説明

車載運行記録装置

【課題】運転者が信号無視を行った可能性が高い状況を表すデータを確実に記録すると共に、無駄なデータの記録を抑制して信号無視と関連のある重要度の高いデータの抽出を容易にする。
【解決手段】車両上に搭載され道路上に設置された信号機の状態を表す情報を道路側の無線通信設備を経由して受信可能な信号情報受信部と、前記信号情報受信部が信号機の赤色又は黄色の点灯状態を表す情報を受信した場合に限り信号無視の可能性が高い状態か否かを識別する信号無視検出部と、前記信号無視検出部が信号無視の可能性が高い状態を検出した場合に、前記画像データの記録を開始するためのトリガを発生し、もしくは信号無視を表すイベント情報を生成して前記画像データと関連付けて記録する記録制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両上に搭載され、前記車両の運行中に連続的に又は周期的にもしくは予め定めたイベントの発生を契機とするタイミングで、車載カメラの撮影により得られる画像データを自動的に記録する機能を備えた車載運行記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載カメラの撮影により得られる画像データなどの情報を自動的に取得して記録する機能を備えた車載運行記録装置の代表例として、ドライブレコーダが知られている。一般的なドライブレコーダは、交通事故などの異常が発生した時に、その前後所定時間だけ、証拠として利用できる動画像や静止画を自動的に記録する。異常な状態かどうかを識別するために、一般的に加速度センサが用いられる。
【0003】
また、常時記録型のドライブレコーダも存在する。常時記録型の場合には、異常発生時でなくても常時画像データを記録する。また、異常の発生を検出した場合には、それを表すイベント情報を生成し、これを画像データと関連付けて記録する。これにより、記録された時系列の長時間の画像データの中から、重要な情報が含まれている箇所(異常を検出した箇所)を容易に見つけることができる。
【0004】
このようなドライブレコーダは、例えば業務用の車両を所有する運送会社等において、管理者が各車両の乗務員に対して安全運転に関する指導を行うために役立てることができる。すなわち、各車両の運行状態を表す画像データがドライブレコーダによって記録されるので、この画像データを分析することにより、各乗務員がどのような運転を行っているのか把握でき、安全運転を促すことができる。また、実際に交通事故が発生した場合には、事故発生前後のタイミングで記録された画像データを分析することにより、事故の原因等を正しく把握することが可能になる。
【0005】
車両用のドライブレコーダに関する従来技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1においては、ドライブレコーダ(車載器)と車両外のセンタ機器との間で通信を行い、ドライブレコーダはセンタ機器から送出される記録指令信号を受信したタイミングに従って所定時間だけ記録動作を行う。また、車両の現在位置が所定の領域を外れた時や、車両上で検出された加速度が閾値以上になった時や、車両の実空車情報が発生した時にセンタ機器が前記記録指令信号を送出してドライブレコーダの記録動作を開始することを開示している。
【0006】
また、ドライブレコーダとは異なる運転支援システムに関する従来技術が、例えば特許文献2に開示されている。特許文献2に開示された運転支援システムは、道路の交差点および交差点付近における事故を未然に防ぐためのシステムであり、交差点の信号機に設けられた外部送信機と各車両に搭載される車載器とで構成される。具体的には次に説明するような技術が開示されている。
【0007】
外部送信機は、交差点の信号機制御装置から信号制御パターンを取得し、信号状態を示す信号情報データを生成する。この信号情報データは、黄色信号および青信号については、それぞれ青信号から黄色信号に変わるまで、および赤信号から青信号に変わるまでの残存時間を示す。この外部送信機は、電波又は赤外線を用いた無線通信により、前記信号情報データを道路に向けて送信する。
【0008】
各車両の車載器は、外部送信機から受信した信号情報データに基づいて警告メッセージを音声と文字により出力する。また、車載器の制御部は、車両の車速信号およびブレーキ信号を監視して、運転者が警告メッセージに従って減速行動を取らないときは、警告音または警告光またはその両方を警告出力部から出力する。
【0009】
