説明

転炉の傾動トルクの測定方法および転炉装置

【課題】転炉の炉体に実際に生じているトルクを容易且つ正確に測定する。
【解決手段】炉体10に溶銑を装入する前に、炉体10を1回転させながら炉体10に生じるトルクを測定し、測定によって得られた回転角θとトルクTとの関係を、T=sin(θ+B)+Aの曲線にフィッティングし、Aの値を炉体10に生じるトルクの初期偏差の値とする。また、炉体10のトルクの回転反力を支持するトーションバー7に、トルクを検出するトルク測定機構11を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉の傾動トルクの測定方法および転炉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉の炉体の回転駆動に必要な電動機や減速機等がトラニオン軸に載置されたフルシャフトマウント型傾動装置において、炉体の傾動時等に炉体に生じるトルクは、トラニオン軸を介して傾動装置本体に伝達され、さらに傾動装置本体からクランクアームを介して、固定側に連結されたトーションバーに伝達される。このような傾動装置を備えた転炉装置は、例えば特許文献1、2等に開示されている。
【0003】
また、底吹き式の転炉では、吹錬中に溶湯が揺動して振動が発生し、炉体にトルクが発生する。さらに、炉体の内部に地金が多く付着すると、炉体の傾動時に発生するトルクが増大する。このトルクが定格トルクを超えると、炉体の傾動に支障をきたすため、転炉の操業中に、炉体に発生しているトルクを正確に測定して、予め設定した定格トルクを超えないように管理することが必要である。
【0004】
特許文献3では、トラニオン軸にトルク検出器を設け、予め求められた傾動角におけるトルクと重心位置の関係に基づいて、現重心位置を表示させる装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,400,603号
【特許文献2】特開平2−22411号公報
【特許文献3】特開昭58−9912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3では、予めトルクと重心位置との関係を求めているが、転炉の使用に伴って炉体に地金が付着すると重心位置がずれる。ところが、このように重心の原点がずれてもトルクをゼロの状態にできないので、原点調整ができず、計測される角度とトルクとの関係は、相対的なものになり、実際に炉体に発生しているトルクを正確に把握していない場合がある。
【0007】
また、転炉の操業中には、トラニオン軸は70〜100℃程度と高温になるため、特許文献3のようにトラニオン軸にトルク検出器を設けると、トラニオン軸に貼った歪ゲージが熱の影響を受けて、測定精度が低下するとともに、歪ゲージの耐久性にも問題が生じ好ましくない。さらに、小さいスペースにトルク検出器を設置しなければならないうえ、有線式のトルク検出器の場合、炉体の回転に制約が生じるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、実際に炉体に生じている傾動トルクを容易且つ正確に測定でき、且つ、トルク測定器が炉体の熱の影響を受けず、有線式でも炉体の回転に制約を生じることがない転炉の傾動トルクの測定方法および転炉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明は、転炉の炉体をフルシャフトマウント型傾動装置により傾動させる転炉装置において、前記炉体のトルクを測定する転炉の傾動トルクの測定方法であって、前記炉体に溶銑を装入する前に、前記炉体を1回転させながら前記炉体に生じるトルクを測定し、測定によって得られた回転角θとトルクTとの関係を、T=sin(θ+B)+Aの曲線にフィッティングし、Aの値を前記炉体に生じるトルクの初期偏差の値とすることを特徴とする転炉の傾動トルクの測定方法を提供する。
【0010】
さらに、転炉操業中に測定したトルクの値に、前記トルクの初期偏差Aを加えた値を、前記炉体に生じるトルクとする。
【0011】
また、本発明は、前記炉体のトルクの回転反力を支持するトーションバーに、前記トルクを検出するトルク測定機構を設けたことを特徴とする転炉装置を提供する。また、前記トーションバーの長さ2bと、傾動装置本体と前記トーションバーとを連結するクランクアームの長さhとの比2b/hが、20以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炉体の熱の影響を受けず、且つ、炉体に回転制約を与えずにトルクを計測できる。また、簡便に正確な傾動トルクの測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる転炉の傾動装置を示す正面図である。
