説明

転写シートと成形同時転写装置

【課題】 転写シート1の巻き解き終了時、転写シート1が巻芯5から脱離するのを防止することによって、連続して加飾成形品を作成する際の生産性を向上させるとともに加飾成形品を作成する際、成形不良の発生を抑える転写シート1を提供することを目的とする。
【解決手段】 基体シート1の一面に少なくとも図柄層2と接着層3とが転写層4として形成され、図柄層2のパターンとして位置決めパターンが少なくとも形成され、巻芯5にロール状に巻かれて使用される転写シート1であって、巻芯5側の端部に位置決めパターンが形成されていない空白部6を含むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形と同時に成形品表面に絵柄を付与する転写シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の表面を装飾する方法の一つとして、転写シートを利用した成形同時転写法がある。成形同時転写法とは、基体シート上に、図柄層、接着層などからなる転写層を形成した枚葉または長尺状の転写シートを成形射出成形金型内に挟み込み、射出成形金型内に樹脂を射出充満させ、冷却して樹脂成形品を得るのと同時に成形品表面に転写シートを密着させた後、基体シートを剥離して、被転写物面に転写層を転移して装飾を行う方法である。加飾成形品を長尺状の転写シートを用いて作成する場合は、ロール状の転写シートを巻き出し射出成形金型に送り出す送り装置と、金型内に配置された転写シートを射出成形金型内に挟み込み、型閉めした後溶融樹脂と転写シートと一体化する射出成形装置と、転写シートと射出成形金型との位置合わせを正確に行うための位置決めセンサおよび制御部と、射出成形金型を通過した転写シートを巻き取る巻取装置と、からなる成形同時転写装置を用いる。当該成形同時転写装置を用いることにより、生産性よく加飾成形品を得ることができる。(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平4−158015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形同時転写装置と巻芯にロール状に巻かれ使用される転写シート(以下、転写シートという)を用いて、多量に加飾成形品を作成する場合、転写シートを使い切る毎に新しい転写シートを用意し成形同時転写装置に付け替えるといった作業を行っていた。しかし、この転写シートには、一様に転写層が形成されているので、転写シートを使い切る前に転写シートの巻き解き終了部分を検出し、その巻き解きを停止することが不可能であった。それ故、転写シートが巻き解き終了部分に達しても、成形同時転写装置は転写シートを転写シート送り装置から転写シート巻取装置へ送り続けるので、巻芯と接着している転写シートが無理やり射出成形金型方向に引っ張られ、巻芯から脱離し、最終的には転写シートが転写シート送り装置から脱離する。その結果、複数の転写シートを使用し連続的に成形品を作成する場合、転写シート送り装置から脱離した転写シートと新しい転写シートを繋ぎ合わせるために、新しい転写シートを転写シート送り装置に設置されている送りモータにセットした後、複数のガイドローラを介して、転写シート送り装置から脱離した転写シートを繋ぎ合わせなければならず、連続して加飾成形品を作成する際の生産性が低下するといった問題があった。また、これに加えて、転写シートが巻芯から脱離した際に、転写層の一部が基体シートから剥離し、射出成形金型内に侵入するので、その後、作成される加飾成形品はダコン等の成形不良を引き起こすといった問題もあった。したがって、この発明は上記のような欠点を解消し、転写シートの巻き解き終了時において、転写シートが巻芯から脱離するのを防止することによって、連続して加飾成形品を作成する際の生産性を向上させるとともに加飾成形品を作成する際、成形不良の発生を抑える転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転写シートは、上記の目的を達成するために、次のように構成した。
【0006】
すなわち、本発明の第一形態の転写シートは、基体シートの一面に少なくとも図柄層と接着層とが転写層として形成され、図柄層のパターンとして位置決めパターンが少なくとも形成され、巻芯にロール状に巻かれて使用される転写シートであって、巻芯側の端部に位置決めパターンが形成されていない空白部を含むように構成されている。
【0007】
本発明の第二形態として、本発明の第一形態の転写シートは、空白部が巻芯側の反対側の端部にさらに形成されていてもよい。
【0008】
