説明

転がり軸受

【課題】フリクションを低減することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】環状の軌道輪2に沿って転動可能であると共に該転動の転動中心位置と重心位置とがずれた位置に設定された転動体3を備えることを特徴とする。したがって、本発明に係る転がり軸受によれば、転動中心位置と重心位置とがずれているため、転動体3に回転慣性力が作用することで各転動体3と軌道輪2とのすべり摩擦が低減されるので、この結果、フリクションを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受に関し、特に、複数の転動体が軌道輪に沿って転動自在に設けられる転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の転がり軸受では、軌道輪としての回転軸の外周面と外輪の内周面との間に潤滑油を介して複数の転動体を配置することで、この回転軸を回転自在に支持している。このような転がり軸受として、例えば、特許文献1には、複数の転動体のうち少なくとも1つの転動体の重量を他の転動体の重量と異なる重量に設定することで、軸受全体の重心を軸受中心からずらし、これにより、軸受が繰返し負荷を受けた場合でもフレッティング(接触する2面間が、相対的な繰返し微小滑りを生じて摩耗する現象をいう。)が発生しにくく、軸受の寿命を向上させることができる転がり軸受が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−87132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような特許文献1に記載された転がり軸受では、例えば、潤滑油の供給量が少なく、各転動体と軌道輪との摺動部の潤滑状態が良好でない場合に、この転動体が軌道輪に対して滑りやすくなり、これにより、各転動体に作用するすべり摩擦力が増大し、この転動体の転動が阻害され、この結果、フリクションが増大することがあった。
【0005】
そこで本発明は、フリクションを低減することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明による転がり軸受は、環状の軌道輪に沿って転動可能であると共に転動中心位置と重心位置とがずれた位置に設定された転動体を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明による転がり軸受では、前記転動体は、転動体本体部と、該転動体本体部内の前記転動中心位置からずれた位置に設けられると共に該転動体本体部と異なる比重に設定される偏心部とを有することを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明による転がり軸受では、前記偏心部は、比重が前記転動体本体部より高く設定される高比重部材と、前記転動体本体部に形成され該高比重部材を収容可能な収容部により構成されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明による転がり軸受では、前記収容部は、前記転動体本体部の外周面に開口部を有して形成されることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明による転がり軸受では、前記転動体は、外周面になじみ層を有することを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明による転がり軸受では、複数の前記転動体を前記軌道輪に沿って所定の隙間をあけて保持する保持手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る転がり軸受によれば、転動中心位置と重心位置とがずれているため、転動体に回転慣性力が作用することで各転動体と軌道輪とのすべり摩擦が低減されるので、この結果、フリクションを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る転がり軸受の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1に係る軸受の径方向の概略断面図、図2は、本発明の実施例1に係る軸受の切欠斜視図、図3は、本発明の実施例1に係る軸受の軸線方向の部分断面図、図4は、本発明の実施例1に係る軸受の径方向の部分断面図、図5は、本発明の実施例1に係る軸受の偏心部の断面図、図6は、本発明の実施例1に係る軸受における回転軸回転速度と接触面圧、スリップ率との関係を示す線図、図7は、本発明の実施例1に係る軸受の変形例の径方向の部分断面図である。
【0015】
