説明

転炉用上吹きランス及び転炉精錬方法

【課題】 転炉用上吹きランスの側面に設置される側孔ノズルから、二次燃焼用または地金溶解用として噴射する酸素ガスの流量をそれぞれの側孔ノズルで個別に制御する。
【解決手段】 側孔ノズルを有する転炉用上吹きランスにおいて、前記側孔ノズル13の出口部には、その内壁外周の一部分にテーパー付きのフランジ部19を有する凹部18が設けられ、該凹部には、閉塞ノズルチップまたは開口ノズルチップのうちの何れか一方のノズルチップ20が、該ノズルチップに設けられたテーパー付きの鍔部21と前記凹部側のフランジ部との楔作用によって脱着可能に取り付けられており、前記の脱着可能に取り付けられたノズルチップと前記凹部との隙間には、不定形耐火物が、ランス本体の側面と同等の高さ位置まで施工されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上吹き酸素ランス或いは地金溶解ランス(以下、まとめて「転炉用上吹きランス」と記す)の側面に設置される側孔ノズルから、二次燃焼用または地金溶解用として噴射する酸素ガスの流量を、それぞれの側孔ノズルで個別に制御することが可能な転炉用上吹きランス及びこの転炉用上吹きランスを使用した転炉精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉での溶銑の脱炭精錬では、吹錬中の地金飛散(「スピッテング」と呼ぶ)やスラグ噴出(「スロッピング」と呼ぶ)によって転炉の内壁及び炉口に地金が付着する。付着した地金は堆積して肥大化し、吹錬中や出鋼中に落下する危険性があり、また、鉄スクラップや溶銑を装入する際の妨げとなる。また、近年、溶銑の予備脱燐処理が転炉で行われるようになり、溶銑の脱燐反応は温度が低いほど有利であることから、一般的に1300〜1400℃程度の温度範囲で予備脱燐処理が行われている。従って、低温であるので、予備脱燐処理中に飛散した溶銑が転炉の内壁や炉口などに付着・凝固して地金が堆積し、溶銑歩留りの低下や地金除去作業による生産性の低下を招いている。
【0003】
そこで、この地金付着を防止するために、上吹き酸素ランスや地金溶解ランス(側孔ノズルのみを有する上吹きランス)から供給する酸素ガスによって、地金の付着を抑制する或いは付着した地金を溶解する技術が多数提案されている。例えば、特許文献1には、上吹き酸素ランスの先端から所定の間隔の上方側面に配置した側孔ノズルから炉内壁面に向けて酸素ガスを噴射しながら、上吹き酸素ランスの先端に配置した主孔ノズルから溶銑に向けて酸素ガスを噴射して溶銑の予備脱燐処理を行う方法が提案され、特許文献2には、転炉型精錬炉での非吹錬時に、地金溶解ランスを転炉炉口の上方から炉口を通して炉内に挿入し、酸素ガスの噴射軌跡の鉛直方向の最下端が炉口地金の表面に到達しないように制御しながら、前記地金溶解ランスから酸素ガスを噴射して炉口地金を溶解する方法が提案されている。
【0004】
これらの方法により付着地金は低減するが、その一方で、以下の問題が発生する。即ち、同一の供給経路から主孔ノズル及び側孔ノズルに酸素ガスが供給される場合には、炉壁や炉口に地金が付着していない部位では、側孔ノズルから噴射される酸素ガスが転炉内壁の耐火物と直接衝突することによって、或いは、側孔ノズルから噴射される酸素ガスによる炉内発生ガス(COガス)の二次燃焼熱によって、炉壁耐火物が損傷・溶損する。側孔ノズルのみを有する地金溶解ランスの場合も、付着地金の少ない部位では同様の問題が発生する。
【0005】
また、主孔ノズルと側孔ノズルとが異なった供給経路に接続している場合には、側孔ノズルからの酸素ガスの供給が必要でないときには、ノズル孔の閉塞防止のために、窒素ガスやArガスなどの不活性ガスを流すことで対処できるが、不活性ガスを流し続けることから、不活性ガスによる製造コスト増が発生する。また、この場合には、地金が付着した部位にのみ酸素ガスを供給することはできない。
【0006】
この問題を解決するべく、特許文献3には、地金が付着した部位にのみ、側孔ノズルから酸素ガスを噴射させ、地金が付着していない部位には酸素ガスを噴射させないようにするために、上吹き酸素ランスの側孔ノズルのうちの、地金が付着していない部位と相対する側孔ノズルには、ガス流量制御用の冶具を挿入して閉塞し、地金の付着部位のみ側孔ノズルから酸素ガスを噴射するように制御した溶銑の予備脱燐処理方法が提案されている。
