説明

転倒防止器及び転倒防止治具

【課題】H形鋼の本数にしたがって、必要な個数が増えることがなく、使い勝手に優れたH形鋼の転倒防止器を提供する。
【解決手段】隣接する一方のH形鋼の下フランジの上面と、他方のH形鋼の下フランジの下面とが接触するように両H形鋼が平行に配置された、複数のH形鋼H〜Hの配列からなる構造体Hallに用いる、H形鋼の転倒防止器10であって、構造体の、H形鋼のウエブW〜Wに直交する幅方向の全長を超えた長さにわたって、構造体上に幅方向に配置される棒状体12と、構造体の幅方向の一端に位置するH形鋼Hの上フランジUの側面Ucに当接し、かつ、棒状体に結合される第1当接部14と、構造体の幅方向の他端に位置するH形鋼Hの上フランジUの側面Udに当接し、かつ、棒状体に結合される第2当接部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建設現場等に仮置きされるH形鋼の転倒防止器及び転倒防止治具に関する。
【背景技術】
【0002】
地中連続壁等を形成するためには、しばしばH形鋼が用いられる。図6に示すように、H形鋼Hは、例えば、5本一組でフランジを互い違いに重ね合わせた状態で現場に運ばれる。そして、この状態のまま、台木100,100の上に仮置きされる。なお、この状態においては、転倒を防ぐために、金属製のバンドB,Bが5本一組のH形鋼Hに巻回されている。
【0003】
H形鋼Hを使用する場合には、まずバンドB,Bを切断する。そして、外側に位置するH形鋼Hから順番にクレーン等で吊上げて、使用位置まで搬送する。
【0004】
ところで、H形鋼は、通常の場合、フランジの幅がウエブの高さよりも小さい。そのため、仮置きされた場所の平坦性が悪いと、H形鋼が転倒してしまうおそれがあった。
【0005】
H形鋼の転倒を防止するために、パイプの両端にクランプを備えた転倒防止装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この転倒防止装置は、第1のH形鋼の上フランジを一方のクランプで把持し、及び第2のH形鋼の上フランジを他方のクランプで把持する。これにより、第1及び第2のH形鋼同士を接続し、転倒を防止する。
【特許文献1】特開2003−90131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の転倒防止装置は、2本のH形鋼の転倒防止を目的としたものである。そのため、m本(mは2以上の整数)のH形鋼に転倒防止措置を施すには、(m−1)個の転倒防止装置を準備する必要があった。
【0007】
また、1個の転倒防止装置には2個のネジ式クランプが設けられているために、m本のH形鋼に転倒防止措置を施すためには、2m個のネジを締める必要があった。そのため、H形鋼の本数mが多い場合には、ネジを締める回数が多くなり、使い勝手に劣っていた。
【0008】
この発明は、このような問題点に鑑みなされたものである。したがって、この発明の目的は、H形鋼の本数によらず、必要な個数が増えることがなく、使い勝手に優れたH形鋼の転倒防止器、及び、この転倒防止器に用いて好適な転倒防止治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、この発明によれば、隣接する一方のH形鋼の下フランジの上面と、他方のH形鋼の下フランジの下面とが接触するように両H形鋼が平行に配置された、n本(nは2以上の整数)のH形鋼の配列からなる構造体に用いる、H形鋼の転倒防止器が提供される。
【0010】
このH形鋼の転倒防止器は、棒状体と、第1当接部と、第2当接部とを備える。
【0011】
棒状体は、構造体の、H形鋼のウエブに直交する幅方向の全長を超えた長さにわたって、構造体上に幅方向に配置される。
【0012】
第1当接部は、構造体の幅方向の一端に位置するH形鋼の上フランジの側面に当接し、かつ、棒状体に結合される。
【0013】
第2当接部は、構造体の幅方向の他端に位置するH形鋼の上フランジの側面に当接し、かつ、前記棒状体に結合される。
【0014】
転倒防止器をこのように構成することにより、H形鋼からなる構造体の幅方向両端の上フランジは、棒状体の両側に接続された第1及び第2当接部で挟み込まれる。その結果、構造体の幅方向両端のH形鋼の変位が制限される。したがって、構造体を構成するH形鋼の転倒を防止できる。
【0015】
上述の転倒防止器において、第1及び第2当接部は、棒状体に着脱自在に結合する結合部をそれぞれ備えることが好ましい。
【0016】
