転動装置及びこの転動装置を用いた転動装置内部観察方法
【課題】X線照射に代表される電子線照射によって得られた転動装置の断層データによって内部の状態を把握することに適した転動装置を提供する。
【解決手段】内側軌道部材3と、外側軌道部材2と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間で転動する転動体4と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間に充填した潤滑剤6とを転動装置構成部材とし、これら転動装置構成部材にX線を照射することで当該転動装置構成部材の断面についてのX線吸収率データを得るとともに、このX線吸収率データに基いて、前記断面内でのX線吸収率を所定の階調でもって表すデータを取得し、当該データに基づいて画像表示装置で表示することにより前記内側軌道部材と前記外側軌道部材の間の内部状態を観察することが可能な転動装置1において、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体及び前記潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとした。
【解決手段】内側軌道部材3と、外側軌道部材2と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間で転動する転動体4と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間に充填した潤滑剤6とを転動装置構成部材とし、これら転動装置構成部材にX線を照射することで当該転動装置構成部材の断面についてのX線吸収率データを得るとともに、このX線吸収率データに基いて、前記断面内でのX線吸収率を所定の階調でもって表すデータを取得し、当該データに基づいて画像表示装置で表示することにより前記内側軌道部材と前記外側軌道部材の間の内部状態を観察することが可能な転動装置1において、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体及び前記潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線に代表される電子線、或いは放射線照射により画像データを取得して内部の状態を観察するのに適した転動装置及びこの転動装置を用いた転動装置内部観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば転動装置が転がり軸受である場合、グリースを封入した転がり軸受は、グリース潤滑による軸受寿命の延長を図るために、転がり軸受内部の軌道面のどの部分にグリースが存在しているか(グリース分布)、グリースがどのように付着しているか(グリース形状)といったグリース状態を検査する必要がある。また、転動装置が、グリース潤滑を行なうリニアガイド、ボールねじ等であっても、同様にグリース状態を検査する必要がある。
【0003】
従来、転動装置の内部潤滑剤の観察においては、転動装置が転がり軸受である場合に、内輪及び外輪の少なくとも一方をアクリル酸樹脂等の可視光透明体で構成した転がり軸受とし、この透明体越しにグリースを透視することで、転がり軸受内のグリース状態の情報を取得する方法が知られている(例えば特許文献1)。
この特許文献1の方法では、内輪及び外輪の少なくとも一方の透明体越しに透視可能なグリースの表面のみを観察可能にしている。そのため、グリースの分布、形状の情報を正確に取得することができない。
【0004】
そこで、例えば特許文献2、3に示すように、試料内部にX線を照射し、試料内部のX線吸収係数の違いに基づくX線透過像の画像処理を行って試料内部を検査する方法、或いは、特許文献4に示すように、グリースを封入した等速ジョイントにX線を照射してX線像を撮影し、X線像の濃色域の面積変化及び位置変化を比較してグリース状態の情報を取得する方法が知られている。
【0005】
また、特許文献5には、被検体により最適管電流、最適管電圧を自動設定する方法が記載されており、特許文献6には、銅等の金属フィルタを用いて異なった波長分布のX線を照射することにより、観察の精度を向上させる方法が開示されている。
さらに、特許文献7には、所定の冶具を用いてX線透過長さを均一化して測定する方法が開示されており、特許文献8には、ゴムに金属粉等のX線吸収係数の高い物質を混合させ、また、層状をなすゴムタイヤの層毎に金属粉濃度を変化させることにより、X線吸収係数の差の少ないゴムが成す層の界面を明瞭にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−69288号公報
【特許文献2】特開2001−201465号公報
【特許文献3】特開2007−111525号公報
【特許文献4】特開2007−155534号公報
【特許文献5】特開2006−105861号公報
【特許文献6】特公平6−92944号公報
【特許文献7】特開平6−273356号公報
【特許文献8】特開2006−76414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2、3、4の方法を一般的な転動装置に適用しても、通常の転動装置に対してX線を単に照射しただけでは転動装置内部の状況を性格に把握することは困難である。特に、転動装置内部に存在するX線吸収係数の低い物質である樹脂製保持部材等の樹脂、潤滑剤等の油脂の状況を、例えば密封部材を取り去ることなく観察することは困難である。
【0008】
すなわち、通常、転動装置の構成部材である外側軌道部材、内側軌道部材、転動体等は、樹脂や油脂と比較してX線吸収係数が高い鋼、代表的には軸受鋼を使用しており、軸受鋼製の構成部材を透過させて内部状況を観察するために、所定の厚さの軸受鋼を透過する強度のX線を照射すると、軸受鋼と樹脂部品・潤滑剤・空気(空隙)の区別はつけられるが、比較的X線吸収係数が低く、相互にX線吸収係数の差の少ない樹脂部品、潤滑剤、空気との間で区別をつけることが困難となってしまう。当然、X線の強度を弱めると、いわゆるメタルアーチファクトやハレーションが発生してしまい、また、X線が所定の厚さの軸受鋼を透過できず、内部状況を観察することはできない。
【0009】
また、特許文献5は、通常の転動装置の内部を観察しようとすると、軸受鋼を透過するためのX線強度と、内部での樹脂部品、潤滑剤、空気(空隙)の差を観察するために好適なX線強度がそもそも異なるため、最適条件を見出すどころか、従来と同様に内一部状況を観察することもできない。
また、特許文献6は、上記メタルアーチファクトやハレーションの低減には効果があるものの、金属製部材の内部に存在するX線吸収係数が低くかつ相互に差の少ない部材の分離観察は困難である。
【0010】
また、特許文献7は、転動装置のように内部構造が複雑なものに対しては適用が困難である。
さらに、特許文献8は、いわゆる母材、基材となるものに異物を混入させることになるため、母材・基材の変質を誘発しやすい。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、X線照射に代表される電子線、或いは放射線照射によって得られた転動装置の断層データによって転動装置の内部の状態を把握することに適した転動装置及びこの転動装置を用いた転動装置内部観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、内側軌道部材と、外側軌道部材と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間で転動する転動体と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間に充填した潤滑剤とを転動装置構成部材とし、これら転動装置構成部材にX線を照射することで当該転動装置構成部材の断面についてのX線吸収率データを得るとともに、このX線吸収率データに基いて、前記断面内でのX線吸収率を所定の階調でもって表すデータを取得し、当該データに基づいて画像表示装置で表示することにより前記内側軌道部材と前記外側軌道部材の間の内部状態を観察することが可能な転動装置において、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体及び前記潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとした。
【0012】
また、請求項2記載の転動装置は、請求項1記載の転動装置において、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間に、前記転動体の転動状態を保持する保持部材が前記転動装置構成部材として装着されており、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤及び前記保持部材のX線吸収係数を異なるものとした。
また、請求項3記載の転動装置は、請求項2記載の転動装置において、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間をシールする密封装置が前記転動装置構成部材として装着されており、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤、前記保持部材及び前記密封装置のX線吸収係数を異なるものとした。
【0013】
また、請求項4記載の転動装置は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の転動装置において、前記画像データを、前記X線吸収率を14ビットの階調範囲で示したときに、前記転動装置の階調範囲が、185階調の範囲となるように前記転動装置構成部材の材料を選定した。
また、請求項5記載の転動装置は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の転動装置において、前記外側軌道部材及び内側軌道部材は樹脂製であり、前記転動体はセラミック製若しくはガラス製である。
【0014】
また、請求項6記載の転動装置は、請求項2乃至5の何れか1項に記載の転動装置において、前記保持部材は樹脂製である。
さらに、請求項7記載の転動装置は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の転動装置において、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間に、空気より比重の大きい流体を充填した。
【0015】
さらにまた、請求項8記載の発明は、請求項1乃至7の何れか1項に記載の転動装置を使用し、X線CTにより内部を観察する転動装置内部観察方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る転動装置によると、転動装置構成部材である内側軌道部材、外側軌道部材、転動体及び潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとしたので、X線を照射することで内部状態を正確に観察することが可能な転動装置を提供することができる。
また、本発明に係る転動装置を用いた転動装置内部観察方法によると、転動装置の内部状態を画像表示装置で正確に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】内部観察用の転がり軸受の軸方向断面を示す図である。
【図2】図1のA−A線矢視図である。
【図3】密封装置を装着した転がり軸受の径方向断面を示す図である。
【図4】転がり軸受の観察を行う軸受観察装置の構成を示す図である。
【図5】本発明で使用するグレースケール処理データを示す図である。
【図6】本発明の軸受観察装置が行う転がり軸受内部の表示手順を示すフローチャートである。
【図7】転がり軸受内部に存在する空気の表示手順を示すフローチャートである。
【図8】転がり軸受内部の保持器、転動体の表示手順を示すフローチャートである。
【図9】転がり軸受の内輪・外輪の表示手順を示すフローチャートである。
【図10】転がり軸受に封入されているグリースの表示手順を示すフローチャートである。
【図11】転がり軸受内部に存在する空気を画像表示した図である。
【図12】転がり軸受内部の保持器、転動体を画像表示した図である。
【図13】転がり軸受の内輪・外輪を画像表示した図である。
【図14】転がり軸受に封入されているグリースを画像表示した図である。
【図15】樹脂製の保持器にマーカを埋め込んだ状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態の転動装置の構成)
図1は、本発明に係る転動装置の一例である転がり軸受1を示す軸方向断面図、図2は、図1のA−A矢視断面図である。
【0019】
図1に示すように、転がり軸受1は、外側軌道部材に相当する外輪2と、内側軌道部材に相当する内輪3と、転動体に相当し、これら外輪2及び内輪3の間に複数個組み込まれる玉4と、転動体の保持部材に相当し、複数個の玉4を等配して案内する冠形の保持器5とを備えている。
外輪2の内周面の軸方向中央部には、円弧溝状の外輪軌道面2aが形成されており、内輪3の外周面の軸中央部には、外輪軌道面2aと対向する円弧溝状の内輪軌道面3aが形成されている。
【0020】
そして、図2に示すように、外輪軌道面2a、内輪軌道面3a及び保持器5で囲まれた転がり軸受1の内部空間には、所定の分布、形状で潤滑剤の一例であるグリース6が封入されているとともに、グリース6以外の内部領域には空気(気泡)あるいは空隙7が存在している。
外輪2及び内輪3は、金属、セラミック等の無機材料、樹脂、ゴム、エラストマー等の有機材料あるいはこれらの混合材料で形成されている。
【0021】
外輪2及び内輪3の具体的な金属材料は、ベリリウムもしくはベリリウム合金、マグネシウムもしくはマグネシウム合金、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、チタンもしくはチタン合金、鉄もしくは鉄合金あるいは鉄鋼材、ニッケルもしくはニッケル合金、鋼もしくは鋼合金、亜鉛もしくは亜鉛合金などが使用可能である。
金属材料のなかでも、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、チタンもしくはチタン合金、鉄もしくは鉄合金もしくは鉄鋼材が好ましい。軽金属になると転動装置としての機械的強度を保つのが困難であり、重金属になるとX線に代表される電子線、或いは放射線が透過しにくくなるためである。
【0022】
さらに、この中でも、アルミニウム合金もしくは鉄鋼材であることがより好ましい。アルミニウム合金は加工がし易く、X線の吸収係数も金属の中では比較的低く、X線での内部観察用に優れている。また、鉄もしく鉄合金あるいは鋼材は、転動装置を形成する一般的な材料であり、例えば市販のものをそのまま使用できるなど利点が多い。鉄鋼材の中でも、高炭素クロム軸受鋼、ステンレス鋼などがより好適に使用できる。
