説明

車輌用アルミニウム製熱交換器の表面処理方法及び熱交換器の製造方法

【課題】紫外線照射で車室内VOCを効率的に除去できるような、光触媒機能が発揮できる状態で、十分な量の光触媒性金属酸化物粒子を表面に保持させた車輌用アルミニウム製熱交換器の表面処理方法を提供する。
【解決手段】(1)低温熱分解性樹脂を溶解した水溶液に表面をアパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物粒子を分散したスラリーを調製する工程、(2)前記スラリーを熱交換器の表面に塗布する工程、及び(3)該熱交換器を150〜280℃で乾燥し、光触媒性金属酸化物粒子表面の低温熱分解性樹脂を一部分解除去する工程、からなる車輌用アルミニウム製熱交換器の表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌用アルミニウム製熱交換器の表面に光触媒性金属酸化物粒子を付着させる表面処理方法、及びその表面処理された熱交換器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年住宅ではVOC(揮発性有機化合物)によるシックハウス症候群が問題になっているが、自動車の車室内でも素材、接着剤等からのホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレンなどのVOCが問題になっており、車室内VOCを除去する方法が種々行なわれ、あるいは試みられている。
たとえば、内装部品の素材、加工法、接着剤の見直しにより、VOCの発生量を抑制することが行なわれている。しかしながら、この方法では、VOCを完全にゼロにすることはできない。
また、エアコン通路内にVOCを吸着するフィルターを設置してVOCを除去する試みもあるが、フィルターの定期交換が必要である。
【0003】
一方、光触媒性金属酸化物粒子の樹脂分散液を熱交換器の表面に塗布し、紫外線ランプにより紫外線を照射することでVOCを除去する試みがある。本方法によればフィルター交換などのメンテナンスは軽減されるが、光触媒性金属酸化物微粒子の樹脂分散液を熱交換器の表面に塗布する方法では依然として、次のような問題がある。例えば、光触媒性金属酸化物粒子の水分散液を熱交換器表面にそのまま塗布しても、熱交換器表面への固着が十分とならず、エアコン稼働の通風で光触媒性金属酸化物粒子が車室内に飛散したり、結露水で流れ落ちるおそれがある。また、水分散液の粘度が低いため熱交換器表面を当該水分散液で処理しても乾燥工程で分散液が流れ落ちて十分な量の光触媒性金属酸化物粒子を保持できない。
一方、バインダーとしての無機系樹脂の水溶液に分散して表面処理した場合は、樹脂の臭いが発生するという問題がある。
バインダーとしての、臭気をほとんど発しない有機系樹脂の水溶液に分散して表面処理した場合、光触媒に対する紫外線照射時に、VOCだけでなく樹脂も分解し、その結果、光触媒性金属酸化物粒子が表面より抜け落ちる。また、光触媒性金属酸化物粒子が樹脂で過剰に覆われていると、VOCに対して光触媒機能が十分に発揮できない。
【0004】
さらに、光触媒作用を有する金属酸化物および抗菌性を有する金属イオン(銀イオン、銅イオンなど)がアパタイト結晶構造中に組み込まれている光触媒アパタイトが、VOC等の各種有機物あるいはウィルス等の特定の被吸着物質に対する優れた分解特性及び吸着特性を発揮することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−260587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、紫外線照射で車室内VOCを効率的に除去できるような、光触媒機能が発揮できる状態で、十分な量の光触媒性金属酸化物粒子を表面に保持させた車輌用アルミニウム製熱交換器の表面処理方法を提供することであり、さらには、そのような熱交換器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、光触媒性金属酸化物粒子の樹脂分散液を熱交換器の表面に塗布する方法において、アパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物粒子を、低温熱分解性樹脂をバインダーとして熱交換器の表面に付着させ、一定の乾燥処理を施すことによって低温熱分解性樹脂を一部分解させて、活性な光触媒性金属酸化物粒子を露出させたものが、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(1)低温熱分解性樹脂を溶解した水溶液に表面をアパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物粒子を分散したスラリーを調製する工程、(2)前記スラリーを熱交換器の表面に塗布する工程、及び(3)該熱交換器を150〜280℃で乾燥し、光触媒性金属酸化物粒子表面の低温熱分解性樹脂を一部分解除去する工程、からなる車輌用アルミニウム製熱交換器の表面処理方法;
