説明

転がり軸受

【課題】高速回転域、高荷重下における転動体の負担を軽減して、耐久性の向上を図った転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受10は、内周に外輪軌道15を有する外輪14と、外輪軌道15を転動する複数のころ16とを備え、この複数のころ16の内周側にシャフト22が嵌合される。外輪14には、ころ16の軸方向に隣接して、シャフト22の外周面に油膜を介して摺接するすべり軸受部40が一体的に形成され、すべり軸受部40とシャフト22との間の径方向の隙間bが、ころ16とシャフト22との間の径方向の隙間aよりも大きく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンのクランクシャフトを支持するために用いられる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や船舶などのエンジンにおいて、ピストンの往復動を回転運動に変換するクランクシャフトを支持する軸受は、クランクアーム間に配置されることから、円周方向に2分割可能な二つ割り軸受が使用されている。
【0003】
このような二つ割り軸受としては、従来、すべり軸受が使用されてきたが、近年、より燃料消費量の少ないエンジンに対する要求が益々高まっていることから、摩擦抵抗を少なくして回転損失を低減させるために、すべり軸受に代えて周方向に分割された転がり軸受を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−125606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、すべり軸受は、クランクシャフトとの間の潤滑油の油膜圧力によって高い耐荷重性能を備え、さらに摩耗も極めて少ないことから非常に高い耐久性を有しているのに対して、転がり軸受は、特に高速回転域、高荷重下で軌道面や転動体に付与される繰り返し応力が疲労破壊の原因となり、耐久性が低下するという欠点がある。したがって、従来、すべり軸受を使用していた箇所に転がり軸受を適用する場合には、耐久性を充分に考慮する必要がある。
【0006】
このような実情に鑑み、本発明は、特に、高速回転域、高荷重下における転動体の負担を軽減して、耐久性の向上を図った転がり軸受を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内周に外輪軌道を有する外輪と、前記外輪軌道を転動する複数の転動体とを備え、この複数の転動体の内周側に内輪部材が嵌合される転がり軸受であって、
前記外輪には、前記転動体の軸方向に隣接して、前記内輪部材の外周面に油膜を介して摺接するすべり軸受部が一体的に形成され、
前記すべり軸受部と前記内輪部材との間の径方向の隙間が、前記転動体と前記内輪部材との間の径方向の隙間よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、外輪には、内輪部材の外周面に油膜を介して摺接するすべり軸受部が形成されているので、転動体だけでなくすべり軸受部によっても内輪部材からの荷重を支持することができる。この際、転動体と内輪部材との間の径方向の隙間よりも、すべり軸受部と内輪部材との間の径方向の隙間のほうが大きく設定されているため、当該隙間に充分な油膜が形成されるまでに時間を要し、内輪部材の回転速度がある程度高まってからでないと内輪部材からの荷重をすべり軸受部によって支持することができない。
【0009】
そのため、内輪部材が回転を開始した当初は、専ら転動体によって内輪部材からの荷重が支持され、内輪部材の回転が高まってすべり軸受部と内輪部材との間の隙間に油膜が充分に形成されたあとに、転動体だけでなくすべり軸受部によっても内輪部材からの荷重が支持されることになる。したがって、内輪部材の回転開始時における低荷重下においては、転動体によって小さい摩擦抵抗で内輪部材を支持することにより回転損失を低減することができ、内輪部材の回転速度がある程度高まって荷重が増大したあとは、内輪部材からの荷重をすべり軸受部が分担して支持することにより転動体にかかる負担を軽減することができる。これにより、転動体や外輪軌道の疲労破壊を抑制し、耐久性を高めることができる。
【0010】
また、すべり軸受部は、外輪に対して一体的に形成されているので、当該すべり軸受部を備えることに伴って部品点数が増えることはなく、ハウジングに対する組み付け性が低下することはほとんどない。
【0011】
前記すべり軸受部の内周面には周方向の油溝が形成され、前記外輪には、前記油溝に潤滑油を供給するための油路が形成されていることが好ましい。
これによって、すべり軸受部と内輪部材との間に適切に油膜を形成することができる。
【0012】
前記すべり軸受部は、軸方向に複数備えられていてもよく、この場合、前記油路は、複数に分岐して各すべり軸受部の油溝にそれぞれ接続されていることが好ましい。これにより、各油溝に対して適切に潤滑油を供給することができる。
【0013】
前記すべり軸受部は軸方向に複数設けられていてもよく、この場合、各すべり軸受部の軸方向の間に前記転動体が配置されていてもよい。これにより、特に、高荷重下において、複数のすべり軸受部によって内輪部材からの荷重を十分に支持し、転動体にかかる負担をより軽減することができる。
【0014】