【図2】本発明の転炉装置の側面図である。
【図3】炉体の傾動角度と傾動トルクとの関係を示すグラフであり、測定値による曲線と補正後の曲線を示す。
【図4】転炉の操業時の傾動トルクの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0015】
図1、図2は、本発明にかかるフルシャフトマウント型の傾動装置2を採用した転炉装置1を示す。フルシャフトマウント型の傾動装置2は、転炉の炉体の回転駆動に必要な電動機や減速機が全てトラニオン軸にマウントされた傾動装置であり、例えば4つのモータ3を動力源として、それぞれ減速器およびギヤを介してトラニオン軸4を回転させることにより、炉体10が傾動する。傾動装置本体5は、クランクアーム6を介してトーションバー7に連結されている。トーションバー7の両端は、基礎8に固定された軸受け9に回転自在に支持される。これにより、トーションバー7は、トラニオン軸4、傾動装置本体5、クランクアーム6を介して伝達された炉体10の傾動による回転反力を支持する。
【0016】
図1に示すように、傾動トルクの反力を受けるトーションバー7に、トルク計測器11が取り付けられる。トルク計測器11は、トーションバー7に貼りつけられた歪ゲージ12と、歪ゲージ12に接続された演算部12を有し、トーションバー7の例えば中央に貼りつけられた歪ゲージ12の変形が増幅器等を介して電気信号として演算部13に伝達される。そして、トーションバー7のねじれにより生じた変形量から、トーションバー7に作用するトルクが算出され、さらにトーションバー7で発生したトルクの値に係数を乗じて、トラニオン軸4のトルクに換算される。なお、歪ゲージ12を取り付ける位置は、トーションバー7の中央でなく任意の位置で構わない。
【0017】
このように、本発明では、傾動装置2のトーションバー7にトルク測定器11を設置することにより、歪ゲージ12が炉体10からの熱の影響を受けることがない。したがって、測定精度が低下することがなく、歪ゲージ12の耐久性も向上する。また、歪ゲージ12と演算部13とを有線で接続しても、炉体10の回転を制約することがないので、ノイズ等の影響を受けにくい有線による測定が可能である。したがって、本発明によれば、転炉の操業中に、トルクの測定を連続して行うことができる。
【0018】
トーションバー7の長さ2bとクランクアーム6の長さhとの比2b/hは20以下とする。なお、クランクアーム6の長さとは、図2に示すように、傾動装置本体5側の連結部の中心と、トーションバー7の中心との距離である。トーションバー7のトルクTtoと、トラニオン軸4のトルクTtrとの関係は、
Ttr=Tto×2b/h
であり、トラニオン軸4のトルクTtrを、トーションバー7のトルクTtoの20倍以下とする。これにより、転炉の操業中に傾動装置2が破損するのを防ぐ。また、トーションバー7のトルクTtoとトラニオン軸4のトルクTtrとの比率が大きすぎると、トーションバー7で測定するトルク値からトラニオン軸4のトルク値に換算する際に誤差が増幅されるため、2b/hが20以下であることが望ましい。
【0019】
また、トーションバー7に設けたトルク計測器11で炉体10の傾動トルクを測定する場合、トラニオン軸4で測定するよりもトルクの値が減衰するため、測定精度を確保するために、ノイズの分離が重要となる。現状の転炉装置は、通常、2b/h=7程度であり、このとき、有効な信号成分とノイズ成分との比率であるS/N比は100程度であることから、本発明では、測定精度に支障をきたすことなく適用できる上限として、2b/h=20(S/N比が3程度)とした。さらに、2b/h=2〜15の範囲が好ましい。2b/h<2の場合は、トーションバー7に作用するトルクが大きくなり過ぎて疲労破壊が起きやすく、トーションバー7の寿命を低下させる場合がある。2b/h=15のときにはS/N比が5程度であり、2b/hが15以下(すなわちS/N比が5以上)であればさらに安定して傾動トルクを測定することができる。
【0020】
以上の転炉装置を用いた転炉のトルクの測定方法について説明する。
【0021】