図1乃至図5に示すように、実施例1に係る転がり軸受としての軸受1は、環状の軌道輪2に沿って複数の転動体3を有する転動部4が転動自在に設けられ、例えば、内燃機関のカムシャフトやクランクシャフトなどの種々の回転軸を回転自在に支持するものである。以下、本実施例の軸受1は、内燃機関のカムシャフトを回転自在に支持する転がり軸受に適用するものとして説明するが、これに限らず、種々の装置の回転軸を支持する転がり軸受にも適用可能である。
【0016】
なお、以下の説明において特に断りのない限り、「軸受の軸線方向」とは軸受1が支持する回転軸の軸線方向をいい、「軸受の径方向」とは軸線方向と直交する方向をいい、「軸受の周方向」とは回転軸線を回転の中心として回転する方向をいう。
【0017】
軸受1は、シリンダヘッドに取り付けられたカムジャーナル等の支持部に対して相対移動しないように設けられ、内燃機関のカムシャフトの回転軸2aをこの支持部に回転自在に支持する。内燃機関のカムシャフトは、内燃機関の燃焼室を開閉する弁体としての吸気弁や排気弁を開閉駆動するためのもので、この回転軸2a周りに複数のカムを有している。そして、このカムシャフトは、内燃機関のピストンの往復運動に伴って回転可能なクランクシャフトとタイミングチェーン等を介して連動可能となっている。すなわち、カムシャフトは、クランクシャフトに同期して回転する。
【0018】
軸受1は、上述の環状の軌道輪2と、この軌道輪2に沿って転動可能な複数の転動体3を有する転動部4と、複数の転動体3を軌道輪2に沿って所定の隙間をあけて保持する保持手段としての保持器5を備える。
【0019】
軌道輪2は、回転軸2aと、この回転軸2aの外方に設けられる外輪2bとによって構成される。回転軸2aは、円柱状に形成され上述のカムシャフトの軸をなす。外輪2bは、円環状に形成されこの回転軸2aの外周面に沿って設けられると共に、その中心軸線が回転軸2aの中心軸線と一致するように設けられる。すなわち、回転軸2aと外輪2bとは、同軸に設けられる。
【0020】
さらに具体的には、回転軸2aは、その外周面に周方向に沿って内側軌道面2cが形成される一方、外輪2bは、その内周面に周方向に沿って外側軌道面2dが形成される。そして、回転軸2aと外輪2bとは、内側軌道面2cと外側軌道面2dとの間に環状空間を画成し、この環状空間に転動部4が設けられる。また、外側軌道面2dの軸線方向両側方には、径方向内方に突出するツバ2eが形成されている。言い換えれば、外側軌道面2dは、外輪2bの内周面に凹部状に形成されている。
【0021】
転動部4は、複数の転動体3を有する。本実施例の各転動体3は、細径の円筒形の針状(ニードル状)ころが用いられる。複数の転動体3は、内側軌道面2cと外側軌道面2dとの間の環状空間に、その軸線(転動中心)の方向が軸受1の軸線方向と平行となるように設けられる。また、複数の転動体3は、この環状空間に保持器5により内側軌道面2c、外側軌道面2dの周方向に沿って所定間隔、ここでは等間隔で配置される。そして、各転動体3は、この保持器5によりその外周面としての転動面3aが内側軌道面2c、外側軌道面2dに接触可能に配置されると共にその両端面が外輪2bのツバ2eに当接可能に配置される。したがって、複数の転動体3は、転動面3aが内側軌道面2c、外側軌道面2dに接触することでこの内側軌道面2c、外側軌道面2dに沿って環状空間を転動することができると共に、その両端面が外輪2bのツバ2eに当接することで軸線方向に脱落することが防止される。
【0022】
保持器5は、上述したように複数の転動体3を軌道輪2に沿って等間隔で保持する。さらに、保持器5は、一対の環状部5aと、複数の柱状のセパレート部5bと、複数のスリット状の転動体保持部5cとを有する。
【0023】
一対の環状部5aは、軸線方向に沿って対をなすと共に互いに軌道輪2の軸線と同軸に設けられる。すなわち、各環状部5aは、内側軌道面2cと外側軌道面2dとの間の環状空間において、回転軸2a、外輪2bの中心軸線と同軸に配置される。そして、各環状部5aは、その外周面が外側軌道面2d両側の各ツバ2eに対向して当接可能に周方向に連続すると共にその内周面が内側軌道面2cに対向して当接可能に配置され、保持器5全体を複数の転動体3と共に内側軌道面2c、外側軌道面2dに沿って案内支持する。
【0024】
各セパレート部5bは、一対の環状部5a間に軸線方向に沿って掛け渡されるように架設される。セパレート部5bは、両端が環状部5aに固定されることで転動不能に設けられる。そして、セパレート部5bは、隣接する転動体3の間に位置すると共に周方向に所定の間隔(保持する転動体3の外径に応じた間隔)で等間隔に複数設けられる。
【0025】