このように構成することにより、結合部の棒状体に沿った結合位置を変えることで、第1及び第2当接部間の間隔を変更できる。よって、構造体を構成するH形鋼の本数の増減、つまり、構造体の幅方向の全長が変化したとしても、第1及び第2当接部を、構造体の両端を構成するH形鋼の上フランジ側面に確実に当接できる。その結果、H形鋼の転倒を防止できる。
【0017】
上述の転倒防止器において、第1及び第2当接部のそれぞれは第1当接板を備え、第1当接板には、上フランジの側面に当接する平坦な第1当接面が備えられていることが好ましい。
【0018】
このように構成することにより、第1当接板の第1当接面を、H形鋼の上フランジの側面に接触させることができる。その結果、H形鋼の転倒を防止できる。
【0019】
上述の転倒防止器において、第1及び第2当接部は、第1当接板の、棒状体側の一端から第1当接面とは反対側に直角に延在して設けられ、かつ、結合部に堅固に固定されている接続板を、それぞれ備えることが好ましい。
【0020】
このように構成することにより、接続板を介して、第1当接板を結合部に確実に固定することができる。
【0021】
上述の転倒防止器において、第1及び第2当接部は、第1当接板及び接続板の両者に接続されている第1補強板をそれぞれ備えることが好ましい。
【0022】
このように構成することにより、第1補強板が、第1当接板に掛かるH形鋼の荷重を接続板に分散させることができる。その結果、第1当接板の耐荷重能力が高まり、H形鋼が大型かつ大重量であっても、H形鋼の転倒を防止できる。
【0023】
上述の転倒防止器において、第1補強板に穴が形成されていることが好ましい。
【0024】
このように構成することにより、この穴にひもを通すことができる。その結果、未使用状態において、第1及び第2当接部をまとめて保管しておくことができる。よって、第1及び第2当接部の散逸が防止される。
【0025】
上述の転倒防止器において、第1及び第2当接部は、第1当接板の第1当接面から直角に延在していて、上フランジの下面に当接する、平坦な第2当接面を有する第2当接板をそれぞれ備えることが好ましい。
【0026】
このように構成することにより、第1及び第2当接部は、第2当接板の第2当接面により、H形鋼の上フランジの下面をも支持することができる。その結果、H形鋼の転倒を一層効果的に防止できる。
【0027】
上述の転倒防止器において、第1及び第2当接部は、第1当接板の第1当接面、及び第2当接板の下面の両者に接続されている第2補強板をそれぞれ備えることが好ましい。
【0028】
このように構成することにより、第2当接板の耐荷重能力を高めることができる。その結果、H形鋼の転倒を一層効果的に防止できる。
【0029】
この発明の転倒防止治具は、結合部と、接続板と、第1当接板と、第2当接板と、第1補強板と、第2補強板とを備える。
【0030】
結合部は、棒状体を把持して棒状体に結合される。
【0031】
接続板は、結合部に堅固に固定されている。
【0032】
第1当接板は、接続板の一端から、接続板の、結合部とは反対側に、接続板に直角に設けられ、少なくともH形鋼のフランジの厚みの2倍を超える長さにわたって延在し、及び、上フランジの側面に当接する第1当接面を有する。
【0033】
第2当接板は、棒状体が結合部によって把持されたときに、棒状体の外周面から測ってフランジの厚みの2倍の距離に相当する第1当接板上の位置に、第1当接板の第1当接面に直角に設けられ、接続板とは反対側に延在し、及び、上フランジの下面と当接する第2当接面を有する。
【0034】
第1補強板は、第1当接板の第1当接面とは反対側の裏面と、接続板の結合部とは反対側の裏面とに接続される。
【0035】
第2補強板は、第1当接板の第1当接面の、第2当接板よりも下側の面と、第2当接板の第2当接面とは反対側の裏面とに接続される。
【0036】
この転倒防止治具は、棒状体の両端にそれぞれ固定される。つまり、転倒防止治具は2個一組で用いられる。この転倒防止治具は、隣接する2本のH形鋼を任意に選択したときに、一方のH形鋼の下フランジの上面と、他方のH形鋼の下フランジの下面とが接触するように配置された、n本のH形鋼からなる構造体の転倒防止に有効である。
【0037】
すなわち、それぞれの第1当接面が互いに臨み合うように、棒状体の両端に結合部で結合する。しかる後に、一対の第1当接面で構造体を挟むようにすることにより、構造体を構成するH形鋼の転倒を防止することができる。
【発明の効果】
【0038】
この発明は、上述のように構成したので、たとえH形鋼の本数が増えたとしても、必要な個数が増えることがなく、使い勝手に優れたH形鋼の転倒防止器を提供することができる。また、この転倒防止器に用いて好適な転倒防止治具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。尚、各図は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例に過ぎない。したがって、この発明は、以下の実施の形態に何ら限定されない。