【0023】
また、外輪2及び内輪3の具体的なセラミック材料は、アモルファス炭素、ダイヤモンド等の元素系セラミック、石英、ガラス、ベリリア、シリカ、ジルコニア、アルミナ、イットリア、マグネシア、フェライト等の酸化物系セラミック、シリコンナイトライド(窒化珪素)、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミック、シリコンカーバイド、チクンカーバイド、タングステンカーバイド、ボロンカーバイド等の炭化物系セラミック、チタン酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム等の化合物系セラミック、あるいはこれらの混合物が使用できる。
【0024】
これらセラミック材料の中でも、重金属の含有量が少なく、転動装置としての機械的強度に優れ、かつ、加工性が良いものが好ましい。重金属の含有量が多すぎると、X線に代表される電子線、或いは放射線の吸収係数が過大になりやすい。したがって、好ましくは、石英、ガラス、アルミナ、窒化珪素等を使用することができる。
【0025】
また、外輪2及び内輪3の具体的な有機材料は、各種の樹脂材料、ゴム材料を使用することが可能である。具体的には、樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンーエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレンーエチレン共重合体(ECTFE)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンとポリベンソイミダソールとのコポリマー(PEEK−PBI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、ポリエチレンテレフタレート、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、液晶ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エボナイト等の熱硬化性樹脂、あるいはこれらの混合樹脂、さらには、これらの樹脂にホウ酸アルミニウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、カーボンウイスカー、アラミド繊維、芳香族ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維、グラファイトウイスカー、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、炭化珪素ウイスカー、窒化珪素ウイスカー、アルミナウイスカー、窒化アルミニウムウイスカー、ウオラストナイト等の繊維状充填材を配合した樹脂材料が挙げられる。
【0026】
好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドを使用することができる。また、これら樹脂には必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、着色剤等の添加剤を添加してあってもよい。
また、外輪2及び内輪3の具体的なゴム材料は、ポリイソプレンを主成分とする天然ゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム、アクリルゴム(ACM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム (EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(II R)、ウレタンゴム等の合成ゴム材料が使用できる。また、これら合成ゴム材料には、必要に応じ、カーボンブラック、クレー等の充填材や酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の各種添加剤が添加してあってもよい。
【0027】
玉4、保持器5も、前述した内輪2、外輪3と同様に、金属、セラミック等の無機材料、樹脂、ゴム、エラストマー等の有機材料で形成されている。
潤滑剤6は、潤滑油、固体潤滑剤粉末、潤滑皮膜、潤滑グリース等の潤滑組成物である。転動装置の内部観察において特に観察の要求が多いのは、転動装置に封入されている潤滑グリースの状態である。すなわち、転動装置内部に封入した潤滑グリースの状態を観察することが、転動装置内部の観察の目的とされることが多い。
【0028】
ここで、グリース組成物は基本的に基油と増ちょう剤からなり、そこへ各種の添加剤等が配合されているものである。グリース組成物において基油の種類、増ちょう剤の種類、添加剤の種類を種々組み合わせることにより性状の異なるグリース組成物が得られる。また、グリース組成物の製造工程の違いによってもグリース組成物の性状が異なることとなる場合が多い。しかしながら、観察対象としてのグリース組成物の組成あるいは性状としては特に制限は無い。
【0029】
ここで、転がり軸受1の形態として、図3に示すように、外輪2と内輪3の間の軸方向の開口を覆うシール、シールドと呼ばれる密封装置8,8を設けたものがあるが、この密封装置8,8も、金属板製のもの、樹脂板製のもの、金属あるいは樹脂の芯金・芯材にゴムを接着等により取り付けたもの等が使用できる。この場合の金属材料、樹脂材料、ゴム材料も、前述した内輪2、外輪3と同様のものが使用できる。
【0030】
(転動装置の内部観察装置)
次に、上記構成とした転がり軸受1の内部観察を行う装置の1実施形態について、図4から図10を参照して説明する。
本実施形態の転がり軸受観察装置10は、図4に示すように、転がり軸受1に対して軸方向に直交する所定位置からX線を照射することでCT値(例えば、水を0、空気を−1000とした値)データを計測するX線CT11と、X線CT11で計測したCT値データを保存するCTデータ保存部12と、CT値データに基づいてCT画像を作成するCT画像作成演算部13と、作成したCT画像にグレースケール処理を行うグレースケール処理演算部14と、グレースケール処理演算部14でグレースケール処理を行ったデータ(グレースケール処理データ)に基づいてCT画像解析データを作成するCT画像解析処理部15と、CT画像解析処理部15で作成したCT画像解析データを表示する表示装置(画像表示装置:カラーディスプレイ)16と、X線CT11、CTデータ保存部12、画像作成演算部13、グレースケール処理演算部14、CT画像解析処理部15及び表示装置16を制御するMPU(マイクロプロセッシングユニット)17と、MPU17の操作を行う操作部18とを備えている。
【0031】
X線CT11は、矢印方向に回転自在の試料載置台20を有する。本実施形態の場合、軸方向が鉛直方向(重力方向)を向くように、且つ転がり軸受1の軸方向の軸回りに回転自在となるように転がり軸受1を載置している。さらに、X線CT11は、転がり軸受1に対して軸方向に直交する方向からX線を照射するX線照射部21と、X線照射部21を上下方向に移動させる移動部22と、転がり軸受1のCT値を計測するX線計測部23とを備えている。試料載置台20は、転がり軸受1を軸回りに回転させる機能を有している。
【0032】
X線CT11は、一例として管電圧55kV、管電流260μA、バイアスO、スロープ10のX線照射条件に設定してCT値を計測する。
グレースケール処理演算部14では、画像作成演算部13で作成したCT画像に基づき、CT値を例えば14ビットの数値で保存して214=16384階調の−8192〜8192の範囲のグレースケールで表すものである。
【0033】
CT画像解析処理部15は、転がり軸受1の各構成部材の形状が把握できるデータを作成する。例えば、最終的にグリース6の分布、形状が把握できるデータを作成する。
【0034】
(転動装置の内部観察方法)
図5は、グレースケール処理演算部14で演算したグレースケール処理データである。このグレースケール処理データは、転がり軸受1の各構成部材を透過してX線の差で出力されたCT値を、グレースケール、すなわち濃淡(グレースケールが高い場合には白色に近い灰色であり、グレースケールが低くなっていくと濃い灰色になっていき、最も低いグレースケールが黒色)として出力されたものである。図5は、データ処理時の一例であり、横軸にグレースケール、縦軸に、グレースケール毎のセル数を示している。横軸のグレースケールは、所定のX線照射条件下、14ビット階調表示時のグリース6のグレースケール範囲近傍の範囲を示している。
【0035】
ここで、MPU17には、転がり軸受1を構成する個々の要素のX線吸収係数もしくはX線吸収率の差、あるいは予め測定した個々の要素毎のCTデータ等に基づき、例えば所定のX線照射条件下、14ビット階調表示時に軸受内に封入されているグリース6のグレースケールが1〜10であり、外輪2及び内輪3のグレースケールが12〜23であり、玉4のグレースケールが40〜50であり、保持器5のグレースケールが35〜45であり、空気7のグレースケールが0以下であることを、予め記憶させてある。
【0036】
CT画像解析処理部15は、MPU17に予め記憶させたグリース6、外輪2及び内輪3、玉4、保持器5及び空気のグレースケール情報、グレースケール処理演算部14が演算したグレースケール処理データ、操作部18からMPU17に入力した認識フラグFLに基づいて、例えば、図6から図14のフローチャートで示す表示処理を行う。
【0037】
なお、図6の処理の確認フラグFLは、転がり軸受1を観察する観察者が操作部18を操作してMPU17に出力する情報であり、確認フラグFL=1は、観察者が転がり軸受1内の空気の位置を確認したことを示すフラグ、確認フラグFL=2は、観察者が転がり軸受1内の保持器5、玉4の位置を確認したことを示すフラグであり、認識フラグFL=3は、観察者が内輪3、外輪2の位置を確認したことを示すフラグである。また、認識フラグFLの初期値は「0」であり、スイッチSW1、SW2、SW3、SW4の初期値も 「0」である。
【0038】
図6の表示処理は、先ず、ステップS1で確認フラグFL=「0」であるか否かを判定する。ステップS1で確認フラグが「0」であるときにはステップS2に移行し、確認フラグが「0」でない場合にはステップS6に移行する。
ステップS2では、スイッチSW1=「1」であるか否かを判定する。ステップS2でスイッチSW1が「1」でない場合にはステップS3に移行し、スイッチSW1が「1」である場合にはリターンに移行する。
【0039】
ステップS3では、グレースケール処理演算部14で演算したグレースケール処理データを読み込む。次いでステップS4に移行して空気の画像表示処理を実行する。次いで、ステップS5に移行してスイッチSW1を「1」に設定してからリターンに移行する。
前記ステップS6では、フラグFL=「1」であるか否かを判定する。ステップS6で確認フラグが「1」であるときにはステップS7に移行し、確認フラグが「1」でない場合にはステップS11に移行する。
【0040】
ステップS7ではスイッチSW1を「0」に設定し、次いでステップS8に移行し、スイッチSW2=「1」であるか否かを判定する。スイッチSW2が「1」でない場合にはステップS9に移行し、スイッチSW2が「1」である場合にはリターンに移行する。
ステップS9では、保持器、玉の画像表示処理を実行し、次いでステップS10に移行し、スイッチSW2を「1」に設定してからリターンに移行する。
【0041】
前記ステップS11では、フラグFL=「2」であるか否かを判定する。ステップS11で確認フラグが「2」であるときにはステップS12に移行し、確認フラグが「2」でない場合にはステップS16に移行する。
ステップS12ではスイッチSW2を「0」に設定し、次いでステップS13に移行し、スイッチSW3=「1」であるか否かを判定する。スイッチSW3が「1」でない場合にはステップS14に移行し、スイッチSW3が「1」である場合にはリターンに移行する。
【0042】
ステップS14では、内輪、外輪の画像表示処理を実行し、次いでステップS15に移行し、スイッチSW3を「1」に設定してからリターンに移行する。
前記ステップS16では、フラグFL=「3」であるか否かを判定する。ステップS16で確認フラグが「3」であるときにはステップS17に移行し、確認フラグが「3」でない場合にはリターンに移行する。
【0043】
ステップS17ではスイッチSW3を「0」に設定し、次いでステップS18に移行し、スイッチSW4=「1」であるか否かを判定する。スイッチSW4が「1」でない場合にはステップS19に移行し、スイッチSW4が「1」である場合にはリターンに移行する。
ステップS19では、グリースの画像表示処理を実行し、次いでステップS20に移行し、スイッチSW4を「1」に設定してからリターンに移行する。
【0044】
ステップS4の空気の画像表示処理は、図7の処理で示すように、先ずステップS21でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を青色に変換する。次いでステップS22に移行し、「0」以下のグレースケールの領域を青色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する。(図11参照)。
【0045】
また、ステップS9の保持器、玉の画像表示処理は、図8のフローチャートで示すように、先ずステップS23でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール (グレースケール≦0)の領域を黒色に変換する。次いでステップS24に移行し、グレースケール処理データのうち「35」以上のグレースケール(グレースケール≧35)の領域を黄色に変換する。次いでステップS25に移行し、上記の黒色、黄色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する。(図12参照)。
【0046】
また、ステップS14の内輪、外輪の画像表示処理は、図9のフローチャートで示すように、先ずステップS26でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域と、「35」以上のグレースケール(グレースケール≧35)を黒色に変換する。次いでステップS27に移行し、グレースケール処理データのうち「12」以上であり「23」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦23)の領域を赤色に変換する。次いでステップS28に移行し、上記の黒色、赤色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する。(図13参照)。
【0047】