各転動体保持部5cは、軸線方向に対して対向する一対の環状部5aと、周方向対して隣接する一対のセパレート部5bにより区画された空間である。各転動体保持部5cは、転動体3の軸線(転動中心)方向が軸受1の軸線方向と平行となるようにそれぞれ1つの転動体3を個別に収容し、各転動体3を内側軌道面2c、外側軌道面2dの周方向に沿って転動自在に保持する。なお、保持器5は、金属や合成樹脂により全体を一体で形成してもよいし、各部を別体に形成してもよい。
【0026】
上記のように構成される軸受1は、回転軸2aの内側軌道面2cと外輪2bの外側軌道面2dとの間の環状空間において、複数の転動体3が潤滑油を介して内側軌道面2c、外側軌道面2dに接触してこの内側軌道面2c、外側軌道面2d上を転動(自転)しながら内側軌道面2c、外側軌道面2dに沿って公転する。つまり、軸受1は、軌道輪2の内側軌道面2c、外側軌道面2dと各転動体3の転動面3aとが摺動することでこの回転軸2aを外輪2bに対して回転自在に支持する。このとき、保持器5は、回転軸2aの外輪2bに対する相対的な回転に伴って環状部5aにより内側軌道面2c、外側軌道面2dに沿って案内されると共に、各転動体保持部5c内に収容した各転動体3を軌道輪2に沿って等間隔に保持しながら軌道輪2に対して相対的に回転する。そして、保持器5は、セパレート部5bにより隣接する転動体3同士の周方向に対する接触を規制する。この間、この軸受1は、内側軌道面2c、外側軌道面2dと当接する転動体3の転動面3aにより負荷荷重としてラジアル荷重(軸線方向に直角な方向、すなわち径方向の荷重)を受けることができると共に、ツバ2eと当接する転動体3の端面部により負荷荷重として若干のアキシアル荷重(軸線方向の荷重)も受けることができる。
【0027】
ところで、この種の転がり軸受1では、例えば、潤滑油の供給量が少なく、各転動体3の転動面3aと軌道輪2の内側軌道面2c、外側軌道面2dとの摺動部分の潤滑状態が良好でない場合に、この転動体3が内側軌道面2c、外側軌道面2dに対して滑りやすくなり、これにより、各転動体3に作用するすべり摩擦力が増大し、この転動体3の転動が阻害され、この結果、フリクションが増大するおそれがある。
【0028】
そこで、本実施例の軸受1では、図1、図4、図5に示すように、各転動体3の転動の中心位置(転動中心位置O)と重心位置O’とをずれた位置に設定することで、フリクションの低減を図っている。
【0029】
具体的には、転動部4の各転動体3は、図4、図5に示すように、転動体本体部31と、偏心部32とを有する。偏心部32は、この転動体本体部31内の転動中心位置Oからずれた位置に設けられる。この偏心部32は、高比重部材としての円柱状高比重部材33と、収容部34とを含んで構成される。
【0030】
収容部34は、本実施例では、転動体本体部31の外周面としての転動面3aに円筒凹部状に形成されると共にこの転動面3aに開口部34a(図5参照)を有する。この収容部34は、円筒形状の中心軸線が、転動中心位置Oを通る転動体3の転動軸線とほぼ平行になるように形成されると共にこの転動軸線から径方向外方にずれた位置に設定される。
【0031】
円柱状高比重部材33は、円柱状に形成されると共に円柱状の中心軸線が収容部34の中心軸線とほぼ一致するように、この収容部34内に収容される。この円柱状高比重部材33は、比重が転動体本体部31より高く設定される。円柱状高比重部材33は、例えば、転動体本体部31が鋼材(例えば、SUJ2;高炭素クロム軸受鋼鋼材)などにより形成される場合、これより比重が大きい物質として銅材や銀材により形成すればよい。また、円柱状高比重部材33は、例えば、転動体本体部31が比較的比重が小さいセラミック材、Fe−Mn系焼結材又は炭素繊維系樹脂材などにより形成される場合、これより比重が大きい物質として鋼材、銅材や銀材により形成すればよい。円柱状高比重部材33は、転動体本体部31に形成された収容部34に対して鋳込み、溶接、かしめなどにより埋設すればよい。これにより、偏心部32は、転動体本体部31と異なる比重、ここでは高比重に設定され、この結果、各転動体3は、転動中心位置Oと重心位置O’とがずれた位置に設定される。
【0032】
ここで、図6は軸受1における回転軸2aの回転速度と接触面圧、スリップ率との関係を示す図である。ここで、スリップ率とは、転動体3の転動(自転)速度と、内側軌道面2c、外側軌道面2dに沿った公転速度との差を比率として表したものであり、この値が小さくなるほど、転動体3の転動(自転)速度と公転速度とが近いことを意味し、すなわち、転動体3が内側軌道面2c、外側軌道面2dに対してほとんど滑っていないことを意味する。
【0033】
上記のように構成される軸受1では、上述したように、この回転軸2aは内燃機関のカムシャフトをなすものであり、内燃機関のクランクシャフトに同期して回転する。よって、クランクシャフトの回転数、すなわち、エンジン回転数が高くなれば、回転軸2aの回転数、言い換えれば、回転軸2aの回転速度も高くなる。
