説明

車両識別装置、車両識別システム

【課題】ネットワーク機能のトラブルに対する耐性の高い車両識別装置及び車両識別システムを提供する。
【解決手段】車両識別システムは、DSRCによって車両から識別子を取得する車両識別装置と、上位管理装置とを備える。車両識別装置と上位管理装置とは、電文を送受信する第1伝送路と、パルス信号を送受信する第2伝送路とによって接続される。通常時、上位管理装置は第1伝送路によって車両の情報を要求する。車両識別装置は、第1伝送路を介して車両の情報を送信する。第1伝送路による通信に異常が発生すると、第2伝送路を用いた縮退モードに切り替えられる。上位管理装置は、車両の情報を要求するとき、第2伝送路にパルス信号を送信する。車両識別装置は、車両の識別子が予め登録されているか否かを判定し、その判定の結果に応じたパルス信号を第2伝送路に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を識別する装置においてトラブルに対する耐性を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
駐車場や有料道路において、狭域通信(DSRC:Dedicated Short Range Communication)を用いて車両側の機器から情報を取得して車両を識別し、料金収受などの処理を行う車両識別システムが用いられている。
【0003】
典型的な車両識別システムは、例えば狭域通信によって車両側から情報を得る下位側の装置と、通信回線を介して下位側の機器から情報を取得する上位側の機器を備えるシステムとして構築される。通信のトラブルに対する耐性の高い車両識別システムが望まれる。
【0004】
通信の故障に対処するための技術の一例として、特許文献1には、監視センターと監視対象設備とが公衆電話回線を介して通信自在に接続されてなり、運用コストの増大を招くことなく、軽微な故障情報を収集することを目的とする遠隔監視システムが開示されている。
【特許文献1】特開2003‐244335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ネットワーク機能のトラブルに対する耐性の高い車両識別装置及び車両識別システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0007】
本発明による車両識別装置(4)は、路側に設置される狭域通信システムの空中線(12)を介して車両から車両に固有の識別子を受信する狭域通信部(14)と、上位装置(6)からの要求信号に応答して、狭域通信部(14)が受信した識別子を含む電文を第1伝送路(32)を介して上位装置(6)に送信する通常時通信部(22)と、予め登録された登録車両識別子を記憶する記憶部(18)と、狭域通信部(14)が受信した識別子が記憶部(18)に格納されているか否かの判定をする判定部(24)と、通常時通信部(22)による通信の状態が正常か異常かを診断する診断部(36)と、第2伝送路(34‐1、34‐2)を介してパルス信号を上位装置(6)と交換することにより、診断部(36)によって通信の状態が異常であると診断されたとき、上位装置(6)から受信する車両を検出したことを示すパルス信号に応答して、判定の結果に対応するパルス信号を上位装置(6)に送る非常時通信部(20)とを備える。
【0008】
本発明による車両識別装置(4)において、診断部(36)は、通常時通信部(22)を用いて上位装置(6)に対して送信した信号に対する応答が無いとき、通常時通信部(22)による通信の状態が異常であると診断する。
【0009】
本発明による車両識別装置(4)において、診断部(36)は、通信の状態が異常であると診断したとき、異常を知らせる異常信号を電文と異なる回線(34‐1、34‐2)で上位装置(6)に送信する。
【0010】
本発明による車両識別システムは、本発明による車両識別装置(4)と、上位装置(6)とを備える。上位装置(6)は、異常信号を受信していないときは通常時通信部(26)によって車両識別装置(4)と通信し、異常通信を受信した後は通常時通信部(26)による通信を停止して非常時通信部(31)による通信に切り替える。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ネットワーク機能のトラブルに対する耐性の高い車両識別装置及び車両識別システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は、車両識別システムと、識別の対象となる被識別車両との構成を示すブロック図である。
【0013】