また、前記転動体は軸方向に複数列に配置されていてもよく、この場合、各列の転動体の軸方向の間に前記すべり軸受部が設けられていてもよい。これにより、複数列の転がり軸受によって、特に高速回転域における回転損失の低減能力をより高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の転がり軸受によれば、内輪部材の低速回転域などの低荷重下においては主として転がり軸受の転動体により荷重を支持して回転損失の低減を図り、高荷重下においてはすべり軸受部にも荷重を分担させて転動体の負担を軽減し、耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の横断面図である。
【図2】同転がり軸受の縦断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の転がり軸受の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受10の横断面図である。
この転がり軸受10は、例えば、エンジンのクランクシャフト22を支持するために使用されるものであり、外輪14と、外輪14の内周面に形成された外輪軌道15を転動し得るように配設される複数個の転動体としてのころ16と、各ころ16を円周方向略等間隔に配置するように保持する保持器17とを有している。
【0018】
外輪14は、二つ一組の半円弧状に形成された分割片19a,19bから構成された二つ割り外輪とされ、ハウジング11に形成された支持孔31に嵌合されている。ハウジング11は、アッパーブロック28と、ボルト29によってアッパーブロック28と一体に結合されるロアブロック30とからなる分割構造とされている。また、ハウジング11に形成された支持孔31は、アッパーブロック28に形成された半円弧状の部分32aと、ロアブロック30に形成された半円弧状の部分32bとからなっている。
【0019】
シャフト(ジャーナル)22は、複数個のころ16によって支持されることにより転がり軸受10に内嵌されている。したがって、このシャフト22は内輪部材としても機能している。
保持器17は、二つ一組の半円弧状に形成された分割片20a,20bから構成されている。ただし、保持器17は、二つ割り構造に限らず、周方向の1箇所で分断されたリング構造とし、この分断された箇所を拡げてシャフト22の外周側に取り付けるように構成してもよい。
【0020】
図2は、同転がり軸受の縦断面図である。
外輪14には、外輪軌道15の軸方向両側において径方向内方に突出する断面略矩形状の突条部40が一体形成されており、ころ16及び保持器17は、軸方向両側の突条部40の間に形成された空間に配置されている。そして、この突条部40の内周面は、シャフト22の外周面との間に僅かな隙間bをもって配置されており、これによって突条部40は、シャフト22の外周面に摺接するすべり軸受部を構成している。したがって、本実施形態の転がり軸受10は、その軸方向中央部に、外輪軌道15及びころ16を有する転がり軸受部42が設けられ、軸方向両側にすべり軸受部40が設けられた構成となっている。
【0021】
各すべり軸受部40の内周面には油溝44が周方向全周に形成されている。この油溝44は、すべり軸受部40を径方向に貫通する縦孔45aと、外輪14の外周面において軸方向に沿って形成された横溝45bとからなる油路45に連通している。また、ハウジング11には、油路45の横溝45bに連通する油孔46が形成されている。
【0022】
油孔46には、図示しない潤滑油供給装置から潤滑油が供給され、この潤滑油は、油孔46から横溝45b内で軸方向両外側へ分岐して流れ、各縦孔45aを経て各油溝44に供給される。そして、シャフト22の外周面とすべり軸受部40の内周面との間に形成される隙間bには、シャフト22の回転により潤滑油の油膜が形成される。
【0023】
シャフト22の外周面とすべり軸受部40の内周面との間の隙間b(ラジアル隙間(直径クリアランス)の半分)の寸法は、シャフト22の外周面ところ16との間に形成された隙間a(ラジアル隙間の半分)の寸法よりも大きい寸法(b>a)に設定されている。例えば、シャフト22の外周面ところ16との間の隙間aの寸法が約40μmに設定されている場合は、すべり軸受部40とシャフト22との間の隙間bの寸法は、40μmを超える寸法に設定される。
【0024】
本実施形態の転がり軸受10では、エンジンの起動時など、シャフト22の回転が開始した当初は、シャフト22の外周面とすべり軸受部40との隙間bに充分に油膜が形成されていないため、当該すべり軸受部40は、シャフト22からの荷重をほとんど負担せず、専ら転がり軸受部42が荷重を支持する。この場合、転がり軸受部42とシャフト22との間に発生する摩擦は非常に小さい転がり摩擦であるため、回転損失の低減を図ることができる。
【0025】
エンジンが起動した後、シャフト22の回転速度がある程度高まり、シャフト22の外周面とすべり軸受部40の内周面との間の隙間bに充分な油膜が形成されると、当該油膜の粘性によって生じる圧力、すなわち、シャフト22の回転に伴うくさび油膜圧力と、シャフト22の径方向移動に伴う絞り油膜圧力とによってすべり軸受部40がシャフト22からの荷重を転がり軸受部42と共に分担して支持する。シャフト22からの荷重は、シャフト22の回転速度が上昇するほど増大するが、すべり軸受部40は、回転速度の上昇に伴って荷重の負荷能力が高まるため、転がり軸受部42の負担を相対的に低減することができる。これにより、転がり軸受部42の疲労破損を防ぎ、耐久性を高めることが可能となる。
