説明

車体前部構造

【課題】スプリングタワー及びサイドメンバの変形を抑えることのできる車体前部構造の提供を目的とする。
【解決手段】フロントサイドメンバ22、補強部材36、及びサスペンションアーム38がボルト40ナット48、カラー50,52で互いに締結する構成とされ、補強部材36が、サスペンションタワー30から下方へ延びてフロントサイドメンバ22の下壁24Cに回り込んで、サスペンションタワー30、フロントサイドメンバ22の外壁面24B及び下壁24Cに接合されて、サスペンションタワー30と、フロントサイドメンバ22の互いに直交する2壁面との補強を行っているので、サスペンションタワー30の変形、及びフロントサイドメンバ22の変形を、サスペンションタワー30やフロントサイドメンバ22の板厚を増加する事無く効果的に抑えることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、車両前後方向に延びるサイドメンバと、サイドメンバの上方にて車両前後方向に延びるエプロンメンバとを備えた自動車の前部車体構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005―335619号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、エプロンメンバの前端とサイドメンバとの間に剛性部材を掛け渡しているが、剛性部材はスプリングタワーの変形を抑えるものでは無い。
車両がコーナリングすると、サスペンションのスプリング及びショックアブソーバによる突き上げ力がサスペンションタワーに作用し、該突き上げ力がサスペンションタワーを介してサイドメンバの側壁に作用するため、サスペンションタワー、及びサイドメンバが変形をきたすため、両者の変形を抑える上で改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、スプリングタワー及びサイドメンバの変形を抑えることのできる車体前部構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車体前部構造は、車両前後方向に沿って配置されるサイドメンバと、前記サイドメンバの車両上方において車両前後方向に沿って配置されるエプロンアッパメンバと、前記サイドメンバと前記エプロンアッパメンバとに結合されるサスペンションタワーと、前記サスペンションタワーの上下方向に沿って配置され、前記サスペンションタワーと前記エプロンアッパメンバとに接合されて少なくとも前記サスペンションタワーとで閉断面部を形成すると共に、下端部が前記サイドメンバの下面にまで回しこまれて前記下面に接合されている補強部材と、を有する。
【0007】
請求項1に記載の車体前部構造では、補強部材がサスペンションタワーとエプロンアッパメンバとに接合され、補強部材とサスペンションタワーとで閉断面部が形成されているので、サスペンションタワーが補強部材によって補強され、サスペンションタワーの変形が抑えられる。
【0008】
さらに、サスペンションタワーとエプロンアッパメンバとに接合された補強部材は、下端部がサイドメンバの下面にまで回しこまれてサイドメンバの下面に接合されているため、サイドメンバが補強部材によって補強され、サイドメンバの断面崩れが抑えられる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車体前部構造において、前記補強部材の前記下端部にサスペンションメンバが取り付けられ、前記サイドメンバと前記サスペンションメンバとの間に前記補強部材を配置した状態で、前記サイドメンバと前記補強部材と前記サスペンションメンバとが連結部材で連結されている。
【0010】
請求項2に記載の車体前部構造では、補強部材の下端部にサスペンションメンバが取り付けられ、サイドメンバとサスペンションメンバとの間に補強部材を配置した状態で、サイドメンバと補強部材と前記サスペンションメンバとが連結部材で連結されているため、サイドメンバのサスペンションメンバの取り付け部分の剛性が確保され、コーナリング時にサスペンションメンバからの横力の入力によってサイドメンバが変形することが抑えられる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車体前部構造において、前記連結部材は、前記サイドメンバ、前記補強部材及び前記サスペンションメンバを貫通するボルトと、前記ボルトと螺合するナットである。
【0012】
請求項3に記載の車体前部構造では、サイドメンバと補強部材とサスペンションメンバとがボルトとナットによって連結されている(共締めされている。)。
