説明

転がり軸受装置

【課題】 軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 この転がり軸受装置は、転がり軸受Brと給排油機構Kuとを備え、内輪1に軸方向に延びる内輪延長部6を設けると共に、外輪2に隣接し且つ内周面が内輪延長部6に対向する間座7を設けている。給排油機構Kuは、内輪円周溝8と、給油路9と、径方向すきまδ1と、排油口10とを有する。間座7の内周面に、内輪円周溝8に対向して、給油路9から供給されて内輪円周溝8で跳ね返った潤滑油を集める凹み部11を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸を回転自在に支持する転がり軸受装置に関し、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の冷却と、軸受に対する潤滑油の給排油を行う機構を有する潤滑装置が提案されている(特許文献1)。この潤滑装置では、図11に示すように、内輪端面に接する内輪間座50を設け、外輪端面に接する潤滑油導入部材51を設けている。内輪52のうち前記内輪端面から内輪軌道面に繋がる斜面に円周溝53を設けると共に、前記潤滑油導入部材51にノズル54を設け、このノズル54から前記円周溝53内に軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を吐出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−240946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11の構造では、軸受内へ多量の潤滑油が浸入し軸受内で潤滑油が滞留すると、攪拌抵抗が増加し、軸受の温度が上昇して、高速回転が不可能となる場合がある。そのため、軸受内へ浸入した潤滑油の排油を円滑に行う必要がある。
【0005】
ここで本件出願人は、図12に示す転がり軸受装置を提案している。同図に示すように、内輪1には、軸方向に延びる内輪延長部6を設け、外輪2に隣接し且つ内周面が内輪延長部6に対向する間座7を設けている。この場合、軸受運転時、以下の(1)〜(5)のように潤滑油が軸受内部に浸入する。同図における矢符は潤滑油の流れを示す。
(1) 潤滑油を給油路9から供給する。
(2) 潤滑油が内輪円周溝8に当たる。
(3) 潤滑油は、回転中の内輪1から遠心力を受けて、間座7の内周面7aに当たる。
(4) 潤滑油は、内輪延長部6の外周面と、間座7の内周面との径方向すきまから軸受内に浸入する。このとき転がり軸受装置を例えば立軸の支持に用いる場合には、内周面7aに当たった潤滑油が、排油口に向かうまでの経路途中で重力等の作用により、排油口であまり排出されずに軸受内に多量に浸入する場合がある。
(5) このように潤滑油が多量に浸入すると、軸受内に潤滑油が滞留する。この滞留した潤滑油が軸受の発熱の原因となり、高速運転が不可能となる。
【0006】
この発明の目的は、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり軸受装置は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪に軸方向に延びる内輪延長部を設けると共に、外輪に隣接し且つ内周面が前記内輪延長部に対向する間座を設け、前記給排油機構は、内輪延長部の外周面に設けられた内輪円周溝と、前記間座に設けられ、潤滑油を前記内輪円周溝へ向けて吐出する給油口を有する給油路と、前記内輪延長部の外周面のうち内輪円周溝よりも軸受側に形成される外周面と、間座の内周面との間に設けられ、軸受内に潤滑油を導く径方向すきまと、前記間座に設けられ、前記給油口とは異なる円周方向位置で内輪円周溝に連通し、潤滑油を排出する排油口とを有し、前記間座の内周面に、前記内輪円周溝に対向して前記給油口から供給されて内輪円周溝で跳ね返った潤滑油を集める凹み部を設けたことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、軸受運転時、間座の給油路から潤滑油を供給すると、内輪延長部の外周面の内輪円周溝に沿って潤滑油が流れる。これにより軸受を冷却する。軸受を冷却した油は、間座の排油口から排出される。このとき給油路から供給されて内輪円周溝で跳ね返った潤滑油は、間座の内周面の凹み部に集められ、軸受内への潤滑油の浸入を抑制する。凹み部に集められた潤滑油は、排油口に向かい円滑に排出される。また軸受潤滑のための潤滑油が、径方向すきまを介して軸受内に適量供給され、その後、軸受外に排出される。
