説明

転炉吹錬制御方法、転炉吹錬制御装置及びコンピュータプログラム

【課題】目標炭素濃度に合致させるとともに、冷却材等の副原料投入時間を確保することが可能であって目標温度に合致させることが出来、動的制御の精度が良好である転炉吹錬制御方法、転炉吹錬制御装置及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】吹込酸素量及び副原料投入量を算出するステップ(S2)と、決定した副原料投入量、並びに成分及び材質の目標値を含む情報に基づき、動的制御に必要な時間TSLを決定するステップ(S4)と、TSL及び吹込酸素の流速に基づき、TSLにおける酸素量OSLを算出するステップ(S5)と、吹込酸素量からOSLを減じた量だけ酸素が吹き込まれる時点を、測定のタイミングとして決定するステップ(S6)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉吹錬において、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を高精度に制御することが可能である転炉吹錬制御方法、転炉吹錬制御装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
転炉吹錬においては、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に一致させるために、静的制御(スタティック制御)と、サブランスを用いた測定値に基づく動的制御(ダイナミック制御)とを組み合わせた吹錬制御が行われている。
【0003】
スタティック制御においては、吹錬開始前に物質収支及び熱収支に基づいた数式モデル等により、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に一致させるために必要な吹込酸素量、及び冷却材を含む各種の副原料投入量を決定し、これに従って吹錬を行う。
ダイナミック制御においては、吹錬中にサブランスを使用して溶鋼の炭素濃度及び温度を測定し、物質収支及び熱収支に基づいた数式モデル等により、スタティック制御で決定しておいた吹込酸素量、及び各種副原料の投入量を修正して、吹錬の制御精度を高める。この測定は、一般的に、スタティック制御で求めた吹止めまでの時間から、ダイナミック制御時の冷却材切り出し及び投入時間を差し引いたタイミング、又はスタティック制御で求めた吹込酸素量から所定量差し引いた量だけ酸素を吹き込んだタイミングで行っていた。
【0004】
近年、溶銑予備処理技術及び二次精錬技術の向上に伴い、脱リンを主目的とした転炉における吹下げ操業(製品規格炭素濃度よりも低い炭素濃度を目標とする操業)の必要性が少なくなり、その結果、転炉吹止め時の溶鋼炭素濃度目標値の自由度は以前よりも大きくなっている。すなわち、製品規格炭素濃度により近い炭素濃度を直接転炉の目標値として設定し、コスト的に不利であった吹下げ操業をできるだけ回避して、製造コスト削減を図った吹錬が指向されるようになってきている。このような吹錬を指向することにより、チャージ間の目標炭素濃度の範囲が従来の範囲より広くなり、高精度な転炉吹錬制御の技術が要求されている。
【0005】
上述したように、転炉吹止め時の溶鋼炭素濃度目標値の自由度が大きい状況下の転炉吹錬制御の技術として、ダイナミック制御の起点となるサブランス測定のタイミングを、溶銑予備処理の有無、吹止め目標炭素濃度及び吹止めサブランス測定の実施の有無等に対応させて、予め設定された複数パターンから選択する発明が特許文献1に開示されている。この発明は、吹錬末期の脱炭酸素効率の変動に配慮して、サブランス測定のタイミングを決定し、ダイナミック制御の制御精度を高めることを目的としている。
【0006】
具体的には、溶銑予備処理の有無と吹止め目標炭素濃度とを基準として、サブランス測定時の目標となる炭素濃度を予め設定しておき、この炭素濃度となるタイミングでサブランス測定を行う。サブランス測定後の副原料投入に要する時間が、ダイナミック制御に必要な時間となるが、発明者は、この時間は吹止め時の炭素濃度によらず、一定と考えている。サブランス測定の目標炭素濃度は、脱炭酸素効率等で示されるモデル式から予め前記時間中の脱炭量を算出し、吹止め目標炭素濃度にこの脱炭量を加えて求めている。
【特許文献1】特許第2996576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、溶銑条件の違い及び経時変化に伴い、チャージ毎に脱炭酸素効率と炭素濃度との関係は変動するため、特許文献1のように、所定の脱炭酸素効率と炭素濃度との関係をベースとして、予め設定した前記時間中の脱炭量に従い推定した目標炭素濃度に基づきサブランス測定を行った場合、測定のタイミングが遅過ぎ、ダイナミック制御に必要な時間、すなわち冷却材等の副原料を投入する時間を確保することが出来なくなり、温度が目標値まで下げられなくなる可能性がある。
