説明

車線維持支援装置

【課題】左右の車線区分線の一方しか認識できない場合、認識できない側の逸脱を適切に判定し不要警報の出力や不警報を防止する車線維持支援装置を提供すること。
【解決手段】自車両21の左右少なくとも一方の車線区分線の逸脱傾向を検出して乗員に警告する車線維持支援装置100において、車線区分線を認識する車線区分線認識手段12と、車両の操舵を検出する車両操作検出手段42と、を有し、左右の車線区分線のうち検出できない側へ、車両操作検出手段42により車両の操舵が検出された場合、左右の車線区分線のうち検出できない側のみ逸脱傾向の検出を緩和する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車線区分線の逸脱傾向を検出して運転者に警告する車線維持支援装置に関し、特に、自車両の左右いずれか片方の車線区分線が検出されない場合、不要警報を抑制する車線維持支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行レーンを撮影しその撮影結果に基づいて車両が走行レーン内を走行するよう運転者の操舵を支援する車線維持支援装置が知られている。しかしながら、道路には、分岐点や合流点のように左右の一方にしか車線区分線(以下、白線という)が表示されていない場合があり、車線維持制御が困難になることがある。例えば、車線維持支援装置は白線を逸脱するおそれが高くなると警報音を吹鳴して運転者に注意喚起するが、一方の白線が認識できない場合、白線の推定位置の誤差が大きくなり不要警報を発生させやすくなる。そこで、左右の白線の一方しか認識できない場合、逸脱予測の判定基準を緩和する車線維持支援装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、車両のヨー角に基づき算出される前方注視点の変位量に基づき車線逸脱傾向を判定する車線維持支援装置において、左右の白線の一方しか認識できない場合、変位量にヨー角が与える影響を小さくする車線維持支援装置が記載されている。
【特許文献1】特許第3922194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の車線維持支援装置のように、逸脱予測の判定基準を緩和すると、左右のいずれかに白線はないが直進状態を維持すべき道路や実際よりも外側に白線が誤認識されている場合に、警報音の吹鳴が遅れるか逸脱しても警報音が吹鳴されない(不警報)おそれがある。
【0004】
また、左右の白線の一方しか認識できない場合、車線維持支援装置は認識されない白線に仮想線を生成し仮想線を基準に逸脱傾向を判定する場合がある。しかしながら、仮想線を生成すると、車線数が増加する道路において、元の走行レーンから増加した走行レーンに車線変更する場合に仮想線を逸脱することになるので、判定基準を緩和していても警報音が吹鳴されてしまう(不要警報)。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、左右の車線区分線の一方しか認識できない場合、認識できない側の逸脱を適切に判定し不要警報の出力や不警報を防止する車線維持支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、自車両の左右少なくとも一方の車線区分線の逸脱傾向を検出して乗員に警告する車線維持支援装置において、車線区分線を認識する車線区分線認識手段と、車両の操舵を検出する車両操作検出手段と、を有し、左右の車線区分線のうち検出できない側へ、前記車両操作検出手段により車両の操舵が検出された場合、左右の車線区分線のうち検出できない側のみ逸脱傾向の検出を緩和する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、一方の白線が認識できず白線の推定位置の誤差が大きくなっても、認識できない側の逸脱傾向の判定を緩和するので、不要警報を抑制することができる。
【0008】
また、本発明の一形態において、左右の車線区分線のうち検出できない側に、車線区分線の仮想線を設定する仮想線設定手段と、車両操作検出手段により左右の車線区分線のうち検出できない側へ車両の操舵が検出された場合、仮想線を操舵方向に移動させる仮想線修正手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、認識できない側に仮想線を設定し操舵に応じて移動させるので、合流等で車線変更しても仮想線を逸脱しにくくなり、認識できない側の逸脱傾向の判定を緩和し不要警報を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の一形態において、仮想線修正手段は、車幅方向の移動量に応じて仮想線を操舵方向に移動させる、ことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、車両の移動量に応じて徐々に仮想線を移動させるので、車両と仮想線の距離を適切に保つことができる。