更に、車載機が外部送信機から黄信号になったことを示すデータを受信した場合、受信したデータに含まれている交差点までの距離情報と、車速とから、赤信号になる3秒後には交差点の手前に到達しているか交差点を越えているかを演算して、交差点手前の場合には、警告音または警告光またはその両方を出力して停止を促すか、または、制動信号を出力して車両のブレーキを作動させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−199791号公報
【特許文献2】特開2003−77093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、信号機が存在する交差点を車両が通過する際に、車両の乗務員が故意に、あるいは信号機の見落としによる過失によって信号無視を行ったとすると、該当する乗務員は交通事故を引き起こす可能性が高いと考えられる。従って、このような危険な乗務員に対しては会社の管理者は安全運転に関する指導を行う必要がある。
【0012】
しかしながら、各乗務員が実際に信号無視を行ったのかどうかを確認することは容易ではない。すなわち、従来のドライブレコーダ等の車載器を用いて車両の運行中に撮影した画像を記録し、運行終了後に記録されたデータを分析する場合でも、信号無視をしていたのかどうかの判断は容易ではなく、しかも長時間に渡って記録された膨大なデータを時間をかけて分析しなければならないので分析作業の負担が大きい。しかし、例えば交通事故が発生した場合には、その直前に信号無視をしたか否かを表す情報は非常に貴重であり、重要な証拠として利用できる。
【0013】
特許文献1の技術を採用すれば、ドライブレコーダが記録を開始するタイミングを、センタ機器からの記録指令信号によって制御できる。しかし、例えば車両の位置が信号機の存在する位置の近傍に接近した時に記録動作を行うように制御する場合であっても、信号無視の状態を検出して記録を開始するわけではないので、信号無視とは無関係の画像も記録されてしまう。つまり、分析が不要な無駄なデータも多数記録されるため、信号無視の状態を表す重要なデータを抽出する作業に手間がかかる。また、無駄なデータまで記録しなければならす、大容量の記憶装置が必要になる。
【0014】
また、交差点の信号機の前方で、車両の減速が必要かどうかを信号機の色の変化するタイミングに基づいて検出し、運転操作を支援するための技術については特許文献2に開示されている。しかし、特許文献2の技術の目的は、運転者の運転を支援することであり、運転者が実際に信号無視を行ったかどうかについては全く想定していないので、この技術をそのままドライブレコーダに適用することはできない。
【0015】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、運転者が信号無視を行った可能性が高い状況を表すデータを確実に記録すると共に、無駄なデータの記録を抑制して信号無視と関連のある重要度の高いデータの抽出を容易にすることが可能な車載運行記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載運行記録装置は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 車両上に搭載され、前記車両の運行中に、連続的に又は周期的にもしくは予め定めたイベントの発生を契機とするタイミングで、少なくとも1つ又は複数の車載カメラの撮影により得られる画像データを自動的に記録する機能を備えた車載運行記録装置であって、
前記車両上に搭載され、道路上に設置された信号機の状態を表す情報を道路側の無線通信設備を経由して受信可能な信号情報受信部と、
前記信号情報受信部が信号機の赤色又は黄色の点灯状態を表す情報を受信した場合に限り、信号無視の可能性が高い状態か否かを識別する信号無視検出部と、
前記信号無視検出部が信号無視の可能性が高い状態を検出した場合に、前記画像データの記録を開始するためのトリガを発生し、もしくは信号無視を表すイベント情報を生成して前記画像データと関連付けて記録する記録制御部と
を備えること。
(2) 上記(1)に記載の車載運行記録装置であって、
前記信号無視検出部は、前記車両の車速、加速度、ブレーキの状態、および画像処理により得られる情報の中の1つ又は複数の組み合わせにより、信号無視の可能性が高い状態か否かを識別すること。
(3) 上記(1)に記載の車載運行記録装置であって、
前記信号無視検出部は、前記車載カメラの撮影により得られる画像データの中から信号機の情報を抽出して前記信号機の点灯色を自動的に検出する画像処理部を備え、前記画像処理部の検出した信号機の点灯色が赤色又は黄色である場合に限り、前記車両の車速、加速度、およびブレーキの状態の中の1つ又は複数の組み合わせに基づいて、信号無視の可能性が高い状態か否かを識別すること。
