説明

車両部品及びエンジンの試験装置

【課題】エンジンの場合と同等の加振力を発生するとともに、共振点でのねじり振動によるトルク変動を低減し、すべての領域で部品交換なしに良好な試験を行なう。
【解決手段】フライホイルアタッチメント19の平板状部分19bの外周寄り部分に設けた孔19eに制振金属であるD2052金属からなるリング35を嵌合し、リング35に挿通した継手ボルト30を座金31を介してトルクメータ18の雌ねじ部18aに螺合する。又、平板状部分19bの外面にはトルクコンバータ17aの取付板27を取り付けるための雌ねじ部19fを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジン、トランスミッション、トルクコンバータ、ブレーキ等の車両部品の試験を行なう車両部品及びエンジンの試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は特許文献1に示された従来のエンジンの試運転装置の正面図を示し、1はベッドの中央部に設けられた水平ガイドレール、2はガイドレール1上に軸方向摺動自在に載置された可動軸受、3,4は互いに嵌合する雄スプラインシャフト及び雌スプラインシャフトであり、伸縮自在な中間軸を形成し、雄スプラインシャフト3はターニングギア8を介して動力計10と連結され、雌スプラインシャフト4は可動軸受2に相対的に軸方向変位しないように支持されている。5は可撓性緩衝継手であり、その一端は雌スプラインシャフト4に嵌着され、他端は連結軸6に嵌着され、連結軸6の先端部にはエンジン9に連結されたフライホイル7に付設されたクラッチの出力軸の雌スプラインに嵌合する雄スプラインが設けられている。11,12はエンジン9に突設されたフロントマウンティング及びリアマウンティング、13,14はこれらを支持する支持部材である。
【0003】
上記構成において、エンジンの据付に際しては、可動軸受2を動力計10寄りに移動して連結軸6の雄スプラインも同方向に移動させ、エンジン9のマウンティング11,12を支持部材13,14上に固定する。しかる後、可動軸受2をエンジン9寄りに移動させると、ターニングギア8の回転に伴い可撓性緩衝継手5の可撓性により連結軸6の先端のスプラインはフライホイル7のクラッチのトランスミッションシャフト挿入用スプライン孔に嵌合し、直ちにエンジン9の試運転に入る。
【0004】
又、特許文献2に記載された内燃機関試験設備おいては、エンジンの回転軸とダイナモメータの駆動軸との間にゴムカップリングを設け、ねじり共振の発生を抑制するものが示されている。
【0005】
図3及び図4は従来の自動車のFR(前エンジン後輪駆動)トランスミッション試験装置の全体図及びその一部拡大図を示し、15は駆動ダイナモメータ(駆動モータ)、16は面板16aを有し、面板16aにトランスミッション17が取り付けられた取付台であり、トランスミッション17はトルクコンバータ17aを有する。駆動ダイナモメータ15の駆動軸15aには入力側トルクメータ18、フライホイルアタッチメント19及び取付板27を介してトルクコンバータ17aが取り付けられる。フライホイルアタッチメント19への取付板27の取付はボルト28により行なわれる。一方、20は吸収ダイナモメータ(吸収モータ)であり、その入力側にはカップリング21及び出力側トルクメータ22を介して中間軸23が連結され、中間軸23は補助軸受24に回転自在に支持されるとともに、中間軸23にはカップリングフランジ25を介して連結軸26の一端が連結され、連結軸26の他端はトルクコンバータ17aにスプライン嵌合される。
【0006】
上記構成において、駆動ダイナモメータ15の駆動によりトルクメータ18及びフライホイルアタッチメント19を介してトルクコンバータ17aの入力側が駆動され、トルクコンバータ17aの出力側は連結軸26、中間軸23、トルクメータ22及びカップリング21を介して吸収ダイナモメータ20に連結され、その出力が吸収される。
【特許文献1】実開平1−168845号公報