【0012】
また、本発明の一形態において、仮想線修正手段は、仮想線の移動速度に上限を設ける、ことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、仮想線が車両と共に移動し仮想線の逸脱傾向が検出困難となることを防止し、急激な車線変更に対し警報を出力することができる。
【発明の効果】
【0014】
左右の車線区分線の一方しか認識できない場合、認識できない側の逸脱を適切に判定し不要警報の出力や不警報を防止する車線維持支援装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0016】
本実施例の車線維持支援装置100は、左右いずれかの車線区分線が認識されない場合、認識できない側に仮想線を生成すると共に、運転者の車両操作に基づいて仮想線を修正する。例えば、運転者による車線変更の車両操作を検出して、仮想線を車線変更方向に徐々に修正できるので、仮想線を逸脱することを防止でき不要警報を抑制することができる。運転者が車線変更しない場合は、仮想線は修正されないので仮想線を逸脱する場合には警報音を吹鳴でき、不警報となるおそれもない。
【0017】
図1は、本実施形態の車線維持支援装置100のブロック図を示す。車線維持支援装置100は制御部14により制御される。制御部14はカメラ11、白線認識部12、トルクセンサ13及び警報装置15と、CAN(Controller Area Network)又は専用線を介して接続されている。
【0018】
カメラ11は例えば室内ルームミラーに車両前方へやや水平下向きに光軸を向けて搭載され、車両前方の所定角範囲で広がる領域を撮影する。カメラ11はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)やCCD(Charge Coupled Device)等の光電変換素子により、所定の輝度階調(例えば、256階調)の画像データ(デジタルデータ)を例えば毎秒30回程度、白線認識部12に出力する。
【0019】
白線認識部12は、カメラ11が撮影する画像データから走行レーンを区切る左右の車線区分線を検出する。なお、車線区分線は例えば、白線、黄線等種々の色で実線又は破線等で路面標示される。またいわゆるBotsDotsが車線区分線となる場合があるが、本実施例の車線区分線は路面標示に限られず車線を区分する機能を有する反射部材であってもよい(以下、車線区分線を単に白線という)。
【0020】
白線認識部12は、例えば、画像データの輝度に基づき、所定の閾値以上の輝度を有する領域をフレームの底部から上方に向けて探索しエッジを検出する。白線は両端に高周波成分たるエッジを有するので、画像データの輝度値を水平方向に微分すると(例えば、Sobelのオペレータを輝度値に施す)、白線の両端にピークが得られる。水平方向の輝度の勾配又は差分が所定以上の画素がエッジである。上下方向に検出される複数エッジを抽出しハフ変換することで左右の白線の直線式が得られ、この直線をそれぞれモデル式に表現することで、左右の2本の白線の消失点(交点)の座標が算出できる。モデル式は、道路曲率、ヨー角、幅員、オフセット量等の情報(以下、白線情報という)を含み、カメラ11の路面からの高さ、及び、路面に対する光軸のなす角は既知であるので、モデル式をカメラ11の座標系に変換することで白線情報が得られる。
【0021】
なお、左右の白線のいずれか認識されないと、白線認識部12は白線情報を正確に決定することはできない。そこで、後述するように、左右の白線の一方が認識されない場合、比較的安定している(変化の少ない)幅員を用いて仮想線を設定する。すなわち、左右の白線が共に認識された過去の幅員を利用して、認識されない側に仮想線を生成する。また、仮想線を設定後、左右の白線のいずれかが認識される場合は、認識された左右いずれかの白線を基準に認識されない側に仮想線を設定する。なお、本実施例では、左右の白線の一方が認識されない場合でも、取得可能な範囲で検出される幅員等を白線情報という。
【0022】
トルクセンサ13は、例えば、ステアリングシャフトの回転軸に沿って、多極マグネットとヨークがトーションバーを介して連結された構造を有し、ステアリングホイールに生じた操舵トルクによるトーションバーのねじれを多極マグネットとヨークの相対変化により検出し、その相対変化をホールICで電気信号に変換して操舵トルクを検出する。なお、トルクセンサ13は、運転者の操舵意志を検出するものなので、操舵角センサやヨーレートセンサを用いてもよい。
