説明

軌道検測車

【課題】
この発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決するものであり、レール高さ測定が容易で、2軸の走行台車が不要な1軸支持の軸箱形状で車体を支持することができ、50km/hから80km/h程度の中速走行に適した軌道検測車を提供することにある。
【解決手段】
この発明は、隣接して配置され相互に逆方向に巻かれた第1、第2の空芯コイルを有しレールの頭部の上部に対応させて軌道検測車に設けられた電磁センサと、軌道検測車の車体と走行車輪との間に設けられ走行車輪の車軸を車体に支持させる軸箱・板バネ支持機構と、電磁センサと先端にレールに乗る補助輪とを有し走行車輪を基準としてレール高さに応じて上下方向に回動して電磁センサを上下動させ、走行方向に直交する方向の移動に対して走行車輪とともに移動するように拘束されたアームとを備えていて、電磁センサによりレール変位量を測定するためのレールに対する高さを検出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軌道検測車に関し、詳しくは、レール高さ測定が容易で、2軸の走行台車が不要な1軸支持の軸箱形状で車体を支持することができ、50km/hから80km/h程度の中速走行に適した軌道検測車の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路を構成する軌道は、列車運転などにより左右のレールが基準位置に対して偏位する。この偏位は軌道狂いとよばれ、(1)通り狂い、(2)高低狂い、(3)軌間狂い、(4)水準狂い、(5)平面性狂いの5項目が規定されている。
多数の営業列車が運行される本線区においては、営業車両とほぼ同じ規格の車両にレール変位量測定装置を搭載して、いわば大型の軌道検測車を構成し、高速度で走行させて各軌道狂いが検測されている。しかし、列車の運行回数が少ない閑散線区や、駅構内の側線などに対しては、大型の軌道検測車は適当でないので、中型もしくは小型の軌道検測車が利用されている。さらに、簡易な検測を行うために低速度走行による手押しの簡易型軌道検測車、牽引型軌道検測車も実用化されている。
【0003】
これら車両に搭載されるレール変位量測定装置としては、測定車輪やローラをレールに接触させる機械式のものと非接触型の光学式のものとがある。後者のレール変位量測定装置は、投光器と受光器を持つ光学式レール変位量検出器がレールに対峙するように設けられる(特許文献1)。この種のレール変位量検出器は、投光器と受光器の角度調整を容易にして調整の手間を低減することができる。
この光学式レール変位量検出器にあっては、同時にレールとレールとの継目を示す信号も得られるが、それは、継目そのものが検出されるものではなく、レールとレールとを結合する継目接続板が検出されるものである。その検出信号は、継目検出が一部で欠けたり、未検出領域が発生するので、単に測定位置がずれたときの位置超過を検出する参考データとされるだけである。そこで、レール継目の検出について、出願人は、巻き方を相互に逆方向にして両者の検出電圧を同時に得る差動コイルを用いた電磁式のレール継目検出器を出願している(特願2005−64275号)。
また、軌道狂いを測定する差動トランスを用い非接触型の電磁式の水平方向のレール変位量検出器も公知である(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−344304号公報
【特許文献2】特開昭60−12561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機械接触式のレール変位量検出器は30km/h以下では有効であるが、それ以上の高速検測では、レール高さについての測定精度が低下する問題がある。そのため50km/h程度か、それ以上の中速検測のものでは光学式のものが用いられているが、光学式のものでは、レールの高さ方向の変位量測定の場合に、レールに油や塵埃、雨水があったり、雪などが乗っていると精度が落ちる問題がある。さらに、光学式のものは装置が大型化して高価であるので、50km/hから80km/h程度の中速走行の軌道検測車には不向きである。
【0005】
