説明

転がり軸受回転異常検出器

【課題】転がり軸受の初期異常を、転がり軸受を駆動しながら、非接触で求めることを可能にする。
【解決手段】転がり軸受を形成するコロまたは玉1と保持器10によって確保されるコロまたは玉1間の溝2に着目し、この磁気抵抗の差を求めることで、コロまたは玉1の位置または速度を検知し、この情報を解析することで転がり軸受の異常を予知する。磁気を用いた計測方式のため、水蒸気とか油の浮遊するような悪環境でも、高分解能の位置検出が可能となる。この結果、大きなトラブルが発生する前に、転がり軸受等の交換が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコロまたは玉(1)と溝(2)との磁気抵抗変化に着目した、転がり軸受(13)の回転異常検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受(13)は、自動車・飛行機・原子力とかファクトリーオートメーション等の産業分野において欠かせない機械要素である。
【0003】
過負荷とか、潤滑油の不足とか異常な温度上昇によって、転がり軸受(13)の転動部に剥離等の異常が発生することが有った。
これらの異常は初期に発見されないと、機械全体の破損に繋がり、重大な事故となる可能性がある。
【0004】
しかし、これ等のコロまたは玉(1)は自転しながら公転しており、また潤滑油等が付着しているため傷等の発見が困難であり、従来は動作時に発生する異常音を捉まえることで転がり軸受(13)の異常予知を行ってきた。
【特許文献1】特許公開2007−78707 特許公開平05−196478 特許公開昭61−137001
【非特許文献1】「旭化成エレトロニクス/ホームページ/磁気センサ/ホール素子」 http://www.asahi−kasei.co.jp/ake/jp/product/hall/index.html 「リベックス/ホームページ/ラインレゾルバ」 http://www.levex.co.jp
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から用いられてきた転がり軸受(13)の異常音から損傷状況を把握する方法では、当該の転がり軸受(13)以外の場所から発生した異常音との分離が難しく転がり軸受(13)の異常を正確に捉まえることが出来なかった。
【0006】
転がり軸受(13)の回転状態を、光学式回転位置検出器を用いて計測を試みても振動、油等の存在する悪環境では計測が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
転がり軸受(13)の回転状態を潤滑油等の多い悪環境で計測するには、これ等に影響されない磁気の変化を捉えることが効果的であり、ここでは、コロまたは玉(1)と溝(2)によって生ずる磁気抵抗の差に着目した。
磁性体(1)と溝(2)の組合せで得られる被検出部に対し、外輪(12)または内輪(11)の内側面に平行してセンサヘッド(9)を配置する。
【0008】
センサヘッド(9)内には、円周方向に4個の磁気センサ(3)でブリッジ(4)を組み、このブリッジを4組用意し、このブリッジ(4)に平行して磁石(5)を配置し、コロまたは玉(1)と溝(2)で形成されるピッチ(P)に対し、この組合せはそれぞれ1/4ピッチ毎に配置し、1番目と3番目のブリッジ(4)にsinωtに相当する入力信号を入れ、2番目と4番目のブリッジ(4)に90°位相したcosωtに相当する入力信号を入れる。
【0009】
ブリッジの他の1対の頂角より出力信号(7)を取り出し、この出力信号(7)を三角関数の加法定理に従って加算して、加法出力信号(8)=K×sin(ωt−2×π×X/P)を形成し、入力信号(6)=sinωtとの位相差2×π×X/Pを計測することで、コロまたは玉(1)と溝(2)の位置および速度の異常な動きを検出することで、転がり軸受(13)の回転異常を求めることが出来る。
【0010】
図1に基本的な構成を示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明は重要な機械要素である転がり軸受(13)の初期異常を、転がり軸受(13)を駆動しながら、非接触で求めることを可能にするものである。
従来は、動作時の異音等を解析して転がり軸受(13)の異常を求めていたが、他の機構物を通して音が伝わることがあり、コロまたは玉(1)と溝(2)の位置および速度を正確に求めることが困難であった。
【0012】
磁気センサ(3)でブリッジ(4)を組むことで、センサヘッド(9)の温度変化に対して、温度ドリフトが少ない。
【0013】
コロまたは玉(1)は保持器(10)で位置が固定されているため、これらの位置を計測するには、保持器(10)を外した位置となる。
溝(2)の後は空隙のため、コロまたは玉(1)と溝(2)との磁気抵抗の差が明確となり、被測定物とセンサヘッド(9)内の軟質磁性材(14)との隙間を2mm以上離すことが出来る。
【発明の実施するための最良の形態】
【0014】
コロまたは玉(1)は保持器(10)で保持されながら公転と、自転運動を行っているため、センサヘッド(9)の形状は外輪(12)または内輪(11)に円周上に合わせた形となる。
磁気センサブリッジ(4)は、転がり軸受(13)の外部に配置させるため、軟質磁性材(ヨーク)を用いて磁気回路を形成させる。
【0015】
