説明

車載端末

【課題】分散処理システムを構築する車載端末において、通信に要する時間を減らし、効率的な処理を行えるようにする。
【解決手段】走行中にサーバから処理の実行を依頼される、分散処理システムを構成する車載端末に、依頼される処理に必要なプログラム及びデータをあらかじめ格納する記憶手段と、車載端末を搭載した車両の停止を検知する停車検知手段と、停車検知手段が車両の停車を検知したときに、記憶手段に格納されたプログラム及び/又はデータを更新する更新手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載端末に関し、特に、走行中にサーバから処理の実行を依頼される、分散処理システムを構成する車載端末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分散処理システムの一形態として、グリッドコンピューティングシステムが知られている。グリッドコンピューティングシステムにおいては、ネットワークを介して複数の情報処理装置を接続し、これらの各情報処理装置に並列処理を行わせることで、一台一台の情報処理装置の性能は低くても、全体としては高速な処理が可能となる。
【非特許文献1】“グリッド普及に向けた課題”、[online]、日経BP社、インターネット<URL:<http://premium.nikkeibp.co.jp/grid/report/report1_5.shtml>>
【非特許文献2】“PCグリッド実証プロジェクト「Bio@home」”、[online]、日経BP社、インターネット<URL:<http://premium.nikkeibp.co.jp/grid/case/case1_1.shtml>>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来技術の場合には、下記のような問題が生じていた。すなわち、グリッドコンピューティングシステムにおいては、各情報処理装置に演算の依頼をする度に、使用するプログラム及びデータをサーバから送信している。したがって、演算に要する時間に比べて、通信に要する時間が大きい場合には、分散処理のメリットを生かすことができない。
【0004】
この問題は、グリッドコンピューティングシステム(分散処理システム)を、処理時間保証に対する要求が厳しいリアルタイム用途に使用する場合に特に問題となる。
【0005】
なお、通信に要する時間を軽減するために、複数の情報処理装置に分散してデータを配置するデータグリッド併用方式がある。しかし、データグリッド併用方式では、通信要求の集中を回避することはできるが、プログラムやデータの通信に要する時間を減らすことにはならない。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、分散処理システムにおいて、通信に要する時間を減らし、効率的な処理を行える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段又は処理によって分散処理を行う。
【0008】
本発明に係る車載端末は、走行中にサーバから処理の実行を依頼される、分散処理システムを構成する車載端末である。分散処理システムとは、複数の情報処理装置がネットワークによって接続され、これら複数の情報処理装置を演算資源として利用し、分散して処理を行うシステムである。本発明に係る車載端末は、この演算資源である情報処理装置に該当する。
【0009】
分散処理システムにおいて実行される処理は、まずサーバが実行要求を受け付ける。このサーバは、分散処理システムにおける演算資源である上記の情報処理装置の状態を監視しており、受け付けた処理を、並列的に実行可能な処理に分割し、分割されたそれぞれの
処理を各情報処理装置に割り当てる。各情報処理装置は、割り当てられた処理を実行し、その実行結果をサーバに返す。そして、サーバは、分割された処理の実行結果を全て受け取った後に、要求元に対して処理結果を返す。
【0010】
なお、サーバは基地局などの固定端末であってもよく、サーバ自体も車載端末であっても構わない。また、サーバと車載端末とは、無線通信によって通信可能に構成される。
【0011】
本発明に係る車載端末は、記憶手段と停車検知手段と更新手段とを有する。記憶手段は、サーバから依頼される処理に必要なプログラム及びデータをあらかじめ格納する。
【0012】
停車検知手段は、車載端末が搭載された車両の停止(停車)を検知する。停車検知手段は、エンジンの状態に基づいて車両の停止を検知することが好ましい。また、停車検知手段は、車両の走行速度や、ギア、イグニッションキー又はパーキングブレーキの状態に基づいて、あるいは、画像センサを用いて運転者の有無に基づいて、車両の停止を検知することも好ましい。
