説明

軒先換気部材及び軒先換気構造

【課題】蛇行形状を成す外気通路の雨水侵入阻止性能や気流整流性能を施工の善し悪しによらずに一定にすることができると共に軒先の意匠性を良好にし且つ現場での取り付け作業を簡単にできる軒先換気部材及び軒先換気構造を提供する。
【解決手段】軒先換気部材8は、軒先側に位置する第1破風水切板81と外壁側に位置する第2破風水切板82とが通風路80aを形成するスペーサ部材80によって互いに接合されることで一体化されており、少なくとも上記通風路80aの入口の側と出口の側にそれぞれ仕切り板82c,82aが設けられて蛇行形状を成す外気通路を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軒先から外気を導入して軒裏の換気を行うのに用いる軒先換気部材及びこの軒先換気部材を用いた軒先換気構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軒の短い建物に用いることができる換気構造が開示されている。この換気構造は、軒先材に固定された軒先覆板と、外壁に固定された吹上防止板とからなり、それぞれに水切り片や水返し片が形成されることで蛇行形状の外気通路が形成されたものである。このように、外気通路を蛇行形状に形成することにより、短い軒先に対しても十分に水切りを行って外気を軒裏に導くことが可能になる。
【0003】
また、特許文献2にも、短い軒先の屋根に利用できる軒先換気金物が開示されている。この軒先換気金物は、軒先側に固定される水切り板と外壁側に固定される水切り板とから成り、それぞれに仕切り壁が互い違いに形成されて蛇行形状の外気通路が形成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−350681号公報
【特許文献2】実開平5−42413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の構造では、軒先側に配置固定される板材と外壁側に配置固定される板材とが別部材であるために、施工現場において、これら板材をそれぞれ家屋に取り付ける作業が必要になる。したがって、この別々の取り付け作業の善し悪しによって上記蛇行形状の外気通路における雨水侵入阻止性能や気流整流性能が影響を受けることになり、当該性能について一定の品質を確保できないおそれがある。
【0006】
また、上記のごとく別部材とした構造において外壁側に配置される板材をしっかりと固定するためには、この板材の上下方向の長さを長くして取り付け面を大きくする必要が生じる。そうすると、上記特許文献1に示されているように、外壁の上部が上記板材によって大きく隠されてしまうことになり、軒先の意匠性の低下や外壁に配置される換気フード等との干渉といった不利を招来する。また、特許文献2のごとく、外壁の上部において上記板材を挟み込む構造を採用する場合には、構造の複雑化及び取付作業の複雑化を招来する。
【0007】
この発明は、蛇行形状を成す外気通路の雨水侵入阻止性能や気流整流性能を施工の善し悪しによらずに一定にすることができると共に軒先の意匠性の低下や換気フード等との干渉といった不利を解消し且つ現場での施工を簡単にできる軒先換気部材及び軒先換気構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明の軒先換気部材は、軒先側に位置する第1板部材と外壁側に位置する第2板部材とが通風路を形成するスペーサ部材によって互いに接合されることで一体化されており、少なくとも上記通風路の入口の側と出口の側にそれぞれ仕切り板が設けられて蛇行形状を成す外気通路が形成されていることを特徴とする。
【0009】
このような構成であれば、上記の第1板部材と第2板部材とが上記スペーサ部材によって一体化されているので、これら第1,第2板部材を施工の現場で接合する必要は無くなり、施工の善し悪しによらずに上記蛇行形状を成す外気通路の雨水侵入阻止性能や気流整流性能を一定にすることができる。更に、このように一体化されると、上記第2板部材は第1板部材によって支持されることになるので、例えば上記第2板部材の下端部を外壁の上部に留めるだけでこの第2板部材をしっかりと支持できることなり、上記外壁の上部をできるだけ隠さないような軒先換気部材の設置を可能にして軒先の意匠性を良好にすることができると共に換気フード等との干渉も回避できるようになる。また、上記のように一体化されていることで、軒先換気部材の現場での施工も簡単になる。
【0010】