(4) 上記(1)に記載の車載運行記録装置であって、
前記記録制御部は、少なくとも信号機の赤色又は黄色の点灯状態を検出した場合には、その状態を表すイベント情報を生成し、前記イベント情報を前記画像データおよび車両の現在位置を表す位置情報と関連付けて記録すること。
【0017】
上記(1)の構成の車載運行記録装置によれば、前記信号無視検出部が、信号機の赤色又は黄色の点灯状態を検出した時に信号無視か否かを識別するので、信号無視の状態を高精度で検出できる。従って、青信号の状態で車両が通過した場合のように、信号無視とは無関係の状況では、無駄なデータの記録を抑制できる。このため、記録されたデータを分析する際に、信号無視と関係のある重要なデータの抽出が容易になる。
上記(2)の構成の車載運行記録装置によれば、信号機が赤色又は黄色の点灯状態であっても、信号無視の可能性が高い状態でなければ、信号無視として記録しないので、無駄なデータの記録を抑制できる。
上記(3)の構成の車載運行記録装置によれば、信号無視の可能性が高い状態をより高精度で検出できる。すなわち、前記信号情報受信部が受信した情報において、信号機が赤色又は黄色の点灯状態であったとしても、その直後に信号機の状態が変化する場合がある。撮影した画像を処理して得られる信号機の発光色を検出することにより、信号無視か否かを正確に識別できる。
上記(4)の構成の車載運行記録装置によれば、信号無視の状態でない場合であっても、赤色又は黄色の点灯状態の信号機の近傍を通過した際の運転状況を把握するのに役立つ情報を容易に取得できる。従って、例えば運転者が安全運転を行っているかどうかを分析するための情報として利用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車載運行記録装置によれば、運転者が信号無視を行った可能性が高い状況を表すデータを確実に記録することができ、無駄なデータの記録を抑制したり重要なデータと無駄なデータとを区別できるので、信号無視と関連のある重要度の高いデータの抽出が容易になる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の車載運行記録装置を含むシステムの構成例を示すブロック図である。
【図2】図1の車載運行記録装置が記録するイベントファイルの構成例を示す模式図である。
【図3】常時記録型ドライブレコーダの場合の車載運行記録装置の主要な動作を示すフローチャートである。
【図4】図3に示す動作の変形例を示すフローチャートである。
【図5】図4のステップS16Bの詳細を表すフローチャートである。
【図6】イベント発生時記録型ドライブレコーダの場合の車載運行記録装置の主要な動作を示すフローチャートである。
【図7】図6に示す動作の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の車載運行記録装置に関する具体的な実施の形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0022】
本実施形態の車載運行記録装置10を含むシステムの構成例が図1に示されている。図1に示す車載運行記録装置10は、主に例えばトラック、タクシー、バスのような業務用車両に搭載して使用することを想定して構成された車載器であり、画像データなどを自動的に記録するドライブレコーダとして動作する。また、図1に示すように車載運行記録装置10は車両に搭載された車載カメラ11、加速度(G)センサ12、および車速(速度)センサ13と接続した状態で使用される。また、車両のブレーキペダルが踏まれた状態か否かを表すブレーキ信号も車載運行記録装置10に入力される。
【0023】
車載カメラ11は、これを搭載した車両の移動方向前方の風景を撮影できる向きで車両上に固定されている。車載カメラ11は例えば二次元CCDイメージセンサのような撮像素子を内蔵し、被写体を連続的に又は間欠的に撮影して得られる静止画や動画の映像信号を出力する。
加速度センサ12は、これを搭載した車両上に固定され、車両に加わる加速度の大きさを表す電気信号を出力できる。加速度センサ12が出力する加速度の信号は、交通事故発生のような異常な状態を検出するために利用される。
【0024】
車速センサ13は、これを搭載した車両の変速機の出力軸の回転を検出してパルス状の電気信号(車速パルス)を出力する。つまり、車両の車輪が所定量回転する毎にパルスが出力される。従って、例えば所定時間内に発生したパルス数を計数し、この計数値に比例する車速を求めることができる。
【0025】