さらに、ステップS19のグリースの画像表示処理は、図10のフローチャートで示すように、先ずステップS29でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を黒色に変換する。次いでステップS30に移行し、グレースケール処理データのうち「12」以上であり「35」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦35)の領域も黒色に変換する。次いでステップS31に移行し、上記の黒色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する(図14参照)。
【0048】
次に、上記構成の転がり軸受観察装置10を使用して転がり軸受1の観察を行う手順及び作用効果について説明する。
先ず、X線CT11の試料載置台20に転がり軸受1を載置し、X線照射部21からX線を照射し、断面のX線吸収率を測定する。この測定を試料載置台20を回転させながら繰り返えす。これら吸収率はX線計測部23で計測され、これをCT値(CTデータ)に変換し、転がり軸受1の横断面(軸方向に直交する断面)のCT値に基づいて、CT値を14ビットの数値で保存して214= 16384階調の−8192〜8192の範囲のグレースケールで表したグレースケール処理データが作成される。
【0049】
そして、先ず表示装置16には、転がり軸受1内の空気(図2の符号7)の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図11に示すように、「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を青色に変換したCT画像解析データが表示される。
【0050】
次いで、転がり軸受1内の空気の位置を確認したことを示す情報を観察者が操作部18に入力すると、引き続き、表示装置16には、保持器5、玉4の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図12に示すように、「0」以下のグレースケール (グレースケール≦0)の領域を黒色に変換し、「35」以上のグレースケール(グレースケールS≦35)の領域を黄色に変換したCT画像解析データが表示される。
【0051】
次いで、転がり軸受1内の保持器5、玉4の位置を確認したことを示す情報を観察者が操作部18に入力すると、引き続き、表示装置16には、内輪3、外輪2の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図13に示すように、「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域と、「35」以上のグレースケール(グレースケール≦35)を黒色に変換し、「12」以上であり「23」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦23)の領域を赤色に変換したCT画像解析データが表示される。
【0052】
そして、転がり軸受1内の内輪3、外輪2の位置を確認したことを示す情報を観察者が操作部18に入力すると、最後に、表示装置16には、グリース(図2の符号6)の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図14に示すように、「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を黒色に変換し、「12」以上であり 「35」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦35)の領域も黒色に変換し、残りの領域をグレーで表示してグリース6の分布、形状を示したCT画像解析データが表示される。
【0053】
ここで、上記の観察においては、X線CT11の試料載置台20を回転駆動して転がり軸受1を軸回りに所定角度まで回転し、移動部22を駆動して転がり軸受1の上下方向位置を変更することで、X線照射部21からX線が照射される転がり軸受1の照射方向が適宜変更されながら、表示装置16にはCT画像解析データが表示されるものとする。
【0054】
したがって、本実施形態の観察用の転がり軸受1は、グリース6とは異なるCT値であり、且つグリース6に近いCT値の材料からなる内輪3、外輪2、玉4、保持器5を備えた軸受としているので、各構成部材(内輪3、外輪2、玉4、保持器5)及び軸受内部に存在する空気の形状を確実に把握し、各構成部材及び空気と、グリース6とを明確に分離処理することができるので、グリース6の分布、形状を正確に取得することができる。
【0055】
また、本実施形態の転がり軸受1の観察方法においては、CT画像のCT値を14ビットの数値で保存して214=16384階調の−8192〜8192の範囲のグレースケールで表し、グレースケール処理データを作成する転がり軸受観察装置10を用いているので、表示装置16で明確に転がり軸受1の内部を表示することができる。
なお、本実施形態では観察用の転がり軸受として転がり軸受1を用いたが、グリースを封入した他の構成の転がり軸受、例えば図3の外輪2と内輪3の間の軸方向の開口を覆う密封装置8,8を設けた転がり軸受1のように他の転動装置であっても同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
(第2実施形態の転動装置及びその転動装置の内部観察方法)
次に、図1で示した転がり軸受1とは異なる構成の転動装置としての深溝玉軸受の内部観察方法について、図15を参照して述べる。なお、図1及び図2で示した構成と同一構成部分には、同一符号を付してその説明は省略する。
先ず、転がり軸受の内部の設計(いわゆる内部諸元:溝R寸法、玉PCD、玉直径、保持器形状等)によるグリースの動き・挙動の違いを観察したい場合について述べる。
【0057】
この場合においては、内輪及び外輪3を樹脂製とし、転動体5をセラミックもしくはガラスで構成することが好ましい。具体的には、内輪2、外輪3をフッ素系樹脂もしくはポリアミド系樹脂で構成することが好ましい。フッ素樹脂は、樹脂の中でも比較的比重が大きく、一般的なグリース組成物との区別のためのグリース組成物とのX線吸収係数の差を確保した上で、過大でなく良好な範囲のX線吸収係数を有している。ポリアミド系樹脂は、樹脂内部に水分を保持する性質があり、この水分のために、一般的なグリース組成物との区別のためのグリース組成物とのX線吸収係数の差を確保した上で、過大でなく良好な範囲のX線吸収率とすることができる。より具体的には、フッ素樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が好ましい。ポリアミド樹脂のなかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が好ましい。さらに、これら樹脂は、強化繊維を配合して強化されていることが好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、酸化亜鉛ウイスカー、酸化チタンウイスカー等のウイスカー等が使用できる。好ましくは、重金属を含まないものを使用する。より具体的には、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。
【0058】
転動体5としては、セラミックもしくはガラスが好適に使用できる。セラミックとしては、酸化物系セラミック、炭化物系セラミック、窒化物系セラミック、複合化合物系セラミックが使用できる。好ましくは、酸化物系セラミックもしくは窒化物系セラミックを使用する。より好ましくは、酸化物系セラミックであれば、アルミナ、ジルコニア、あるいはアルミナージルコニア複合複合セラミック、さらには、これらにイットリアを添加したもの等が使用できる。窒化物系セラミックとしては、窒化珪素、ボロンナイトライド等が使用できる。最も好ましくは、ガラス、窒化珪素もしくはアルミナ、あるいはガラス、窒化珪素もしくはアルミナを主成分とするセラミックを使用する。窒化珪素もしくはアルミナであれば、一般的なグリース組成物とのX線吸収係数の差を確保した上で、さらには、内輪2、外輪3を形成する樹脂材料とのX線吸収係数の差も確保した上で、過大とならないX線吸収率とすることができる。
【0059】
したがって、最も好ましい深溝玉軸受の構成としては、内輪2、外輪3がPTFEもしくはポリアミド製であり、転動体がガラス、窒化珪素、アルミナのいずれかで構成されるものである。この深溝玉軸受であれば、軸受内部に封入したグリースと、軸受を構成する内輪2、外輪3と、転動体5について相互にX線吸収率の差を確保した上で、それぞれ過大とならないX線吸収率を有するものとすることが可能である。このため、軸受内部に封入したグリースの状態を、精度よくX線CTで観察することができる。また、言い換えれば、この構成の軸受は、X線あるいはX線CTでの内部グリースの観察に適した軸受と言うことができる。
【0060】
さらに、この深溝玉軸受は、保持器を有していてもよい。X線での観察に適したものという観点から考慮すると、保持器材質としては、チタン、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の軽金属もしくはこれらを主体とする合金、もしくは、樹脂を使用する。樹脂としては、内外輪と同様にフッ素樹脂もしくはポリアミド樹脂が好ましい。保持器を樹脂とする場合は、内外輪の材質とは異なるものとすることが好ましい。すなわち、内外輪がフッ素樹脂であれば、保持器はポリアミドとし、内外輪がポリアミドであれば保持器はフッ素樹脂とすることが好ましい。保持器として具体的には、内外輪と同様にフッ素樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が好ましい。ポリアミド樹脂のなかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が好ましい。
【0061】
さらに、これら樹脂は、強化繊維を配合して強化されていることが好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、酸化亜鉛ウイスカー、酸化チタンウイスカー等のウイスカー等が使用できる。好ましくは、重金属を含まないものを使用する。より具体的には、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。
【0062】
さらに、この深溝玉軸受においては、シールもしくはシールド板等の密封装置8,8を装着していてもよい。密封装置8としてのシールは、一般的に円盤状の芯金に、シールリップを形成するゴムを重ねたものであり、密封装置8としてのシールド板は、一般的に円盤状の金属板で構成される。いずれも、金属部分は、内外輪に比べて薄い金属であるため、X線測定に与える影響は比較的少ないともいえる。
【0063】
しかしながら、X線での軸受内部グリースの測定に好適であるということを考慮すると、シール装置の芯金およびシールド板も樹脂で構成することが好ましい。この場合、シール装置、シールド板とも内外輪のいずれかもしくは両方に装着されるものであるため、内外輪と異なる樹脂材料とすることが好ましい。逆に、保持器とシール装置が直接接触する場合は想定しにくいため、保持器とは同じ樹脂で構成することができる。好ましい樹脂は、内外輪、保持器と同様であり、フッ素樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が好ましい。ポリアミド樹脂のなかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が好ましい。さらに、これら樹脂は、強化繊維を配合して強化されていることが好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、酸化亜鉛ウイスカー、酸化チタンウイスカー等のウイスカー等が使用できる。好ましくは、重金属を含まないものを使用する。より具体的には、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。
【0064】
グリース組成物の性状・物性は、軸受内部のグリースの挙動に直接的に影響を与えるものであるため、任意の選択は困難といえるが、軸受内部のグリースのX線での観察という観点からは、フッ素系増ちょう剤とフッ素系の油からなるフッ素系グリース、もしくはバリウム石けんを増ちょう剤としたグリース、あるいは、添加剤として重金属元素を含有するグリース組成物とすることが好ましい。フッ素系増ちょう剤とフッ素系油からなるフッ素グリースは、グリース組成物の中でも比重が大きく、軸受を構成する樹脂、セラミックとのX線吸収係数の差を確保した上で、過大とならず、かつ、比較的大きな値のX線吸収係数において適正なX線吸収係数範囲とすることができる。バリウム石けんを増ちょう剤としたグリースは、X線吸収係数の高い元素であるバリウムの占める割合が大きいため、軸受を構成する樹脂、セラミックとのX線吸収係数の差を確保した上で、過大とならず、かつ、比較的大きな値のX線吸収率において適正なX線吸収率範囲とすることができる。添加剤として重金属元素を含有する添加剤を添加したグリースは、X線吸収係数の高い重金属を含有するため、深溝玉軸受を構成する樹脂、セラミックとのX線吸収係数の差を確保した上で、過大とならず、かつ、比較的大きな値のX線吸収率において適正なX線吸収率範囲とすることができる。さらに、深溝玉軸受内部に封入するグリース組成物も含めて、X線での内部グリースの観察に適した構成を考慮すると、内外輪、保持器、転動体は重金属元素を含まず、グリース組成物には重金属元素を含有させることが好ましい。言い換えれば、転がり軸受を構成する部材の中でも、挙動を観察する対象物のX線吸収係数を一番高いものとすることが好ましい。具体的には、内外輪、保持器を樹脂組成物とし、転動体をセラミックもしくはガラスとし、グリース組成物をフッ素系グリースもしくはバリウム石けん系グリースあるいは重金属元素含有添加剤添加グリースとすることが好ましい。より具体的、より好ましくは、内外輪、保持器をフッ素樹脂とし、転動体を窒化珪素とし、グリース組成物をバリウム石けんを増ちょう剤とするグリースとすると良い。この場合グリースがフッ素系グリースであると、内外輪、保持器と化学組成的に近いものとなり、X線吸収率の差を確保することが難しくなる場合も想定されるため、前記の構成が好ましい。バリウム石けん系グリースのうち、市販のものとしては、NOKクリューバ株式会社製「イソフレックスNBU15」等が好適に使用できる。重金属元素含有添加剤としては、防錆剤であればバリウムスルホネート、ラノリン酸バリウム等のバリウム塩、極圧剤、摩耗防止剤であれば、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)、等のモリブデン含有DTC、DTP塩やその他の鉄、ニッケル、テルル、ビスマス、鉛、錫、アンチモン等のDTC、DTP塩、ナフテン酸鉛等のナフテン酸塩、二硫化モリブデン、二硫化タングステン等の固体系極圧剤微粉末、金、銀、鉛等軟質重金属の微粉末、あるいは、酸化ビスマス、酸化クロム等の重金属の酸化物微粉末等が使用できる。