【0007】
特許文献3に開示される技術によれば、任意の側孔ノズルを閉塞することができるが、閉塞対象の側孔ノズルは常に同一の領域に限られるものではなく、付着地金に応じて閉塞すべき側孔ノズルは変化する。特に、地金溶解ランスの場合はその都度変化する。閉塞すべき側孔ノズルを任意に変えるためには、側孔ノズルに挿入するガス流量制御用冶具が容易に着脱可能であることを必要とするが、特許文献3に開示されるガス流量制御用冶具は、側孔ノズルの外側に突出しており、転炉精錬中のスピッテングやスロッピングによって地金がガス流量制御用冶具の外側に付着し、ガス流量制御用冶具を取り外すことができなくなるという問題がある。また、特許文献3に開示されるガス流量制御用冶具は、ガス流量制御用冶具自体の構造が複雑で製作費が嵩むという問題もある。
【0008】
尚、側孔ノズルにメネジを切り、酸素ガスの噴射が不必要な箇所の側孔ノズルに蓋用のボルトを嵌め込む方法が考えられるが、側孔ノズルに蓋用のボルトを嵌め込んだ状態で転炉での精錬を行うと、熱変形や焼付により蓋用ボルトが外せなくなる不具合が生じやすく、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−127812号公報
【特許文献2】特開平10−251735号公報
【特許文献3】特開2000−239724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転炉用上吹きランス、つまり上吹き酸素ランス或いは地金溶解ランスの側面に設置される側孔ノズルから、二次燃焼用または地金溶解用として噴射する酸素ガスの流量を、それぞれの側孔ノズルで個別に制御することが可能な転炉用上吹きランスを提供することであり、また、この転炉用上吹きランスを使用した転炉精錬方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための第1の発明に係る転炉用上吹きランスは、ランス先端部に設けられた主孔ノズルから溶銑に向けて酸素ガスを吹き付けると同時にランス側面に設けられた側孔ノズルから二次燃焼用または地金溶解用の酸素ガスを吹き付ける上吹き酸素ランス、または、ランス側面に設けられた側孔ノズルから地金溶解用の酸素ガスを吹き付ける地金溶解用ランスのうちの何れかの転炉用上吹きランスにおいて、前記側孔ノズルの出口部には、その内壁外周の一部分にテーパー付きのフランジ部を有する凹部が設けられ、該凹部には、閉塞ノズルチップまたは開口ノズルチップのうちの何れか一方のノズルチップが、該ノズルチップに設けられたテーパー付きの鍔部と前記凹部側のフランジ部との楔作用によって脱着可能に取り付けられており、前記の脱着可能に取り付けられたノズルチップと前記凹部との隙間には、不定形耐火物が、ランス本体の側面と同等の高さ位置まで施工されていることを特徴とする。
【0012】
第2の発明に係る転炉用上吹きランスは、第1の発明において、前記開口ノズルチップとして、開口部の大きさが異なる2種類以上のノズルチップが取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
第3の発明に係る転炉精錬方法は、第1または第2の発明に記載の上吹き酸素ランスを用いて転炉内の溶銑に脱炭精錬及び/または予備脱燐処理を行う転炉精錬方法であって、溶銑の脱炭精錬を行う場合には、側孔ノズルの出口部に閉塞ノズルチップのみが取り付けられた第1または第2の発明に記載の上吹き酸素ランスを用い、該上吹き酸素ランスの主孔ノズルから酸素ガスを供給して転炉内の溶銑を脱炭精錬し、一方、溶銑の予備脱燐精錬を行う場合には、側孔ノズルの出口部に開口ノズルチップのみが取り付けられた第1または第2の発明に記載の上吹き酸素ランスを用い、該上吹き酸素ランスの主孔ノズル及び側孔ノズルから酸素ガスを供給して転炉内の溶銑を予備脱燐処理することを特徴とする。
【0014】