そこで、50km/hから80km/h程度の中速走行の軌道検測車のレール変位量測定については非接触型の検出器を採用することが考えられる。しかし、特許文献2の技術は、軌道狂いの測定だけであって、レール高さの測定には向いていない。一方、前記のレール継目検出器ではレール継目を検出する信号を得ているだけである。その理由は、継目以外の場所では検出波形に十分に特徴ある信号が得られないからである。
そのため、レール高さの測定を伴う中速走行の軌道検測車は、レール高さ測定を光学式の測定装置に頼らざるを得なくなり、車両の小型化が難しい。しかも、レール高さ測定をローラ等をレールに接触させ、また、軌道狂いを測定車輪で測定する中速走行検測は、検出機構系の重量が重くなるので、2軸の走行台車が必要となり、この点でも小型化が難しくなる。
この発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決するものであり、レール高さ測定が容易で、2軸の走行台車が不要な1軸支持の軸箱形状で車体を支持することができ、50km/hから80km/h程度の中速走行に適した軌道検測車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記の目的を達成する軌道検測車であって、その構成は、レールの頭部の上部に対応させて軌道検測車に設けられた電磁センサと、軌道検測車の車体と走行車輪との間に設けられ走行車輪の車軸と車体に結合する軸箱・板バネ支持機構と、電磁センサと先端に設けられたレールに乗る補助輪とを有し、走行車輪を基準としてレール高さに応じて、上下方向に回動して電磁センサを上下動させ走行方向に直交する方向の移動に対して走行車輪とともに移動するように拘束されたアームとを備えていて、電磁センサによりレール変位量を測定するためのレールに対する高さを検出するものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、この発明は、電磁センサをアームで支持して走行車輪を基準にしてアームを回動させることで電磁センサをレール高さに応じて上下移動するように構成しているので、高さ測定を機械式の検出機構系を使用しなくて済む。軌道狂いの測定も特許文献2に示すような電磁式のセンサにすることができ、検出系の重量全体を少なくすることができる。
その結果、1軸支持の軸箱・板バネ支持機構を介して車体(車体フレームあるいはシャーシ)を直接走行車輪に結合することができ、2軸の走行台車が不要な1軸支持の軸箱形状で車体を支持することができる。それにより、車両全体を小型化することができる。
その結果、レール高さ測定が容易で、2軸の走行台車が不要となり、50km/hから80km/h程度の中速走行に適した小型の軌道検測車が容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、この発明を適用した一実施例の電磁センサを利用したレール高さ測定装置の検出原理の説明図、図2は、センサ高さの測定原理についての説明図、図3は、軸箱・板バネ支持機構による走行車輪の車体取付構造の説明図、図4は、電磁センサの内部構成のブロック図、図5は、電磁センサの検出回路とデータ処理装置の説明図、図6は、電磁センサの検出波形の説明図、そして図7は、電磁センサのレール高さ検出信号からレール高さ量を算出する特性グラフの説明図である。
図1において、10は、50km/hから80km/h程度の中速検測用の軌道検測車であり、1は、その車体(車体フレームあるいはシャーシ)であって、左右の各レール11に対応して2つの車輪2,3が前後に設けられている。各車輪2,3の車軸2a,3aは、1軸支持の軸箱・板バネ支持機構4,5を介して直接車体1に結合され、車体1を支持している。
【0009】
アーム2bは、その片側が車軸2a(その軸受部42,図3(a)参照)に回動可能に軸支され、先端側の端部には補助輪2cが設けられている。車軸2aから補助輪2cまでの長さはLである。アーム3b,アーム3cは、それぞれその片側が車軸3a(その軸受部42)にそれぞれ回動可能に軸支され、走行方向の前後に配置されたそれぞれ設けられている。それぞれのアーム3b,アーム3cの先端側の端部には補助輪3d,3eが取付けられている。アーム3b,アーム3cの各補助輪3d,3eまでの長さはLで、アーム2bと等しい。
アーム2b,アーム3b,アーム3cには、それぞれ途中にレール11に対峙するように電磁センサ6a,6b,6cが直接あるいはブラケット(図示せず)を介して固定されている。