【0065】
ここで、いわゆるなじみ運転時期の深溝玉軸受内部を想定した場合、内部で動きや形状の変化があるものはグリース組成物のみともいえる。その他の内輪、外輪、保持器、シールは相対的な位置は変わる可能性があるものの、それぞれの部材の寸法形状が変化することは無いと考えられる。そうすると、設計時におけるこれら内輪、外輪、保持器、シールの形状の3次元データ、もしくは、実測による3次元データがあれば、X線CTで得られた画像において、これら内輪、外輪、保持器、シールの形状が判別しにくくとも、当該3次元データを重ね合わせるか差し引く等により、グリースもしくは空隙部分を抽出することが可能である。このとき、X線CT画像と3次元データの位相のずれを修正する手段が必要になる。これに対しては、例えば、内輪、外輪、保持器、シールの各部材において、少なくともどれか一つの部材の2箇所に、X線吸収係数の大きい物質からなり、かつ、過大な大きさとならない位置あわせ用の物質を埋め込んでおけばよい。
【0066】
すなわち、樹脂保持器であれば、図15に示すように、保持器5の中で離間した2箇所に、直径10μmほどの金属球24を埋め込んでおき、あらかじめ、X線CT等により保持器単体で全体の形状と2個の金属球24の位置を特定しておけば、その後の軸受全体でのX線CTにおいて、この金属球の位置は略正確に特定できるようになる。そのため、あらかじめ測定しておいた保持器5の3次元データを、正確な位置で差し引くこと、あるいは重ね合わせることが可能となる。金属球24は、必ずしも球体である必要はなく、例えば、円筒体状、直方体状、円すい体状等のもの等も使用できる。埋め込むものを球形ではなく、これらの円筒体状のものとし、埋め込む位置を工夫することで、保持器5の1箇所に埋め込むだけで位置を特定できる場合もある。ただし、樹脂と金属との比重差、回転運動をする保持器5の回転時のバランス等を考慮すると、保持器5の円周上の2箇所以上に金属球24を等配することが好ましい。また、樹脂と金属との比重差もなるべく少ないほうが良いので、アルミニウム、チタン、マグネシウム等の軽金属を主体とするもの、あるいは、軽金属合金であることが好ましい。
【0067】
また、金属製保持器であれば、保持器5を形成する金属種よりもX線吸収係数の高い金属を埋め込むことが好ましい。一般的には、比重が大きくなるほどX線吸収係数が高くなるため、例えば、保持器5が鉄を主体とするものの場合は鉄よりも比重の高い金属、すなわち、鋼材等の場合は、鉛や金、銀を主体とするものあるいはこれらを主体とする合金を用いることが好ましい。
【0068】
さらに、この手法は、保持器5以外にも転動体4等の軸受内部で、内外輪に対して相対的に位置ずれが発生する部材についても適用できるものである。
そして、本実施形態の深溝玉軸受の内部観察する方法では、X線CTにより外部もしくは内部状態を示す画像を取得たものと、予め測定した測定値もしくは設計値に基づきCADにより作成される転動装置の画像との差分もしくは重複部分を取得することで、軸受内部を観察する。そして、この場合、転動装置内部において、他の部材との間で相対的に位置がずれるものについては、いわゆる位置マーカとなる金属球等を埋め込んでおくことで
ある。
【0069】
(第3実施形態の転動装置及びその転動装置の内部観察方法)
次に、内外輪が金属製、代表的には転がり軸受で一般に使用される高炭素クロム鋼、ステンレス鋼である場合に、それら鋼材に囲まれた内部の測定について述べる。
内外輪、すなわち、代表的な転動装置である転がり軸受1の外郭を構成する部品が、比較的厚みのある鋼材である場合、鋼材のX線吸収率が樹脂、空気、潤滑剤という軸受内部に存在する部材のX線吸収率よりも、はるかに高いものとなる。このため、軸受内部における鋼材と、樹脂、空気、潤滑剤との境界部では、いわゆるハレーションが発生し、内部状況の確認が困難になることが多い。また、比較的X線吸収率の高い、かつ、比較的厚みのある鋼材を透過してきたX線で軸受内部に存在する樹脂、空気、潤滑剤との区別を明確にすることは、困難である場合が多い。
【0070】
これらの場合には、X線照射源と、転がり軸受の間に、いわゆる金属フィルタを設置して観察することが有効である。金属フィルタとしては、各種の金属が使用できる。ただし、被検体である転動装置の外郭を構成する金属材とは異種のものとすることが好ましい。例えば、転動装置が転がり軸受であり、内外輪が鋼材である場合は、鋼のフィルタを使用することが好ましい。鋼は、鋼材の主成分である鉄とは異なる波長のX線をよく吸収する。すなわち、鋼フィルタの配置により、測定に用いるX線の波長分布をより狭いものとすることが可能である。これにより、必要以上にX線源からのX線強度を上げることなしに鉄を主体とする鋼材と、その内部の樹脂、空気、潤滑剤との境界を明瞭に観察することができるようになる。また、逆に、X線源からのX線強度を上げても、フィルタによりX線の波長分布が狭いものとなる、すなわち、この場合であれば鉄を主成分とする鋼材の測定に適した狭い波長分布とすることができるため、その内部の樹脂、空気、潤滑剤との境界を明瞭に観察することができるようになる。また、鋼を透過し、鉄を透過し、より波長分布や強度が適正となったX線により内部状態を観察することになるので、鋼材内部の樹脂、空気、潤滑剤の相互の区別がつきやすくなる。言い換えれば、鋼フィルタの設置により、軸受内部の樹脂、空気、潤滑剤等の比較的X線吸収係数の低い物質に対して、仮想的にX線吸収係数を上げる効果が得られる。繰り返しになるが、これにより、転がり軸受を構成する鋼材と、樹脂、空気、潤滑剤との相対的なX線吸収率の差を少なくすることができる。この場合、樹脂、空気、潤滑剤相互の区別は、前記した方法、例えば、それぞれのX線吸収率を過大とならない範囲で異なるものとすることを適用することにより可能である。結局、これらの方法を総合的に適用することにより、仮想的に、転がり軸受を構成する鋼材、潤滑剤(グリース)、樹脂、空気のX線吸収率を過大にならない程度に異ならせることが可能であり、ハレーション等の影響を減少させ、明瞭に相互に区別しての観察が可能となる。鋼材を透過させて鋼材に囲まれた部分もしくは鋼材内部を測定するときの鋼フィルタの厚さは、内部を観察しようとする鋼材の厚さ、鋼材の内部の被測定物の材質等にもよるが、通常0.5〜10mmである。また、被測定物の測定部位により、例えば鋼材部分の厚さが変化する場合には、被測定部位によりフィルタの厚さを変えてもよい。
【0071】
さらに、これらの、鋼フィルタ等の金属フィルタを適用することにより、鋼材等に囲まれた状態である一般の転がり軸受内部の状態も、内部の部品・潤滑剤に特別な処置を施さず観察することも可能となる。すなわち、特に、バリウム石けんグリース等を使用しなくとも、また、転動体・保持器の材質が金属、樹脂、セラミックにかかわらず、軸受内部の状態を観察することも可能になる。これにより、一般的、汎用的に回転機器に使用されている転がり軸受の内部状態を、非分解で観察することも可能である。通常、転がり軸受は、金属製の軸やハウジングに取り付けられているが、測定装置の大きさの制限内であれば、これら軸やハウジングに取り付けたままの測定も可能となる。これにより、転がり軸受等の転動装置のメンテナンスをより効率的に行うことが可能となる。また、言い換えれば、X線での測定のために内外輪材質を考慮する必要もなく、同様に、保持器材質、転動体材質、グリース組成も任意となるため、グリース組成の違いによる転がり軸受内部でのグリースの挙動の違いの観察、保持器材質の違いによるグリース挙動の違いの観察、さらには、転動体材質の違いによるグリース挙動の違いの観察等が可能になる。
【0072】
次に、特に、鋼材内部に囲まれた状態の内部をより明瞭に観察するために好適な方法について述べる。ただし、本方法は、樹脂内部に囲まれた内部の観察にも適用できる。
例えば、グリースを封入した転がり軸受の場合、いわゆる転がり軸受の内部空間の100%を満たすグリース量を封入することはほとんど無い。また、初期に100%のグリースを封入しても、転がり軸受の回転により何%かは転がり軸受外に漏出し、内部には空間 (空気・空隙)が存在することになる。
【0073】
空間が空気である場合には、この部分にX線吸収係数の高い物質を充填することにより、軸受内部の空間部分の境界をより明瞭にすることができる。充填に適した物質として、気体であれば、アルゴン、キセノン、クリプトン等の空気より比重の高い不活性ガスが好適に使用できる。また、液体であれば、金属粉もしくは金属酸化物粉等の金属含有微粉末を液体に分散させたスラリー、水溶性の金属塩の溶液、ヨウ素化合物を含有する液体等が好適に使用できる。金属粉もしくは金属酸化物粉等の金属含有微粉末を液体に分散させたスラリーの場合、転がり軸受内部のグリース組成物を溶解しない水ベースのものが好ましく、具体的には、半導体基板や精密金属加工品の仕上げ研磨に使用されるポリッシング用酸化クロムスラリー、酸化セリウムスラリー、酸化バリウムスラリー、酸化アルミニウムスラリー等が使用できる。これらに含まれる金属種としては、重金属が好ましいので、より好ましくは酸化クロムスラリー、酸化セリウムスラリー、酸化バリウムスラリーが使用できる。これらに含まれる微粉末は、X線CT測定装置の最大分解能よりも細かいことが好ましい。具体的には1μm以下、より好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下である。これらスラリー中の微粉末の濃度は、所定のX線吸収率が得られるように調整される。
【0074】
水溶性の金属塩の溶液としては、硫酸鉄(II)、塩化鋼、重クロム酸カリウム等の溶解度の高い重金属塩溶液を好適に使用できる。環境への配慮から毒劇物に該当しないものが好ましい。
【0075】
その他の液体としては、主に医療用で使用されているX線造影剤であるバリウム系造影剤、ヨウ素系造影剤が使用できる。バリウム系造影剤は、一般的に粘度が高く、細かい箇所の充填に難点があるため、ヨウ素系造影剤の使用が好ましい。ヨウ素系造影剤は、一般的に、トリヨードベンゼンをアルコールや界面活性剤等で水に可溶化して溶解したものである。好ましくは、ヨウ素含有量で300mg/ml以上のものを使用する。市販の医療用ヨウ素系造影剤としては、第一三共製薬株式会社の「オムニパーク」シリーズが好適に使用できる。
【0076】
これら液体のものについては、いずれも、グリース組成物等の一般的に油性の潤滑剤と相溶しない水ベースのものが好ましい。そのため、必要に応じてpH調整剤や水性の防錆剤を添加して使用することが好ましい。
【0077】
次に、これら気体、液体の充填方法について述べる。気体で転がり軸受内部を置換する場合は、所定の気体中に静置すれば良い。もしくは、一旦、被測定物を減圧した後、所定の気体中に静置すればよい。気体の特性状、当然所定の容器内に気体を充填し、その中に被測定物を置いて測定する必要がある。このとき、容器としては、樹脂もしくは軽金属製のものが好ましく、具体的には、ポリアミド樹脂、繊維強化ポリアミド樹脂、アルミニウム合金、チタン合金が好ましい。さらにこのとき、容器内に充填する気体の圧力を大気圧以上にすることも好ましい。見掛けの気体比重が増加し、その分、空隙部分のX線吸収率を上昇させることができる効果がある。
【0078】
液体を充填する場合は、所定の液体中に転がり軸受を浸漬する方法が適用できる。このとき、転がり軸受内部の空隙に液体を効率よく充填するため、減圧してもよい。液体の場合も、気体の場合と同様に、所定の液体を満たした容器内に転がり軸受を浸漬した状態で測定することが好ましい。
【0079】
上記した、空隙部にX線吸収係数の高い気体、液体を充填する方法により、内部の空隙部を明瞭に観察することが可能となる。また、被測定物の外部もこれら気体、液体で満たされる場合は、被測定物外郭部での鋼材と外部空間とのX線吸収係数の差が小さくなるため、より外郭を明瞭に特定できるようになる。
【符号の説明】
【0080】
1…転がり軸受(転動装置)、2…外輪(外側軌道部材)、2a…外輪軌道面、3…内輪(内側軌道部材)、3a…内輪軌道面、4…玉(転動体)、5…保持器(保持部材)、6…グリース(潤滑剤)、7…空気、8…密封装置、10…転がり軸受観察装置、11…X線CT、12…データ保存部、13…画像作成演算部、14…グレースケール処理演算部、15…CT画像解析処理部、16…表示装置(画像表示装置)、17…MPU、18…操作部、20…試料載置台、21…X線照射部、22…移動部、23…X線計測部
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線に代表される電子線、或いは放射線照射により画像データを取得して内部の状態を観察するのに適した転動装置及びこの転動装置を用いた転動装置内部観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば転動装置が転がり軸受である場合、グリースを封入した転がり軸受は、グリース潤滑による軸受寿命の延長を図るために、転がり軸受内部の軌道面のどの部分にグリースが存在しているか(グリース分布)、グリースがどのように付着しているか(グリース形状)といったグリース状態を検査する必要がある。また、転動装置が、グリース潤滑を行なうリニアガイド、ボールねじ等であっても、同様にグリース状態を検査する必要がある。
【0003】
従来、転動装置の内部潤滑剤の観察においては、転動装置が転がり軸受である場合に、内輪及び外輪の少なくとも一方をアクリル酸樹脂等の可視光透明体で構成した転がり軸受とし、この透明体越しにグリースを透視することで、転がり軸受内のグリース状態の情報を取得する方法が知られている(例えば特許文献1)。
この特許文献1の方法では、内輪及び外輪の少なくとも一方の透明体越しに透視可能なグリースの表面のみを観察可能にしている。そのため、グリースの分布、形状の情報を正確に取得することができない。
【0004】
そこで、例えば特許文献2、3に示すように、試料内部にX線を照射し、試料内部のX線吸収係数の違いに基づくX線透過像の画像処理を行って試料内部を検査する方法、或いは、特許文献4に示すように、グリースを封入した等速ジョイントにX線を照射してX線像を撮影し、X線像の濃色域の面積変化及び位置変化を比較してグリース状態の情報を取得する方法が知られている。
【0005】
また、特許文献5には、被検体により最適管電流、最適管電圧を自動設定する方法が記載されており、特許文献6には、銅等の金属フィルタを用いて異なった波長分布のX線を照射することにより、観察の精度を向上させる方法が開示されている。