【0040】
まず、図1及び図2を参照して、この発明の転倒防止器10及び第1及び第2転倒防止治具14,14について説明する。
【0041】
図1は、この発明の転倒防止器10を、H形鋼に使用した状態を示す斜視図である。図2は、転倒防止器10の斜視図である。
【0042】
まず、図1を参照して、転倒防止器10が使用されるH形鋼H〜Hの配置について説明する。
【0043】
図示した例では、隣接するフランジを部分的に重ね合わせ、かつウエブW〜Wを平行にして配列された互いに同形な5本のH形鋼H〜Hが、一組みの構造体Hallを形成している。この構造体Hallは、それぞれの下フランジL〜Lを下に向けて、互いに平行に台木100,100上に載置されている。これらのH形鋼H〜Hは占有面積をできるだけ小さくするように配置されている。すなわち、隣り合った2本のH形鋼HとHi+1(iは1〜4の整数)を任意に選択したときに、一方のH形鋼Hの下フランジLの上面La(又は下面Lb)と、他方のH形鋼Hi+1の下フランジLi+1の下面Li+1b(又は上面Li+1a)とが接触するように配置されている。
【0044】
より具体的には、H形鋼HとHは、下フランジL及びLを下にして、並びに上フランジU及びUを上にして、互いに平行に配置されている。H形鋼HとHとの間には、H形鋼HのウエブWの厚みよりも大きな間隔SHが空けられている。
【0045】
H形鋼Hは、下フランジL及びLの上面La及びLaとで形成される平面上に載置される。つまり、H形鋼Hの下フランジLの下面Lbは、下フランジL及びLの上面La及びLaの両者に接触している。
【0046】
その結果、H形鋼HのウエブWの上端は、上フランジU及びU間の間隔SHから突出することとなる。したがって、H形鋼Hの上フランジUの上面Uaは、H形鋼H及びHの上フランジU及びUの上面Ua及びUaよりも、フランジの厚みDに等しい高さだけ突出して延在する。つまり、H形鋼Hの上フランジUの下面Ubは、上フランジU及びUの上面Ua及びUaの両者に接触している。
【0047】
H形鋼H〜Hに関しても同様であり、H形鋼Hの下フランジLの下面Lbは、下フランジL及びLの上面La及びLaの両者に接触している。また、H形鋼Hの上フランジUの上面Uaは、H形鋼H及びHの上フランジU及びUの上面Ua及びUaよりも、フランジの厚みDに等しい高さだけ突出して延在する。
【0048】
ここで、5本のH形鋼H〜Hで形成される構造体Hallにおいて、ウエブW〜Wが延在する各面に直交する方向を幅方向と称する。また、構造体Hallにおいて、ウエブW〜Wの延在する各面内であって、幅方向に直交する方向を奥行き方向と称する。また、幅方向及び奥行き方向に直交する方向を高さ方向と称する(図1参照)。
【0049】
図1に示すように、転倒防止器10,10は、構造体Hall上であって、構造体Hallの奥行き方向の両端部付近に設けられている。より詳細には、転倒防止器10,10は、構造体Hallの上側、すなわちH形鋼H〜Hの上フランジU〜Uが延在する側に配置されている。
【0050】
次に、図1を参照して、転倒防止器10について概説する。
【0051】
個々の転倒防止器10は、棒状体としての足場パイプ12と、第1当接部としての第1転倒防止治具14と、第2当接部としての第2転倒防止治具14とを備える。
【0052】
足場パイプ12は、構造体Hallの幅方向の全長よりも長い長さを有する中空の円筒である。足場パイプ12は、構造体Hall上に、幅方向に平行に配置される。
【0053】
第1転倒防止治具14は、足場パイプ12の一端12a側に、結合部としてのクランプ18を介して結合されている。第1転倒防止治具14は、H形鋼Hの上フランジUの側面Ucに当接する第1当接板16を備えている。つまり、第1当接板16は、構造体Hallの幅方向の一端を構成するH形鋼Hの上フランジUの側面であって、構造体Hallの幅方向外側に面する側面Ucに当接する。
【0054】
また、第1転倒防止治具14は、上フランジUの下面Ubに当接する第2当接板22を備えている。第2当接板22は、第1当接板16に対して直角に、構造体Hallの内側に向かって延在している。
【0055】
第2転倒防止治具14は、足場パイプ12の他端12b側に、結合部としてのクランプ18を介して結合されている。第2転倒防止治具14は、第1転倒防止治具14と同様の構成を有する部品である。第2転倒防止治具14は、H形鋼Hの上フランジUの側面Udに当接する第1当接板16を備えている。つまり、第1当接板16は、構造体Hallの幅方向の他端を構成するH形鋼Hの上フランジUの側面であって、構造体Hallの幅方向外側に面する側面Udに当接する。