本発明の第三形態として、本発明の第一〜二形態の転写シートは、空白部が基体シートと同じ幅で形成されていてもよい。
【0009】
本発明の第四形態として、本発明の第一〜三形態の転写シートは、空白部が透明であってもよい。
【0010】
本発明の第五形態として、本発明の第一〜四形態の転写シートは、空白部は無地フィルムが継ぎ足されて形成されていてもよい。
【0011】
さらに本発明の成形同時転写装置は、上記の目的を達成するために、次のように構成した。
【0012】
すなわち、本発明の第一形態の成形同時転写装置は、ロール状の転写シートを送り出す転写シート送り装置と、転写シートの位置決めパターンを検出する位置決めセンサと、送り出された転写シートを挟み込み、溶融樹脂が射出されて転写シートと一体化した成形品を得る射出成形金型と、転写後の転写シートを巻き取る転写シート巻取装置と、転写シート送り装置と転写シート巻取装置の動作を制御する制御部とを備え、位置決めセンサが転写シートの空白部を検出した際に、制御部が転写シートの送りを停止させるように構成した。
【0013】
本発明の成形同時転写装置の第二形態として、本発明の第一形態の成形同時転写装置は巻芯側の端部が巻芯から離れない状態となるように制御部が転写シートの送りを停止させるように構成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の転写シートは、基体シートの一面に少なくとも図柄層と接着層とが転写層として形成され、図柄層のパターンとして位置決めパターンが少なくとも形成され、巻芯にロール状に巻かれて使用される転写シートであって、巻芯側の端部に位置決めパターンが形成されていない空白部を含むようにしたので、複数の転写シートを使用し、交換することによって、連続して加飾成形品を作成する場合でも、転写シートの巻き解き終了時に転写シートがロールの巻芯から脱離するのを防止することができ、加飾成形品の生産性を向上させるとともに加飾成形品を作成する際、成形不良の発生を抑えることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0016】
図1は本発明の第一形態に係る巻芯5にロール状に巻かれて使用される転写シート100の斜視図、図2は転写シート100のA−A断面の断面図をそれぞれ示したものである。
【0017】
本発明の第一形態の転写シート100は、基体シート1の一面に少なくとも図柄層2と接着層3とが転写層4として形成され、図柄層2のパターンとして位置決めパターン部が少なくとも形成され、巻芯5にロール状に巻かれて使用される転写シート100であって、巻芯5側の端部に位置決めパターン部が形成されていない空白部6を含むように構成されている(図1、図2参照)。
【0018】
まず、本発明の転写シート100の構成について説明する。
【0019】
転写シート100は基体シート1の上に図柄層2が形成され、その上に接着層3が少なくとも形成されており、図柄層2は長尺方向位置決めパターン部200と幅方向位置決めパターン部201とからなる位置決めパターン部20と加飾パターン部21から構成されている。(図2参照)。
【0020】
基体シート1の材質としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シート、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、グラシン紙、コート紙、セロハンなどのセルロース系シート、あるいは以上の各シートの複合体など、通常の部分マット転写シート100の基体シート1として離型性を有するものを使用することができる。また、基体シート1の表面が微細な凹凸を有する場合は、転写層4に凹凸が写し取られ、艶消しやヘアラインなどの表面形状を表現することができる。
【0021】
図柄層2は、位置決めパターン部20と加飾パターン部21から構成されている。
【0022】
位置決めパターン部20は、成形同時転写法を用いて加飾成形品を作成する際、射出成形金型101に対する転写シート100の位置決めを正確に行うために、後述の位置決めセンサ12によって検出される箇所であり、転写シート100の幅方向の両末端に加飾パターン部21と同時に形成される。
【0023】
また、この位置決めパターン部20は、射出成形金型101のパーティング面に対する転写シート100の水平方向の位置を決定するための幅方向位置決めパターン部201と、射出成形金型101パーティング面に対する転写シート100の長尺方向の位置を決定するための長尺方向位置決めパターン部200からなる。射出成形金型101に対する転写シート100の位置決めは、後述記載のように幅方向位置決めパターン部201並びに幅方向位置決めセンサ121と、長尺方向位置決め部200並びに長尺方向位置決めセンサ120を用いて行う。
