説明

車体の自動測定システム

【課題】 自動車の組立ライン中に特別の寸法測定装置を設置することなく、車体の全数を測定して下流側工程に寸法に異常がある車体を流出させないことができる車体寸法の自動管理システムを提供する。
【解決手段】 本発明の車体寸法の自動管理システム10は、車体組立用の多関節ロボット1と、多関節ロボット1の制御装置6と、多関節ロボット1のアーム7bの先端に設けられたタッチセンサ3とを含んで構成され、下流側工程で部品が取り付けられる車体の部品取付部位Haの少なくとも2点にタッチセンサを順次接触させ、制御装置6により前記2点の各々の座標データを取得して2点間の距離の演算値を求め、演算値が予め設定した公差の範囲を外れるときは組立ラインLを一時停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の組立ラインにおける車体の自動測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の組立ラインにおいて、車体に部品を取付ける部位の寸法に異常があると部品取付け作業に支障をきたす。このため、自動車の組立ラインの途中に計測ステーションを設けて車体の形状精度を測定することが行なわれている。例えば、特許文献1には計測ステーションとして、アームの先端に計測ヘッドを備えたロボットを用い、車体に設定された複数の計測箇所を測定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平9−68419号公報(請求項1、段落0007〜0011、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に示された方法では、車体の寸法精度をチェックする専用のロボットが必要となる。このため、装置のコスト増加に加えて、車体の組立ライン全体の面積が増大することにもなる。また、この方法は時間がかかるため、全数検査は困難であり、抜取り検査にせざるをえないという制約がある。このため、部品取付け工程ではじめて取付部位寸法の異常が分かり、作業時間のロスが生じることになる。
【0004】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、自動車の組立ライン中に特別の寸法測定装置を設置することなく、車体の全数を測定して次工程に寸法に異常がある車体を流さないことができる車体の自動測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決した本発明のうち、請求項1に記載された車体の自動測定システムは、車体の組立用の多関節ロボットと、多関節ロボットの制御装置と、多関節ロボットのアームの先端に設けられたタッチセンサとを含んで構成され、下流側工程で部品が取り付けられる車体の部品取付部位の少なくとも2点にタッチセンサを順次接触させて、制御装置により2点の各々の座標データを取得して前記2点間の距離の演算値を求め、演算値が予め設定した第1の公差の範囲を外れるときは車両の組立ラインを一時停止することを特徴とする構成とした。
【0006】
請求項1に記載の車体の自動測定システムでは、既存の車体の組立用の多関節ロボットを使用するので、新たな測定用の装置を設ける必要が無い。また、自動車の組立ラインにおいて、ある車体組立用のロボットの下流側の工程で部品を取り付ける部位の寸法のみを測定すればよいので、1台のロボットでの測定点数は少なくて済み短時間で測定できるので、車体の全数検査が可能になる。
【0007】
また、請求項2に記載された車体の自動測定システムでは、座標データはx、y、z座標系によって表され、前記2点の各々の座標データを取得するとき、x、y、z成分のうちいずれか1または2のデータを取得して2点間の距離の演算値を求めることを特徴とする構成とした。なお、本発明では、車両の高さ方向の鉛直な座標軸をz軸、車両の幅方向でz軸と直交する座標軸をx軸、車両の前後方向でx軸とz軸と直交する座標軸をy軸とする。
【0008】
請求項2に記載の車体の自動測定システムでは、車体の寸法を測定するときに三次元の全データを取得するのではなく、一次元、または二次元の座標データのみを取得するので、測定時間を短縮することができる。通常、自動車の組立ラインにおいてロボットを用いる場合、組立ライン上の車体の位置はほぼ一定に調整されているため、このように測定を簡素化することができる。
【0009】
請求項3に記載された車体の自動測定システムは、さらに前記2点以外の点にタッチセンサを接触させ、その点の座標データを取得して予め設定した第2の公差の範囲と比較し、その範囲を外れるときは組立ラインを一時停止することを特徴とする構成とした。
【0010】
