説明

軟磁性複合材料の製造方法

【課題】リアクトルのコアに好適な軟磁性複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明軟磁性複合材料の製造方法は、次の工程を備える。(見掛密度/真密度)×100で表される密度比が45%超70%以下の軟磁性粉末を準備する準備工程。この軟磁性粉末10と樹脂20とを混合する工程であって、この混合時の樹脂温度における樹脂20の粘度を100mPa・s〜100Pa・sに調整して混合を行う混合工程。この混合材料を大気圧以上1MPa以下の充填圧力にて型3に充填し、樹脂を硬化させて成形体を得る成形工程。この方法によれば、所定の密度比の軟磁性粉末を用いることで、ある程度軟磁性粉末の充填率が高い軟磁性複合材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟磁性複合材料の製造方法および磁性素子の製造方法に関するものである。特に、リアクトルの製造に好適な磁性素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点からハイブリッド自動車や電気自動車が実用化されている。ハイブリッド自動車は、エンジン及びモータを駆動源として具え、その一方又は双方を用いて走行する自動車である。このようなハイブリッド自動車等は、モータへの電力供給系統に昇圧回路を備えている。そして、昇圧回路の部品の一つとして、電気エネルギーを磁気エネルギーとして蓄えることができるリアクトルが利用される。
【0003】
リアクトルは、コイルと、ギャップを有するコアとを具備し、このコイルの励磁によりギャップを通る閉磁路をコアに形成する。ハイブリッド自動車等の昇圧回路に用いられる代表的なリアクトルRのコアは、図7に示すようなリング状のコアMである。このコアMは、以下のような複数のコア片を組み合わせて構成されている。コアMは、矩形状の端面を有するU字状コア片m一対と、I字状コア片m4つとから成り、各U字状コア片mを互いの端面同士が対向するように配し、各端面間にI字状コア片mを2つずつ並べて、それぞれを接合して構成している。そして、このようなコアMの一部に巻線を巻装してコイルCを形成し、このコイルCに電流を流すことでコアMに閉磁路を形成する。上記コアMを構成する材料は、絶縁被覆を有する軟磁性粉末を樹脂粉末と共に加圧成形して得ることができる(類似の技術を示す文献として、例えば特許文献1および2)。
【0004】
また、上記コアMは、磁気飽和を回避するため、コア片の各接合部にスペーサsを配することにより、閉磁路中にギャップが設けられている。リアクトルのインダクタンスは、主として閉磁路に形成するギャップの合計長(ここではスペーサsの合計厚み)により規定される。この合計長は高精度に保持される必要があり、各スペーサsにはアルミナといった非磁性材料の板材を高精度に加工して利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-305108号公報
【特許文献2】特開2006-302958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ギャップの合計長を高精度に保持するには、各スペーサsの厚みが高精度に管理されなければならない。例えば、スペーサsであるアルミナの板材に求められる厚さ精度は百分の数ミリオーダーである。ところが、この厚さの精度管理は、アルミナ板材を研磨することで行われており、要求される加工精度の高さに加え、アルミナ自体が高硬度の難加工材料であることから、容易に行えるものではない。そのため、ギャップの合計長の調整に多大な時間を要し、より効率的にリアクトルを生産する技術の開発が望まれていた。
【0007】
この問題の対策として、特許文献1に示すように、型内にコイルを配置し、その型内に軟磁性粉末と樹脂の混合粉末を充填して加圧成形すれば、ギャップを設けない磁性素子を得ることができる。しかし、このような圧粉成形体は、10MPaを超える高圧、通常は数百MPaという高圧で成形されている。そのため、軟磁性粉末同士が圧接されて絶縁被覆が損傷されることがある。絶縁被覆が損傷すれば、軟磁性粉末同士の電気的接続により、成形体の渦電流損が増大することになる。また、ギャップのないコアでは、低透磁率とする必要があるが、軟磁性粉末同士の電気的接続により、圧粉成形体の比透磁率が高くなる傾向にある。ここで、軟磁性粉末の体積割合を減少させればコアの比透磁率を低く抑えることができるが、飽和磁束密度も低下する。そのため、コアを通る磁力線に直角なコアの断面積、つまりコアサイズを大きくしなければ必要な磁力を確保できず、部品の小型化・軽量化のニーズに反することになる。さらに、軟磁性粉末と樹脂粉末との混合粉末中にコイルを埋設して高圧で加圧成形すると、コイル自体が変形したり、コイルの絶縁被覆が損傷することもある。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、ギャップを設けないリアクトルのコアに好適で、高圧に加圧しなくても得ることができる軟磁性複合材料の製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の別の目的は、コイルなどの内包部材が変形しにくい磁性素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コアとコイルとを一体化した状態で形成することに適した軟磁性複合材料の製法について種々の検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明軟磁性複合材料の製造方法は、次の工程を備えることを特徴とする。
(見掛密度/真密度)×100で表される密度比が45%超70%以下の軟磁性粉末を準備する準備工程。