【0008】
また、転炉の使用回数に応じた酸素流量(酸素流速)の変更、及び操業の安定化を目的とした酸素流量の変更は、実際の操業で一般的に行われているが、前記時間中の脱炭量を算出する場合の酸素流量と異なる酸素流量で吹錬が実施されたとき、例え脱炭酸素効率と炭素濃度との関係がモデルと一致していても、ダイナミック制御に必要な時間を確保できない可能性がある。すなわち、推定炭素濃度をサブランス測定のタイミング決定の判断に直接使うことは、ダイナミック制御時間の確保という観点から問題がある。
【0009】
そして、上述したように、一般的には、サブランス測定以降の副原料投入に要する時間が、ダイナミック制御に必要な時間となるが、副原料投入時間を決める基準は、対象となる材質及びその時々の操業状況によって異なり、ダイナミック制御に必要な時間が常に一定となるとは限らない。しかしながら、この特許文献1の発明は、上述したように、前記時間が一定であることを前提として脱炭量を求めており、広範囲の吹止め目標炭素濃度に対応することは考慮しているが、炭素濃度が十分に高い時点で測定をし、ダイナミック制御に必要な時間を確保しておくという基本的かつ重要な要件を満たし得ないという問題点がある。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、副原料投入量等の操業条件、成分及び材質の目標値等の情報に対応させて、ダイナミック制御に必要な時間を決定し、決定した時間に基づき、測定のタイミングを決定することにより、チャージ毎に目標炭素濃度が広範囲に変化するとしても、吹止め時に、目標炭素濃度に合致させるとともに、冷却材等の副原料を投入する時間を確保することが可能であって目標温度に合致させることが出来、動的制御の精度が良好である転炉吹錬制御方法、転炉吹錬制御装置及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、決定したタイミングにおける推定炭素濃度を求め、求めた推定炭素濃度に基づき前記時間が修正された場合、修正された時間に基づき、測定のタイミングを決定し直すことにより、より確実に目標炭素濃度に合致させるとともに、副原料投入時間を確保することが可能であって目標温度に合致させることが出来、動的制御の精度がさらに良好である転炉吹錬制御方法、転炉吹錬制御装置及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係る転炉吹錬制御方法は、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に到達させるために要する吹込酸素量及び副原料投入量を決定し、該吹込酸素量及び副原料投入量に基づき吹錬を行う静的制御と、前記吹錬中に測定した炭素濃度及び温度に基づき、前記吹込酸素量及び副原料投入量を修正して吹錬を行う動的制御とを行う転炉吹錬制御方法において、決定した副原料投入量、並びに成分及び材質の目標値を含む情報に基づき、動的制御に必要な時間を決定するステップと、前記時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出するステップと、前記吹込酸素量から前記酸素量を減じた量だけ酸素が吹き込まれる時点を、測定のタイミングとして決定するステップとを有することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、副原料投入量等の操業条件、成分及び材質の目標値等の情報に対応させて、前記時間を決定するので、材質、操業条件等によって前記時間、すなわち副原料投入時間が変化することに対応させることが出来る。
そして、決定した時間に基づき、当該チャージの吹込酸素の流速を考慮して測定のタイミングを決定するので、チャージ毎に目標炭素濃度が広範囲に変わっても、吹止め時に目標炭素濃度に合致させるとともに、冷却材等の副原料を投入する時間を確保することが可能であって目標温度に合致させることが出来る。
従って、動的制御の精度が良好であり、過剰な吹下げ操業を抑制して、製造コストを低減させることが可能である。
【0014】
第2発明に係る転炉吹錬制御方法は、第1発明において、前記タイミングにおける推定炭素濃度を、予め用意された脱炭酸素効率と炭素濃度との関係により求めるステップと、
前記推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合、修正された時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出するステップとを有することを特徴とする。
【0015】
