説明

軟部肉腫治療剤

本発明は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(特に化合物A)を有効成分とする軟部肉腫(特に滑膜肉腫)治療剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤を有効成分として含有する、軟部肉腫治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
一般的に、抗腫瘍活性を有する物質又は化合物における報告があり、その報告がインビトロにおける結果のみに基づく場合、係る報告された結果はインビボにおける結果を直接的には示唆しないことが指摘されている。すなわち、インビトロにおいて抗腫瘍活性を示す物質が必ずしもインビボにおいて抗腫瘍活性を示すとは限らず、インビトロにおいて抗腫瘍活性を示す物質を直接抗腫瘍剤として適用することは困難である。
【0003】
例えば、式(I)
【0004】
【化1】

【0005】
で表される化合物(以下、化合物Aとも称する;配列番号1)、特に式(II)
【0006】
【化2】

【0007】
の立体異性体(以下、化合物B又はFK228とも称する)は、ヒストンデアセチラーゼを選択的に阻害して強力な抗腫瘍活性を誘導し、更にこの物質は処理した細胞のヒストンの高アセチル化を引き起こし、そのために各種遺伝子の転写調節活性、細胞周期阻害活性及びアポトーシスを誘導する(例えば、特公平7-64872号公報(対応米国特許番号4977138)、Experimental Cell Research, US (1998), vol. 241, pp. 126-133)。しかしながら、インビトロの結果が直接インビボで適用できるのか否か、どの腫瘍においてもインビボで有用な効果を示すことができるのか否かといった解決すべき問題が多く残されているのが現状である。本発明の軟部肉腫(特に滑膜肉腫)に対し、インビトロ及びインビボにおいて抗腫瘍活性を実証した報告はない。
【0008】
ヒストンデアセチラーゼは、活性中心にZnを配位したメタロ脱アセチル化酵素である(M.S. Finnin et al., Nature, 401, 188-193 (1999))。この酵素は、種々のアセチル化ヒストンの、DNAへの親和性を変化させると考えられている。これによってもたらされる直接的な生物学的現象は、クロマチン構造における変化である。クロマチン構造の最小単位は、ヒストン8量体(H2A、H2B、H3及びH4、各2分子、コアヒストン)に146塩基対のDNAが1.8回左回りに巻きついたヌクレオソームである。コアヒストンは、各ヒストン蛋白質のN末端の正電荷とDNAの相互作用によりヌクレオソーム構造を安定化している。ヒストンのアセチル化は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼの関与するアセチル化反応とヒストンデアセチラーゼの関与する脱アセチル化反応間の平衡状態により調節されている。ヒストンアセチル化は、ヒストン蛋白質のN末端の進化的に良く保存されたリジン残基で起こり、これにより、コアヒストン蛋白質がN末端で電荷を失い、DNAとの相互作用が減弱され、ヌクレオソームの構造が不安定になると考えられている。従ってヒストンの脱アセチル化は、この逆、すなわちヌクレオソーム構造の安定化に向かうと考えられている。しかしながら、アセチル化がどの程度クロマチン構造を変化させるのか、またそのことが2次的に誘導される転写調節等とどのように関与しているのかについては多くの点で不明である。
【0009】
滑膜肉腫の遺伝的特徴として、滑膜肉腫細胞全体の約97%で、染色体転座t(18,X)により第18番染色体上に存在するSYT遺伝子及びX染色体上に存在するSSX遺伝子が融合してSYT-SSXと呼ばれるキメラ蛋白質が発現しており、この蛋白質のN末端領域を構成するSYT蛋白質がp300及びBRMといったクロマチンリモデリング関連蛋白質と結合して複合体を形成することが報告されている(Josiane E. Eid et al., Cell, 102, 839-848 (2000))。滑膜肉腫は男女の四肢及び体幹部に発生する軟部肉腫の一種で、その主な治療法としては手術による腫瘍の切除及び術前術後の化学療法が挙げられる。しかしながら、化学療法は予後不良と関連し、5年生存率は約60〜70%である。従って有効な治療法は未だ確立されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の開示
本発明の目的は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、特に化合物A、化合物B、その還元体、代謝産物、誘導体、プロドラッグ、及び強力なヒストンデアセチラーゼ阻害活性を有することが知られている他の類似体、又は医薬的に許容されるその塩を有効成分として含有する、軟部肉腫(特に滑膜肉腫)治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題を解決するために、滑膜肉腫においては、上述のSYT-SSX蛋白質、クロマチンリモデリング関連蛋白質及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)関連蛋白質の複合体の形成によりヒストンデアセチラーゼ活性が亢進し、このことが滑膜肉腫の癌化、発生及び/又は増殖に影響を与えていると考え、SYT-SSX蛋白質を発現する種々の滑膜肉腫細胞株(HS-SY-2、YaFuSS、SYO-1)におけるヒストンデアセチラーゼ阻害の効果の鋭意研究を行った。その結果、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤である化合物B及びトリコスタチンAが、インビトロ及びインビボにおいて、SYT-SSX蛋白質発現細胞に対して強力な抗腫瘍活性を示すことを見出した。更に、SYT-SSX蛋白質非発現の滑膜肉腫細胞株(HTB93)に対しても強力な抗腫瘍活性を示すことを見出した。従って、本発明は以下のとおりである。