この軟磁性粉末と樹脂とを混合する工程であって、この混合時の樹脂温度における樹脂の粘度を100mPa・s〜100Pa・sに調整して混合を行う混合工程。
この混合材料を大気圧以上1MPa以下の充填圧力にて型に充填し、樹脂を硬化させて成形体を得る成形工程。
【0012】
本発明方法によれば、所定の密度比の軟磁性粉末を用いることで、ある程度比透磁率が低く、比較的飽和磁束密度の高い軟磁性複合材料を得ることができる。
【0013】
また、所定の低圧下で成形を行うため、軟磁性粉末の同士の圧接による渦電流損の増大、或いは比透磁率の増加といった問題を軽減できる。
【0014】
本発明製造方法の一形態として、前記準備工程は、軟磁性粉末として、最大径/円相当径が1〜1.3の球状粉末を用いることが好ましい。
ただし、円相当径は、軟磁性粉末の粒子の輪郭形状を特定し、その輪郭で囲まれる面積と同一の面積を有する円の径であり、最大径は、前記輪郭形状における粒子の最大長さである。
【0015】
このような球状の粉末を用いることで、高圧に加圧しなくても所定の充填率を確保し、磁性素子として好適な比透磁率と飽和磁束密度を有する軟磁性複合材料を得ることができる。
【0016】
本発明製造方法の一形態としては、前記球状粉末が、ガスアトマイズ法で得られた粉末であることが好ましい。
【0017】
ガスアトマイズ法で得られた軟磁性粉末は、表面の凹凸が少なく、最大径/円相当径が1〜1.3となる粉末を容易に得ることができる。
【0018】
本発明製造方法の一形態としては、前記準備工程は、軟磁性粉末として、所定の粗粒を除去する分級工程を経た粉末を用いることが好ましい。
【0019】
分級工程を経ることで、粒子同士の接触面積が大きくなりやすい粗粒を除去することができ、比透磁率の増大を抑制すると共に、見掛密度の高い粉末を得ることができる。
【0020】
本発明製造方法の一形態としては、軟磁性粉末は、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被覆がない粉末とすることが好ましい。
【0021】
絶縁被覆のない軟磁性粉末でも、所定の見掛密度の粒子を用いることで、粉末粒子同士の接触による電気的接続を極力抑制し、複合材料の比透磁率を低く抑えることができる。
【0022】
本発明製造方法の一形態としては、前記軟磁性粉末は、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被覆を備える粉末とすることが好ましい。
【0023】
絶縁被覆を有する軟磁性粉末を用いることで、粉末粒子同士の接触による電気的接続を抑制し、渦電流の発生を抑制できると共に、複合材料の比透磁率を低く抑えることができる。
【0024】
本発明製造方法の一形態としては、さらに非導電性のフィラーが樹脂中に分散して内包されていることが好ましい。
【0025】
非導電性のフィラーを軟磁性粉末と樹脂との混合材料に添加することで、混合材料の粘度を容易に調整することができ、軟磁性粉末が樹脂内で沈殿して分離することを抑制できる。それに伴い、軟磁性粉末が樹脂中に均一に分散された複合材料を得ることができる。
【0026】
本発明製造方法の一形態としては、前記樹脂がエポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水物を用いることが好ましい。
【0027】
酸無水物を硬化剤に用いれば、樹脂と軟磁性粉末とを混合してから型に注入するまでの過程で、混合材料の粘度の上昇を抑制してポットライフを確保でき、かつ硬化時の発熱が緩やかで成形体に亀裂などが入り難い。
【0028】
本発明製造方法の一形態としては、前記樹脂がエポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂の硬化剤として潜在性硬化剤を用いることが好ましい。
【0029】
潜在性硬化剤を用いれば、樹脂と軟磁性粉末とを混合してから型に注入するまでの過程で、混合材料の粘度の上昇を抑制してポットライフを確保でき、かつ硬化時の発熱が緩やかで成形体に亀裂などが入り難い。
【0030】
一方、本発明磁性素子の製造方法は、次の工程を備えることを特徴とする。
(見掛密度/真密度)×100で表される密度比が45%超70%以下の軟磁性粉末を準備する準備工程。
この軟磁性粉末と樹脂とを混合する工程であって、この混合時の樹脂温度における樹脂の粘度を100mPa・s〜100Pa・sに調整して混合を行う混合工程。
予め型内に内包部材を配置する部材配置工程。
前記軟磁性粉末と樹脂との混合材料を大気圧以上1MPa以下の充填圧力にて内包部材が配置された型に充填し、樹脂を硬化させて成形体を得る成形工程。
【0031】
内包部材を予め型に配置してから所定の混合材料を充填することで、高圧に加圧成形することなく、また複合材料と内包部材との組み合わせを別工程で行うことなく、複合材料と内包部材とが一体となった磁性素子を得ることができる。成形圧力が低圧であるため、軟磁性粉末同士の圧接が実質的になく、かつ内包部材の変形もほとんどない磁性素子を得ることができる。
【0032】
本発明磁性素子の製造方法の一形態としては、予め型内に内包部材を配置する場合、内包部材はコイルであることが好ましい。
【0033】
内包部材がコイルであれば、軟磁性複合材料からなるコアとコイルとが一体化された磁性素子を高圧に加圧することなく得ることができる。
【0034】
本発明磁性素子の製造方法の一形態としては、前記成形体が、軟磁性複合材料からなるコアと、このコアに一体化して内包されるコイルとを備えるリアクトルであることが好ましい。
【0035】
