説明

転がり軸受装置

【課題】潤滑油の温度が変化しても潤滑油吐出量を一定に制御することができる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】温度センサ8は、潤滑油タンク2内およびポンプ4内および潤滑油ノズル3内の少なくとも一つの潤滑油の温度を検知するものであり、ポンプ駆動部5は、温度センサ8の検知結果に基づいてポンプ4を制御し、潤滑油吐出量を増減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑機能を備えた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転がり軸受装置として、従来、固定側軌道部材、回転側軌道部材および両軌道部材の間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、潤滑油を貯留する潤滑油タンクと、転がり軸受の両軌道部材間の環状空間内で開口する潤滑油ノズルと、潤滑油タンク内の潤滑油を潤滑油ノズルを介して転がり軸受に供給するポンプと、ポンプを駆動するポンプ駆動部と、温度を検知できるセンサと、ポンプ駆動部およびセンサに電力を供給する電源手段とを備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この従来の転がり軸受装置では、温度センサは、転がり軸受の温度を検出し、ポンプ駆動部は、温度センサの検出出力に基づいてポンプによる潤滑油吐出量を制御するようになっている。
【特許文献1】特開2004−108388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
潤滑機能を備えた転がり軸受装置では、回転数や軸受温度など、軸受の使用状態に応じた適切な所定量の潤滑油を転がり軸受に供給することが望ましく、例えば軸受の使用状態が定常である回転状態においては、常に一定の潤滑油を転がり軸受に供給することが要求されることがある。
【0005】
ところが、上記の従来の転がり軸受装置では、潤滑油の温度を考慮せず、転がり軸受の温度のみに基づいて潤滑油吐出量を制御しているので、潤滑油の温度が変化すると、潤滑油吐出量を軸受の使用状態に応じた所定量に制御することが困難であった。
【0006】
この発明の目的は、潤滑油の温度が変化しても潤滑油吐出量を軸受の使用状態に応じた所定量に制御することができる転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1による転がり軸受装置は、固定側軌道部材、回転側軌道部材および両軌道部材の間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、潤滑油を貯留する潤滑油タンクと、転がり軸受の両軌道部材間の環状空間内で開口する潤滑油ノズルと、潤滑油タンク内の潤滑油を潤滑油ノズルを介して転がり軸受に供給するポンプと、ポンプを駆動するポンプ駆動部と、温度を検知できる温度センサと、ポンプ駆動部に電力を供給する電源手段とを備えた転がり軸受装置において、温度センサは、潤滑油タンク内およびポンプ内および潤滑油ノズル内の少なくとも一つの潤滑油の温度を検知するものであり、ポンプ駆動部は、温度センサの検知結果に基づいてポンプを制御し、潤滑油吐出量を増減させるものであることを特徴とするものである。
【0008】
潤滑油は、温度が高い場合は、粘度が低くなり、温度が低い場合は、粘度が高くなるという性質がある。そのため、ポンプの動作回数が一定であれば、潤滑油の温度が高くなると、潤滑油ノズルからの吐出量が増え、温度が低くなると、潤滑油ノズルからの吐出量が減る。
【0009】
請求項1の転がり軸受装置では、潤滑油の温度を温度センサで検知し、潤滑油の温度が高い場合は、ポンプの動作回数を減らし、温度が低い場合は、ポンプの動作回数を増やすように、ポンプ駆動部によってポンプを制御することにより、潤滑油の温度が変化しても、潤滑油吐出量を軸受の使用状態に応じた所定量に保つことができる。さらに例えば、回転側軌道部材の回転数と軸受温度、荷重等が一定の場合には一定量の潤滑油が、回転数が低い領域ではごく微量の潤滑油が、回転数が高い領域では、それに応じた量の潤滑油が転がり軸受に供給されるようにしてもよい。
【0010】
転がり軸受は、例えば、アンギュラ玉軸受であるが、その他の形式の深溝玉軸受などであってもよい。
【0011】
潤滑油タンクは、好ましくは、転がり軸受内、例えば、固定側軌道部材である内輪の外周面や外輪の内周面に設置されるが、転がり軸受外に設置されてもよい。
【0012】
ノズルの開口は、好ましくは、転がり軸受の転動体近傍または軌道部材の軌道面近傍に臨ませられる。
【0013】
ポンプは、潤滑油タンクと潤滑油ノズルの間に設けられ、潤滑油を潤滑油タンクから吸引して潤滑油ノズルの開口から転がり軸受内に吐出する。潤滑油タンクが転がり軸受内に設置される場合、ポンプは、潤滑油タンクの外面に接するように設置することができる。潤滑油タンクが転がり軸受外に設置される場合、ポンプは、転がり軸受の内外いずれに設置してもよい。ポンプを転がり軸受外に設置する場合、ノズルの長さが長すぎると、潤滑油が低温であれば、ポンプの動作回数を増やしても、ノズル内に滞留している潤滑油によって、ポンプにより発生した潤滑油の脈動が減衰し、潤滑油が吐出されにくくなる。そのため、ポンプは、転がり軸受の近傍に配置し、ノズルの長さが長くなりすぎないようにする。