さらに、特許文献7には、所定の冶具を用いてX線透過長さを均一化して測定する方法が開示されており、特許文献8には、ゴムに金属粉等のX線吸収係数の高い物質を混合させ、また、層状をなすゴムタイヤの層毎に金属粉濃度を変化させることにより、X線吸収係数の差の少ないゴムが成す層の界面を明瞭にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−69288号公報
【特許文献2】特開2001−201465号公報
【特許文献3】特開2007−111525号公報
【特許文献4】特開2007−155534号公報
【特許文献5】特開2006−105861号公報
【特許文献6】特公平6−92944号公報
【特許文献7】特開平6−273356号公報
【特許文献8】特開2006−76414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2、3、4の方法を一般的な転動装置に適用しても、通常の転動装置に対してX線を単に照射しただけでは転動装置内部の状況を性格に把握することは困難である。特に、転動装置内部に存在するX線吸収係数の低い物質である樹脂製保持部材等の樹脂、潤滑剤等の油脂の状況を、例えば密封部材を取り去ることなく観察することは困難である。
【0008】
すなわち、通常、転動装置の構成部材である外側軌道部材、内側軌道部材、転動体等は、樹脂や油脂と比較してX線吸収係数が高い鋼、代表的には軸受鋼を使用しており、軸受鋼製の構成部材を透過させて内部状況を観察するために、所定の厚さの軸受鋼を透過する強度のX線を照射すると、軸受鋼と樹脂部品・潤滑剤・空気(空隙)の区別はつけられるが、比較的X線吸収係数が低く、相互にX線吸収係数の差の少ない樹脂部品、潤滑剤、空気との間で区別をつけることが困難となってしまう。当然、X線の強度を弱めると、いわゆるメタルアーチファクトやハレーションが発生してしまい、また、X線が所定の厚さの軸受鋼を透過できず、内部状況を観察することはできない。
【0009】
また、特許文献5は、通常の転動装置の内部を観察しようとすると、軸受鋼を透過するためのX線強度と、内部での樹脂部品、潤滑剤、空気(空隙)の差を観察するために好適なX線強度がそもそも異なるため、最適条件を見出すどころか、従来と同様に内一部状況を観察することもできない。
また、特許文献6は、上記メタルアーチファクトやハレーションの低減には効果があるものの、金属製部材の内部に存在するX線吸収係数が低くかつ相互に差の少ない部材の分離観察は困難である。
【0010】
また、特許文献7は、転動装置のように内部構造が複雑なものに対しては適用が困難である。
さらに、特許文献8は、いわゆる母材、基材となるものに異物を混入させることになるため、母材・基材の変質を誘発しやすい。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、X線照射に代表される電子線、或いは放射線照射によって得られた転動装置の断層データによって転動装置の内部の状態を把握することに適した転動装置及びこの転動装置を用いた転動装置内部観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、内側軌道部材と、外側軌道部材と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間で転動する転動体と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間に充填した潤滑剤とを転動装置構成部材とし、これら転動装置構成部材にX線を照射することで当該転動装置構成部材の断面についてのX線吸収率データを得るとともに、このX線吸収率データに基いて、前記断面内でのX線吸収率を所定の階調でもって表すデータを取得し、当該データに基づいて画像表示装置で表示することにより前記内側軌道部材と前記外側軌道部材の間の内部状態を観察することが可能な転動装置において、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体及び前記潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとした。
【0012】
また、請求項2記載の転動装置は、請求項1記載の転動装置において、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間に、前記転動体の転動状態を保持する保持部材が前記転動装置構成部材として装着されており、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤及び前記保持部材のX線吸収係数を異なるものとした。
また、請求項3記載の転動装置は、請求項2記載の転動装置において、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間をシールする密封装置が前記転動装置構成部材として装着されており、前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤、前記保持部材及び前記密封装置のX線吸収係数を異なるものとした。
【0013】
また、請求項4記載の転動装置は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の転動装置において、前記画像データを、前記X線吸収率を14ビットの階調範囲で示したときに、前記転動装置の階調範囲が、185階調の範囲となるように前記転動装置構成部材の材料を選定した。
また、請求項5記載の転動装置は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の転動装置において、前記外側軌道部材及び内側軌道部材は樹脂製であり、前記転動体はセラミック製若しくはガラス製である。
【0014】
また、請求項6記載の転動装置は、請求項2乃至5の何れか1項に記載の転動装置において、前記保持部材は樹脂製である。
さらに、請求項7記載の転動装置は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の転動装置において、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間に、空気より比重の大きい流体を充填した。
【0015】
さらにまた、請求項8記載の発明は、請求項1乃至7の何れか1項に記載の転動装置を使用し、X線CTにより内部を観察する転動装置内部観察方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る転動装置によると、転動装置構成部材である内側軌道部材、外側軌道部材、転動体及び潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとしたので、X線を照射することで内部状態を正確に観察することが可能な転動装置を提供することができる。
また、本発明に係る転動装置を用いた転動装置内部観察方法によると、転動装置の内部状態を画像表示装置で正確に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】内部観察用の転がり軸受の軸方向断面を示す図である。
【図2】図1のA−A線矢視図である。
【図3】密封装置を装着した転がり軸受の径方向断面を示す図である。
【図4】転がり軸受の観察を行う軸受観察装置の構成を示す図である。
【図5】本発明で使用するグレースケール処理データを示す図である。
【図6】本発明の軸受観察装置が行う転がり軸受内部の表示手順を示すフローチャートである。
【図7】転がり軸受内部に存在する空気の表示手順を示すフローチャートである。
【図8】転がり軸受内部の保持器、転動体の表示手順を示すフローチャートである。
【図9】転がり軸受の内輪・外輪の表示手順を示すフローチャートである。
【図10】転がり軸受に封入されているグリースの表示手順を示すフローチャートである。
【図11】転がり軸受内部に存在する空気を画像表示した図である。
【図12】転がり軸受内部の保持器、転動体を画像表示した図である。
【図13】転がり軸受の内輪・外輪を画像表示した図である。
【図14】転がり軸受に封入されているグリースを画像表示した図である。
【図15】樹脂製の保持器にマーカを埋め込んだ状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態の転動装置の構成)
図1は、本発明に係る転動装置の一例である転がり軸受1を示す軸方向断面図、図2は、図1のA−A矢視断面図である。
【0019】
図1に示すように、転がり軸受1は、外側軌道部材に相当する外輪2と、内側軌道部材に相当する内輪3と、転動体に相当し、これら外輪2及び内輪3の間に複数個組み込まれる玉4と、転動体の保持部材に相当し、複数個の玉4を等配して案内する冠形の保持器5とを備えている。
外輪2の内周面の軸方向中央部には、円弧溝状の外輪軌道面2aが形成されており、内輪3の外周面の軸中央部には、外輪軌道面2aと対向する円弧溝状の内輪軌道面3aが形成されている。
【0020】
そして、図2に示すように、外輪軌道面2a、内輪軌道面3a及び保持器5で囲まれた転がり軸受1の内部空間には、所定の分布、形状で潤滑剤の一例であるグリース6が封入されているとともに、グリース6以外の内部領域には空気(気泡)あるいは空隙7が存在している。
外輪2及び内輪3は、金属、セラミック等の無機材料、樹脂、ゴム、エラストマー等の有機材料あるいはこれらの混合材料で形成されている。
【0021】
外輪2及び内輪3の具体的な金属材料は、ベリリウムもしくはベリリウム合金、マグネシウムもしくはマグネシウム合金、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、チタンもしくはチタン合金、鉄もしくは鉄合金あるいは鉄鋼材、ニッケルもしくはニッケル合金、鋼もしくは鋼合金、亜鉛もしくは亜鉛合金などが使用可能である。
金属材料のなかでも、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、チタンもしくはチタン合金、鉄もしくは鉄合金もしくは鉄鋼材が好ましい。軽金属になると転動装置としての機械的強度を保つのが困難であり、重金属になるとX線に代表される電子線、或いは放射線が透過しにくくなるためである。
【0022】
さらに、この中でも、アルミニウム合金もしくは鉄鋼材であることがより好ましい。アルミニウム合金は加工がし易く、X線の吸収係数も金属の中では比較的低く、X線での内部観察用に優れている。また、鉄もしく鉄合金あるいは鋼材は、転動装置を形成する一般的な材料であり、例えば市販のものをそのまま使用できるなど利点が多い。鉄鋼材の中でも、高炭素クロム軸受鋼、ステンレス鋼などがより好適に使用できる。
【0023】
また、外輪2及び内輪3の具体的なセラミック材料は、アモルファス炭素、ダイヤモンド等の元素系セラミック、石英、ガラス、ベリリア、シリカ、ジルコニア、アルミナ、イットリア、マグネシア、フェライト等の酸化物系セラミック、シリコンナイトライド(窒化珪素)、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミック、シリコンカーバイド、チクンカーバイド、タングステンカーバイド、ボロンカーバイド等の炭化物系セラミック、チタン酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム等の化合物系セラミック、あるいはこれらの混合物が使用できる。
【0024】
これらセラミック材料の中でも、重金属の含有量が少なく、転動装置としての機械的強度に優れ、かつ、加工性が良いものが好ましい。重金属の含有量が多すぎると、X線に代表される電子線、或いは放射線の吸収係数が過大になりやすい。したがって、好ましくは、石英、ガラス、アルミナ、窒化珪素等を使用することができる。
【0025】
また、外輪2及び内輪3の具体的な有機材料は、各種の樹脂材料、ゴム材料を使用することが可能である。具体的には、樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンーエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレンーエチレン共重合体(ECTFE)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンとポリベンソイミダソールとのコポリマー(PEEK−PBI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、ポリエチレンテレフタレート、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、液晶ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エボナイト等の熱硬化性樹脂、あるいはこれらの混合樹脂、さらには、これらの樹脂にホウ酸アルミニウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、カーボンウイスカー、アラミド繊維、芳香族ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維、グラファイトウイスカー、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、炭化珪素ウイスカー、窒化珪素ウイスカー、アルミナウイスカー、窒化アルミニウムウイスカー、ウオラストナイト等の繊維状充填材を配合した樹脂材料が挙げられる。
【0026】
好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドを使用することができる。また、これら樹脂には必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、着色剤等の添加剤を添加してあってもよい。
また、外輪2及び内輪3の具体的なゴム材料は、ポリイソプレンを主成分とする天然ゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム、アクリルゴム(ACM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム (EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(II R)、ウレタンゴム等の合成ゴム材料が使用できる。また、これら合成ゴム材料には、必要に応じ、カーボンブラック、クレー等の充填材や酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の各種添加剤が添加してあってもよい。
【0027】
玉4、保持器5も、前述した内輪2、外輪3と同様に、金属、セラミック等の無機材料、樹脂、ゴム、エラストマー等の有機材料で形成されている。