本発明製造方法により軟磁性複合材料からなるコアをいわゆるポット型のコアとしたリアクトルを容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明複合材料の製造方法によれば、所定の密度比の軟磁性粉末を用いることで、ある程度比透磁率が低く、飽和磁束密度が高い軟磁性複合材料を得ることができる。また、所定の低圧下で成形を行うため、軟磁性粉末同士の圧接による渦電流損の増大、或いは比透磁率の増加といった問題を軽減できる。
【0037】
さらに、本発明磁性素子の製造方法によれば、所定の密度比の軟磁性粉末を用いて低圧にて成形することで、内包部材の変形が少ない磁性素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明製造方法の説明図で、(I)は混合工程、(II)は注型工程、(III)は硬化工程を示す。
【図2】軟磁性粉末の円相当径と最大径を示す説明図である。
【図3】本発明製造方法で得られた磁性素子であるリアクトルの部分切欠斜視図である。
【図4】別の本発明製造方法の説明図である。
【図5】本発明製造方法で得られた複合材料の飽和磁束密度と比透磁率との関係を示すグラフである。
【図6】本発明製造方法で得られた複合材料の断面状態を示す顕微鏡写真である。
【図7】従来のリアクトルの部分切欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の構成要件を説明する。
【0040】
<製造方法>
本発明製造方法を概略的に述べれば、軟磁性粉末の準備工程、この粉末と樹脂の混合工程、混合材料を型に充填して硬化する成形工程を備える。
【0041】
(粉末の準備)
見掛密度とは、JIS Z 2504 「金属粉-見掛密度試験方法」に基づいて求められた密度である。また、真密度は、物質自身が占める体積だけを密度算定用の体積とする密度のことである。個々の粒子内部に空洞がないとする場合、真密度は軟磁性粉末の構成金属の比重とみなすことができる。この見掛密度、真密度から求められる密度比を45%超70%以下とする。この密度比が45%以下であれば、成形時に高圧に加圧することなく飽和磁束密度が0.6T以上の複合材料を得ることが難しい。逆に、この密度比が70%を超えると、そのような高密度比の粉末を得ることが難しい上、複合材料の比透磁率が高くなる傾向にある。また、高密度比の粉末は、樹脂と混合した際、沈殿して分離しやすく、均一に分散させることが難しい。この密度比の下限は、50%以上とすることが好ましい。この密度比の上限は65%以下、60%以下などが挙げられる。密度比を45%超70%以下とするには、例えば、後述するように、所定の球状の粉末を用いたり、粉末を分級することが挙げられる。特に、ガスアトマイズ法で生成された粉末は、密度比を45%超70%以下とすることができる。
【0042】
(混合)
軟磁性粉末と樹脂との混合は、例えば図1(I)に示すように、混合容器1内に軟磁性粉末10と樹脂20とを投入し、攪拌器2でかき混ぜることにより行う。その際、樹脂の混合時の粘度を100mPa・s〜100Pa・sに調整して行うことが好ましい。この下限を下回ると軟磁性粉末が沈殿して、軟磁性粉末と樹脂が分離され、得られる軟磁性複合材料の均質性が阻害される。逆に、上限を超えると、軟磁性粉末が樹脂に分散した状態になり難く、軟磁性粉末の充填率を高めることが難しくなる。より好ましい樹脂の混合時の粘度は、1Pa・s〜50Pa・sである。
【0043】
この粘度調整は、樹脂の種類に応じて、樹脂の温度を変えることで調整したり、前述したフィラーを添加することで調整することが考えられる。例えば、熱硬化性樹脂であれば、常温で所定の粘度を満たす場合もあるが、50℃程度以下に加熱して樹脂の粘度を低下させてもよい。熱可塑性樹脂であれば、その樹脂の融点以上の温度に加熱して粘度を低下させることで、所定の粘度に調整する。
【0044】
(内包部材の配置)
必要に応じて、軟磁性粉末10と樹脂20の混合材料を注型する前に型3内に内包部材(コイルC)を配置する(図1(II)参照)。内包部材を型に配置してから混合材料を注型して硬化させることにより、複合材料と内包部材とが一体化された部材を得ることができる。例えば、内包部材をコイルCとした場合、軟磁性複合材料からなるコアMとコイルCとが一体化されたリアクトルを得ることができる(図1(III)参照)。このとき、内包部材の型内への配置→混合材料の注型→樹脂の硬化という過程を経るだけで、コアとコイルとを個別に作製し、両者を組み合わせる過程を行うことなくリアクトルを得ることができる。もちろん、ギャップ材をコアに組み合わせてリアクトルのインダクタンスの調整を行う必要もない。なお、コイルは、巻線の端部を型外に引き出しておく必要があるため、型の一部に、巻線端部の引出孔を設けておいたり、型自体を巻線の端部が引き出される箇所で分割される構成にすることなどが考えられる。
【0045】
(混合材料の注型)
軟磁性粉末10と樹脂20の混合材料は、例えば図1(II)に示すように、型3に注入されて硬化されることで複合材料の成形体(コアM)とされる。混合材料の注型は、単に型内に混合材料を流し込むだけでもよいし、所定の低圧となるように型内を加圧または減圧してもよい。減圧した型内に混合材料を充填した場合も、相対的には混合材料が加圧されることになる。例えば、閉鎖された金型内を所定の圧力に減圧するように排気し、その金型内に混合材料を充填すると結果的に混合材料が加圧状態で型内に保持されることになる。
【0046】
この混合材料の充填圧力は、大気圧以上1MPa以下とする。従来の軟磁性粉末材料と樹脂の粉末を圧粉成形する際には、低くても10MPa超の高圧であった。そのため、軟磁性粉末同士の圧接または軟磁性粉末と内包部材との圧接により軟磁性粉末や内包部材の絶縁被覆が損傷したり、内包部材が変形することがあった。しかし、型内への混合材料の充填圧力を1MPa以下の低圧とすることで、軟磁性粉末や内包部材の絶縁被覆の損傷や内包部材の損傷を大幅に低減することができる。この圧力の上限としては、0.7MPa以下、0.5MPa以下、或は0.3MPa以下が挙げられる。なお、1MPa以下の範囲内で、大気圧以上の圧力に加圧した場合は、複合材料中にできるボイドのサイズを小さくし、複合材料の磁気特性のばらつきを低減する効果がある。
