説明

軌条運搬車の過負荷状態回避装置

【課題】 軌条に倒木等があって軌条運搬車が走行できなきいときをマイコンで検出し、、エンジン停止等の危険回避措置をとらせる。
【解決手段】 支柱で支持された軌条を走行する軌条運搬車において、運搬車の走行レバーが「走行」に入ると、危険感知タイマが危険時間を設定するとともに、第1タイマを始動させ、第1タイマの計時時間が危険時間を超えると運搬車に危険回避措置をとらせ、超えないときは支柱検出スイッチで支柱を検出し、支柱の検出がない間はこのサイクルを繰り返し、支柱の検出があると、第1タイマをリセットすると同時に第2タイマを始動させ、第2タイマの計時時間が危険時間を超えない間はこのサイクルを繰り返し、超えると危険回避措置をとらせるとともに、これらの動作をマイコンに書き込んだプログラムで実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支柱で支持した軌条を走行する軌条運搬車において、運搬車が何らかの障害で走行不能になったとき、エンジンを過負荷状態から解放する軌条運搬車の過負荷状態回避装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山の斜面等に開かれた果樹園や山奥で施工される工事現場等において、収穫物や資材或いは人員等の輸送のため若しくは各種の作業を行うため、麓から目的地まで地上に軌条(単軌条が多い)を架設し、この軌条に沿って運搬車を走行させている。この運搬車は内燃機関エンジン(以下、エンジンという)を搭載して、遠心クラッチ、プーリ・ベルト機構、ミッションを経て軌条に貼設されたラックに噛み合う駆動輪を駆動して走行する。
【0003】
この場合の軌条は急な上り下りで施工されていることが多く、エンジンを始めとして遠心クラッチやベルトはこの負荷に対応する容量のものにしてある。したがって、軌条に倒木等が乗り掛かったときや運搬車同士が衝突したとき等に運搬車が走行不能に陥ったときも、遠心クラッチやベルトは回り続けて(滑って)いる。この状態が所定時間(約3分程度)続くと、機器の損傷はもちろんのこと、滑りによる発熱でベルトが燃え、その上にあるガソリンタンクに引火して森林火災を起こすことがある。
【0004】
このため、下記特許文献1では、発熱源の近くにヒューズを取り付け、このヒューズをエンジンの停止回路に挿入し、このヒューズの溶断によってリレーとソレノイドタイマを駆動してエンジンの点火回路を遮断するようにしている。しかし、ヒューズの溶断時間は種々の条件に左右されるから、信頼性に欠けるといったことがある。
【0005】
そこで、下記特許文献2には、ミッションの伝動軸の回転を検出する回転スイッチを設け、運搬車の走行スイッチを「走行」にしたときを条件としてエンジンを停止させる案件が提案されている。この場合、回転スイッチを遠心力を利用する機械式のものとしているため、電源等を必要としない利点があるが、機械式の回転スイッチの構造が複雑になるといった特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−318008号公報
【特許文献2】特開2009−013871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した先行技術の欠点を是正したものであり、危険回避措置を複数のタイマによるものとし、これらタイマの作動をマイコンに組み込んだプログラムで実行することで、極めて安価な危険回避装置を具現したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した支柱で支持された軌条を走行する軌条運搬車において、運搬車の走行レバーが「走行」に入ると、危険感知タイマが危険時間を設定するとともに、第1タイマを始動させ、第1タイマの計時時間が危険時間を超えると運搬車に危険回避措置をとらせ、超えないときは支柱検出スイッチで支柱を検出し、支柱の検出がない間はこのサイクルを繰り返し、支柱の検出があると、第1タイマをリセットすると同時に第2タイマを始動させ、第2タイマの計時時間が危険時間を超えない間はこのサイクルを繰り返し、超えると危険回避措置をとらせるとともに、これらの動作をマイコンに書き込んだプログラムで実行することを特徴とする軌条運搬車の過負荷状態回避装置を提供したものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、運搬車が過負荷状態を一定時間継続すると、エンジン停止等の危険回避措置をとらせるため、機器の破損や火災を起こす事態を回避できる。そして、過負荷状態を検出するには、危険感知タイマと第1及び第2タイマの三つを使用するが、これらはマイコンに書き込んだプログラムで実行させるため、非常に簡単で安価に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る回避フローのフローチャートである。
【図2】軌条運搬車の側面図である。
【図3】軌条運搬車の背面図である。
【図4】エンジンの斜視図である。