このような軒先換気部材において、上記第1板部材には上記外気通路の側に突き出るように折り曲げられることで上記スペーサ部材と同じ高さ寸法を有する凸部が形成されており、この凸部に上記スペーサ部材が接合されることとしてもよい。かかる構成であれば、上記凸部が上記蛇行形状を成す外気通路の一部として機能すると共に上記凸部形成のために上記第1板部材が用いられているので上記凸部に相当する別部材を設けなくてもよいことになる。
【0011】
また、このような軒先換気部材において、上記通風路の出口の側には、当該出口に向かって下り傾斜する水返しが設けられているのがよい。かかる構成であれば、外気中の雨水は上記通風路の側へ返され、雨水が軒裏へと進入するのを防止できることになる。
【0012】
また、このような軒先換気部材において、上記外気通路に外気を導く外気導入部は当該軒先換気部材の下部側に位置し上記外壁側に向かうように傾斜して形成されているのがよい。かかる構成であれば、外壁に向かって吹いてくる風が直接的に上記外気導入部から外気通路内に入ってくるのを防止できる。
【0013】
上記の軒先換気部材において、上記第2板部材の下部側には上記外壁側から上記外気導入部に向かって上り傾斜する整流部が形成されているのがよい。かかる構成であれば、上記の傾斜形成された外気導入部に外気が上記整流部によって円滑に導かれることになる。
【0014】
また、この発明の軒先換気構造は、上記の軒先換気部材を備え、この軒先換気部材の下端部に形成された固定片部を外壁の仕上げ面の上端側に位置させて固定したことを特徴とする。かかる構造であれば、上記外壁の仕上げ面の上端が上記軒先換気部材によって隠されることがなくなるので、軒先の意匠性が良好になると共に換気フード等との干渉を回避できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、第1板部材と第2板部材とがスペーサ部材によって一体化されているので、蛇行形状を成す外気通路の雨水侵入阻止性能や気流整流性能を一定にすることができる。更に、例えば上記第2板部材の下端部を外壁の上部縁に留めるだけでこの第2板部材をしっかりと支持できるので、上記外壁の上部をできるだけ隠さないような軒先換気部材の配置を可能にして軒先の意匠性を良好にすることができると共に換気フード等との干渉を回避できるようになる。また、上記のように一体化されていることで、軒先換気部材の現場での取り付け作業も簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態に係る軒先換気部材を備えた軒先構造を示した断面図である。
【図2】図1における軒先換気部材が配置された箇所を拡大して示す断面図である。
【図3】この発明の一実施形態に係る防火ダンパーが一体化された軒先換気部材を備えた軒先構造を示した断面図である。
【図4】図3における軒先換気部材及び防火ダンパーが配置された箇所を拡大して示す断面図である。
【図5】図1においてケラバ破風仕上げを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示しているように、軒の短い屋根1に鼻隠し2が取り付けられており、この鼻隠し2に雨樋3が釘4によって固定されている。また、屋根1上には屋根瓦5が配置されており、この屋根瓦5は横木6上において所定の傾斜角度を与えられて屋根1に固定されている。
【0018】
上記鼻隠し2の下方に外壁パネル7が配置されている。この外壁パネル7は、外壁フレーム部7aと、この外壁フレーム部7aに取り付けられた外壁下地7bと、この外壁下地7bに取り付けられた外壁仕上げ板7cとから成る。そして、上記鼻隠し2の下端と外壁パネル7の上端側の間に軒先換気部材8が設けられている。
【0019】
上記軒先換気部材8は、軒先側に位置する第1破風水切板(第1板部材)81と外壁側に位置する第2破風水切板(第2板部材)82とが通風路80aを形成するスペーサ部材80により接合されることで一体化されたものである。上記第1破風水切板81及び第2破風水切板82は例えば塩化ビニール被覆鋼板から成り、上記スペーサ部材80は例えば亜鉛メッキされた角筒材から成る。そして、これら第1破風水切板81、第2破風水切板82及びスペーサ部材80は、ビス留めや溶着などにより互いに接合される。また、上記スペーサ部材80は、この実施形態では、一基準長さ(例えば、910mm)あたり3個配置される。
【0020】