前記のように間座の内周面に設けた凹み部に、内輪円周溝で跳ね返った潤滑油を集め、円滑に排出できるため、多量の潤滑油が軸受内に浸入することを防ぐことができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速回転を可能とすることができる。
【0009】
前記凹み部は、間座の内周面に設けた円周溝から成るものであっても良い。この場合、円周溝に沿って潤滑油が流れ、この潤滑油を排油口から円滑に排出することができる。
前記凹み部のうち、前記径方向すきまに繋がる開口周縁部の軸方向位置と、内輪円周溝のうち径方向すきまに繋がる開口周縁部の軸方向位置とを一致させ、且つ、凹み部と内輪円周溝との幅寸法を同一としても良い。内輪円周溝に存する潤滑油は、回転中の内輪から遠心力を受けて間座の方向へ進む。このとき凹み部の開口周縁部と、内輪円周溝の開口周縁部との軸方向位置を一致させることにより、潤滑油は、径方向すきま上部を通過する。このため、軸受内に潤滑油が浸入し難くなり、径方向すきま上部を通過した潤滑油は、排油口へ向かう。さらに凹み部と内輪円周溝との幅寸法を同一とすることで、内輪円周溝に存する潤滑油を、内輪からの遠心力により凹み部に確実に集め、凹み部から潤滑油が不所望に溢れることを防止することができる。したがって、排油口以外の箇所から潤滑油が不所望に排出されることを防止することができる。
【0010】
前記凹み部は、その底面に向かうに従って幅狭となるものとしても良い。軸受運転時、潤滑油は、内輪円周溝に当たり、内輪回転に伴う遠心力を受けて跳ね返される。この跳ね返された潤滑油は、凹み部の幅狭となる溝、換言すれば楔形状の溝に沿って排油口に向かう。その後、潤滑油は排油口から排出される。潤滑油が、凹み部の幅狭となる溝に沿って排油口に向かうため、内輪円周溝に当たって跳ね返された潤滑油を、効率良く凹み部に集めることができる。
【0011】
前記凹み部は、間座の内周面に設けた円周溝と、この円周溝の下部に繋がり前記円周溝よりも幅寸法が大となる円周溝とを有するものであっても良い。この場合、内輪円周溝に当たって跳ね返された潤滑油を、前記幅寸法が大となる円周溝に集め、円滑に排油することができる。
前記間座の排油口を、この間座の円周溝に繋がる接線方向に設けたものとしても良い。この場合、間座の給油口から供給された潤滑油は、内輪円周溝に当たって跳ね返され、間座の円周溝に沿って流れ、排油口で滞留することなく円滑に排出される。
【0012】
前記凹み部を、間座の給油口から排油口に至る円弧状に設けても良い。この場合、間座の凹み部を流れる潤滑油は、排油口でせき止められる。このせき止められた潤滑油は、速やかに排油口から排出される。
前記内輪円周溝は、撥油性を有するものとしても良い。この場合、内輪円周溝に存する潤滑油を、間座の凹み部に向かい易くし、円滑な排油を行うことができる。
【0013】
前記内輪の外周面のうち内輪軌道面と前記径方向すきまを形成する部分との間に、前記軌道面側に向かうに従って大径となるように傾斜する断面形状に形成された斜面を設けたものであっても良い。この場合、径方向すきまから軸受内に導入された潤滑油を、内輪回転による遠心力により、内輪の前記斜面を経由して内輪軌道面に適量に且つ確実に導くことができる。
前記転がり軸受はアンギュラ玉軸受からなるものであっても良い。
この発明のいずれかの転がり軸受装置は、工作機械主軸の支持に用いられるものであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
この発明の転がり軸受は、内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、前記内輪に軸方向に延びる内輪延長部を設けると共に、外輪に隣接し且つ内周面が前記内輪延長部に対向する間座を設けている。前記給排油機構は、内輪延長部の外周面に設けられた内輪円周溝と、前記間座に設けられ、潤滑油を前記内輪円周溝へ向けて吐出する給油口を有する給油路と、前記内輪延長部の外周面のうち内輪円周溝よりも軸受側に形成される外周面と、間座の内周面との間に設けられ、軸受内に潤滑油を導く径方向すきまと、前記間座に設けられ、前記給油口とは異なる円周方向位置で内輪円周溝に連通し、潤滑油を排出する排油口とを有し、前記間座の内周面に、前記内輪円周溝に対向して前記給油口から供給されて内輪円周溝で跳ね返った潤滑油を集める凹み部を設けたものである。このため、軸受内へ浸入した潤滑油を軸受外に円滑に排油し、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図2】同転がり軸受装置の間座の形状例を示す要部の断面図である。
