説明

車軸用軸受装置

【課題】異常負荷が作用し、ハブ軸のかしめ部が伸延、変形しても、軸受内輪とハブ軸が分離しにくく、車輪の脱落を防止することができる車軸用軸受装置を提供する。
【解決手段】内周部に複列の外輪軌道が形成された外輪11と、外周に内輪軌道が形成された内輪12と、軸方向一方側端部にハブフランジ13b、他方端部に内輪12の嵌合部13c、中央外周部に内輪軌道が形成されたハブ軸13と、外輪軌道と内輪軌道の間で転動する2列の転動体14と、2列の転動体14を所定の間隔で保持する2個の保持器15を有する車輪用軸受装置1であって、ハブ軸13の嵌合部13cに連なる筒状軸端13dを径方向外向きに屈曲変形させて内輪12の大端面12fに押し付けて形成したかしめ部は、内輪12を抜け止めする第1のかしめ部13hと、軸方向に内輪12の大端面12fから離れて形成された第2のかしめ部13iからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車輪を支持する車軸用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の車両の車輪を支持する車軸用軸受装置としては図4に示す車軸用軸受装置100が広く用いられている。(特許文献1参照)
車軸用軸受装置100は外輪111、内輪112、ハブ軸113を有している。外輪111の内周面には複列の外輪軌道111a、111bが形成されている。内輪112は軸方向中央の外周面に内輪軌道112a、中心部に内輪軌道112aと同心の円筒形の内径112b、内径112bから大きい方の外径部に向けて直角に延在する大端面11fが形成されている。ハブ軸113は中央外周部に内輪軌道113a、内輪軌道113aより端部にむけて前記内輪112との嵌合部113cが形成されている。また、ハブ軸113の嵌合部113cに連なる端部は筒状軸端を径方向外方に屈曲変形し、嵌合部113cに外嵌された内輪112の大端面112fに圧着し、内輪112を保持するかしめ部113hが形成されている。
【0003】
また、外輪111の外輪軌道111aと内輪112の内輪軌道112aとの間および外輪111の外輪軌道111bとハブ軸113の内輪軌道113aとの間で転動する2列の複数の転動体114と、前記2列の転動体を所定の間隔で保持する2個の保持器115とで軸受部が構成されている。
【0004】
ここで、運転中に車軸用軸受装置100に過大負荷が作用しても、軸受部が短寿命になるか、軸受部の変位が大きくなるだけで、かしめ部113hが伸展し内輪112が抜け落ちたり、ハブ軸113が破断するような決定的な損傷が生じるような負荷は、衝突事故以外にはありえなかった。また、上記の短寿命や変位の拡大の場合、前述の決定的な損傷が生じる前に運転者が感知でき、車を安全に停止させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005―163978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自動車普及の後進国においては、路面の陥没等の劣悪な道路状況に加え、過積載や、乱暴な運転による想定を超える異常負荷も考えられる。万一このような想定を超える異常負荷が作用したら、極端な場合、かしめ部113bが伸延、変形し内輪112がハブ軸113から抜け出て、車両用軸受装置110が分解し、車輪が車体から外れることも考えられる。
【0007】
この発明の目的は、劣悪な道路状況や、過積載や、乱暴な運転によって、想定を超える異常負荷が作用し、万一、ハブ軸のかしめ部が伸延、変形しても、内輪が分離しにくく、車両の運転者が軸受部の異常な振動を感知し、車を停止させることにより、車輪が車体から外れることを防止できる車軸用軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、内周部に複列の外輪軌道が形成された外輪と、外周に内輪軌道が形成された内輪と、軸方向一方側端部に半径方向外方に拡径するハブフランジ、中央外周部に内輪軌道、前記ハブフランジと軸方向に反対側の端部に前記内輪の嵌合部が形成されたハブ軸と、前記外輪の一方の外輪軌道と前記内輪の内輪軌道の間、および、前記外輪の他方の外輪軌道と前記ハブ軸の内輪軌道の間で転動する2列の複数の転動体と、前記2列の転動体を所定の間隔で保持する2個の保持器を有する車輪用軸受装置であって、前記ハブ軸は筒状軸端を有し、前記嵌合部の外周に前記内輪を外嵌装着し、前記筒状軸端を径方向外向きに屈曲変形させて前記内輪の端面に押し付けて形成した、前記内輪を抜け止めする第1のかしめ部と、前記第1のかしめ部の軸方向に前記内輪の端面から離れて形成された第2のかしめ部を有することである。
【0009】