第4の発明に係る転炉精錬方法は、第1または第2の発明に記載の上吹き酸素ランスを用いて転炉内の溶銑に脱炭精錬を行う転炉精錬方法であって、地金が付着していない部位の炉壁と相対する側孔ノズルの出口部には閉塞ノズルチップが取り付けられ、地金が付着している部位の炉壁と相対する側孔ノズルの出口部には開口ノズルチップが取り付けられた第1または第2の発明に記載の上吹き酸素ランスを用い、該上吹き酸素ランスの主孔ノズル及び側孔ノズルから酸素ガスを供給して転炉内の溶銑を脱炭精錬することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノズルチップの取り付け方法として、ノズルチップ側のテーパー付き鍔部と凹部側のテーパー付きフランジ部との楔作用による嵌合を利用しているので、側孔ノズルの吐出方向がどのような角度であってもノズルチップを取り付けることができ、また、熱変形があったとしても容易に取り外しが可能であり、更に、ネジによる接続を利用していないので焼き付きが起こりにくい構造であり、ノズルチップを取り外すことができなくなるという問題を解消することができる。また、ノズルチップと該ノズルチップの埋め込まれる凹部との隙間には、不定形耐火物を施工するので、凹部での地金やスラグの付着が起こりにくく、付着しても容易に除去することができ、更に、ノズルチップの交換時には、不定形耐火物はバールや金槌などで容易に除去することができ、ノズルチップ交換の支障とならない。そして、本発明の転炉用上吹きランスを使用して溶銑の脱炭精錬や予備脱燐処理を実施することで、転炉耐火物の損傷を促進することなく、付着地金を除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した上吹き酸素ランスの1例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す側孔ノズルの詳細な構造を示す図である。
【図3】図2のX方向から見た図である。
【図4】図3のY−Y’矢視による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明を適用した上吹き酸素ランスの1例を示す概略断面図であり、この上吹き酸素ランスは、上吹き酸素ランスの先端部から、酸素ガスとともに生石灰などの造滓剤を吹き込むとともに、鉄鉱石などの固体酸素源を搬送用ガスとともに吹き込むことができ、且つ、上吹き酸素ランスの側面から二次燃焼用または地金溶解用の酸素ガスを吹き込むことが可能な上吹き酸素ランスである。
【0019】
図1に示すように、上吹き酸素ランス1は、円筒状のランス本体2と、このランス本体2の下端に溶接などにより接続されたランスノズル3と、ランス本体2の上端部であり、ガス、粉体、冷却水の導入部となるランス頂部4と、で構成されている。ランス本体2は、最外管5、外管6、中管7、仕切り管8、内管9、最内管10の同心円状の6種の鋼管、即ち六重管で構成され、銅製のランスノズル3には、その軸心部に鉛直下向き方向の副孔ノズル12が設置され、この副孔ノズル12の周囲には、吐出方向を鉛直斜め下向き方向とする複数個の主孔ノズル11が設置されている。また、ランス本体2の側面部には、ランスノズル3の先端部から上方に隔離した位置に、吐出方向を水平または斜め下向き方向とする複数個の側孔ノズル13が、ランス本体2の円周方向でほぼ等間隔に設置されている。図1では、鉛直方向に2段であるが、1段であってもまた3段以上としても構わない。尚、側孔ノズル13の部位は、ランスノズル3と同様に銅製の一体物(鋳物)で構成されている。
【0020】
主孔ノズル11は、吹錬用ガスである酸素ガス、または、この酸素ガスを搬送用ガスとして酸素ガスとともに固体酸素源以外の粉体の造滓剤、つまり生石灰などの粉体を転炉(図示せず)の内部に吹き込むためのノズルであり、副孔ノズル12は、鉄鉱石、ミルスケールなどの固体酸素源を搬送用ガスとともに転炉の内部に吹き込むためのノズルであり、また、側孔ノズル13は、二次燃焼用または地金溶解用の酸素ガスを転炉の内部空間に吹き込むためのノズルである。主孔ノズル11は、図1に示すように、先端部になるほど断面が拡大する、所謂ラバールノズルの形状を採っている。一方、副孔ノズル12及び側孔ノズル13はストレート形状であるが、副孔ノズル12及び側孔ノズル13もラバールノズルの形状を採っても構わない。この上吹き酸素ランス1は、転炉の内部に昇降可能となるように、転炉の上方で支持装置(図示せず)によって支持されている。