【図3】図2のA部の拡大図である。
【図4】(A)は、同転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す平面図、(B)は図4(A)の要部の正面図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の要部の断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す平面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す平面図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図10】この発明のいずれかの実施形態に係る転がり軸受装置を、工作機械主軸を支持する転がり軸受に適用した例を示す概略断面図である。
【図11】従来例の転がり軸受の潤滑装置の要部の断面図である。
【図12】潤滑油が軸受内部へ浸入する参考提案例を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1に示すように、この実施形態に係る転がり軸受装置は、転がり軸受Brと、給排油機構Kuとを備えている。
図2に示すように、転がり軸受Brは、内外輪1,2である一対の軌道輪と、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3と、これら転動体3を保持するリング状の保持器4とを有する。この転がり軸受はアンギュラ玉軸受からなり、転動体3として、鋼球やセラミックス球等からなる玉が適用される。
【0017】
内輪1は、内輪本体部5と、この内輪本体部5から一体に延びる内輪延長部6とを有する。この例では、内輪延長部6は、内輪本体部5の軌道面1aに対し接触角を成す作用線Lの偏り側から幅方向に延びる。内輪本体部5は、軸受としての必要な強度を満たし、且つ、外輪2の幅寸法と同一の幅寸法であって、所定の幅寸法に設けられる。前記所定の幅寸法とは、JIS、軸受カタログ等に規定される内輪の幅寸法である。内輪本体部5における外周面の中央部に軌道面1aが形成されている。前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向一方側(軌道面1aと径方向すきまδ1との間)に、軌道面側に向かうに従って大径となるように傾斜する断面形状に形成された斜面1bが形成され、前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向他方側に、平坦な外径面1cが形成されている。この内輪本体部5の内輪背面側(軸受正面側)に、内輪延長部6が軸方向一方に延びるように一体に設けられる。
外輪2の軌道面2aの軸方向両側に、外輪内径面2bと、カウンタボア2cとがそれぞれ形成されている。前記外輪内径面2bに保持器4が案内されるように構成されている。
【0018】
図1に示すように、給排油機構Kuは、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する機構である。外輪2に隣接して間座7を設け、この間座7の内周面を、内輪延長部6の外周面に対向させている。給排油機構Kuは、内輪円周溝8と、給油路9と、径方向すきまδ1と、排油口10、凹み部11と、斜面1bとを有する。これらのうち内輪円周溝8は、内輪延長部6の外周面に設けられている。
【0019】
図1左側に示すように、間座7のうち円周方向の一部に、潤滑油を内輪円周溝8へ向けて吐出する給油口18を有する給油路9が形成されている。この給油路9は、間座7の外周面から、凹み部11に径方向に貫通する段付きの貫通孔状に形成されている。すなわち給油路9は、円周溝から成る凹み部8の円周方向の一部に連通する連通孔9aと、この連通孔9aに繋がり前記外周面に開口する座繰り部9bとで成る。座繰り部9bは、連通孔9aに対し同心で同連通孔9aよりも大径に形成されている。図3に示すように、給油路9から供給された潤滑油は、給油口18から吐出されて内輪円周溝8に当たり、回転側の軌道輪である内輪1から遠心力を受けて間座7の凹み部11へ進む。この潤滑油は、図4(A)に示すように、円周溝から成る凹み部11内を、内輪1の回転方向L1と同一方向に進み、排油口10および後述の切欠部13から排出される。
【0020】
間座7のうち、前記給油路9とは異なる円周方向位置には、潤滑油を外部に排出する排油口10が形成されている。排油口10は、図1右側に示すように、間座7の外周面から径方向に貫通して内輪円周溝8に連通するように形成されている。図4(A)に示すように、給油路9に対し、排油口10の位相が所定の位相角度α(この例ではα=270度)となるように設けられている。
