説明

軟性眼内レンズおよびその製造方法

【課題】インジェクターに挿入する際の折り曲げによる支持腕部の貼り付きを軽減させる軟性眼内レンズを提供する。
【解決手段】折り畳み可能な柔軟な材料からなる光学レンズ部10と、この光学レンズ部10を眼内に保持するために該光学レンズ部10の外周縁から外方に延び出すように形成された支持腕部20と、を有する軟性眼内レンズ1において、前記支持腕部20の先端部22が、前記軟性眼内レンズ1の他の部分の軟質材料よりも硬質の異種の材料により構成されており、また、支持腕部の先端部の粘着性が他の部分よりも低く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白内障手術後の無水晶体眼に挿入される軟性眼内レンズ、または、屈折矯正手術において眼内に挿入される有水晶体用の軟性眼内レンズに係り、特に、折り畳んだ状態で小さな切開創から眼内に挿入するのに適した眼内レンズ、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、白内障により水晶体が濁ってしまった場合、この濁った水晶体の代わりに人工的なレンズである眼内レンズを眼内に挿入する外科的処置により視力の回復が図られる。このとき用いられる眼内レンズは、略円形あるいは略楕円形の光学レンズ部と、この光学レンズ部を眼内で安定させるために光学レンズ部の外周縁より外方へ延び出した支持腕部(昆虫の触覚に似ているところから「触覚部」とも言われる)とを有している。
【0003】
この種の眼内レンズには、光学レンズ部がPMMA(ポリメチルメタアクリレート−アクリル樹脂)などの硬質の材料で構成されている硬質眼内レンズと、シリコーンエラストマーや軟質アクリルなどの柔らかい材料で構成されている軟性眼内レンズとがある。
【0004】
硬質眼内レンズを使用する際には、光学レンズ部の径とほぼ同じ幅の切開創を角膜あるいは強膜に作製してレンズを挿入しなければならないのに対し、軟性眼内レンズを使用する際には、光学レンズ部を折り畳むことにより光学レンズ部の径より小さな切開創から挿入することができる。
【0005】
手術後の角膜乱視や感染症を低減するためには、小さな切開創からレンズが挿入されることが好ましい。また、より小さな切開創から眼内レンズを挿入するために様々なインジェクターの開発も進められてきており、小切開創から挿入可能な軟性眼内レンズは現在臨床に広く使用されている。
【0006】
軟性眼内レンズを構造的な面から大別すると、光学レンズ部と支持腕部が異種の材料から構成されているタイプと、光学レンズ部と支持腕部が同一の材料から構成されているタイプとに分けられる。
【0007】
光学レンズ部と支持腕部が異種材料から構成されているタイプの眼内レンズは、一般的に、折り畳み可能なシリコン、アクリル樹脂、ハイドロゲルなどの軟質材料からなる略円形の光学レンズ部と、それよりも比較的硬いポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチルなどの硬質材料からなる支持腕部とから構成されており、例えば、光学レンズ部を作製した後、支持腕部を接着等によって取りつけることにより得られる。支持腕部は硬質で張りがあるため、眼内での安定性は比較的良好であるとされているが、製造工程が複雑なため製造コストが高くついたり、光学レンズ部と支持腕部との接合箇所で不具合が生じる可能性がある。
【0008】
また、接着等によって光学レンズ部と支持腕部とを一体に結合するものとは違って、特許文献1に記載の技術のように、軟質材料と硬質材料とが結合したレンズブランクからレンズを切り出し、軟質光学レンズ部と硬質支持腕部からなる眼内レンズを一体的に作製する方法も開示されている。
【0009】
しかし、従来のこの種の方法で得られる眼内レンズは、支持腕部の接合部から先端までが全て硬質材料で構成されているので、レンズを折り畳んでインジェクターを用いて小さ
な切開創から挿入する際に、硬質材料よりなる支持腕部が破損したり、異種材料の境界部である支持腕部の接合部に無理な力が加わって、支持腕部が接合部から剥離したり破損したりするという問題を有していた。