請求項3の車体の自動測定システムによれば、自動組立ライン上の車体の位置の異常の有無を確認することができ、正常な位置にないと判断される場合には自動組立ラインを停止することにより、寸法が適正に測定されなかった車体が下流側工程へ流出することを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
このような車体の自動測定システムによれば、自動車の組立ライン中に特別の寸法測定装置を設置することなく車体の全数を測定して、部品取付部位の寸法に異常のある車体が下流側工程へ流出することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1〜4を参照しながら、車体Bの組立用の多関節ロボット1が溶接ロボット(以下、溶接ロボット1という)である場合を例に、本実施形態に係る車体の自動測定システム10について説明する。図1は車体の自動測定システム10の構成を示す斜視図、図2は溶接ロボット1の概略の構造を示す斜視図、図3はタッチセンサ3の動作の説明図、図4は部品取付部位の寸法測定手順を説明するフローチャートである。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る車体の自動測定システム10は、車体Bの組立用の多関節ロボットである溶接ロボット1、溶接ロボット1の制御装置6、組立ラインL、および溶接ロボット1のアーム(第2のアーム7b)の先端の手首ユニット7cに設けられたタッチセンサ3を含んで構成されている。組立ラインLはコンベア等の搬送手段により車体Bを上流側の工程から下流側の工程に順次送るものであり、各工程での異常の有無などを含め、組立ラインL全体を監視するコンピュータ(図示せず)により制御されている。
【0014】
まず、本実施形態で用いられる溶接ロボット1について図2を参照して説明する。
溶接ロボット1は、ベース8と、ベース8上に設けられた第1のアーム7aと、これに接続される第2のアーム7bと、これに接続される手首ユニット7cと、第1のアーム7a、第2のアーム7bおよび手首ユニット7cを回転・回動させるサーボモータ(図示せず)からなり、制御装置6によりその動作を制御されている。また、手首ユニット7cの先端部には車体の組立用の各種工具が取付け可能であり、本実施形態ではタッチセンサ3と、溶接ガン4が取付けられている。また、溶接ロボット1は、以下説明する6本の回転軸によりその姿勢が制御される。
【0015】
前記した6本の回転軸は、第1のアーム7aをベース8に対して垂直な軸を中心に旋回させる回転軸(1軸)と、第1のアーム7aをベース8との接続部にある水平な軸を中心に回転させる回転軸(2軸)と、第1のアーム7aと第2のアーム7bがなす角度を変化させるように第2のアーム7bを回転させる回転軸(3軸)と、第2のアーム7bをその長軸を中心に回転させる回転軸(4軸)と、手首ユニット7cと第2のアーム7bのなす角度が変化するように手首ユニット7cを回転させる回転軸(5軸)と、5軸と直交する軸を中心に手首ユニット7cを回転させる回転軸(6軸)からなる。
【0016】
制御装置6はコンピュータ等の高速演算装置を有しており、多関節ロボットの各回転軸の位置座標を演算することにより、手首ユニット7cの先端のタッチセンサ3および溶接ガン4の位置を認識し、あるいはタッチセンサ3および溶接ガン4を所定の移動軌跡に沿って移動させることができる。
【0017】
さらに、制御装置6は、溶接加工を行うための溶接条件等の溶接プログラム、さらに、後述する自動寸法測定プログラムを所定のメモリ内に記憶している。そして、これらのプログラムを実行して各サーボモータに所定の動作をさせることにより、溶接ガン4およびタッチセンサ3の移動軌跡を制御する。なお、本実施形態の溶接ロボット1は手首ユニット7cを回転させることにより、溶接ガン4およびタッチセンサ3のどちらを使用するか選択可能に構成されている。
【0018】
次に、図1を参照して溶接ロボット1の動作について説明する。ここでは、溶接ロボット1により車体Bのルーフ上の溝Gの中に部品取り付け用のピンを溶接する場合を想定して説明する。
まず、組立ラインLのコンベアによって、ルーフに溝Gが形成されている車体Bが溶接ロボット1の前の所定の位置まで搬送されて来る。これを検知した制御装置6は、手首ユニット7cの先端に設けられたタッチセンサ3を測定原点位置に移動させる。
【0019】
そして、溶接ロボット1の制御装置6は、タッチセンサ3を微速で下方へ移動させ、溝Gの底面に接触させてピンを溶接すべき位置のz成分の位置座標データを決定する。次にタッチセンサ3を溝Gの両壁面に接触させて、ピンを溶接すべき位置(両壁面の中央)のx成分の位置座標データを演算して決定する。最後にタッチセンサ3を車体Bの後面の所定の位置に接触させ、ピンを溶接すべき位置のy成分の位置座標データを演算して決定する。
【0020】
次いで、溶接ロボット1の制御装置6は、手首ユニット7cを回転させて溶接ガン4を車体B側に向ける。そして、溶接ガン4の先端にピン(図示せず)を保持し、前記のようにして決定した車体Bの溶接位置にピンを当接させ、記憶されているプログラムに従ってピンを車体Bの溝Gに溶接する。
