説明

車輪用転がり軸受装置

【課題】外輪部材の一端部外周面に対し、覆い部材を後付けによって取り付けることを可能にすると共に、覆い部材の内部に泥水や塵埃が不測に浸入したとしても、浸入した泥水や塵埃を排出することができる車輪用転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】内輪部材11と、外輪部材20と、内・外輪の両部材11、20間に転動可能に配設される転動体30、31と、シール部材40と、シール部材40を保護する覆い部材51とを備える。覆い部材51は、外輪部材20の一端部外周面の径方向外方から嵌込み可能に下部が開口されたC字筒状に形成され、かつ外輪部材20の一端部外周面に留め具56によって固定される固定部52と、固定部52から内輪部材11のフランジ13に接近する位置まで延出されて外輪部材20の一端部外周面とフランジ13との間の隙間の少なくとも上半部を覆う共に、下部が開放された覆い部53とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪用転がり軸受装置においては、径方向外方に延びるフランジを有する内輪部材と、この内輪部材の外周に配設される外輪部材と、前記内輪部材と前記外輪部材との間に転動可能に配設される転動体と、前記内輪部材のフランジが形成される近傍の外周面とこれに対向する前記外輪部材の一端部内周面の間の環状空間に密封状に配設されるシール部材とを備えた構造のものが知られている。
また、外輪部材の一端部外周面とフランジとの間の隙間を覆ってシール部材を保護するために、例えば、特許文献1に開示されているように、外輪部材の一端部外周面には、覆い部材(密封部材)が取り付けられる。
この覆い部材は、外輪部材の一端部外周面に圧入によって固定される筒状の固定筒部と、この固定筒部からフランジに向けて延出されたシールリップとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO2006−008898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されているように、外輪部材の一端部外周面に筒状の固定部を有する覆い部材が取り付けることによって、泥水や塵埃からシール部材を保護することができる。
しかしながら、覆い部材は、その固定筒部を外輪部材の一端部外周面に嵌込んで取り付ける構造上、内輪部材に外輪部材を組み付ける前の状態において、外輪部材の一端部外周面に覆い部材の固定筒部を嵌込んで取り付ける必要があり、後付けすることができない。
また、覆い部材の内部に泥水や塵埃が不測に浸入する場合があり、この場合には、覆い部材の内部に泥水や塵埃が溜まることがある。
そして、覆い部材の内部に泥水や塵埃が溜まると、その泥水や塵埃によって、シール部材が早期に摩耗され、シール性が悪化されることが想定される。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、外輪部材の一端部外周面に対し、覆い部材を後付けによって取り付けることを可能にすると共に、覆い部材の内部に泥水や塵埃が不測に浸入したとしても、浸入した泥水や塵埃を排出することができる車輪用転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る車輪用転がり軸受装置は、径方向外方に延びるフランジを有する内輪部材と、この内輪部材の外周に配設される外輪部材と、前記内輪部材と前記外輪部材との間に転動可能に配設される転動体と、前記内輪部材のフランジが形成される近傍の外周面とこれに対向する前記外輪部材の一端部内周面の間の環状空間に密封状に配設されるシール部材と、前記外輪部材の一端部外周面と前記フランジとの間の隙間を覆って前記シール部材を保護する覆い部材とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記覆い部材は、前記外輪部材の一端部外周面の径方向外方から嵌込まれて固定される下部が開口されたC字状に形成されると共に、前記外輪部材と前記フランジとの間の隙間の少なくとも上半部を覆う構成にしてあることを特徴とする。
ここで、外輪部材の一端部外周面に覆い部材を固定した状態において、覆い部材の上側部分を上部とし、下側部分を下部としている。
【0007】
前記構成によると、内輪部材に外輪部材を組み付けた後においても、覆い部材を後付けによって外輪部材の一端部外周面に固定することができる。
また、外輪部材の一端部外周面に覆い部材が固定された状態において、覆い部材によって、外輪部材の一端部外周面と内輪部材のフランジとの間の隙間を覆うことで、泥水や塵埃からシール部材を保護することができる。
また、仮に、覆い部材の内部に泥水や塵埃等が浸入したとしても、覆い部材の下部の開口部から泥水や塵埃等が外部に排出されるため、覆い部材の内部に泥水や塵埃が溜まることがない。
【0008】
請求項2に係る車輪用転がり軸受装置は、請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
覆い部材は、外輪部材の一端部外周面の径方向外方から嵌込み可能に下部が開口されたC字筒状に形成され、かつ前記外輪部材の一端部外周面に留め具によって固定される固定部と、