上記第1破風水切板81は1枚板で構成されている。この第1破風水切板81の上端の水切り81aは上記雨樋3の上方に位置しており、また、その垂直面部81bは上記雨樋3と鼻隠し2との間に位置している。そして、この垂直面部81bが上記釘4または別の釘等により上記鼻隠し2に固定されている。
【0021】
また、図2にも示しているように、第1破風水切板81には、軒先換気部材8の外気通路の側に突き出る凸部81cが曲げ加工により形成されている。この凸部81cの立ち上げ面の高さは上記スペーサ部材80の高さと同じにしている。更に、上記凸部81cの下方側には曲げ加工により外気導入部81eが形成されている。この外気導入部81eは外壁パネル7側に斜めに立ち上げられており、この外気導入部81eに形成された通気スリット81dは上記外壁パネル7側に向いて斜め下向きに開口する。すなわち、この実施形態では、上記外気導入部81eは軒先換気部材8の下部側に位置し上記外壁パネル7側に向かうように傾斜形成されている。
【0022】
上記第2破風水切板82は2枚板で構成されている。この第2破風水切板82の上端には上側仕切り板82aが曲げ加工により形成されている。この上側仕切り板82aは、上記スペーサ部材80における上記通風路80aの出口箇所に所定の間隔をあけて対面している。また、上側仕切り板82aの付け根部には、上記通風路80aの出口箇所に向かって下り傾斜する水返し部82bが曲げ加工により形成されている。更に、上記第2破風水切板82には下側仕切り板82cが曲げ加工により形成されている。この下側仕切り板82cは、上記スペーサ部材80における上記通風路80aの入口箇所に所定の間隔をあけて対面している。このように、上記通風路80aの入口箇所の側と出口箇所の側にそれぞれ仕切り板82a,82cが形成されることで蛇行形状を成す外気通路が形成されている。
【0023】
また、上記第2破風水切板82の下端には支持部82dが曲げ加工により形成されている。この支持部82dの先端には固定片部82eが同じく曲げ加工により形成されている。この固定片部82eに螺子釘9が打ち込まれることにより、この固定片部82eが外壁パネル7における外壁仕上げ板7cの上端側に位置する外壁下地7bに固定される。また、上記支持部82dは第1破風水切板81における上記外気導入部81eの端部側に接合されている。更に、上記支持部82dには、上記外壁パネル7の側から上記外気導入部81eに向かって上り傾斜する整流部82fが形成されている。この実施形態では、上記外気導入部81eに対する上記整流部82fの配置角度は略90°としている。
【0024】
このような軒先換気部材8が設けられた軒天部においては、外気は軒先換気部材8の下部側に位置する外気導入部81eに形成された通気スリット81dを通って軒先換気部材8の外気通路内に入ってくる。ここで、上記外気通路に外気を導く外気導入部81eは軒先換気部材8の下部側に位置し上記外壁パネル7側に向かうように傾斜して形成されているので、上記外壁パネル7に向かって吹いてくる風が直接的に上記外気通路内に入ってくるのを防止できることになる。更に、上記第2破風水切板82の下部側には上記外壁パネル7側から上記外気導入部81eに向かって上り傾斜する整流部82fが形成されているので、上記外気導入部81eに外気が円滑に導かれる。
【0025】
そして、上記軒先換気部材8の外気通路内に入った外気は、そのまま上記スペーサ部材80の側へと吹き上がるのではなく、上記の下側仕切り板82cによって水平方向に分散されることになり、この分散により外気通路を通る外気の速度が減速される。
【0026】
上記の下側仕切り板82cによって水平方向に分流された外気は、上記第1破風水切板81の凸部81cにおける下側水平面の下を通り、上記スペーサ部材80における通風路80aの入口箇所へと蛇行しながら進む。このとき、外気に雨水が含まれていたとしても、この雨水は上記凸部81cの下側水平面で返されることになる。
【0027】
上記通風路80aの入口箇所へと進入した外気は、この通風路80aの出口箇所を抜けた後に水返し部82b及び上側仕切り板82aに当たるため、外気中の雨水はここでも返されることになる。特に、上記水返し部82bは下向きに傾斜しているため、この水返し部82bに付着した雨水は下方(出口箇所)へと滴下されていくことになる。
【0028】
上記通風路80aの出口箇所を抜けた外気は、上側仕切り板82aにより水平方向に流されていき、上記第1破風水切板81の凸部81cの上側水平面の上を通り、軒裏へと蛇行しながら進むことになる。
【0029】