図1に示すように、車載運行記録装置10はインタフェース14、15、速度インタフェース16、マイクロコンピュータ(CPU)17、外部記録媒体18、メモリ(SDRAM)19、および外部通信機(光ビーコン)20を備えている。
【0026】
インタフェース14は、マイクロコンピュータ17からの指示に従って車載カメラ11の撮影開始や終了を制御すると共に、車載カメラ11の撮影により得られる各フレームの映像信号を処理して静止画や動画の画像データを生成する。
【0027】
インタフェース15は、加速度センサ12が出力する電気信号を処理して、マイクロコンピュータ17が利用可能な加速度の情報に変換する。速度インタフェース16は、車速センサ13が出力する電気信号を処理して、マイクロコンピュータ17が利用可能な車速の情報に変換する。
【0028】
マイクロコンピュータ17は、これに内蔵されたメモリ(ROM)上に予め保持されているプログラムを実行することにより、車載運行記録装置10の制御に必要な各種機能を提供する。
【0029】
外部記録媒体18は、比較的記憶容量の大きい不揮発性メモリであり、マイクロコンピュータ17からアクセスしてデータの書き込み及び読み出しを行うことができる。また、外部記録媒体18はメモリカードのような構造であり、車載運行記録装置10に対して着脱自在になっている。
【0030】
メモリ19は、揮発性のメモリであり、マイクロコンピュータ17からアクセスしてデータの書き込み及び読み出しを行うことができる。メモリ19は一時的に利用するデータを保持するために利用される。
【0031】
外部通信機20は、光ビーコンの通信機能を備えており、車載器である車載運行記録装置10を制御するマイクロコンピュータ17と車両外部の装置との間でデータ通信を行うために利用される。外部通信機20は投受光器30と接続されている。
【0032】
一方、道路上には道路側の設備として、様々な箇所に光ビーコンと呼ばれる光学式車両感知器が設置されている。この光ビーコンは、新交通管理システム(UTMS)を実現するために利用される道路側の設備であり、一般的に道路の上方位置に設置されている。また、近赤外線の光を投光/受光する投受光器を備えており、投光/受光する光の往復時間の長短により車両の存在を感知できる。また、投受光器を含む光ビーコンの通信機を搭載した車両が道路側の光ビーコンの近傍を通過する際に、車両側の光ビーコンと道路側の光ビーコンとの間で双方向の通信を行うことができる。なお、高速道路においては、光ビーコンの代わりに電波ビーコンが用いられる。
【0033】
道路側の光ビーコンの用途については、道路交通情報通信システム(VICS)として、センターが収集した各種の交通情報をカーナビゲーション装置などの車載器に提供するサービスが一般的であるが、様々な形態の情報提供サービスに関する実証実験等が試みられている。
【0034】
図1に示した実施形態においては、道路上の各交差点に設置される信号機40の近傍に道路側通信機(光ビーコン)50を配置した場合を想定している。また、本実施形態の道路側通信機50は、信号機40と有線もしくは無線により接続されており、信号機40の現在の状態(青色、黄色、赤色の点灯等の区分)を表す情報を信号機40から取得してこれを車載器側に通知することができる。
【0035】
従って、図1に示す車載運行記録装置10を搭載した車両が道路を走行中に、道路側通信機50を含む信号機40の存在する交差点に接近し通信可能な領域に入ると、信号機40の状態を表す情報が、道路側通信機50の光ビーコンから車両上の投受光器30および外部通信機20を経由してマイクロコンピュータ17に通知される。なお、道路側通信機50を設置する位置については、信号機40に近い位置とすることが望ましい。それにより、車両が交差点に進入する直前の信号機の状態を表す情報を車載器に通知できるので、信号無視かどうかを高精度で識別可能になる。
なお、図示しないが、図1に示す車載運行記録装置10は、現在日時の情報を取得する機能や、車両の現在位置を表す緯度/経度の情報を取得する機能も備えている。
【0036】
車載運行記録装置10は、一般的なドライブレコーダの場合と同様に、車載カメラ11の撮影により得られる動画又は静止画の画像データを時系列データとして外部記録媒体18上に保存する。車載運行記録装置10が画像データを記録する動作については、異常な加速度を検出した場合のように特定のイベントが発生した時点の前後所定時間(例えば20秒程度)だけに限定する場合もあるし、常時記録する場合もある。
【0037】
また、図1に示す車載運行記録装置10は、画像データを記録するだけでなく、予め定めたイベントが発生した時に、その状態を表す情報をイベントファイルとして外部記録媒体18上に記録する。記録するイベントファイルの構成例が図2に示されている。
【0038】