(2)組み立て、ロウ付けして作製した熱交換器に対し上記(1)に記載の表面処理方法を施す工程を含む車輌用アルミニウム製熱交換器の製造方法;
(3)組み立て、ロウ付けして作製した熱交換器を、酸洗、化成処理を行った後、上記(1)に記載の表面処理方法を施す車輌用アルミニウム製熱交換器の製造方法;
(4)組み立て、ロウ付けして作製した熱交換器を、酸洗、化成処理、次いで表面凹凸のある親水化処理を行った後、上記(1)に記載の表面処理方法を施す車輌用アルミニウム製熱交換器の製造方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面処理方法を施した車輌用アルミニウム製熱交換器の表面には、アパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物粒子が、低温熱分解性樹脂をバインダーとして十分な量がしっかり付着されているので、エアコン稼働の通風で飛散したり、結露水で流れ落ちたりすることもなく、かつ、熱交換器表面には光触媒性金属酸化物粒子が露出しているので、紫外線照射により優れたVOC除去効果を発揮する。
また、熱交換器の作製過程で表面凹凸のある親水化処理を行っておくことにより、光触媒性金属酸化物粒子の密着性がさらに向上するので好ましい。
さらには、熱交換器表面に付着させた光触媒性酸化物粒子に紫外線を照射することで、熱交換器、特にエバポレータに必要な機能である親水性、抗菌性、防かび性、防汚性も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は車輌用アルミニウム製熱交換器の表面に、低温熱分解性樹脂をバインダーとして光触媒性金属酸化物粒子を付着させ、かつ、一定の乾燥処理を施すことによって低温熱分解性樹脂を一部分解させて、活性な光触媒性金属酸化物粒子を露出させる表面処理方法に関する。
【0011】
本発明の表面処理方法の第1工程は、低温熱分解性樹脂を溶解した水溶液に表面をアパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物粒子を分散したスラリーを調製する工程である。
光触媒性金属酸化物粒子としては、例えば酸化チタンが好ましく用いられる。酸化チタンとしては、光触媒機能をより発現するためにはルチル型よりアナターゼ型が好ましい。さらに、熱交換器表面に付着後、バインダーである低温熱分解性樹脂の分解を防ぐために、粒子表面がアパタイト(リン酸カルシウム)で修飾されていることが必要である。かかるアパタイト修飾酸化チタンの一次粒子の平均粒子径は10〜500nmであることが好ましい。なお、アパタイト修飾酸化チタンの一次粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡観察により求めた一次粒子径の算術平均として求めることができる。
このようなアパタイト修飾酸化チタンとしては、例えば、昭和タイタニウム社製「ジュピター F4−APS」(平均粒子径30nmのアナターゼ型の酸化チタン表面に数Åの厚みでアパタイトをコート(被覆量約1%/酸化チタン)したもの)が挙げられる。
【0012】
本発明で用いる低温熱分解性樹脂とは、150〜280℃で熱分解する有機樹脂であり、例えば、ダウ・ケミカル日本製「POLYOX WSR N−750」ポリエチレンオキサイド、三洋化成工業社製「メルポールF−220」などの変性ポリエーテル系樹脂等が挙げられる。
【0013】
本発明において、低温熱分解性樹脂を溶解した水溶液に表面をアパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物粒子を分散したスラリーは、低温熱分解性樹脂の固形分濃度が0.1〜10質量%である水溶液に、スラリー中に1〜30質量%の濃度となるように光触媒性金属酸化物粒子を分散させることにより得られる。低温熱分解性樹脂の固形分濃度が10質量%を超えると、もしくは、光触媒性金属酸化物粒子が30質量%を超えると、スラリーの粘度が高くなりすぎて、熱交換器の表面に塗布することが困難になる。低温熱分解性樹脂の固形分濃度が0.1質量%未満、もしくは、光触媒性金属酸化物粒子の濃度が1質量%未満であると、スラリーの粘度が低くなりすぎて、熱交換器表面に十分量を塗着することが困難となる。