【0056】
また、第2転倒防止治具14は、上フランジUの下面Ubに当接する第2当接板22(図2)を備えている。第2当接板22は、第1当接板16に対して直角に、構造体Hallの内側に向かって延在している。
【0057】
次に、主に図2を参照して、第1及び第2転倒防止治具14及び14について詳細に説明する。
【0058】
第1及び第2転倒防止治具14及び14は、互いに同様に構成されているので、ここでは、代表として第1転倒防止治具14について説明を行う。以下の説明を第2転倒防止治具14に適用する場合には、部品の符号に添えられている下付数字「1」を「2」と読み替えればよい。
【0059】
なお、図2においては、第1転倒防止治具14はヒンジ18cを前面にして描いてある。また、説明の便宜のために、第2転倒防止治具14は、図1とは逆向き、つまりボルトナット18dを前面にして描いてある。
【0060】
第1転倒防止治具14は、クランプ18と、接続板20と、第1当接板16と、第2当接板22とを主な構成要素として備えている。
【0061】
クランプ18は、足場パイプ12の外周面を把持する部品である。クランプ18は、足場パイプ12の外周面に沿って湾曲する2本の腕18a,18bと、これらの腕18a及び18bを開閉自在に係合するヒンジ18cと、足場パイプ12を把持した状態で、腕18a及び18bを締付けるボルトナット18dとを備えている。したがって、結合部としてのクランプ18は、棒状体としての足場パイプ12に着脱自在に結合できる。
【0062】
接続板20は、上面20aと下面20bとを備えた矩形平板状の部品である。接続板20の上面20aはクランプ18の下面18eに溶接により堅固に固定されている。第1転倒防止治具14の使用に当たっては、接続板20が、H形鋼H〜H(図1)のフランジと平行になるように、クランプ18を足場パイプ12に固定する。
【0063】
第1当接板16は、表面16aと裏面16bとを備えた矩形平板状の部品である。第1当接板16の平坦な表面16aは、第1当接面として機能し、上述のようにH形鋼Hの上フランジUの側面Uc(図1)に当接する。第1当接板16は、接続板20に接続され、高さ方向に平行に延在している。詳細には、第1当接板16は、接続板20の構造体Hallに面した端部に接続され、接続板20に対して直角に延在している。換言すれば、接続板20は、第1当接板16の、足場パイプ12側の一端から、第1当接面(表面16a)とは反対側に直角に延在して設けられている。第1当接板16の高さ方向に沿った長さは、フランジの厚みDの2倍を超える長さとする。
【0064】
第1当接板16の裏面16bと、接続板20の下面20bとを接続して、平面形状が直角三角形状の第1補強板24が設けられている。より詳細には、裏面16bの奥行き方向に平行な2辺の中点をそれぞれ結んだ中心線と、下面20bの奥行き方向に平行な2辺の中点をそれぞれ結んだ中心線とを接続するように、第1補強板24が設けられている。第1補強板24は、第1当接板16及び接続板20に溶接により接続されている。第1補強板24には、所定箇所に円形の穴24aが形成されている。
【0065】
第2当接板22は、上面22aと下面22bとを備えた矩形平板状の部品である。第2当接板22は、第1当接板16の表面16aに接続されている。第2当接板22は、第1当接板16の表面16a(第1当接面)対して直角、つまり、H形鋼Hの上フランジUの上面Uaに対して平行に延在し、幅方向に所定長さにわたって延びている。第2当接板22の平坦な上面22aは、第2当接面として機能し、上フランジUの下面Ubに当接するように配置されている。すなわち、第2当接板22は、足場パイプ12の外周面から高さ方向に測って、フランジの厚みDの2倍の高さ(2D)に上面22aが位置するように第1当接板16に接続されている。
【0066】
第2当接板22の下面22bと第1当接板16の表面16a(第1当接面)とを接続して、平面形状が直角三角形状の第2補強板26が設けられている。より詳細には、表面16aの奥行き方向に平行な2辺の中点をそれぞれ結んだ中心線と、下面22bの奥行き方向に平行な2辺の中点をそれぞれ結んだ中心線とを接続するように、第2補強板26が設けられている。第2補強板26は、第1及び第2当接板16及び22に溶接により堅固に接続されている。
【0067】