被識別車両2は、ETC車載器に例示される狭域通信の通信装置を備える。その通信装置は、車両識別データ発信部8と、狭域通信空中線部10とを備える。車両識別データ発信部8は、車両を個別に特定する車両識別子(車載器ごとに個別に割り当てられる)を予め記憶する記憶装置を備える。車両識別データ発信部8は更に、狭域通信空中線部10が備える空中線を介して車両識別装置と情報通信を行う機能を有する。
【0014】
車両識別装置4は、駐車場の出入口、有料道路の出入口など道路のゲート機能を果たす場所の路側に設置され、車両の識別、認証などを行う情報処理装置である。車両識別装置4は、狭域通信空中線部12、狭域通信制御部14、車両検知部16、登録車データ記憶部18、診断および論理値入出力部20、データ通信部22、識別および処理部24を備える。これらはコンピュータによって実現される機能ブロックである。
【0015】
狭域通信制御部14は、狭域通信空中線部12が備える空中線を介して被識別車両2の狭域通信空中線10との間で狭域通信による情報通信を行う。車両検知部16は、所定場所における車両の存在を検知して検知信号を生成する。登録車データ記憶部18は、予め登録された車両の識別子(被識別車両2の車両識別データ発信部8に記憶された車両識別子に対応する)のリストである登録車データを記憶する。例えば駐車場の場合は、予め駐車場に利用者登録をしている車両の識別子である登録車両識別子のリストが登録車データ記憶部18に登録される。識別および処理部24は、登録車データ、狭域通信空中線部12を介して受信した車両識別子、車両検知部16から得た検知信号、診断および論理値入出力部20から出力される情報などを処理する。診断および論理値入出力部20は通常モードと縮退モードとのいずれか一方に選択的に設定される。データ通信部22については後述する。
【0016】
[電文による通信]
通常時、診断および論理値入出力部20は通常モードに設定される。車両識別装置4は、車両検知部16が車両を検知して検知信号を生成すると、狭域通信制御部14が狭域通信空中線部12を介して被識別車両2から狭域通信にて取得した車両識別子を処理する。識別および処理部24は取得した車両識別子が登録車データ記憶部18に登録された登録車両識別子であるか否かを判定して、その判定の結果である登録判定情報を生成する。
【0017】
上位管理装置6は、1台以上の車両識別装置4と専用の情報通信回線で接続される情報処理装置である。上位管理装置6は、データ通信部26、論理値入出力部31、制御演算部28、操作端への出力回路30を備える。データ通信部26は、シリアル通信ケーブル32を介して車両識別装置4のデータ通信部22と情報通信可能に接続される。論理値入出力部31は、パルス信号伝送用の通信ケーブル34を介して診断および論理値入出力部20に接続される。上位管理装置6は所定場所における車両の存在を検知して検知信号を生成する車両検知装置に接続される。
【0018】
上位管理装置6は、車両検知装置が車両を検知した時点などの所定のタイミングで、車両識別装置4に対して車両の情報を送ることを要求する電文である要求信号をシリアル通信ケーブル32を介して車両識別装置4に送信する。
【0019】
車両識別装置4は、上位管理装置6から要求信号で受け取ると、被識別車両から狭域通信で得た車両識別子と、その被識別車両に関する登録判定情報とを含む電文を生成してシリアル通信ケーブル32を介して上位管理装置6に送信する。
【0020】
[パルス信号による通信]
車両識別装置4は、シリアル通信ケーブル32を介した通信が正常に行われないと診断および論理値入出力部20が診断した場合、異常を知らせる異常信号を、シリアル通信ケーブル32以外に予め設置された信号線を介して上位管理装置6に送信する。
【0021】
異常信号を受信した上位管理装置6は、通信機能を縮退させた縮退モードに入る。すなわち、上位管理装置6は、シリアル通信ケーブル32による通信を停止する。以後、上位管理装置6は、車両識別装置4に対して車両に関する情報を要求する場合は、要求信号を送るために予め設置された専用の信号線34‐1にパルス信号(典型的には1度の要求につき1パルス)を送信する。
【0022】
車両識別装置4は、信号線34‐1を介して要求信号を受信すると、被識別車両2から取得した車両識別子が登録車データ18に登録車両識別子として登録されているか否かに応じた応答を行う。例えば、登録されている場合は、専用の信号線34‐2を介してパルス信号(典型的には1度の要求につき1パルス)を上位管理装置6に送信し、登録されていなかった場合は、パルス信号を送らない(または連続する2パルスなど、1パルスと区別できるパルス信号を送る)。
【0023】