【0024】
加飾パターン部21の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキッド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。また、金属発色させる場合には、アルミニウム、チタン、ブロンズ等の金属粒子やマイカに酸化チタンをコーティングしたパール顔料を用いることもできる。加飾パターン部21の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。
【0025】
加飾パターン部21は、金属薄膜からなるもの、あるいは印刷膜と金属薄膜との組み合わせからなるものでもよい。金属薄膜は、真空蒸着法、スパッターリング法、イオンプレーティング法、鍍金法などで形成する。表現したい金属光沢色に応じて、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金または化合物を使用する。
【0026】
一部分に金属薄膜を形成する場合の形成方法としてはシーライト法とパスター法が挙げられる。
【0027】
シーライト法とは、金属薄膜を形成する前に水溶性樹脂層を部分的に形成し、蒸着後、水洗により水溶性樹脂層とその上に形成された不要な金属薄膜部位を除去し、部分的に金属薄膜を形成する方法である。ここで水溶性樹脂層の材質としては、たとえば、ポリビニルアルコール、デンプン、アルギド、エポキシ、ポリウレタンなどに代表される水溶性樹脂をバインダーとするインキが挙げられる。また形成方法としては、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法が挙げられる。
【0028】
パスター法とは、金属薄膜を形成した後、部分的に金属薄膜の上に耐アルカリ性樹脂層を形成し、その後のアルカリ洗浄により金属薄膜を部分的に形成する方法である。ここで耐アルカリ性樹脂層の材質としては塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体が挙げられる。耐アルカリ性樹脂層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0029】
空白部6は、転写シート100のうち、基体シート1の上に位置決めパターン部20が形成されない箇所、すなわち長尺方向位置決め部200または幅方向位置決め部201のいずれかが、またはその両方が基体シート1の上に形成されない箇所で、転写シート100の巻芯5側の端部に配置される(図3、図4参照)。
【0030】
また、空白部6は上記のようであれば加飾パターン部21が形成されていてもよい(図5、図6、図7参照)。
【0031】
上記空白部6は、位置決めセンサ12によって検出されると、転写シート100の送りが停止するといった機能を有する部分である。そのため、空白部6を有する転写シート100を成形同時転写装置8に使用することによって、巻き解き終了時に転写シート100が巻芯5から脱離するのを防止することができる。
【0032】
その結果、多量に加飾成形品を作成する場合において、巻き解きが終了した転写シートと新たな転写シートとを繋ぎ合わせて転写シートを交換する際、転写シート送り装置9から脱離した転写シート100と新しい転写シート100を繋ぎ合わせるために、新しい転写シート100を送りモータにセットした後、新しいまたは巻き解きの終了した転写シートを複数のガイドローラに設置しないといけないといった手間が省ける。すなわち、巻き解きが終了した転写シート100と新しい転写シート100とを直接繋ぎ合わせることができるので、多量に加飾成形品を作成する際の生産性が向上する。
【0033】
さらには、転写シート100が転写シート送り装置9から脱離したときの衝撃で、転写シート100から転写層4が剥離し、それが射出成形金型101内に侵入するといったおそれもなくなる。その結果、転写シート100の巻き解きが終了し、転写シート100を交換した後に作成される加飾成形品において、その表面にダコン等の成形不良が発生することを抑えることもできる。
【0034】
空白部6は、上記のように構成してもよいが、空白部6は透明基材のみからなること、すなわち、空白部6は、位置決めパターン部20、加飾パターン部21に加え、一切の転写層4が形成されないことが好ましい(図8参照)。
【0035】