【特許文献2】特開平8−327500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3及び図4に示した従来のトランスミッション試験装置においては、駆動軸15aにエンジンの場合と同等の加振力を発生させるために、図5(a),(b)に示すように、フライホイルアタッチメント19を高剛性(350〜450Hz)の構成としていた。即ち、図5(a),(b)は図3に示したトランスミッション試験装置の高剛性タイプのフライホイルアタッチメント部分の縦断正面図及び側面図を示し、フライホイルアタッチメント19は二つの平板状部分19a,19bからなり、一方の平板状部分19aの中央にはフランジ部19cが形成され、他方の平板状部分19bの中心にはフランジ部19cと嵌合する孔部19dが形成される。又、平板状部分19bの外周寄り部分に複数の孔19eを設けるとともに、孔19eにリング29を嵌合し、リング29に挿通した継手ボルト30を座金31を介してトルクメータ18に設けた雌ねじ部18aに螺合する。平板状部分19bの外面には取付板27をボルト28により取り付けるための複数の雌ねじ部19fが設けられる。
【0008】
しかしながら、トルクコンバータ17aを取り付けるためのフライホイルアタッチメント19の構成を高剛性とした場合、共振点でのねじり振動によるトルク変動が増幅されるため、共振点付近での運転時においては、図6(a),(b)に示すように低剛性の構成にせざるを得なかった。即ち、図6(a),(b)は図3に示したトランスミッション試験装置の低剛性タイプのフライホイルアタッチメント部分の縦断正面図及び側面図を示し、平板状部分19bの外周寄り部分に設けた複数の孔19eにはリング状の防振ゴム32を嵌合し、防振ゴム32には両端部に鍔部を有するカラー33を嵌合し、カラー33に挿通した六角穴付ボルト34を座金31を介してトルクメータ18の雌ねじ部18aに螺合する。このように、トルクメータ18に対するフライホイルアタッチメント19の取付に防振ゴム32を介在させたことにより、フライホイルアタッチメント19を低剛性状態とし、トルク変動の増幅を抑制していた。又、防振ゴム32を用いた場合、許容トルクと許容回転数に制限があり(回転数が上がると、許容トルクが下がる。)、仕様を満足させることができない場合が生じた。
【0009】
上記した図3及び図4に示した従来例においては、駆動軸15aに加振力を発生させるためにフライホイルアタッチメント19の取付に高剛性を持たせると、共振点でのねじり振動によるトルク変動が増幅されるので、共振点付近での運転時にはフライホイルアタッチメント19の取付を低剛性にしなければならなかった。又、特許文献1,2に示した従来のエンジンの試験装置においても、エンジンとダイナモメータとの間をゴムやばね等の可撓性部材を介して連結し、ねじり共振の発生を抑制するようにしたものが示されており、エンジンと同等の加振力を発生させることができなかった。
【0010】
この発明は上記のような課題を解決するために成されたものであり、エンジンの場合と同等の加振力を発生することができるとともに、共振点でのねじり振動によるトルク変動を低減することができ、すべての領域で部品交換なしに良好な試験を行なうことができ、かつ許容回転数や許容トルクを増大することができる車両部品及びエンジンの試験装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の請求項1に係る車両部品の試験装置は、駆動側に被試験機の入力側を連結するとともに、被試験機の出力側に吸収側を連結した車両の試験装置において、駆動側と被試験機との連結を制振合金であるD2052合金からなる部材を介して行なったものである。
【0012】
この発明の請求項2に係る車両部品の試験装置は、エンジンと同等のねじり加振力を発生する駆動モータの軸と被試験機の軸を直結した車両部品の試験装置において、前記軸同士の結合に用いられるボルト結合部分をリング状の制振合金を介して結合したものである。
【0013】
請求項3に係るエンジンの試験装置は、エンジンの出力軸とダイナモメータの軸とを直結したエンジンの試験装置において、前記軸同士の結合に用いられるボルト結合部分をリング状の制振合金を介して結合したものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のようにこの発明の請求項1によれば、駆動側と被試験機との連結をD2052合金からなる部材を介して行なっており、D2052合金は双晶の発生と移動により運動エネルギーを熱エネルギーに変化させて振動を吸収し、また外部からの負荷がなくなると、双晶が消滅して無負荷状態となるので、制振能の周波数依存性が少なくなり、共振点でのねじり振動によるトルク変動を低減するとともに、駆動軸はエンジンの場合と同等の加振力を発生し、すべての領域で部品交換なしに良好な試験を行なうことができる。又、D2052合金は成形性、加工性に優れているので、従来使用されている部品と同一形状にすることができ、設計が容易となる。さらに、防振ゴムを使用しないので、D2052合金の応力範囲内であれば、回転数及びトルクの範囲を拡大することができる。