なお、サイドメンバと補強部材とサスペンションメンバとをボルトとナットによって連結しているので、溶接と違って分解も容易である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車体前部構造において、前記断面部と繋がる別の閉断面が前記補強部材と前記サイドメンバとで形成されている。
【0014】
請求項4に記載の車体前部構造では、サスペンションタワーと補強部材とで形成される閉断面部と繋がる別の閉断面が補強部材とサイドメンバとで形成されているので、閉断面としない場合に比較してサイドメンバに対して高い補強効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように請求項1に記載の車体前部構造によれば、簡単な構成でスプリングタワー及びサイドメンバの変形を抑えることが出来る。
【0016】
請求項2に記載の車体前部構造によれば、コーナリング時の横力によるサイドメンバの変形を抑えることができる。
【0017】
請求項3に記載の車体前部構造によれば、サイドメンバと補強部材とサスペンションメンバとを容易に分解することが出来る。
【0018】
請求項4に記載の車体前部構造によれば、サイドメンバの変形を更に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車両前部構造の一実施形態の要部を示す斜視図である。
【図2】車両前部構造の車両外側から見た側面図である。
【図3】サスペンションタワー、フロンとサイドメンバ、補強部材、及びサスペンションメンバの車幅方向に沿った断面図である。
【図4】図3に示す車両前部構造の4−4線断面図である。
【図5】図1に示す車両前部構造の5−5線断面図である。
【図6】他の実施形態に係るサスペンションタワー、フロンとサイドメンバ、補強部材、及びサスペンションメンバの車幅方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1〜図5を用いて、本発明に係る車両前部構造の適用された車両について説明する。図中、矢印FRは車体前方方向を、矢印INは車体外側方向を、矢印UPは車体上方方向を示す。
【0021】
(エプロンアッパメンバ)
図1に示すように、車体のフロントボディー10の車幅方向両端上部には、エプロンアッパメンバ12が車体前後方向に沿って配置されており、このエプロンアッパメンバ12は、車両前後方向前側のエプロンアッパアウタ14、及びエプロンアッパインナ16と車両前後方向後側のエプロンアッパアウタ18、及びエプロンアッパインナ20とによって矩形の閉断面構造とされている。
【0022】
エプロンアッパアウタ14は、断面略L字形状とされ、車幅方向外側端からは車幅方向外側へ向けてフランジ14Aが形成され、車幅方向内側端からは車体下側へ向けてフランジ14Bが形成されている。
【0023】
車両前後方向前側のエプロンアッパアウタ14のフランジ14Aは、エプロンアッパインナ16の上壁16Aの車幅方向外側端部分にスポット溶接等で接合されている。一方、エプロンアッパアウタ14のフランジ14Bは、エプロンアッパインナ16の側壁16Bにスポット溶接等で接合されている。
【0024】
車両前後方向後側のエプロンアッパアウタ18のフランジ18Aは、エプロンアッパインナ20の上壁20Aの車幅方向外側端部分にスポット溶接等で接合されている。一方、エプロンアッパアウタ18のフランジ18Bは、エプロンアッパインナ20の側壁20Bにスポット溶接等で接合されている。
【0025】
また、エプロンアッパインナ16の上壁16Aとエプロンアッパインナ20の上壁20Aとはスポット溶接等で接合され、エプロンアッパインナ16の側壁16Bとエプロンアッパインナ20の側壁20Bとはスポット溶接等で接合されている。
【0026】
(フロントサイドメンバ)
エプロンアッパメンバ12の車幅方向内側下方には、車体前後方向に沿ってフロントサイドメンバ22が配設されている。フロントサイドメンバ22は、フロントサイドメンバロア24とフロントサイドメンバアッパ26とによって矩形の閉断面構造とされている。
フロントサイドメンバロア24の断面形状は、開口部を車体上方へ向けた略コ字形状とされており、車幅方向内側端部には車体前後方向に沿ってフランジ24Aが形成されている。
【0027】
一方、フロントサイドメンバアッパ26は、フロントサイドメンバロア24の開口部分を塞ぐ上壁面26Aの車幅方向外側端部に、車体上方に向けてフランジ26Bが形成されている。フランジ26Bは、フロントサイドメンバロア24の車幅方向外側の外壁面24Bの上端部分にスポット溶接等で接合されている。
