説明

転落防止装置

【課題】プラットホームへの設置工事が簡単な新しい転落防止装置を提供すること。
【解決手段】可動ステップ装置100は、プラットホーム2を掘り下げた凹部10の左右に設けた回動軸126,146で、中央の可動ステップ110を枢支する。このとき取付相対位置を、横姿勢の可動ステップ110が、回動軸126及び回動軸146に対して軌道側にオフセットし、且つ当該回動軸より下方にオフセットした位置とする。よって、駆動機構部の回動軸より下部分のみ凹部10に収まり、回動軸とその上部分がプラットホーム2の上に露出するレイアウトとなる。凹部10に要求される深さは、駆動機構部(特に駆動モータ)を全て収容する必要がなく従来より浅くて済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等のプラットホームの側縁に沿って設置され、車両ドアからホーム端部までの隙間を覆う可動ステップを配置することで、当該隙間への転落を防止する転落防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラットホームから軌道側への転落を防止するための手段の1つとして、可動ホーム柵が知られている(例えば、特許文献1参照)。可動ホーム柵、特に腰高式の可動ホーム柵は、プラットホームに固定される戸袋部にて引き戸式の乗降扉を支持し、通常は乗降扉を戸袋部より押し出した状態を維持して、乗降口を塞ぎプラットホームの側縁沿いに柵を形成する。そして、車両への乗降タイミング時には乗降扉を戸袋部へ引き戻して乗降口を開放する。
【0003】
また近年では、車両への乗降時の安全性をより高めるために、可動ホーム柵に加えて、車両への乗降タイミング時にプラットホームと車両ドアとの間の隙間を覆うように、プラットホーム側から出没される可動ステップと呼ばれる転落防止装置が配置される場合もある(例えば、特許文献2、3参照)。こうした転落防止装置によれば、乗降者が車両ドアとプラットホーム間の隙間に足を取られて転倒したり、軌道へ転落することを防ぎ、スムーズで安全な乗降を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−131008号公報
【特許文献2】特開2000−142381号公報
【特許文献3】特開2005−14805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両ドアとプラットホームとの間の隙間を覆うステップを出没させる新しい転落防止装置を提供することを目的とする。
【0006】
望ましくは、更に第2の目的を達することである。すなわち、特許文献2や特許文献3で示したような構成の転落防止装置は構造が複雑で、装置が厚く大型化しがちである。そのため、例えば従来の転落防止装置を既存のプラットホームに追加工事で設置しようとした場合、プラットホームの大規模な掘削工事が必要となったり、場合によっては掘り下げ工事に伴うプラットホームの強度低下を補う補強工事が必要となったりする。本発明は、敷設面積が比較的小さく、より簡単な工事で設置可能な可動ステップ装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の形態は、可動ホーム柵とプラットホームのホーム側端との間に設置される転落防止装置であって、入線停止中の車両への乗降時に当該車両の乗降口から前記ホーム側端までの隙間を覆うためのステップ部(例えば、図3及び図4の可動ステップ110)と、
前記乗降口に向かって前記ステップ部の左右に2つ設けられ、前記ステップ部の前記可動ホーム柵側の側部を回転中心側として回転させる回動軸(例えば、図3及び図4の回動軸126、回動軸146)と、
前記回動軸を回動させることで、前記ステップ部を起立姿勢又は横姿勢に変位させる駆動部(例えば、図3及び図4の駆動モータ132)と、
非乗降時には前記ステップ部を起立姿勢とし、乗降時には前記ステップ部を横姿勢とするように前記駆動部を駆動制御する駆動制御部(例えば、図1の可動ステップ制御装置190)と、を備え、
前記ステップ部は、前記横姿勢において、前記可動ホーム柵と前記ホーム側端との間のホーム床部を所定厚さ分切削した切削部(例えば、図1,図3の凹部10)にはまり、当該ステップ部の上面が、ホームの上面と略同一面を形成することを特徴とする転落防止装置である。
【0008】
第1の形態によれば、ホームの長手方向に沿った左右の回転軸でステップ部を支持するとともに回転させ、乗降時にはステップ部を横姿勢として車両とホームとの隙間を覆い、非乗降時にはステップ部を起立させて車両の移動に邪魔にならないようにする「直動はね上げ型」の転落防止装置を実現することができる。
【0009】
第2の形態は、前記切削部の厚さは、前記ホーム床部の床版の上面に貼設されたタイル(例えば、図1のノンスリップタイル8)上面から当該タイル用の敷モルタル層の下端までの厚さより小さいことを特徴とする第1の形態の転落防止装置である。
【0010】
第2の形態によれば、第1の形態の転落防止装置と同様の効果を奏するとともに、当該転落防止装置を追加工事で設置する際、切削部を作るためにプラットホームを削る深さを、上面から敷モルタル層までの極浅い範囲で収めることができる。一般的なプラットホームでは、敷モルタル層の更に下には基礎にあたるコンクリート層(床版)が存在する。このコンクリート層は、場合によっては多数の鉄筋や大型のH型鋼などを内在しており、敷モルタル層を越えて深く削る場合には、強度低下を補う補助工事が追加発生する場合がある。しかし、本形態によればそれを回避し設置工事をより簡単にできる。
【0011】