(1)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤を有効成分として含有する軟部肉腫治療剤。
(2)軟部肉腫が滑膜肉腫である、上記(1)記載の治療剤。
(3)軟部肉腫又は滑膜肉腫がSYT-SSX蛋白質発現肉腫である、上記(1)又は(2)記載の治療剤。
(4)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が化合物A又は化合物B、その還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、上記(1)記載の治療剤。
(5)軟部肉腫が滑膜肉腫である、上記(4)記載の治療剤。
(6)滑膜肉腫がSYT-SSX蛋白質発現肉腫である、上記(5)記載の治療剤。
(7)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤及び医薬的に許容される担体を含有する、軟部肉腫治療用医薬組成物。
(8)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が化合物A又は化合物B、その還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、上記(7)記載の医薬組成物。
(9)有効量のヒストンデアセチラーゼ阻害剤を投与することを含む、軟部肉腫、滑膜肉腫、又はSYT-SSX蛋白質発現肉腫治療方法。
(10)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が化合物A又は化合物B、その還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、上記(9)記載の方法。
(11)軟部肉腫治療剤の製造のための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用。
(12)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が化合物A又は化合物B、その還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、上記(11)記載の使用。
(13)上記(7)記載の医薬組成物、及び当該医薬組成物を軟部肉腫の治療に使用できること又は使用すべきであることを記載した記載物を含む、商業用パッケージ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明において「HDAC阻害剤」又は「HDACi」としてもまた引用される「ヒストンデアセチラーゼ阻害剤」とは、ヒストンデアセチラーゼの活性部位に基質と競合して結合する化合物、及び/又はヒストンデアセチラーゼの酵素活性を減少又は阻害する化合物であり、ヒストンデアセチラーゼ阻害活性を有することが報告された化合物(合成かもしくは天然か)、又は将来報告されるであろうあらゆる化合物を含む。具体的には、上述の化合物A、その塩、及びその誘導体(例えば、化合物Aをアセチル化したもの、WO02/06307中に記載されているS-S結合を還元したチオール体(還元体)、それらの類似体(例えば、米国特許番号6403555に記載されている化合物等)、それらのプロドラッグ等)が挙げられる。加えて、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、スベロイルアニリド(suberoylanilide)ヒドロキサム酸(SAHA)、MS-275、環状ヒドロキサム酸含有ペプチド、アピシジン(Apicidin)、トラポキシン(Trapoxin)等もヒストンデアセチラーゼ阻害活性を有することが報告されている化合物である。
【0013】
一方、化合物A(及び他のHDACi)は、不斉炭素原子又は二重結合に基づく、光学活性体、幾何異性体等といった立体異性体(例えば、化合物B)を有し得るが、これら全ての異性体及びそれらの混合物もまた、本発明において用いられるヒストンデアセチラーゼ阻害剤の範囲に包含される。
【0014】
本明細書中、特に明記されない限り、単に化合物Aという場合には、立体異性に関わらず、式(II)により表される化合物Bを含む化合物の群を意味する。
【0015】
さらに、化合物A、化合物B、及びそれらの塩といったHDACiの溶媒和化合物(例えば、包接化合物(例、水和物等))、無水型、他の結晶多形及び医薬的に許容されるそれらの塩もまた本発明の範囲に包含される。
【0016】
化合物A又はその塩は公知であり、入手可能な物質である。例えば、化合物Aの立体異性体の一つである化合物Bは、化合物Bを産生し得るクロモバクテリウム属に属する菌株を、好気性条件下で培養し、その培養ブロスから該物質を回収することにより得ることができる。化合物Bを産生し得るクロモバクテリウム属に属する菌株としては、例えば、クロモバクテリウム・ビオラセウムWB968(FERM BP-1968)が挙げられる。より具体的には、化合物Bは、特公平7-64872号公報(対応米国特許番号4977138)に記載した様に化合物B産生菌株から得ることができる。化合物Bは、より容易に入手できるという点で、化合物Bを産生し得るクロモバクテリウム属に属する菌株から回収するのが好ましい。さらなる精製工程が不要又は工程数が減少し得るという点で、合成的な、又は半合成的な化合物Bもまた有利である。同様に、化合物B以外の化合物Aもまた、従来公知の方法により半合成又は全合成して得ることができる。より具体的には、Khan W. Li等により報告された方法(J. Am. Chem. Soc., Vol. 118, 7237-7238(1996))に従って製造することができる。
【0017】