【0023】
警報装置15は、ブザー発生器や音声メッセージを出力するアンプやスピーカである。例えば、メータコンピュータやナビシステム等、警報音や音声出力機能を備えた装置に警報音の吹鳴や音声メッセージの出力を要求することができる。警報音等を吹鳴等することを以下、単に警報を出力するという。
【0024】
なお、制御部14に、ステアリングシャフトを回転駆動するパワステ用アクチュエータを制御可能なパワーステアリングコンピュータを接続してもよい。この場合、制御部14は、目標走行線(例えば車幅の中央を結ぶ線)からのオフセット量がゼロになるようオフセットと反対方向にオフセット量に応じた目標操舵力(例えば右が正、左が負)を決定し、パワーステアリングコンピュータに送信する。パワーステアリングコンピュータは、目標操舵力に応じてステアリングシャフトを操舵するので、走行レーン内を自車両が走行するように車線維持支援制御が実現される。
【0025】
図2は車線維持支援装置100の機能ブロック図の一例を、図3(a)は車線維持支援装置100が設定する仮想線23〜26を説明する図を、それぞれ示す。制御部14は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェイス等がバスで接続されたコンピュータであって、CPUがプログラムを実行するか又は演算回路やIC等のハードウェアにより、仮想線設定部44、車両操作検出部42、仮想線修正部41、車線逸脱判定部43、警報要求部45、が実現される。
【0026】
車両21A〜21Eは同一の車両(車両を区別しない場合、車両21という)の時系列上の位置を示す。車両21Aが片側一車線の道路を走行している間、白線認識部12は左白線27と右白線22を認識し、白線情報を車線逸脱判定部43に送出する。車線逸脱判定部43は、車両21Aのヨー角、車速及びオフセット量に基づき、所定時間内に左白線27又は右白線22を逸脱するおそれがある(以下、「逸脱傾向がある」という)場合、警報要求部45に警報を要求する。警報装置15は、警報要求部45の要求に応じて警報を出力する。
【0027】
図3(a)の道路は前方で車線数が増大するため右側に白線がない区間がある。右白線22が路面表示されていない区間の手前まで車両21Bが来ると、白線認識部12は右側の白線をロストし、右側の白線をロストしたことを示す片側白線ロスト情報を仮想線設定部44に送出する。これにより、車線逸脱判定部43は片側認識モードに移行する。片側の白線をロストしたことは、画像データから片方の白線のエッジが検出されず、他方の白線のエッジが検出されることから判定される。仮想線設定部44は、それまでに得られた白線情報に基づき白線が認識されない側に仮想線23を設定する。仮想線23は、左白線27と右白線22との幅員が車両21Bに対し得られるように、左白線27に対し設定される。したがって、図示するように右白線22を延長した位置に仮想線23が設定される。仮想線23が設定されると、車線逸脱判定部43は仮想線23及び左白線27に対し車両21Bの操舵の逸脱を判定する。
【0028】
車両操作検出部42は、トルクセンサ13の出力を監視し運転者による操舵トルクが所定値を超えたことを検出する。この所定値は運転者が車線変更する意志があると判定してよい程度の操舵トルクである。車線操作検出部は、所定値以上の操舵トルクを検出すると仮想線修正部41に、操舵トルクの大きさや検出時間等を含む操舵トルク情報を送出する。
【0029】
そして、仮想線修正部41は、認識される左白線27の位置を基準に、操舵トルク情報に基づき仮想線23の修正量を決定し、仮想線設定部44に送出する。例えば車両21Cにおいて仮想線修正部41が操舵トルク情報を取得した場合、仮想線修正部41は操舵トルク情報に基づき車両21Cの車幅方向の移動量を検出し、移動量に応じて算出した仮想線23の修正量を仮想線設定部44に送出する。仮想線設定部44はこの修正量に従い仮想線23を更新し仮想線24を設定する。
【0030】
したがって、車両21Cから見た右側の白線は仮想線24になり、その後、車両21Dが操舵を継続すると、仮想線修正部41が修正する修正量に応じて、車両21Dに対して仮想線25が設定され、車両21Eに対しては仮想線26が設定される。すなわち、車両21Aと右白線22との間の車幅方向の距離を保つように仮想線23〜26が設定されていく。これにより、白線認識部12により左右の白線の一方のみが検出されない場合に仮想線23を設定しても、運転者による車線変更の操作が検出されると、仮想線23〜26も車両の車幅方向の移動量に応じて移動するので不要警報を抑制することができる。