なお、図1では、説明の都合上、アームに直接電磁センサ6a,6b,6cが取付られているように図示しているが、実際には各アームと電磁センサとの間にブラケットが設けられ、電磁センサ6a,6b,6cは、このブラケットを介して図示する以上にレール11の頭部に接近して各アームに支持されるようにそれぞれ取付けられる。
車軸2a,3aは、それぞれ軸箱・板バネ支持機構4,5の軸箱に設けられた軸受で支持され、板バネを介して車体1側に固定される。そこで、それぞれのアーム2b,アーム3b,アーム3cの軸支は、車軸2a,3aそのものではなく、軸箱・板バネ支持機構4,5の軸箱あるいは軸受部を介してそれぞれ軸支されることになる。これにより、アーム2b,アーム3b,アーム3cは、レール横断方向には車輪2,3とともに移動するように車軸2a,3aにより拘束され、車体1に対して上下に移動する走行車輪、すなわち車輪2,3を基準にしてレールの高さに応じて電磁センサ6a,6b,6cを上下移動させる回動をする。
【0010】
車体1には、電磁センサ6a,6b,6cに対応して車体1の裏面に下向きにそれぞれ変位センサ(距離センサ)7a,7b,7cが設けられている。さらに、車体1にはデータ処理装置8が搭載されている。
なお、図では、電磁センサ6a,6b,6cに厚さがあるが、変位センサ7a,7b,7cにより測定される車体1と電磁センサとの距離a,b,cは、電磁センサ6a,6b,6cの厚さが加算されて、実質的に電磁センサ6a,6b,6cの測定値a’,b’,c’に距離a,b,cをそれぞれ加算して車体1とレール11との距離が検出されるようにそれぞれ設定されている。さらに、図では1本のレール11だけを示しているが、これら電磁センサ6a,6b,6cと変位センサ7a,7b,7cとは、それぞれ左右の2本のレール11に対応して設けられている。
図2は、レールに対する電磁センサの距離、すなわち、センサ高さを測定する測定原理を説明するものである。それを車輪3を例に説明すると、その車軸3aとアーム3bと補助輪3d、そしてレール11との間に車輪3の半径Rを底辺とする細長い三角形が形成される。
そこで、補助輪3dがレール11の高さに応じて上下に移動すると、電磁センサ6bのレール11に対する高さが微少量変化する。この変化量をセンサ高さb’として電磁センサ6bが検出する。変位センサ7bによる車体1と電磁センサ6bとの距離をbとすると、車体1からレール11までの距離d2は、d2≒b+b’で算出することができる。
【0011】
図2に示すような構造で電磁センサ6(電磁センサ6a,6b,6cを代表して)をアームに取り付けあるいは支アームで持する構造を採ると、レール高さ変位量は、レール高さ測定をローラをレール接触させて測定する必要はなくなり、また、水平方向の通り狂いは従来からある特許文献2で示されるような電磁センサが使用できるので、検出機構系の重量を軽くすることができる。そこで、2軸の走行台車によることなく、直接走行車輪を軸箱を介して車体1に取付ける1軸支持にすることができる。
図3は、その軸箱・板バネ支持機構による走行車輪の車体取付構造の説明図である。
図3(a)の軌道検測車全体の側面図に示すように、軌道検測車10の全長は、10m足らずであり、前後で2個設けられた1軸の軸受走行車輪となっている。
図3(a)〜(c)に示すように、このときの軸箱・板バネ支持機構4,5の構造は、軸箱40と重ね板バネ41による支持機構、そして車軸2a,3bを受ける軸受部42とからなる。
【0012】
1aは、車体本体である。なお、図1に合わせて補助輪付きのアーム(アーム2b,アーム3b,アーム3c)は、1本のアームとして示すが、実際には2本の平行アームからなる平行リンク構造を使用するとよい。また、図1では、説明の都合上、アームの長さを2倍にして電磁センサ6を直接アームに取り付けた状態で図示し、説明しているが、実際には、図3(a)に示すようにブラケット43に電磁センサ6(電磁センサ6a,6b,6cを代表して)が取付けられている。図ではその電磁センサ6はブラケット43の裏側となり見えていない。
軸箱40には特許文献2と同様な差動トランスからなる水平方向の軌道狂いを測定する電磁センサ44が取付けられている。なお、軸箱・板バネ支持機構5側は、アーム3cの陰となるのでそれを図示していない。