【0010】
一方、特許文献2に示されているような、光学レンズ部と支持腕部とが同一の軟質材料から構成されているタイプの眼内レンズは、上述の光学レンズ部と支持腕部が異種材料から構成されているタイプの眼内レンズに比較して、支持腕部の破損や剥離あるいは抜けの問題がなく、製法も比較的単純であることから、現在普及を広げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−295353号公報
【特許文献2】特表平10−513099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
通常、このタイプの全部が軟質材料で構成された軟性眼内レンズを眼内に挿入する場合は、インジェクターに収まるようにレンズを小さく折り畳んで挿入する。例えば、支持腕部の先端側を内側に挟み込むように光学レンズ部を2つに折り畳んでインジェクター内にレンズを挿入し、その状態でインジェクターの先端開口からレンズを眼内に挿入する。眼内にレンズを挿入すると、支持腕部は光学レンズ部と共に眼内で展開して元の形状に復元する。そのため、眼内への挿入操作が簡単に済むという利点がある。
【0013】
しかし、この種の従来の軟性眼内レンズは、支持腕部が光学レンズ部と同一の軟質材料で構成されているので、支持腕部の先端側を内側に挟み込むように光学レンズ部を2つに折り畳んだ際に、支持腕部の先端が光学レンズ部の表面に貼り付いてしまい、眼内挿入後も支持腕部の貼り付いた部分が自然に剥がれず、そのために術者が強制的に支持腕部を光学レンズ部から剥がして本来の形に伸ばすという操作をしなくてはならないことがしばしば生じ、剥がす際にレンズにダメージを与えてしまうことや、たとえレンズにダメージを与えなくても術者に強いストレスを与える要因になっていた。
【0014】
本発明は、上記事情を考慮し、支持腕部の破損や抜けあるいは剥離の問題を生じるおそれが少なく、インジェクターを用いて挿入する際には光学レンズ部への支持腕部の貼り付きを軽減させることができ、それにより術者の負担を減らすことのできる軟性眼内レンズ、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、請求項1の発明の軟性眼内レンズは、折り畳み可能な柔軟な材料からなる光学レンズ部と、この光学レンズ部を眼内に保持するために該光学レンズ部の外周縁から外方に延び出すように形成された支持腕部と、を有する軟性眼内レンズにおいて、前記支持腕部の先端部の粘着性が、前記軟性眼内レンズの他の部分の粘着性よりも低くなるように設定されていることを特徴としている。
【0016】
請求項2の発明の軟性眼内レンズは、折り畳み可能な柔軟な材料からなる光学レンズ部と、この光学レンズ部を眼内に保持するために該光学レンズ部の外周縁から外方に延び出すように形成された支持腕部と、を有する軟性眼内レンズにおいて、前記支持腕部の先端部が、前記軟性眼内レンズの他の部分の軟質材料よりも硬質の異種の材料により構成されていることを特徴としている。
【0017】
請求項3の発明は、請求項2に記載の軟性眼内レンズであって、前記支持腕部の先端部
を構成する前記硬質材料と、前記軟性眼内レンズの他の部分であって該先端部より内周側の前記支持腕部の基端側の部分および前記光学レンズ部を構成する前記軟質材料との境界部が、前記光学レンズ部の中心を中心とする半径5mmの円よりも外側に設けられていることを特徴としている。
【0018】
請求項4の発明は、請求項2または3に記載の軟性眼内レンズであって、前記軟性眼内レンズの他の部分であって前記支持腕部の基端側の部分および前記光学レンズ部を構成する前記軟質材料が無色透明または淡色透明の材料よりなり、前記支持腕部の先端部を構成する前記硬質樹脂が、前記軟質材料より視認性を高めた着色材料よりなることを特徴としている。
【0019】
請求項5の発明は、請求項2〜4のいずれか1項に記載の軟性眼内レンズであって、前記硬質材料が、PMMA(ポリメチルメタアクリレート‐アクリル樹脂)を主成分とする硬質なプラスチックであることを特徴としている。