本発明においては、推定炭素濃度が、決定したタイミングにおける炭素濃度として適切であるか否かを判定し、推定炭素濃度が不適切である場合、例えば推定炭素濃度が低過ぎ、動的制御に必要な時間、すなわち副原料投入時間より短い時間で吹止めしなければならないと想定されるとき、タイミングの算出に用いる前記時間が長くなるように修正して、タイミングを決定し直すので、より確実に、安定的に目標炭素濃度に合致させるとともに、副原料投入時間を確保することが出来る。
従って、動的制御の精度がさらに良好であり、過剰な吹下げ操業を抑制して、製造コストを低減させることが可能である。
【0016】
第3発明に係る転炉吹錬制御装置は、演算部により、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に到達させるために要する吹込酸素量及び副原料投入量を決定し、該吹込酸素量及び副原料投入量に基づき吹錬を行う静的制御と、前記吹錬中に測定した炭素濃度及び温度に基づき、前記吹込酸素量及び副原料投入量を修正して吹錬を行う動的制御とを行う転炉吹錬制御装置において、前記演算部は、決定した副原料投入量、並びに成分及び材質の目標値を含む情報に基づき、動的制御に必要な時間を決定する時間決定手段と、前記時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出する手段と、前記吹込酸素量から前記酸素量を減じた量だけ酸素が吹き込まれる時点を、測定のタイミングとして決定する手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、副原料投入量等の操業条件、成分及び材質の目標値等の情報に対応させて、前記時間を決定し、決定した時間に基づき、測定のタイミングを決定するので、チャージ毎に目標炭素濃度が広範囲に変化するとしても、吹止め時に、目標炭素濃度に合致させるとともに、冷却材等の副原料を投入する時間を確保することが出来る。
【0018】
第4発明に係る転炉吹錬制御装置は、第3発明において、前記タイミングにおける推定炭素濃度を、予め用意された脱炭酸素効率と炭素濃度との関係により求める手段と、前記推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合、修正された時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出する手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、決定したタイミングにおける推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合に、タイミングを決定し直すので、より確実に、安定的に、目標炭素濃度に合致させるとともに、副原料投入時間を確保することが出来る。
【0020】
第5発明に係る転炉吹錬制御装置は、第3又は第4発明において、記憶部を備え、予め、副原料投入量、並びに成分及び材質の目標値を含む条件毎に設定された前記時間のテーブルを前記記憶部に記憶させておき、前記時間決定手段は、前記テーブルの中から、実行する吹錬の前記条件に合う時間を選択することを特徴とする。
【0021】
本発明においては、過去の実績等に基づき、適切な時間を容易に選択することが出来る。
【0022】
第6発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に到達させるために要する吹込酸素量及び副原料投入量を決定させ、該吹込酸素量及び副原料投入量に基づき吹錬を行う静的制御と、前記吹錬中に測定した炭素濃度及び温度に基づき、前記吹込酸素量及び副原料投入量を修正して吹錬を行う動的制御とを行わせるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、決定した吹込酸素量及び副原料投入量を含む情報に基づき、動的制御に必要な時間を決定させる手順と、コンピュータに、前記時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出させる手順と、コンピュータに、前記吹込酸素量から前記酸素量を減じた量だけ酸素が吹き込まれる時点を、測定のタイミングとして決定させる手順とを含むことを特徴とする。
【0023】
本発明においては、副原料投入量等の操業条件、成分及び材質の目標値等の情報に対応させて、前記時間を決定し、決定した時間に基づき、測定のタイミングを決定するので、チャージ毎に目標炭素濃度が広範囲に変わっても、吹止め時に、目標炭素濃度に合致させるとともに、冷却材等の副原料を投入する時間を確保することが出来る。
【0024】
第7発明に係るコンピュータプログラムは、第6発明において、コンピュータに、前記タイミングにおける推定炭素濃度を、予め用意された脱炭酸素効率と炭素濃度との関係により求めさせる手順と、前記推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合、コンピュータに、修正された時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出させる手順とを含むことを特徴とする。