【0013】
更新手段は、車両が停止している間に、記憶手段に格納されたプログラム及び/又はデータを更新する。
【0014】
このように、本発明に係る車載端末は、走行中に実行すべきプログラム及びそのプログラムの実行の際に必要となるデータを、車両が停車中の間に更新する。つまり、サーバから処理を依頼される時点には最新のプログラム及びデータを保持していることになる。したがって、サーバから処理を依頼された後にプログラムやデータをダウンロードする必要がない。この結果、分散処理システムにおいて、通信時間を減らすとともに、処理を依頼されてから即座に処理を開始することが可能となる。
【0015】
また、車載端末が無線通信を行う場合、走行中は電波状況が安定しないことがあり通信が途切れてしまうこともある。上記のように、停車中にプログラム及び/又はデータの更新を行うことで、電波状況が安定した状態でプログラム及び/又はデータの更新を行うことが可能となる。
【0016】
このように、本発明によると、分散処理システムにおいて、通信に要する時間を減らして、効率的な処理を行うことが可能となる。
【0017】
本発明に係る車載端末は、位置情報を取得する位置情報取得手段をさらに有することが好ましい。位置情報取得手段は、例えば、GPS(Global Positioning System)などに
より構成される。そして、本発明における更新手段は、車両が停止したときの位置に基づいて、プログラム及び/又はデータの更新を行うか否か判断する。
【0018】
更新手段は、車両が停止した位置が、駐車場やガソリンスタンドなど一定の時間以上停車していると予測される場所であるときに、プログラム及び/又はデータの更新を行うとよい。また、自宅やオフィスなどの場所を登録しておき、車両がこの登録された場所に停車したときに、プログラム及び/又はデータの更新を行うようにしてもよい。
【0019】
このように、所定の時間以上停車していると予測される場所に停車したときにプログラム及び/又はデータの更新を行うことで、更新の最中に車両が走行を開始してこれらのプログラムやデータを使用する処理の実行が依頼されてしまうことを回避することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、分散処理システムにおいて、通信に要する時間を減らし、効率的な処理を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。本実施形態は、車両(車載端末)と基地局とが協調してグリッドコンピューティングシステムを形成するシステムである。
【0022】
図1は、本実施形態に係るグリッドコンピューティングシステムの概要を示す図である。本システムは、サーバ1と基地局2及び複数の車両3から構成される。基地局2は、有線通信を介してサーバ1と通信可能である。また、基地局2は、無線通信を介して車両3のそれぞれと通信可能である。サーバ1と車両3とは、基地局2を介して通信可能である。
【0023】
サーバ1は、分散処理システムにおいて実行すべき処理の要求を受け付ける。そして、実行すべき処理を並列的に実行可能な複数の処理に分割し、分割された処理を走行中の車両3に対して割り当てる。処理の実行を要求された車両3は、その処理を実行し、処理結果をサーバ1に対して返信する。車両3が要求された処理を実行する際には、サーバ1に格納されているプログラム及びデータを用いて処理を実行する。
【0024】
なお、サーバ1に対して処理の実行を要求する情報処理装置は不図示のクライアント端末であってもよく、車両3がサーバ1に対して処理の実行を要求しても構わない。
【0025】
本システムにおいて実行される処理は、例えば、目的地までの経路探索処理がある。A地点からB地点までの経路を探索する場合、高速道路と一般道のどちらを優先するか、走行距離と到着時間のどちらを優先するかといった、様々な条件で経路探索を行うことができる。これらの各条件での探索は、それぞれ並列的に行うことができるので、サーバ1は、走行距離を優先する探索をある車両に実行させ、到着時間を優先する探索を別の車両に実行させたりする。
【0026】
なお、図1には基地局2は1つのみ示されているが、基地局2は複数あっても構わない。基地局2を複数用いることで、本システムは広範囲にわたって構築することが可能となり、それだけ多くの車両を演算資源として利用することが可能となる。
【0027】
また、サーバ1も1つの端末から構成される必要はなく、複数の端末から構成されても構わない。
【0028】
図2は、車両3に搭載される車載端末10の構成を示す図である。車載端末10は、通信制御部12、GPS14、停車検知部16、更新部20、記憶部22、CPU28とから構成される。これらの各部は、車内LAN30により接続されている。
