説明

車体の側突変形抑制構造

【課題】側面衝突の前後で変形がなく全塑性耐力が低下する板厚の小さい生産性を高めたブラケットを適用し、側面衝突時における車室内への変形量を低減させる。
【解決手段】ルーフリンフォースメント4の両端をルーフサイドレール2の左右端に連結するように配設されるブラケット5として、車幅方向の外側端、内側端にそれぞれ形成される第1、第2の各折曲部5c、5dが車体上下方向の異なる位置に配設され、第1、第2の各折曲部間が全長に亘り連続して略湾曲形状の凹部5eを有する当該ブラケットを適用する。このブラケットは、ルーフサイドレールに締結される第1の締結部W3上の荷重点P1と、ルーフリンフォースメントに締結される第2の締結部W4上の拘束点P2とを有し、荷重点及び拘束点間を結ぶライン長の中間点を、側面衝突時において車体上下方向で変位しない凹部の屈曲底点P3に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の側突変形抑制構造に係り、特に、側面衝突時における車室内への変形量を低減させることができる車体の側突変形抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車体においては、側面衝突時におけるセンタピラーの変形量を低減させるにあたり、センタピラーの上部に位置する支持部材として、車体上部のルーフの車幅方向に沿ってルーフリンフォースメントを配設した構造が提案されている。
【0003】
この構造を適用するにあたって、車体上部のルーフは、通常、車幅方向の中央部が高い一方、車幅方向の両端部周辺が低くなっているため、側面衝突時においてセンタピラーが荷重(側突荷重)を受けると、ルーフリンフォースメントには、車幅方向の中央部で車体上方に向かって凸となる曲げモーメントが作用することになる。
【0004】
この作用により、ルーフリンフォースメントやルーフ、ルーフサイドレール等の部位の変形を抑制するにあたっては、ルーフリンフォースメントとルーフサイドレールとの結合部に連結部材を配設する必要があり、種々の構造が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
ここで、従来例として、特許文献1の車体上部構造は、車幅方向に長手とされ車体の前後方向におけるセンタピラーの設置部位に配置されてルーフパネルを補強するルーフリンフォースメントと、センタピラーの上部とルーフリンフォースメントとを連結するルーフガゼットと、ルーフガゼットに設けられ車幅方向の曲げに対し他の部分よりも弱い応力集中部とを備え、車体上部を重量化することなく側面衝突時にセンタピラーが車室内に侵入する量を低減することができる。
【0006】
この車体上部構造によれば、側面衝突時における荷重がセンタピラーに入力されると、ルーフリンフォースメント及びルーフガセットにそれぞれ曲げモーメントが作用し、応力集中部において局所的な曲げ(折れ)が生じることになり、ルーフリンフォースメントの曲げが緩和され、センタピラーの車室内への侵入が抑制される。
【0007】
また、従来例として、図5(A)の概略断面図に示すように、前述の特許文献1の車体上部構造にて適用された部材と同様な構造であるセンタピラー(図示せず。)の上方部に位置し当該センタピラーと一体的で配設される(ルーフサイドレールの)ルーフサイドレールインナ7と、ルーフパネル(図示せず。)の車室内側に車幅方向へ延設されるルーフリンフォースメント8とを連結する部材(連結部材)として、第1、第2の各折曲部9a、9b間が全長に亘り連続して略湾曲形状の凸部9cを有するブラケット9が提案されている。
【0008】
この形状のブラケット9を適用するにあたり、側面衝突時において、車幅方向で車室内向きに例えば、10[kN]の荷重F501がセンタピラーに入力される(図示せず。)と、ルーフサイドレールインナ7にブラケット9が面接触で当接して適宜な締結手段(詳述せず。)によって取り付けられる締結部W501上の荷重点P501に作用する曲げモーメントM501と、ルーフリンフォースメント8にブラケット9が面接触で当接して適宜な締結手段(詳述せず。)によって取り付けられる締結部W502上の拘束点P502に作用する曲げモーメントM502とが相対する回転方向、すなわち、それぞれが反時計回り、時計回りとなり、各締結部W501、W502では、高い剛性が確保されて荷重F501を十分に吸収でき、図5(B)のグラフ図に示すように、そのモーメント値が低減される。
【0009】