【0025】
本発明においては、決定したタイミングにおける推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合に、タイミングを決定し直すので、より確実に、安定的に、目標炭素濃度に合致させるとともに、副原料投入時間を確保することが出来る。
【発明の効果】
【0026】
第1、第3及び第6発明によれば、副原料投入量等の操業条件、成分及び材質の目標値等の情報に対応させて、動的制御に必要な時間を決定し、決定した時間に基づき、当該チャージの吹込酸素の流速を考慮して測定のタイミングを決定するので、チャージ毎に目標炭素濃度が広範囲に変わっても、吹止め時に、目標炭素濃度に合致させるとともに、冷却材等の副原料を投入する時間を確保することが出来、目標温度に到達させることが出来る。
従って、動的制御の精度が良好であり、過剰な吹下げ操業を抑制して、製造コストを低減させることが可能である。
第5発明によれば、過去の実績等に基づき、適切な前記時間を容易に選択することが出来る。
【0027】
第2、第4及び第7発明によれば、決定したタイミングにおける推定炭素濃度の適否を判定し、推定炭素濃度が不適切である場合、例えば推定炭素濃度が低過ぎ、副原料投入時間より短い時間で吹止めしなければならないと想定されるとき、タイミング算出に用いる、動的制御に必要な時間が長くなるように修正して、タイミングを決定し直すので、目標炭素濃度に合致させるとともに、副原料投入時間を確保することが出来る。
従って、動的制御の精度がさらに良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る転炉吹錬制御装置1の内部の機能構成を示す機能ブロック図である。転炉吹錬制御装置1は、パーソナルコンピュータ又はサーバ装置などの汎用コンピュータを用いて構成されている。
転炉吹錬制御装置1は、演算を行うCPU(演算部)11と、演算に伴って発生する一時的な情報を記憶するRAM12と、CD−ROMドライブ等の外部記憶装置13と、ハードディスク等の内部記憶装置14とを備えている。
【0029】
CPU11は、CD−ROM等の記録媒体10から本発明のコンピュータプログラム100を外部記憶装置13にて読み取り、読み取ったコンピュータプログラム100を内部記憶装置14に記憶させる。コンピュータプログラム100は必要に応じて内部記憶装置14からRAM12へロードされ、ロードされたコンピュータプログラム100に基づいてCPU11は転炉吹錬制御装置1に必要な処理を実行する。
また、転炉吹錬制御装置1は、マウス、キーボード等の入力部15を備えており、作業者が必要なデータを入力する構成となっている。さらに、転炉吹錬制御装置1は、表示装置としての出力部16を備えており、出力部16により、後述するようにして設定されるサブランス測定のタイミング、測定時の推定炭素濃度等が表示される。
【0030】
図2は、転炉吹錬制御装置1のCPU11の処理手順を示すフローチャートである。
転炉吹錬制御装置1のCPU11は、RAM12にロードした本発明のコンピュータプログラム100に従って、以下の処理を実行する。
CPU11は、チャージ毎の溶銑重量、溶銑成分(C,Si,Mn,P等)、溶銑温度、スクラップ重量等の溶銑条件を示すデータ、チャージ毎の成分(C,Si,Mn,P等)、温度、材質コード等の目標値を示すデータ、及び炉回数、酸素流量(流速)、ランス高さ等の操業条件を示すデータを入力部15から取得し、設定して、内部記憶装置14に記憶させる(ステップS1)。
【0031】
そして、CPU11は、前記溶銑条件を示すデータ及び目標値を示すデータを用い、物質収支・熱収支に基づいた数式モデル等に従い、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値と一致させるために必要な吹込酸素量及び副原料投入量を算出する(ステップS2)。例えば、吹込酸素量が7000Nm3 、副原料1の投入量が1ton 、副原料2の投入量が1.5ton 等と算出される。
算出した吹込酸素量及び副原料投入量は、内部記憶装置14に記憶させた操業条件に追加して記憶させる(ステップS3)。
【0032】
CPU11は、溶銑条件を示すデータ、目標値を示すデータ、並びに吹込酸素量及び副原料投入量を含む操業条件を示すデータに基づき、ダイナミック制御に必要な時間(TSL)を決定する(ステップS4)。例えば、下記表1に示すように、材質コード、C成分目標値(濃度)、P成分目標値(濃度)、副原料1投入量及び副原料2投入量等の条件毎にTSLを設定し、予め内部記憶装置14に記憶させておき、CPU11は、この表1に基づき、TSLを決定する。