【0034】
そして、例えば、内燃機関の低負荷・低回転時で回転軸2aの回転速度が極めて低い場合、回転軸2aの回転が遅いことから、内側軌道面2c、外側軌道面2dと転動面3aとが接する摺動面においていわゆる境界潤滑となる。さらに、軸受1に供給される潤滑油の量も回転が遅いほど少なくなるため、図6上段に示すように、接触面圧(摩擦力)が増加し、相対的に高荷重状態となる。このとき、軸受温度、潤滑油の油膜の温度は、回転軸2aの回転が遅く摺動抵抗が少ないため相対的に低温(常温)となっている。そして、このような高荷重状態においては、図6下段に点線で示すように、従来の軸受では、各転動体が軌道輪に対して公転する際に、この軌道輪に対するすべり量が大きくなり、スリップ率が高くなる。
【0035】
これに対し、本実施例の軸受1では、各転動体3の転動中心位置Oと重心位置O’とをずれた位置に設定し、偏心部32により各転動体3の重心を偏心させたことで、転動時の円柱状高比重部材33における遠心力(慣性モーメント)が相対的に大きくなり、各転動体3にそれぞれ設けられた偏心部32が当該転動体3に回転慣性力を作用させるため、個々の転動体3に大きな回転力を与えることができる。このため、各転動体3がより転がり易く、内側軌道面2c、外側軌道面2dに対して転動し易くなる。すなわち、各転動体3に対して少しの回転力が作用しただけで、この偏心部32が、その回転慣性力により転動体3全体の転がりを補助する。この結果、図6下段に実線で示すように、各転動体3が軌道輪2に対して公転する際に、各転動体3の内側軌道面2c、外側軌道面2dに対するすべり量が小さくなり、スリップ率が低くなる。よって、例えば、上記のように潤滑油の供給量が少なく、各転動体3の転動面3aと軌道輪2の内側軌道面2c、外側軌道面2dとの摺動部分の潤滑状態が良好でない場合でも、この転動体3が転動し易いことから、内側軌道面2c、外側軌道面2dに対して滑りにくくなり、これにより、各転動体3に作用するすべり摩擦力も低減し、この転動体3の転動が阻害されることが防止される。この結果、フリクションが低減される。
【0036】
また、フリクションが低減されることで、転動体3、内側軌道面2c、外側軌道面2dなどの摩耗が低減されると共に転動体3のスリップ音などの騒音も低減される。さらに、転動体3と内側軌道面2c、外側軌道面2dとの摩擦力が低減され、転動体3、内側軌道面2c、外側軌道面2dなどの摩耗が低減されることから、この転動体3に作用する接触面圧自体も低減され、転動体3に作用する負荷荷重も低減されることから、転動体3の径を縮小することが可能となり、これにより、この転動体3の外形を小さくすることができ、その搭載性も向上することができる。
【0037】
さらに、転動体3の回転力が向上すると共に転動体3と内側軌道面2c、外側軌道面2dとに作用する接触面圧が低減されることから、転動体3の転動に伴う各転動体3による潤滑油の巻き込み性が向上し、このことからも、転動体3と内側軌道面2c、外側軌道面2dとの摺動部分における潤滑状態が良好となり、各摺動部分の摩耗が低減される。よって、回転軸2a、外輪2bの硬度を低くしても十分な耐摩耗性を確保することができ、この結果、低コストな軸受1とすることも可能となる。また、同様に、各転動体3と保持器5のセパレート部5bとの摺動部分における潤滑状態も良好となり、各摺動部分の摩耗が低減され、よって、保持器5の硬度を低くしても十分な耐摩耗性を確保することができる。この結果、この保持器5を、例えば、相対的に比重の低い樹脂性部材により形成することも可能となり、軸受1の軽量化も促進することができる。さらには、転動体3の転動に伴う各転動体3による潤滑油の巻き込み性が向上し潤滑状態が良好となることから、軸受1全体における潤滑油量を低減することができ、この結果、オイルポンプの容量を減らしてフリクションを低減することも可能となる。
【0038】
また、この軸受1は、収容部34が転動体本体部31の転動面3aに開口部34aを有して形成されることから、転動面3aに対して窪んだこの収容部34の開口部34a内に潤滑油の一部が滞留、保持される。そして、この収容部34内に潤滑油の一部が滞留されることで、この軸受1の摺動部分における潤滑油の滞留性を向上することができ、このため、潤滑油切れを防止することができ、摺動部分の摩耗をさらに低減することができ、焼き付きを防止することができる。さらに、この軸受1が支持する回転軸2aの回転が長時間停止状態にあった後に、その回転が始動した場合でも、この収容部34内に滞留する潤滑油により円滑に回転軸2aを回転支持することができる。
【0039】