ここで、転倒防止器10の具体的な構成について一例を挙げる。足場パイプ12は、好ましくは、例えば外径が48.6mmの足場用鋼管を用いることが好ましい。クランプ18としては、足場用鋼管に一般的に用いられるクランプを用いることが好ましい。また、接続板20,第1当接板16,第2当接板22,第1補強板24及び第2補強板26は、H形鋼の重みを受けても変形しないだけの厚みの金属板(例えば鋼板)とすることが好ましい。この厚みは、好ましくは、例えば6〜8mmが好ましい。
【0068】
次に、主に図3〜図5を参照して、転倒防止器10の使用方法について説明する。図3(A)は、転倒防止器10の第1の使用態様を示す正面図である。図3(B)は、転倒防止器10の第2の使用態様を示す正面図である。なお、図3(A)及び(B)では、図面の見やすさを考慮して、H形鋼H〜Hの断面に斜線を施してある。
【0069】
図4は、構造体Hall’からH形鋼Hを引き出す途中の過程を、転倒防止器10の取り付け過程とともに示す模式図である。図5は、構造体Hall’からH形鋼Hを引き出し終わった後の状態を示す模式図である。
【0070】
(第1の使用態様)
まず、図3(A)を参照して、転倒防止器10の第1の使用態様について説明する。
【0071】
転倒防止器10を使用するに当たっては、まず、2本の足場パイプ12,12を構造体Hallの上側に幅方向に平行に載置する。より詳細には、足場パイプ12,12を、上フランジU及びUの上面Ua及びUa上に載置する。以下の説明では、2本の足場パイプ12,12の一方につき、代表して説明する。
【0072】
上面Ua及びUaは、他の上面Ua,Ua及びUaよりも、高さDだけ高い位置に存在する。したがって、足場パイプ12の両端部12a及び12b付近において、足場パイプ12と上面Ua及びUaとは接触せず、両者の間にはフランジの厚みDに等しい間隔が形成される。
【0073】
その上で、足場パイプ12の一端12a側に第1転倒防止治具14をセットする。
【0074】
まず、第1転倒防止治具14を足場パイプ12に固定する。すなわち、ヒンジ18c(図2)の周りに2本の腕18a,18b(図2)を回転させ、腕18a,18bで足場パイプ12の外周面を把持する。この状態で、ボルトナット18d(図2)を固く締付ける。その結果、第1転倒防止治具14は、足場パイプ12の周りで回転不能な状態に、足場パイプ12に固定される。
【0075】
そして、第1転倒防止治具14を、第1当接板16の表面16a(図2)が上フランジUの側面Ucに当接するように位置決めする。
【0076】
ところで、上述のように、足場パイプ12の一端12aと上フランジUの上面Uaとの間には、フランジの厚みDに等しい間隔が存在している。また、第2当接板22の上面22a(図2)は、足場パイプ12の外周面から測って、フランジの厚みDの2倍の高さに位置している。
【0077】
これらの結果、第1当接板16を側面Ucに当接させると、第2当接板22の上面22aも上フランジUの下面Ubに自動的に当接する。
【0078】
続いて、第2転倒防止治具14の位置決めを行う。まず、クランプ18(図2)を足場パイプ12に仮止めする。つまり、クランプ18のボルトナット18d(図2)を軽く締付ける。その結果、第2転倒防止治具14は、足場パイプ12に沿って移動可能、かつ、足場パイプ12の周りで回転可能な状態に、足場パイプ12に仮止めされる。
【0079】
その上で、第1当接板16の表面16a(図2)を側面Udに、第2当接板22の上面22a(図2)を上フランジUの下面Ubに、それぞれ当接させるように位置決めする。
【0080】
第2転倒防止治具14の位置決め終了後、第2転倒防止治具14を足場パイプ12に本止めする。すなわち、ボルトナット18dを固く締付け、第2転倒防止治具14を足場パイプ12に固定する。
【0081】
これにより、H形鋼H〜Hから構成される構造体Hallへの転倒防止器10の取り付けが完了する。
【0082】
(第2の使用態様)
続いて、図3(B)、図4及び図5を参照して、転倒防止器10の第2の使用態様について説明する。
【0083】
図3(B)に示すように、第2の使用態様は、構造体Hall’を構成するH形鋼の数が4本である点が第1の使用態様と異なっている。すなわち、第2の使用態様の構造体Hall’においては、構造体Hallを構成していたH形鋼Hが取り除かれている。つまり、構造体Hall’は、4本のH形鋼H〜Hで構成されている。
【0084】
構造体Hall’に取付けられる転倒防止器10においては、H形鋼H側に配置される第2転倒防止治具14の配置は、第1の実施態様と同様である。したがって、以下の説明では、H形鋼H側に配置される第1転倒防止治具14について説明する。
【0085】
まず、(第1の使用態様)と同様にして、足場パイプ12を、上フランジU及びUの上面Ua及びUa上に載置する。次に、第1転倒防止治具14のクランプ18(図2)を足場パイプ12に仮止めする。