図2に示したイベントファイルにおいては、発生したイベント毎に、その発生日時を表す時刻情報と、車両の位置を表す位置情報(緯度/経度)と、イベントの内容を表すイベント情報などが記録されている。記録されるイベントの内容としては、図2に示す「加速度異常」、「速度異常」、「信号赤」、「信号黄」などがある。
【0039】
車載運行記録装置10が常時記録型のドライブレコーダとして動作する場合の動作例が図3に示されている。この動作は、マイクロコンピュータ17の処理によって実現する。図3に示した動作について以下に説明する。
【0040】
車載運行記録装置10の電源が投入されると、ステップS10で初期化を行う。すなわち、マイクロコンピュータ17自身を初期化し、メモリ19の内容をクリアし、外部通信機20を通信可能な状態に制御し、インタフェース14を介して車載カメラ11の状態を初期化し、インタフェース15からの加速度情報の取得や速度インタフェース16からの車速情報の取得が可能な状態に制御する。
【0041】
ステップS11では、マイクロコンピュータ17は画像の撮影及び記録の動作を開始する。すなわち、車載カメラ11を制御して連続的なもしくは周期的な撮影動作を開始し、撮影により得られる静止画又は動画の画像データをインタフェース14を介して取得し、外部記録媒体18上に撮影時刻と対応付けた時系列データとして記録する。
【0042】
ステップS12では、後述する信号無視以外の異常の有無を検出する。すなわち、交通事故発生時のように検出した最新の加速度が異常に大きい場合や、無謀な運転を行っている場合のように検出した最新の車速が異常に高速である場合に異常な状態と見なす。異常がある場合はステップS13に進み、異常がなければステップS14に進む。
【0043】
ステップS13では、ステップS12で検出した異常を表す最新のイベント情報を生成し、これをイベントファイル上に追加するように記録する。このイベント情報には、図2に示すような時刻情報や位置情報も含まれる。
【0044】
ステップS14では、マイクロコンピュータ17は外部通信機(光ビーコン)20の状態を監視し、これが道路上の信号機からの情報を受信したか否かを識別する。例えば走行中の車両が信号機の設置された交差点に接近し、この信号機と接続された道路側通信機(光ビーコン)50の通信可能な領域内に車両上の投受光器30の位置が入ると、車載器の外部通信機20が信号機40からの情報を受信して次のステップS15に進む。
【0045】
ステップS15では、マイクロコンピュータ17は信号機から受信した情報を含むイベント情報を生成し、これをイベントファイル上に追加するように記録する。すなわち、信号機の状態が赤の点灯状態であれば「信号赤」のイベント情報を記録し、信号機の状態が黄の点灯状態であれば「信号 黄」のイベント情報を記録する。なお、信号機の状態が青の点灯状態の時には、イベントとしての情報の重要度が低いので記録動作は省略する。
【0046】
ステップS16では、マイクロコンピュータ17はステップS14で信号機から受信した情報の内容に基づき、現在の信号機が赤又は黄色の点灯状態であるか否かを識別する。そして、赤又は黄色の点灯状態であればステップS17に進み、それ以外の状態であればステップS12に戻る。
【0047】
ステップS17では、マイクロコンピュータ17は入力されるブレーキ信号の状態を検出し、ブレーキペダルが踏まれているかどうかを識別する。ブレーキペダルが踏まれている場合はステップS12に戻り、ブレーキペダルが踏まれていなければステップS18に進む。
【0048】
ステップS18では、マイクロコンピュータ17は速度インタフェース16から入力される現在の車速の値を予め定めた閾値(例えば10km/h)と比較し、「車速>閾値」の条件を満たすか否かを識別する。「車速>閾値」の条件を満たす場合には次のステップS19に進み、そうでなければステップS12に戻る。
【0049】
つまり、信号機のある交差点に接近し、この信号機の状態が赤又は黄色の点灯状態であって、このままでは信号機の手前で停止できない車速(10km/h以上)であるにもかかわらず、まだブレーキペダルが踏まれていない状態を検出した場合に限り、次のステップS19に進む。
【0050】
ステップS19では、マイクロコンピュータ17は当車両の信号無視の状態を検出したものとみなし、「信号無視」を表すイベント情報を生成し、これをイベントファイル上に追加するように記録する。画像データとの関連付けができるように、「信号無視」を表すイベント情報にも、図2に示すような時刻情報や位置情報が記録される。
【0051】