【0047】
(樹脂の硬化)
混合材料の注型後、図1(III)に示すように、樹脂の種類などに応じた硬化法により樹脂を硬化させる。熱硬化性樹脂であれば、注型された樹脂と軟磁性粉末との混合材料を加熱することで硬化させる。光硬化性樹脂であれば、注型された樹脂と軟磁性粉末との混合材料に所定の波長の光(紫外線)を照射することで硬化させる。電子線硬化性樹脂であれば、注型された樹脂と軟磁性粉末との混合材料に電子線を照射することで硬化させる。湿気硬化性樹脂であれば、注型された樹脂と軟磁性粉末との混合材料を湿気雰囲気中に配置することで硬化させる。その他、樹脂の硬化には、種々の硬化剤を用いることが好ましい。中でも、潜在性硬化剤を用いることが好ましい。潜在性硬化剤を用いれば、樹脂と軟磁性粉末とを混合してから型に注入するまでの過程で、混合材料の粘度の上昇を抑制してポットライフを確保でき、かつ硬化時の発熱が緩やかで成形体に亀裂などが入り難い。潜在性硬化剤には、熱硬化型潜在性硬化剤、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、光硬化型潜在性硬化剤などが挙げられる。その他、ポットライフが確保でき、かつ硬化時の発熱が緩やかにできる硬化剤としては、酸無水物系硬化剤も利用できる。このような潜在性硬化剤や酸無水物系硬化剤は、樹脂にエポキシ樹脂を用いた場合に好適に利用できる。
【0048】
次に、本発明製造方法により得られる軟磁性複合材料について説明する。この複合材料は、軟磁性粉末と、この粉末を分散した状態で内包する樹脂とを有する軟磁性複合材料である。
【0049】
<軟磁性粉末>
軟磁性粉末には、軟磁性金属粉末単体で構成される粉末と、軟磁性金属粉末の表面に絶縁被覆が形成された粉末とがある。
【0050】
(軟磁性金属粉末)
軟磁性金属粉末としては、Fe、CoまたはNiの他、Fe-Si、Fe-Ni、Fe-Al、Fe-Co、Fe-Cr、Fe-N、Fe-C、Fe-B、Fe-P、Fe-Al-SiなどのFe基合金粉末、或は希土類金属粉末、フェライト粉末などが利用できる。
【0051】
(絶縁被覆)
絶縁被覆は、軟磁性金属粉末粒子間の絶縁層として機能する。この金属粒子を絶縁被覆で覆うことによって、軟磁性金属粉末粒子同士の接触を抑制し、複合材料の比透磁率を抑えることができる。また、絶縁被覆の存在により、金属粒子間に渦電流が流れるのを抑制して、複合材料の渦電流損を低減させることができる。絶縁被覆は、例えば金属酸化物、金属窒化物、または金属炭化物や、リン酸金属塩化合物、ホウ酸金属塩化合物、または珪酸金属塩化合物などの絶縁性物質が利用できる。ここでの金属には、Fe、Al、Ca、Mn、Zn、Mg、V、Cr、Y、Ba、Sr、希土類元素などが利用できる。
【0052】
絶縁被覆の厚みは、10nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被覆の厚みを10nm以上とすることによって、金属粒子同士の接触の抑制や渦電流によるエネルギー損失を効果的に抑制することができる。また、絶縁被覆の厚みを1μm以下とすることによって、軟磁性複合材料に占める絶縁被覆の割合が大きくなりすぎない。このため、この軟磁性複合材料の磁束密度が著しく低下することを防止できる。なお、軟磁性金属粉末粒子の粒径が小さければ、絶縁被覆の厚みも小さくなる傾向にある。
【0053】
(粒子形状)
軟磁性粉末は、最大径/円相当径が1.0〜1.3の球状粉末とすることが好ましい。ここで、円相当径とは、図2に示すように、軟磁性粉末の粒子Pの輪郭形状を特定し、その輪郭で囲まれる面積と同一の面積を有する円の径である。つまり、円相当径=2×{前記輪郭内面積S/π}1/2で表される。また、最大径は、前記輪郭形状における粒子Pの最大長さである。従って、この比率が1.0に近いほど粒子が真球に近いことになる。軟磁性粉末の粒子の輪郭内面積を求めるには、例えば、この粉末の粒子を顕微鏡で観察し、その観察画像における粒子から画像処理などで輪郭内の面積を算出することが挙げられる。
【0054】
このような球状の粒子を用いれば、複合材料における軟磁性粉末の充填率を高めることができる。同一重量の粉末であれば、非球状粒子、すなわち、表面に凹凸の多い粒子の方が球状粒子よりも粉末の嵩が大きくなる。これに対し、球状の粒子であれば、非球状粒子に比べて粉末の嵩が小さいため、成形時に高圧に加圧しなくても容易に高い充填率の複合材料を得ることができる。
【0055】
また、球状の粒子は、非球状の粒子に比べて複合材料中のボイドの発生を抑制できる。非球状の粒子は、表面に凹凸が多いため、表面処理を行っても、その凹凸内に十分樹脂を行き渡らせることが難しいことがあり、複合材料中にボイドが発生することが考えられる。しかし、球状の粒子であれば、粒子の周囲に樹脂が十分に周るため、ボイドの発生を低減することができる。
【0056】
その他、球状の粒子であれば、粒子同士が隣接しても、実質的に点接触するだけであり、面接触することがほとんどない。樹脂中に分散される軟磁性金属粉末同士が接触した状態が多くなると、複合材料の比透磁率が高くなる傾向にあり、粒子間に渦電流が流れる問題もある。そのため、上述したように、絶縁被覆を有する軟磁性粉末を用いることが好ましいが、球状の粒子を用いれば、絶縁被覆のない粒子であっても、軟磁性金属粉末同士の接触の発生を低減し、複合材料の比透磁率を抑えることができる。この場合、軟磁性粉末を得る際に、軟磁性金属粉末に絶縁被覆を形成する必要がない。
【0057】