【0033】
【表1】

【0034】
例えば、ステップS1で設定された溶銑条件及び目標値のデータが、材質コード:aaa2 、C成分目標値(濃度):0.05%、P成分目標値:0.015%…であれば、表1より、TSLは90秒と設定される。
【0035】
CPU11は、決定したTSL、及び操業条件として設定されている酸素流速(VO2)を用い、下記式(1)に従って、サブランス測定以後に吹き込まれる酸素量OSLを算出する(ステップS5)。
【0036】
【数1】

【0037】
例えば、操業条件のデータに酸素流速が10(Nm3 /sec)と設定されていれば、サブランス測定以後の酸素量OSLは900Nm3(=10×90)となる。
【0038】
そして、CPU11は、ステップS2で求めた吹込酸素量からOSLを減じた量の酸素が吹き込まれる時点をサブランスの測定のタイミングとして決定する(ステップS6)。
例えば、ステップS2で算出しておいた吹込酸素量7000Nm3 から900Nm3 を差し引いた6100Nm3の酸素を吹込んだ時点が、サブランスの測定のタイミングとなる。
【0039】
CPU11は、ステップS2で算出した吹込酸素量、副原料投入量等に従って吹錬を行うスタティック制御を実行する(ステップS7)。
そして、ステップS6で決定した測定のタイミングにおいて、サブランスを用いて溶鋼の炭素濃度及び温度を測定する(ステップS8)。得られた炭素濃度及び温度に基づき、物質収支及び熱収支に基づく数式モデル等により、ステップS2で算出した吹込酸素量及び副原料投入量を修正する(ステップS9)。そして、修正した吹込酸素量及び副原料投入量に基づき、ダイナミック制御を行い(ステップS10)、処理を終了する。
【0040】
本実施の形態においては、副原料投入量等の操業条件、成分及び材質の目標値等の情報に対応させて、TSLを決定するので、材質、操業条件等によってTSL、すなわち冷却材等の副原料投入時間が変化することに対応させることが出来る。
そして、決定したTSLに基づき、測定のタイミングを決定するので、チャージ毎に目標炭素濃度が広範囲に変わっても、吹止め時に目標炭素濃度に合致させるとともに、副原料投入時間を確保して目標温度に到達させることが出来る。
従って、動的制御の精度が良好であり、過剰な吹下げ操業を抑制して、製造コストを低減させることが可能である。
【0041】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る転炉吹錬制御装置の内部の構成は、実施の形態1に係る転炉吹錬制御装置1と同一である。コンピュータプログラムが実施の形態1に係るコンピュータプログラム100と異なる。
【0042】
図3は、実施の形態2に係る転炉吹錬制御装置のCPU11の処理手順を示すフローチャートである。
CPU11は、チャージ毎の前記溶銑条件を示すデータ、チャージ毎の前記目標値を示すデータ、及び前記操業条件を示すデータを入力部15から取得し、設定して、内部記憶装置14に記憶させる(ステップS11)。
【0043】
そして、CPU11は、前記溶銑条件を示すデータ及び目標値を示すデータを用い、物質収支・熱収支に基づいた数式モデル等に従い、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値と一致させるために必要な吹込酸素量及び副原料投入量を算出する(ステップS12)。例えば、吹込酸素量が7000Nm3 、副原料1の投入量が1ton 、副原料2の投入量が1.5ton 等と算出される。
算出した吹込酸素量及び副原料投入量を内部記憶装置14に記憶させた操業条件に追加して記憶させる(ステップS13)。
【0044】
CPU11は、溶銑条件を示すデータ、目標値を示すデータ、並びに吹込酸素量及び副原料投入量を含む操業条件を示すデータに基づき、ダイナミック制御に必要な時間(TSL)を決定する(ステップS14)。例えば、上記表1に基づき、TSLを決定する。
ステップS11で設定された溶銑条件及び目標値のデータが、材質コード:aaa2 、C成分目標値:0.05%、P成分目標値:0.015%…であれば、表1より、TSLは90秒と設定される。
【0045】
次に、CPU11は、決定したTSL、及び操業条件として設定されている酸素流速(VO2)を用い、上記式(1)に従って、サブランス測定以後に吹き込まれる酸素量OSLを算出する(ステップS15)。
例えば、操業条件のデータに酸素流速が10(Nm3 /sec)と設定されていれば、サブランス測定以後の酸素量OSLは900Nm3(=10×90)となる。
【0046】
そして、CPU11は、ステップS12で求めた吹込酸素量からOSLを減じた量の酸素が吹き込まれる時点をサブランスの測定のタイミングとして決定する(ステップS16)。