【0029】
通信制御部12は、基地局2との間の無線通信を行う。車載端末10と基地局2との間の無線通信の方式は、IEEE802.11x等の無線LANやDSRC(Dedicated Short Range Communication)など、どのような方式であっても構わない。
【0030】
GPS14は、GPS衛星から電波を受信することによって、車両3の現在位置を取得する。
【0031】
停車検知部16は、車両3が停止したことを検知する。停車検知部16は、例えば、エンジンの状況を監視し、エンジンが停止したときに車両3が停止したと検知する。また、
例えば、停車検知部16は、車両3の走行速度を車速センサによって取得し、この走行速度に基づいて車両3の停止を検知してもよい。その他にも、停車検知部16は、ギアの状態、イグニッションキーの状態、パーキングブレーキの状態を検知して、ギアがパーキングやニュートラルのとき、イグニッションキーがオフ又はアクセサリー電源(ACC)のとき、パーキングブレーキが作動しているときなどに、車両3が停止していると検知してもよい。また、停車検知部16は、画像センサを用いて運転者の有無を検知し、運転者が存在しない(運転席に人がいない)ときに、車両3が停止していると検知してもよい。
【0032】
記憶部22は、読み書き可能なメモリから構成され、プログラム記憶部24及びデータ記憶部26を含む。プログラム記憶部24には、サーバ1から実行を要求される処理に必要なプログラムが格納される。また、データ記憶部26には、これらのプログラムを実行するときに参照するデータが格納される。サーバ1から要求される処理が経路探索処理の場合には、プログラム記憶部24に格納されるプログラムは経路探索プログラムであり、データ記憶部26に格納されるデータは地図情報・POI(Point Of Interest)情報な
どである。
【0033】
更新部20は、通信制御部12を介して、サーバ1から分散処理の実行に必要なプログラム及び/又はデータの最新版を取得し、プログラム記憶部24及びデータ記憶部26に格納する。更新部20がプログラム及び/又はデータの更新を行うタイミングについては、後述する。
【0034】
CPU28は、サーバ1から処理の実行を要求されたときに、プログラム記憶部24及びデータ記憶部26に格納されているプログラム及びデータを用いて、処理を実行する。
【0035】
次に図3及び図4を用いて、車載端末10が行う処理について説明する。図3は、車載端末10にサーバ1から処理が割り当てられていないときの車載端末10の動作を示し、プログラムやデータの更新処理の実行タイミングを決める処理のフローチャートである。
【0036】
ステップS101において、停車検知部16を用いて、車両が停止中であるか否か判断する。車両が停止中でなければ処理を終了し、車両が停止中であればステップS102に進む。
【0037】
ステップS102では、GPS14を用いて、停車時間が長いと推測される場所に車両が停車したか否か判断する。車両の停車位置が駐車場やガソリンスタンドなどの場合には、停車時間が長いと判断する。逆に、交差点などの道路上に停車した場合には、停車時間は短いと判断する。停車時間が長いと推測される場合には、処理はステップS103に進む。停車時間が短いと推測される場合には、処理を終了する。また、自宅やオフィスなどの場所を記憶部22に登録しておき、登録された場所に車両が停車したときに、ステップS103に進むようにしてもよい。
【0038】
次にステップS103において、プログラム記憶部24及びデータ記憶部26に格納されているプログラム及びデータのバージョン情報を、サーバ1内の最新バージョンと照合する。ここで、車内のプログラムやデータのバージョンが、サーバ1に格納されているものと異なる場合には、ステップS104に進み、更新部20は、プログラムやデータの最新版をサーバ1から取得する。車内のプログラム及びサーバのバージョンが、サーバ1内のものと同一であるときは、更新する必要がないので、処理を終了する。
【0039】
図4は、車両3が走行中であり、サーバ1から車載端末10に処理が割り当てられる際の動作を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS201で、サーバ1は、走行中の車両に対して、実行すべき処理を示すコマンドを送信する。この際、参照すべきデータについての情報も同時に送信する。さらに、この処理を実行するために必要なプログラム及びデータのバージョン情報も合わせて送信する。
【0041】
