説明

軌道回路用送信装置

【課題】車軸短絡による送信器の故障等を確実に防止するとともに電力効率を改善する。
【解決手段】電力増幅器9の増幅部11の変調度を、実際にレール2に送信している電圧と電流の変化量に応じて可変制御して、増幅部11の出力を規定された電圧と電流にしてにより、左右のレール2の車軸16による短絡位置が送信器3の送信端に達したときもレール2に過大な電流を流さないで済み、増幅部11や整合変成器4に異常や故障が生じることを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、列車検知装置(TD装置)や自動列車制御装置(ATC装置)などの鉄道用信号保安装置の機能を実現するために軌道回路を構成する軌条(レール)に列車検知や列車制御用の信号電流を送信する送信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TD装置やATC装置などの鉄道用信号保安装置では、列車検知や列車制御のために、閉そく区間毎に設けた送信器から軌道回路を構成するレールに信号電流を送信している。この送信器20は、図3に示すように、ATC/TD信号を発生する信号発生部21と、発生したATC/TD信号を増幅する電力増幅器22と、増幅された信号から各閉そく区間に設定された信号を抽出して不用帯域と雑音成分を除去するバンドバスフィルタ(BPF)23とを有し、通常、数百〜数十kHzの交流信号の信号電流をレールに流す。このため電力増幅器22は数ワットから数十ワットの出力を持つものが使用されている。この電力増幅器22として、従来はB級やAB級のバイアス動作点で働くものが多く用いられてきた。これらの特性としてアイドル電流を大きめに流して安定な特性を得る必要があった。このため電源の電力利用効率が悪く、大多数が40〜50%程度の効率であり、電力増幅器22自体で電力を多く消費するために発熱が大きく、放熱のために大きな放熱フィンと通風エリアを確保する必要があり実装効率が悪かった。
【0003】
この電力増幅器22を使用した送信器20から軌道回路nTを構成するレール2に信号電流を送信している軌道回路nTに列車15が進入すると、列車15の車軸16によって左右のレール2が短絡される。この軌道回路nTを列車15が進行して送信器20の送信端が車軸16により短絡されると、送信器20が過大な電流を出力することになり故障の原因になる。この列車15の車軸16による短絡で送信器20の劣化や故障を防止するため、非特許文献1に示すように、送信器20とレール2の間に鉄損トランス24と、レール2が車軸16で短絡された場合にレール2に過大な短絡電流が流れずに一定電流が流れるような電流制限機能として動作し、かつレール短絡が送信器20に影響を与えないようにバッファとして機能する限流抵抗25を設けている。この鉄損トランス24は、伝送損があえて多くなるように製作され、2次側の短絡が1次側の電力増幅器22に影響しないように動作し、必要によりレール2側から進入する雑音を送信器側に伝達しないように対雑音特性を有する絶縁性能を持つものが使用される。
【0004】
また、近年、高効率・高速動作のパワー用FET(電力用電界効果トランジスタ)が開発されて比較的安価に入手でき、D級のデジタル増幅器が容易に構成できるようになった。このデジタル増幅器は、PWM変調方式を電力増幅に適用し、スイッチング回路で電力増幅を行うことにより90%程度の高効率増幅を実現でき、特許文献1に示すように、ATC装置等の送信器に使用されている。
【0005】
【非特許文献1】軌道回路 61頁〜63頁 社団法人日本鉄道電気技術協会 平成4年発行
【特許文献1】特開平10−310056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように電源効率の良いD級の増幅器を使用した場合であっても、車軸短絡からの防護には、従来のB級やAB級の増幅器を使用した場合と同様に、鉄損トランスや限流抵抗を使用していると、増幅器自体の電力効率は良いが、鉄損トランスや限流抵抗における電力消費により全体の電力効率を画期的に改善することはできなかった。
【0007】
また、鉄損トランスは伝達効率が悪いので増幅器の出力でそれを補うため、増幅器に余裕を持たせる必要があり性能の大きな増幅器が必要であった。さらに、限流抵抗で消費する電力により発熱する問題もあった。
【0008】
この発明は、このような問題を解消し、車軸短絡による故障等を確実に防止するとともに電力効率を画期的に改善した軌道回路用の送信装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の軌道回路用の送信装置は、送信器と整合変成器と電圧センサ及び電流センサを有し、前記電圧センサは、前記送信器からレールに出力する電圧を検出し、前記電流センサは、前記送信器からレールに出力する電流を検出し、前記送信器は、信号発生部と電圧電流検出部と電力増幅器及びローパスフィルタ(LPF)を有し、前記信号発生部は上位装置からの指令により制御信号を生成し、前記電圧電流検出部は、前記電圧センサで検出している電圧値と前記電流センサで検出している電流値を入力してその変化量を検出し、前記電力増幅器は増幅部と制御部を有し、前記増幅部は前記信号発生部で生成した信号を入力して電力増幅し、前記制御部は、前記電圧電流検出部で検出した電圧と電流の変化に応じて前記増幅部のゲインをフィードバック制御し、前記LPFは、前記電力増幅器で電力増幅した信号から雑音を除去し必要な信号成分だけを通過させてレール側に出力し、前記整合変成器は、前記送信器から出力した信号をレールに供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、電力増幅器の増幅部のゲインを実際にレールに送信している電圧と電流の変化量に応じて可変制御して増幅部の出力を規定された電圧と電流にすることにより、左右のレールの車軸による短絡位置が送信器の送信端に達したときもレールに過大な電流を流さないで済み、簡単な構成で増幅部や整合変成器に異常や故障が生じることを確実に防ぐことができる。
【0011】