【0021】
この場合、主孔ノズル11の設置孔数や口径などの制約は特にないが、上吹き酸素ランス1への供給ガス圧などの制約により、必要とする酸素ガス供給量から必然的に設置孔数及び口径は決定されるため、これらを満足する範囲内で設定することとする。側孔ノズル13も、設置孔数や口径などの制約は特にないが、炉形状に応じて付着地金の溶解に適した配置に設定する。主孔ノズル11から噴出される流量、及び、副孔ノズル12から噴出される流量は、各々独立した流量計(図示せず)によって独立して流量制御されている。
【0022】
最外管5と外管6との間隙、及び、外管6と中管7との間隙は、上吹き酸素ランス1を冷却するための冷却水の流路となっており、ランス頂部4に設けられた給水管(図示せず)から供給された冷却水は外管6と中管7との間隙を通ってランスノズル3の部位まで至り、ランスノズル3の部位で反転して最外管5と外管6との間隙を通ってランス頂部4に設けられた排水管(図示せず)から排出される。給排水の経路を逆としてもよい。
【0023】
中管7と仕切り管8との間隙は、酸素ガスを側孔ノズル13へ供給するための供給経路(「第2の供給経路」と呼ぶ)となっており、ランス頂部4に設けられた酸素ガス供給管14から中管7の内部に導入された酸素ガスは、第2の供給経路を通って側孔ノズル13に至り、側孔ノズル13から噴出されるようになっている。但し、仕切り管8の上端部は、酸素ガス供給管14の設置部位までには至っておらず、酸素ガス供給管14から中管7の内部に導入された酸素ガスは、仕切り管8と内管9との間隙(後述するように、仕切り管8と内管9との間隙は「第1の供給経路」と呼ぶ)にも流入し、この間隙を通って主孔ノズル11に噴出するようになっている。また、仕切り管8の下端部は、ランスノズル3の部位までは至っておらず、中管7と仕切り管8との間隙、つまり第2の供給経路を通ったものの、側孔ノズル13から噴出されなかった酸素ガスは、仕切り管8と内管9との間隙(第1の供給経路)に合流し、主孔ノズル11から噴出するようになっている。
【0024】
仕切り管8と内管9との間隙は、吹錬用の酸素ガス、または、この酸素ガスとともに固体酸素源以外の粉体の造滓剤を、主孔ノズル11へ供給するための供給経路(「第1の供給経路」という)となっている。つまり、ランス頂部4には、酸素ガスを搬送用ガスとして、粉体の造滓剤を供給するための粉体供給管15が仕切り管8に接続して設けられており、主孔ノズル11から吹錬用酸素ガスとともに粉体の造滓剤を吹き込む場合には、酸素ガス供給管14から供給される酸素ガスと、粉体供給管15から供給される造滓剤及び酸素ガスとが、合流して第1の供給経路を通るようになっている。この場合、仕切り管8の下端位置は側孔ノズル13の設置位置よりも下方であるので、第1の供給経路を通る造滓剤が側孔ノズル13に流入することはない。主孔ノズル11から酸素ガスのみを吹き込む場合には、粉体供給管15を停止するか、粉体供給管15から酸素ガスのみを供給すればよい。
【0025】
最内管10の内部は、搬送用ガスとともに固体酸素源を副孔ノズル12へ供給するための供給経路(「第3の供給経路」と呼ぶ)となっており、ランス頂部4に設けられた供給管(図示せず)から搬送用ガスとともに最内管10の内部に供給された固体酸素源は、最内管10の内部を通って副孔ノズル12に至り、副孔ノズル12から噴出されるようになっている。固体酸素源を搬送する搬送用ガスとしては、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスを使用する。副孔ノズル12からは、固体酸素源の替わりに生石灰などの造滓剤と固体酸素源との混合物或いは造滓剤のみを吹き込むこともできる。
【0026】
固体酸素源の搬送用ガスとして、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスを使用する理由は以下の通りである。空気は、主孔ノズル11から吹き込まれる酸素ガスに比較して酸素ガスの含有量が少なく、また、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスは実質的に酸素ガスを含んでいないので、固体酸素源に含まれる微量の金属鉄の搬送中における燃焼を防止することができるとともに、搬送中に固体酸素源と最内管10との接触によって発生する火花による最内管10の燃焼を防止することができるからである。ここで、還元性ガスとは、プロパンガスなどの炭化水素系ガス及びCOガスであり、非酸化性ガスとは、窒素ガスなどの酸化能力のないガスであり、希ガスとはArガスやHeガスなどの不活性ガスである。