【0031】
このように、本実施例の車線維持支援装置100は、左右の車線区分線のうち検出できない側へ車両の操舵が検出された場合、左右の車線区分線のうち検出できない側のみ逸脱の検出判定を緩和する。
【0032】
なお、仮想線修正部41は仮想線23を移動する速度に上限を設けることが好ましい。例えば、運転者が無意識(疾病、眠気、脇見等)にステアリングホイールを操舵して、車幅方向の移動量が急激となった場合、車両21は仮想線23等を逸脱することになるので、警報を出力し、運転者の注意を促すことができる。
【0033】
図3(b)は運転者による所定値以上の操舵トルクが検出されない場合の車両制御の一例を示す図である。右白線22が認識されなくなると車両21Bの仮想線設定部44が仮想線23を設定するのは同様である。この場合に運転者が車両操作せず車両21Fが仮想線23を逸脱傾向するようになっても、所定値以上の操舵トルクが検出されないため仮想線23は更新されない。したがって、車両21Fに至るまでに車線逸脱判定部43は逸脱傾向があると判定して、警報装置15から警報を出力することができる。
【0034】
図4は、車線維持支援装置100が車両21の車幅方向の移動量に応じて仮想線23〜26を設定する手順を示すフローチャート図である。図4のフローチャート図は、車線維持支援装置100が白線認識している間、所定のサイクル時間毎に繰り返し実行される。
【0035】
白線認識部12は左右の白線を認識して、左右の白線を認識できた場合は白線情報を車線逸脱判定部43に、片側の白線のみを検出した場合は片側白線ロスト情報を仮想線設定部44にそれぞれ出力する(S10)。なお、左右の白線のいずれも認識できない場合、図4の手順は実行されない。
【0036】
車線逸脱判定部43は左右の白線をいずれも認識できたか否かを判定する(S20)。左右の白線のいずれも認識できた場合(S20のYes)、車線逸脱判定部43は白線情報に基づき逸脱傾向を判定する(S60)。左右の白線のいずれかを認識できない場合(S20のNo)、車線逸脱判定部43は片側認識モードに移行し、また、仮想線設定部44は仮想線23を設定する(S30)。
【0037】
ついで、車両操作検出部42は、仮想線23側に、車線変更する程度以上の操舵トルクが検出されたか否かを判定する(S40)。所定値以上の操舵トルクが検出されない場合(S40のNo)、仮想線23はそのまま維持され、右白線22を延長する位置に設定される。
【0038】
所定値以上の操舵トルクが検出された場合(S40のYes)、仮想線修正部41は車幅方向の移動量に応じて仮想線23の修正量を算出し、仮想線設定部44に送出する。仮想線設定部44は、修正量に従い仮想線23を仮想線24に更新する(S50)。したがって、車両21Bと仮想線23の車幅方向の距離、車両21Cと仮想線24の車幅方向の距離は、略一定に保たれる。
【0039】
なお、いったん操舵トルクが所定値以上になっても車線変更途中に操舵トルクが所定値を下回る場合があるが、操舵トルクが所定値を下回った場合、一定時間は仮想線24を維持する。これにより、車線変更の途中に一時的に操舵トルクが小さくなっても誤って警報を出力することを防止できる。
【0040】
また、図3(a)では車線は2つに増大しているが、3以上の車線に増大する場合があるため、所定値以上の操舵トルクが検出された場合、車線幅増加による制御を一時的に中断する。
【0041】
ついで、車線逸脱判定部43は車両21Cが逸脱傾向にあるか否かを判定する(S60)。すなわち、所定値以上の操舵トルクが検出された場合には仮想線24〜26及び左白線27に対し、所定値以上の操舵トルクが検出されない場合は仮想線23及び左白線27に対し、車両21Cが逸脱傾向にあるか否かを判定する。
【0042】
判定の結果、逸脱傾向がある場合は(S60のYes)、警報要求部45は警報装置15に警報の出力を要求する(S70)。
【0043】
なお、白線認識部12は車両21Cの車幅方向の移動量が車線変更と見なせる程度に達した場合、又は、操舵トルクがゼロ(直進方向を向いていると判定される程度)に安定した場合、左右の白線の認識を再開する。これにより、車線数が増大し車線変更が終了した後は、左右の白線を認識した白線情報に基づき逸脱判定することができる。車線維持支援装置100は以上の処理を繰り返す。
【0044】
また、本実施例では操舵トルクに基づき車線変更を検出したが、操舵角センサ又はヨーレートセンサ(ジャイロセンサ)に基づき、車両21の車線変更及び車幅方向の移動量を検出し、仮想線23を更新してもよい。
【0045】