【0086】
そして、第1転倒防止治具14を、第1当接板16の表面16a(図2)が上フランジUの側面Ucに当接するように位置決めする。
【0087】
ところで、H形鋼Hは、H形鋼Hの下フランジL上に乗っている。したがって、上フランジUは、上フランジUよりも、フランジの厚みDに等しい高さだけ突出している。その結果、第2の使用態様においては、第2当接板22は、上フランジUの下面Ubとは当接しない。この使用態様では、第1当接板16のみが上フランジUの側面Ucに当接する。
【0088】
続いて、(第1の使用態様)と同様に、第1転倒防止治具14を足場パイプ12に本止めする。
【0089】
これにより、H形鋼H〜Hから構成される構造体Hall’への転倒防止器10の取り付けが完了する。
【0090】
ところで、H形鋼Hが取り除かれることにより、構造体Hall’において、H形鋼Hは転倒しやすい不安定な状態となっている。つまり、H形鋼Hの下フランジLは、下面Lbの半分未満の面積で、H形鋼Hの下フランジLに乗っている。したがって、H形鋼Hの転倒を防止しつつ、転倒防止器10を構造体Hall’に取付けるためには、特別な配慮が必要とされる。
【0091】
以下、図1,図3(A),図4及び図5を参照して、この特別な配慮について説明する。具体的には、構造体Hallの転倒防止状態(図1及び図3(A))から、構造体Hall’の転倒防止状態(図5)に至るまでの操作について説明する。
【0092】
まず、図1に示す状態において、足場パイプ12及び12からクランプ18及び18を取り外す。これにより、構造体Hallにおいて、H形鋼Hは、第1転倒防止治具14及び14で支持されない状態となる。つまり、H形鋼Hを構造体Hallから移動させることが可能となる。
【0093】
続いて、図4に示すように、クレーンその他の任意好適な手段を用いてH形鋼Hを構造体Hallから離脱させる。すなわち、H形鋼Hの奥行き方向の一端部Haを幅方向に沿って、構造体Hall’から離間する方向に引き出す(図中矢印Ar1)。つまり、H形鋼Hを、H形鋼Hから斜めに引き出す。
【0094】
これにより、一端部Ha側では、下フランジLは下フランジLから完全に離間し、H形鋼H(上フランジU)とH形鋼H(上フランジU)との間に隙間S(図中斜線部)ができる。
【0095】
上述のように、H形鋼Hを斜めに引き出しているので、他端部Hb側では、下フランジLは、下フランジLに乗った状態が保たれる。つまり、他端部Hb側において、下フランジLに下フランジLが重なることにより、この重複領域で、H形鋼Hの荷重が支えられる。その結果、H形鋼Hの転倒が防止されている。
【0096】
H形鋼Hと構造体Hall’とを、このように配置した上で、図4に示すように、隙間Sを利用して構造体Hall’の一端側Hall’aに存在する足場パイプ12に、再び第1転倒防止治具14を取付ける。つまり、H形鋼HがH形鋼Hと離間している側の足場パイプ12にクランプ18を介して、第1転倒防止治具14を本止めする。なお。取付けの具体的手順は上述した通りである。
【0097】
一端側Hall’aへの転倒防止器10の取付けが終了したならば、図5に示すように、H形鋼Hの他端部Hb側を構造体Hall’から引き出す(図中矢印Ar2)。この際、一端側Hall’aには、既に転倒防止器10が取付けられているので、H形鋼Hを構造体Hall’から完全に引き出したとしても、H形鋼Hが転倒することはない。
【0098】
H形鋼Hが構造体Hall’から完全に離間した状態で、構造体Hall’の他端側Hall’bに存在する足場パイプ12に第1転倒防止治具14を取付ける。
【0099】
このようにして、取付け過程でのH形鋼Hの転倒を防止しつつ、構造体Hall’への転倒防止器10,10の取り付けが完了する。
【0100】
次に、転倒防止器10の奏する効果について説明する。
【0101】
転倒防止器10の使用個数は、構造体Hallを構成するH形鋼の本数に依存して増加することがない。つまり、H形鋼の転倒を防止するためには、構造体Hallの奥行き方向の両端付近にそれぞれ1個ずつの転倒防止器10を使用するだけでよい。
【0102】
また、転倒防止器10は、構造体Hallを構成するH形鋼の本数が変化したとしても、第1及び第2転倒防止治具14,14の間隔を変更するだけで、それに対応することができる。すなわち、クランプ18又は18を緩めて、第1又は第2転倒防止治具14又は14を足場パイプ12に沿って移動させる。これにより両第1当接板16及び16間の間隔を、構造体Hallの幅方向の全長に合わせて変化させる。このように簡単な操作で、転倒防止器10はH形鋼の本数の変化に対応できるので、使い勝手に優れている。