上記構成によると、異常負荷が作用し、前記ハブ軸の第1のかしめ部が破損しても、前記内輪が軸方向に移動し、前記内輪の側面が前記ハブ軸の第2のかしめ部に接触して、前記内輪の前記ハブ軸からの脱落が防止できる。前述の前記内輪の軸方向の移動により生じた軸受部軸方向の過大すきまによって、軸受部に異常回転による振動が発生する。運転者はこの異常回転による振動を感知し、車を停止させることができ、車輪の脱落を防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動車後進国における劣悪な道路事情や、過積載や、乱暴な運転による想定外の異常負荷が作用し、軸が変形、折損しても、軸受内輪とハブ軸が分離しにくく、車輪の脱落を防止することができる車軸用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置の軸方向の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置のかしめ工程の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置の作用の説明図である。
【図4】従来例の車軸用軸受装置の軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置の軸方向の断面図である。
図1において車軸用軸受装置1は、内周部に複列の外輪軌道11a、11bが形成された外輪11と、外周に内輪軌道12aが形成された内輪12と、外周部中央に内輪軌道13a、が形成されたハブ軸13と、前記外輪11の一方の外輪軌道11aと前記内輪の内輪軌道12aの間、および、前記外輪11の他方の外輪軌道11bと前記ハブ軸13の内輪軌道13aの間で転動する2列の複数の転動体としての玉14と、前記2列の複数の玉14を所定の間隔で保持する2個の保持器15を有する。
【0014】
ここで、外輪11の外輪軌道11a、11b、内輪12の内輪軌道12a、ハブ軸の内輪軌道13a、2列の複数の転動体14と、前記2列の2個の保持器15とで軸受部が構成されている。
【0015】
内輪12は円環状で、外周部中央に内輪軌道12a、一方側の外周部に大外径面12c、他方の外周部に小外径面12dが形成され、内周部に内輪軌道12aと同心の内径面12bを有している。また、内径面12bから半径方向外方に大外径面12cに向けて大端面12fが延在し、内径面12bと大端面12cの交差部に面取り12gが形成されている。
【0016】
ハブ軸13は軸方向一方側端部に半径方向外方に拡径して、車輪が取付けられるハブフランジ13bが設けられている。ハブ軸13の内輪軌道13aを挟みハブフランジ13bと軸方向に反対側の外径面は径方向に縮径する嵌合部側面13kと嵌合部側面13kの内方隅部13gから軸方向に内輪軌道13aと反対方向に延在する内輪12との嵌合部13cが形成されており、嵌合部13cには内輪12が外嵌装着されている。
【0017】
さらに、ハブ軸13の筒状端部13dを内輪12の面取り12g沿って径方向外方に屈曲変形させて内輪12の大端面12f押し付けて形成された、内輪12を抜け止めする第1のかしめ部13hと、第1のかしめ部13hの軸方向端面側にあって内輪12の大端面12fから離れて形成された第2のかしめ部13iを有する。
【0018】
図2は本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置1の組立てにおける、かしめ工程の一例を示す説明図である。
ステップ1は、ハブ軸13の嵌合部13cに内輪12を外嵌装着した状態を示す。ハブ軸13のハブフランジ13bと反対側の端部には、かしめ前の筒状の第1のかしめ部13h、第2のかしめ部13iとからなる筒状端部13dがあり、ハブ軸13の前記軸端の中心部には内輪軌道13aと同心の凹部13lが形成されている。
【0019】
凹部13lより直径方向外方の筒状端部13dには、端面から軸方向に、内輪軌道13aと同心の円周溝13jが形成されており、凹部13lおよび円周溝13jの軸方向の底部の位置は内輪12の大端面12fの位置に略等しい。筒状端部13dは、円周溝13jを境に、半径方向外方の第1のかしめ部13hと半径方向内方の第2のかしめ部13iとに分離されている。また、第2のかしめ部13iの端面から円周溝13jの底までの軸方向長さは第1のかしめ部13hの端面から円周溝13jの底までの軸方向長さにくらべ略2倍に形成されている。
【0020】
ステップ2は第1のかしめ部13hを形成する工程を示す。第1のかしめ治具20Aは車軸用軸受装置1の中心軸Cに対して数度の傾きをもって、中心軸Cを中心に回転しながら端面20A1を第1のかしめ部13hの端面13h1に当接して、軸方向に第1のかしめ部13hを圧下する。第1のかしめ部13hは第1のかしめ治具20Aの圧下によって内輪12の面取り12g沿って半径方向外方に屈曲変形し、内輪12の大端面12fに押し付けられる。また、第1のかしめ治具20Aは圧下方向に開口した中空の円筒形状で、中空穴20A2の直径および深さは、かしめ工程において第2のかしめ部13iに干渉しない寸法に設定されている。