一方、ブラケット9が有する他の部位として、第1、第2の各折曲部9a、9bは、車体上方に向かって凸となるように変形(曲げ変形)し、この作用に連動して凸部9cの屈曲底点P503(付近)は、前述の曲げモーメントM501、M502のモーメント方向である車体上方に向かって当該ブラケットの形状がオフセットされるため、図5(B)のグラフ図に示すように、そのモーメント値が最大となる。
【0010】
なお、図5(B)において、「横軸」は、車体の車幅方向の中心軸を基準とした車体外側への距離[mm]を表しており、「縦軸」は、荷重点P501に作用する10[kN]の荷重F501に基づきブラケット9に作用するモーメント値を前述の距離[mm]に対応させて表しているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−192998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述の背景技術において、特許文献1の車体上部構造によれば、側面衝突時においてルーフリンフォースメントの曲げを緩和し、センタピラーの車室内への侵入を抑制するにあたっては、応力集中部に局所的な曲げ(折れ)を作用させる必要があり、その曲げ(折れ)量は、応力集中部の剛性値に基づき可変する構造であるため、車室内への変形量の低減に限界が生じる難点があった。
【0013】
一方、図5(A)に示す形状のブラケット9を適用するにあたって、側面衝突時においてルーフリンフォースメント8の曲げを緩和し、センタピラーの車室内への侵入を抑制するにあたっては、このブラケット9が変形することなく全塑性耐力を増加させる必要がある。
【0014】
そのためには、所定の表面積を有するブラケット9の板厚を大きくせねばならず、例えば、2.0mmの板厚が必要となる。これにより、車体上部の質量の増加が顕著となるばかりでなく、ブラケット9の生産性が低下する難点があった。
【0015】
本発明は、これらの難点を解消するためになされたもので、側面衝突の前後で変形がなく全塑性耐力が低下する板厚の小さい生産性を高めたブラケットを適用し、側面衝突時における車室内への変形量を低減させることができる車体の側突変形抑制構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の目的を達成するため、本発明の第1の態様である車体の側突変形抑制構造は、車体上部における車幅方向の左右側において車体前後方向へ延設される一対のルーフサイドレールと、一対のルーフサイドレール間に跨り配設されるルーフパネルと、ルーフパネルの車室内側に車幅方向へ延設されるルーフリンフォースメントと、ルーフリンフォースメントの両端をルーフサイドレールの左右端に連結するように配設される一対のブラケットとを備えており、ブラケットは、車幅方向の外側端、内側端にそれぞれ形成される第1、第2の各折曲部が車体上下方向の異なる位置に配設され、第1、第2の各折曲部間が当該車幅方向で全長に亘り連続して略湾曲形状の凹部を有するものである。
【0017】
このような第1の態様の車体の側突変形抑制構造によれば、ブラケットの外側端、内側端にそれぞれ形成され車体上下方向の異なる位置に配設される第1、第2の各折曲部間が略湾曲形状の凹部を有しているため、側面衝突時においてピラーに入力された所定値以上の荷重を、ルーフサイドレール側からブラケットを経由してルーフリンフォースメント側へ伝達させるにあたり、その凹部には、ルーフサイドレール側からルーフリンフォースメント側に作用することになる車幅方向の中央部で車体上方側に凸となる方向の曲げモーメントをキャンセルさせる方向のモーメント(キャンセルモーメント)が発生することになる。
【0018】
また、本発明の第2の態様である車体の側突変形抑制構造は、本発明の第1の態様において、ブラケットは、ルーフサイドレールに面接合で当接して取り付けられる第1の締結部上の荷重点と、ルーフリンフォースメントに面接合で当接して取り付けられる第2の締結部上の拘束点とを有しており、荷重点及び拘束点間を結ぶライン長の中間点は、凹部の屈曲底点に位置するものである。
【0019】
このような第2の態様の車体の側突変形抑制構造によれば、ブラケットが有する凹部の屈曲底点が側面衝突の前後において車体上下方向で変位しないため、当該ブラケットの変形を抑制することができる。
【0020】
また、本発明の第3の態様である車体の側突変形抑制構造は、本発明の第1の態様又は第2の態様において、ブラケットは、当該ブラケットの外側端部をルーフサイドレールに連結するとともに当該ブラケットの内側端部を外端側部より高い位置に設定してルーフリンフォースメントに連結し、第1の折曲部より高い位置に第2の折曲部を配設するものである。