前記固定部から前記フランジに接近する位置まで延出されて前記外輪部材の一端部外周面と前記フランジとの間の隙間の少なくとも上半部を覆うと共に、下部が開放された覆い部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、外輪部材の一端部外周面の径方向外方から覆い部材のC字筒状の固定部を嵌込んで留め具によって安定よく固定することができる。
【0010】
請求項3に係る車輪用転がり軸受装置は、請求項2に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
外輪部材の一端部外周面には、覆い部材の固定部が嵌込まれて同固定部の軸方向への移動を阻止する嵌込み溝が形成されていることを特徴とする。
【0011】
前記構成によると、外輪部材の一端部外周面の嵌込み溝に覆い部材の固定部が嵌込まれて軸方向への移動が阻止されるため、覆い部材の覆い部によって、外輪部材の一端部外周面と内輪部材のフランジとの間の隙間を常に良好に覆うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例1に係る車輪用転がり軸受装置を示す縦断面図である。
【図2】同じく車輪用転がり軸受装置の外輪部材の一端部外周面に覆い部材が取り付けられた状態における覆い部の上端部を拡大して示す縦断面図である。
【図3】同じく車輪用転がり軸受装置の外輪部材の一端部外周面に覆い部材が取り付けられた状態における覆い部の下端部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】同じく覆い部材と、留め具としてのインシュロックタイとを示す斜視図である。
【図5】同じく留め具がC字状の弾性ワイヤで構成された実施態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0014】
図1に示すように、車輪用転がり軸受装置は、内輪部材11と、外輪部材20と、これら内輪部材11と外輪部材20との間に複列をなして転動可能に配設されかつ保持器35、36によって保持される複列の転動体30、31と、シール部材40と、覆い部材51とを備えている。
内輪部材11(ハブホイールとも呼ばれることもある)は、ハブ軸14と、このハブ軸14の一端寄り外周面から径方向外方に延出されたフランジ13とを一体に備え、フランジ13には車輪を締め付けるための複数のハブボルト12が所定ピッチで配設されている。
また、この実施例1において、外輪部材20の一端部外周面には、後述する覆い部材51の固定部52が嵌込まれて同固定部52の軸方向への移動を阻止する環状の嵌込み溝25が形成されている。
【0015】
図2に示すように、シール部材40は、内輪部材11の一方(フランジ13に近い方)の内輪軌道面6の内輪肩部6aと、この内輪肩部6aの外周面に対向する外輪部材20の一端部内周面との間の環状空間に装着されてこの環状空間を密封する。
このシール部材40は、芯金41と弾性シール体46とを備える。芯金41は、外輪部材20の一端部内周面に圧入されて固定される筒状部42と、この筒状部42の一端から径方向内方へ曲げ加工された環状部43と、この環状部43の内径端から斜め内方へ曲げられたテーパ部44と、このテーパ部44の先端から径方向内方へ曲げられた内径端部45とを備えている。
弾性シール体46は、芯金41の一側面の環状部43と、テーパ部44と、内径端部45との外側面に接着されて一体状をなしている。
そして、弾性シール体46は、内輪部材11のフランジ13の基端部近傍に摺接するリップ47と、内輪肩部6aの外周面に摺接するリップ48、49とを備えている。
【0016】
図2〜図4に示すように、覆い部材51は、外輪部材20の一端部外周面とフランジ13との間の隙間を覆ってシール部材40を保護する。
覆い部材51は、外輪部材20の一端部外周面の径方向外方から嵌込まれて固定される下部が開口されたC字状に形成されると共に、外輪部材20とフランジ13との間の隙間の少なくとも上半部を覆う構成にしてある。
この実施例1において、覆い部材51は、合成樹脂材、ゴム等から形成され、固定部52と、覆い部53とを一体に有している。
固定部52は、外輪部材20の嵌込み溝25の径方向外方から嵌込み可能に下部が開口されたC字筒状に形成されている。この実施例1において、固定部52は、180度を越える(半円よりも長い周長を有する)円弧状に形成されている。
また、固定部52の外周面には、留め具としての結束バンド57(市販のインシュロックタイと呼ばれている留め具を用いることができる。)の軸方向へのずれ止めをなす溝54が形成されている。
そして、固定部52は、外輪部材20の嵌込み溝25の径方向外方から嵌込まれ、その固定部52の溝54に結束バンド57が締結されることによって外輪部材20の嵌込み溝25に固定(締結)される。
【0017】
また、覆い部材51の覆い部53は、固定部52の一端縁からフランジ13に接近する位置まで延出されて外輪部材20の一端部外周面とフランジ13との間の隙間の少なくとも上半部を覆うと共に、下半部が開放されたC字状に形成されている。
また、この実施例1において、覆い部53は、図2に示すように、上部が最も傾斜角度が大きく、図3に示すように、下部に向けてしだいに傾斜角度が小さくなっている。言い換えると、覆い部53は、上部の延出長さが最も長く、下部に向けてしだいに短くなっている。これによって、覆い部材51の材料費の節減や軽量化が図られている。