図2に示すように、径方向すきまδ1は、内輪延長部6の外周面のうち内輪円周溝8よりも軸受側に形成される外周面と、間座7の内周面との間に設けられる。径方向すきまδ1から軸受内に導入された潤滑油は、斜面1b等を経由して内輪軌道面1aに導かれる。
【0021】
凹み部11は、間座7の内周面に設けられた円周溝から成る。凹み部11は、内輪円周溝8に対向して、給油路9から供給されて内輪円周溝8で跳ね返った潤滑油を集めるものである。この凹み部11のうち、前述の径方向すきまδ1に繋がる開口周縁部12の軸方向位置P1と、内輪円周溝8のうち径方向すきまδ1に繋がる開口周縁部14の軸方向位置P2とを一致させている。さらに凹み部11の幅寸法H1と、内輪円周溝8の幅寸法H2とを同一寸法としている。
【0022】
固定側の軌道輪である外輪2には、軸受内で潤滑に供された潤滑油を軸受外に排出する切欠部13が設けられている。図4(B)は、図4(A)の要部の正面図(A−A線端面図)である。図1および図4(B)に示すように、外輪2のうち、間座7が設けられる側とは軸方向逆側の外輪端面に、切欠部13が設けられている。この切欠部13を、図4(A)に示すように、内輪1の回転方向L1に沿う、給油路9と排油口10との間に配設している。この例では、切欠部13は、例えば、給油路9に対し90度の位相角度をもって配設され、且つ、排油口10に対し180度の位相角度をもって配設されている。
【0023】
図2に示すように、内輪延長部6および間座7には、例えば、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制するラビリンス機構15を設けている。このラビリンス機構15は、給油路9および排油口10(図1)に連通し、広部と狭部とが軸方向に連なるものとしている。前記広部は、内輪延長部6における他方側肩部の外周面に設けられる円周溝16と、この円周溝16に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。前記円周溝16は、軸方向に間隔をあけて複数(この例では2つ)配設される。各円周溝16は、内輪延長部6の端面側(図2の上側)に向かうに従って小径となる、換言すると溝が深くなるように傾斜する断面形状に形成されている。前記狭部は、内輪延長部6における前記外周面の突出先端部17と、この突出先端部17に対向する間座7の内周面とを含んで構成される。
【0024】
各円周溝16が前記のように傾斜する断面形状に形成されているため、給油路9から供給されてラビリンス機構15に浸入した潤滑油は、内輪回転による遠心力により円周溝16の傾斜面に沿って漏れ側とは反対方向に移動する。このようなラビリンス機構15により、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。なお、円周溝16は、3つ以上であっても良いし1つであっても良い。内輪延長部6に円周溝16を設ける構成に代えて、間座7における断面凹形状の前記他方側肩部に、円周溝を設けても良い。また内輪延長部6および間座7にそれぞれ円周溝を設けても良い。
【0025】
作用効果について説明する。
図1における矢符は潤滑油の流れを示す。同図1に示すように、軸受運転時、間座7の給油路9から潤滑油を供給すると、内輪延長部6の外周面の内輪円周溝8に沿って潤滑油が流れる。これにより軸受を冷却する。軸受を冷却した油は、間座7の排油口10から排出される。このとき給油路9から供給されて内輪円周溝8で跳ね返った潤滑油は、間座7の内周面の凹み部11に集められ、軸受内への潤滑油の浸入を抑制する。円周溝から成る凹み部11に集められた潤滑油は、前記円周溝に沿って流れ、排油口10に向かい円滑に排出される。また軸受潤滑のための潤滑油が、径方向すきまδ1を介して軸受内に適量供給され、その後軸受外に排出される。
前記のように間座7の内周面に設けた凹み部11に、内輪円周溝8で跳ね返った潤滑油を集め、円滑に排出できるため、多量の潤滑油が軸受内に浸入することを防ぐことができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速回転を可能とすることができる。
【0026】