化合物A又は化合物Bの塩といったHDACiの医薬的に許容される塩としては、無機塩基との塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩)、有機塩基との塩(例えば、トリエチルアミン塩、ジイソプロピルエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩等のような有機アミン塩)、無機酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素塩、硫酸塩、リン酸塩等)、有機カルボン酸又はスルホン酸付加塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等)、塩基性又は酸性アミノ酸(例えば、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との塩等といった、塩基との塩又は酸付加塩が挙げられる。
【0018】
本発明において、インビボ及びインビトロとは、当分野で一般に用いられている意味どおりであり、すなわち、「インビボ」とは対象生体の機能及び反応が生体内で発現される状態を意味し、「インビトロ」とはそのような機能及び反応が試験管内(組織培養系、細胞培養系、無細胞系等)で発現される状態を意味する。
【0019】
軟部肉腫としては、悪性繊維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫、繊維肉腫、悪性神経鞘腫、血管肉腫、明細胞肉腫等が挙げられる。
【0020】
さらに、SYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫の遺伝子診断により、治療前に、本発明のヒストンデアセチラーゼ阻害剤が有効性を示す患者を選択することも可能となる。
【0021】
本発明の軟部肉腫治療剤は、有効成分としてヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含有した固形剤、半固形剤又は液体製剤(錠剤、ペレット剤、トローチ剤、カプセル剤、坐剤、クリーム剤、軟膏剤、エアゾール剤、散剤、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤、注射液等)といった医薬製剤の形態で使用でき、経直腸、鼻内、肺動脈、膣内、外用(局所)、経口又は非経口(皮下、内移植、静脈内及び筋肉内を含む)投与に適している。
【0022】
本発明の軟部肉腫治療剤はまた、賦形剤(例、スクロース、デンプン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等)、縮合剤(例、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、スクロース、デンプン等)、崩壊剤(例、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等)、滑沢剤(例、ステアリン酸マグネシウム、エアロシル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等)、矯味剤(例、クエン酸、メントール、グリシン、オレンジ粉末等)、保存剤(例、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等)、安定化剤(クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等)、懸濁剤(例、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等)、分散剤(例、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、希釈剤(例、水等)、基材物質(例、カカオバター、ポリエチレングリコール、白色ワセリン等)などといった、薬剤を製造するために慣用されている種々の有機又は無機担体を用いる常法によっても製造することができる。
【0023】
本発明の軟部肉腫治療剤の投与方法は特に限定されないが、静脈内、筋肉内又は経口投与が好ましい。さらに、化合物A又は化合物Bもしくは医薬的に許容されるその塩といったHDACiを有効成分としてヒトに使用する場合の治療上の有効量は、処置すべき個々の患者の年齢及び状態、並びに軟部肉腫の種類に依存して変化するが、静脈内投与の場合、化合物A及び化合物Bの1日の投与量は、ヒト体表面積1m2あたりの化合物Aの量で通常0.1〜100mg、好ましくは1〜50mg、さらに好ましくは5〜30mgであって、これを連続点滴投与することで肉腫を処置する。
【0024】
更に、本発明のHDACiは、単独で、或いは手術、放射線治療及び/又は化学療法といった追加の抗腫瘍治療と共に投与され得る。化学療法剤の例としては、DNAクロスリンカー、アルキル化抗腫瘍剤、代謝拮抗抗腫瘍剤、及びタキサンが挙げられる。好ましい化学療法剤としては、シプスラチン、5-フルオロウラシル、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
実施例
本発明を以下の実施例に言及することにより特に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されない。
【0026】
[実施例1]
SYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫細胞株HS-SY-2(国立福山病院病理部、園部宏先生が樹立したものを譲渡いただいた)、YaFuSS(京都大学再生医科学研究所組織再生応用分野、戸口田淳也先生が樹立したものを譲渡いただいた)及びSYO-1(岡山大学医学部整形学科にて川井章先生(現東京国立癌センター整形外科)が樹立したものを譲渡いただいた)を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンを含むDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)中、37℃、5%CO2環境下で培養した。これらの細胞を播種して24時間培養し、0.25%(w/v)のトリプシンで剥離し、回収した。細胞増殖能には、MMT分析キット(Colorimetric (MTT) assay for cell survival and proliferation kit of CHEMICON International, Inc.)を使用した。各細胞株を96穴マイクロタイタープレート中に103細胞/ウェルで播種し、24時間培養後、0.1 nM、0.2 nM、1 nM、50 nM及び100 nMの濃度分布でのFK228の0.1%(v/v)希釈エタノール溶液並びにコントロールとしての0.1%(v/v)エタノール(図1中のEt-OH 0.1%)に曝露させた。24時間、48時間及び96時間曝露させた後、各培養液を570nmフィルターに通して吸光度を測定した。全てn=4で行われた。