潤滑剤6は、潤滑油、固体潤滑剤粉末、潤滑皮膜、潤滑グリース等の潤滑組成物である。転動装置の内部観察において特に観察の要求が多いのは、転動装置に封入されている潤滑グリースの状態である。すなわち、転動装置内部に封入した潤滑グリースの状態を観察することが、転動装置内部の観察の目的とされることが多い。
【0028】
ここで、グリース組成物は基本的に基油と増ちょう剤からなり、そこへ各種の添加剤等が配合されているものである。グリース組成物において基油の種類、増ちょう剤の種類、添加剤の種類を種々組み合わせることにより性状の異なるグリース組成物が得られる。また、グリース組成物の製造工程の違いによってもグリース組成物の性状が異なることとなる場合が多い。しかしながら、観察対象としてのグリース組成物の組成あるいは性状としては特に制限は無い。
【0029】
ここで、転がり軸受1の形態として、図3に示すように、外輪2と内輪3の間の軸方向の開口を覆うシール、シールドと呼ばれる密封装置8,8を設けたものがあるが、この密封装置8,8も、金属板製のもの、樹脂板製のもの、金属あるいは樹脂の芯金・芯材にゴムを接着等により取り付けたもの等が使用できる。この場合の金属材料、樹脂材料、ゴム材料も、前述した内輪2、外輪3と同様のものが使用できる。
【0030】
(転動装置の内部観察装置)
次に、上記構成とした転がり軸受1の内部観察を行う装置の1実施形態について、図4から図10を参照して説明する。
本実施形態の転がり軸受観察装置10は、図4に示すように、転がり軸受1に対して軸方向に直交する所定位置からX線を照射することでCT値(例えば、水を0、空気を−1000とした値)データを計測するX線CT11と、X線CT11で計測したCT値データを保存するCTデータ保存部12と、CT値データに基づいてCT画像を作成するCT画像作成演算部13と、作成したCT画像にグレースケール処理を行うグレースケール処理演算部14と、グレースケール処理演算部14でグレースケール処理を行ったデータ(グレースケール処理データ)に基づいてCT画像解析データを作成するCT画像解析処理部15と、CT画像解析処理部15で作成したCT画像解析データを表示する表示装置(画像表示装置:カラーディスプレイ)16と、X線CT11、CTデータ保存部12、画像作成演算部13、グレースケール処理演算部14、CT画像解析処理部15及び表示装置16を制御するMPU(マイクロプロセッシングユニット)17と、MPU17の操作を行う操作部18とを備えている。
【0031】
X線CT11は、矢印方向に回転自在の試料載置台20を有する。本実施形態の場合、軸方向が鉛直方向(重力方向)を向くように、且つ転がり軸受1の軸方向の軸回りに回転自在となるように転がり軸受1を載置している。さらに、X線CT11は、転がり軸受1に対して軸方向に直交する方向からX線を照射するX線照射部21と、X線照射部21を上下方向に移動させる移動部22と、転がり軸受1のCT値を計測するX線計測部23とを備えている。試料載置台20は、転がり軸受1を軸回りに回転させる機能を有している。
【0032】
X線CT11は、一例として管電圧55kV、管電流260μA、バイアスO、スロープ10のX線照射条件に設定してCT値を計測する。
グレースケール処理演算部14では、画像作成演算部13で作成したCT画像に基づき、CT値を例えば14ビットの数値で保存して214=16384階調の−8192〜8192の範囲のグレースケールで表すものである。
【0033】
CT画像解析処理部15は、転がり軸受1の各構成部材の形状が把握できるデータを作成する。例えば、最終的にグリース6の分布、形状が把握できるデータを作成する。
【0034】
(転動装置の内部観察方法)
図5は、グレースケール処理演算部14で演算したグレースケール処理データである。このグレースケール処理データは、転がり軸受1の各構成部材を透過してX線の差で出力されたCT値を、グレースケール、すなわち濃淡(グレースケールが高い場合には白色に近い灰色であり、グレースケールが低くなっていくと濃い灰色になっていき、最も低いグレースケールが黒色)として出力されたものである。図5は、データ処理時の一例であり、横軸にグレースケール、縦軸に、グレースケール毎のセル数を示している。横軸のグレースケールは、所定のX線照射条件下、14ビット階調表示時のグリース6のグレースケール範囲近傍の範囲を示している。
【0035】
ここで、MPU17には、転がり軸受1を構成する個々の要素のX線吸収係数もしくはX線吸収率の差、あるいは予め測定した個々の要素毎のCTデータ等に基づき、例えば所定のX線照射条件下、14ビット階調表示時に軸受内に封入されているグリース6のグレースケールが1〜10であり、外輪2及び内輪3のグレースケールが12〜23であり、玉4のグレースケールが40〜50であり、保持器5のグレースケールが35〜45であり、空気7のグレースケールが0以下であることを、予め記憶させてある。
【0036】
CT画像解析処理部15は、MPU17に予め記憶させたグリース6、外輪2及び内輪3、玉4、保持器5及び空気のグレースケール情報、グレースケール処理演算部14が演算したグレースケール処理データ、操作部18からMPU17に入力した認識フラグFLに基づいて、例えば、図6から図14のフローチャートで示す表示処理を行う。
【0037】
なお、図6の処理の確認フラグFLは、転がり軸受1を観察する観察者が操作部18を操作してMPU17に出力する情報であり、確認フラグFL=1は、観察者が転がり軸受1内の空気の位置を確認したことを示すフラグ、確認フラグFL=2は、観察者が転がり軸受1内の保持器5、玉4の位置を確認したことを示すフラグであり、認識フラグFL=3は、観察者が内輪3、外輪2の位置を確認したことを示すフラグである。また、認識フラグFLの初期値は「0」であり、スイッチSW1、SW2、SW3、SW4の初期値も 「0」である。
【0038】
図6の表示処理は、先ず、ステップS1で確認フラグFL=「0」であるか否かを判定する。ステップS1で確認フラグが「0」であるときにはステップS2に移行し、確認フラグが「0」でない場合にはステップS6に移行する。
ステップS2では、スイッチSW1=「1」であるか否かを判定する。ステップS2でスイッチSW1が「1」でない場合にはステップS3に移行し、スイッチSW1が「1」である場合にはリターンに移行する。
【0039】
ステップS3では、グレースケール処理演算部14で演算したグレースケール処理データを読み込む。次いでステップS4に移行して空気の画像表示処理を実行する。次いで、ステップS5に移行してスイッチSW1を「1」に設定してからリターンに移行する。
前記ステップS6では、フラグFL=「1」であるか否かを判定する。ステップS6で確認フラグが「1」であるときにはステップS7に移行し、確認フラグが「1」でない場合にはステップS11に移行する。
【0040】
ステップS7ではスイッチSW1を「0」に設定し、次いでステップS8に移行し、スイッチSW2=「1」であるか否かを判定する。スイッチSW2が「1」でない場合にはステップS9に移行し、スイッチSW2が「1」である場合にはリターンに移行する。
ステップS9では、保持器、玉の画像表示処理を実行し、次いでステップS10に移行し、スイッチSW2を「1」に設定してからリターンに移行する。
【0041】
前記ステップS11では、フラグFL=「2」であるか否かを判定する。ステップS11で確認フラグが「2」であるときにはステップS12に移行し、確認フラグが「2」でない場合にはステップS16に移行する。
ステップS12ではスイッチSW2を「0」に設定し、次いでステップS13に移行し、スイッチSW3=「1」であるか否かを判定する。スイッチSW3が「1」でない場合にはステップS14に移行し、スイッチSW3が「1」である場合にはリターンに移行する。
【0042】
ステップS14では、内輪、外輪の画像表示処理を実行し、次いでステップS15に移行し、スイッチSW3を「1」に設定してからリターンに移行する。
前記ステップS16では、フラグFL=「3」であるか否かを判定する。ステップS16で確認フラグが「3」であるときにはステップS17に移行し、確認フラグが「3」でない場合にはリターンに移行する。
【0043】
ステップS17ではスイッチSW3を「0」に設定し、次いでステップS18に移行し、スイッチSW4=「1」であるか否かを判定する。スイッチSW4が「1」でない場合にはステップS19に移行し、スイッチSW4が「1」である場合にはリターンに移行する。
ステップS19では、グリースの画像表示処理を実行し、次いでステップS20に移行し、スイッチSW4を「1」に設定してからリターンに移行する。
【0044】
ステップS4の空気の画像表示処理は、図7の処理で示すように、先ずステップS21でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を青色に変換する。次いでステップS22に移行し、「0」以下のグレースケールの領域を青色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する。(図11参照)。
【0045】
また、ステップS9の保持器、玉の画像表示処理は、図8のフローチャートで示すように、先ずステップS23でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール (グレースケール≦0)の領域を黒色に変換する。次いでステップS24に移行し、グレースケール処理データのうち「35」以上のグレースケール(グレースケール≧35)の領域を黄色に変換する。次いでステップS25に移行し、上記の黒色、黄色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する。(図12参照)。
【0046】
また、ステップS14の内輪、外輪の画像表示処理は、図9のフローチャートで示すように、先ずステップS26でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域と、「35」以上のグレースケール(グレースケール≧35)を黒色に変換する。次いでステップS27に移行し、グレースケール処理データのうち「12」以上であり「23」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦23)の領域を赤色に変換する。次いでステップS28に移行し、上記の黒色、赤色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する。(図13参照)。
【0047】
さらに、ステップS19のグリースの画像表示処理は、図10のフローチャートで示すように、先ずステップS29でグレースケール処理データのうち「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を黒色に変換する。次いでステップS30に移行し、グレースケール処理データのうち「12」以上であり「35」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦35)の領域も黒色に変換する。次いでステップS31に移行し、上記の黒色に変換したCT画像解析データを表示装置16に表示してリターンに移行する(図14参照)。
【0048】
次に、上記構成の転がり軸受観察装置10を使用して転がり軸受1の観察を行う手順及び作用効果について説明する。
先ず、X線CT11の試料載置台20に転がり軸受1を載置し、X線照射部21からX線を照射し、断面のX線吸収率を測定する。この測定を試料載置台20を回転させながら繰り返えす。これら吸収率はX線計測部23で計測され、これをCT値(CTデータ)に変換し、転がり軸受1の横断面(軸方向に直交する断面)のCT値に基づいて、CT値を14ビットの数値で保存して214= 16384階調の−8192〜8192の範囲のグレースケールで表したグレースケール処理データが作成される。
【0049】
そして、先ず表示装置16には、転がり軸受1内の空気(図2の符号7)の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図11に示すように、「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を青色に変換したCT画像解析データが表示される。
【0050】
次いで、転がり軸受1内の空気の位置を確認したことを示す情報を観察者が操作部18に入力すると、引き続き、表示装置16には、保持器5、玉4の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図12に示すように、「0」以下のグレースケール (グレースケール≦0)の領域を黒色に変換し、「35」以上のグレースケール(グレースケールS≦35)の領域を黄色に変換したCT画像解析データが表示される。
【0051】
次いで、転がり軸受1内の保持器5、玉4の位置を確認したことを示す情報を観察者が操作部18に入力すると、引き続き、表示装置16には、内輪3、外輪2の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図13に示すように、「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域と、「35」以上のグレースケール(グレースケール≦35)を黒色に変換し、「12」以上であり「23」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦23)の領域を赤色に変換したCT画像解析データが表示される。
【0052】
そして、転がり軸受1内の内輪3、外輪2の位置を確認したことを示す情報を観察者が操作部18に入力すると、最後に、表示装置16には、グリース(図2の符号6)の位置を示す情報が表示される。すなわち、表示装置16には、図14に示すように、「0」以下のグレースケール(グレースケール≦0)の領域を黒色に変換し、「12」以上であり 「35」以下のグレースケール(12≦グレースケール≦35)の領域も黒色に変換し、残りの領域をグレーで表示してグリース6の分布、形状を示したCT画像解析データが表示される。
【0053】
ここで、上記の観察においては、X線CT11の試料載置台20を回転駆動して転がり軸受1を軸回りに所定角度まで回転し、移動部22を駆動して転がり軸受1の上下方向位置を変更することで、X線照射部21からX線が照射される転がり軸受1の照射方向が適宜変更されながら、表示装置16にはCT画像解析データが表示されるものとする。
【0054】
したがって、本実施形態の観察用の転がり軸受1は、グリース6とは異なるCT値であり、且つグリース6に近いCT値の材料からなる内輪3、外輪2、玉4、保持器5を備えた軸受としているので、各構成部材(内輪3、外輪2、玉4、保持器5)及び軸受内部に存在する空気の形状を確実に把握し、各構成部材及び空気と、グリース6とを明確に分離処理することができるので、グリース6の分布、形状を正確に取得することができる。