また軸受運転時、図3に示すように、内輪円周溝8に存する潤滑油は、回転中の内輪1から遠心力を受けて間座7の方向へ進む。このとき凹み部11の開口周縁部12と、内輪円周溝8の開口周縁部14との軸方向位置P1,P2を一致させることにより、潤滑油は、径方向すきま上部を通過する。このため、軸受内に潤滑油が浸入し難くなり、径方向すきま上部を通過した潤滑油は、排油口10(図1)へ向かう。さらに凹み部11と内輪円周溝8との幅寸法H1,H2を同一とすることで、内輪円周溝8に存する潤滑油を、内輪1からの遠心力により凹み部11に確実に集め、凹み部11から潤滑油が不所望に溢れることを防止することができる。したがって、排油口以外の箇所から潤滑油が不所望に排出されることを防止することができる。
内輪本体部5の外周面のうち軌道面1aと径方向すきまδ1を形成する部分との間に、軌道面1a側に向かうに従って大径となるように傾斜する断面形状に形成された斜面1bが形成されたため、径方向すきまδ1から軸受内に導入された潤滑油を、内輪回転による遠心力により、斜面1bを経由して軌道面1aに適量に且つ確実に導くことができる。
【0027】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。
【0028】
図5に示すように、間座7の凹み部11は、その底面に向かうに従って幅狭となるものとしても良い。この場合、潤滑油は、軸受運転時、以下の(1)〜(3)のように流れる。
(1) 潤滑油は、内輪円周溝8に当たり、内輪回転に伴う遠心力を受けて跳ね返される。
(2) この跳ね返された潤滑油は、凹み部11の幅狭となる溝、換言すれば楔形状の溝に沿って排油口10に向かう。
(3) その後、潤滑油は排油口10から排出される。
このように潤滑油が、凹み部11の幅狭となる溝に沿って排油口10に向かうため、内輪円周溝8に当たって跳ね返された潤滑油を、効率良く凹み部11に集めることができる。
【0029】
図6に示すように、間座7の凹み部11は、間座7の内周面に設けた円周溝11aと、この円周溝11aの下部に繋がり前記円周溝11aよりも幅寸法H1aが大となる円周溝11bとを有するものであっても良い。この場合、内輪円周溝8に当たって跳ね返された潤滑油を、幅寸法が大となる円周溝11bに集め、円滑に排油することができる。
【0030】
図7は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受装置における潤滑油の流れを示す平面図である。同図に示すように、間座7の排油口10に繋がる接線方向L2に設けたものとしても良い。この場合、間座7の給油路9から供給された潤滑油は、内輪円周溝(図示せず)に当たって跳ね返され、間座7の円周溝11に沿って流れ、排油口10で滞留することなく円滑に排出される。
図8に示すように、間座7の凹み部11を、この間座7の給油路9から排油口10に至る円弧状に設けても良い。この場合、間座7の凹み部11を流れる潤滑油は、排油口10でせき止められる。このせき止められた潤滑油は、速やかに排油口10から排出される。
【0031】
図9のA部に示すように、内輪円周溝8は、撥油性を有するものとしても良い。内輪円周溝8に、例えば、フッ素樹脂等から成るコーティング層等を設けることにより、撥油性を有する内輪円周溝8とすることができる。この場合、内輪円周溝8に存する潤滑油を、間座7の凹み部11に向かい易くし、円滑な排油を行うことができる。また図9のB部に示すように、径方向すきまδ1を形成する部分である、内輪延長部6の外周面部分および間座7の内周面部分も、撥油性を有するものとしても良い。この場合、軸受内部への潤滑油の浸入を抑制することができる。
【0032】
図10は、前述のいずれかの転がり軸受装置を、立型の工作機械主軸の支持に用いた例を概略示す断面図である。この例では、アンギュラ玉軸受を含む転がり軸受装置28,28を、2個背面組み合わせでハウジング29に設置し、これらの転がり軸受装置28,28により主軸30を回転自在に支持する。各軸受装置28における内輪1は、内輪位置決め間座31,31および主軸30の段部30a,30aにより軸方向に位置決めされ、内輪固定ナット32により主軸30に締め付け固定されている。主軸上側の間座7および主軸下側の外輪2は、外輪押え蓋34,34によりハウジング29内に位置決め固定されている。また主軸上側の外輪端面と、主軸下側の間座幅面との間には、外輪間座35が介在されている。
【0033】
ハウジング29は、ハウジング内筒29aとハウジング外筒29bとを嵌合させたものであり、その嵌合部に、冷却のための通油溝29cが設けられている。ハウジング内筒29aには、各軸受装置28にそれぞれ潤滑油を供給する供給油路36,36が形成されている。これら供給油路36,36は図示外の潤滑油供給源に接続されている。さらにハウジング内筒29aには、潤滑に供された潤滑油を排出する排油溝37および排油路38が形成されている。排油溝37は、各軸受装置28における切欠部13および排油口10にそれぞれ連通する。各排油溝37に、主軸軸方向に延びる排油路38が繋がり、この排油路38から潤滑油が排出されるようになっている。