例えば、ステップS12で算出しておいた吹込酸素量7000Nm3 から900Nm3 を差し引いた6100Nm3の酸素を吹込んだ時点が、サブランスの測定のタイミングとなる。
【0047】
次に、サブランス測定時の推定炭素濃度CSLを求める(ステップS17)。溶銑条件及び操業条件をその要因として考慮した下記式(2)乃至(4)、及び図4に示す炭素濃度と脱炭酸素効率との関係を示すグラフを用い、図5に示すように、下記式(2)につき、吹止め目標炭素濃度CEPを起点として、その積分値(図5に示す斜線部分)が酸素量OSLと一致するまで積分したときの炭素濃度を求めることにより、CSLが得られる。
【0048】
【数2】

【0049】
上記式(3)及び(4)の要因Xi としては、例えば下記表2のようなものが挙げられる。
【0050】
【表2】

【0051】
例えば、吹止め目標炭素濃度CEPが0.1%であり、OSLが900Nm3 である場合、図5に示すように、CEPを起点として積分値が900Nm3となるときの炭素濃度を求めると0.45%であり、これが測定時の推定炭素濃度CSLとされる。
なお、図4及び図5の炭素濃度と脱炭酸素効率との関係を示すグラフは、条件毎に異なるものを用意することにしてもよい。
【0052】
CPU11は、出力部16にCSL及び測定のタイミングを表示させる(ステップS18)。作業者は、CSL及び測定のタイミングを確認し、CSLが測定時の炭素濃度として適切であるか否かを判断して入力部15により入力する。
そして、CPU11は、CSLが測定時の炭素濃度として適切であるか否かの判断を入力部15から取得したか否かを判定する(ステップS19)。
【0053】
SLが測定時の炭素濃度として適切であるか否かの判断を取得した場合(ステップS19:YES)、CSLが測定時の炭素濃度として適切でないとき(ステップS20:NO)、TSLを修正し(ステップS21)、処理をステップS15へ戻す。
CPU11は、ステップS14で求めたTSLに所定量、加減するか、又は表1に基づきTSLを選択し直す。例えばCSLが低過ぎ、ダイナミック制御に必要な時間、すなわち副原料投入時間より短い時間で吹止めしなければならないと想定されるとき、測定のタイミングの算出に用いるTSLが長くなるように修正する。このTSLの修正は、作業者の入力により行うことにしてもよい。
また、CSLが測定時の炭素濃度として適切であるか否かの判断を作業者から取得するのではなく、CPU11が判断することにしてもよい。
【0054】
SLが測定時の炭素濃度として適切であり(ステップS20:YES)、測定のタイミングが適切である場合、CPU11は、ステップS12で算出した吹込酸素量、副原料投入量等に従って吹錬を行うスタティック制御を実行する(ステップS22)。
そして、決定した測定のタイミングにおいて、サブランスを用いて溶鋼の炭素濃度及び温度を測定する(ステップS23)。得られた炭素濃度及び温度に基づき、物質収支及び熱収支に基づく数式モデル等により、ステップS12で算出した吹込酸素量及び副原料投入量を修正する(ステップS24)。そして、修正した吹込酸素量及び副原料投入量に基づき、ダイナミック制御を行い(ステップS25)、処理を終了する。
【0055】
なお、ステップS21でTSLを修正した後、ステップS15へ処理を戻し、再度、ステップS15でOSLを算出し、ステップS16で測定のタイミングを決定した後は、CSLを求めてこの適否を判断することなく、ステップS22へ処理を進めてスタティック制御をすることにしてもよい。
【0056】
本実施の形態においては、スタティック制御の事前に、CSLが、決定した測定のタイミングにおける炭素濃度として適切であるか否かを判定し、CSLが不適切である場合、タイミングの算出に用いるTSLを修正して、タイミングを決定し直すので、より確実に、安定的に目標炭素濃度に合致させるとともに、副原料投入時間を確保して目標温度に合致させることが出来る。
従って、ダイナミック制御の精度がさらに良好になり、過剰な吹下げ操業を抑制して、製造コストを低減させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1に係る転炉吹錬制御装置の内部の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図2】転炉吹錬制御装置のCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図3】実施の形態2に係る転炉吹錬制御装置のCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図4】炭素濃度と脱炭酸素効率との関係を示すグラフである。
【図5】炭素濃度と脱炭酸素効率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 転炉吹錬制御装置
10 記録媒体
11 CPU