これは、空白部6に転写層4が形成されていない転写シート100を使用して加飾成形品を作成すると、巻き解きが終了した転写シート100と新しい転写シート100を繋ぎ合わせる際、作業者が誤って転写層4に触れることがないので、その作業中に基体シート1から剥離した転写層4が、射出成形金型101内に侵入することもなく、その後、作成される加飾成形品において、成形不良の少ない加飾形成品を作成できるからである。
【0036】
空白部6の形成方法としては、図柄層2を形成する際に、空白部6に相当する領域に転写層4が形成されないよう、予め印刷機械を設定したのち、基体シート1の上に転写層4を形成する方法がある。形成する印刷方法としては、加飾パターン部21の場合と同様である。
【0037】
より好ましい方法としては、一旦、全面に転写層4が形成された転写シート100を作成した後、その端部に別途、無地の透明フィルム60を継ぎ合わせる方法が挙げられる。これは、輪転多色機等を用いて基体シート1の上に転写層4を形成する際、一部分のみに空白部6を設けるのは困難であるからである。繋ぎ合わせ方法としては、転写シート100と無地の透明フィルム60とを粘着テープ7を用いて貼り合わせるとよい。
【0038】
粘着テープ7としては、接着剤を布や紙、セロファンなどのテープ状を基礎に塗布したものが挙げられる。ここで言う接着剤とは、無機系接着剤、有機系接着剤、天然系接着剤を指す。
【0039】
無地の透明フィルム60の材料としては、無地かつ透明であれば、基体シート1と同質のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0040】
転写シート100を貼り合わせる無地の透明フィルム60としては、転写シート100と異なる幅、若しくは異なる厚さのものを用いることもできるが、転写シート100と無地の透明フィルム60は、一直線上に貼り合わせなければならないので、上記2つのシートとを貼り合わせる際の作業性を考慮すると、転写シート100と同一の幅かつ厚さのものを用いるのが好ましい。
【0041】
また、上記空白部6の形成位置としては、転写シート100の長尺方向において、その両末端に形成することが好ましい(図9参照)。両末端に空白部6を形成すると、転写シート100の巻き解き終了時において、転写シート100が巻芯5から脱離することがない上に、巻き解きが終了した転写シート100と新たな転写シート100を繋ぎあわせる際に、巻き解きの終了したおよび新たな転写シート100の両方の転写層4に作業者が触れることがないので、基体シート1から、転写層4が剥離することが少なくなる。
【0042】
その結果、転写層4が射出成形金型101内に侵入する可能性が少なくなるので、転写シート100を交換した後においてもダコンが生じることのない加飾成形品を得ることができるからである。
【0043】
空白部6の長尺方向の長さLは、(式1)L=a×b+cに示すように、転写シート100を送る送り速度aにアラーム時間bを乗じたものに、転写シート100が巻芯5から転写シート送り装置9内に配置された2つのガイドローラ91、92を介し、射出成形金型101に備え付けられた長尺方向位置決めセンサ120、または幅方向位置決めセンサ121(幅方向位置決めセンサ121にあっては、第一幅方向位置決めセンサ122、第二幅方向位置決めセンサ123のいずれであってもよい)に到達するまでの長さcを加えたものとするとよい(図10参照)。
【0044】
送り速度aとは、1秒間に転写シート送り装置9から転写シート巻取装置11に転写シート100を矢印方向Aに送る量であり、0.05〜0.5m毎秒の範囲で設定される。
【0045】
アラーム時間bとは、空白部6を位置決めセンサ12が検出してから、転写シート100の送り停止が実行されるまでの時間であり、自由にその時間を設定できる。
【0046】
成形同時転写装置8においては、位置決めセンサ12が空白部6を検出し、制御部13が転写シート100の送りを停止するので、上記長さの空白部6を設けると、転写シート100が巻芯5から脱離する前に転写シート100の送りを所望の位置で停止することができる。
【0047】
その結果、転写シート100が転写シート送り装置9から脱離することがなくなるので、転写シート100の交換が容易になり、加飾成形品を作成する作業性が向上するとともに、転写シート100が巻芯5から脱離した際に、転写層4の一部が基体シート1から剥離し、射出成形金型101内に侵入し、ダコン等の成形不良を引き起こすことも少なくなる。
【0048】
接着層3は、被加飾面に上記の各層を接着するものである。また接着層3は、接着させたい部分に形成する。すなわち、接着させたい部分が全面的なら、接着層3を全面的に形成する。接着層3としては、被加飾の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。
【0049】