また、片側に白線が表示されていないこと及び車線数の増加を、ナビゲーションシステムの道路地図情報、ウィンカスイッチ、車車間通信又は路車間通信により取得して、仮想線23の設定及び更新を開始してもよい。この場合の仮想線23の移動速度は例えば車速に応じたものとしてもよいし、車線変更時の典型的な移動速度に設定してもよい。
【0046】
また、本実施例では、車線数の増加を例に説明したが、車線数の減少、合流、分岐等、白線の一方が表示されておらずかつ車線数が変更する道路区間に好適に適用できる。
【0047】
以上説明したように、本実施例によれば、片側認識モードでは仮想線23の位置が修正されるので、白線が認識されない側の逸脱検出による不要警報を抑制することができる。
【実施例2】
【0048】
片側認識モードでは片側の白線のみを認識するため、認識した左白線27の位置の誤差が大きくなる場合がある。図5は、片側認識モードで生じうる不要警報の例を説明する図である。片側認識モードに移行すると車両21はそれまでの白線情報(例えば幅員)を、認識可能な左白線27に適用して仮想線23を設定するが、認識白線28の位置が含む誤差は徐々に大きくなる。したがって、左右の白線が共に認識されていた時に検出された幅員だけ認識白線28から離隔して仮想線23を設定すると、仮想線23の位置も右白線22に対して誤差が大きくなる。このため、車両21が走行レーンの略中央を走行していても、やがて仮想線23を逸脱することになり不要警報が出力されてしまう。
【0049】
そこで、本実施例の車線維持支援装置100は、運転者の覚醒度を検出して、運転者の覚醒度が高い場合であって、かつ、車両21が直進走行している場合、警報の出力を禁止する。したがって、片側認識モードでも運転者の覚醒度が高い場合は不要警報の出力を抑制することができる。
【0050】
図6(a)は、本実施例の車線維持支援装置100のブロック図の一例を示す。なお、図6(a)において、図1と同一構成部分には同一の符号を付しその説明は省略する。図6(a)では、運転者の顔を撮影する顔カメラ16及び運転者の顔画像から眼の開度を検出する覚醒度検出部17が制御部14に接続されている。
【0051】
顔カメラ16は、例えばステアリングコラムのアッパーコラムに、ステアリングホイールの円周部とスポークとに囲まれた扇状の開口部を通して、運転者の顔が存在する方向(車両後方かつ斜め上方)に光軸を向けて配置される。メータパネルに配置されていてもよい。顔カメラ16は、運転者の顔画像を真正面から撮影するようにステアリングホイールの中心を通る鉛直軸線上に配置されている。
【0052】
顔カメラ16は、左右両側に同数ずつ赤外線投光器を有している。赤外線投光器は、運転者の顔部へ向けて近赤外光を投光するLEDランプであり、夜間における運転者の顔の撮影を可能としている。顔カメラ16はCCDやCMOS等で構成され、赤外線投光器が照射する赤外光(ピーク波長約870nm付近)に感度を有しており、入射した光を電気に変換したあと所定階調のデジタルデータ(顔画像)を生成する。
【0053】
顔カメラ16及び赤外線投光器は覚醒度検出部17により制御され、例えば、赤外線投光器を毎秒60回発光させて、運転者の顔に向けて近赤外光を照射し、顔カメラ16は近赤外光で照射された運転者の顔画像を毎秒30フレームで取得し覚醒度検出部17に送出する。
【0054】
覚醒度検出部17は公知の眼の開閉検出を実行する。眼の開閉検出について簡単に説明する。覚醒度検出部17は、顔カメラ16から供給される顔画像からエッジ情報を抽出し、エッジ強度と閾値と比較することで顔画像を2値化したエッジ画像を生成する。そして、このエッジ画像のエッジ点を垂直下方向に投影するヒストグラムを作成し、ヒストグラムがピークを示す顔の両端を検出する。
【0055】
また、覚醒度検出部17はエッジ点の数が左右に均等となるように顔の中心線を検出し、中心線から両端部までの左右の顔の比率から顔向き角度を算出する。顔向き角度は、運転者が直線走行時にその走行レーンに沿って車両進行方向に真正面に視線を向けたときを0°とし、例えば右向きが正である。
【0056】
また、覚醒度検出部17は顔画像から比較的検出しやすい鼻孔位置を検出し、鼻孔位置と眼の位置の相対関係の統計情報を用いて鼻孔位置から眼球追跡領域を設定し、眼球追跡領域を上から下及び下から上に走査して瞼のエッジを検出する。上下の瞼のエッジ位置が眼の開度の大きさを示す。
【0057】
覚醒度検出部17は、予め取得した覚醒状態の運転者の眼の開度と検出した眼の開度を比較して眼の開閉を判定する。そして、閉眼が検出される度に閉眼計測時間を計上し、開眼が検出される度に閉眼計測時間を削減する。したがって、継続して閉眼が検出されると閉眼計測時間が増大する。覚醒度検出部17は、閉眼計測時間が所定の閾値を超えると運転者が強い眠気を感じているとして、例えば警報装置15に警報の出力を要求する。