結果を図1、図2及び図3に示す。FK228はインビトロにおいて、軟部肉腫であるSYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫において抗腫瘍効果を示した。
【0027】
[実施例2]
同系交配のオス(BALB/C/nu/nu)ヌードマウスは、日本チャールズリバー社によって供給された。動物は全て、岡山大学自然生命科学研究支援センター動物資源部門動物実験指針によって飼育し、取り扱われた。FK228は、SYO-1細胞株の各105個の皮下移植から10日後に投与した。腫瘍体積は、互いに垂直な二つの直径をノギスを用いて計測し、次の式(腫瘍体積=1/6π[(d1×d2)3/2](式中、d1及びd2は二つの垂直な直径))により推定された。投与量は20匹の動物のそれぞれに0 mg/kg、1.6 mg/kg又は3.2 mg/kgで希釈FK228溶液(50 μl、10% HCO60生理食塩水希釈液)を静脈内投与し、コントロールとして腫瘍移植されていない7匹の動物に3.2 mg/kgの希釈FK228溶液を静脈内注射することで評価した。投与は4日毎に3回行われ、腫瘍体積もまた4日毎に、同様に投与完了後も測定した。
結果を図4に示す。図中、測定日は皮下移植後の日数で示される。FK228はインビボにおいて、軟部肉腫である、SYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫において抗腫瘍効果を示した。
【0028】
[実施例3]
SYT-SSX蛋白質非発現滑膜肉腫細胞株HTB93(ATCC:American Type Culture Collectionから購入した)を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンを含むDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)中、37℃、5%CO2環境下で培養した。これらの細胞を播種して24時間培養し、0.25%(w/v)のトリプシンで剥離し、回収した。細胞増殖能には、MMT分析キット(Colorimetric (MTT) assay for cell survival and proliferation kit of CHEMICON International, Inc.)を使用した。各細胞株を96穴マイクロタイタープレート中に2×103細胞/ウェルで播種し、24時間培養後、0.001 nM、0.01 nM、0.1 nM、0.5 nM、1 nM、5 nM、10 nM、50 nM及び100 nMの濃度分布でのFK228の0.1%(v/v)希釈エタノール溶液、コントロールとして0.1%(v/v)エタノール並びにブランクとして培地のみ、に曝露させた。24時間、48時間、72時間及び96時間曝露させた後、各培養液を570nmフィルターに通して吸光度を測定した。全てn=4で行われた。
結果は、FK228添加サンプル、コントロール及びブランクの平均値をとり、FK228添加サンプル又はコントロールの値からブランクの値を減算して得られた数値を用いて、コントロールの数値に対するFK228添加サンプルの数値の割合に相当するパーセントを生存率(%)とした。結果を図5に示す。FK228はインビトロにおいて、軟部肉腫の一種である、SYT-SSX蛋白質非発現滑膜肉腫においても抗腫瘍効果を示した。
【配列表フリーテキスト】
【0029】
配列表フリーテキスト
配列番号1:Xaaは、式NH2C(CHCH3)COOHによって表されるアミノ酸である。
式COOHCH2CH(CHCHC2H4SH)OH中、カルボキシル基は第1のアミノ酸Valのアミノ基と結合し、ヒドロキル基は第4のアミノ酸Valのカルボキシル基と結合し、SH基は第2のアミノ酸CysのSH基にジスルフィド結合を介して結合している。
【産業上の利用可能性】
【0030】
産業上の利用可能性
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(特にFK228)を有効成分として含む、本発明の軟部肉種治療剤は、インビトロだけでなくインビボにおいても優れた抗腫瘍活性を有する。従って、臨床的に使用され得、特に軟部肉腫の治療に好適に使用され得る。
【0031】
本発明は引用と共にその好ましい実施態様を開示及び記載している一方で、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形式における種々の変化及び種々の詳細がその中に作られ得ることは、当業者によって理解されるだろう。本明細書中で特定され又は参照される特許及び特許出願、並びに他の刊行物は、この参照によりその全体が組み込まれる。
【0032】