そして、保持器5のセパレート部5bにより隣接する転動体3同士の周方向に対する接触が規制されることから、保持器5が軌道輪2に沿って各転動体3を等間隔に保持しながら軌道輪2に対して相対的に回転する際に、隣接する転動体3同士が衝突、接触することを防止することができ、この結果、この各転動体3を摩耗させてしまうことを防止することができる。また、この保持器5が隣接する転動体3同士の周方向に対する接触を規制することから、この隣接する転動体3同士の関係において、一方の転動体3が他方の転動体3に衝突、接触し転動の動きを阻害することが防止され、さらに、一方の転動体3が他方の転動体3を引きずって摺動抵抗となることを防止することができ、この結果、各転動体3の転動中心位置Oと重心位置O’とをずれた位置に設定したことにより回転力が増加した各転動体3の転動を阻害することがなく、さらに効果的にフリクションが低減される。
【0040】
以上で説明した本発明の実施例に係る軸受1によれば、環状の軌道輪2に沿って転動可能であると共にこの転動の転動中心位置Oと重心位置O’とがずれた位置に設定された転動体3を備える。
【0041】
したがって、各転動体3の転動中心位置Oと重心位置O’とをずれた位置に設定することで、この各転動体3の重心が転動中心位置Oに対して偏心し、これにより、各転動体3における回転慣性力が大きくなり、個々の転動体3に大きな回転力を与えることができる。このため、各転動体3に対して少しの回転力が作用しただけで、その回転慣性力により転動体3全体が転がり易く、内側軌道面2c、外側軌道面2dに対して転動し易くなり、各転動体3の内側軌道面2c、外側軌道面2dに対するすべり量が小さくなる。これにより、各転動体3に作用するすべり摩擦力が低減し、この転動体3の転動が阻害されることが防止される。この結果、フリクションを低減することができる。
【0042】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係る軸受1によれば、各転動体3は、転動体本体部31と、この転動体本体部31内の転動中心位置Oからずれた位置に設けられると共にこの転動体本体部と異なる比重に設定される偏心部32とを有する。したがって、転動体本体部31内の転動中心位置Oからずれた位置に転動体本体部31と異なる比重に設定される偏心部32を設けたことで、各転動体3の転動中心位置Oと重心位置O’とをずれた位置に設定することができ、確実に転動体3に回転慣性力を作用させることができる。
【0043】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係る軸受1によれば、偏心部32は、比重が転動体本体部31より高く設定される円柱状高比重部材33と、転動体本体部31に形成されこの円柱状高比重部材33を収容可能な収容部34により構成される。したがって、偏心部32にて、転動体本体部31に形成された収容部34に転動体本体部31より比重が高い円柱状高比重部材33を設けてことで、転動体3の転動時の円柱状高比重部材33における遠心力(慣性モーメント)が相対的に大きくなり、各転動体3にそれぞれ設けられた偏心部32の円柱状高比重部材33により当該転動体3に回転慣性力が作用するため、個々の転動体3に大きな回転力を与えることができる。この結果、各転動体3に対して少しの回転力が作用しただけで、この偏心部32が、円柱状高比重部材33の回転慣性力により転動体3全体の転がりを補助することができる。さらに、転動体3において高比重な部分の容積を比較的少なくすることができるので、転動体3全体の重量を小さく押さえることができ、転動体3の転動時の騒音も抑制することができる。
【0044】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係る軸受1によれば、収容部34は、転動体本体部31の転動面3aに開口部34aを有して形成される。したがって、収容部34が転動面3aに開口部34aを有して形成されることから、収容部34の開口部34aに潤滑油の一部が滞留されることから、摺動部分における潤滑油の滞留性を向上することができる。これにより、軸受1の摩耗を効果的に低減することができると共に、潤滑油切れを防止することができる。さらに、この複数の開口部34a内に滞留する潤滑油により騒音を効果的に低減することができると共に、回転軸2aの回転始動時においても、円滑に回転軸2aを支持することができる。
【0045】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係る軸受1によれば、複数の転動体3を軌道輪2に沿って所定の隙間をあけて保持する保持器5を備える。したがって、保持器5により隣接する転動体3同士の周方向に対する接触が規制されることから、隣接する転動体3の一方が他方を引きずりながら転動することを確実に防止することができる。この結果、転動体3の転動中心位置Oと重心位置O’とをずれた位置に設定したことにより回転力が増加した各転動体3の転動を阻害することがなく、さらに効果的にフリクションを低減することができる。