アーム(アーム2b,アーム3b,アーム3c)の長さは、500mm〜800mm程度の長さであるが、軸箱40にアーム(アーム2b,アーム3b,アーム3c)の片側を直接軸支すれば、アームの長さを短くできる。
【0013】
図3(b)の走行車輪の車体取付構造部分の内部側面図に示すように、重ね板バネ41は、重ね板バネ41の端部固定側の支柱41aと端部可動側の支柱41bとの間に橋渡しされてそれぞれの支柱41a,41bを介して車体1に垂下固定されている。
重ね板バネ41の中央部にある胴締め41cは、これの下側で軸受部42を支持する構造を採る。
図3(c)の軸箱部分の内部平面図に示すように、軸受部42に支持円板46を取付けてアーム(アーム2b,アーム3b,アーム3c)の端部を支持円板46に軸ピン45を介してアームの端部をそれぞれリンク結合することで、アーム(アーム2b,アーム3b,アーム3c)を走行車輪を基準にして上下方向に回動させる。
これにより、前後1軸の走行車輪で2つで車体1を支持することができる。
【0014】
図4に示すように、電磁センサ6は、ケース62に内蔵された電磁センサ部61とその検出回路20とからなる。電磁センサ部61は、相互に逆方向に巻かれ、一辺が隣接して配置された巻き形が三角形の2つの空芯コイル61a、61bからなる。これを内蔵するケース62は、合成樹脂等の非磁性材料で構成され、空芯コイル61a、61bの中心Oa,Obをずらせて樹脂充填された完全密閉状態で固定するものである。
検出回路20は、ケース62に電磁センサ部61とともに固定されてもよく、また、データ処理装置8と電磁センサ部61との間に配置されていてもよい。ケース62に樹脂充填固定されるものでは、検出回路20からデータ処理装置8への配線ライン(図示せず)は、車軸2a、3aの軸支されたアーム2b,3b,3c、軸箱・板バネ支持機構4,5を経て車体1に至り、データ処理装置8に接続されている。
【0015】
空芯コイル61a、61bとは巻き方は、相互に逆方向になっているので、検出信号も相互に逆位相になる。そのため、信号にノイズが乗っても相殺される。さらに、レール11の頭部の幅は、通常、65mm程度であるが、図4に示すように、ケース62により固定される電磁センサ部61の空芯コイル61aの中心Oaは、レール11の頭部の中心線Oに対応して配置され、空芯コイル61bの中心Obは、レール11の頭部の中心線Oより10mm程度外側にずれてレール11に対応するように設置されている。
空芯コイル61bの中心Obを中心線Oから外側にずらせる理由は、レールにはカーブがあるので、このときに軌道検測車10が内側にシフトしたときに中心Obが必要以上に内側にずれることで空芯コイル61a、61bが共に外れて電磁センサ部61の検出信号が得られなくなることを防止したものである。なお、軌道検測車10の外側へのずれは、車輪のフランジで阻止され、大きくずれることはない。
ここで、レール11の中心Oからの電磁センサ6の左右方向変位量について考えてみると、図4に示すような逆方向に向いた差動の三角形の空芯コイル61a,空芯コイル61bにおける差信号(BLa−BLb)は、レール中心に対する水平方向の位置ずれに応じて一方の検出信号のレベルが増加すると、他方の検出信号のレベルが減少し、しかもレール高さに応じてその差が増減する関係にある。
なお、巻き方を相互に逆方向にして両者の検出電圧を同時に得て、特に、これらの検出信号の差を採ることで差動動作における差電圧(図6(a)の(BLa−BLb)参照)を得ることができる。
【0016】
図5は、電磁センサの検出回路とデータ処理装置の説明図であって、検出回路20は、逆方向に巻かれた空芯コイル61a、61bをそれぞれ受ける差動増幅器21a,21bと、空芯コイル61a、61bにバイアス電流を流すバイアス回路22、差動増幅器21a,21bの信号を所定の距離パルスPLに応じてA/D変換をするA/D変換回路(A/D)23a,23bとからなり、A/D23a,23bを介して検出信号をデジタル値に変換してデータ処理装置8に送出するものである。
なお、バイアス回路22は、抵抗R1〜R4と定電圧電源回路22aとからなり、空芯コイル61a、61bにそれぞれバイアス電流を流す回路である。
レールの継目の部分では、継目板とレールとレールの間隙とに応じて空芯コイル61a、61bのインダクタンスが変化し、それに応じた電圧が空芯コイル61a、61bの端子に発生するので差動増幅器21a,21bにそれに応じた検出信号を得ることができる。