上位管理装置4は、パルス信号を信号線34‐1に送信して、その応答として信号線34‐2を介してパルス信号が返ってきたとき、車両検知器で検知した車両は予め登録された車両であると認識する。上位管理装置4は、パルス信号を信号線34‐1に送信して、その応答のパルス信号が信号線34‐2を介して返ってこなかったとき(または、連続する2パルスが返ってきたとき)、未登録車両であると認識する。この認識結果を用いて、上位管理装置は車両に対する処理を決定することができる。例えば駐車場の例では、車両が予め登録された車両であると認識された場合は出入口のゲートを開け、未登録車両であると認識された場合は出入口のゲートを閉じる処理が行われる。
【0024】
このような処理が行われることにより、通信に異常が発生して上位管理装置が車両の識別子を取得することが不可能になった場合でも、車両が予め登録した車両か否かという車両識別装置が判定した結果は、専用の信号線によるパルス信号の送受信により得ることができる。
【0025】
図2Aは、通常モード時の車両識別装置4と上位管理装置6の情報通信について示す概念図である。シリアル通信ケーブル32を介したシリアル双方向通信により上位管理装置6から車両の情報を要求する電文である要求信号が送信されると、車両識別装置4のデータ通信部22は入力通信処理を行う。この要求信号の入力に応答して、識別および処理部24はDSRC通信などの処理を行い、DSRCで取得した車両識別子、およびその車両識別子が予め登録車データ記憶部18に登録されているか否かを示す登録判定情報をシリアル通信ケーブル32を介して電文で送信する出力通信処理を行う。
【0026】
車両識別装置4に要求される機能によっては、通常時も、パルス信号の専用の信号線34‐1、34‐2を用いた通信が行われる。この場合、上位管理装置6は車両を検知すると信号線34‐1を介してパルス信号を送信する。信号線34‐1からパルス信号を受け取った車両識別装置4は、ステータス入力があったと判定する。車両識別装置4は、ステータス入力があると、DSRCにより取得した車両識別子が登録車データ記憶部18に登録されているか否かに応じたステータス出力としてパルス信号を信号線34‐2を介して上位管理装置6に送信する。
【0027】
図2Bは、通信に異常が発生してシリアル双方向通信が正常に行われなくなった場合の情報通信について示す概念図である。診断および論理値入出力部20は、シリアル双方向通信に異常があると診断すると、異常信号を生成してシリアル通信ケーブル32とは異なる伝送路により上位管理装置6に送信する。上位管理装置6は、異常信号を受信すると通信機能を縮退させた縮退モードに入る。上位管理装置6は、車両検知装置が車両を検知した場合など車両に関する情報を要求する場合、信号線34‐1を介して車両識別装置4にパルス信号を送信する。車両識別装置4は、信号線34‐1からパルス信号を受け取ると、ステータス入力があったと判定し、DSRCにより取得した車両識別子が登録車データ記憶部18に登録されているか否かに応じたステータス出力としてパルス信号を信号線34‐2を介して上位管理装置6に送信する。
【0028】
図3は、以上に説明したような通常モードと縮退モードとの切替を可能にする論理回路を示す。通常モードのとき、電文による通信が正常に行われており、シリアル通信ケーブル32の通信データがハードワイヤで分岐されて、診断および論理値入出力部20が備える診断部36とデータ通信部22とに入力する。
【0029】
診断部36は、車両識別装置4と上位管理装置6との通信をリアルタイムで常時監視している。診断部36は、上位管理装置6に対して送信した信号に対する応答が無いとき、すなわち車両識別装置4が上位管理装置6に対して行う1回のアクションに対して1回のアンサーバックを検出したとき通信が正常であると判定してOFF信号を出力し、アンサーバックが検出されなかったとき通信が異常であると判定してON信号を出力する。従って通常モードのときはOFF信号が出力される。
【0030】
通常モード時、診断部36はOFF信号を出力しているため、論理積素子42はOFF信号を出力する。論理和素子38は、シリアル通信ケーブル32の通信データを出力する。出力された通信データは、識別および処理部24で処理される。通常モードに設定されている識別および処理部24は、DSRCによって取得した車両の情報に基づく処理を実行し、入力した通信データに応答した電文である出力データを出力する。その出力データは、論理和素子40の一方の入力端子に入力する。論理和素子40のもう一方の入力端子には診断部36の出力であるOFF信号が入力する。その結果、論理和素子40は識別および処理部24の出力データを出力する。その出力データはシリアル通信ケーブル32を介して上位管理装置6に送信される。
【0031】