【0020】
請求項6の発明は、請求項2〜5のいずれか1項に記載の軟性眼内レンズであって、前記支持腕部の幅が最も狭い部分で0.2mm以上であることを特徴としている。
【0021】
請求項7の発明は、請求項2〜6のいずれか1項に記載の軟性眼内レンズの製造方法であって、同心円状に内周側に軟質材料、外周側に硬質材料が配置された円柱ロッド状を機械加工することにより、前記支持腕部の先端部が前記硬質材料で構成され、前記軟性眼内レンズの他の部分であって該先端部より内周側の前記支持腕部の基端側の部分および前記光学レンズ部が前記軟質材料で構成された軟性眼内レンズを得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
眼内挿入後の適度な形状復元速度や眼内における素材の安定性および素材の屈折率等の観点から、軟性眼内レンズ素材としては疎水性アクリル素材が広く用いられている。一般的に、疎水性アクリル素材は粘着性が強いために、眼内挿入時に支持腕部を、2つ折りにした光学レンズ部の内側に挟み込む操作をした場合、粘着性の強い素材同士が貼り付いてしまい、眼内挿入後も剥がれにくくなって、元の形状に復元しにくくなることがある。
【0023】
その点、請求項1の発明によれば、支持腕部の先端部の粘着性を、支持腕部の基端側の部分および光学レンズ部の粘着性よりも落としてある(低く設定してある)ので、インジェクターを用いて眼内に挿入するためにレンズを折り畳んだときに、支持腕部の先端部が光学レンズ部の表面に接触しても、同先端部が光学レンズ部の表面に貼り付きにくくなる。貼り付いてしまった場合には、眼内挿入後も支持腕部の貼り付いた部分が自然に剥がれず、そのために術者が強制的に支持腕部を光学レンズ部から剥がして本来の形に伸ばすという操作をしなくてはならないことがしばしば生じ、剥がす際にレンズにダメージを与えてしまうことや、たとえレンズにダメージを与えなくても術者に強いストレスを与える要因になっていたので、そのような不具合を軽減することができる。
【0024】
請求項2の発明によれば、支持腕部の先端部が硬質材料によって構成されていることによって、インジェクターを用いて挿入するためにレンズを折り畳んだときに、支持腕部の先端部が光学レンズ部の表面に接触しても、同先端部が光学レンズ部の表面に貼り付きにくくなる。貼り付いてしまった場合には、眼内挿入後も支持腕部の貼り付いた部分が自然に剥がれず、そのために術者が強制的に支持腕部を光学レンズ部から剥がして本来の形に伸ばすという操作をしなくてはならないことがしばしば生じ、剥がす際にレンズにダメージを与えてしまうことや、たとえレンズにダメージを与えなくても術者に強いストレスを与える要因になっていたので、そのような不具合を軽減することができる。また、支持腕部の基端側の部分は光学レンズ部と同じ軟質材料でできているので、従来の支持腕部を硬
質材料で構成したタイプの眼内レンズと違い、支持腕部の破損や抜けあるいは剥離の問題を軽減することができる。
【0025】
なお、本明細書において、「粘着性」とは、部材と部材が接触したときに貼り付きや吸着を起こす性質、いわゆる「くっつきやすさ」のことを言う。
【0026】
請求項3の発明によれば、硬質材料で構成された部分が光学レンズ部の中心を中心とする半径5mmの円よりも外側に存在するため、不必要に硬質材料で構成された部分を大きくしてしまうことがない。従って、小口径インジェクターを使用してレンズを眼内に挿入する際に、硬質部分の大きさに起因するインジェクター内部でのレンズの詰まりの危険性を少なくすることができる。つまり、支持腕部の基端側の部分の柔軟性を十分に確保できるため、詰まりの可能性を少なくすることができる。
【0027】