【0027】
内管9と最内管10との間隙は、先端部のランスノズル3の部位で密封されて行き止まりになっていて、ランス頂部4に設けられた緩衝用ガス供給管16から供給される、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスが存在する緩衝空間となっている。ここで、緩衝空間に存在させるガスを「緩衝用ガス」と称す。この緩衝空間に緩衝用ガスを充填させておき、固体酸素源の搬送によって、固体酸素源の供給経路つまり第3の供給経路である最内管10に破孔が発生した場合には、緩衝空間と最内管10の内部とが連通し、緩衝空間内の圧力が変化する或いは緩衝空間へ供給する緩衝用ガスの流量が変化するので、その変化に基づいて最内管10の破孔を検知するという構成である。
【0028】
図1に示す側孔ノズル13の詳細な構造を図2に示す。また、図2のX方向から見た図を図3に示し、図3のY−Y’矢視による断面図を図4に示す。これらの図に示すように、側孔ノズル13は銅製の側孔ノズル部17に設けられており、側孔ノズル部17の上端及び下端は、最外管5、外管6、中管7と溶接によって接続されている。尚、側孔ノズル部17は、外面が最外管5と同一形状で、内面が中管7と同一形状の円筒状の銅鋳物であり、その円周方向に複数の側孔ノズル13が設置されている。
【0029】
この側孔ノズル部17には、側孔ノズル13の出口部に凹部18が設けられ、この凹部18にノズルチップ20が設置されている。凹部18の内壁外周の一部分には、円周方向の相対する位置に、テーパー付きのフランジ部19が設けられ、一方、ノズルチップ20には、テーパー付きの鍔部21が設けられている。この鍔部21の直径は、円周方向の0°及び180°の部位は凹部18の内径よりも若干小さい程度であるが、その他の部位は凹部18の内径よりも十分に小さく、鍔部21の円周方向の0°及び180°の部位の突出した部分が、凹部18のテーパー付きのフランジ部19と嵌合するように構成されている。
【0030】
つまり、鍔部21の円周方向の0°及び180°の部位の突出した部分がフランジ部19と接触しないようにして、ノズルチップ20をその鍔部21が凹部18の底面に接触するまで凹部18に挿入し、その状態でノズルチップ20を適宜の工具で90°程度回転させることで、鍔部21の突出した部分がフランジ部19と嵌合し、これによる楔作用によってノズルチップ20が凹部18に装着されるように構成されている。ノズルチップ20を凹部18から取り外す場合には、ノズルチップ20を逆方向に回転させればよい。ノズルチップ20の回転を容易にするために、ノズルチップ20にはその中央部に二面幅を有する凸部22が設けられている。
【0031】
このようにして、ノズルチップ20は脱着可能に凹部18に取り付けられている。そして、凹部18とノズルチップ20との隙間には、最外管5の側面と同等の高さ位置まで不定形耐火物が施工されて、不定形耐火物層24が形成されている。尚、図3及び図4では煩雑になるので、不定形耐火物層24を省略している。
【0032】
これらの図に示すノズルチップ20は、側孔ノズル13の内径と同等の内径の開口部23を有しているが、開口部23の無いノズルチップ、側孔ノズル13の内径よりも小さい内径の開口部23を有するノズルチップも状況に応じて適宜取り付けられる。尚、ノズルチップ20は金属製として、側孔ノズル部17と同じ銅製とするか、或いは鋳鉄製とすればよい。本発明においては、開口部23の無いノズルチップを「閉塞ノズルチップ」、開口部23を有するノズルチップを「開口ノズルチップ」と称す。
【0033】