【0058】
本実施例の車線維持支援装置100は閉眼計測時間に基づき運転者の覚醒度を検出し、閉眼計測時間が上記の閾値(又は車線維持支援装置100に好適な閾値)に基づき運転者の覚醒度が高いか低いかを判定する。
【0059】
なお、運転者の覚醒度は、例えば体温、脈拍、呼吸数、皮膚電位等の生体情報に基づき判定してもよいし、顔や躰を撮影してその動きが少ないことから検出してもよい。
【0060】
図6(b)は本実施例の機能ブロック図の一例を示す図である。なお、図6(b)において図2と同一構成部分には同一の符号を付しその説明は省略する。警報禁止部46は覚醒度検出部17が計測する閉眼計測時間を取得して、運転者の覚醒度が低いか高いかを判定する。また、警報禁止部46には車両操作検出部42から操舵トルク情報が送出される。操舵トルク情報により車両21の操舵方向が検知されるので、警報禁止部46は操舵方向と異なる方向に認識白線28又は仮想線23が変化した場合であって、かつ、覚醒度が高い場合には警報要求部45に警報の出力を禁止する。
【0061】
操舵方向と異なる方向に認識白線28又は仮想線23が変化する場合とは例えば次のような状況である。
・操舵トルクが検出されない状態(直進方向に走行)で、認識白線28又は仮想線23が右方向又は左方向に変化した場合。
・操舵トルクが右方向に検出された状態で、認識白線28又は仮想線23が左方向に変化した場合。操舵トルクが右方向に検出されると、仮想線修正部41が仮想線23を右方向に修正するが認識白線28の誤差が大きくなり左方向に変化すると、認識白線28に幅員分離隔した仮想線23の位置も変化するので、仮想線修正部41が仮想線23を右方向に修正しても仮想線23の逸脱傾向があると判定されることがある。左白線27は直線でも左右にカーブしていてもよい。
・操舵トルクが左方向に検出された状態で、認識白線28又は仮想線23が右方向に変化した場合。この場合、認識白線28は白線が路面標示されている側なので、仮想線修正部41が認識白線28を左方向に修正することはない。したがって、認識白線28の誤差が大きくなり右方向に変化すると、認識白線28の逸脱傾向が検出されることがある。左白線27は直線でも左右にカーブしていてもよい。
【0062】
運転者が操舵した方向と異なる方向に認識白線28又は仮想線23が変化しても、運転者の覚醒度が高い場合には運転者の操舵を信頼することで、不要警報を抑制することができる。
【0063】
なお、覚醒度だけでなく例えば脇見を検出して、覚醒度が高くても脇見している場合には警報の出力を禁止しないように制御してもよい。
【0064】
図7は、運転者の覚醒度が高い場合であって、運転者が操舵した方向と異なる方向に認識白線28又は仮想線23が変化した場合、車線維持支援装置100が警報の出力を禁止する手順を示すフローチャート図である。図7において図4と同一ステップには同一の符号を付しその説明は省略する。
【0065】
白線認識部12は左右の白線を認識して(S10)、左右の白線のいずれも認識できた場合は白線情報を車線逸脱判定部43に、片側の白線のみを認識できた場合は片側白線ロスト情報を仮想線設定部44にそれぞれ出力する(S20)。白線情報を取得できない場合、車線逸脱判定部43は片側認識モードに移行し、また、仮想線設定部44は仮想線23を設定する(S30)。
【0066】
ついで、警報禁止部46は運転者の例えば閉眼計測時間に基づき覚醒度を検出し(S110)、覚醒度が高いか否かを判定する(S120)。覚醒度が高くない場合(S120のYes)、警報禁止部46は警報要求部45による警報を禁止しない(S160)。
【0067】
覚醒度が高い場合(S120のYes)、車両操作検出部42は操舵トルクを検出する(S130)。警報禁止部46は操舵トルクが所定値以上か否かを判定し(S140)、所定値以上の操舵トルクが検出されない場合(S140のYes)、運転者は覚醒状態で直進していると推定してよいので、警報禁止部46は警報要求部45により警報を禁止する(S150)。したがって、仮に認識白線28が直進以外の方向に変化し、車線逸脱判定部43が認識白線28又は仮想線23を逸脱傾向があると判定しても、不要警報を抑制することができる。なお、所定値以上の操舵トルクが検出されるか否かでなく、所定値以上の操舵角が検出されるか否かや、所定値以上のヨーレートが検出されるか否かを判定してもよい。
【0068】
また、所定値以上の操舵トルクが検出される場合(S140のNo)、運転者は覚醒状態でステアリングホイールを操舵していると推定してよいので、警報禁止部46は警報要求部45による警報を禁止しない(S160)。したがって、例えば、操舵により認識白線28を逸脱しそうになったり、仮想線23を逸脱しそうになると警報を出力することができる。