【0055】
また、本実施形態の転がり軸受1の観察方法においては、CT画像のCT値を14ビットの数値で保存して214=16384階調の−8192〜8192の範囲のグレースケールで表し、グレースケール処理データを作成する転がり軸受観察装置10を用いているので、表示装置16で明確に転がり軸受1の内部を表示することができる。
なお、本実施形態では観察用の転がり軸受として転がり軸受1を用いたが、グリースを封入した他の構成の転がり軸受、例えば図3の外輪2と内輪3の間の軸方向の開口を覆う密封装置8,8を設けた転がり軸受1のように他の転動装置であっても同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
(第2実施形態の転動装置及びその転動装置の内部観察方法)
次に、図1で示した転がり軸受1とは異なる構成の転動装置としての深溝玉軸受の内部観察方法について、図15を参照して述べる。なお、図1及び図2で示した構成と同一構成部分には、同一符号を付してその説明は省略する。
先ず、転がり軸受の内部の設計(いわゆる内部諸元:溝R寸法、玉PCD、玉直径、保持器形状等)によるグリースの動き・挙動の違いを観察したい場合について述べる。
【0057】
この場合においては、内輪及び外輪3を樹脂製とし、転動体5をセラミックもしくはガラスで構成することが好ましい。具体的には、内輪2、外輪3をフッ素系樹脂もしくはポリアミド系樹脂で構成することが好ましい。フッ素樹脂は、樹脂の中でも比較的比重が大きく、一般的なグリース組成物との区別のためのグリース組成物とのX線吸収係数の差を確保した上で、過大でなく良好な範囲のX線吸収係数を有している。ポリアミド系樹脂は、樹脂内部に水分を保持する性質があり、この水分のために、一般的なグリース組成物との区別のためのグリース組成物とのX線吸収係数の差を確保した上で、過大でなく良好な範囲のX線吸収率とすることができる。より具体的には、フッ素樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が好ましい。ポリアミド樹脂のなかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が好ましい。さらに、これら樹脂は、強化繊維を配合して強化されていることが好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、酸化亜鉛ウイスカー、酸化チタンウイスカー等のウイスカー等が使用できる。好ましくは、重金属を含まないものを使用する。より具体的には、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。
【0058】
転動体5としては、セラミックもしくはガラスが好適に使用できる。セラミックとしては、酸化物系セラミック、炭化物系セラミック、窒化物系セラミック、複合化合物系セラミックが使用できる。好ましくは、酸化物系セラミックもしくは窒化物系セラミックを使用する。より好ましくは、酸化物系セラミックであれば、アルミナ、ジルコニア、あるいはアルミナージルコニア複合複合セラミック、さらには、これらにイットリアを添加したもの等が使用できる。窒化物系セラミックとしては、窒化珪素、ボロンナイトライド等が使用できる。最も好ましくは、ガラス、窒化珪素もしくはアルミナ、あるいはガラス、窒化珪素もしくはアルミナを主成分とするセラミックを使用する。窒化珪素もしくはアルミナであれば、一般的なグリース組成物とのX線吸収係数の差を確保した上で、さらには、内輪2、外輪3を形成する樹脂材料とのX線吸収係数の差も確保した上で、過大とならないX線吸収率とすることができる。
【0059】
したがって、最も好ましい深溝玉軸受の構成としては、内輪2、外輪3がPTFEもしくはポリアミド製であり、転動体がガラス、窒化珪素、アルミナのいずれかで構成されるものである。この深溝玉軸受であれば、軸受内部に封入したグリースと、軸受を構成する内輪2、外輪3と、転動体5について相互にX線吸収率の差を確保した上で、それぞれ過大とならないX線吸収率を有するものとすることが可能である。このため、軸受内部に封入したグリースの状態を、精度よくX線CTで観察することができる。また、言い換えれば、この構成の軸受は、X線あるいはX線CTでの内部グリースの観察に適した軸受と言うことができる。
【0060】
さらに、この深溝玉軸受は、保持器を有していてもよい。X線での観察に適したものという観点から考慮すると、保持器材質としては、チタン、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の軽金属もしくはこれらを主体とする合金、もしくは、樹脂を使用する。樹脂としては、内外輪と同様にフッ素樹脂もしくはポリアミド樹脂が好ましい。保持器を樹脂とする場合は、内外輪の材質とは異なるものとすることが好ましい。すなわち、内外輪がフッ素樹脂であれば、保持器はポリアミドとし、内外輪がポリアミドであれば保持器はフッ素樹脂とすることが好ましい。保持器として具体的には、内外輪と同様にフッ素樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が好ましい。ポリアミド樹脂のなかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が好ましい。
【0061】
さらに、これら樹脂は、強化繊維を配合して強化されていることが好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、酸化亜鉛ウイスカー、酸化チタンウイスカー等のウイスカー等が使用できる。好ましくは、重金属を含まないものを使用する。より具体的には、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。
【0062】
さらに、この深溝玉軸受においては、シールもしくはシールド板等の密封装置8,8を装着していてもよい。密封装置8としてのシールは、一般的に円盤状の芯金に、シールリップを形成するゴムを重ねたものであり、密封装置8としてのシールド板は、一般的に円盤状の金属板で構成される。いずれも、金属部分は、内外輪に比べて薄い金属であるため、X線測定に与える影響は比較的少ないともいえる。
【0063】
しかしながら、X線での軸受内部グリースの測定に好適であるということを考慮すると、シール装置の芯金およびシールド板も樹脂で構成することが好ましい。この場合、シール装置、シールド板とも内外輪のいずれかもしくは両方に装着されるものであるため、内外輪と異なる樹脂材料とすることが好ましい。逆に、保持器とシール装置が直接接触する場合は想定しにくいため、保持器とは同じ樹脂で構成することができる。好ましい樹脂は、内外輪、保持器と同様であり、フッ素樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が好ましい。ポリアミド樹脂のなかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が好ましい。さらに、これら樹脂は、強化繊維を配合して強化されていることが好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維、酸化亜鉛ウイスカー、酸化チタンウイスカー等のウイスカー等が使用できる。好ましくは、重金属を含まないものを使用する。より具体的には、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。
【0064】
グリース組成物の性状・物性は、軸受内部のグリースの挙動に直接的に影響を与えるものであるため、任意の選択は困難といえるが、軸受内部のグリースのX線での観察という観点からは、フッ素系増ちょう剤とフッ素系の油からなるフッ素系グリース、もしくはバリウム石けんを増ちょう剤としたグリース、あるいは、添加剤として重金属元素を含有するグリース組成物とすることが好ましい。フッ素系増ちょう剤とフッ素系油からなるフッ素グリースは、グリース組成物の中でも比重が大きく、軸受を構成する樹脂、セラミックとのX線吸収係数の差を確保した上で、過大とならず、かつ、比較的大きな値のX線吸収係数において適正なX線吸収係数範囲とすることができる。バリウム石けんを増ちょう剤としたグリースは、X線吸収係数の高い元素であるバリウムの占める割合が大きいため、軸受を構成する樹脂、セラミックとのX線吸収係数の差を確保した上で、過大とならず、かつ、比較的大きな値のX線吸収率において適正なX線吸収率範囲とすることができる。添加剤として重金属元素を含有する添加剤を添加したグリースは、X線吸収係数の高い重金属を含有するため、深溝玉軸受を構成する樹脂、セラミックとのX線吸収係数の差を確保した上で、過大とならず、かつ、比較的大きな値のX線吸収率において適正なX線吸収率範囲とすることができる。さらに、深溝玉軸受内部に封入するグリース組成物も含めて、X線での内部グリースの観察に適した構成を考慮すると、内外輪、保持器、転動体は重金属元素を含まず、グリース組成物には重金属元素を含有させることが好ましい。言い換えれば、転がり軸受を構成する部材の中でも、挙動を観察する対象物のX線吸収係数を一番高いものとすることが好ましい。具体的には、内外輪、保持器を樹脂組成物とし、転動体をセラミックもしくはガラスとし、グリース組成物をフッ素系グリースもしくはバリウム石けん系グリースあるいは重金属元素含有添加剤添加グリースとすることが好ましい。より具体的、より好ましくは、内外輪、保持器をフッ素樹脂とし、転動体を窒化珪素とし、グリース組成物をバリウム石けんを増ちょう剤とするグリースとすると良い。この場合グリースがフッ素系グリースであると、内外輪、保持器と化学組成的に近いものとなり、X線吸収率の差を確保することが難しくなる場合も想定されるため、前記の構成が好ましい。バリウム石けん系グリースのうち、市販のものとしては、NOKクリューバ株式会社製「イソフレックスNBU15」等が好適に使用できる。重金属元素含有添加剤としては、防錆剤であればバリウムスルホネート、ラノリン酸バリウム等のバリウム塩、極圧剤、摩耗防止剤であれば、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)、等のモリブデン含有DTC、DTP塩やその他の鉄、ニッケル、テルル、ビスマス、鉛、錫、アンチモン等のDTC、DTP塩、ナフテン酸鉛等のナフテン酸塩、二硫化モリブデン、二硫化タングステン等の固体系極圧剤微粉末、金、銀、鉛等軟質重金属の微粉末、あるいは、酸化ビスマス、酸化クロム等の重金属の酸化物微粉末等が使用できる。
【0065】
ここで、いわゆるなじみ運転時期の深溝玉軸受内部を想定した場合、内部で動きや形状の変化があるものはグリース組成物のみともいえる。その他の内輪、外輪、保持器、シールは相対的な位置は変わる可能性があるものの、それぞれの部材の寸法形状が変化することは無いと考えられる。そうすると、設計時におけるこれら内輪、外輪、保持器、シールの形状の3次元データ、もしくは、実測による3次元データがあれば、X線CTで得られた画像において、これら内輪、外輪、保持器、シールの形状が判別しにくくとも、当該3次元データを重ね合わせるか差し引く等により、グリースもしくは空隙部分を抽出することが可能である。このとき、X線CT画像と3次元データの位相のずれを修正する手段が必要になる。これに対しては、例えば、内輪、外輪、保持器、シールの各部材において、少なくともどれか一つの部材の2箇所に、X線吸収係数の大きい物質からなり、かつ、過大な大きさとならない位置あわせ用の物質を埋め込んでおけばよい。
【0066】
すなわち、樹脂保持器であれば、図15に示すように、保持器5の中で離間した2箇所に、直径10μmほどの金属球24を埋め込んでおき、あらかじめ、X線CT等により保持器単体で全体の形状と2個の金属球24の位置を特定しておけば、その後の軸受全体でのX線CTにおいて、この金属球の位置は略正確に特定できるようになる。そのため、あらかじめ測定しておいた保持器5の3次元データを、正確な位置で差し引くこと、あるいは重ね合わせることが可能となる。金属球24は、必ずしも球体である必要はなく、例えば、円筒体状、直方体状、円すい体状等のもの等も使用できる。埋め込むものを球形ではなく、これらの円筒体状のものとし、埋め込む位置を工夫することで、保持器5の1箇所に埋め込むだけで位置を特定できる場合もある。ただし、樹脂と金属との比重差、回転運動をする保持器5の回転時のバランス等を考慮すると、保持器5の円周上の2箇所以上に金属球24を等配することが好ましい。また、樹脂と金属との比重差もなるべく少ないほうが良いので、アルミニウム、チタン、マグネシウム等の軽金属を主体とするもの、あるいは、軽金属合金であることが好ましい。
【0067】
また、金属製保持器であれば、保持器5を形成する金属種よりもX線吸収係数の高い金属を埋め込むことが好ましい。一般的には、比重が大きくなるほどX線吸収係数が高くなるため、例えば、保持器5が鉄を主体とするものの場合は鉄よりも比重の高い金属、すなわち、鋼材等の場合は、鉛や金、銀を主体とするものあるいはこれらを主体とする合金を用いることが好ましい。
【0068】
さらに、この手法は、保持器5以外にも転動体4等の軸受内部で、内外輪に対して相対的に位置ずれが発生する部材についても適用できるものである。
そして、本実施形態の深溝玉軸受の内部観察する方法では、X線CTにより外部もしくは内部状態を示す画像を取得たものと、予め測定した測定値もしくは設計値に基づきCADにより作成される転動装置の画像との差分もしくは重複部分を取得することで、軸受内部を観察する。そして、この場合、転動装置内部において、他の部材との間で相対的に位置がずれるものについては、いわゆる位置マーカとなる金属球等を埋め込んでおくことで
ある。
【0069】
(第3実施形態の転動装置及びその転動装置の内部観察方法)
次に、内外輪が金属製、代表的には転がり軸受で一般に使用される高炭素クロム鋼、ステンレス鋼である場合に、それら鋼材に囲まれた内部の測定について述べる。
内外輪、すなわち、代表的な転動装置である転がり軸受1の外郭を構成する部品が、比較的厚みのある鋼材である場合、鋼材のX線吸収率が樹脂、空気、潤滑剤という軸受内部に存在する部材のX線吸収率よりも、はるかに高いものとなる。このため、軸受内部における鋼材と、樹脂、空気、潤滑剤との境界部では、いわゆるハレーションが発生し、内部状況の確認が困難になることが多い。また、比較的X線吸収率の高い、かつ、比較的厚みのある鋼材を透過してきたX線で軸受内部に存在する樹脂、空気、潤滑剤との区別を明確にすることは、困難である場合が多い。
【0070】