なお、一般に眼内レンズの全長(対称に支持腕部が光学レンズ部の外側に設けられている場合、一方の支持腕部の先端から他方の支持腕部の先端までの距離)は12mm以上であり、硬質の支持腕部の先端部を、光学レンズ部の中心を中心とする半径5mmの円よりも内側に設けた場合には、支持腕部に占める硬質部の割合が高くなり、支持腕部の破損や剥離の可能性が高くなる。また、インジェクターに挿入する際に、支持腕部の屈曲性能に硬質部が影響を及ぼすようになり、支持腕部が適切に曲がりにくくなる可能性が生じる。しかし、請求項3の発明では、硬質部分の存在する範囲を、半径5mmの円より外側に設定したことにより、そのような現象が生じるのを回避することができる。
【0028】
請求項4の発明によれば、支持腕部の先端部を構成する硬質樹脂が視認性を高めた着色材料よりなるので、多くの部分が無色透明か淡色透明に構成されている眼内レンズそのものの視認性を高めることができ、取り扱いがしやすくなる。また、レンズを折り畳んだ際の状態確認や眼内レンズ挿入時の支持腕部の先端部の位置の確認が容易にできるようになり、レンズ挿入術の成功率の向上に寄与することができる。つまり、支持腕部の先端部の位置を、色がついていることによって容易に確認できるようになるため、支持腕部が折り畳まれたままであるか否かを容易に判断できるようになる。なお、複数の支持腕部がある場合は、それらの先端部の色を赤と青のように違えてもよい。
【0029】
請求項5の発明によれば、硬質材料がPMMAを主成分とする硬質なプラスチックであるので、比較的安価に且つ生体内における安全性の高い眼内レンズを提供することができる。
【0030】
請求項6の発明によれば、支持腕部の幅を最も狭い部分で0.2mm以上としたので、眼内挿入後の支持腕部の復元性を損なうことなく、請求項2〜5の発明の効果を奏することができる。
【0031】
請求項7の発明によれば、一部の部位(支持腕部の先端部)だけ異種の材料で構成した眼内レンズを容易に精度よく製造することができる。その際、軟質部分(支持腕部の基端側の部分および光学レンズ部)の加工時に外周側の硬質部分を支えにして加工できるので、製造が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態の軟性眼内レンズの構成図で、(a)は正面図、(b)はその側面図である。
【図2】同軟性眼内レンズをインジェクターのカートリッジの内部に折り畳んで挿入した状態を示す図である。
【図3】(a)〜(d)は同眼内レンズの製造工程の説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態の軟性眼内レンズの平面図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態の軟性眼内レンズの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1(a)は本発明の一実施態様に係る軟性眼内レンズの正面図、(b)はその側面図、図2はインジェクターのカートリッジの中に実施形態の軟性眼内レンズを折り畳んで挿入した状態を示す側面図である。
【0034】
図1に示すように、この軟性眼内レンズ(以下、「眼内レンズ」または単に「レンズ」とも言う)1は、折り畳み可能な柔軟な材料からなる光学レンズ部10と、この光学レンズ部10の外周縁から外方に延び出すように形成された2本の湾曲形状の支持腕部20とを有している。光学レンズ部10は円形の凸レンズとして形成されている。
【0035】
支持腕部20は、眼内において光学レンズ部10を保持・固定するものであり、光学レンズ部10の中心Oを対称中心として点対称の位置関係に2本設けられている。2本の支持腕部20は同じ方向〔図1(a)では左回り〕に湾曲しており、湾曲の方向によってレンズ1の表と裏を区別できるようになっている。
【0036】