軟磁性粉末の具体例としては、ガスアトマイズ法で生成された粉末や、水アトマイズ法で生成された粉末がある。このうち、前者がほぼ球状の粒子であり、後者は表面に凹凸が形成された非球状の粒子である。この水アトマイズ法で生成された粉末の表面部をボールミルなどで粉砕して球状に形成することで最大径/円相当径を1.0〜1.3となるようにしてもよい。
【0058】
その他、最大径/円相当径を1.0〜1.3とならない粒子を用いる場合は、分級することが好ましい。この分級は、例えばふるいで所定の粗粒を除去することで行う。より具体的には、軟磁性粉末の平均粒径よりも150%以上径の大きな粗粒を除去することが好ましい。このような分級により、粒子同士の接触面積が大きくなりやすい粗粒を除去することができ、比透磁率の増大を抑制すると共に、見掛密度の高い粉末を得ることができる。より好ましくは軟磁性粉末の平均粒径よりも100%以上径の大きな粗粒を除去し、特に好ましくは50%以上径の大きな粗粒を除去すれば良い。さらに、軟磁性粉末の微粒を除去するようにしてもよい。例えば、軟磁性粉末の平均粒径よりも50%以上径の小さな微粒を除去することが好ましい。このような分級により、粒径のばらつきを抑制し、軟磁性粉末が均質に分散された複合材料を得ることができる。この微粒の除去もふるいを用いて行えばよい。
【0059】
なお、本発明方法で得られる複合材料は、前述したように、大気圧或いは所定の低圧下で混合材料を注型・硬化して得られるため、注型・硬化時の圧力で軟磁性粉末同士が圧接されて変形することがない。そのため、成形前の軟磁性粉末における「最大径/円相当径」は成形後の軟磁性粉末における「最大径/円相当径」と実質的に同一である。
【0060】
軟磁性粉末の平均粒径は、5〜500μmとすることが好ましい。あまり粉末の平均粒径が小さいと、充填率を上げることが難しい。逆にこの平均粒径が大きいと、樹脂中に軟磁性粉末を均一に分散することが難しくなる。この粉末の平均粒径の下限は、10μm、15μm、20μmが挙げられる。この粉末の平均粒径の上限は、100μm、80μm、70μm、60μm、50μmが挙げられる。より好ましい軟磁性粉末の平均粒径は10〜100μmである。
【0061】
(充填率)
本発明方法によれば、複合材料における軟磁性金属粉末の充填率を70体積%以下とした複合材料を得ることができる。この充填率は、{軟磁性粉末の体積/(軟磁性粉末の体積+樹脂の体積)}×100で表される。より具体的には、JIS K 7250(2006)「プラスチック-灰分の求め方」に準拠して充填率を求めることができる。軟磁性粉末の体積は、例えば複合材料をマッフル炉にて600℃に加熱して樹脂分を除去し、残った軟磁性粉末の重量を測って、この重量を軟磁性粉末の真密度で除することで求められる。一方、樹脂の体積は、複合材料の重量から軟磁性粉末の重量を減じて樹脂の重量を求め、この樹脂の重量を樹脂の密度で除することで求められる。そして、これら軟磁性粉末の体積と樹脂の体積とから上述の式に基づいて充填率を算出できる。なお、非導電性のフィラーが含まれている複合材料の場合、充填率は、{軟磁性粉末の体積/(軟磁性粉末の体積+樹脂の体積+フィラーの体積)}×100で表される。複合材料の樹脂を除去した後に残存する軟磁性粉末とフィラーとをマグネットで選別すれば、軟磁性粉末の体積やフィラーの体積が求められる。
【0062】
充填率を70体積%以下とすることで、透磁率が比較的低い複合材料を容易に得ることができる。この充填率の上限としては、65体積%、60体積%、55体積%が挙げられる。充填率の下限は30体積%以上とすることが好ましい。30体積%以上の充填率とすることで、複合材料として適切な透磁率や飽和磁束密度を確保することができ、この複合材料でリアクトルを構成した場合に、好適なインダクタンス値を得ることができる。この充填率の下限としては、35体積%、40体積%、45体積%が挙げられる。より好ましい充填率の範囲は40〜60体積%である。特に、本発明方法でリアクトルを製造した場合、ギャップ材を用いることなく、適切なインダクタンス値のリアクトルとすることができる。
【0063】
<樹脂>
樹脂は軟磁性粉末を分散状態で保持するものである。この樹脂には、熱硬化性樹脂、光(紫外線)硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂などが利用できる。
【0064】
熱硬化性樹脂には、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0065】
光硬化性樹脂のオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、エステルアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系、ビニルエーテル系の樹脂が挙げられる。
【0066】
電子線硬化性樹脂のオリゴマーとしては、不飽和ポリエステル、不飽和アクリル、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエン/ポリチオールなどが挙げられる。
【0067】
湿気硬化性樹脂としては、湿気硬化型エポキシ樹脂や湿気硬化型ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0068】
その他、熱可塑性樹脂の利用も考えられる。熱可塑性樹脂には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエン共重合樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリイミド、メタクリル樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0069】