【0014】
本発明の上記スラリーには、界面活性剤、消泡剤、抗菌剤、防かび剤を含有させることができる。
【0015】
本発明の表面処理方法の第2工程は、上記のスラリーを熱交換器の表面に塗布する工程である。
光触媒性金属酸化物粒子を分散した上記スラリーは、ディッピング又はスプレーにより、熱交換器の表面に塗布され、その後、遠心分離により、余剰のスラリーを除去する。熱交換器上の保液量は、遠心分離操作の回転速度や回転時間の長さにより調整する。スラリーの塗布量としては、表面をアパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物として、0.05g/m2以上5g/m2以下の範囲にあることが好ましく、0.1g/m2以上2g/m2以下の範囲にあることがより好ましい。
【0016】
本発明の表面処理方法の第3工程は、スラリーを表面に塗布した熱交換器を150〜280℃で乾燥し、光触媒性金属酸化物粒子表面の低温熱分解性樹脂を一部分解除去して露出させる工程である。
上記スラリー塗布後、熱風循環式乾燥炉などにより、熱交換器表面を乾燥する。乾燥温度は150℃以上280℃以下である。150℃未満ではスラリーが十分に乾燥固化せず、エアコン稼働時の結露で皮膜が溶解するおそれがある。280℃を超えると樹脂が分解しすぎてしまい粒子の密着性が低下するおそれがある。乾燥温度の下限は好ましくは160℃、より好ましくは170℃であり、上限は好ましくは240℃、より好ましくは220℃である。乾燥時間としては、15分以上60分以下であり、好ましくは30分以上45分以下である。
【0017】
本発明は、組み立て、ロウ付けして作製した熱交換器に対し上記の表面処理方法を施した車輌用アルミニウム製熱交換器の製造方法にも関する。
本発明における車輌用アルミニウム製熱交換器とは、カーエアコンの熱交換器部分であるエバポレータ、ヒーターコアを指す。
【0018】
エバポレータの場合、部品を組み立て、ロウ付けして熱交換器を作製し、これを酸洗し、化成処理(クロメート、ノンクロメート)した後、親水化処理を施して表面凹凸を作成した後に上記の表面処理方法を施すことが、光触媒性金属酸化物粒子の密着性を向上させる上で好ましい。
表面凹凸のある親水化処理とは、粒子を含有した水溶性樹脂溶液、例えば日本ペイント社製「サーフアルコート1100」を用いて表面処理することにより行える。
【0019】
ヒーターコアの場合は、組み立て、ロウ付けして熱交換器を無処理のまま上記の表面処理方法を施すか、または、熱交換器を酸洗,化成処理(クロメート、ノンクロメート)した後に上記の表面処理方法を施す。
【0020】
上記表面処理方法で光触媒性金属酸化物粒子を付着させた熱交換器(エバポレータ及び/又はヒーターコア)は、傍らに設置した紫外線ランプからの紫外線照射によりVOCを除去することができる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0022】
実施例1〜4、比較例1〜4
第1表に示す条件で、テストピース[日本テストパネル社製A1100Pアルミニウム板(7×15×0.08cm)]及び熱交換器カットパーツ[昭和電工社製エバポレータのカットパーツ(7×4×3cm)]の表面に、一部光触媒性金属酸化物が露出する有機樹脂コーティング光触媒性金属酸化物粒子層を形成し、前者について密着性評価、後者についてVOC除去性評価を行った。
テストピース及び熱交換器カットパーツの前処理、光触媒性金属酸化物分散液処理、及び乾燥処理の条件、さらには、密着性評価、VOC除去性評価の評価試験方法を以下に示す。
【0023】
<テストピース及び熱交換器カットパーツの前処理>
次の順に前処理操作を施した。
脱脂(テストピースのみ):日本ペイント社製「サーフクリーナー322N−8」3質量%水溶液で70℃、30秒間浸漬処理した。
脱脂後水洗(テストピースのみ):水道水で10秒間スプレー処理した。
酸洗:硫酸を5質量%、硝酸を4質量%含む混合水溶液中で、70℃、160秒間浸漬処理した。
酸洗後水洗:水道水で30秒間スプレー処理した。
化成処理:pH4.0に調整した日本ペイント社製「アルサーフ90」10質量%水溶液中で、60℃、60秒間浸漬処理した。
化成処理後水洗:水道水で30秒間スプレー処理した。
親水化処理:日本ペイント社製「サーフアルコート1100」25質量%水溶液中で、25℃、10秒間浸漬処理した。