図3に示すように動作する車載運行記録装置10を用いて車両の運行状態を表すデータを外部記録媒体18上に記録した場合には、管理者等が記録されたデータを分析することにより、安全運転の指導に役立てることができる。
【0052】
特に、本実施形態の車載運行記録装置10の場合には、長時間にわたる膨大なデータが記録されている場合であっても、重要なデータが記録されている位置を簡単に見つけることができる。例えば、記録されたデータに対応する乗務員が信号無視を行ったことがあるかどうかを調べたい場合には、イベントファイルの中から「信号無視」を表すイベント情報を検索し、該当するイベント情報の時刻情報などを用いて、対応する運転状態のシーンが記録された重要な画像データの位置を特定することができ、実際に「信号無視」を行ったかどうかを短時間の画像の分析により確認できる。
【0053】
図3に示す動作の変形例が図4に示されている。なお、図4において図3と対応するステップは同一の番号を付けて示してある。すなわち、図4におけるステップS10〜S16は図3に示した動作と同様である。
【0054】
図4に示す動作においては、ステップS16で信号機の色が赤又は黄色であった場合に、次のステップS16B(画像処理部)を実行する。ステップS16Bでは、マイクロコンピュータ17は車載カメラ11から出力される最新の1フレームの画像データを入力し、これを画像処理することにより、画像中に現れている信号機の点灯色を検出する。
【0055】
具体的には、ステップS16Bで図5に示すような処理を実行する。すなわち、図5のステップS31では、マイクロコンピュータ17が車載カメラ11から最新フレームの画像データを取得する。
【0056】
次のステップS32では、フレーム内の処理対象領域を決定する。つまり、道路上で信号機が設置されている位置の路面からの高さ等はほぼ一定であり、車両を運転する運転者の視点から信号機が見える方向もほぼ一定であるので、車両上に固定された車載カメラ11の撮影範囲に相当するフレーム内に信号機が現れる位置も特定の位置に限られる。勿論、車載カメラ11の設置位置や撮影方向が変わればフレーム内の信号機の位置も変化することになる。従って、車載カメラ11の設置位置や撮影方向に応じて予め決定した定数に基づき、画像フレーム中の処理対象領域を決定する。
【0057】
ステップS33では、マイクロコンピュータ17はステップS32で決定した処理対象領域の内側の画像データのみに限定し、これを画像処理して信号機のデータを抽出する。すなわち、信号機の形状や色等の特徴と一致する情報を抽出する。
【0058】
ステップS34では、マイクロコンピュータ17はステップS33で抽出した信号機の画像データに基づいて、この画像中の信号機が青、黄、赤のいずれの色で点灯しているかを識別する。
【0059】
図4のステップS16Bで検出した信号機の色が赤又は黄色であった場合は次にステップS17Bに進み、そうでなければステップS12に戻る。
【0060】
ステップS17Bでは、信号無視になりそうな状態か否かをマイクロコンピュータ17が識別する。信号無視になりそうであればステップS19に進み、信号無視の可能性が低い場合はステップS12に戻る。例えば、図3におけるステップS17、S18と同様の処理により図4のステップS17Bの処理を実現できる。また、ステップS17Bで信号無視になりそうかどうかを識別するために、例えば加速度と所定の閾値との比較結果を利用することも考えられる。
【0061】
図3に示した動作においては、信号機の点灯色を信号機から受信した情報のみに基づいて識別している。しかし、例えば信号機の点灯色が切り替わる直前に車載運行記録装置10が信号機から情報を受信した場合には、情報を受信するタイミングと処理を行うタイミングとの時間のずれによって信号無視の検出に誤りが生じる可能性がある。一方、図4に示した動作においては、実際に撮影して得られた画像データに基づいて信号機の点灯色を識別しているので、より高精度で信号無視の検出を行うことができる。また、信号機から受信した信号機の点灯色が青である場合には、実際の点灯色を識別するための画像処理を省略できるので、マイクロコンピュータ17の処理の負担を軽減できる。
【0062】
図1に示した車載運行記録装置10がイベント発生時のみそれをトリガとしてデータを記録するドライブレコーダとして動作する場合のマイクロコンピュータ17の処理の内容が図6に示されている。図6に示す動作について以下に説明する。
【0063】
車載運行記録装置10の電源が投入されると、ステップS20で初期化を行う。すなわち、マイクロコンピュータ17自身を初期化し、メモリ19の内容をクリアし、外部通信機20を通信可能な状態に制御し、インタフェース14を介して車載カメラ11の状態を初期化し、インタフェース15からの加速度情報の取得や速度インタフェース16からの車速情報の取得が可能な状態に制御する。