本発明方法で得られる複合材料を耐熱性の要求される分野で用いる場合、熱硬化性樹脂を用いることが好ましいが、熱可塑性樹脂であってもポリイミドやフッ素樹脂などであれば、耐熱性の要求される分野で利用することが期待される。
【0070】
<比透磁率μ>
本発明方法で得られる複合材料の比透磁率は、5〜30とすることが好ましい。従来、リアクトルのコアに用いられている電磁鋼板の比透磁率は4000〜8000程度、高圧で成形した圧粉成形体の比透磁率は400〜600程度である。このような高透磁率の材料では、ギャップを設けることなくコアを構成することが難しい。しかし、本発明方法で得られる複合材料であれば、比透磁率が5〜30の低透磁率材料とすることができ、ギャップを設けることなくコアの磁気飽和の問題を解消することができる。このような比透磁率を持つ複合材料でリアクトルを構成すれば、例えば自動車の昇圧回路用のリアクトルとして好適に利用できる。この比透磁率の上限としては、25、20、15、12が挙げられる。
【0071】
<飽和磁束密度Bs>
本発明方法で得られる複合材料の飽和磁束密度Bsは0.6T以上であることが好ましい。このような飽和磁束密度の複合材料とすることで、従来より磁性材料として用いられているフェライトよりも高い飽和磁束密度とすることができ、この複合材料をリアクトルなどの磁性素子として用いた場合、磁気飽和を抑制することができる。より好ましい飽和磁束密度の値は0.8T以上、さらに好ましい値は1.0T以上、特に好ましい値は1.2T以上である。このような好ましい値の複合材料を用いてリアクトルを構成すれば、より大電流用途のリアクトルを構成することができる。
【0072】
<磁束密度B100
本発明方法で得られる複合材料に7960A/m(100エルステッド(Oe))の磁界を印加したときの磁束密度B100は0.05T以上であることが望ましい。このような磁性材料でコアを形成すると、リアクトルなどの透磁率を、ギャップを用いることなく目的の値とすることができる。より好ましい磁束密度B100の値は0.07T以上、さらに好ましい値は0.10T以上、特に好ましい値は0.11T以上である。
【0073】
<内包部材>
内包部材は、磁界を発生させる部材であり、必要に応じて軟磁性複合材料と共に一体化される。内包部材の代表例としては、インダクタ(コイル)が挙げられる。コイルは、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した巻線により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線の断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。コイルと軟磁性複合材料が一体化された磁性素子としては、チョークコイル、トランス、バーアンテナ、リアクトルなどが挙げられる。
【0074】
とりわけ、磁性素子をリアクトルとする場合、コアの形態はポットコアが好ましい。ポットコアMは、例えば図3に示すように、コイルCの内側に配される内側コアMiと、コイルCの外側に配される外側コアMoと、コイルCの両端側の各々に配される端部コアMeとを有する。ポットコアMとすれば、コイルCがコアM内に収納された状態のリアクトルRとなるため、コイルCの励磁に伴なう振動による騒音を効果的に抑制したり、コイルCを機械的に保護したりすることができる。特に、軟磁性複合材料からなるコアMとコイルCとが一体化されているため、この騒音抑制効果に加えてコアMを介してのコイルCの放熱も効果的に行うことができる。
【0075】
<フィラー>
フィラーは、主として、軟磁性粉末と樹脂とを混合した際に、この混合材料の粘度を調整し、軟磁性粉末が沈殿することを抑制するために用いられる。
【0076】
フィラーの材質としては、SiO2、Al2O3、Fe2O3、BN、AlN、ZnO、TiO2などが挙げられる。中でも、Al2O3、BN、AlNなどの高熱伝導率材料をフィラーに用いた場合、軟磁性複合材料の放熱特性を改善することができる。SiO2、BNなどの熱膨張率の低い材料をフィラーに用いた場合、軟磁性複合材料の熱膨張を抑制することができる。
【0077】
フィラーの平均粒径は、軟磁性粉末の平均粒径の1/5以下であることが好ましい。このように軟磁性粉末に比べて微細なフィラーを用いることで、フィラーの粒子を軟磁性粉末の周囲に分散して行き渡らせることができる。それによって、軟磁性粉末同士が接触する確率を低減し、軟磁性複合材料の透磁率を低く抑えると共に、磁気的・機械的特性を均質化することができる。
【0078】
フィラーの形状は、球状、非球状(板状、針状、棒状など)などの各種形状の中実粒子が挙げられる。その他、中空粒子も利用できる。中空のフィラーであれば、中実のフィラーを用いた場合に比べて軟磁性複合材料を軽量化することができる。市販されている中空フィラーとしては、SiO2などが挙げられる。
【0079】
フィラーの含有量は、主として樹脂の粘度などに合わせて調整すればよいが、例えば軟磁性粉末と樹脂とフィラーとの全体積を100%とした場合、フィラーを5〜30体積%程度含有すればよい。
【0080】
<インシュレータ>
軟磁性複合材料からなるコアとコイルとが一体化された磁性素子とする場合、コアとコイルとの間には、インシュレータを介在させてもよい。このインシュレータを用いることで、仮にコイルを形成する巻線の絶縁被覆が損傷しても、コイルとコアとの絶縁を確保することができる。このインシュレータを設けるには、例えば予め絶縁材料からなる薄い円筒体をコイルの内側や外側に配置しておき、そのコイルと円筒体とを一体にして型内に配置し、混合材料を充填・硬化させればよい。あるいは、絶縁性の樹脂で固めたコイルを型内に配置し、混合材料を充填・硬化させてもよい。
【実施例1】
【0081】