これらの支持腕部20は、先端部22より内周側の基端側の部分21が光学レンズ部10と同じ材料で構成されているが、先端部22のみが異種の材料で構成されている。すなわち、支持腕部20の先端部22のみが、軟性眼内レンズ1の他の部分の軟質材料よりも硬質の異種の材料により構成されている。ここでは、前記軟性眼内レンズ1の他の部分、つまり支持腕部20の基端側の部分21および光学レンズ部10が、軟質アクリル材料やシリコン系材料、ハイドロゲル、ウレタン系材料等の軟質材料で構成され、支持腕部20の先端部22が、それよりも硬質の、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)を主成分とするプラスチック材料(硬質材料)で構成されている。このように支持腕部20の先端部22の材料だけを硬質材料で構成し、支持腕部20の先端部22の粘着性は、前記軟性眼内レンズ1の他の部分、すなわち該先端部22より内周側の支持腕部20の基端側の部分21および光学レンズ部10の粘着性よりも低く設定されている。なお、この眼内レンズ1は、光学レンズ部10から支持腕部20の先端部22までが一体に構成されているものであり、いわゆるワンピースタイプの眼内レンズと称されるものに相当する。
【0037】
この眼内レンズ1の全長L(一方の支持腕部の先端から他方の支持腕部の先端までの距離)は、適切であればどんな寸法でも構わないが、好ましくは11mmから14mmの範囲であり、最も好ましくは12.5mmである。光学レンズ部10は、前面(FC面)11と後面(BC面)12とを有し、その直径Dは、適切な値であればどんな寸法でも構わないが、好ましくは5mmから7mmの範囲であり、最も好ましくは6mmである。なお、光学レンズ部10の厚みは、望まれる屈折力や使用される材料の屈折率によって変わる。
【0038】
支持腕部20の形状は、眼内挿入後に眼内レンズ1を安定させうる湾曲形状であればどんな形状でも構わないが、眼内挿入後の支持腕部の復元性を維持するため、支持腕部20の幅は、最も狭い部分Wsで0.2mm以上であることが好ましい。
【0039】
また、図1(a)中のRは光学レンズ部10の中心Oを中心とする円の半径を示しており、硬質材料で構成された支持腕部20の先端部22は、R=5mmの円よりも外側に設けることが好ましい。言い換えると、支持腕部20の先端部22を構成する硬質材料と、該先端部22より内周側の支持腕部20の基端側の部分21および光学レンズ部10を構成する軟質材料との境界部25が、光学レンズ部10の中心Oを中心とする半径5mmの
円よりも外側に設けられていることが望ましい。
【0040】
このように設定することにより、図2に示すように、眼内レンズ1をインジェクターのカートリッジ50に挿入するために、支持腕部20を挟み込むように光学レンズ部10を2つに折り畳んだ際に、光学レンズ部10に挟み込まれる必要先端付近を硬質素材とすることができ、不必要に硬質部分を大きくしてしまうことがない。従って、小口径インジェクターを使用してレンズ1を眼内に挿入する際に、硬質の先端部22の大きさに起因するインジェクター内部でのレンズ1の詰まりの危険性を軽減することができる。
【0041】
因みに、硬質の領域をR=5mmの円よりも内側に広げた場合は、支持腕部20に占める硬質部の割合が高くなり、支持腕部20の破損や剥離の可能性が高くなる。
【0042】
以上の構成の本実施形態の眼内レンズ1によれば、支持腕部20の先端部22のみが硬質材料によって構成されているので、図2に示すように、インジェクターを用いて挿入するためにレンズ1を折り畳んだときに、支持腕部20の先端部22が光学レンズ部10の表面に接触しても、同先端部22が光学レンズ部10の表面に貼り付きにくくなる。これにより、図2中矢印Aのようにインジェクターのカートリッジ50からレンズ1を押し出して、眼内に挿入した後に支持腕部20が元の形状に展開しやすくなるので、術者の負担を減らすことができる。また、支持腕部20の基端側の部分21は光学レンズ部20と同じ軟質材料でできているので、実質的に光学レンズ部10と支持腕部20が同一の軟性眼内レンズとして機能するようになり、そのため、従来の支持腕部全体を硬質材料で構成したタイプの眼内レンズと違い、支持腕部20の破損や抜けあるいは剥離の問題を軽減することができる。
【0043】