たとえば、被加飾の材質がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いるとよい。また、被加飾の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、被加飾の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。接着層3の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0050】
基体シート1の剥離性を向上させるために、基体シート1と剥離層との間に離型層を設けてもよい(図示せず)。
【0051】
離型層は、転写後または成形同時転写後に基体シート1を剥離した際に、基体シート1とともに転写層4から離型する層である。離型層の材質としては、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース誘導体、尿素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、パラフィン系樹脂およびこれらの複合物などを用いることができるが、構成材質の中に少なくもメラミン系樹脂が含まれていることが好ましい。これは、メラミン樹脂は耐熱性の高い熱硬化性樹脂であり、かつ金属蒸着層と適度な離型性を有し、かつ物理的、機械的な変化を起こさないので、離型層と接合状態にある金属蒸着層の白化、変色を抑止することができるからである。離型層の形成方法としては、ロールコート法、スプレーコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0052】
剥離層は、転写後被転写物の最外面となる層であり、図柄層2を保護する層でもある(図示せず)。
【0053】
剥離層の材質としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などのほか、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いるとよい。剥離層に硬度が必要な場合には、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを選定して用いるとよい。剥離層は、着色したものでも、未着色のものでもよい。剥離層2の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0054】
アンカー層は、上記各層の層間密着性を向上させる層である。故に、必要に応じて図柄層2と剥離層との間や、図柄層2と接着層3との間に形成するとよい(図示せず)。アンカー層の材質としては、二液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などを使用するとよい。アンカー層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0055】
巻芯5は、転写シート100を巻きつけるための管であり、後述記載の成形同時転写装置8の一部を構成する回転軸900に転写シート100とともに備え付けられたのち、転写シート100を円滑に転写シート送り装置9から転写シート巻取装置11に送るためのものである。巻芯5の材質としては、パルプの他、段ボール、新聞、雑誌などの古紙からなるものや、プラスティックからなるもの等が挙げられる。
【0056】
転写シート100を巻芯5に巻きつける方法としては、巻芯5と空白部6とを接着テープ70で、空白部6と転写シート100とを粘着テープ7でそれぞれ貼り合わせ、最後に転写シート100を巻芯5に巻取る方法、または巻芯5に空白部6を有する転写シート100を接着テープ70で貼合わせ、その後、転写シート100を巻芯5に巻取る方法等が挙げられる。
【0057】
次に、転写シート100を用いて加飾成形品を作成するための成形同時転写装置8について説明する。
【0058】
成形同時転写装置8は、転写シート100、転写シート送り装置9、射出成形装置10、転写シート巻取装置11、位置決めセンサ12、制御部13からなる(図10参照)。
【0059】
転写シート100は、ロール状の転写シート100から一定長さ分だけ巻き解かれて矢印方向Aに降下し、位置決めセンサ12および射出成形金型101を経由し、転写シート巻取装置11の巻取ローラ113に巻き取られる。また、送り出された転写シート100が位置決めセンサ12を通過する際、位置決めセンサ12が転写シート100の位置決めパターン部20を検出し、その結果を制御部13に伝達することによって、転写シート100の射出成形金型101に対する位置が所定の位置に配置されるようになっている。