【0103】
また、第1当接板16の高さ方向の長さをH形鋼のフランジの厚みDの2倍を超える大きさとしている。その結果、(1)第1当接板16が当接するH形鋼が台木100に載置されている場合、及び(2)第1当接板16が当接するH形鋼が他のH形鋼上に乗っている場合の両方の場合で、第1当接板16は、H形鋼の上フランジの側面に確実に当接する。よって、どちらの場合であっても、H形鋼の転倒を防止することができる。
【0104】
また、第1当接板16の裏面16bと、接続板20の下面20bとの間に、第1補強板24が設けられている。その結果、第1当接板16に掛かるH形鋼の重さを、第1補強板24を介して、接続板20に分散させることができる。これにより、第1当接板16の耐荷重能力を高めることができる。
【0105】
また、第2当接板22を設けることにより、H形鋼Hの上フランジUの下面Ubを支持することができる。その結果、H形鋼Hの揺らぎを抑えることができる。よって、H形鋼Hの転倒をより一層効果的に防止できる。
【0106】
また、第1補強板24,24には、穴24a,24aが設けられている。したがって、転倒防止器10を使用していない場合に、これらの穴24a,24aにひもを通すことで、第1及び第2転倒防止治具14,14をまとめて保管しておくことができる。
【0107】
次に、転倒防止器10の設計条件及び変形例について説明する。
【0108】
この実施の形態においては、構造体Hallに対して2個の転倒防止器10,10を取付けていた。しかし、転倒防止器10,10の取付け個数は、構造体Hallを構成するH形鋼の転倒を防止できれば、2個には限られない。例えば、H形鋼が大型かつ大重量の場合、構造体Hallの奥行き方向の一端、他端及び中央部に1個ずつ、合計3個の転倒防止器10を設けてもよい。また、例えば、H形鋼が小型かつ軽量の場合、奥行き方向の中央部に1個だけ転倒防止器10を設けてもよい。
【0109】
また、構造体Hallを構成するH形鋼のサイズに特に限定はない。種々のサイズのH形鋼からなる構造体Hallに対して、この発明の転倒防止具10は適用可能である。
【0110】
また、第1及び第2転倒防止治具14,14において、第2当接板22,22は必須の構成要件ではない。つまり、第1当接板16,16が存在しさえすれば、第2当接板22,22を設ける必要はない。
【0111】
また、この実施の形態では、第1当接板16,16を平行平板状とした。しかし、第1当接板16,16は、上フランジの側面に当接する表面16a,16a(第1当接面)を備えていれば、平行平板には限定されない。例えば、第1当接面を有する塊状のブロック体としてもよい。
【0112】
また、第1及び第2転倒防止治具14,14において、接続板20,20は必須の構成要件ではない。第1当接板16,16の耐荷重能力が実用上十分な大きさであれば、第1当接板16,16を直接クランプ18,18に接続してもよい。
【0113】
また、この実施の形態では結合部としてクランプ18,18を用いている。しかし、結合部はクランプ18,18には限定されない。結合部としては、足場パイプ12に沿って移動可能に第1当接板16,16を固定できるものであれば、公知の種々の部品を使用することができる。
【0114】
また、この実施の形態では、転倒防止器10を、複数のH形鋼からなる構造体に適用した例を示した。しかし、転倒防止器10は、H形鋼からなる構造体のみでなく、複数のI形鋼からなる構造体にも適用することが可能である。I形鋼からなる構造体に転倒防止器10を適用することにより、I形鋼の転倒を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】転倒防止器を、H形鋼に使用した状況を示す斜視図である。
【図2】転倒防止器10の斜視図である。
【図3】(A)は、転倒防止器の第1の使用態様を示す正面図である。(B)は、転倒防止器の第2の使用態様を示す正面図である。
【図4】構造体からH形鋼を引き出す途中の過程を、転倒防止器の取り付け過程とともに示す模式図である。
【図5】構造体からH形鋼を引き出し終わった後の状態を示す模式図である。
【図6】従来の技術の説明に供する模式図である。
【符号の説明】
【0116】
10 転倒防止器
12 足場パイプ
12a 一端
12b 他端
14 第1転倒防止治具
14 第2転倒防止治具
16,16 第1当接板
16a,16a 表面
16b,16b 裏面
18,18 クランプ
18a,18b,18a,18b 腕
18c,18c ヒンジ
18d,18d ボルトナット
18e,18e 下面
20,20 接続板
20a,20a 上面