表1に示す軟磁性粉末と樹脂を用意し、これらの原料から軟磁性複合材料を作製した。製造工程の概略は、粉末の準備→粉末と樹脂の混合→混合材料の注型→樹脂の硬化→成形体の取出である。
【0082】
まず、所定の軟磁性粉末を用意する。ここでは、純鉄、Fe-6.5質量%Si合金、Fe-3.0質量%Si合金の3種類の粉末を用意した。いずれも実質的に金属粉末からなる粉末であり、絶縁被覆は形成されていない。このうち、Fe-6.5質量%Si合金の粉末については、ガスアトマイズ法により生成されたものと、水アトマイズ法により生成されたものを用意した。表1中の「ガス」はガスアトマイズ法で生成された粉末を、「水」は水アトマイズ法で生成された粉末を示している。また、いずれの粉末もJIS Z 8801(1994)の目開き150μm(ASTM ♯100)の網ふるいで粗粒を除去してから用いた。表1中の「径比」は最大径/円相当径で表される比率のことである。円相当径は、軟磁性粉末の粒子の輪郭形状を顕微鏡写真より特定し、その輪郭で囲まれる面積と同一の面積を有する円の径とし、最大径は、前記輪郭形状における粒子の最大長さとする。ここでは、得られた成形体の断面を光学顕微鏡で観察し、複数視野の観察画像を二値化処理して1000個以上の軟磁性粉末粒子を抽出する。そして、各粉末粒子の最大径/円相当径を求め、得られた各粒子の演算値の平均を径比とした。なお、本例の軟磁性複合材料は、後述するように低圧で成形するため、原料粉末の最大径/円相当径と成形体における軟磁性粉末の最大径/円相当径とは実質的に同一である。さらに、表1中の「密度比」は(見掛密度/真密度)×100で表される。
【0083】
軟磁性粉末の見掛密度は、JIS Z 2504 「金属粉-見掛密度試験方法」に基づいて求めた。表中の「平均粒径」は、日機装株式会社製ナノトラック粒度分布測定装置UPA-EX150を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布ヒストグラム中、粒径の小さい方から質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径とした。
【0084】
さらに、軟磁性粉末は、いずれもシランカップリング処理済みのものを用いた。シランカップリング処理は、軟磁性粉末に対し0.2質量%のシランカップリング剤を添加して攪拌することで行った。シランカップリング剤で軟磁性粉末を表面処理することで、樹脂に対する軟磁性粉末の分散性を向上させることができる。
【0085】
そして、表1中のサンプル1にはフィラーとして平均粒径1μmのシリカ(SiO2)を、軟磁性粉末、樹脂およびフィラーの合計を100体積%として、20体積%含有し、サンプル2には同シリカを10体積%含有した。他のサンプルにはフィラーは含まれていない。
【0086】
このような軟磁性粉末に樹脂を混合する。ここでは、次の材料を配合したエポキシ樹脂組成物を用いた。
主剤:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製JER828)
硬化剤:酸無水物系硬化剤(ジャパンエポキシレジン株式会社製YH300)
硬化促進剤:イミダゾール系硬化促進剤(2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール:ジャパンエポキシレジン株式会社製EMI24)
【0087】
主剤:硬化剤:硬化促進剤の配合比は、100重量部:90重量部:0.5重量部である。このような樹脂の30℃における粘度を34Pa・sとして軟磁性粉末(必要に応じてフィラーも添加した軟磁性粉末)と混合する。この粘度の測定には、東機産業株式会社製B型粘度計BHを用いて回転速度10rpmで計測した。
【0088】
上記の混合材料を型内に充填して硬化する。より具体的には、図4に示すように、樹脂容器4に軟磁性粉末10と所定の粘度の樹脂20との混合材料を用意しておく。この樹脂容器4は、N2ガスを容器4内に充填することで、内部の混合材料を配管5を介して型3側に供給することができる。型3の底部側に樹脂の供給口31があり、型の上面側には真空ポンプ6に接続される排気口32がある。この真空ポンプ6は型3内を脱気する。そして、N2ガス圧を制御することで、型3内に所定の圧力で混合材料を充填することができる。ここでは、混合材料の充填圧力を1MPaとした。
【0089】
そして、この型3の外側に設けられたジャケット(図示せず)で型内の樹脂を120℃に加熱し、樹脂を硬化させた。樹脂の硬化後、得られた成形体を型から取り出して直径40mm、高さ20mmの軟磁性複合材料を得た。
【0090】
得られた複合材料を外径34mm、内径20mm、厚さ5mmのリング状に切削加工した。このリング状部材を試料とし、理研電子株式会社製BHカーブトレーサ「BHS-40S10K」を用いて、飽和磁束密度Bsと比透磁率μおよび試料に100エルステッド(Oe)の磁界を印加したときの磁束密度を測定した。
【0091】
飽和磁束密度は、試料に対して電磁石で10000(Oe)の磁界を印加し、十分に磁気飽和させた試料の磁束密度をBsとして求めた。
【0092】
B100は、試料に、一次側300巻き、二次側20巻きの巻線を施し、B-H初磁化曲線をH=0〜100(Oe)の範囲で測定し、100(Oe)の印加磁界における試料の磁束密度を読み取り、B100とした。また、このB-H初磁化曲線のB/Hの最大値を比透磁率μとした。
【0093】
これらの測定結果を併せて表1に示す。また、フィラーの充填量の変化に伴う複合材料の磁気特性を見るため、表1のサンプル1〜3の飽和磁束密度Bsと比透磁率μの関係を図5のグラフに示した。
【0094】
【表1】

【0095】