【0060】
転写シート送り装置9は、転写シート100、送り出しモータ90と任意の数のガイドローラ91、92、ケーシング93、上部水平モータ94から成っており、可動型103の上方に配置され、図10に示すように送り出しモータ90の一部である回転軸900は回転が自在になるようケーシング93に支持されている。
【0061】
送り出しモータ90は、巻取装置方向に回転して転写シート100を可動型103のパーティング面に送り、位置決めが完了すると回転を停止し、その稼動時には、射出成形金型101方向に供給された転写シート100に適切な張力を付与するように構成されている。
【0062】
上部水平モータ94は、転写シート100を射出成形金型101に対し所定の位置に配置するためのモータであり転写シート送り装置9内に備え付けられる。すなわち上部水平モータ94は、位置決めセンサ12が転写シート100の所定の位置からの水平方向のズレおよびそのズレ幅を感知した時、転写シート送り装置9を水平方向に移動させ、転写シート100を所定の位置に配置するためのモータである。
【0063】
ガイドローラ91、92は、転写シート100を転写シート送り装置9から射出成形金型101の方向に円滑に送るためのものである。
【0064】
次に、転写シート送り装置9、転写シート巻取装置11のいずれかまたは両方にクランプBを設置してもよい。クランプ部材は、転写シート100をガイドローラ92に押しつけて所定の位置にクランプさせるものである。クランプ部材は、転写シート送り装置9のうち、ガイドローラ91、92の中で射出成形金型101に最も近い位置にあるガイドローラ92と、転写シート巻取装置11のガイドローラ110、111、112、の中で射出成形金型101に最も近い位置にあるガイドローラ110にそれぞれ設置されている。
【0065】
射出成形金型101は、基本的には固定型102と可動型103から構成され、可動型103が固定型102に隣接する方向に移動することによって型閉じ状態、型開き状態にできると共に、固定型102のキャビティ面と可動型103のキャビティ面とによって形成されるキャビティ空間104に溶融樹脂105を射出できる構成となっている(図11参照)。
【0066】
上記構成をとることで、射出成形金型101のパーティング面の所定の位置に配置された転写シート100を可動型103と固定型102によって挟みこみ、上記キャビティ空間104に溶融樹脂105を射出することによって、転写シート100と溶融樹脂105と転写シート100を一体化し、次に転写シート100の基体シート1のみを剥離することによって、加飾成形品を得ることができる。
【0067】
転写シート巻取装置11は、射出成形金型101表面に位置する転写シート100を巻き取るものであり、複数のガイドローラ110、111、112、巻取ローラ113、引張りローラ114、押えローラ115、巻取モータ116、引張モータ117および下部水平モータ118からなり、転写シート100が巻き取られたリールが幅方向に移動可能になるよう成形機の可動プラテン106に取り付けられた下流側取付け板119に支持されたものである。
【0068】
巻取ローラ115は、射出成形金型101内で使用された転写シート100を巻き取るためのローラであり、そのリールの駆動部分には転写シート100を巻き取るための巻取モータ116が設置されている。
【0069】
引張りローラ114には、押えローラ115を介して、転写シート送り装置9から供給された転写シート100に適切な張力を付与するため、そのリールの駆動に引張モータ117が備え付けられている。転写シート100を矢印方向Aへ送る際、この引張モータ117により転写シート100にかかる張力を所望のものにすることができる。その結果、転写シート100と溶融樹脂105とが一体化して作成される成形品において、ひけやしわが生じない加飾成形品を作成することができる。
【0070】
下部水平モータ118は、上部水平モータ94と同様に、射出成形金型101に対して転写シート100を所定の位置に配置するためのモータであり転写シート巻取装置11内に備え付けられ、転写シート巻取装置11を水平方向に移動させ、転写シート100を所定の位置に配置するためのモータである。
【0071】
ガイドローラ110、111、112は、ガイドローラ91、92と同様に転写シート100を転写シート送り装置9から射出成形金型101方向に円滑に送るためのものである。
【0072】
位置決めセンサ12は、射出成形金型101のパーティング面に対して転写シート100を正確に位置決めするためのものであり、可動金型近傍に幅方向位置決めセンサ121、長尺方向位置決めセンサ120、例えば第1・第2幅方向位置決めセンサ122、123が取付けられる。なお、幅方向位置決めセンサは1つであっても、2つ以上でも良い。