【0028】
(ホイールエプロン)
エプロンアッパインナ16の車幅方向内端側の車両下方側には、ホイールエプロンフロント28が一体的に形成されている。
図1、及び図2に示すように、ホイールエプロンフロント28は、車幅方向外側に側壁28A、側壁28Aの下端から車幅方向内側へ延びる水平壁部28B、水平壁部28Bの車幅方向内側端から車体下方に向けて延びるフランジ28C、及び側壁28Aと水平壁部28Bとの隅部分に形成される球面状のホイールアーチ部フロント28Dを備えている。
このホイールエプロンフロント28のフランジ28Cは、フロントサイドメンバロア24の車幅方向外側の外壁面24Bの上端部分にスポット溶接等で接合されている。
【0029】
(サスペンションタワー)
図1に示すように、ホイールエプロンフロント28の車体前後方向後側には、サスペンションタワー30が配置されている。
サスペンションタワー30の上壁部30Aには、図5に示すスプリング54、及びショックアブソーバ56を取り付けるために用いられる開口32、及びボルト孔34が形成されている。
【0030】
サスペンションタワー30には、上壁部30Aの車幅方向外側端部に車両前後方向に沿って延びるフランジ30Bが形成され、上側部分の車幅方向両側に上下方向に延びるフランジ30Cが形成され、下側部分にホイールアーチ部フロント28Dに沿って円弧状に形成されたホイールアーチ部中央30Dが形成されている。
サスペンションタワー30のフランジ30Bはエプロンアッパインナ16の側壁16Bにスポット溶接等で接合されている。
【0031】
一方、サスペンションタワー30のフランジ30Cは、エプロンアッパインナ20の側壁20B、及びホイールエプロンフロント28の側壁28Aにスポット溶接等で接合されている。
サスペンションタワー30のホイールアーチ部中央30Dは、車体前後方向両端部が、ホイールエプロンフロント28のホイールアーチ部フロント28D及びサスペンションタワー30を挟んでホイールエプロンフロント28の反対側に配置される図示しないホイールエプロンリアのホイールアーチ部リアにスポッと溶接等で接合されている。
また、サスペンションタワー30の下端部分は、フロントサイドメンバロア24の外壁面24Bにスポット溶接等で接合されている。
【0032】
(補強部材)
図1〜図3に示すように、ホイールエプロンフロント28、及びフロントサイドメンバ22の下側には、車両幅方向に延びる補強部材36が配設されている。
補強部材36は、下壁36A、下壁36Aの車両前後方向の両端から上方へ延びる側壁36B、側壁36Bの上端から下壁36Aとは反対側へ延びるフランジ36Cを備え、断面形状が略ハット型を呈している。
【0033】
フランジ36Cは、ホイールエプロンフロント28のホイールアーチ部フロント28Dの下面、フロントサイドメンバロア24の外壁面24B、及びフロントサイドメンバロア24の下壁24Cにスポット溶接等で接合されている。
フロントサイドメンバ22の下側に配置される補強部材36の下部の下側には、中空構造とされたサスペンションアーム38の端部分が配置されている。
【0034】
図3、及び図4に示すように、このサスペンションアーム38の端部分には、サスペンションアーム固定用の後述するボルト40を挿通させる孔42,42が形成されている。
サスペンションアーム38の孔42,42と同軸的に、補強部材36には孔44が形成され、フロントサイドメンバロア24の下壁24Cには孔46が形成されている。
【0035】
フロントサイドメンバロア24の下壁24Cの上面には、孔46と同軸的にチューブ状のナット48が溶接されている。
補強部材36の内部には、孔44と同軸的にパイプ状のカラー50が配置され、サスペンションアーム38の内部には、孔42,42と同軸的にパイプ状のカラー52が配置されている。
【0036】
サスペンションアーム38の孔42,42及びカラー52、補強部材36の孔44及びカラー50、フロントサイドメンバロア24の孔46をサスペンションアーム38の下側からボルト40が挿通してナット48に螺合することで、サスペンションアーム38の端部分が補強部材36とフロントサイドメンバ22との連結部分に固定されている。
【0037】
(作用)
次に、本実施形の車両前部構造の作用を説明する。
車両がコーナリングをした際、サスペンションのスプリング54及びショックアブソーバ56からの突き上げ力Fuがサスペンションタワー30に作用し、その突き上げ力Fuがサスペンションタワー30を介してフロントサイドメンバロア24の外壁面24Bに作用すると共に、フロントサイドメンバロア24の下壁24Cにサスペンションアーム38から車幅方向内側へ向かう力Fsが作用する。