【0021】
次にこの溶接ロボット1を利用した車体の自動測定システム10について、車体Bのルーフに設けられた取付け孔Ha(図1参照)の寸法を測定する場合を例にして、図2〜4を適宜参照しながら説明する。なお、本実施形態では取付け孔Haの長軸が車幅方向と平行な場合を想定して説明する。この車体Bのルーフに設けられた取付け孔Haは、請求項1にいう下流側工程で部品が取り付けられる車体の部品取付部位にあたる。
【0022】
まず、図3に示すように、溶接ロボット1の制御装置6は、タッチセンサ3をx方向測定のスタート点9まで移動させる(図4のステップS1)。このx方向測定のスタート点9は、取付け孔Haのほぼ中央からやや下方となる位置に設定され、予め制御装置6に記憶されている。
【0023】
次いで、タッチセンサ3をx軸に沿い、かつ一定高さで+x方向に向け微速で移動させる(S2)。すなわち、y成分、z成分の値は一定値として移動させる。制御装置6は、タッチセンサ3と車体Bとの接触を検知したら、そのx成分の座標データ(x1)を取得すると共にタッチセンサ3をx方向測定のスタート点9まで戻す(S3、S4)。
次に制御装置6は、タッチセンサ3を−x方向に向けて微速で移動させて、前記と同様にしてx成分の座標データ(x2)を取得する(S5、S6)。
【0024】
制御装置6は、x成分のデータを取得したら、タッチセンサ3をz方向測定のスタート点11に移動させ、タッチセンサ3を−z方向へ微速で移動させる(S7、S8)。そして、図4のステップS9に示すように、制御装置6はタッチセンサ3が車体Bに接触したときのz成分の座標データ(z1)を取得する。なお、z方向測定のスタート点11には、車体Bの上方の任意の点を選択することができる。z方向の寸法測定を短時間で行うには、部品取付部位の近傍の地点、例えば部品取付部位から1cm以内の範囲にある平坦な部分の上方に、z方向測定のスタート点11を設定することが好ましい。また、部品取付部位である取付け孔Haの水平度を確認するためには、取付け孔Haの長軸の延長線上に設定することが好ましい。
【0025】
制御装置6は、取得した座標データから(x1−x2)を演算し、この値と予め記憶されている第1の公差の範囲SxL〜SxUと比較して、(x1−x2)がこの範囲を外れるときは組立ラインLを一時停止させる。このとき制御装置6が一時停止を知らせる警報を出すようにしてもよい。組立ラインLを一時停止することにより、下流側の工程で部品の取り付けに支障が生じることを未然に防止できる。なお、組立ラインLの一時停止は、例えば制御装置6から組立ラインL全体を制御しているコンピュータ(図示せず)に停止信号を送ることにより行なうことができるが、この方法に限定されない。
【0026】
また、制御装置6は、取得したz成分の座標データを、予め記憶されている第2の公差の範囲SzL〜SzUと比較して、z成分の座標データがこの範囲内を外れるときは組立ラインLを一時停止させる。
z成分の座標データを測定すれば、車体Bが水平に置かれているか否かを検知でき、これにより寸法測定が適正に行なわれたか否かを判断することができる。そして、車体Bの寸法測定が適正に行われなかったときに組立ラインLを一時停止することにより、寸法測定精度の信頼性に欠ける車体Bが下流側工程へ流出することを防止できる。
【0027】
本実施形態の変形例として、タッチセンサ3を+x方向および/または−x方向に移動させるとき、所定量を超えて移動したにもかかわらず車体Bに接触しない場合に、組立ラインLを一時停止させることもできる。すなわち、図4においてS2またはS5の後に、タッチセンサ3の移動量が一定値を超えたら組立ラインを停止するステップを加えることができる。このようにすれば、より早く寸法の異常を知ることができる。
このように、本実施形態ではx成分のデータだけを取得して寸法の異常を判断するので、下流側工程で部品が取り付けられる車体Bの部位の寸法検査を短時間で行なうことができる。
【0028】
以上説明した車体の自動測定システム10によれば、寸法が基準範囲を外れる車体Bが下流側工程に流出することを防止することができる。これにより、例えば取付け孔Haの再加工などの必要な処置を従来よりも早い段階で行なうことが可能になる。これにより寸法に異常がある車体Bが組立ラインL上にある無駄な時間が省かれる結果、車体の組立工程全体の生産性が向上する。
【0029】
自動車の組立ラインLには種々の工程があるが、各工程が同一の時間で行なわれるわけではなく、一部の工程のロボットでは待機時間が生じる場合がある。この待機時間を利用して本発明に係る寸法測定を行なえば、1台の自動車の組立に必要な全工程の時間を延長することなく車体の全数を測定し、下流側工程に不良品を流出させないことができる。なお、ここで言う下流側工程とは、ある工程の下流にある工程のいずれかを指し、直近の次工程に限定されるものではない。