【0064】
ステップS21では、マイクロコンピュータ17は一時的にバッファ上に保持される短時間の画像の撮影及び記録の動作を開始する。すなわち、事故発生のような異常検出時にのみこれをトリガとして画像データ等の記録を開始する場合であっても、トリガ発生前の所定時間(例えば10秒間)の画像も保存することが要求される。そこで、車載カメラ11の撮影動作は常時行い、過去所定時間内に撮影された画像データについては一時的なデータとしてバッファ上に保持し、時間的に古くなったデータは新しいデータで上書きする。これにより、トリガが発生する前の所定時間内に撮影された画像データをバッファ上に残すことができる。
【0065】
ステップS22では、後述する信号無視以外の異常の有無を検出する。すなわち、交通事故発生時のように検出した最新の加速度が異常に大きい場合や、無謀な運転を行っている場合のように検出した最新の車速が異常に高速である場合に異常な状態と見なす。異常がある場合はステップS27に進み、異常がなければステップS23に進む。
【0066】
ステップS23では、マイクロコンピュータ17は外部通信機(光ビーコン)20の状態を監視し、これが道路上の信号機からの情報を受信したか否かを識別する。例えば走行中の車両が信号機の設置された交差点に接近し、この信号機と接続された道路側通信機(光ビーコン)50の通信可能な領域内に車両上の投受光器30の位置が入ると、車載器の外部通信機20が信号機40からの情報を受信して次のステップS24に進む。
【0067】
ステップS24では、マイクロコンピュータ17はステップS23で信号機から受信した情報の内容に基づき、現在の信号機が赤又は黄色の点灯状態であるか否かを識別する。そして、赤又は黄色の点灯状態であればステップS25に進み、それ以外の状態であればステップS22に戻る。
【0068】
ステップS25では、マイクロコンピュータ17は入力されるブレーキ信号の状態を検出し、ブレーキペダルが踏まれているかどうかを識別する。ブレーキペダルが踏まれている場合はステップS22に戻り、ブレーキペダルが踏まれていなければステップS26に進む。
【0069】
ステップS26では、マイクロコンピュータ17は速度インタフェース16から入力される現在の車速の値を予め定めた閾値(例えば10km/h)と比較し、「車速>閾値」の条件を満たすか否かを識別する。「車速>閾値」の条件を満たす場合には次のステップS27に進み、そうでなければステップS22に戻る。
【0070】
つまり、信号機のある交差点に接近し、この信号機の状態が赤又は黄色の点灯状態であって、このままでは信号機の手前で停止できない車速(10km/h以上)であるにもかかわらず、まだブレーキペダルが踏まれていない状態を検出した場合に限り、次のステップS27に進む。
【0071】
ステップS27では、マイクロコンピュータ17は当車両の信号無視又は交通事故などの異常発生の状態を検出したものとみなし、これを記録動作開始のトリガとする。そして、所定時間(例えばトリガ発生から10秒間を経過するまで)に渡って画像等のデータを時系列データとして外部記録媒体18上に記録し保存する。また、トリガ発生前所定時間内の画像データがバッファ上に保持されているので、これを読み出して外部記録媒体18上に記録する。
【0072】
また、ステップS27で画像データを記録する際に、トリガの原因となった異常等を表すイベント情報を、図2に示すイベントファイルのようなデータとして同時に記録する。「信号無視」等の異常を表すイベント情報には、図2に示すような時刻情報や位置情報も含め、画像データとの関連付けを可能とする。
【0073】
図6に示した動作を行う場合には、大容量の画像データ等を常時記録する必要がなく、トリガが発生した時の短い時間帯だけデータを保存すればよいので、外部記録媒体18に必要とされる記憶容量を減らすことができる。また、交通事故発生時に撮影された画像や信号無視の際に撮影された画像のような重要なデータだけが外部記録媒体18上に保存されるので、記録されたデータを分析する際に、目的の重要なデータの所在を見つける作業が容易になる。
【0074】
図6に示す動作の変形例が図7に示されている。なお、図7において図6と対応するステップは同一の番号を付けて示してある。すなわち、図7におけるステップS20〜S24は図6に示した動作と同様である。
【0075】
図7に示す動作においては、ステップS24で信号機の色が赤又は黄色であった場合に、次のステップS24B(画像処理部)を実行する。ステップS24Bでは、マイクロコンピュータ17は車載カメラ11から出力される最新の1フレームの画像データを入力し、これを画像処理することにより、画像中に現れている信号機の点灯色を検出する。すなわち、ステップS24Bで図5に示すような処理を実行する。