【0021】
ステップ3は第2のかしめ部13iを形成する工程を示す。第2のかしめ治具20Bは車軸用軸受装置1の中心軸Cに対してステップ2かしめ治具20A傾きより大きな傾きをもって、中心軸Cを中心に回転しながら端面20B1を第2のかしめ部13iの端面13i1に当接して、軸方向に第2のかしめ部13iを圧下する。第2のかしめ部13iは第2のかしめ治具20Bの圧下によって半径方向外方に屈曲変形し、第1のかしめ部13hの軸方向外方を半径方向外方に屈曲変形する。
【0022】
ステップ4はかしめ工程が完了した状態を示す。第1のかしめ部13hはハブ軸13の嵌合部13cに外嵌装着された内輪12の大端面12fに押し付けられ、内輪12をハブ軸13に係止し、内輪12がハブ軸13から抜けるのを防止する。第2のかしめ部13iは、第1のかしめ部13hの軸方向外方に隙間をもって形成されている。
【0023】
図3は本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置の作用の説明図である。
車軸用軸受装置1は外輪11が車体18にボルト18aで固定され、ハブ軸13のハブフランジ13bが車輪17にボルト17aで固定されている。すなわち車輪17は車軸用軸受装置1を介して車体18に回転自在に取付けられている。
【0024】
車軸用軸受装置1には路面から車輪17を経由してスラスト荷重や軸方向のモーメント荷重が作用する。劣悪な道路状況や乱暴な運転によって、路面から車輪17を経由して車軸用軸受装置1に異常なスラスト荷重やモーメント荷重が作用した場合、内輪12は軸方向外方に移動し、第1のかしめ部13hは軸方向に伸展変形する。この第1のかしめ部13hの軸方向の伸展変形によって、第1のかしめ部13hの軸方向外方端面13h2が第2のかしめ部13iの軸方向内方の側面13i2に接触するか、または、内輪12の大端面12fが第2のかしめ部13iの軸方向内方の先端に接触することにより、内輪12の軸方向移動は一旦減速する。
【0025】
この時、内輪12の内輪軌道12aとハブ軸13の内輪軌道13aの間隔が広がり、軸受部に過大すきまδ生じている。この状態で車輪17が回転すると、車軸用軸受装置1に作用するモーメント荷重による、外輪11とハブ軸13の間での大きな振れ回りが生じて異常振動や異音が発生する。この時、車両の運転者は前記異常振動や異音を感知し、車両を停車させることが可能であり、かしめ部がすべて伸展変形し、内輪12がハブ軸13から抜け落ち、車輪17が車体18から外れるという事態を回避させることができる。
【0026】
第1の実施形態の車軸用軸受装置は複列の複数の転動体14は玉であるが、本発明では、転動体が円すいころ等のころである車軸用軸受装置であっても良い。
【0027】
第1の実施形態の車軸用軸受装置1はハブ軸13が中実である従動輪用の車軸用軸受装置であるが、本発明では、ハブ軸にスプライン等の駆動伝達手段が形成された駆動輪用の車軸用軸受装置であっても良い。
【符号の説明】
【0028】
1、100 ‥ 車軸用軸受装置
11、111 ‥ 外輪(外輪部材)
11a ‥ 外輪軌道
12、112 ‥ 内輪(内輪部材)
12a、13a‥ 内輪軌道
13、113 ‥ ハブ軸
13b ‥ ハブフランジ
13c ‥ 嵌合部
13d ‥ 筒状軸端
13h ‥ 第1のかしめ部
13i ‥ 第2のかしめ部
14 ‥ 玉(転動体)
15 ‥ 保持器
17 ‥ 車輪
18 ‥ 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部に複列の外輪軌道が形成された外輪と、
外周に内輪軌道が形成された内輪と、
軸方向一方側端部に半径方向外方に拡径するハブフランジ、他方端部に前記内輪との嵌合部、中央外周部に内輪軌道が形成されたハブ軸と、
前記外輪の前記複列の外輪軌道と、前記内輪および前記ハブ軸の内輪軌道の間で転動する2列の複数の転動体と、
前記2列の転動体を所定の間隔で保持する2個の保持器を有する車輪用軸受装置であって、前記ハブ軸は筒状軸端を有し、前記嵌合部の外周に前記内輪を外嵌装着し、前記筒状軸端を径方向外向きに屈曲変形させて前記内輪の端面に押し付けて形成した前記内輪を抜け止めする、かしめ部を有し、
前記かしめ部は前記内輪の端面に押し付けて形成した前記内輪を抜け止めする第1のかしめ部と、前記第1のかしめ部の軸方向に前記内輪の端面から離れて形成された第2のかしめ部とからなることを特徴とする車軸用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−10409(P2013−10409A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143755(P2011−143755)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】