説明

転がり軸受

【課題】 オイルエアによる軸受内部の潤滑性を確保しつつ、転動体がオイルエアを横切ることに起因する風切り音の発生を抑制することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】 玉4を円周方向に沿って等間隔に保持する保持器5の軸方向一方側の円環部6に、隣接する玉4間をオイルエア中のエアが通過するのを抑制する遮風部6bを形成した。この遮風部6bは、上記エアが軸受内部に透過するのを制限し、オイルエア中のオイルが軸受内部に透過するのを許容する多孔質材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルエア潤滑方式によって潤滑される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば工作機械の主軸を支持する転がり軸受のように、高速回転下で使用される転がり軸受においては、軸受内部を確実に潤滑するために、転がり軸受の軸方向一方側から軸受内部に向かってオイルエアを噴射するオイルエア潤滑方式が多用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−324811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルエア潤滑方式を採用した従来の転がり軸受にあっては、軸受内部に配置された複数の転動体は、上記主軸の高速回転に伴って高速で周方向に移動(公転)するため、各転動体が噴射されたオイルエアを断続的に横切ることによって風切り音が発生するという問題があった。この風切り音は、騒音の原因となるため、可及的に小さくすることが望まれている。
本発明は、このような実情に鑑み、オイルエアによる軸受内部の潤滑性を確保しつつ、転動体がオイルエアを横切ることに起因する風切り音の発生を抑制することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の転がり軸受は、外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周に外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に配設された複数の転動体と、軸方向一方側に配置された円環部と、当該円環部から軸方向他方側に延びるとともに周方向に複数配置された柱部とを有し、隣接する柱部の間に前記転動体を収容するためのポケットが形成されている保持器とを備え、前記軸方向一方側の前記内輪の外周と前記外輪の内周との間の環状空間にオイルエアが噴射される転がり軸受であって、前記保持器の前記円環部は、噴射された前記オイルエア中のエアが透過するのを制限するとともに当該オイルエア中のオイルが軸受内部に透過するのを許容する多孔質材料からなり、かつ隣接する前記転動体の間を前記エアが通過するのを抑制する遮風部を有することを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、転がり軸受の軸方向一方側から噴射されたオイルエアに含まれるエアを遮風部によって遮って、隣接する転動体の間をエアが通過するのを抑制することができる。このため、各転動体がエアを横切ることにより風切り音が発生するのを抑制することができる。さらに、前記遮風部がオイルエア中のオイルが軸受内部に透過するのを許容しているため、軸受内部の潤滑性を支障なく確保することができる。
【0007】
また、前記遮風部は、前記円環部の全周に亘って連続して形成されていることが好ましい。この場合、隣接する転動体の間をエアが通過するのをより効果的に抑制することができる。このため、各転動体がエアを横切ることにより風切り音が発生するのをより効果的に抑制することができる。
【0008】
また、前記転がり軸受は、前記遮風部が前記円環部の径方向の一部に形成されており、前記遮風部の軸方向の厚みが、前記円環部の他部の部分の軸方向の厚みよりも薄いことが好ましい。この場合、オイルを遮風部の軸方向に透過させ易くなるので、軸受内部の潤滑性をより良好にすることができる。
【0009】
また、前記内輪の外周には、前記内輪軌道面の前記軸方向一方側に第1外周面が形成されているとともに、前記内輪軌道面の軸方向他方側に前記第1外周面よりも大径の第2外周面が形成されており、前記遮風部が、前記円環部の径方向内側に形成され、前記遮風部の内周面が、前記オイルエアの流入を制限するように前記内輪の前記第1外周面に近接して配置されていることが好ましい。
この場合、円環部の内周面と内輪の第1外周面との間から、オイルエアが軸受内部に流入するのを制限することができるので、風切り音が発生するのをより効果的に抑制することができる。
【0010】
また、前記外輪の内周には、前記外輪軌道面の前記軸方向一方側に第1内周面が形成されているとともに、前記外輪軌道面の軸方向他方側に前記第1内周面よりも小径の第2内周面が形成されており、前記遮風部が、前記円環部の径方向外側に形成され、前記遮風部の外周面が、前記オイルエアの流入を制限するように前記外輪の前記第1内周面に近接して配置されていることが好ましい。
この場合、円環部の外周面と外輪の第1内周面との間から、オイルエアが軸受内部に流入するのを制限することができるので、風切り音の発生をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オイルエアによる軸受内部の潤滑性を確保しつつ、転動体がオイルエアを横切ることに起因する風切り音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。転がり軸受1は、工作機械の主軸(図示せず)を支持するものである。この転がり軸受1は、上記主軸に外嵌固定された内輪2と、ハウジング(図示せず)に固定された外輪3と、内輪2と外輪3との間に転動可能に配置された複数の玉(転動体)4と、各玉4を円周方向に沿って等間隔に保持するための保持器5とを備えている。前記転がり軸受1は、保持器5の回転を外輪3の内周面で案内する外輪案内タイプのアンギュラ玉軸受で構成されている。