このようにして構成される上吹き酸素ランス1を用いて転炉で溶銑の予備脱燐処理を実施する場合には、ノズルチップ20として、側孔ノズル13の内径と同等の内径の開口部23を有するノズルチップを取り付け、この上吹き酸素ランス1を転炉内の溶銑の上方所定位置に配置し、主孔ノズル11から酸素ガス及び粉状の生石灰を溶銑浴面に向けて吹き付けるとともに、副孔ノズル12から搬送用ガスとともに固体酸素源を溶銑浴面に向けて吹き付け、且つ、側孔ノズル13から酸素ガスを吹き込む。この場合、ノズルチップ20として、経験的に地金付着の少ない部位では、開口部23を有さないノズルチップを取り付けることも可能である。
【0034】
転炉内の溶銑浴面において、酸素ガスが溶銑浴面と衝突する場所(「火点」という)は、酸素ガスと溶銑中の炭素との反応によって高温になっており、固体酸素源は、火点或いは火点の近傍に供給されることから迅速に溶融し、スラグ中のFeO成分を増加させる。これにより、スラグの酸素ポテンシャルが上昇し、つまり脱燐反応に最適なスラグが迅速に形成され、少ないスラグ量であっても、また高温下であっても脱燐処理が可能となる。また、生石灰も火点或いは火点の近傍に投入されるので、生石灰の滓化が促進されて脱燐精錬用スラグが早期に形成され、脱燐反応がより一層促進される。
【0035】
更に、側孔ノズル13から二次燃焼用の酸素ガスを供給するので、脱燐精錬と並行して炉体の付着地金を溶解或いは地金付着を防止することが達成され、これにより、地金付着に伴う弊害が未然に防止されて、鉄歩留まりの向上や生産性の向上が実現される。この場合、側孔ノズル13からの酸素ガスの流速が速くなりすぎ、側孔ノズル13からの酸素ガスが直接炉壁に到達すると、付着地金が局所的に溶解するのみならず、炉体耐火物が局所的に溶損するので、これを防止するために、側孔ノズル13からの酸素ガス噴流が炉壁に到達するまでの期間に、酸素ガス噴流を炉内で発生するCOガスと反応させ、二次燃焼熱を炉内に均一に分散させる。
【0036】
一方、溶銑の脱炭精錬を実施する場合には、地金が付着していない部位の炉壁と相対する側孔ノズル13には、開口部23を有さないノズルチップを取り付け、地金が付着している部位或いは地金が付着しやすい部位の炉壁と相対する側孔ノズル13には、側孔ノズル13の内径と同等の内径の開口部23を有するノズルチップ、または状況に応じて側孔ノズル13の内径よりも小さな内径の開口部23を有するノズルチップを取り付け、この上吹き酸素ランス1を転炉内の溶銑の上方所定位置に配置し、主孔ノズル11から酸素ガスを溶銑浴面に向けて吹き付けるとともに、副孔ノズル12から搬送用ガスとともに造滓剤である生石灰を溶銑浴面に向けて吹き付け、且つ、側孔ノズル13から酸素ガスを吹き込む。この場合、地金付着が少ない場合は、開口部23を有さないノズルチップのみを取り付けることもできる。
【0037】
生石灰が、火点或いは火点の近傍に投入されるので、生石灰の滓化が促進されてスラグが早期に形成され、スピッテングやスロッピングを抑制することができる。また、側孔ノズル13から二次燃焼用の酸素ガスを供給するので、脱炭精錬と並行して炉体の付着地金を溶解或いは地金付着を防止することが達成される。
【0038】
このように、本発明によれば、ノズルチップ20の取り付け方法として、ノズルチップ側のテーパー付き鍔部21と凹部側のテーパー付きフランジ部19との楔作用による嵌合を利用しているので、側孔ノズル13の吐出方向がどのような角度であってもノズルチップ20を取り付けることができ、また、熱変形があったとしても容易に取り外しが可能であり、更に、ネジによる接続を利用していないので焼き付きが起こりにくい構造であり、ノズルチップ20を取り外すことができなくなるという問題を解消することができる。また、ノズルチップ20と凹部18との隙間には、不定形耐火物層24を形成するので、凹部18での地金やスラグの付着が起こりにくく、付着しても容易に除去することができ、更に、ノズルチップ20の交換時には、不定形耐火物層24はバールや金槌などで容易に除去することができ、ノズルチップ20の交換の支障とならない。
【0039】
尚、上記説明は、本発明を上吹き酸素ランス1に適用した例であるが、地金溶解用ランスにも上記に沿って本発明を適用することができる。即ち、地金溶解用ランスは、主孔ノズル11及び副孔ノズル12を有しておらず、側孔ノズル13のみを有しており、地金が付着している部位に相対する側孔ノズル13には、側孔ノズル13の内径と同等の内径の開口部23を有するノズルチップ、または状況に応じて側孔ノズル13の内径よりも小さな内径の開口部23を有するノズルチップを取り付け、地金が付着していない部位に相対する側孔ノズル13には開口部23を有さないノズルチップを取り付け、この地金溶解用ランスの高さ位置を調整した上で、側孔ノズル13から酸素ガスを噴射すればよい。