【0021】
このような第3の態様の車体の側突変形抑制構造によれば、ルーフサイドレール側からブラケットを経由してルーフリンフォースメント側へ荷重を伝達させるにあたり、異なる高さ位置に配設された第1、第2の各折曲部が車体上方側へ凸となるような曲げ(折れ)が作用し、車体上方側かつ車幅方向内側へ回転することで、荷重による曲げモーメントが作用することになる。
【0022】
また、本発明の第4の態様である車体の側突変形抑制構造は、本発明の第1の態様乃至第3の態様のうち何れかの態様において、ルーフリンフォースメント及びブラケットはそれぞれ、車体前後方向における一対のピラーの位置に対応して配設されるものである。
【0023】
このような第4の態様の車体の側突変形抑制構造によれば、一対のピラーの位置が異なる多種・多様な自動車(車体)に適用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の車体の側突変形抑制構造によれば、ルーフリンフォースメントの両端を一対のルーフサイドレールの左右端に連結するように配設される一対のブラケットとして、連続して略湾曲形状の凹部を有する当該ブラケットを適用することにより、側面衝突の前後で変形がなく全塑性耐力が十分に低下するため、側面衝突時において、ルーフリンフォースメントやピラーの車室内への変形量を低減させることができるばかりでなく、所定の表面積を有するブラケットの板厚が小さくなり、その質量が低減されることで車体上部の質量も低減され、生産性も高められる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の実施例による側突変形抑制構造を有する車体の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施例による車体の側突変形抑制構造において、図1の図中における車体を、車幅方向であるa−a面で切断したときの形状を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例による車体の側突変形抑制構造において適用されるブラケットを示す要部拡大図である。
【図4】図4(A)は、本発明の実施例による車体の側突変形抑制構造において適用されるブラケットの作用例を示す概略断面図である。また、図4(B)は、図4(A)に示すブラケットのモーメント特性を示すグラフ図である。
【図5】図5(A)は、従来例において適用されるブラケットの作用例を示す概略断面図である。また、図5(B)は、図5(A)のブラケットのモーメント特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明による車体の側突変形抑制構造を適用した最良の実施の形態例について、図面を参照して説明する。なお、以下に示す各図において、矢印「FR」は車体Aの前方向、矢印「UP」は車体Aの上方向、矢印「W」は、車体Aの車幅方向をそれぞれ表すものとする。
【0027】
本発明の実施例による車体の側突変形抑制構造は、図1の概略斜視図に示すように、車体Aが有する当該ピラーの一例であって車幅方向で左右対称に配置される一対のセンタピラー1(1、1)の上方部に位置する一対のルーフサイドレール2(2、2)から車体上部のルーフパネル3に荷重を伝達する構造であって、一対のセンタピラー1(1、1)、一対のルーフサイドレール2(2、2)、ルーフパネル3、ルーフリンフォースメント4及び一対のブラケット5(5、5)を少なくとも有している。
【0028】
なお、本発明の実施例による車体の側突変形抑制構造は、通常、車幅方向で左右対称に形成されるものであることから、左右のうち一方側の構造、ここでは、左側の構造についてのみ図示及び詳細な説明を行うものとし、この側突変形抑制構造としては、ルーフパネル3全体で開口部を有していないノーマルルーフが適用されている。
【0029】
次に、本発明の実施例による車体の側突変形抑制構造の具体的な形状について、図1の図中における車体Aを、車幅方向であるa−a面で切断したときの形状を示す図2の断面図を参照して説明する。
【0030】