【0046】
なお、上述した本発明の実施例に係る転がり軸受は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0047】
図7は、本実施例の変形例に係る転がり軸受としての軸受1Aの径方向の部分断面図である。以上の実施例1の軸受1の説明では、収容部34は、転動面3aに開口部34aを有して形成されるものとして説明したが、軸受1Aの収容部34Aは、転動面3aに開口部を有していない。すなわち、軸受1Aの各転動体3Aは、転動体本体部31Aと、偏心部32Aとを有する。この偏心部32Aは、円柱状高比重部材33Aと、収容部34Aとを含んで構成される。そして、この収容部34Aは、転動体本体部31Aの内部に円筒状の空洞として形成される。この収容部34Aは、円筒形状の中心軸線が、転動中心位置Oを通る転動体3の転動軸線とほぼ平行になるように形成されると共にこの転動軸線から径方向外方にずれた位置に設定される。そして、円柱状高比重部材33Aは、この転動体本体部31Aの内部に空洞として形成される収容部34A内に設けられる。したがって、転動体3Aの偏心部32Aをこのように構成することで、この偏心部32Aにより回転慣性力を増加することができると共に転動面3aに開口部を有しないことから、この転動体3Aの転動面3aを凹凸のない滑らかな面に形成することができ、この結果、フリクションをさらに低減することができる。
【0048】
また、以上の実施例1の説明では、偏心部は、円柱状高比重部材33と、収容部34とを含んで構成されるものとして説明したが、これに限らない。例えば、図7で説明した軸受1Aの転動体3A場合、転動体本体部31Aの内部に空洞として形成される収容部34Aだけで偏心部32Aを構成し、円柱状高比重部材33Aを備えない構成としてもよい。この場合でも、収容部34Aが空洞になることで、転動体3Aは、この偏心部32Aと転動体本体部31Aとの比重が異なることとなり、この結果、この転動体3Aの転動中心位置Oと重心位置O’とをずれた位置に設定することができ、転動体の中心部と外周部とが異なる比重に設定される。ただし、上述のように、収容部34A内に円柱状高比重部材33Aを備えた方が、例えば、収容部34Aのみで偏心部32Aを形成する場合と比較して、この円柱状高比重部材33Aにより荷重を受けることもできるので、転動体3A全体での耐久性を向上さすることができる。なお、転動体本体部31Aを、例えば、耐久性の高いセラミック材により形成することで、円柱状高比重部材33Aを備えなくても、十分な強度を確保することができる。この場合、円柱状高比重部材33Aを備えていないことから、転動体3Aをさらに軽量化することができる。
【0049】
また、以上の説明では、偏心部32は、円柱状高比重部材33と収容部34とを1つずつ備えるものとして説明したが、複数組備えるようにしてもよい。この場合、各収容部は、円筒形状の円中心と転動中心位置Oとを結んだ線と、隣接する収容部の円中心と転動中心位置Oとを結んだ線とがなす角度(中心角)が不均等な位置、又は各収容部の中心軸線の転動軸線から径方向外方へのずれ量を異ならせて設定することで、本発明の偏心部を構成することができる。これにより、複数の収容部にそれぞれ高比重部材を収容することで偏心部における回転慣性力をさらに大きくすることができる。
【実施例2】
【0050】
図8は、本発明の実施例2に係る軸受の偏心部の断面図である。実施例2に係る転がり軸受は、実施例1に係る転がり軸受と略同様の構成であるが、なじみ層を備えている点で実施例1に係る転がり軸受とは異なる。その他、上述した実施例と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0051】
実施例2に係る転がり軸受としての軸受201では、複数の転動体203を備える。各転動体203は、転動体本体部31と偏心部32とを有し、偏心部32は円柱状高比重部材33と収容部34とを有する。そして、この転動体203は、外周面になじみ層としての溶射膜237を有する。本実施例では、この溶射膜237の外周面が転動体203の転動面3aとなる。溶射膜237は、転動体本体部31の外周面にマンガン、樹脂、DLC(Diamond−Like−Carbon)、鉄などを溶射することで形成され、相対的に高い比重と耐摩耗性等を有する。
【0052】