すなわち、泥水等が覆い部53の上部傾斜面に跳ねかけられると、覆い部53の上部傾斜面に沿って流れ、シール部材40に向けて浸入することを防止している。また、覆い部53の上部以外の側面においては、泥水等が跳ねかけられると下向きに流れるため、シール部材40に向けて浸入され難い。
【0018】
この実施例1に係る車輪用転がり軸受装置は上述したように構成される。
したがって、外輪部材20の一端部外周面に覆い部材51を固定する場合、覆い部材51のC字筒状の固定部52を外輪部材20の嵌込み溝25の径方向外方から嵌込み、固定部52の溝54に結束バンド57を締結することによって、外輪部材20の嵌込み溝25に覆い部材51を安定よく固定することができる。
このため、内輪部材11の外周に複列の転動体30、31を介在させて外輪部材20をを組み付けた後においても、覆い部材51を後付けによって外輪部材20の一端部外周面に容易に取り付けることができる。
【0019】
また、外輪部材20の一端部外周面に覆い部材51が取り付けられた状態において、覆い部材51の覆い部53によって、外輪部材20の一端部外周面と内輪部材11のフランジ13との間の隙間を覆うことで、泥水や塵埃からシール部材40を保護することができる。これによって、軸受内部を密封状態に維持することができる。
また、仮に、覆い部材51の内部に泥水や塵埃が浸入したとしても、覆い部53の下部の開口部から外部に排出されるため、覆い部材51の内部に泥水や塵埃が溜まることがない。
【0020】
また、この実施例1において、外輪部材20の一端部外周面の嵌込み溝25に覆い部材51の固定部52が嵌込まれて軸方向への移動が阻止される。このため、覆い部材51の覆い部53によって、外輪部材20の一端部外周面と内輪部材11のフランジ13との間の隙間を常に良好に覆うことができる。
【0021】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。
例えば、前記実施例1においては、外輪部材20の嵌込み溝25の外周面に覆い部材51の固定部52を締結する留め具として、市販のインシュロックタイと呼ばれている結束バンド57を用いた場合を例示したが、外輪部材20の嵌込み溝25の外周面に覆い部材51の固定部52を締結する留め具であればどのような構造の留め具を用いてもよい。例えば、図5に示すように、C字状の弾性ワイヤ58によって外輪部材20の嵌込み溝25の外周面に覆い部材51の固定部52を締結してもよい。
また、外輪部材20の一端部外周面に嵌込み溝25を形成しなくてもこの発明を実施することが可能である。
また、覆い部材51は、その基部を外輪部材20の一端部外周面に接着剤等によって固定することも可能である。この場合には、C字筒状の固定部52を必ずしも設けなくてもこの発明を実施可能である。
【符号の説明】
【0022】
11 内輪部材
13 フランジ
20 外輪部材
30、31 転動体
40 シール部材
51 覆い部材
52 固定部
53 覆い部
56 インシュロックタイ(留め具)
58 C字状の弾性ワイヤ(留め具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向外方に延びるフランジを有する内輪部材と、この内輪部材の外周に配設される外輪部材と、前記内輪部材と前記外輪部材との間に転動可能に配設される転動体と、前記内輪部材のフランジが形成される近傍の外周面とこれに対向する前記外輪部材の一端部内周面の間の環状空間に密封状に配設されるシール部材と、前記外輪部材の一端部外周面と前記フランジとの間の隙間を覆って前記シール部材を保護する覆い部材とを備えた車輪用転がり軸受装置であって、
前記覆い部材は、前記外輪部材の一端部外周面の径方向外方から嵌込まれて固定される下部が開口されたC字状に形成されると共に、前記外輪部材と前記フランジとの間の隙間の少なくとも上半部を覆う構成にしてあることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
覆い部材は、外輪部材の一端部外周面の径方向外方から嵌込み可能に下部が開口されたC字筒状に形成され、かつ前記外輪部材の一端部外周面に留め具によって固定される固定部と、
前記固定部から前記フランジに接近する位置まで延出されて前記外輪部材の一端部外周面と前記フランジとの間の隙間の少なくとも上半部を覆うと共に、下部が開放された覆い部とを備えていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車輪用転がり軸受装置であって、
外輪部材の一端部外周面には、覆い部材の固定部が嵌込まれて同固定部の軸方向への移動を阻止する嵌込み溝が形成されていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−219971(P2012−219971A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89029(P2011−89029)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】