【0073】
この実施の形態では、可動金型上部左側に長尺方向位置決めセンサ120が取付けてあり、可動金型上部右側に第1幅方向位置決めセンサ122、可動金型下部寄り幅方向右側に第2幅方向位置決めセンサ123が取付けてある(図12参照)。
【0074】
これらセンサを用いて金型に対する転写シート100の位置決めを行う方法の一例としては、まず、射出成形金型101に対する転写シート100の長尺方向の位置を所望の位置に配置するために、長尺方向位置決めセンサ120を用いて、可動型103の上方の送り出し側における転写シート100の長尺方向位置決めパターン部200の位置を検出し、可動型103のパーティング面の所定位置まで正確に転写シート100を送るように調整する。転写シート100の幅方向の位置決め方法としては、可動型103の上流のシート送り出し側および/または下流のシート排出側における転写シート100の幅方向位置決めパターン部201の位置を幅方向位置決めセンサ121が検出し、幅方向位置決めセンサ121から幅方向位置決めパターン部201が外れかけると転写シート100を正しい位置に調整するように行う。
【0075】
また、転写シート100を一定の速さで送る場合において、幅方向位置決めセンサ121と長尺方向位置決めセンサ120は、その両方または一方が所定時間以上、幅方向位置決めパターン部201または長尺方向位置決めパターン部200をそれぞれ検出しないと空白部6を検出したと認識し、制御部13に転写シート100の送りを停止するよう指示するよう設定されている。
【0076】
例えば、転写シート100が一定の速さで矢印方向Aに送り始められてから、所定時間t1後に長尺方向位置決めパターン部200が、長尺方向位置決めセンサ120に検出される場合において、所定時間t1後も、長尺方向位置決めセンサ120が長尺方向位置決めパターン部200を検出しない場合は、長尺方向位置決めセンサ120は空白部6を検出したものと認識することができる。
【0077】
また、転写シート100が、長尺方向位置決めセンサ120を一定の速さで矢印方向Aに通過し始めてから、所定時間t2の間、転写シート100の長尺方向位置決めパターン部200が長尺方向位置決めセンサ120に検出される場合において、所定時間t2以降も長尺方向位置決めパターン部200が検出された時は、長尺方向位置決めセンサ120は空白部6を検出したものと認識することもできる。
【0078】
制御部13は、上記長尺方向位置決めセンサ120と幅方向位置決めセンサ121からなる位置決めセンサ12の指示を受けて、転写シート1の送り速度、送る位置について、送り出しモータ90、上部水平モータ94、巻取モータ116、引張モータ117、下部水平モータ118の動きを制御する部位である。
【0079】
すなわち、転写シート100の長尺方向位置決めパターン部200を長尺方向位置決めセンサ120が検出したとき、長尺方向位置決めセンサ120からの一時停止の指示を受けて、制御部13は転写シート100の矢印方向Aの送りを一旦停止し、次に幅方向位置決めセンサ121が幅方向位置決めパターン部201を所定時間検出する。そして、その検出時間に従って、制御部13は上部水平モータ94、下部水平モータ118の金型に対する位置を左右に移動させ、転写シート100の射出成形金型101に対する位置を所定の位置となるように、制御する。
【0080】
また、上述のように長尺方向位置決めセンサ120または幅方向位置決めセンサ121が空白部6を検出した場合、各位置決めセンサ12から制御部13は転写シート1の送りを停止するよう指示を受ける。そして制御部13は送り出しモータ90の動作を停止させ、転写シート100の送りを停止する。転写シート100の送りを停止するタイミングは転写シート100の巻芯5側の端部が長尺方向位置決めセンサ120または幅方向位置決めセンサ121に検出されたときが好ましい。すなわち、転写シート100の巻芯5側の端部に空白部6を有する本発明の転写シート100を成形同時転写装置8に用いて、加飾成形品を作成することが好ましい。
【0081】