【0069】
本実施例によれば、左右の白線の一方のみしか認識されず認識白線28の誤差大きくなり、運転者の操舵と異なる方向に逸脱傾向があっても、覚醒度が高い場合には警報の出力を禁止するので不要警報を抑制することができる。
【実施例3】
【0070】
実施例2において説明したように、片側認識モードでは充分でない情報から白線を認識するため、白線情報の信頼度が時間と共に低下する傾向になる。白線情報の信頼度が所定よりも低下した場合、白線情報に基づく警報の出力は不要警報となるおそれが高くなる。
【0071】
そこで、本実施例では片側認識モードの経過時間に応じた白線情報信頼度Aを予め定めておき、それと白線情報信頼度Bとを比較し、白線情報信頼度Aが白線情報信頼度Bを下回ったら警報の出力を禁止する車線維持支援装置100について説明する。
【0072】
図8(a)は、片側認識モードの経過時間に対する白線情報信頼度Aと白線情報信頼度Bの関係の一例を示す図である。白線情報信頼度Aは、例えば、実際の左白線27の位置と認識白線28の位置との乖離量(長さ)のずれ「1−乖離量/幅員」の平均的な値を、時間の経過と共に示したものである。
【0073】
白線情報信頼度Bは、例えば、運転者の覚醒度と操舵トルクに基づき算出される白線情報の信頼度である。運転者の覚醒度が高く、かつ、操舵トルクが検出される程度に運転者が操舵している間は、車両21は走行レーンの中央を走行していると考えられ、車両21の進行方向が走行レーンに沿ったものであると信頼してよい。これに対し、覚醒度が低い場合や長時間操舵トルクが検出されない場合、車両21の進行方向と走行レーンの相関の信頼度は低下する。したがって、白線情報信頼度Bは例えば以下のようにして算出できる。
白線情報信頼度B=α×覚醒度+β×操舵トルク検出後経過時間+γ
白線情報信頼度B=θ×覚醒度×操舵トルク検出後経過時間+ε
α〜εは覚醒度と操舵トルク検出後経過時間をそれぞれ重み付けする係数で、白線情報信頼度Aの絶対値と相関するように定められる。
【0074】
図8(b)は車線維持支援装置100の機能ブロック図の一例を示す図である。なお、図8(b)において図6(b)と同一構成部分には同一の符号を付しその説明は省略する。本実施例では信頼度算出部47が図8(a)のような白線情報信頼度Aを記憶した白線情報信頼度記憶部48を有する。そして、信頼度算出部47は、覚醒度検出部17が検出する閉眼計測時間、及び、車両操作検出部42が操舵トルクを検出してから経過した操舵トルク検出後経過時間、から白線情報信頼度Bを算出し、白線情報信頼度Aと白線情報信頼度Bを比較する。そして図8(a)に示すように、白線情報信頼度Aが白線情報信頼度Bを下回ったら、片側の白線を認識して得られた白線情報は信頼度が充分でないとして、警報禁止部46は警報の出力を禁止する。
【0075】
図9は、白線情報信頼度AとBの関係に応じて車線維持支援装置100が警報の出力を禁止する手順を示すフローチャート図である。図9において図7と同一ステップには同一の符号を付しその説明は省略する。
【0076】
白線認識部12は左右の白線を認識して(S10)、左右の白線のいずれも認識できた場合は白線情報を車線逸脱判定部43に、片側の白線のみを検出した場合は片側白線ロスト情報を仮想線設定部44にそれぞれ出力する(S20)。左右の白線のいずれかを認識できない場合(S20のNo)、車線逸脱判定部43は片側認識モードに移行し、また、仮想線設定部44は仮想線23を設定する(S30)。
【0077】
ついで、信頼度算出部47は白線情報信頼度Bを算出する(S210)。すなわち、覚醒度検出部17が検出する閉眼計測時間及び操舵トルク検出後経過時間から白線情報信頼度Bを算出する。そして、信頼度算出部47は白線情報信頼度Aと白線情報信頼度Bを比較し、白線情報信頼度Aが白線情報信頼度B以上か否かを判定する(S220)。
【0078】
白線情報信頼度Aが白線情報信頼度B以上の場合(S220のYes)、警報禁止部46は警報要求部45による警報を禁止しない(S160)。これに対し、白線情報信頼度Aが白線情報信頼度B以上でない場合(S220のNo)、片側の白線を認識して得られた白線情報は信頼度が充分でないとして、警報禁止部46は警報要求部45による警報を禁止する(S160)。
【0079】
したがって、片側認識モードが長時間継続し白線情報信頼度Aが低下した場合には、警報の出力が禁止されるので、車線逸脱判定部43が認識白線28又は仮想線23を逸脱傾向があると判定しても、不要警報を抑制することができる。
【0080】