【0017】
距離パルスPLは、車輪3の回転に応じて発生するパルスであって、距離パルス発生回路9により生成され、45mm走行に1個発生する45mm/Pの波長(周期)のパルス信号である。この距離パルス発生回路9は、板バネ・車軸支持台5に搭載されている。
データ処理装置8は、MPU81とメモリ82、インタフェース83、そしてこれらを接続するバス84等とを有し、距離パルスPLと、これに対応してA/D変換された差動増幅器21a,21bの信号をインタフェース83を介して測定データとして受けて空芯コイル61a、61bの検出信号の差と和の算出処理算等をする。
【0018】
図6(a)は、差動増幅器21a,21bのデジタル値をそれぞれグラフ化したものであって、データ処理装置8における測定データである。
BLaが差動増幅器21aの測定データ、BLbが差動増幅器21bの測定データである。長丸で示す部分がレール継目位置の検出信号であり、その前後で波形に大きなピークを持つ凹凸の波があるのは、継目板によるものである。
なお、横軸は、距離パルスPLによるサンプル数、縦軸は電圧[mV]である。BLbの波形が小さいのは、空芯コイル61bがレール中心Oより10mmずれているからである。また、横軸の距離パルスPLによるサンプル数は、軌道検測車10の走行距離に対応している。
データ処理装置8において、これら測定データの差信号電圧(BLa−BLb)の演算した結果が図6(b)のグラフBLa−BLbである。これにより、レール継目位置の検出信号DLは、大きな波形の検出信号として得ることができる。しかし、軌道検測車2は、上下左右に揺れて走行するので、それによる検出波形の変動も大きい。
DLがレール継目位置検出信号であるが、ここでは、レール継目位置検出信号DLではなく、それ以外の波形部分Dに注目する。
【0019】
図6(a)の波形部分Dは、レール11と電磁センサ6(空芯コイル61a、61b)との距離に応じて変化する信号部分である。空芯コイル61a、61bは、レールとの距離に応じて相互に逆方向に増減するので、測定データの和(BLa+BLb)の演算すると、空芯コイル61a、61bのトータル信号が得られ、軌道検測車が走行すると、レールに対する電磁センサの左右の方向にシフトするので、図6(c)に示すように、多少の凹凸状態の信号が和(BLa+BLb)の振幅基準レベルの信号の上に乗り、各測定区間では上下に多少の変動差がある。
そこで、あるサンプルレールに対してレール中心からの各左右方向のずれ量xを変数として軌道検測車10と同じ配置と同じ条件で電磁センサ6を高さ方向に移動して、レール中心から左右方向に移動位置に対応してサンプルレールと電磁センサ6との距離、すなわちレールの高さとの関係を測定したところ、図7のような特性グラフを得ることができた。
ここでのレール中心からの左右方向のずれ量xは、基本的には差動電磁センサ6の差信号(BLa−BLb)と和信号(BLa+BLb)との比=(BLa−BLb)/(BLa+BLb)で決定されるはずであるが、変数であるずれ量xと測定値比=(BLa−BLb)/(BLa+BLb)とを利用してこれらの間を整合させたところ、前記した式(1)が得られた。
x={(BLa−BLb−k1)/((BLa+BLb−k2)}×k3+k4……(1)
ここで、k1,k2は、差動電磁センサの配置と構造上から決定されるオフセット補正値、k3は、アンプの増幅率等で決定される検出回路構成による係数、k4は、差動電磁センサの取付状態等により決定される補正値である。
そこで、式(1)と図7の特性グラフを利用することで、差動電磁センサ6からの検出信号によりレール11に対するセンサ高さ[mm]を測定することが可能になる。
なお、差動電磁センサ6の構造と検出回路20の構成により前記の補正値k1〜k4は、実測データとの関係あるいはサンプルレールの測定によりそれぞれに適宜決定することができる。
【0020】
図5に戻り、メモリ82には、電磁センサの差信号・和信号算出プログラム82aと、電磁センサのレールずれ量算出プログラム82b、電磁センサのレール高さ算出プログラム82c、レール高さ変位量算出プログラム82d等が格納され、図7の各特性グラフをテーブルとして記憶したレール高さ算出テーブル(特性グラフテーブル)82e、パラメータ領域82f、作業領域82gとが設けられている。