12 RAM
13 外部記憶装置
14 内部記憶装置
15 入力部
16 出力部
100 コンピュータプログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に到達させるために要する吹込酸素量及び副原料投入量を決定し、該吹込酸素量及び副原料投入量に基づき吹錬を行う静的制御と、
前記吹錬中に測定した炭素濃度及び温度に基づき、前記吹込酸素量及び副原料投入量を修正して吹錬を行う動的制御と
を行う転炉吹錬制御方法において、
決定した副原料投入量、並びに成分及び材質の目標値を含む情報に基づき、動的制御に必要な時間を決定するステップと、
前記時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出するステップと、
前記吹込酸素量から前記酸素量を減じた量だけ酸素が吹き込まれる時点を、測定のタイミングとして決定するステップと
を有することを特徴とする転炉吹錬制御方法。
【請求項2】
前記タイミングにおける推定炭素濃度を、予め用意された脱炭酸素効率と炭素濃度との関係により求めるステップと、
前記推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合、修正された時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出するステップと
を有する請求項1に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項3】
演算部により、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に到達させるために要する吹込酸素量及び副原料投入量を決定し、該吹込酸素量及び副原料投入量に基づき吹錬を行う静的制御と、前記吹錬中に測定した炭素濃度及び温度に基づき、前記吹込酸素量及び副原料投入量を修正して吹錬を行う動的制御とを行う転炉吹錬制御装置において、
前記演算部は、
決定した副原料投入量、並びに成分及び材質の目標値を含む情報に基づき、動的制御に必要な時間を決定する時間決定手段と、
前記時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出する手段と、
前記吹込酸素量から前記酸素量を減じた量だけ酸素が吹き込まれる時点を、測定のタイミングとして決定する手段と
を備えることを特徴とする転炉吹錬制御装置。
【請求項4】
前記タイミングにおける推定炭素濃度を、予め用意された脱炭酸素効率と炭素濃度との関係により求める手段と、
前記推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合、修正された時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出する手段と
を備える請求項3に記載の転炉吹錬制御装置。
【請求項5】
記憶部を備え、
予め、副原料投入量、並びに成分及び材質の目標値を含む条件毎に設定された前記時間のテーブルを前記記憶部に記憶させておき、
前記時間決定手段は、前記テーブルの中から、実行する吹錬の前記条件に合う時間を選択する請求項3又は4に記載の転炉吹錬制御装置。
【請求項6】
コンピュータに、吹止め時の溶鋼の炭素濃度及び温度を目標値に到達させるために要する吹込酸素量及び副原料投入量を決定させ、該吹込酸素量及び副原料投入量に基づき吹錬を行う静的制御と、前記吹錬中に測定した炭素濃度及び温度に基づき、前記吹込酸素量及び副原料投入量を修正して吹錬を行う動的制御とを行わせるコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータに、決定した吹込酸素量及び副原料投入量を含む情報に基づき、動的制御に必要な時間を決定させる手順と、
コンピュータに、前記時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出させる手順と、
コンピュータに、前記吹込酸素量から前記酸素量を減じた量だけ酸素が吹き込まれる時点を、測定のタイミングとして決定させる手順と
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項7】
コンピュータに、前記タイミングにおける推定炭素濃度を、予め用意された脱炭酸素効率と炭素濃度との関係により求めさせる手順と、
前記推定炭素濃度に基づき、前記時間が修正された場合、コンピュータに、修正された時間及び吹込酸素の流速に基づき、該時間における酸素量を算出させる手順と
を含む請求項6に記載のコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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