【0026】
また、本実施形態の転がり軸受10は、1つの転がり軸受部42の軸方向両側に2つのすべり軸受部40を備えているため、より高荷重に耐えることが可能であり、また、2つのすべり軸受部40によってシャフト22の傾きを抑制することが可能となっている。
【0027】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る転がり軸受10の縦断面図である。
本実施形態の転がり軸受10は、外輪14の軸方向の両側部に外輪軌道15及びころ16を有する転がり軸受部42が設けられ、軸方向の中央部にすべり軸受部40が設けられている。
また、本実施形態の転がり軸受10は、軸方向中央部に径方向に貫通する油路45が形成され、この油路45が油溝44とハウジング11の油孔46とに連通している。
【0028】
したがって、本実施形態においても、エンジンの起動時など、シャフト22の回転速度が低い場合には、専ら転がり軸受部42が荷重を支持し、シャフト22の回転速度が高まった場合には、転がり軸受部42とすべり軸受部40との双方が分担して荷重を支持する。よって、第1の実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
また、すべり軸受部40が一つであるのに対して転がり軸受部42が二つ備わっているため、高速回転時における摩擦抵抗を第1の実施形態よりも小さくし、回転損失の低減を図ることができる。ただし、すべり軸受部40を一つしか備えていないので、高荷重の負荷能力に関しては第1の実施形態の方が有利である。
【0029】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。
例えば、上記の第1の実施形態の転がり軸受10は、一つの転がり軸受部42に対して二つのすべり軸受部40を備え、第2の実施形態の転がり軸受10は、一つのすべり軸受部40に対して二つの転がり軸受部42を備えているが、転がり軸受部42とすべり軸受部40とを同数ずつ備えて、これらを交互に配置してもよい。また、転がり軸受部42及びすべり軸受部40をそれぞれ三つ以上備えていてもよい。
【0030】
上記各実施形態では、すべり軸受部40が外輪14に一体形成されているが、すべり軸受部40を別部品として製造し、このすべり軸受部40を外輪14に固定することによって一体的に構成することができる。
【0031】
また、上記各実施形態の転がり軸受10は二つ割り構造の転がり軸受10とされているが、外輪14が周方向に連続している一体型の転がり軸受10にも本発明を適用することができる。
【0032】
本発明の転がり軸受10は、例えば、エンジンのピストンとクランクシャフトとを連結するコンロッドの大端部をハウジングとし、クランクシャフトのクランクピンを内輪部材として回転自在に支持するものであってもよい。
また、カムシャフトなどの他のシャフトを支持するための転がり軸受10にも本発明を適用することができる。
さらに、前述した実施形態の転がり軸受10は、転動体としてころ16を用いたニードル軸受として構成されているが、転動体としてボールを用いた玉軸受として構成することもできる。
【符号の説明】
【0033】
10:転がり軸受、14:外輪、15:外輪軌道、16:ころ(転動体)、22:シャフト(内輪部材)、40:すべり軸受部、42:転がり軸受部、44:油溝、45:油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に外輪軌道を有する外輪と、前記外輪軌道を転動する複数の転動体とを備え、この複数の転動体の内周側に内輪部材が嵌合される転がり軸受であって、
前記外輪には、前記転動体の軸方向に隣接して、前記内輪部材の外周面に油膜を介して摺接するすべり軸受部が一体的に設けられ、
前記すべり軸受部と前記内輪部材との間の径方向の隙間が、前記転動体と前記内輪部材との間の径方向の隙間よりも大きく設定されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記すべり軸受部の内周面に周方向の油溝が形成され、前記外輪に、前記油溝に潤滑油を供給するための油路が形成されている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記すべり軸受部が軸方向に複数備えられ、前記油路が、複数に分岐して各すべり軸受部の油溝にそれぞれ接続されている請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記すべり軸受部が軸方向に複数設けられ、各すべり軸受部の軸方向の間に前記外輪軌道及び前記転動体が配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記転動体が、軸方向に複数列配置され、各列の転動体の軸方向の間に前記すべり軸受部が設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−252543(P2011−252543A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126595(P2010−126595)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】