ここで得られた位置または速度情報を加工し、位置または速度信号の瞬時の変化から、コロまたは玉(1)または外輪(12)または内輪(11)のフレッティング磨耗等を推測することが可能となる。
【0016】
本発明により、転がり軸受(13)の異常が、駆動状態に於いても計測できるため、大きなトラブルが発生する前に転がり軸受(13)の交換等によって事故の予防を講じることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】コロまたは玉(1)と溝(2)および4個の磁石(5)と、4組の磁気センサのブリッジ(4)を4組円周方向に配置した回転異常検出器の概念図
【図2】コロまたは玉(1)と溝(2)および4個の磁石(5)と、4組の磁気センサのブリッジ(4)を4組円周方向に配置した回転異常検出器の正面図
【図3】コロまたは玉(1)と溝(2)および磁石(5)と、磁気センサのブリッジ(4)と軟質磁性材(ヨーク)を組み込んだ回転異常検出器の側面図
【図4】正面図4個の磁石(6)と、4組の磁気センサのブリッジ(4)を用いた位置検出器のブロック図
【図5】6個の磁石(6)と、6組の磁気センサのブリッジ(4)を用いた位置検出器のブロック図
【符号の説明】
【0018】
1 コロまたは玉(強磁性体)
2 溝(非磁性体)
3 磁気センサ(ホール素子、MR素子、MI素子他)
4 ブリッジ
5 磁石
6 入力信号
7 出力信号
8 加法出力信号
9 センサヘッド
10 保持器
11 内輪
12 外輪
13 転がり軸受
14 軟質磁性材(ヨーク)
【技術計算】
参考図:図4
近似式:
:A相 2次側磁気センサ出力電圧
:B相 2次側磁気センサ出力電圧
:C相 2次側磁気センサ出力電圧
:D相 2次側磁気センサ出力電圧
E=(e−e)−(e−e
=φ×(1+a×cos(2×π×X/P))×I×sinωt
−φ(1−a×cos(2×π×X/P))×I×sinωt
−φ×(1+a×sin(2×π×X/P))×Ixcosωt
+φ×(1−a×sin(2×π×X/P))×I×cosωt
=2×a×φ×I×(sinωt×cos(2×π×X/P)−cosωt×sin(2×π×X/P))
=K×sin(ωt−2×π×X/P)
E:出力電圧
e:各相出力電圧
φ:基準となる磁束
a:各極での磁束変化係数
X:コロまたは玉の移動量
I:1次側磁気センサ入力信号の振幅
ω:1次側磁気センサ入力信号電気角速度
P:コロまたは玉と溝で形成されるピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持器(10)と内輪(11)および外輪(12)によって保持された強磁性体のコロまたは玉(1)と、等ピッチに形成された溝(2)とで形成された転がり軸受(13)に於いて、転がり軸受(13)の側面に平行して円周方向に軟質磁性材(14)と磁石(5)を4個組み込み、転がり軸受(13)と磁石(5)の隙間に、磁気センサ(3)で形成したブリッジ(4)を、磁気センサ(3)位置に合わせて4組配置し、各ブリッジ(4)の1対の頂角に正弦波の入力信号(6)を印加し、各ブリッジ(4)の他の1対の頂角から出力信号(7)を取り出し、磁石(5)とブリッジ(4)で形成される組合せを、コロまたは玉(1)と溝(2)で構成される1ピッチ間に、0ピッチ、1/4ピッチ、1/2ピッチ、3/4ピッチに相当する位置に配置し、各ブリッジ(4)から得られた出力信号(7)を、三角関数の加法定理に従って電気的に加算して加法出力信号(8)とし、この加法出力信号(8)と入力信号(6)との位相差を検出し、この位相差を1ピッチの位置に換算して転がり軸受(13)の回転方向の位置と速度の変動を検出し、転がり軸受(13)の損傷を求めるように形成した転がり軸受(13)回転異常検出器。
【請求項2】
保持器(10)と内輪(11)および外輪(12)によって保持された強磁性体のコロまたは玉(1)と、等ピッチに形成された溝(2)とで形成された転がり軸受(13)に於いて、転がり軸受(13)の側面に平行して円周方向に軟質磁性材(14)と磁石(5)を6個組み込み、転がり軸受(13)と磁石(5)の隙間に、磁気センサ(3)で形成したブリッジ(4)を、磁気センサ(3)の位置に合わせて6組配置し、各ブリッジ(4)の1対の頂角に正弦波の入力信号(6)を印加し、各ブリッジ(4)の他の1対の頂角から出力信号(7)を取り出し、磁石(5)とブリッジ(4)で形成される組合せを、コロまたは玉(1)と溝(2)で構成される1ピッチ間に、0ピッチ、1/6ピッチ、1/3ピッチ、1/2ピッチ、2/3ピッチ、5/6ピッチに相当する位置に配置し、各ブリッジ(4)から得られた出力信号(7)を、三角関数の加法定理に従って電気的に加算して加法出力信号(8)とし、この加法出力信号(8)と入力信号(6)との位相差を検出し、この位相差を1ピッチの位置に換算して転がり軸受(13)の回転方向の位置と速度の変動を検出し、転がり軸受(13)の損傷を求めるように形成した転がり軸受(13)回転異常検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−216689(P2009−216689A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100841(P2008−100841)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(595112258)株式会社リベックス (16)
【Fターム(参考)】