それは、連続して加飾成形品を作成する場合において、転写シート100の巻芯5側の端部で転写シート100の送りが停止することで、巻き解きが終了した転写シート100と新しい転写シート100を繋ぎ合わせ交換する場合において、巻き解きが終了した転写シート100が転写シート送り装置9から脱離することがないので、作業者の手間が減少し、生産性が向上するとともに、巻芯5から転写シート100が脱離した際に生じる転写層4の剥離もないので、転写層4が射出成形金型101内に侵入することもなくなり、転写シート100交換後、作成された加飾成形品において、その表面にダコン等の成形不良が発生することを抑えることができるからである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、携帯電話などの通信機器、自動車外装パーツ、自動車内部の情報機器、家電製品など、加飾成形品を作成する際に好適に用いることができ、産業上有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す平面図である。
【図4】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す平面図である。
【図5】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す平面図である。
【図6】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す平面図である。
【図8】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す平面図である。
【図9】本発明に係る転写シート100の一実施例を示す平面図である。
【図10】本発明に係る成形同時転写装置8の一実施例を示す断面図である。
【図11】本発明に係る成形同時転写装置8の一実施例を示す断面図である。
【図12】本発明に係る成形同時転写装置8の一実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 基体シート
2 図柄層
3 接着層
4 転写層
5 巻芯
6 空白部
7 粘着テープ
8 成形同時転写装置
9 転写シート送り装置
10 射出成形装置
11 転写シート巻取装置
12 位置決めセンサ
13 制御部
20 位置決めパターン部
21 加飾パターン部
60 透明フィルム
70 接着テープ
90 送り出しモータ
91 ガイドローラ
92 ガイドローラ
93 ケーシング
94 上部水平モータ
100 転写シート
101 射出成形金型
102 固定型
103 可動型
104 キャビティ空間
105 溶融樹脂
106 プラテン
110 ガイドローラ
111 ガイドローラ
112 ガイドローラ
113 巻取ローラ
114 引張りローラ
115 押えローラ
116 巻取モータ
117 引張モータ
118 下部水平モータ
119 下流側取付け板
120 長尺方向位置決めセンサ
121 幅方向位置決めセンサ
122 第1幅方向位置決めセンサ
123 第2幅方向位置決めセンサ
200 長尺方向位置決めパターン部
201 幅方向位置決めパターン部
900 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートの一面に少なくとも図柄層と接着層とが転写層として形成され、図柄層のパターンとして位置決めパターンが少なくとも形成され、巻芯にロール状に巻かれて使用される転写シートであって、巻芯側の端部に位置決めパターン部が形成されていない空白部を含む転写シート。
【請求項2】
空白部が巻芯側の反対側の端部にさらに形成された請求項1記載の転写シート。
【請求項3】
空白部が基体シートと同じ幅で形成された請求項1〜2のいずれかに記載の転写シート。
【請求項4】
空白部が透明である請求項1〜3のいずれかに記載転写シート。
【請求項5】
空白部は無地フィルムが継ぎ足されて形成された請求項1〜4のいずれかに記載の転写シート。
【請求項6】
ロール状の転写シートを送り出す転写シート送り装置と、転写シートの位置決めパターンを検出する位置決めセンサと、送り出された転写シートを挟み込み、溶融樹脂が射出されて転写シートと一体化した成形品を得る射出成形金型と、転写後の転写シートを巻き取る転写シート巻取装置と、転写シート送り装置と転写シート巻取装置の動作を制御する制御部とを備え、位置決めセンサが転写シートの空白部を検出した際に、制御部が転写シートの送りを停止させることを特徴とする成形同時転写装置。
【請求項7】
転写シートの巻芯側の端部が巻芯から離れない状態となるように制御部が転写シートの送りを停止させる請求項6記載の成形同時転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−269275(P2009−269275A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121215(P2008−121215)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】