【0014】
ポンプとしては、例えば、潤滑油ノズルの一端がポンプ室内に入れられ、ダイヤフラムに圧電素子が取り付けられた、構造の簡単なダイヤフラム式ポンプが用いられる。この場合、圧電素子でダイヤフラムを脈動させることにより、潤滑油ノズルの開口から潤滑油が吐出される。ダイヤフラム式ポンプ以外に、噴射式ポンプ、ベーンポンプ、スクリューポンプ、ピエゾポンプなど種々のポンプが使用できる。
【0015】
ポンプ駆動部は、温度センサで検知された潤滑油の温度に基づいて、潤滑油吐出量が一定になるようにポンプを制御する制御回路を備えている。ポンプ駆動部は、転がり軸受の内外いずれに設置されてもよいが、潤滑油タンクおよびポンプが転がり軸受内に設置される場合は、ポンプ駆動部も転がり軸受内に設置されるのが好ましい。
【0016】
温度センサは、例えば、潤滑油タンクの内部または外部の壁面に取り付けられ、潤滑油タンク内の潤滑油の温度を検知する。温度センサとしては、例えば、サーミスタ測温体、測温抵抗体、熱電対などが用いられる。
【0017】
電源手段としては、例えば、発電機、電池などが用いられるが、発電機能を有するものが好ましい。発電所で発電され、電線を介して供給される電力を電線に接続することで利用することも電源手段に含まれる。電源手段は、転がり軸受の内外いずれに設置されてもよいが、潤滑油タンクおよびポンプが転がり軸受内に設置される場合は、電源手段も転がり軸受内に設置されるのが好ましい。
【0018】
転がり軸受装置には、潤滑油の異常温度を知らせる警報器、転がり軸受内の潤滑油の過不足状態の監視装置などを組み込むことができる。
【0019】
請求項2による転がり軸受装置は、請求項1において、検知した温度を記憶するICタグを備えていることを特徴とするものである。
【0020】
ICタグには、メモリ機能を有するICチップおよび小型アンテナが内蔵されている。ICタグには、ポンプの制御回路が内蔵されていてもよい。ICタグのICチップには、温度センサで検知された潤滑油の温度がICチップの演算装置で演算され、ICチップの記憶部に記憶され、保存される。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の転がり軸受装置によると、温度センサで潤滑油の温度を直接検知することにより、潤滑油の温度に基づいてポンプによる潤滑油吐出量を制御することができ、潤滑油の温度が変化しても、潤滑油吐出量を一定に保つことができる。
【0022】
請求項2の転がり軸受装置によると、温度をICタグに記録できるので、温度異常が発生した場合などに、その温度を知ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、転がり軸受装置の要部を示す。以下の説明において上下とは、図面の上下をいうものとする。
【0025】
図1において、転がり軸受装置は、転がり軸受(1)と、転がり軸受(1)に内蔵されている潤滑油タンク(2)と、潤滑油を吐出するための潤滑油ノズル(3)およびポンプ(4)と、ポンプ(4)を駆動するポンプ駆動部(5)と、潤滑油の温度を検知する温度センサ(8)と、ICタグ(6)と、ポンプ駆動部(5)およびICタグ(6)に電力を供給する電源手段である電池 (7)とから構成されている。
【0026】
転がり軸受(1)は、内輪(回転側軌道部材) (11)が回転する玉軸受で、内輪 (11)と、外輪(固定側軌道部材)(12)と内・外輪(11)(12)の間に介在する複数の玉(転動体)(13)と、複数の玉(13)を円周方向等間隔に保持する保持器(14)とから構成されている。内輪(11)および外輪(12)には、玉(13)を保持するための部分に加えて、タンク設置用延長部(11a)(12a)が形成されている。
【0027】
潤滑油タンク(2)は、軸方向から見て円弧状をなし、外輪(12)のタンク設置用延長部(12a)の内周面に着脱可能に取り付けられている。
【0028】
潤滑油タンク(2)の玉(13)側の面には、ICタグ(6)、ポンプ駆動部(5)、電池(7)およびポンプ(4)が並べて配置されている。この例では、径方向の外側から内側に向かって、上記の順に並べて配置されている。
【0029】
ポンプ(4)は、ダイヤフラムに圧電素子が取り付けられたダイヤフラム式ポンプであり、潤滑油ノズル(3)の一端がポンプ室内に入れられている。潤滑油ノズル(3)は、細い円筒状をなし、ポンプ(4)から玉(13)へ伸びている。ノズル(3)の先端開口は、軸受(1)の玉(13)と内輪(11)の軌道面の近傍に臨ませられている。ポンプ(4)は、潤滑油タンク(2)から潤滑油を吸引し、潤滑油ノズル(3)の先端開口から、玉(13)および内輪(11)の軌道面に向かって潤滑油を吐出する。
【0030】
ICタグ(6)には、メモリ機能を有するICチップおよび小型アンテナが内蔵されている。温度センサ(8)は、潤滑油タンク(2)の内部に配置され、温度センサ(8)の先端の測温部がポンプ(4)との連通部の近傍にポンプ(4)や潤滑油タンク(2)の内面に非接触配設されており、潤滑油タンク(2)内の潤滑油の温度を検知する。温度センサ(8)により検知された潤滑油の温度は、ICチップに記憶され、保存される。