図2において、ルーフサイドレール2は、車体上部でルーフパネル3の車幅方向の両側において当該車体前後方向へ延設され、ルーフパネル3を跨ぐように配設された部材(構造部材)であって、センタピラー1のピラーインナ1bが有する側緑フランジ10bと、センタピラー1のピラーアウタ1aの上部に位置し当該ピラーアウタと一体的で配設されたルーフサイドレールアウタ2aが有する側縁フランジ20aと、ルーフサイドレールインナ2bが有する(第1の)側縁フランジ20bと、ルーフパネル3が有する側縁フランジ3aとがそれぞれ重ね合わされて接合、例えば、スポット溶接で面接合される閉断面構造を有しており、この接合部位を、同図中において第1の接合部W1と称する。
【0031】
なお、第1の接合部W1は、センタピラー1(ピラーインナ1b)、ルーフサイドレール2(ルーフサイドレールアウタ2a、ルーフサイドレールインナ2b)及びルーフパネル3の境界において車体前後方向へ溝部が延設される所謂、モヒカン溝(モヒカン溝構造)6を有している。
【0032】
また、ルーフサイドレールインナ2bが有する(第2の)側縁フランジ21bは、センタピラー1のピラーリンフォースメント1cが有する側縁フランジ10cに接合、例えば、スポット溶接で面接合されており、この接合部位を、同図中において第2の接合部W2と称する。
【0033】
さらに、ルーフサイドレールインナ2bが有する縦壁部22bの車体上方面には、ブラケット5を取り付けるためのナット220bが所定数、ここでは、1個接合、例えば、スポット溶接で接合されている。
【0034】
ルーフリンフォースメント4は、ルーフサイドレール2の左右端間でルーフパネル3の車体下方内側であって、その両端がセンタピラー1の上端と車体前後方向で一致する位置に配設され、ルーフパネル3を補強する閉断面構造を有しており、その板厚や断面の高さは、図示しない車室内における乗員の頭上空間に対応させて適宜に設定することができるものである。
【0035】
また、ルーフリンフォースメント4において、その側縁フランジ4aの車体上方面には、ブラケット5を取り付けるためのナット40が所定数、ここでは、2個接合、例えば、スポット溶接で接合されている。
【0036】
ブラケット5は、センタピラー1の上部に一体的で配設される(ルーフサイドレール2の)ルーフサイドレールインナ2b及びルーフリンフォースメント4間を連結させる部材(連結部材)であって、例えば、SPC440の鋼板材のプレス成形品で所定の表面積を有している。
【0037】
このブラケット5の具体的な形状は、図3の要部拡大図に示すように、車幅方向の外側端であってルーフサイドレールインナ2bの車室内側の面に沿う縦壁部5aと、車幅方向の内側端であってルーフリンフォースメント4の側縁フランジ4aの底部で車室内部の面(下面)に沿う横壁部5bと、縦壁部5aの上側端に形成される第1の折曲部5cと、横壁部5bの(車室)外側端に形成される第2の折曲部5dと、第1、第2の各折曲部5c、5d間が全長に亘り連続して略湾曲形状の凹部5eとを有している。
【0038】
また、ブラケット5が有する縦壁部5aには、図2及び図3をそれぞれ参照するにあたって、ボルト50aを挿通するための貫通孔500aが穿設されており、このボルト50aを貫通孔500aに挿通し、ルーフサイドレールインナ2bに穿設された貫通孔221bを経由してナット220bに締結することにより、ルーフサイドレールインナ2bの車室内側の面に沿うように縦壁部5aを面接触で当接させて取り付けることができ、この取り付け部位を、同図中において第1の締結部W3と称する。なお、一対で設けられるボルト50a及びナット220bの組数は、1組に限定されるものではなく、例えば、複数であってもよく任意であり、この組数に対応させて貫通孔500a、221bの数も可変となる。
【0039】
また、ブラケット5が有する横壁部5bには、図2及び図3をそれぞれ参照するにあたって、ボルト50bを挿通するための貫通孔500bが穿設されており、このボルト50bを貫通孔500bに挿通し、ルーフリンフォースメント4に穿設された貫通孔400を経由してナット40に締結することにより、ルーフリンフォースメント4の底部で車室内側の面(下面)に沿うように横壁部5bを当接させて取り付けることができ、この取り付け部位を、同図中において第2の締結部W4と称する。なお、一対で設けられるボルト50b及びナット40の組数は、2組に限定されるものではなく、例えば、より複数であってもよく任意であり、この組数に対応させて貫通孔500b、400の数も可変となる。
【0040】
また、ブラケット5が有する第1、第2の各折曲部5c、5dは、その高さ位置が異なるように設定されている。ここでは、図1に示すように、車体上部がノーマルルーフで形成されているため、第1の折曲部5c(の屈曲底点)の高さ位置が第2の折曲部5d(の屈曲底点)の高さ位置と比較して低くなるように設定されている。