【図5】遠心クラッチの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図2は本発明に係る軌条運搬車の側面図、図3は背面図であるが、地上には軌条1が支柱2に支えられて一定高さで設けられている。本例の軌条1は単軌条であり、地面の傾斜に沿って目的地まで直線と曲線とをもって敷設されている。軌条1上には運搬車3が載り、軌条1を案内として走行する。本例の運搬車3は牽引車4と台車5とに分かれており、台車5に荷を積み、牽引車4で牽引する。
【0012】
この目的のために、牽引車4は車台6の上にエンジン7やミッション8及び各種の操作器具9類が搭載されており、台車5は荷を積むことができるフレーム10を有して牽引車4に牽引器11で連結されている。なお、本例のエンジン7はガソリンを燃料とする内燃機関としているが、電池又はトロリーを電源とするモータであってもよい。また、図示は省略するが、軌条1の傾斜如何にかかわらず、エンジン7を車台6に対して常に水平に保持する水平保持機構を備えたものもある。
【0013】
牽引車4、台車5とも、単一の軌条1に対して転倒したりすることなく載設される。図3はこれを示す運搬車3の足廻りの要部の横断面図であるが、軌条1は断面が四角形をしており、その裏面にはその幅よりも小さい幅を有するラック12が貼設されている。牽引車4の車台6には、軌条1を上下から挟む支持輪13と駆動輪14とが取り付けられている。このうち、支持輪13は軌条1の上面に載る胴部13aと軌条1の側面にまで延びるフランジ13bとからなり、また、駆動輪14はラック12に噛み合うピニオン14aとラック12の両外方の軌条1の下面にあてがわれる胴部14bと同じく軌条1の側面にまで延びるフランジ14cとからなり、これらで軌条1を上下から挟着することで脱線等を防いでいる。
【0014】
台車5のフレーム14にも上記と同じ構造を有する上輪15と下輪16とが設けられており、脱線等が防止される。なお、本例では、台車5は自走能力を必要としないものが示されており、下輪16にはピニオンは設けられていない。ところで、以上は単一の軌条1で重量支持と走行とを図った単軌条式のものであるが、軌条1の両側に重量支持用のレールを敷設する複軌条式のものであってもよい。
【0015】
図4はエンジン7自体の斜視図であるが、エンジン7の動力はその出力軸7aから遠心クラッチ20、プーリ21及び(V)ベルト22を介してミッション8の入力軸に伝えられ、その出力軸からチェンやベルト(図示省略)で駆動輪14に伝達される。図5は遠心クラッチ20の断面図であるが、エンジン7の出力軸7aはプーリ21に形成されたクラッチ室21aに収納されたクラッチ軸23と連結しており、クラッチ軸23に遠心クラッチ20の基盤24が固定されている。そして、基盤24にはシュー25とライナ26がピン27の回りに回動可能に取り付けられており、このシュー25はスプリング28で内側に引っ張られている。
【0016】
以上により、エンジン7の出力軸7aが一定以上の回転数で回転すると、シュー25はその遠心力で外方に拡がってライナ26を介してクラッチ室21aの外周面(プーリ21の内周面)に押し当てられてプーリ21を駆動するものであり、回転数が落ちると、シュー25はスプリング27で引っ張られてライナ26と共にクラッチ室21aの外周面から離れ、動力を切断するものである。これによって、動力は断続されるが、走行車3が障害物等で走行不可能になっても、遠心クラッチ20のライナ26はクラッチ室21aの外周面を滑り続け、エンジン7が停止しないのは上記したとおりである。そして、ライナ26が滑り続けていると、この部分に発熱が生じ、激しい場合はライナ26やベルト22が燃え、ガソリンに引火するようなことがあるのも上記したとおりである。
【0017】
なお、運搬車3の走行、停止は牽引車4に設けられた走行レバー29による。走行レバー29はエンジン7のスロットルに連結しており、走行レバー29を前方に倒して「走行」位置にすると、エンジン7の回転数が上がり、遠心クラッチ20を接続して駆動輪14を駆動して運搬車3は走行する。一方、走行レバー29を後方に引いて「停止」位置にすると、エンジン7の回転数は下がり、遠心クラッチ20を切断し、駆動輪14の駆動を停止させる。このとき、ブレーキ装置(図示省略)がミッション8の特定の伝動軸を締め付けて駆動輪14をロックするブレーキが併用されている。
【0018】
本発明は、遠心クラッチ20のライナ26とクラッチ室21aの外周面の滑りが一定時間を超えると回避措置を取るようにしたものである。具体的には、エンジン停止であり、警告音の発信等である。そして、運搬車3がどの位置でどのような状態で走行不能になってもそれを感知できるようにしたものである。これにおいて、時間の計時はタイマによっており、本発明では、危険感知タイマTs と第1タイマT0 及び第2タイマT1 を使用する。これにおいて、危険感知タイマTs は運搬車3が走行不能になったときの危険時間を設定するものであり、第1タイマはT0 は運搬車3が始動してからの時間を計時するものであり、第2タイマT1 は運搬車3が支柱2を通過する時間を計時するものである。
【0019】