20b,20b 下面
22,22 第2当接板
22a,22a 上面
22b,22b 下面
24,24 第1補強板
24a,24a 穴
26,26 第2補強板
〜H H形鋼
a 一端部
b 他端部
all 構造体
all’ 構造体
all’a 一端側
all’b 他端側
〜L 下フランジ
a〜La 上面
b〜Lb 下面
〜U 上フランジ
a〜Ua 上面
b〜Ub 下面
〜W ウエブ
c,Ud,Uc 側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する一方のH形鋼の下フランジの上面と、他方のH形鋼の下フランジの下面とが接触するように両H形鋼が平行に配置された、n本(nは2以上の整数)のH形鋼の配列からなる構造体に用いる、H形鋼の転倒防止器であって、
前記構造体の、H形鋼のウエブに直交する幅方向の全長を超えた長さにわたって、当該構造体上に該幅方向に配置される棒状体と、
前記構造体の前記幅方向の一端に位置するH形鋼の上フランジの側面に当接し、かつ、前記棒状体に結合される第1当接部と、
前記構造体の前記幅方向の他端に位置するH形鋼の上フランジの側面に当接し、かつ、前記棒状体に結合される第2当接部とを含むことを特徴とするH形鋼の転倒防止器。
【請求項2】
前記第1及び第2当接部は、前記棒状体に着脱自在に結合する結合部をそれぞれ備えることを特徴とする請求項1に記載のH形鋼の転倒防止器。
【請求項3】
前記第1及び第2当接部のそれぞれは第1当接板を備え、該第1当接板には、前記上フランジの前記側面に当接する平坦な第1当接面が備えられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のH形鋼の転倒防止器。
【請求項4】
前記第1及び第2当接部は、前記第1当接板の、前記棒状体側の一端から前記第1当接面とは反対側に直角に延在して設けられ、かつ、前記結合部に堅固に固定されている接続板を、それぞれ備えることを特徴とする請求項3に記載のH形鋼の転倒防止器。
【請求項5】
前記第1及び第2当接部は、前記第1当接板及び前記接続板の両者に接続されている第1補強板をそれぞれ備えることを特徴とする請求項4に記載のH形鋼の転倒防止器。
【請求項6】
前記第1補強板に穴が形成されていることを特徴とする請求項5に記載のH形鋼の転倒防止器。
【請求項7】
前記第1及び第2当接部は、前記第1当接板の前記第1当接面から直角に延在していて、前記上フランジの下面に当接する、平坦な第2当接面を有する第2当接板をそれぞれ備えることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載のH形鋼の転倒防止器。
【請求項8】
前記第1及び第2当接部は、前記第1当接板の前記第1当接面、及び前記第2当接板の下面の両者に接続されている第2補強板をそれぞれ備えることを特徴とする請求項7に記載のH形鋼の転倒防止器。
【請求項9】
棒状体を把持して該棒状体に結合される結合部と、
該結合部に堅固に固定されている接続板と、
該接続板の一端から、該接続板の、前記結合部とは反対側に、該接続板に直角に設けられ、少なくともH形鋼のフランジの厚みの2倍を超える長さにわたって延在し、及び、上フランジの側面に当接する第1当接面を有する第1当接板と、
前記棒状体が前記結合部によって把持されたときに、前記棒状体の外周面から測って前記フランジの厚みの2倍の距離に相当する前記第1当接板上の位置に、該第1当接板の前記第1当接面に直角に設けられ、前記接続板とは反対側に延在し、及び、前記上フランジの下面と当接する第2当接面を有する第2当接板と、
前記第1当接板の前記第1当接面とは反対側の裏面と、前記接続板の前記結合部とは反対側の裏面とに接続される第1補強板と、
前記第1当接板の前記第1当接面の、前記第2当接板よりも下側の面と、前記第2当接板の前記第2当接面とは反対側の裏面とに接続される第2補強板とを備えることを特徴とするH形鋼の転倒防止に用いる転倒防止治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−63790(P2008−63790A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241699(P2006−241699)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【特許番号】特許第3868478号(P3868478)
【特許公報発行日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(300052419)大浦工測株式会社 (6)
【Fターム(参考)】