なお、本実施例では白線情報信頼度Aと白線情報信頼度Bを比較したが、白線情報信頼度Aが所定値以下となった場合、又は、片側認識モードになってからの経過時間が閾値を超えた場合であって、覚醒度が高い場合には警報の出力を禁止してもよい。
【0081】
以上説明したように、本実施形態の車線維持支援装置100は、左右の車線区分線の一方しか認識できない場合、認識できない側の逸脱を適切に判定し不要警報の出力や不警報を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】車線維持支援装置のブロック図の一例である。
【図2】車線維持支援装置の機能ブロック図の一例である。
【図3】車線維持支援装置が設定する仮想線を説明する図である。
【図4】車線維持支援装置が車両の車幅方向の移動量に応じて仮想線を設定する手順を示すフローチャート図である。
【図5】片側認識モードで生じうる不要警報の例を説明する図である。
【図6】車線維持支援装置のブロック図及び機能ブロック図の一例である。
【図7】運転者の覚醒度が高い場合であって、運転者が操舵した方向と異なる方向に認識白線又は仮想線が変化した場合に、車線維持支援装置が警報の出力を禁止する手順を示すフローチャート図である。
【図8】片側認識モードの経過時間に対する白線情報信頼度Aと白線情報信頼度Bの関係の一例を示す図である。
【図9】白線情報信頼度AとBの関係に応じて車線維持支援装置が警報の出力を禁止する手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0083】
11 カメラ
12 白線認識部
13 トルクセンサ
14 制御部
15 警報装置
16 顔カメラ
17 覚醒度検出部
21 車両
23〜26 仮想線
41 仮想線修正部
42 車両操作検出部
43 車線逸脱判定部
44 仮想線設定部
45 警報要求部
46 警報禁止部
47 信頼度算出部






【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の左右少なくとも一方の車線区分線の逸脱傾向を検出して乗員に警告する車線維持支援装置において、
車線区分線を認識する車線区分線認識手段と、
車両の操舵を検出する車両操作検出手段と、を有し、
左右の車線区分線のうち検出できない側へ、前記車両操作検出手段により車両の操舵が検出された場合、左右の車線区分線のうち検出できない側のみ逸脱傾向の検出を緩和する、
ことを特徴とする車線維持支援装置。
【請求項2】
左右の車線区分線のうち検出できない側に、車線区分線の仮想線を設定する仮想線設定手段と、
前記車両操作検出手段により左右の車線区分線のうち検出できない側へ車両の操舵が検出された場合、前記仮想線を操舵方向に移動させる仮想線修正手段と、
を有することを特徴とする請求項1記載の車線維持支援装置。
【請求項3】
前記仮想線修正手段は、車幅方向の移動量に応じて前記仮想線を操舵方向に移動させる、ことを特徴とする請求項2記載の車線維持支援装置。
【請求項4】
前記仮想線修正手段は、前記仮想線の移動速度に上限を設ける、ことを特徴とする請求項3記載の車線維持支援装置。
【請求項5】
自車両に対し左右のうち一方の車線区分線が検出できない場合、検出できない側に車線区分線の仮想線を設定し、認識された車線区分線又は前記仮想線の少なくとも一方の逸脱傾向を検出して乗員に警告する車線維持支援装置において、
車両の操舵を検出する車両操作検出手段と、
運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段と、
前記車両操作検出手段により検出される操舵の方向と異なる方向に認識される車線区分線又は前記仮想線が変化した場合であって、かつ、前記覚醒度検出手段が検出する覚醒度が所定値以上の場合、警告を禁止する警告禁止手段と、
を有することを特徴とする車線維持支援装置。
【請求項6】
前記警告禁止手段は、前記車両操作検出手段により検出される操舵が直進方向の場合、警告を禁止する、
ことを特徴とする請求項5記載の車線維持支援装置。
【請求項7】
左右の車線区分線のいずれかが検出されなくなってからの経過時間に対応づけて、車線区分線の認識結果の信頼度情報Aを記憶した白線情報信頼度記憶部と、
前記車両操作検出手段が検出した車両の操舵、及び、前記覚醒度検出手段が検出する覚醒度に基づき、乗員操舵の信頼度情報Bを算出する信頼度算出手段と、を有し、
前記警告禁止手段は、信頼度情報Aが信頼度情報Bを下回った場合、警告を禁止する、
ことを特徴とする請求項5記載の車線維持支援装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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