上記のように構成される軸受201では、偏心部32により各転動体203の重心を偏心させたことで、転動時の円柱状高比重部材33における遠心力(慣性モーメント)が相対的に大きくなり、個々の転動体203に大きな回転力を与えることができる。このため、各転動体3がより転がり易く、内側軌道面2c、外側軌道面2dに対して転動し易くなる。すなわち、各転動体203に対して少しの回転力が作用しただけで、この偏心部32が、その回転慣性力により転動体3全体の転がりを補助する。この結果、各転動体203の内側軌道面2c、外側軌道面2dに対するすべり量が小さくなり、各転動体203に作用するすべり摩擦力も低減し、この転動体203の転動が阻害されることが防止される。この結果、フリクションが低減される。
【0053】
このとき、各転動体203を偏心部32により偏心させていることで、各転動体203が転動して1回転する際に、その回転(転動)速度に偏りが生じても、各転動体203に溶射膜237を設けたことで、各転動体203が局所的に摩耗することを防止することができ、転動面3aが不均一になることによるフリクションの増加を防止することができ、さらに、各転動体203が偏平な転動をすることによる騒音も防止することができる。そして、溶射膜237を設けたことで転動体203の耐摩耗性が向上すると共に、上述したように偏心部32を設けたことで各転動体203の内側軌道面2c、外側軌道面2dに対するすべり量も小さくなることから、この軸受201の摺動部に潤滑油を用いない構成とすることができる。さらに、潤滑油を用いた場合でも、超低粘度の潤滑油を用いることができ、フリクションをさらに低減することができると共に起動トルク低減効果を著しく向上させることができる。
【0054】
以上で説明した本発明の実施例に係る軸受201によれば、環状の軌道輪2に沿って転動可能であると共にこの転動の転動中心位置Oと重心位置O’とがずれた位置に設定された転動体203を備える。したがって、各転動体203の転動中心位置Oと重心位置O’とをずれた位置に設定することで、この各転動体203の重心が転動中心位置Oに対して偏心し、これにより、各転動体203における回転慣性力が大きくなり、個々の転動体203に大きな回転力を与えることができる。このため、各転動体203に対して少しの回転力が作用しただけで、その回転慣性力により転動体203全体が転がり易く、内側軌道面2c、外側軌道面2dに対して転動し易くなり、各転動体203の内側軌道面2c、外側軌道面2dに対するすべり量が小さくなる。これにより、各転動体203に作用するすべり摩擦力が低減し、この転動体203の転動が阻害されることが防止される。この結果、フリクションを低減することができる。
【0055】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係る軸受201によれば、転動体203は、外周面に溶射膜237を有する。したがって、各転動体203の1回転における回転(転動)速度に偏りが生じても、各転動体203に溶射膜237を設けたことで、各転動体203が局所的に摩耗することを防止することができ、転動面3aが不均一になることによるフリクションの増加を防止することができる。
【0056】
なお、上述した本発明の実施例に係る転がり軸受は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、転がり軸受は、内燃機関のカムシャフトの回転軸2aをシリンダヘッドに取り付けられたカムジャーナル等の支持部に回転自在に支持するものとして説明したが、内燃機関のクランクシャフトの回転軸をシリンダブロックに取り付けられたクランクシャフトジャーナル等の支持部に回転自在に支持してもよいし、他の装置の回転軸を支持するものであってもよい。
【0057】
また、以上の説明では、軌道輪2は、回転軸2aと、この回転軸2aの外方に設けられる外輪2bとによって構成され、転動部4は、回転軸2a外周の内側軌道面2cと外輪2b内周の外側軌道面2dとの間の環状空間に設けられるものとして説明したが、回転軸2aの外周、外輪2bの内方にこの外輪2bと同軸の内輪を設け、回転軸2aではなくこの内輪と外輪2bとによって軌道輪を構成してもよい。ここで、この内輪は、回転軸と転動体との間に物理的に介在し、回転軸と共に回転するものである。この場合、内側軌道面は、内輪の外周面に設けられ、転動部4は、この内輪外周の内側軌道面と外輪2b内周の外側軌道面2dとの間の環状空間に設けられる。なお、この内輪と回転軸2aとを一体に設けてもよい。また、外輪2bは、上述したカムジャーナル等の支持部(ハウジング)と一体に形成してもよい。
【0058】