本出願は日本国における特願2003-183643号を基礎にしており、その内容はこの参照により開示に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、インビトロにおける、SYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫細胞株の一つであるHS-SY-2滑膜肉腫細胞株に対するFK228の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【図2】図2は、インビトロにおける、SYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫細胞株の一つであるYaFuSS滑膜肉腫細胞株に対するFK228の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【図3】図3は、インビトロにおける、SYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫細胞株の一つであるSYO-1滑膜肉腫細胞株に対するFK228の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【図4】図4は、インビボにおける、SYT-SSX蛋白質発現滑膜肉腫細胞株の一つであるSYO-1滑膜肉腫細胞株に対するFK228の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【図5】図5は、インビトロにおける、SYT-SSX蛋白質非発現滑膜肉腫細胞株の一つであるHTB93滑膜肉腫細胞株に対するFK228の抗腫瘍活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤を有効成分として含有する軟部肉腫治療剤。
【請求項2】
軟部肉腫が滑膜肉腫である、請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
滑膜肉腫がSYT-SS蛋白質発現肉腫である、請求項2記載の治療剤。
【請求項4】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、式(I)
【化1】



で表される化合物又はその還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、請求項1記載の治療剤。
【請求項5】
軟部肉腫が滑膜肉腫である、請求項4記載の治療剤。
【請求項6】
滑膜肉腫がSYT-SSX蛋白質発現肉腫である、請求項5記載の治療剤。
【請求項7】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤及び医薬的に許容される担体を含有してなる、軟部肉腫治療用医薬組成物。
【請求項8】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、式(I)
【化2】



で表される化合物又はその還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
有効量のヒストンデアセチラーゼ阻害剤を投与することを含む、軟部肉腫の治療方法。
【請求項10】
軟部肉腫が滑膜肉腫である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
滑膜肉腫がSYT-SSX蛋白質発現肉腫である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
軟部肉腫が悪性繊維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫、繊維肉腫、悪性神経鞘腫、血管肉腫及び明細胞肉腫からなる群から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項13】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、式(I)
【化3】



で表される化合物又はその還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、請求項9記載の方法。
【請求項14】
軟部肉腫が滑膜肉腫である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
滑膜肉腫がSYT-SSX蛋白質発現肉腫である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
軟部肉腫が悪性繊維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫、繊維肉腫、悪性神経鞘腫、血管肉腫及び明細胞肉腫からなる群から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がSAHA又はトリコスタチンAである、請求項9記載の方法。
【請求項18】
軟部肉腫が滑膜肉腫である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
滑膜肉腫がSYT-SSX蛋白質発現肉腫である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
軟部肉腫が悪性繊維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫、繊維肉腫、悪性神経鞘腫、血管肉腫及び明細胞肉腫からなる群から選択される、請求項17記載の方法。
【請求項21】
軟部肉腫治療剤の製造のための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用。
【請求項22】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、式(I)
【化4】



で表される化合物又はその還元体、それらの類似体、それらのプロドラッグもしくは医薬的に許容されるそれらの塩である、請求項21記載の使用。
【請求項23】
請求項7記載の医薬組成物、及び上記医薬組成物を軟部肉腫の治療に使用できること又は使用すべきであることを記載した記載物を含む、商業用パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−521259(P2007−521259A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516853(P2006−516853)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009371
【国際公開番号】WO2005/000332
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】