【0041】
さらに、ブラケット5において、第1の締結部W3上は、側面衝突時においてセンタピラー1を経由して伝達される荷重の荷重点P1を有しており、第2の締結部W4上は、当該ブラケットを回転移動させる支点となる拘束点P2を有しており、凹部5eの屈曲底点P3は、図2及び図4(A)の概略断面図にそれぞれ示すように、初期形状、すなわち、非側面衝突時において荷重点P1及び拘束点P2間を結ぶライン長の中間点に位置しているものとする。
【0042】
なお、ブラケット5において、荷重点P1の位置は、道路運送車両法の保安基準第18条による側面衝突基準に基づく側面衝突試験に使用するムービング・バリアの上端からセンタピラー1を経由して経由して荷重が伝達される位置であるため、自動車事故の実態を分析して反映させた側面衝突試験に対応させることができる。
【0043】
次に、前述のような側突変形抑制構造を有する車体において、以下、具体的な作用について説明する。図1に示すように、車体Aが側面衝突を受け、センタピラー1に所定値以上の例えば、10[kN]の荷重F1が入力されると、この荷重F1は、センタピラー1の上方部に位置するルーフサイドレール2の前後方向の中央部に伝達され、ルーフサイドレール2を車室内側に向けて折り曲げるように作用する。
【0044】
この作用によって、ルーフサイドレール2のルーフサイドレールアウタ2aには、圧縮された荷重(圧縮荷重)が作用し、また、ルーフサイドレールインナ2bには、引っ張り荷重が作用し、さらに、荷重点P1には、図4(A)に示すような反時計回りの曲げモーメントM1が発生することになる一方、拘束点P2には、曲げモーメントM1とは異なる回転方向で時計回りの曲げモーメントM2が発生することになる。
【0045】
ここで、ブラケット5が有する第1、第2の各折曲部5c、5dは、側面衝突の初期状態において拘束点P2を支点として車体上方側に向かって回転移動するものの、凹部5eの屈曲底点P3(付近)には、車体下方に向かって回転移動するように、前述の車体上方と反対方向で当該ブラケットの形状をオフセットさせるようなキャンセルモーメントが作用することになる。
【0046】
この作用によって、図4(B)のグラフ図に示すように、ブラケット5における第1の締結部W3上の荷重点P1及び第2の締結部W4上の拘束点P2を結ぶライン長の中間点に位置している凹部5eの屈曲底点P3(付近)に発生するモーメント値は、従来例のブラケット9を適用した場合(図5(B)を参照。)における凸部9cの屈曲底点P503(付近)に発生するモーメント値であって当該従来例の最大値とされる約70[N・mm]と比較して十分に小さくなる。
【0047】
また、ブラケット5が有する第1、第2の各折曲部5c、5d(付近)に発生するモーメント値の増加についても十分に抑制することができ、これに起因して、車体上方側に向かって凸となるような変形(曲げ変形)も抑制され、モーメント値の最大値についても、第2の折曲部5d(付近)に発生する約60[N・mm]となるように、ブラケット5全体として側面衝突の前後で変形がなく全塑性耐力が十分に低減されるため、最大モーメント値が約20%低減されることになる。
【0048】
さらに、ブラケット5における第1、第2の各締結部W3、W4は、高い剛性が確保されて荷重F1を十分に吸収できるため、センタピラー1の車室内への変形(曲げ変形)量や、ルーフリンフォースメント4の車幅方向でその中央部において車体上方側へ凸となる変形(曲げ変形)量を低減させることができ、乗員の胸部や頭部への影響が緩和される。
【0049】
なお、図4(B)において、「横軸」は、車体Aの車幅方向の中心軸を基準とした車体外側への距離[mm]を表しており、「縦軸」は、荷重点P1に作用する10[kN]の荷重F1に基づきブラケット5に作用するモーメント値を前述の距離[mm]に対応させて表しているものである。
【0050】
前述までの作用を備えたブラケット5を適用するにあたって、当該ブラケット全体として側面衝突の前後で変形がなく全塑性耐力が十分に低減されるため、その板厚は、従来例において適用された板厚2.0mmのブラケット9と比較して例えば、板厚1.6mmとなるようにプレス成形することができる。これにより、ブラケット5、9の表面積がそれぞれ、例えば、77cmで同一であった場合、質量が238gとなるブラケット9と比較して、ブラケット5の質量は190gとなり、その質量が小さくなるため、車体上方の軽量化が可能となり、また、その板厚が小さくなることで、ブラケット5をプレス成形するにあたっての生産性が高められる。