さらに、以上の説明では、複数の転動体3は、細い円筒形の針状(ニードル状)ころを用いるものとして説明したが、球、円筒状ころ、円錐ころなど各種の転動体が使用可能である。すなわち、本発明において、転がり軸受とは、回転軸と外輪との間に介在させた転動体を転動させることにより、回転軸を外輪に対して相対的に回転可能に支持するものであり、上記で説明したような、いわゆる針状ころ軸受の他にも、例えば、深溝玉軸受などの玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受などを含む概念である。例えば、本発明の転がり軸受を玉軸受に適用し、転動体を球体により形成した場合、転動体をニードルにより形成した場合と比較して、一般に、球状の転動体の方がその径が大きくなるので、上述した偏心部や重量部を転動中心位置Oから径方向外方により離れた位置に設けることができる。よって、偏心部や重量部に作用する遠心力の大きさをより大きくすることができることから、より効果的である。
【0059】
また、外輪2bや保持器5は、軸への取り付けを容易にするため、周方向に対して分割された複数の分割輪を円弧状に組み合わせて形成してもよい。また、以上の説明では、ツバ2eは、外側軌道面2dの軸線方向両側方において径方向内方に突出するものとして説明したが、内側軌道面2cの軸線方向両側方において径方向外方に突出するようにしてもよいし、内側軌道面2c及び外側軌道面2dの両方の軸線方向両側方に設けてもよい。
【0060】
複数の転動体3は、それぞれ転動面3aが潤滑剤を介して内側軌道面2c、外側軌道面2dに接触可能であるものとして説明した。ここで用いられる潤滑剤は、転がり軸受における焼き付き防止、フリクション低減など、軸受の性能向上、劣化防止に資する限りにおいてその材質(例えば、基油として鉱油、ジエステル油、多価エステル油、あるいはシリコン油などを使用したリチウム系グリースなど)及び態様(例えば、気体、液体、固体、又は半固体など)は限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明に係る転がり軸受は、フリクションの低減を図ったものであり、内燃機関に用いる転がり軸受以外にも種々の転がり軸受に適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1に係る軸受の径方向の概略断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る軸受の切欠斜視図である。
【図3】本発明の実施例1に係る軸受の軸線方向の部分断面図である。
【図4】本発明の実施例1に係る軸受の径方向の部分断面図である。
【図5】本発明の実施例1に係る軸受の偏心部の断面図である。
【図6】本発明の実施例1に係る軸受における回転軸回転速度と接触面圧、スリップ率との関係を示す線図である。
【図7】本発明の実施例1に係る軸受の変形例の径方向の部分断面図である。
【図8】本発明の実施例2に係る軸受の偏心部の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1、1A、201 軸受(転がり軸受)
2 軌道輪
2a 回転軸
2b 外輪
2c 内側軌道面
2d 外側軌道面
2e ツバ
3、3A、203 転動体
3a 転動面
4 転動部
5 保持器(保持手段)
5a 環状部
5b セパレート部
5c 転動体保持部
31、31A 転動体本体部
32、32A 偏心部
33、33A 円柱状高比重部材(高比重部材)
34、34A 収容部
34a 開口部
237 溶射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の軌道輪に沿って転動可能であると共に転動中心位置と重心位置とがずれた位置に設定された転動体を備えることを特徴とする、
転がり軸受。
【請求項2】
前記転動体は、転動体本体部と、該転動体本体部内の前記転動中心位置からずれた位置に設けられると共に該転動体本体部と異なる比重に設定される偏心部とを有することを特徴とする、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記偏心部は、比重が前記転動体本体部より高く設定される高比重部材と、前記転動体本体部に形成され該高比重部材を収容可能な収容部により構成されることを特徴とする、
請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記収容部は、前記転動体本体部の外周面に開口部を有して形成されることを特徴とする、
請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記転動体は、外周面になじみ層を有することを特徴とする、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
複数の前記転動体を前記軌道輪に沿って所定の隙間をあけて保持する保持手段を備えることを特徴とする、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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