先ず、溶銑を装入する前に、炉体10を1回転させて、傾動トルクの計測と同期して、傾動装置2に設置した角度検出器により炉体10の傾動角度をモニタリングし、適宜角度間隔、例えば15°間隔毎に、炉体10の傾動角度と傾動トルクとの関係を求める。図3に示すように、測定データは、炉体10の回転角度が0°のときにトルク計測器を取り付けたため、炉体10の回転角度が0°のときに傾動トルクが0となり、原点を通る点線で示す曲線となる。この点線の曲線を正弦波でフィッティングさせる。すなわち、
T=sin(θ+B)+A
の曲線に、最小二乗法等の周知の方法によりフィッティングすると、図3の実線になる。そして、フィッティングした補正後の曲線において、原点からのずれAを、実際に作用している傾動トルクの初期偏差とする。
【0022】
初期偏差Aが求められた後、転炉の操業時に、トルク計測器11でトルクを計測する。計測されたトルク計測値に初期偏差Aを差し引くことにより、実際に炉体10に作用している傾動トルクの値が算出される。
【0023】
図4は、転炉操業時に実際に測定したトルクの結果を示す。(1)は転炉を溶銑装入のための角度で停止させている時、(2)は溶銑の装入時、(3)は精錬処理時、(4)は出鋼時、(5)はほぼ出鋼し終わった時である。このように測定されたトルク値が、予め設定した定格トルク、例えば炉体10の傾動に支障をきたすときのトルク値を下回るように、転炉の状態を監視する。
【0024】
本発明によれば、トルクの初期偏差を容易に求めることができるので、例えば炉体10に地金が付着して、傾動時や精錬時に炉体10に作用するトルク値が変動した場合でも、初期偏差を求めて正確な炉体10のトルクを把握することができる。したがって、常に転炉装置1の正確な状態を診断し、装置の寿命を管理することができる。
【0025】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、トルクの初期偏差を求める際の炉体の回転は1回転に限らず、十分にカーブフィッティングできる範囲の角度であれば、1回転未満あるいは1回転以上回転させて求めた傾動角度とトルクとの関係を、正弦波にフィッティングしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、フルシャフトマウント型傾動装置を採用した転炉装置に適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 転炉装置
2 傾動装置
3 モータ
4 トラニオン軸
5 傾動装置本体
6 クランクアーム
7 トーションバー
8 基礎
9 軸受け
10 炉体
11 トルク計測器
12 歪ゲージ
13 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉の炉体をフルシャフトマウント型傾動装置により傾動させる転炉装置において、前記炉体のトルクを測定する転炉の傾動トルクの測定方法であって、
前記炉体に溶銑を装入する前に、前記炉体を1回転させながら前記炉体に生じるトルクを測定し、測定によって得られた回転角θとトルクTとの関係を、T=sin(θ+B)+Aの曲線にフィッティングし、Aの値を前記炉体に生じるトルクの初期偏差の値とすることを特徴とする、転炉の傾動トルクの測定方法。
【請求項2】
転炉操業中に測定したトルクの値に、前記トルクの初期偏差Aを加えた値を、前記炉体に生じるトルクとすることを特徴とする、請求項1に記載の転炉の傾動トルクの測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測定方法で用いられる転炉装置であって、
前記炉体のトルクの回転反力を支持するトーションバーに、前記トルクを検出するトルク測定機構を設けたことを特徴とする、転炉装置。
【請求項4】
前記トーションバーの長さ2bと、傾動装置本体と前記トーションバーとを連結するクランクアームの長さhとの比2b/hが、20以下であることを特徴とする、請求項3に記載の転炉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25980(P2012−25980A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163247(P2010−163247)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】