なお、パラメータ領域82fには、式(1)のx={(BLa−BLb−k1)/((BLa+BLb−k2)}×k3+k4が記憶され、さらに各係数k1〜k4が記憶されている。
電磁センサの差信号・和信号算出プログラム82aは、これがコールされたときにMPU81に実行され、MPU81は、電磁センサ6の各コイルの差信号(BLa−BLb)と和信号(BLa+BLb)とをそれぞれに算出してメモリ82の作業領域82gに記憶し、電磁センサのレールずれ量算出プログラム82bをコールする。
電磁センサのレールずれ量算出プログラム82bは、これがコールされたときにMPU81に実行され、MPU81は、前記により算出された差信号(BLa−BLb)と和信号(BLa+BLb)を参照して前記式(1)に従ってレール11の中心Oからのずれ量xを求め、電磁センサのレール高さ算出プログラム82cをコールする。
電磁センサのレール高さ算出プログラム82cは、これがコールされたときにMPU81に実行され、ずれ量xからxに対応するか、図7における一番近い特性グラフをレール高さ算出テーブル82eにおいて参照して和信号(BLa+BLb)の電圧値からセンサ高さh[mm]を得る。なお、縦軸の高さh=0は、車体1が上下移動していないときのレール11に対する基準高さである。
【0021】
レール高さ変位量算出プログラム82dは、これがコールされたときにMPU81に実行され、MPU81は、図1の電磁センサ6a,6b,6cと変位センサ7a,7b,7cとについて左右のレール対応にメモリ82の作業領域82gに測定データBLa,BLbと車体1と電磁センサ6との距離a,b,cを記憶する。
次に、電磁センサ6aの測定データを選択して電磁センサの差信号・和信号算出プログラム82aをコールして実行し、電磁センサ6aに対応してセンサ高さa’を得て作業領域82gに記憶し、次に電磁センサ6bの測定データを選択して同様にして電磁センサ6bに対応してセンサ高さb’を得て作業領域82gに記憶し、同様にして電磁センサ6cに対応してセンサ高さc’を得て作業領域82gに記憶する。
そして、レール高さ変位量Vを算出する。これは、図1の電磁センサ6a,6b,6cと変位センサ7a,7b,7cとにより得た前記の検出値a,a’,b,b’,c,c’により、電磁センサ6a,6b,6cの位置、3点における車体1からレール11までの距離(a+a’),(c+c’),(b+b)を算出し、中間位置の電磁センサ6bの位置におけるレール高さの相対的変位量Vを次の(2)式より演算して算出して、メモリの所定の領域に現在の走行距離に対応して記録する。
なお、ここで算出されたレール高さ変位量V(相対的変位量)は他の軌道測定にも利用される。
V=K1(a+a’)+K2(c+c’)−(b+b’)……(2)
ただし、K1,K2は、弦nに対する比率であり、K1=n1/n,K2=n2/nである。
図1において、n[m]がレール11に対する測定弦の長さであり、電磁センサ6aと電磁センサ6cとの距離,n1[m]が電磁センサ6aと電磁センサ6b間の距離、n2[m]が電磁センサ6bと電磁センサ6c間の距離である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上説明してきたが、実施例では、図4に示すように、電磁センサ6のコイル形状は、相互に逆方向に巻かれ、一辺が隣接して配置された巻き形が三角形の2つの空芯コイルとしているが、差信号(BLa−BLb)がレール中心に対する水平方向の位置ずれに応じて一方の検出信号のレベルが増加すると、他方の検出信号のレベルが減少し、しかもレール高さに応じてその差が増減する関係になるコイルの形状と配置は種々のものが考えられるので、三角形の形状に限定されるものではない。このような差動形コイルは、過去に各種のものが考えられている。
また、実施例の図2では、電磁センサを設けたアームは、車軸あるいはその軸受に結合して補助輪が上下動する構造を採ることで走行方向に直交する方向の移動に対してアームは、車輪とともに移動するように拘束され、走行車輪を基準にしてレールの高さに応じて上下に回動するようになっているが、走行車輪を基準としてレールに対して電磁センサを上下動させるアームと補助輪との構造は、アームを軸箱に回動可能に枢支してもよく、軸支あるいは枢支の形態は、各種のものが考えられ、特に、図2のものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、この発明を適用した一実施例の電磁センサを利用したレール高さ測定装置の検出原理の説明図である。