【0030】
以上の実施形態ではx成分の座標データから部品取付部位の寸法を測定する例を説明したが、x、y、z成分のうちいずれか2つのデータを取得して寸法を測定することもできる。例えば、取付け孔Haが車体の側面に設けられ上下方向に長い場合、x、y成分は一定にして、z成分の座標データから取付け孔Haの寸法を求めることもできる。この場合、車体の側面の取付け孔Haとは異なる位置にタッチセンサ3を接触させてx方向の座標データを取得して、測定が正常に行なわれたか判断させることもできる。
【0031】
あるいは、車体Bのルーフ上に設けられた部品の取付け孔Haが、車幅方向に対して傾斜している場合、タッチセンサ3を取付け孔Ha内の同一の高さ、すなわちz成分の値を一定値として移動させ、座標データ(x1、y1)と(x2、y2)を取得し、この二次元データから取付け孔Haの寸法を求める。そして、z成分の座標データ(z1)を取得して測定が正常に行なわれたか判断させることもできる。
【0032】
また、本実施形態において、車体のルーフの取付け孔Ha,Hbの、それぞれの孔の寸法を測定した後、x成分の位置座標データの差から取付け孔Haと取付け孔Hbの間隔を演算し、予め設定した公差の範囲内に入るかを判断する車体の自動測定システム10とすることもできる。さらに、測定した座標データを制御装置6等に蓄積し、標準偏差を算出して工程能力を求めることもできる。これにより、例えば初めて生産する車種の車体Bの加工精度を監視して、問題があれば必要な対策を講じることが可能な車体の自動測定システム10とすることもできる。
【0033】
なお、前記の本実施形態では、多関節ロボットが溶接ロボット1である場合を例に説明したが、本発明に用いることができる多関節ロボットは溶接ロボット1に限定されない。被測定物に対してアームを様々な角度から接近させてタッチセンサ3を接触させることができる多関節型ロボット(x、y、zの座標変更されて表示しているロボット)であればよく、ロボットの用途は重要ではない。
【0034】
多関節ロボットで高い測定精度を得るためには、部品取付部位の寸法の基準範囲と比較して、ロボットが制御できる位置精度の方が10倍以上高いことが好ましい。例えば、車体に設けられた孔の寸法の基準範囲が±0.3mmの場合、0.03mm以下の位置精度で停止位置を制御できる多関節ロボットを用いることが好ましい。
【0035】
また、タッチセンサ3は車体Bに接触したとき、電気信号を制御装置6へ送れるセンサであればよく、例えば車体Bとの接触による通電で電気信号を発生するセンサを用いることができるが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態に係る車体の自動測定システムを表す概念図である。
【図2】実施形態に係る多関節ロボット(溶接ロボット)の概略外観を表す斜視図である。
【図3】寸法測定時のタッチセンサの動作の説明図である。
【図4】車体の寸法測定手順を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
1 溶接ロボット(多関節ロボット)
3 タッチセンサ
6 制御装置
7a 第1のアーム
7b 第2のアーム
7c 手首ユニット
10 車体の自動測定システム
B 車体
Ha 取付け孔(部品取付部位)
L 組立ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の組立用の多関節ロボットと、
前記多関節ロボットの制御装置と、
前記多関節ロボットのアームの先端に設けられたタッチセンサと、
を含んで構成され、
下流側工程で部品が取り付けられる車体の部品取付部位の少なくとも2点に前記タッチセンサを順次接触させて、前記制御装置により前記2点の各々の座標データを取得して前記2点間の距離の演算値を求め、
前記演算値が予め設定した第1の公差の範囲を外れるときは車両の組立ラインを一時停止する
ことを特徴とする車体の自動測定システム。
【請求項2】
前記座標データはx、y、z座標系により表され、前記2点の各々の座標データを取得するとき、x、y、z成分のうちいずれか1または2のデータを取得して、このデータに基づき前記2点間の距離の演算値を求めることを特徴とする請求項1に記載の車体の自動測定システム。
【請求項3】
さらに、前記2点以外の点にタッチセンサを接触させ、その点の座標データを取得して、予め設定した第2の公差の範囲と比較し、その範囲から外れるときは車両の組立ラインを一時停止することを特徴とする請求項2に記載の車体の自動測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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