【0076】
図7のステップS24Bで検出した信号機の色が赤又は黄色であった場合は次にステップS25Bに進み、そうでなければステップS22に戻る。
【0077】
ステップS25Bでは、信号無視になりそうな状態か否かをマイクロコンピュータ17が識別する。信号無視になりそうであればステップS27に進み、信号無視の可能性が低い場合はステップS22に戻る。例えば、図6におけるステップS25、S26と同様の処理により図7のステップS24Bの処理を実現できる。また、ステップS24Bで信号無視になりそうかどうかを識別するために、例えば加速度と所定の閾値との比較結果を利用することも考えられる。
【0078】
以上のように、本発明の車載運行記録装置は、主にドライブレコーダ等の車載器として業務用車両や、場合によっては一般の乗用車にも搭載して使用することが想定できる。本発明を採用することにより、常時記録型のドライブレコーダの場合には、長時間に渡って記録された画像の時系列データの中から、実際に信号無視が発生した時点の重要な画像が存在する位置を容易に特定可能になり、データの分析にかかる負担が軽減される。また、イベントが発生した時のみ一時的に記録動作を行うドライブレコーダの場合には、実際に信号無視が発生した時点の重要な画像データを確実に記録することができ、重要度の低い無駄な画像データの記録を抑制できるので、この場合もデータの分析にかかる負担が軽減される。
【符号の説明】
【0079】
10 車載運行記録装置
11 車載カメラ
12 加速度センサ
13 車速センサ
14,15 インタフェース
16 速度インタフェース
17 マイクロコンピュータ
18 外部記録媒体
19 メモリ(SDRAM)
20 外部通信機(光ビーコン)
30 投受光器
40 信号機
50 道路側通信機(光ビーコン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両上に搭載され、前記車両の運行中に、連続的に又は周期的にもしくは予め定めたイベントの発生を契機とするタイミングで、少なくとも1つ又は複数の車載カメラの撮影により得られる画像データを自動的に記録する機能を備えた車載運行記録装置であって、
前記車両上に搭載され、道路上に設置された信号機の状態を表す情報を道路側の無線通信設備を経由して受信可能な信号情報受信部と、
前記信号情報受信部が信号機の赤色又は黄色の点灯状態を表す情報を受信した場合に限り、信号無視の可能性が高い状態か否かを識別する信号無視検出部と、
前記信号無視検出部が信号無視の可能性が高い状態を検出した場合に、前記画像データの記録を開始するためのトリガを発生し、もしくは信号無視を表すイベント情報を生成して前記画像データと関連付けて記録する記録制御部と
を備えることを特徴とする車載運行記録装置。
【請求項2】
前記信号無視検出部は、前記車両の車速、加速度、ブレーキの状態、および画像処理により得られる情報の中の1つ又は複数の組み合わせにより、信号無視の可能性が高い状態か否かを識別する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載運行記録装置。
【請求項3】
前記信号無視検出部は、前記車載カメラの撮影により得られる画像データの中から信号機の情報を抽出して前記信号機の点灯色を自動的に検出する画像処理部を備え、前記画像処理部の検出した信号機の点灯色が赤色又は黄色である場合に限り、前記車両の車速、加速度、およびブレーキの状態の中の1つ又は複数の組み合わせに基づいて、信号無視の可能性が高い状態か否かを識別する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載運行記録装置。
【請求項4】
前記記録制御部は、少なくとも信号機の赤色又は黄色の点灯状態を検出した場合には、その状態を表すイベント情報を生成し、前記イベント情報を前記画像データおよび車両の現在位置を表す位置情報と関連付けて記録する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載運行記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−69051(P2012−69051A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215213(P2010−215213)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】