用エンジン側端面に対して走行用エンジン側には、前記走行用エンジン側端面に沿うように配置されるプレート(220)が配置されており、
前記プレートが前記突起部に対して締結部材(211)により締結されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項5】
前記突起部は、
前記コンプレッサハウジングから前記走行用エンジン側にそれぞれ突出する複数のボス部(230)と、
前記モータ駆動装置の前記走行用エンジン側端部より前記走行用エンジン側に配設され、前記複数のボス部に対して締結部材により締結されているプレート(220)と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項6】
前記コンプレッサハウジングは、略筒状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項7】
前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの軸線方向一端側に配置されており、
前記突起部は、前記コンプレッサハウジングのうち前記軸線方向で前記モータ駆動装置と同一側に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項8】
前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの軸線方向一端側に配置されており、
前記突起部は、前記コンプレッサハウジングの軸線方向他端側に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項9】
前記コンプレッサハウジングは、その軸線方向が車幅方向に一致するように配置されており、
前記突起部は、水平方向に対して天地方向上側に傾斜する傾斜方向に突出するように形成されていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1つに記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項10】
前記コンプレッサハウジングは、その軸線方向が車幅方向に一致するように配置されており、
前記突起部は、前記コンプレッサハウジングの軸線側から水平方向に突出するように形成されていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1つに記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項11】
前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの外壁で径方向外周側に配置されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の車両用電動コンプレッサ。
【請求項12】
前記モータ駆動装置は、前記コンプレッサハウジングの外壁のうち前記軸線方向一端側に配置されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の車両用電動コンプレッサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−103100(P2009−103100A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277745(P2007−277745)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】