また、電力増幅器の増幅部から出力している電圧と電流を検出してフィードバック制御するから、余分の電力消費を必要とせず、全体の電力効率を画期的に改善することができ、省エネルギを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1はこの発明の送信装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、ATC装置の送信装置1は、軌道回路を構成するレール2に信号電流を送信するものであり、送信器3と整合変成器4とレール2間に供給する電圧の電圧値を検出する電圧センサ5及びレール2に供給する電流の電流値を検出する電流センサ6を有する。送信器2は、信号発生部7と電圧電流検出部8と電力増幅器9及びローパスフィルタ(LPF)10を有する。信号発生部7は上位装置からの指令によりTD信号とATC信号を生成する。電圧電流検出部8は電圧センサ5で検出している電圧値と電流センサ6で検出している電流値を入力してその変化量を検出する。電力増幅器9は増幅部11と制御部12を有する。増幅部11は信号発生部7で生成した信号を入力してPWM変調方式により電力増幅する。制御部12は電圧電流検出部8で検出した電圧と電流の変化に応じて増幅部11の変調度を制御する。LPF10は電力増幅器9で電力増幅した信号から雑音を除去し必要な信号成分だけを通過させる。整合変成器4は送信器3の出力とレール2との整合をとる。この整合変成器4は必要によりレール2からの進入雑音を送信器3に伝達しないように、耐雑音特性を有する絶縁性能を持たせる。
【0013】
この送信装置1で軌道絶縁13とインピーダンスボンド13で設定された軌道回路nTのレール2に信号電流を送信するときの動作を図2のフローチャートを参照して説明する。
【0014】
送信器3は信号発生部7で生成した信号を電力増幅器9の増幅部11であらかじめ定めた電圧と電流になるように電力増幅し、増幅した信号電流をLPF10から整合変成器4を通して軌道回路nTのレール2に常時送信している(ステップS1)。この信号電流をレール2に送信しているとき、電圧センサ5は電力増幅器9から整合変成器4を介してレール2間に供給している電圧の電圧値を検出し、電流センサ6はレール2に供給している電流の電流値を検出して電圧電流検出部8に入力している(ステップS2)。この状態で列車15が軌道回路nTに進入すると、左右のレール2に送信している信号電流は列車15の車軸16により短絡され、列車15の進行に伴って左右のレール2の車軸16による短絡位置は送信器3からの送信端側に移動する。このため送信器3から出力しているレール2に供給している電圧と電流は列車15の進行に伴って逐次変化し、電圧センサ5で検出している電圧と電流センサ6で検出している電流が変化する。電圧電流検出部8は電圧センサ5で検出している電圧の電圧値と電流センサ6で検出している電流の電流値の変化量を検出し、検出した変化量を制御部12に出力する(ステップS3)。制御部12は入力した電圧と電流の変化量に応じて増幅部11の変調度を可変制御して、増幅部11の出力をあらかじめ規定された電圧と電流になるようにフィードバック制御する(ステップS4)。
【0015】
このように電力増幅器9の増幅部11の変調度を実際にレール2に送信している電圧と電流の変化量に応じて可変制御して増幅部11の出力を規定された電圧と電流にすることにより、左右のレール2の車軸16による短絡位置が送信器3の送信端に達したときもレール2に過大な電流を流さないで済み、増幅部11や整合変成器4に異常や故障が生じることを防ぐことができる。
【0016】
また、電力増幅器9の増幅部11から出力している電圧と電流を検出してフィードバック制御するから、余分の電力消費を必要とせず、全体の電力効率を画期的に改善することができ、省エネルギを図ることができる。
【0017】
前記説明では電力増幅器9の増幅部11にデジタル増幅器を使用した場合について説明したが、増幅部11としてアナログ増幅器を使用し、制御部12で電圧電流検出部8から入力する信号電圧と信号電流の変化量に応じて増幅度をフィードバック制御しても良い。
【0018】
また、電圧センサ5と電流センサ6は整合変成器4からレール2に出力する電圧と電流を検出する場合について説明したが、送信器3から整合変成器4に出力する電圧と電流を検出しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の送信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】送信装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】従来の送信装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0020】
1;送信装置、2;レール、3;送信器、4;整合変成器、5;電圧センサ、
6;電流センサ、7;信号発生部、8;電圧電流検出部、9;電力増幅器、
10;LPF、11;増幅部、12;制御部、15;列車、16;車軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信器と整合変成器と電圧センサ及び電流センサを有し、
前記電圧センサは、前記送信器からレールに出力する電圧を検出し、
前記電流センサは、前記送信器からレールに出力する電流を検出し、
前記送信器は、信号発生部と電圧電流検出部と電力増幅器及びローパスフィルタ(LPF)を有し、
前記信号発生部は上位装置からの指令により制御信号を生成し、
前記電圧電流検出部は、前記電圧センサで検出している電圧値と前記電流センサで検出している電流値を入力してその変化量を検出し、
前記電力増幅器は、増幅部と制御部を有し、前記増幅部は前記信号発生部で生成した信号を入力して電力増幅し、前記制御部は、前記電圧電流検出部で検出した電圧と電流の変化に応じて前記増幅部のゲインをフィードバック制御し、
前記LPFは、前記電力増幅器で電力増幅した信号から雑音を除去し必要な信号成分だけを通過させてレール側に出力し、
前記整合変成器は、前記送信器から出力した信号をレールに供給することを特徴とする送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−265640(P2008−265640A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113810(P2007−113810)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】