【0051】
なお、本発明による車体の側突変形抑制構造においては、特定の実施の形態をもって説明してきたが、この形態に限定されるものでなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られた如何なる構成の側突変形抑制構造であっても採用できるということはいうまでもないことである。
【0052】
具体的には、前述までの実施例による車体の側突変形抑制構造においては、この側突変形抑制構造を図1に示すように、車体上部がノーマルルーフで形成された車体Aに適用する場合について説明したが、この態様に限定されるものではない。例えば、ムーンルーフ等の開口部を有するルーフ構造の当該車体に適用することもできる。この態様によれば、ブラケット5が有する第1の折曲部5cの高さ位置が第2の折曲部5dの高さ位置よりも高く設定されることになる。
【0053】
また、前述までの実施例による車体の側突変形抑制構造において、車体前後方向におけるピラーとしてセンタピラー1を適用したが、これに限定されるものではない。例えば、車体前後方向で任意の位置に当該ピラーを配設し、その位置に対応させて(一対の)ルーフリンフォースメント4(4、4)及び(一対の)ブラケット5(5、5)を設けることもできる。
【0054】
さらに、本発明の実施例による車体の側突変形抑制構造は、同様な効果を奏する限り、セダンタイプ、SUVタイプ、ワンボックスタイプのように、車体の中心面での寸法が異なる多種・多様な自動車に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
A・・・・・車体
1(1、1)・・・・・一対のセンタピラー(ピラー)
2(2、2)・・・・・一対のルーフサイドレール
3・・・・・ルーフパネル
4・・・・・ルーフリンフォースメント
5(5、5)・・・・・一対のブラケット
5c・・・・・第1の折曲部
5d・・・・・第2の折曲部
5e・・・・・凹部
P1・・・・・荷重点
P2・・・・・拘束点
P3・・・・・屈曲底点(中間点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体上部における車幅方向の左右側において車体前後方向へ延設される一対のルーフサイドレールと、前記一対のルーフサイドレール間に跨り配設されるルーフパネルと、前記ルーフパネルの車室内側に前記車幅方向へ延設されるルーフリンフォースメントと、前記ルーフリンフォースメントの両端を前記ルーフサイドレールの左右端に連結するように配設される一対のブラケットとを備え、
前記ブラケットは、前記車幅方向の外側端、内側端にそれぞれ形成される第1、第2の各折曲部が車体上下方向の異なる位置に配設され、前記第1、第2の各折曲部間が当該車幅方向で全長に亘り連続して略湾曲形状の凹部を有することを特徴とする車体の側突変形抑制構造。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記ルーフサイドレールに面接合で当接して取り付けられる第1の締結部上の荷重点と、前記ルーフリンフォースメントに面接合で当接して取り付けられる第2の締結部上の拘束点とを有し、
前記荷重点及び前記拘束点間を結ぶライン長の中間点は、前記凹部の屈曲底点に位置することを特徴とする請求項1記載の車体の側突変形抑制構造。
【請求項3】
前記ブラケットは、当該ブラケットの外側端部を前記ルーフサイドレールに連結するとともに当該ブラケットの内側端部を前記外端側部より高い位置に設定して前記ルーフリンフォースメントに連結し、前記第1の折曲部より高い位置に前記第2の折曲部を配設することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体の側突変形抑制構造。
【請求項4】
前記ルーフリンフォースメント及び前記ブラケットはそれぞれ、前記車体前後方向におけるピラーの位置に対応して配設されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか1項記載の車体の側突変形抑制構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−254225(P2010−254225A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109326(P2009−109326)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】