また、この眼内レンズ1では、支持腕部20の先端部22を構成する硬質樹脂が視認性を高めた着色材料よりなるので、多くの部分が無色透明か淡色透明に構成されている眼内レンズ1そのものの視認性を高めることができ、取り扱いがしやすくなる。また、レンズ1を折り畳んだ際の状態確認や眼内レンズ1挿入時の支持腕部20の先端部22の位置の確認が容易にできるようになり、レンズ挿入術の成功率の向上に寄与することができる。つまり、支持腕部20の先端部22の位置を、色がついていることによって容易に確認できるようになるため、支持腕部20が折り畳まれたままであるか否かを容易に判断できるようになる。なお、2本の支持腕部20の先端部22の色を赤と青のように違えてもよい。
【0044】
また、この眼内レンズ1は、硬質材料としてPMMAを主成分とする硬質なプラスチックを使用するので、比較的安価に且つ生体内における安全性の高い眼内レンズを提供することができる。
【0045】
次に上記構成の眼内レンズ1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0046】
この実施形態の製造方法では、まず、図3(a)に示すように、公知の成形方法を用いて、PMMAからなる略ドーナッツ形状をなした硬質部構成部材(後では硬質材料ともいう)100を得る。例えば、着色PMMAを略円板状に成形したボタン材の中央部に円孔110をあけて、硬質部構成部材100を得る。
【0047】
次に、硬質部構成部材100の中心部の円孔110内に、重合後に軟質アクリルとなる原料液200を注入して重合を完了させる。これにより、(b)に示すように、光学レンズ部10および支持腕部20の基端側の部分21を構成する軟質材料250と支持腕部20の先端部22を構成する硬質部構成部材(硬質材料)100とが一体に形成された円板状の原材料300が得られる。
【0048】
次に、(c)に示すように、円板状の原材料300の表裏面に精密旋盤装置を用いて面形成加工を施す。これにより、眼内レンズの表裏面形状を有した平面視円板状の中間部材350を得る。この精密旋盤により面形成加工を行う際に、硬質部構成部材100を把持することができるので、高精度に位置決めすることができ、加工が容易にできる。
【0049】
次に、(d)に示すように、ミーリング装置を用いて、実線のような平面視輪郭形状を形成する。最後に研磨加工をし、図1に示すようなワンピースタイプの眼内レンズ1を得る。
【0050】
ここで、図1に示した眼内レンズ1の具体的な寸法例を示すと、全長Lは例えば12.5mm、光学レンズ部10の直径Dは例えば6mm、光学レンズ部10の中心の厚みは例えば0.7mm、支持腕部20の幅は最も狭い部分(Ws)で例えば0.4mm、この部分での支持腕部20の厚みは例えば0.4mm、また、硬質の先端部22は例えばR=5.55mmの円より外側に設けられており、その厚みは例えば0.4mmである。
【0051】
また、光学レンズ部10と支持腕部20の軟質材料の例としては、他にシリコン系材料、ハイドロゲル、ウレタン系材料等が挙げられ、硬質材料の例としては、他の硬質アクリル系材料、ポリアミド、ポリプロピレン等が挙げられる。勿論、それぞれの材料に着色剤や紫外線吸収剤を任意に添加しても構わない。
【0052】
図4は本発明の他の実施形態の軟性眼内レンズ501の構成を示している。この眼内レンズ501では、支持腕部20が光学レンズ部10の周囲に4本設けられており、それら支持腕部20の各先端部22が硬質材料で構成され、光学レンズ部10および支持腕部20の基端側の部分21が軟質材料で構成されている。
【0053】
また、図5は本発明の更に他の実施形態の軟性眼内レンズ601の構成を示している。この眼内レンズ601では、支持腕部20が光学レンズ部10の外周の対称位置にそれぞれ二股状に設けられており、それら支持腕部20の各先端部22が硬質材料で構成され、光学レンズ部10および支持腕部20の基端側の部分21が軟質材料で構成されている。
【0054】
このように支持腕部20の先端部22が硬質材料で構成されていることにより、光学レンズ部10の表面に貼り付きにくくなり、図1に示した実施形態と同様の効果を奏する。
【0055】
なお、上記実施形態では、支持腕部20の先端部22の材料を硬質材料とすることによって、先端部22の粘着性を落としたが、粘着性を落とすだけならば、先端部22だけにシボ加工を施すことも可能である。