【図2】図2は、センサ高さの測定原理についての説明図である。
【図3】図3は、軸箱・板バネ支持機構による走行車輪の車体取付構造の説明図であり、図3(a)は、その軌道検測車全体の側面図、図3(b)は、走行車輪の車体取付構造部分の内部側面図、そして図3(c)は、軸箱部分の内部平面図である。
【図4】図4は、電磁センサの内部構成のブロック図である。
【図5】図5は、電磁センサの検出回路とデータ処理装置の説明図である。
【図6】図6は、電磁センサの検出波形の説明図である。
【図7】図7は、電磁センサのレール高さ検出信号からレール高さ量を算出する特性グラフの説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1…車体(台車フレーム)、1a…車体本体、2,3…車輪、
2a,3a…車軸、2b,3b,3c…アーム、
2c,3d,3e…補助輪、4,5…軸箱・板バネ支持機構
6a,6b,6c…電磁センサ、
7a,7b,7c…変位センサ、
8…データ処理装置、81…MPU、
82…メモリ、83…インタフェース、84…バス、
9…距離パルス発生回路、10…軌道検測車、
11…レール、40…軸箱、41…重ね板バネ、42…軸受部、
43…ブラケット、44…軌道狂いを測定する電磁センサ、
82b…電磁センサのレールずれ量算出プログラム、
82c…電磁センサのレール高さ算出プログラム、
82d…レール高さ変位量算出プログラム、
82e…レール高さ算出テーブル、
82f…パラメータ領域、82g…作業領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール変位量を測定する軌道検測車において、
レールの頭部の上部に対応させて前記軌道検測車に設けられた電磁センサと、
前記軌道検測車の車体と走行車輪との間に設けられ前記走行車輪の車軸と前記車体に結合する1軸支持の軸箱・板バネ支持機構と、
前記電磁センサと先端に設けられた前記レールに乗る補助輪とを有し、前記走行車輪を基準として、前記レール高さに応じて上下方向に回動して前記電磁センサを上下動させ走行方向に直交する方向の移動に対して前記走行車輪とともに移動するように拘束されたアームとを備え、
前記電磁センサにより前記レール変位量を測定するための前記レールに対する高さを検出する軌道検測車。
【請求項2】
前記電磁センサは、隣接して配置され相互に逆方向に巻かれた第1、第2の空芯コイルを有し、前記レールの中心に対する水平方向の位置ずれに応じて前記第1、第2の空芯コイルの一方の検出信号のレベルが増加すると、他方の検出信号のレベルが減少し、しかもレール高さに応じてその差が増減するコイル形状で前記電磁センサに配置されている請求項1記載の軌道検測車。
【請求項3】
前記レールに対する高さは、前記第1、第2の空芯コイルのそれぞれの検出信号を得て前記第1、第2の空芯コイルの検出信号の和信号と差信号との比に基づいて前記電磁センサの前記レールに対する走行方向に直交する方向のずれ量を得て前記第1、第2の空芯コイルの検出信号の和信号と前記電磁センサのレールに対する高さとの関係を示す特性グラフを参照して前記ずれ量に対応する前記特性グラフに基づいて算出される請求項2記載の軌道検測車。
【請求項4】
前記ずれ量は、次の(1)式よりxとして得る請求項3記載の軌道検測車。
x={(BLa−BLb−k1)/((BLa+BLb−k2)}×k3+k4……(1)
ただし、BLaは第1の空芯コイルの検出信号の電圧値、BLbは第2の空芯コイルの検出信号の電圧値、(BLa−BLb−k1)は前記差信号、(BLa+BLb−k2)は前記和信号であり、k1,k2,k3,k4は、それぞれ補正値である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−241322(P2008−241322A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79183(P2007−79183)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】