図1はこれらタイマTs 、T0 、T1 を使用しての運搬車3における過負荷状態を回避する手順のフローチャートであるが、走行レバー29が「走行」に入ったことを確認すると(図示は省略するが、「走行」位置にリミットスイッチ等を設けておけばよい)、危険感知タイマTs による危険時間Ts が設定される。この危険時間Ts は遠心クラッチ20が回り続けると危険な時間であり、余裕をみて1〜2分程度で抑えるのが適する。なお、走行レバー29が「停止」の位置であれば、このフローは作動しない。
【0020】
次いで、第1タイマT0 を始動させ、第1タイマT0 の計時時間T0 が危険時間Ts を超えたか否かを判断する。もし、超えていれば、運搬車3は危険な過負荷状態であるから、エンジン停止等の所定の措置をとる。この場合のエンジン停止をエンジン7の点火回路を遮断する等をすれば簡単である。すなわち、点火回路にスイッチを挿入し、第1タイマT0 による危険時間Ts のタイムアップでスイッチを切断すればよい。また、計時時間T0 が危険時間Ts を超えない間は支柱2を通過した否かを判断する。このため、牽引車4等に支柱2を検出する支柱検出スイッチ30を設けておく。なお、このスイッチ30は接触式のリミットスイッチでもよいか、非接触式の近接スイッチが適する。
【0021】
支柱2の検出がいつまで経っても行われないい場合は、計時時間T0 が危険時間Ts を超えたかどうかの判断と支柱2の検出の有無の判断のサイクルを繰り返し、この間に危険時間Ts がタイムアップするとエンジン停止措置をとる。この事態は、運搬車が最初から走行していないか、走行してもいつまで経っても支柱2を通過しないかであり、危険な過負荷状態であるからである。
【0022】
一方、支柱2の検出があると、第1タイマT0 をリセットすると同時に第2タイマT1 を始動させる。次いで、第2タイマT1 の計時時間T1 が危険時間Ts を超えたかどうかを判断する。超えておれば、危険な過負荷状態と判断してよく、エンジン停止等の措置をとることになる。第2タイマの計時時間T1 が危険時間Ts を超えない間ではこのサイクルを繰り返しており、これが繰り返されるということは、運搬車が正常に走行して次々と支柱2を通過していることであり、格別の回避措置を講ずる必要はない。
【0023】
このためには、運搬車3が通常速度で走行している限り、支柱2の通過時間は危険時間Ts より短くなるようにその間隔を設定しておく必要がある。具体的には、運搬車3の標準速度を0.75m/secとした場合、仮に、支柱2の間隔を2mとすると、危険時間Ts は2.7秒ということになる。ただし、支柱2の間隔も一定にはできないし、運搬車3も速度を落とすことがあるから、これよりは長い時間を設定するが、上記した危険時間を超えない範囲とする。
【0024】
ところで、以上の制御は牽引車4等に設けた制御装置31で行うが、この制御装置31をマイコンで構成する。そして、上記した危険感知タイマTs 、第1及び第2タイマT0 、T1 の設定、計時、タイムアップ出力、リセット等をマイコンに書き込まれたプログラムで実行する。この場合におけるマイコンは市販されている汎用品でよく、これにプログラムを書き込む。プログラムの書込は一般的な手法でよく、パソコンでフローチャートに従ってC言語等の機械言語によるソースプログラムを作成し、これをコンパイラでCPUが読むことができるバイナリナーコードに編纂し、これをマイコンに転送すればよい。
【符号の説明】
【0025】
1 軌条
2 支柱
3 走行車
4 牽引車
5 荷台車
6 車台
7 エンジン
7a 〃 の出力軸
8 ミッション
9 操作器具
10 フレーム
11 連結器
12 ラック
13 支持輪
13a 〃 の胴部
13b 〃 のフランジ
14 駆動輪
14a 〃 のピニオン
14b 〃 の胴部
14c 〃 のフランジ
15 上輪
16 下輪
20 遠心クラッチ
21 プーリ
21a クラッチ室
22 ベルト
23 クラッチ軸
24 基盤
25 シュー
26 ライナ
27 ピン
28 スプリング
29 走行レバー
30 支柱検出スイッチ
31 制御装置
s 危険感知タイマ
0 第1タイマ
1 第2タイマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱で支持された軌条を走行する軌条運搬車において、運搬車の走行レバーが「走行」に入ると、危険感知タイマが危険時間を設定するとともに、第1タイマを始動させ、第1タイマの計時時間が危険時間を超えると運搬車に危険回避措置をとらせ、超えないときは支柱検出スイッチで支柱を検出し、支柱の検出がない間はこのサイクルを繰り返し、支柱の検出があると、第1タイマをリセットすると同時に第2タイマを始動させ、第2タイマの計時時間が危険時間を超えない間はこのサイクルを繰り返し、超えると危険回避措置をとらせるとともに、これらの動作をマイコンに書き込んだプログラムで実行することを特徴とする軌条運搬車の過負荷状態回避装置。
【請求項2】
軌条運搬車の駆動原が内燃機関型エンジンであり、危険回避措置がエンジンの点火回路を遮断するものである請求項1の軌条運搬車の過負荷状態回避装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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