【0040】
また、図2〜4において、ノズルチップ20の凸部22は外殻が四角形であるが、円形以外の他の形状、例えば六角形などの多角形や楕円形であっても構わない。また更に、ノズルチップ20の緩み防止を確実にするために、貫通する孔を鍔部21に設け、この孔に、図3に示すように回転防止用ピン25を通し、回転防止用ピン25の下端を凹部18の底部に配置した孔(図示せず)に差し込んで、ノズルチップ20の緩みを防止することが好ましい。回転防止用ピン25は、テーパピン、スプリングピンなどの形式のものを使用すれば、落下することはない。
【符号の説明】
【0041】
1 上吹き酸素ランス
2 ランス本体
3 ランスノズル
4 ランス頂部
5 最外管
6 外管
7 中管
8 仕切り管
9 内管
10 最内管
11 主孔ノズル
12 副孔ノズル
13 側孔ノズル
14 酸素ガス供給管
15 粉体供給管
16 緩衝用ガス供給管
17 側孔ノズル部
18 凹部
19 フランジ部
20 ノズルチップ
21 鍔部
22 凸部
23 開口部
24 不定形耐火物層
25 回転防止用ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランス先端部に設けられた主孔ノズルから溶銑に向けて酸素ガスを吹き付けると同時にランス側面に設けられた側孔ノズルから二次燃焼用または地金溶解用の酸素ガスを吹き付ける上吹き酸素ランス、または、ランス側面に設けられた側孔ノズルから地金溶解用の酸素ガスを吹き付ける地金溶解用ランスのうちの何れかの転炉用上吹きランスにおいて、
前記側孔ノズルの出口部には、その内壁外周の一部分にテーパー付きのフランジ部を有する凹部が設けられ、
該凹部には、閉塞ノズルチップまたは開口ノズルチップのうちの何れか一方のノズルチップが、該ノズルチップに設けられたテーパー付きの鍔部と前記凹部側のフランジ部との楔作用によって脱着可能に取り付けられており、
前記の脱着可能に取り付けられたノズルチップと前記凹部との隙間には、不定形耐火物が、ランス本体の側面と同等の高さ位置まで施工されていることを特徴とする、転炉用上吹きランス。
【請求項2】
前記開口ノズルチップとして、開口部の大きさが異なる2種類以上のノズルチップが取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の転炉用上吹きランス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の上吹き酸素ランスを用いて転炉内の溶銑に脱炭精錬及び/または予備脱燐処理を行う転炉精錬方法であって、溶銑の脱炭精錬を行う場合には、側孔ノズルの出口部に閉塞ノズルチップのみが取り付けられた請求項1または請求項2に記載の上吹き酸素ランスを用い、該上吹き酸素ランスの主孔ノズルから酸素ガスを供給して転炉内の溶銑を脱炭精錬し、一方、溶銑の予備脱燐精錬を行う場合には、側孔ノズルの出口部に開口ノズルチップのみが取り付けられた請求項1または請求項2に記載の上吹き酸素ランスを用い、該上吹き酸素ランスの主孔ノズル及び側孔ノズルから酸素ガスを供給して転炉内の溶銑を予備脱燐処理することを特徴とする転炉精錬方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の上吹き酸素ランスを用いて転炉内の溶銑に脱炭精錬を行う転炉精錬方法であって、地金が付着していない部位の炉壁と相対する側孔ノズルの出口部には閉塞ノズルチップが取り付けられ、地金が付着している部位の炉壁と相対する側孔ノズルの出口部には開口ノズルチップが取り付けられた請求項1または請求項2に記載の上吹き酸素ランスを用い、該上吹き酸素ランスの主孔ノズル及び側孔ノズルから酸素ガスを供給して転炉内の溶銑を脱炭精錬することを特徴とする転炉精錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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