このような軒先換気部材8であれば、第1破風水切板81と第2破風水切板82とが上記スペーサ部材80によって一体化されているので、これら第1,第2破風水切板81,82を現場施工で接合する必要は無くなり、施工の善し悪しによらずに上記蛇行形状を成す外気通路の雨水侵入阻止性能や気流整流性能を一定にすることができる。更に、このように一体化されると、上記第2破風水切板82は第1破風水切板81によって支持されることになるので、第2破風水切板82の固定片部82eを外壁パネル7の上部側に留めるだけでこの第2破風水切板82をしっかりと支持できることなり、上記外壁パネル7をできるだけ隠さないような軒先換気部材8の留め付けを可能にして軒先の意匠性を良好にできると共に換気フード等との干渉も回避できるようになる。また、上記のように一体化されていることで、軒先換気部材8の現場での取り付け作業も簡単になる。
【0030】
図3及び図4は、軒先換気部材8に防火ダンパー10が一体的に設けられた例を示した軒先の断面図である。この構成例においては、防火ダンパー10の上部側の固定部10aが軒先換気部材8の垂直面部81bに接合されており、防火ダンパー10の下部側の固定部10bが軒先換気部材8の固定片部82eに接合されている。このように、この発明にかかる軒先換気部材であれば防火ダンパーとの一体化を図ることも容易になる。
【0031】
また、この発明にかかる軒先換気部材であれば、図5に示すように、軒先換気部材8における凸部81cの上側水平面のラインと、ケラバ破風板11の仕上げ(下面)ラインを揃えた設計が行える。このような設計を行うことにより、異なる方向から延設されて直交することになる部品同士(軒先換気部材8とケラバ破風板11)の形状に連続性を持たせることができ、建物の美観が更に向上することになる。なお、上記凸部81cの上側水平面位置は雨樋3の下面位置とほぼ同じ高さに形成されている。
【0032】
なお、以上の実施形態では、第1破風水切板81に曲げ加工を行って上記凸部81cを形成したが、第1破風水切板81を平らな形状とし、上記凸部81cに相当する別部材を設けることも可能である。ただし、上記のごとく曲げ加工で上記凸部81cを形成する場合には、部品数を削減できるという利点がある。
【符号の説明】
【0033】
1 屋根
2 鼻隠し
3 雨樋
7 外壁パネル
7a 外壁フレーム部
7b 外壁下地
7c 外壁仕上げ板
8 軒先換気部材
80 スペーサ部材
80a 通風路
81 第1破風水切板
81c 凸部
81e 外気導入部
81d 通気スリット
82 第2破風水切板
82a 上側仕切り板
82b 水返し部
82c 下側仕切り板
82e 固定片部
10 防火ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軒先側に位置する第1板部材と外壁側に位置する第2板部材とが通風路を形成するスペーサ部材によって互いに接合されることで一体化されており、少なくとも上記通風路の入口の側と出口の側にそれぞれ仕切り板が設けられて蛇行形状を成す外気通路が形成されていることを特徴とする軒先換気部材。
【請求項2】
請求項1に記載の軒先換気部材において、上記第1板部材には上記外気通路の側に突き出るように折り曲げられることで上記スペーサ部材と同じ高さ寸法を有する凸部が形成されており、この凸部に上記スペーサ部材が接合されていることを特徴とする軒先換気部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の軒先換気部材において、上記通風路の出口の側には、当該出口に向かって下り傾斜する水返しが設けられていることを特徴とする軒先換気部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の軒先換気部材において、上記外気通路に外気を導く外気導入部は当該軒先換気部材の下部側において上記外壁側に向かうように傾斜して形成されていることを特徴とする軒先換気部材。
【請求項5】
請求項4に記載の軒先換気部材において、上記第2板部材の下部側には上記外壁側から上記外気導入部に向かって上り傾斜する整流部が形成されていることを特徴とする軒先換気部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の軒先換気部材を備え、この軒先換気部材の下端部に形成された固定片部を外壁の仕上げ面の上端側に位置させて固定したことを特徴とする軒先換気構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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