【0015】
又、請求項2によれば、エンジンと同等のねじり加振力を発生する駆動モータの軸と被試験機の軸との軸同士の結合に用いられるボルト結合部分にリング状の制振合金を用いているので、請求項1と同様の効果を奏する。
【0016】
請求項3によれば、エンジンとダイナモメータとを直結したエンジン試験装置においても、ボルト結合部分にリング状の制振合金を用いて結合しており、やはり請求項1と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面とともに説明する。図1(a),(b)はこの発明の実施最良形態による車両のトランスミッション試験装置のフライホイルアタッチメント部分の縦断正面図及び側面図を示し、平板状部分19bの外周寄り部分に設けられた複数の孔19eには制振合金であるD2052合金からなるリング35が嵌合され、リング35に挿通した継手ボルト30を座金31を介してトルクメータ18の雌ねじ部18aに螺合する。その他の構成は図5(a),(b)の構成と同様である。
【0018】
上記実施最良形態においては、トルクメータ18に対するフライホイルアタッチメント19の取付において、制振合金であるD2052合金からなるリング35を介在させている。D2052合金は双晶の発生と移動により運動エネルギーを熱エネルギーに変化させて振動を吸収し、また外部からの負荷がなくなると、双晶が消滅して無負荷状態となる。このため、制振能の周波数依存性が少なくなり、共振点でのねじり振動によるトルク変動を低減することができ、また駆動ダイナモメータ15の駆動軸15aはエンジンの場合と同等の加振力を発生することができ、すべての領域で部品交換なしに良好な試験を行なうことができる。又、D2052合金は成形性、加工性に優れているので、従来品と同形状にすることができ、設計、製造が容易となる。さらに、防振ゴムを使用しないので、D2052合金の応力範囲内であれば、回転数及びトルクの範囲を拡大することができる。
【0019】
なお、上記実施最良形態においては、トルクコンバータを含めたトランスミッション試験装置に適用したが、ブレーキダイナモメータにも適用することができる。又、エンジンとダイナモメータとを直結したエンジン試験装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施最良形態による車両のトランスミッション試験装置のフライホイルアタッチメント部分の縦断正面図及び側面図である。
【図2】特許文献1に示された従来のエンジンの試運転装置の正面図である。
【図3】従来の自動車のFRトランスミッション試験装置の全体図である。
【図4】図3に示した従来の自動車のFRトランスミッション試験装置の一部拡大図である。
【図5】図3に示した従来の自動車のFRトランスミッション試験装置の高剛性タイプのフライホイルアタッチメント部分の縦断正面図及び側面図である。
【図6】図3に示した従来の自動車のFRトランスミッション試験装置の低剛性タイプのフライホイルアタッチメント部分の縦断正面図及び側面図である。
【符号の説明】
【0021】
15…駆動ダイナモメータ
15a…駆動軸
17…トランスミッション
17a…トルクコンバータ
18…トルクメータ
18a,19f…雌ねじ部
19…フライホイルアタッチメント
19a,19b…平板状部分
19e…孔
20…吸収ダイナモメータ
26…連結軸
27…取付板
28…ボルト
30…継手ボルト
35…リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側に被試験機の入力側を連結するとともに、被試験機の出力側に吸収側を連結した車両部品の試験装置において、駆動側と被試験機との連結を制振合金であるD2052合金からなる部材を介して行なったことを特徴とする車両部品の試験装置。
【請求項2】
エンジンと同等のねじり加振力を発生する駆動モータの軸と被試験機の軸を直結した車両部品の試験装置において、前記軸同士の結合に用いられるボルト結合部分をリング状の制振合金を介して結合したことを特徴とする車両部品の試験装置。
【請求項3】
エンジンの出力軸とダイナモメータの軸とを直結したエンジンの試験装置において、前記軸同士の結合に用いられるボルト結合部分をリング状の制振合金を介して結合したことを特徴とするエンジンの試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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