【0031】
ポンプ駆動部(5)には、ポンプ(4)の駆動および動作回数の制御を行うための制御回路が設けられている。ポンプ駆動部(5)は、潤滑油の温度が変化しても潤滑油吐出量が一定になるように、温度センサ(8)で検知された潤滑油の温度を電圧又は抵抗値として読み取り、この電圧又は抵抗値とあらかじめ決められポンプ駆動部(5)の記憶部に収納された電圧又は抵抗値とポンプ(4)の動作回数との関係式とをポンプ駆動部(5)の演算装置で演算することに基づいて、ポンプ(4)の動作回数を制御する。潤滑油の温度が高くなると、潤滑油の粘度が低くなり、ポンプ(4)の1回の動作による潤滑油吐出量が増えるので、ポンプ(4)の動作回数を減らすように制御し、潤滑油の温度が低くなると、潤滑油の粘度が高くなり、ポンプ(4)の1回の動作による潤滑油吐出量が減るので、ポンプ(4)の動作回数を増やすように制御する。そうすると、潤滑油の温度が変化しても、潤滑油吐出量を一定に保つことができる。
【0032】
一般的なICタグでは、通常、一定期間ごとにデータを取得して決められたデータ容量まで記録するか、データが一定のしきい値の範囲を外れたときのみ一定期間ごとにデータを記録するようになっている。しかし、それでは、潤滑油の温度をほぼ連続的に検知することができないので、好ましくは、1秒以下の短い時間間隔で潤滑油の温度を検知し、検知した潤滑油の温度が一定のしきい値の範囲を超えたときにのみ、それを記憶し、保存する。それ以外に、初期設定した長い一定期間ごとに検知した潤滑油の温度を保存するようにしてもよい。ICチップに保存された潤滑油の温度は、異常時の使用状況の判断にも使用することができる。
【0033】
上記実施形態では、転がり軸受装置は、転がり軸受として、内輪回転の玉軸受を備えているが、転がり軸受は、外輪回転の玉軸受、あるいは玉軸受以外の転がり軸受を備えたものであってもよい。また、この発明は、上記のようなラジアル転がり軸受を備えた転がり軸受装置の他に、スラスト転がり軸受を備えた転がり軸受装置にも適用できる。
【0034】
なお、上記実施形態では電圧又は抵抗値とポンプ(4)の動作回数との関係式を収納する記憶部と、演算装置とをポンプ駆動部(5)に備えていたが、これらの一方又は両方はICタグのICチップの記憶部および演算装置を使用してもよい。
【0035】
また、上記実施形態ではICタグを備えていたが、ポンプ駆動部(5)に記憶部と演算装置とを備えていればICタグを備えなくてもよい。
【0036】
さらに、上記実施形態に回転側軌道部材(11)と固定側軌道部材(12)との相対回転数を測定する回転センサや、玉(13)の公転すべりを検出する回転センサ、回転側軌道部材(11)や固定側軌道部材(12)の温度を測定する温度センサ、回転側軌道部材(11)と固定側軌道部材(12)との相対的荷重を測定する荷重センサのいずれか又は全てを備え、これらの測定値を記憶部に収納されたあらかじめ決められたこれら測定値と潤滑油タンク(2)内およびポンプ(4)内および潤滑油ノズル(3)内の少なくとも一つの潤滑油の温度の測定値とポンプ(4)の動作回数との関係式とを演算装置で演算することに基づいてポンプ(4)の動作回数を変化させて所定回数とし、軸受(1)の使用状態に応じた適切な微量の潤滑油を転がり軸受(1)に供給してもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、この発明による転がり軸受装置の実施形態を示す要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
(1) 転がり軸受
(2) 潤滑油タンク
(3) 潤滑油ノズル
(4) ポンプ
(5) ポンプ駆動部
(6) ICタグ
(7) 電池(電源手段)
(8) 温度センサ
(11) 内輪(回転側軌道部材)
(12) 外輪(固定側軌道部材)
(13) 玉(転動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側軌道部材、回転側軌道部材および両軌道部材の間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、潤滑油を貯留する潤滑油タンクと、転がり軸受の両軌道部材間の環状空間内で開口する潤滑油ノズルと、潤滑油タンク内の潤滑油を潤滑油ノズルを介して転がり軸受に供給するポンプと、ポンプを駆動するポンプ駆動部と、温度を検知できる温度センサと、ポンプ駆動部に電力を供給する電源手段とを備えた転がり軸受装置において、温度センサは、潤滑油タンク内およびポンプ内および潤滑油ノズル内の少なくとも一つの潤滑油の温度を検知するものであり、ポンプ駆動部は、温度センサの検知結果に基づいてポンプを制御し、潤滑油吐出量を増減させるものであることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
検知した温度を記憶するICタグを備えていることを特徴とする請求項1の転がり軸受装置。

【図1】
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