【0056】
また、上記ワンピースタイプの眼内レンズ1の製造方法は、支持腕部20の先端部22までが軟質材料で構成されている単一材料からなる眼内レンズを精度良く加工する際にも利用することができる。この場合、軟質材料250の周囲に一体的に形成されている硬質材料100は、眼内レンズの構成部材とはならないが、面形成加工の際に硬質部構成部材100を把持することができるので、高精度に面形成可能ができる。
【符号の説明】
【0057】
1 眼内レンズ
10 光学レンズ部
20 支持腕部
21 基端側の部分
22 先端部
25 境界部
50 インジェクターカートリッジ
100 硬質部構成部材(硬質材料)
250 軟質材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り畳み可能な柔軟な材料からなる光学レンズ部と、この光学レンズ部を眼内に保持するために該光学レンズ部の外周縁から外方に延び出すように形成された支持腕部と、を有する軟性眼内レンズにおいて、
前記支持腕部の先端部の粘着性が、前記軟性眼内レンズの他の部分の粘着性よりも低くなるように設定されていることを特徴とする軟性眼内レンズ。
【請求項2】
折り畳み可能な柔軟な材料からなる光学レンズ部と、この光学レンズ部を眼内に保持するために該光学レンズ部の外周縁から外方に延び出すように形成された支持腕部と、を有する軟性眼内レンズにおいて、
前記支持腕部の先端部が、前記軟性眼内レンズの他の部分の軟質材料よりも硬質の異種の材料により構成されていることを特徴とする軟性眼内レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の軟性眼内レンズであって、
前記支持腕部の先端部を構成する前記硬質材料と、前記軟性眼内レンズの他の部分であって該先端部より内周側の前記支持腕部の基端側の部分および前記光学レンズ部を構成する前記軟質材料との境界部が、前記光学レンズ部の中心を中心とする半径5mmの円よりも外側に設けられていることを特徴とする軟性眼内レンズ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の軟性眼内レンズであって、
前記軟性眼内レンズの他の部分であって前記支持腕部の基端側の部分および前記光学レンズ部を構成する前記軟質材料が無色透明または淡色透明の材料よりなり、前記支持腕部の先端部を構成する前記硬質樹脂が、前記軟質材料より視認性を高めた着色材料よりなることを特徴とする軟性眼内レンズ。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の軟性眼内レンズであって、
前記硬質材料が、PMMA(ポリメチルメタアクリレート‐アクリル樹脂)を主成分とする硬質なプラスチックであることを特徴とする軟性眼内レンズ。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の軟性眼内レンズであって、
前記支持腕部の幅が最も狭い部分で0.2mm以上であることを特徴とする軟性眼内レンズ。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項に記載の軟性眼内レンズの製造方法であって、
同心円状に内周側に軟質材料、外周側に硬質材料が配置された円柱ロッド状を機械加工することにより、前記支持腕部の先端部が前記硬質材料で構成され、前記軟性眼内レンズの他の部分であって該先端部より内周側の前記支持腕部の基端側の部分および前記光学レンズ部が前記軟質材料で構成された軟性眼内レンズを得ることを特徴とする軟性眼内レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−188066(P2010−188066A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38251(P2009−38251)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】