これらの場合には、X線照射源と、転がり軸受の間に、いわゆる金属フィルタを設置して観察することが有効である。金属フィルタとしては、各種の金属が使用できる。ただし、被検体である転動装置の外郭を構成する金属材とは異種のものとすることが好ましい。例えば、転動装置が転がり軸受であり、内外輪が鋼材である場合は、鋼のフィルタを使用することが好ましい。鋼は、鋼材の主成分である鉄とは異なる波長のX線をよく吸収する。すなわち、鋼フィルタの配置により、測定に用いるX線の波長分布をより狭いものとすることが可能である。これにより、必要以上にX線源からのX線強度を上げることなしに鉄を主体とする鋼材と、その内部の樹脂、空気、潤滑剤との境界を明瞭に観察することができるようになる。また、逆に、X線源からのX線強度を上げても、フィルタによりX線の波長分布が狭いものとなる、すなわち、この場合であれば鉄を主成分とする鋼材の測定に適した狭い波長分布とすることができるため、その内部の樹脂、空気、潤滑剤との境界を明瞭に観察することができるようになる。また、鋼を透過し、鉄を透過し、より波長分布や強度が適正となったX線により内部状態を観察することになるので、鋼材内部の樹脂、空気、潤滑剤の相互の区別がつきやすくなる。言い換えれば、鋼フィルタの設置により、軸受内部の樹脂、空気、潤滑剤等の比較的X線吸収係数の低い物質に対して、仮想的にX線吸収係数を上げる効果が得られる。繰り返しになるが、これにより、転がり軸受を構成する鋼材と、樹脂、空気、潤滑剤との相対的なX線吸収率の差を少なくすることができる。この場合、樹脂、空気、潤滑剤相互の区別は、前記した方法、例えば、それぞれのX線吸収率を過大とならない範囲で異なるものとすることを適用することにより可能である。結局、これらの方法を総合的に適用することにより、仮想的に、転がり軸受を構成する鋼材、潤滑剤(グリース)、樹脂、空気のX線吸収率を過大にならない程度に異ならせることが可能であり、ハレーション等の影響を減少させ、明瞭に相互に区別しての観察が可能となる。鋼材を透過させて鋼材に囲まれた部分もしくは鋼材内部を測定するときの鋼フィルタの厚さは、内部を観察しようとする鋼材の厚さ、鋼材の内部の被測定物の材質等にもよるが、通常0.5〜10mmである。また、被測定物の測定部位により、例えば鋼材部分の厚さが変化する場合には、被測定部位によりフィルタの厚さを変えてもよい。
【0071】
さらに、これらの、鋼フィルタ等の金属フィルタを適用することにより、鋼材等に囲まれた状態である一般の転がり軸受内部の状態も、内部の部品・潤滑剤に特別な処置を施さず観察することも可能となる。すなわち、特に、バリウム石けんグリース等を使用しなくとも、また、転動体・保持器の材質が金属、樹脂、セラミックにかかわらず、軸受内部の状態を観察することも可能になる。これにより、一般的、汎用的に回転機器に使用されている転がり軸受の内部状態を、非分解で観察することも可能である。通常、転がり軸受は、金属製の軸やハウジングに取り付けられているが、測定装置の大きさの制限内であれば、これら軸やハウジングに取り付けたままの測定も可能となる。これにより、転がり軸受等の転動装置のメンテナンスをより効率的に行うことが可能となる。また、言い換えれば、X線での測定のために内外輪材質を考慮する必要もなく、同様に、保持器材質、転動体材質、グリース組成も任意となるため、グリース組成の違いによる転がり軸受内部でのグリースの挙動の違いの観察、保持器材質の違いによるグリース挙動の違いの観察、さらには、転動体材質の違いによるグリース挙動の違いの観察等が可能になる。
【0072】
次に、特に、鋼材内部に囲まれた状態の内部をより明瞭に観察するために好適な方法について述べる。ただし、本方法は、樹脂内部に囲まれた内部の観察にも適用できる。
例えば、グリースを封入した転がり軸受の場合、いわゆる転がり軸受の内部空間の100%を満たすグリース量を封入することはほとんど無い。また、初期に100%のグリースを封入しても、転がり軸受の回転により何%かは転がり軸受外に漏出し、内部には空間 (空気・空隙)が存在することになる。
【0073】
空間が空気である場合には、この部分にX線吸収係数の高い物質を充填することにより、軸受内部の空間部分の境界をより明瞭にすることができる。充填に適した物質として、気体であれば、アルゴン、キセノン、クリプトン等の空気より比重の高い不活性ガスが好適に使用できる。また、液体であれば、金属粉もしくは金属酸化物粉等の金属含有微粉末を液体に分散させたスラリー、水溶性の金属塩の溶液、ヨウ素化合物を含有する液体等が好適に使用できる。金属粉もしくは金属酸化物粉等の金属含有微粉末を液体に分散させたスラリーの場合、転がり軸受内部のグリース組成物を溶解しない水ベースのものが好ましく、具体的には、半導体基板や精密金属加工品の仕上げ研磨に使用されるポリッシング用酸化クロムスラリー、酸化セリウムスラリー、酸化バリウムスラリー、酸化アルミニウムスラリー等が使用できる。これらに含まれる金属種としては、重金属が好ましいので、より好ましくは酸化クロムスラリー、酸化セリウムスラリー、酸化バリウムスラリーが使用できる。これらに含まれる微粉末は、X線CT測定装置の最大分解能よりも細かいことが好ましい。具体的には1μm以下、より好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下である。これらスラリー中の微粉末の濃度は、所定のX線吸収率が得られるように調整される。
【0074】
水溶性の金属塩の溶液としては、硫酸鉄(II)、塩化鋼、重クロム酸カリウム等の溶解度の高い重金属塩溶液を好適に使用できる。環境への配慮から毒劇物に該当しないものが好ましい。
【0075】
その他の液体としては、主に医療用で使用されているX線造影剤であるバリウム系造影剤、ヨウ素系造影剤が使用できる。バリウム系造影剤は、一般的に粘度が高く、細かい箇所の充填に難点があるため、ヨウ素系造影剤の使用が好ましい。ヨウ素系造影剤は、一般的に、トリヨードベンゼンをアルコールや界面活性剤等で水に可溶化して溶解したものである。好ましくは、ヨウ素含有量で300mg/ml以上のものを使用する。市販の医療用ヨウ素系造影剤としては、第一三共製薬株式会社の「オムニパーク」シリーズが好適に使用できる。
【0076】
これら液体のものについては、いずれも、グリース組成物等の一般的に油性の潤滑剤と相溶しない水ベースのものが好ましい。そのため、必要に応じてpH調整剤や水性の防錆剤を添加して使用することが好ましい。
【0077】
次に、これら気体、液体の充填方法について述べる。気体で転がり軸受内部を置換する場合は、所定の気体中に静置すれば良い。もしくは、一旦、被測定物を減圧した後、所定の気体中に静置すればよい。気体の特性状、当然所定の容器内に気体を充填し、その中に被測定物を置いて測定する必要がある。このとき、容器としては、樹脂もしくは軽金属製のものが好ましく、具体的には、ポリアミド樹脂、繊維強化ポリアミド樹脂、アルミニウム合金、チタン合金が好ましい。さらにこのとき、容器内に充填する気体の圧力を大気圧以上にすることも好ましい。見掛けの気体比重が増加し、その分、空隙部分のX線吸収率を上昇させることができる効果がある。
【0078】
液体を充填する場合は、所定の液体中に転がり軸受を浸漬する方法が適用できる。このとき、転がり軸受内部の空隙に液体を効率よく充填するため、減圧してもよい。液体の場合も、気体の場合と同様に、所定の液体を満たした容器内に転がり軸受を浸漬した状態で測定することが好ましい。
【0079】
上記した、空隙部にX線吸収係数の高い気体、液体を充填する方法により、内部の空隙部を明瞭に観察することが可能となる。また、被測定物の外部もこれら気体、液体で満たされる場合は、被測定物外郭部での鋼材と外部空間とのX線吸収係数の差が小さくなるため、より外郭を明瞭に特定できるようになる。
【符号の説明】
【0080】
1…転がり軸受(転動装置)、2…外輪(外側軌道部材)、2a…外輪軌道面、3…内輪(内側軌道部材)、3a…内輪軌道面、4…玉(転動体)、5…保持器(保持部材)、6…グリース(潤滑剤)、7…空気、8…密封装置、10…転がり軸受観察装置、11…X線CT、12…データ保存部、13…画像作成演算部、14…グレースケール処理演算部、15…CT画像解析処理部、16…表示装置(画像表示装置)、17…MPU、18…操作部、20…試料載置台、21…X線照射部、22…移動部、23…X線計測部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側軌道部材と、外側軌道部材と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間で転動する転動体と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間に充填した潤滑剤とを転動装置構成部材とし、これら転動装置構成部材にX線を照射することで当該転動装置構成部材の断面についてのX線吸収率データを得るとともに、このX線吸収率データに基いて、前記断面内でのX線吸収率を所定の階調でもって表すデータを取得し、当該データに基づいて画像表示装置で表示することにより前記内側軌道部材と前記外側軌道部材の間の内部状態を観察することが可能な転動装置において、
前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体及び前記潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとしたことを特徴とする転動装置。
【請求項2】
前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間に、前記転動体の転動状態を保持する保持部材が前記転動装置構成部材として装着されており、
前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤及び前記保持部材のX線吸収係数を異なるものとしたことを特徴とする請求項1記載の転動装置。
【請求項3】
前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間をシールする密封装置が前記転動装置構成部材として装着されており、
前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤、前記保持部材及び前記密封装置のX線吸収係数を異なるものとしたことを特徴とする請求項2記載の転動装置。
【請求項4】
前記画像データを、前記X線吸収率を14ビットの階調範囲で示したときに、前記転動装置の階調範囲が、185階調の範囲となるように前記転動装置構成部材の材料を選定したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項5】
前記外側軌道部材及び内側軌道部材は樹脂製であり、前記転動体はセラミック製若しくはガラス製であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項6】
前記保持部材は樹脂製であることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項7】
前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間に、空気より比重の大きい流体を充填したことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の転動装置を使用し、X線CTにより内部を観察することを特徴とする転動装置内部観察方法。
【請求項1】
内側軌道部材と、外側軌道部材と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間で転動する転動体と、前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間に充填した潤滑剤とを転動装置構成部材とし、これら転動装置構成部材にX線を照射することで当該転動装置構成部材の断面についてのX線吸収率データを得るとともに、このX線吸収率データに基いて、前記断面内でのX線吸収率を所定の階調でもって表すデータを取得し、当該データに基づいて画像表示装置で表示することにより前記内側軌道部材と前記外側軌道部材の間の内部状態を観察することが可能な転動装置において、
前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体及び前記潤滑剤のX線吸収係数を異なるものとしたことを特徴とする転動装置。
【請求項2】
前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材との間に、前記転動体の転動状態を保持する保持部材が前記転動装置構成部材として装着されており、
前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤及び前記保持部材のX線吸収係数を異なるものとしたことを特徴とする請求項1記載の転動装置。
【請求項3】
前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間をシールする密封装置が前記転動装置構成部材として装着されており、
前記内側軌道部材、前記外側軌道部材、前記転動体、前記潤滑剤、前記保持部材及び前記密封装置のX線吸収係数を異なるものとしたことを特徴とする請求項2記載の転動装置。
【請求項4】
前記画像データを、前記X線吸収率を14ビットの階調範囲で示したときに、前記転動装置の階調範囲が、185階調の範囲となるように前記転動装置構成部材の材料を選定したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項5】
前記外側軌道部材及び内側軌道部材は樹脂製であり、前記転動体はセラミック製若しくはガラス製であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項6】
前記保持部材は樹脂製であることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項7】
前記内側軌道部材及び前記外側軌道部材の間の軸受空間に、空気より比重の大きい流体を充填したことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の転動装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の転動装置を使用し、X線CTにより内部を観察することを特徴とする転動装置内部観察方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−54500(P2010−54500A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175809(P2009−175809)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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