【0014】
内輪2は、その外周の軸方向中央部に形成された内輪軌道面2aと、この内輪軌道面2aの軸方向一方側(図1の右側)に形成された第1外周面2bと、内輪軌道面2aの軸方向他方側(図1の左側)に第1外周面2bよりも大径に形成された第2外周面2cとを有している。なお、以下、本実施形態では、図1の右側を「軸方向一方側」といい、図1の左側を「軸方向他方側」という。
【0015】
外輪3は、内輪2と同心上に配置されている。外輪3は、その内周の軸方向中央部に形成された外輪軌道面3aと、この外輪軌道面3aの軸方向一方側に形成された第1内周面3bと、外輪軌道面3aの軸方向他方側に第1内周面3bよりも大径に形成された第2内周面3cとを有している。第2内周面3cは、軸方向他方側に向かって漸次拡径する傾斜面として形成されている。
上記複数の玉4は、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に転動可能に配置されている。内輪2、外輪3、および玉4は、軸受鋼や浸炭鋼等の軸受用鋼によって形成されている。
【0016】
保持器5は、例えばフェノール樹脂等の合成樹脂によって形成されており、軸方向に離間して配置された一対の円環部6,7と、この円環部6,7の周方向に沿って等間隔おきに配置されて円環部6,7同士を連結する複数の柱部8とを備えている。一対の円環部6,7と隣接する柱部8との間には、それぞれポケット9が形成されており、このポケット9内に各玉4を配置し、玉4を円周方向に沿って所定間隔に保持している。
【0017】
軸方向一方側の円環部6は、内輪2の第1外周面2bと外輪3の第1内周面3bとの間の環状空間Sを、全周に亘って軸方向一方側から塞ぐように、径方向に長く形成されている。円環部6は、径方向の外側(他部)に形成された本体部6aと、径方向の内側(一部)に形成された遮風部6bとを有している。
本体部6aの外周面6a1は、外輪3の第1内周面3bに接触することにより、保持器5の回転を案内している。上記本体部6aの外周面6a1と外輪3の第1内周面3bと間には、後述するオイルエアの流入を制限する微小な隙間S1が形成されている。
【0018】
遮風部6bは、例えば布入りフェノール樹脂からなる多孔質材料によって形成されており、後述するオイルエア中のエアが軸受内部に透過するのを制限するとともに、上記オイルエア中のオイルが軸受内部に透過するのを許容している。これにより、隣接する玉4間をオイルエア中のエアが通過するのを抑制することができる。また、遮風部6bは、円環部6bの全周に亘って連続して形成された環状のものであり、遮風部6bの全周において上記オイルエア中のエアが軸受内部に透過するのを抑制することができる。
【0019】
遮風部6bの軸方向の厚みD2は、本体部6aの軸方向の厚みD1よりも薄く形成されている。また、遮風部6bの内周面6b1は、内輪2の第1外周面2bに近接して配置されており、この遮風部6bの内周面6b1と内輪2の第1外周面2bとの間には、上記オイルエア中のエアの流入を制限する微小な隙間S2が形成されている。
【0020】
転がり軸受1は、オイルエア潤滑方式によって潤滑される。具体的には、矢符AおよびBで示すように、転がり軸受1の軸方向一方側の2箇所に配置された噴射ノズル(図示せず)から、上記環状空間Sに向かってオイルエアが噴射される。矢符Aの位置から噴射されるオイルエアは、上記隙間S1に向けて噴射される。その際、この隙間S1は微小であるため、多量のオイルエアが軸受内部に流入するのを制限することができる。
【0021】
矢符Bの位置から噴射されるオイルエアは、円環部6の遮風部6bの外側面に向かって噴射される。その際、オイルエア中のエアは、遮風部6bを透過することが制限されているため、軸受内部への流入が制限される。また、オイルエア中のオイルは、遮風部6bを透過することが許容されているため、遮風部6bの外側面に付着したのち、遮風部6bを透過して軸受内部へ流入する。この流入したオイルによって軸受内部を潤滑することができる。
【0022】
以上の構成の転がり軸受1によれば、転がり軸受1の軸方向一方側から遮風部6bの外側面に向かって噴射されたオイルエアに含まれるエアが軸受内部に透過するのを、遮風部6bによって制限することができる。このため、隣接する玉4の間をエアが通過するのを抑制することができる。したがって、玉4がオイルエアを横切ることに起因して風切り音が発生するのを抑制することができる。さらに、遮風部6bが、オイルエア中のオイルが軸受内部へ透過するのを許容しているため、遮風部6bを透過したオイルによって軸受内部の潤滑性を支障なく確保することができる。
【0023】
また、遮風部6bが円環部6の全周に亘って連続して形成された環状のものであるので、オイルエア中のエアが軸受内部に透過するのを、当該遮風部6bの全周に亘って制限することができる。このため、隣接する転動体の間をエアが通過するのをより効果的に抑制することができる結果、各転動体がエアを横切ることにより風切り音が発生するのをより効果的に抑制することができる。
また、遮風部6bの軸方向の厚みD2を、本体部6aの軸方向の厚みD1よりも薄くしたので、遮風部6bにおいてオイルを軸方向一方側から軸受内部へ容易に透過させることができる。このため、軸受内部をより効果的に潤滑することができる。
【0024】