サーバ1からの処理要求を受信した車載端末10は、ステップS202において、プログラム記憶部24及びデータ記憶部26に格納されているプログラム及びデータが、必要とされているバージョンのものであるかチェックする。車内に格納されているプログラムやデータが要求されているバージョンの条件を満たさない場合には、例えば、演算実行を辞退することが考えられる。もっとも、最新バージョンのプログラム・データを取得した上で、要求された演算を実行してもよい。
【0042】
プログラム記憶部24及びデータ記憶部26に格納されているプログラム及びデータが要求されたバージョンを満たす場合には、車載端末10はステップS203で、要求された演算を実行する。そして、車載端末10は演算結果をサーバ1に送信し(ステップS204)、サーバ1は演算結果を取得する(ステップS205)。
【0043】
このように本実施形態において、走行中にグリッド演算を実行する車載端末が、グリッド演算を実行する際に必要となるプログラム及びデータの最新版を停車中に取得する。したがって、サーバがグリッド演算を車載端末に依頼するときには、車載端末では最新版のプログラム及びデータを保持していることになる。つまり、車載端末は処理を要求されてから、プログラムやデータを取得する必要がなく、通信に要する時間を減らし、効率的な処理を行うことが可能となる。
【0044】
さらに、GPSによって位置情報を取得し、車両がプログラムやデータの更新に必要な時間だけ停車していると予測されるときに、プログラムやデータの更新を行うため、電波状況が安定した状態で無線通信による更新が可能となる。
【0045】
本実施形態におけるグリッドコンピューティングシステムは、車両3が基地局2を介してサーバ1と通信する路車間協調システムであったが、車両のみで構成されるグリッドコンピューティングシステムであっても構わない。この場合、車両3のそれぞれに、処理を並列に実行可能な部分に分割して演算資源に割り当てるサーバ機能が搭載されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態における分散処理システムの概要を示す図である。
【図2】本実施形態における車載端末の構成を示す図である。
【図3】本実施形態におけるプログラム・データの更新処理を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態におけるグリッド演算の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1 サーバ
2 基地局
3 車両
10 車載端末
12 通信制御部
14 GPS
16 停車検知部
20 更新部
22 記憶部
24 プログラム記憶部
26 データ記憶部
28 CPU
30 車内LAN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中にサーバから処理の実行を依頼される、分散処理システムを構成する車載端末であって、
依頼される処理に必要なプログラム及びデータをあらかじめ格納する記憶手段と、
該車載端末を搭載した車両の停止を検知する停車検知手段と、
前記車両が停止している間に、前記記憶手段に格納された前記プログラム及び/又は前記データを更新する更新手段と、
を有する車載端末。
【請求項2】
前記停車検知手段は、エンジンの状態に基づいて前記車両の停止を検知する請求項1に記載の車載端末。
【請求項3】
前記停車検知手段は、前記車両の走行速度に基づいて前記車両の停止を検知する請求項1に記載の車載端末。
【請求項4】
前記停車検知手段は、ギアの状態に基づいて前記車両の停止を検知する請求項1に記載の車載端末。
【請求項5】
前記停車検知手段は、イグニッションキーの状態に基づいて前記車両の停止を検知する請求項1に記載の車載端末。
【請求項6】
前記停車検知手段は、パーキングブレーキの状態に基づいて前記車両の停止を検知する請求項1に記載の車載端末。
【請求項7】
前記停車検知手段は、画像センサを用いて運転者の有無に基づいて前記車両の停止を検知する請求項1に記載の車載端末。
【請求項8】
位置情報を取得する位置情報取得手段をさらに有し、
前記更新手段は、前記車両が停止したときの位置に基づいて、前記プログラム及び/又はデータの更新を行うか否か判断する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の車載端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−34815(P2007−34815A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219028(P2005−219028)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】