乾燥処理:化成処理後水洗したもの又は親水化処理したものを、170℃、30分間乾燥した。
【0024】
<光触媒性金属酸化物分散液処理>
上記の前処理をしたテストピース又は熱交換器カットパーツを、次の光触媒性金属酸化物及び有機樹脂を第1表の量で含む光触媒性金属酸化物水性分散液に、25℃、10秒間浸漬処理した。
(光触媒性金属酸化物):
昭和タイタニウム社製「ジュピターF4−APS」(表面をアパタイトで修飾したアナターゼ型酸化チタン、一次粒子の平均粒子径 30nm)
(有機樹脂):
(a)ダウ・ケミカル日本製「POLYOX WSR N−750」ポリエチレンオキサイド(分子量30万)(ポリエチレンオキサイド系;低温熱分解性樹脂)
(b)三洋化成工業社製「メルポールF−220」(ポリエーテル系;低温熱分解性樹脂)
(c)クラレ社製「クラレポバールPVA−105」(ポリビニルアルコール系)
【0025】
<乾燥処理>
上記の光触媒性金属酸化物分散液処理を施したテストピース又は熱交換器カットパーツを、熱風循環式乾燥炉中、第1表の条件で乾燥処理した。
【0026】
<評価試験方法>
(1)密着性評価
テストピースを指でこすり、光触媒性金属酸化物層の剥がれ具合を目視評価する。
○:剥がれが認められない
△:少し剥がれが認められる
×:大きく剥がれが認められる
(2)VOC除去性評価
処理した各熱交換器カットパーツを入れた容積1リットルのチャンバー内を、VOCとしてアセトアルデヒド(初期濃度2000ppm)を含む空気(相対湿度50%(25℃))で満たした。当該チャンバーを暗所に置いて2時間経過後、ブラックライトを光源として、1mW/cm2の条件で7時間紫外線を照射した。紫外線照射前(吸着後)、および照射後のチャンバー内空気をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにより、アセトアルデヒド濃度を測定した。VOC除去率(%)は(吸着後濃度−光照射後濃度)/吸着後濃度×100として算出した。
【0027】
密着性評価及びVOC除去性評価の結果を第1表に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
親水化処理まで行った上で所定の一部光触媒性金属酸化物が露出する低温熱分解性樹脂コーティング光触媒性金属酸化物粒子層を形成する処理を行った実施例2、3、4は、光触媒性金属酸化物層の密着性にすぐれ、VOC除去性にも優れていた。
比較例1は、300℃で乾燥したため、低温熱分解性樹脂が分解し過ぎて、光触媒性金属酸化物層の密着性が悪くなった。
比較例2は、170℃では分解しない有機樹脂(ポリビニルアルコール系)を用いたため、光触媒性金属酸化物粒子がすべて有機樹脂で覆われていてVOC除去が全く起こらなかった。
比較例3は、有機樹脂を含まない光触媒性金属酸化物分散液を使用したため、光触媒性金属酸化物粒子をテストピース等の表面に保持できなかった。
比較例4は、光触媒性金属酸化物分散液処理を施さない場合であり、VOC除去性はほとんどなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)低温熱分解性樹脂を溶解した水溶液に表面をアパタイトで修飾した光触媒性金属酸化物粒子を分散したスラリーを調製する工程、(2)前記スラリーを熱交換器の表面に塗布する工程、及び(3)該熱交換器を150〜280℃で乾燥し、光触媒性金属酸化物粒子表面の低温熱分解性樹脂を一部分解除去する工程、からなる車輌用アルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項2】
組み立て、ロウ付けして作製した熱交換器に対して請求項1に記載の表面処理方法を施す工程を含む、車輌用アルミニウム製熱交換器の製造方法。
【請求項3】
組み立て、ロウ付けして作製した熱交換器に対して、酸洗、化成処理を行った後、請求項1に記載の表面処理方法を施す車輌用アルミニウム製熱交換器の製造方法。
【請求項4】
組み立て、ロウ付けして作製した熱交換器に対して、酸洗、化成処理、次いで表面凹凸のある親水化処理を行った後、請求項1に記載の表面処理方法を施す車輌用アルミニウム製熱交換器の製造方法。

【公開番号】特開2012−61902(P2012−61902A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206144(P2010−206144)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】