【0038】
これらの力はフロントサイドメンバ22の断面崩れ(図4(B)に示す実線状態から2点鎖線の状態への変形)を引き起こすものであるが、本実施形態の車体前部構造では、フロントサイドメンバ22、補強部材36、及びサスペンションアーム38がボルト40ナット48、カラー50,52で互いに締結する構成とされ、補強部材36が、サスペンションタワー30から下方へ延びてフロントサイドメンバ22の下壁24Cに回り込んで、サスペンションタワー30、フロントサイドメンバ22の外壁面24B及び下壁24Cに接合されて、サスペンションタワー30と、フロントサイドメンバ22の互いに直交する2壁面との補強を行っているので、サスペンションタワー30の変形、及びフロントサイドメンバ22の変形(断面崩れ)を、サスペンションタワー30やフロントサイドメンバ22の板厚を増加する事無く効果的に抑えることが出来る。
【0039】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、フロントサイドメンバ22と補強部材36との連結部分に、サスペンションアーム38を締結する構成としたが、少なくともサスペンションアーム38はフロントサイドメンバ22に連結されれば良く、サスペンションアーム38はフロントサイドメンバ22と補強部材36との連結部分以外の部分に連結することも出来る。
【0040】
上記実施形態では、サスペンションアーム38の端部分が補強部材36の下側に配置されていたが、図6に示すように、サスペンションアーム38の端部分を補強部材36の内部に挿入しても良い。これにより、部品点数の軽減と、フロントサイドメンバ22、補強部材36、及びサスペンションアーム38の連結部分の高さを低くすることも出来る。
【0041】
なお、上記実施形態のサスペンションアーム38は中空構造であったが、サスペンションアーム38はダイキャスト等の中実構造であっても良い。
【0042】
上記実施形態では、サスペンション構造がストラット式であったが、サスペンション構造は、ダブルウィッシュボーン、マルチリンク等、ストラット式以外の他の形式のものであっても良い。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において各部材の形状を変形することも実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
10 フロントボディー(車体前部構造)
12 エプロンアッパメンバ
22 フロントサイドメンバ(サイドメンバ)
30 サスペンションタワー
36 補強部材
40 ボルト(連結部材)
48 ナット(連結部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に沿って配置されるサイドメンバと、
前記サイドメンバの車両上方において車両前後方向に沿って配置されるエプロンアッパメンバと、
前記サイドメンバと前記エプロンアッパメンバとに結合されるサスペンションタワーと、
前記サスペンションタワーの上下方向に沿って配置され、前記サスペンションタワーと前記エプロンアッパメンバとに接合されて少なくとも前記サスペンションタワーとで閉断面部を形成すると共に、下端部が前記サイドメンバの下面にまで回しこまれて前記下面に接合されている補強部材と、
を有する車体前部構造。
【請求項2】
前記補強部材の前記下端部にサスペンションメンバが取り付けられ、
前記サイドメンバと前記サスペンションメンバとの間に前記補強部材を配置した状態で、前記サイドメンバと前記補強部材と前記サスペンションメンバとが連結部材で連結されている、請求項1に記載の車体前部構造
【請求項3】
前記連結部材は、前記サイドメンバ、前記補強部材及び前記サスペンションメンバを貫通するボルトと、前記ボルトと螺合するナットである、請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記断面部と繋がる別の閉断面部が前記補強部材と前記サイドメンバとで形成されている、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−224165(P2012−224165A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92432(P2011−92432)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】