【0034】
このように転がり軸受装置28,28を工作機械主軸30の支持に用いた場合、間座7の内周面に設けた凹み部11に、内輪円周溝8で跳ね返った潤滑油を集め、円滑に排出できるため、多量の潤滑油が軸受内に浸入することを防ぐことができる。したがって、潤滑油の攪拌抵抗による軸受の温度上昇を抑制して、軸受の高速回転を可能とすることができる。
本実施形態に係る転がり軸受装置を、横型の工作機械主軸の支持に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…内輪
2…外輪
3…転動体
4…保持器
6…内輪延長部
7…間座
8…内輪円周溝
9…給油路
10…排油口
11…凹み部
12,14…開口周縁部
18…給油口
Br…転がり軸受
Ku…給排油機構
δ1…径方向すきま


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪の軌道面間に、保持器に保持された複数の転動体を介在させた転がり軸受と、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構とを備えた転がり軸受装置において、
前記内輪に軸方向に延びる内輪延長部を設けると共に、外輪に隣接し且つ内周面が前記内輪延長部に対向する間座を設け、
前記給排油機構は、
内輪延長部の外周面に設けられた内輪円周溝と、
前記間座に設けられ、潤滑油を前記内輪円周溝へ向けて吐出する給油口を有する給油路と、
前記内輪延長部の外周面のうち内輪円周溝よりも軸受側に形成される外周面と、間座の内周面との間に設けられ、軸受内に潤滑油を導く径方向すきまと、
前記間座に設けられ、前記給油口とは異なる円周方向位置で内輪円周溝に連通し、潤滑油を排出する排油口とを有し、
前記間座の内周面に、前記内輪円周溝に対向して前記給油口から供給されて内輪円周溝で跳ね返った潤滑油を集める凹み部を設けたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記凹み部は、間座の内周面に設けた円周溝から成る転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項2において、前記凹み部のうち、前記径方向すきまに繋がる開口周縁部の軸方向位置と、内輪円周溝のうち径方向すきまに繋がる開口周縁部の軸方向位置とを一致させ、且つ、凹み部と内輪円周溝との幅寸法を同一とした転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記凹み部は、その底面に向かうに従って幅狭となる転がり軸受装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3において、前記凹み部は、間座の内周面に設けた円周溝と、この円周溝の下部に繋がり前記円周溝よりも幅寸法が大となる円周溝とを有する転がり軸受装置。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項において、前記間座の排油口を、この間座の円周溝に繋がる接線方向に設けた転がり軸受装置。
【請求項7】
請求項1において、前記凹み部を、間座の給油口から排油口に至る円弧状に設けた転がり軸受装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記内輪円周溝は、撥油性を有する転がり軸受装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記内輪の外周面のうち内輪軌道面と前記径方向すきまを形成する部分との間に、前記軌道面側に向かうに従って大径となるように傾斜する断面形状に形成された斜面を設けた転がり軸受装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記転がり軸受はアンギュラ玉軸受からなる転がり軸受装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、工作機械主軸の支持に用いられるものである転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−68279(P2013−68279A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207723(P2011−207723)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】