この表1から明らかなように、ガスアトマイズ法で生成された軟磁性粉末を用いたサンプル1〜4および6は、比透磁率が11.0以下と低く、飽和磁束密度が0.9T以上の特性を備えている。これに対して、水アトマイズ法で生成された軟磁性粉末を用いたサンプル5は、比透磁率が5未満で、飽和磁束密度が0.6T未満であることがわかる。また、表1と図5から明らかなように、フィラーの充填量が多くなると、軟磁性粉末の充填率が低下し、比透磁率、飽和磁束密度が共に低下する傾向にあることがわかる。
【0096】
さらに、サンプル2について複合材料の断面を光学顕微鏡にて観察した。その顕微鏡写真を図6に示す。この写真で白く見える粒子が軟磁性粉末であり、その背景の黒い部分が樹脂である。この写真から明らかなように、成形後も軟磁性粉末同士が圧接されて変形することがなく、粉末形状はほぼ球形に保持されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明複合材料の製造方法は、リアクトル、より具体的にはハイブリッド自動車等の昇圧回路用や発電・変電設備用のリアクトルの製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 混合容器 2 攪拌器 3 型 4 樹脂容器 5 配管 6 真空ポンプ
10 軟磁性粉末 20 樹脂 31 供給口 32 排気口
R リアクトル M コア C コイル
Mi 内側コア Mo 外側コア Me 端部コア
m U字状コア片 m I字状コア片 s スペーサ
P 軟磁性粉末粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(見掛密度/真密度)×100で表される密度比が45%超70%以下の軟磁性粉末を準備する準備工程と、
この軟磁性粉末と樹脂とを混合する工程であって、この混合時の樹脂温度における樹脂の粘度を100mPa・s〜100Pa・sに調整して混合を行う混合工程と、
この混合材料を大気圧以上1MPa以下の充填圧力にて型に充填し、樹脂を硬化させて成形体を得る成形工程とを含み、
前記軟磁性粉末の充填率を30体積%以上65体積%以下にすることを特徴とする軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程は、軟磁性粉末として、最大径/円相当径が1〜1.3の球状粉末を用いることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
ただし、円相当径は、軟磁性粉末の粒子の輪郭形状を特定し、その輪郭で囲まれる面積と同一の面積を有する円の径であり、最大径は、前記輪郭形状における粒子の最大長さである。
【請求項3】
前記球状粉末が、ガスアトマイズ法で得られた粉末であることを特徴とする請求項2に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記準備工程は、軟磁性粉末として、所定の粗粒を除去する分級工程を経た粉末を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記軟磁性粉末は、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被覆がない粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記軟磁性粉末は、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被覆を備える粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程において、さらに非導電性のフィラーを混合することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂がエポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水物を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂がエポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂の硬化剤として潜在性硬化剤を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の軟磁性複合材料の製造方法。
【請求項10】
(見掛密度/真密度)×100で表される密度比が45%超70%以下の軟磁性粉末を準備する準備工程と、
この軟磁性粉末と樹脂とを混合する工程であって、この混合時の樹脂温度における樹脂の粘度を100mPa・s〜100Pa・sに調整して混合を行う混合工程と、
予め型内に内包部材を配置する部材配置工程と、
前記軟磁性粉末と樹脂との混合材料を大気圧以上1MPa以下の充填圧力にて内包部材が配置された型に充填し、樹脂を硬化させて成形体を得る成形工程とを含み、
前記軟磁性粉末の充填率を30体積%以上65体積%以下にすることを特徴とする磁性素子の製造方法。
【請求項11】
前記内包部材がコイルであることを特徴とする請求項10に記載の磁性素子の製造方法。
【請求項12】
前記成形体が、軟磁性複合材料からなるコアと、このコアに一体化して内包されるコイルとを備えるリアクトルであることを特徴とする請求項11に記載の磁性素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−199580(P2012−199580A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128622(P2012−128622)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【分割の表示】特願2011−123918(P2011−123918)の分割
【原出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】