また、遮風部6bの内周面6b1が内輪2の第1外周面2bに近接して配置され、この内周面6b1と第1外周面2bとの間が、オイルエアの流入を制限する微小な隙間S2に設定されているので、オイルエアが軸受内部に流入するのを制限することができる。このため、風切り音が発生するのをより効果的に抑制することができる。
【0025】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。この実施形態の転がり軸受1は、保持器5の回転を内輪2の内周面で案内する内輪案内タイプのアンギュラ玉軸受である。この実施の形態の転がり軸受が図1に示す転がり軸受と相違する点は、内輪2及び外輪3を、それぞれ左右逆向きに配置している点、及び保持器5の断面形状が上下逆向きになっている点であり、図1に示す転がり軸受と同じ名称の部位については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0026】
この実施の形態において、本体部6aの内周面6a2は、内輪2の第1外周面2bに接触することにより、保持器5の回転を案内している。また、上記本体部6aの内周面6a2と内輪2の第1外周面2bと間には、オイルエアの流入を制限する微小な隙間S3が形成されている。
さらに、遮風部6bの外周面6b2は、外輪3の第1内周面3bに近接して配置されており、この外輪3の第1内周面3bと遮風部6bの外周面6b2との間には、上記オイルエア中のエアの流入を制限する微小な隙間S4が形成されている。
【0027】
以上の構成の転がり軸受についても、転がり軸受1の軸方向一方側から遮風部6bの外側面に向かって噴射されたオイルエアに含まれるエアが軸受内部に透過するのを、遮風部6bによって制限することができるので、玉4がオイルエアを横切ることに起因する風切り音の発生を効果的に抑制することができる。
また、遮風部6bの外周面6b2が外輪3の第1内周面3bに近接して配置され、この外周面6b2と第1内周面3bとの間が、オイルエアの流入を制限する微小な隙間S4に設定されているので、オイルエアが軸受内部に流入するのを制限することができる。このため、風切り音が発生するのをより効果的に抑制することができる。
【0028】
本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記の各実施形態では、遮風部6bは、布入りフェノール樹脂以外に、金属性のメッシュ部材を円環部6に嵌合したものであってもよい。
また、遮風部6bを、円環部6の全周に亘って連続して形成しているが、円環部6のうち少なくとも柱部8に隣接する部分に形成してもよい。
さらに、保持器5の円環部6は、軸方向両側に一対配置されているが、少なくともオイルエアが噴射される軸方向一方側に配置されていればよい。
また、転がり軸受1は、アンギュラ玉軸受に限らず、深溝玉軸受やころ軸受であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1:転がり軸受、2:内輪、2b:第1外周面、2c:第2外周面、3:外輪、4,:転動体、5:保持器、6:円環部、6b:遮風部、6b1:内周面、8:柱部、9:ポケット、3b:第1内周面、3c:第2内周面、6b2:外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に内輪軌道面を有する内輪と、
内周に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に配設された複数の転動体と、
軸方向一方側に配置された円環部と、当該円環部から軸方向他方側に延びるとともに周方向に複数配置された柱部とを有し、隣接する柱部の間に前記転動体を収容するためのポケットが形成されている保持器とを備え、
前記軸方向一方側の前記内輪の外周と前記外輪の内周との間の環状空間にオイルエアが噴射される転がり軸受であって、
前記保持器の前記円環部は、噴射された前記オイルエア中のエアが透過するのを制限するとともに当該オイルエア中のオイルが軸受内部に透過するのを許容する多孔質材料からなり、かつ隣接する前記転動体の間を前記エアが通過するのを抑制する遮風部を有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記遮風部が、前記円環部の全周に亘って連続して形成されている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記遮風部が、前記円環部の径方向の一部に形成されており、
前記遮風部の軸方向の厚みが、前記円環部の他部の部分の軸方向の厚みよりも薄い請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記内輪の外周には、前記内輪軌道面の前記軸方向一方側に第1外周面が形成されているとともに、前記内輪軌道面の軸方向他方側に前記第1外周面よりも大径の第2外周面が形成されており、
前記遮風部が、前記円環部の径方向内側に形成され、
前記遮風部の内周面が、前記オイルエアの流入を制限するように前記内輪の前記第1外周面に近接して配置されている請求項1〜3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記外輪の内周には、前記外輪軌道面の前記軸方向一方側に第1内周面が形成されているとともに、前記外輪軌道面の軸方向他方側に前記第1内周面よりも小径の第2内周面が形成されており、
前記遮風部が、前記円環部の径方向外側に形成され、
前記遮風部の外周面が、前記オイルエアの流入を制限するように前記外輪の前記第1内周面に近接して配置されている請求項1〜3に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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