次に縮退モードのときの動作を説明する。診断部36はシリアル通信ケーブル32を介した通信が異常だと診断するとON信号を出力する。更に、診断部36が異常の診断をすると、診断および論理値入出力部20は、異常を知らせる異常信号を、シリアル通信ケーブル32とは異なる伝送路である通信ケーブル34‐3で上位管理装置6に送信する。上位管理装置6は、異常信号を受信すると、データ通信部26による通信を停止して、論理値入出力部31による通信に切り替える。論理値入出力部31は、車両の情報を車両識別装置4に要求するとき、通信ケーブル34‐1を介してパルス信号を送信する。
【0032】
論理積素子42の一方の入力端子には診断部36のON信号が入力し、他方の入力端子には通信ケーブル34‐1からパルス信号が入力する。その結果、パルス信号が出力される。論理和素子38の一方の入力端子にはそのパルス信号が入力する。他方の入力端子には、シリアル通信ケーブル32の通信が途絶えているため、信号が入力しない。その結果、パルス信号が出力されて識別および処理部24に入力する。縮退モードに設定されている識別および処理部24は、パルス信号に応答して、DSRCによって取得した車両の情報に基づく処理を実行し、パルス信号又は信号無しのいずれかの出力信号を生成する。論理積素子44の一方の入力端子にはこの出力信号が入力し、他方の入力端子には診断部から出力されたON信号が入力する。その結果、識別および処理部24の出力信号が通信ケーブル34‐2を介して上位管理装置6に送信される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】車両識別システムと、識別の対象となる被識別車両との構成を示すブロック図である。
【図2A】通常モード時の車両識別装置4と上位管理装置6の情報通信について示す概念図である。
【図2B】縮退モード時の車両識別装置4と上位管理装置6の情報通信について示す概念図である。
【図3】通常モードと縮退モードとの切替を可能にする論理回路を示す。
【符号の説明】
【0034】
2 被識別車両
4 車両識別装置
6 上位管理装置
8 車両識別データ発信部
10 狭域通信空中線部
12 狭域通信空中線部
14 狭域通信制御部
16 車両検知部
18 登録車データ記憶部
20 診断および論理値入出力部
22 データ通信部
24 識別および処理部
26 データ通信部
28 制御演算部
30 操作端への出力回路
31 論理値入出力部
32 シリアル通信ケーブル
34‐1、34‐2 通信ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路側に設置される狭域通信システムの空中線を介して車両から前記車両に固有の識別子を受信する狭域通信部と、
上位装置からの要求信号に応答して、前記狭域通信部が受信した前記識別子を含む電文を第1伝送路を介して前記上位装置に送信する通常時通信部と、
予め登録された登録車両識別子を記憶する記憶部と、
前記狭域通信部が受信した前記識別子が前記記憶部に格納されているか否かの判定をする判定部と、
前記通常時通信部による通信の状態が正常か異常かを診断する診断部と、
第2伝送路を介してパルス信号を前記上位装置と交換することにより、前記診断部によって前記通信の状態が異常であると診断されたとき、前記上位装置から受信する車両を検出したことを示すパルス信号に応答して、前記判定の結果に対応するパルス信号を前記上位装置に送る非常時通信部
とを具備する車両識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両識別装置であって、
前記診断部は、前記通常時通信部を用いて前記上位装置に対して送信した信号に対する応答が無いとき、前記通常時通信部による通信の状態が異常であると診断する
車両識別装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された車両識別装置であって、
前記診断部は、前記通信の状態が異常であると診断したとき、異常を知らせる異常信号を前記第1伝送路と異なる伝送路で前記上位装置に送信する
車両識別装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両識別装置と、
前記上位装置とを具備し、
前記上位装置は、前記異常信号を受信していないときは前記通常時通信部によって前記車両識別装置と通信し、前記異常通信を受信した後は前記通常時通信部による通信を停止して前記非常時通信部による通信に切り替える
車両識別システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−87225(P2009−87225A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258805(P2007−258805)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】