尚、こうした効果は、ステップ部に対する回動軸の取付相対位置を、横姿勢のステップ部を基準として、プラットホーム寄りで且つ、ステップ部の上面よりも上方にオフセットした位置とすると(例えば図5〜7参照)、より効果的となる。
この様な取付位置関係を採用した上で、ステップ部を横姿勢としたときにステップ部の上面がプラットホームとほぼ同一高さとなるようにすると、回動軸から上の部分が露出するレイアウトとなる。つまり、従来、転落防止装置の設置のためにプラットホームを深く掘り下げる工事が必要となる主要因となっていた駆動モータなどを埋設する必要が無いことになる。切削部に要求される深さに着目すれば、本実施形態によれば、回動軸などを固定する基板となる構造と、ステップ部と、更に加えてもステップ部を回動軸に連結する構造物とを収容するだけの深さがあれば良いことになり、従来よりも遙かに浅い切削工事で済むことになる。
【0012】
第3の形態は、前記ステップ部の前記横姿勢における上面位置を調整するための高さ調整部材(例えば、図2及び図3、図5のストッパー115)を有する第1又は第2の形態の転落防止装置である。
【0013】
第3の形態によれば、第1又は第2の形態と同様の効果を奏するとともに、ステップ部の前記横姿勢における上面位置を調整することができる。
【0014】
第4の形態は、前記駆動制御部が前記可動ホーム柵の内部に設けられている第1〜第3の何れかの形態の転落防止装置である。
【0015】
第4の形態によれば、第1〜第3の形態の転落防止装置と同様の効果を奏するとともに、転落防止装置に隣接して設置される可動ホーム柵内に駆動制御部を設けることで、転落防止装置を小型化することができる。
【0016】
第5の形態は、前記駆動制御部による駆動制御は前記可動ホーム柵の乗降扉の開閉駆動と連動し、前記ステップ部が横姿勢とされて後に前記乗降扉が開駆動される第1〜第4の形態の転落防止装置である。
【0017】
第5の形態によれば、第1〜第4の形態の何れかの転落防止装置と同様の効果を奏するとともに、より安全性の高い乗降を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】可動ステップ装置の作動状態を示す軌道側から見た斜視外観図。
【図2】可動ステップ装置の待機状態を示す軌道側から見た斜視外観図。
【図3】可動ステップ装置を軌道側から見た作動状態の正面図。
【図4】作動状態における可動ステップ装置の上面図。
【図5】作動状態におけるA?A断面図。
【図6】作動状態におけるB?B断面図。
【図7】待機状態におけるA?A断面図。
【図8】可動ステップ装置の制御系に関連する機能構成例を示す機能ブロック図。
【図9】ステップ作動制御処理の流れを説明するためのフローチャート。
【図10】ステップ待機制御処理の流れを説明するためのフローチャート。
【図11】可動ステップ装置の変形例を示す右駆動機構部の部分正面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
先ず、本発明が適用された転落防止装置である可動ステップ装置100の構造について説明する。
図1は、本実施形態における可動ステップ装置の作動状態を示す軌道側斜め上から見た斜視外観図である。図2は、同待機状態を示す斜視外観図である。本実施形態における可動ステップ装置100は、プラットホーム2上に設置された可動ホーム柵20とプラットホーム2の軌道側の側端との間に設置され、入線中の車両への乗降開始に合わせて可動ステップ110を横に寝かせた作動状態(横姿勢)として車両の乗降口からプラットホーム2までの隙間3(図5参照)を覆い、乗降終了時に当該可動ステップ110を起立させて待機状態(起立姿勢)とすることで、隙間3への乗降者の転落を防止する装置である。
【0020】
可動ホーム柵20は、プラットホーム上の乗客が入線・通過する車両と接触するのを防いだり、乗客がホームから軌道側へ転落するのを防止する腰高式の可動式ホーム柵である。可動ホーム柵20は、略水平にスライド移動自在な乗降扉22と、乗降扉22を開閉駆動する駆動部を内蔵した戸袋部24と、乗降扉22の開閉を電気・電子制御するための可動ホーム柵制御装置26とを備える。可動ホーム柵20は、通常は乗降扉22を閉じた待機状態を維持し、入線した電車への乗降開始時に乗降扉22を左右に開き(図1)、乗降終了時には閉じて元の待機状態へ戻る(図2)。
【0021】
可動ステップ装置100は、プラットホーム2の端部を切削することで掘り下げて形成された凹部10(切削部)内に、その一部を納めるようにして設置される。具体的には、プラットホーム2の端部は、プレキャストコンクリートブロックや鉄筋コンクリート層により形成された床版4上に、厚さ30〜60mm程度の敷モルタル6を形成し、更に厚さ30mm程度のノンスリップタイル8が貼設されている。可動ステップ装置100は、ノンスリップタイル8の上面から敷モルタル6の層の下端までの厚さよりも小さい範囲を削って形成された凹部10内に設置される。
【0022】
図3は、本実施形態における可動ステップ装置100を軌道側から見た作動状態の正面図である。図4は、同作動状態の上面図である。図5は、作動状態におけるA?A断面図、図6は、作動状態におけるB?B断面図。図7は、待機状態におけるA?A断面図である。
【0023】
図3、図5〜図6に示すように、可動ステップ装置100は、凹部10の底部に埋設された基礎ベース102上にベースプレート122をボルトで固定して設置される。基礎ベース102は、凹部10の左右(プラットホーム2の長手方向)に亘る一枚の鋼板などにより実現される。
【0024】
凹部10の底部には、床版4の下面に達する貫通孔が複数箇所設けられており、基礎ベース102は、水平レベルの調整、所謂「レベル出し」を行った後、速乾性モルタル7を注入して固定するとともに、この貫通孔にアンカーボルト104を挿通して、床版4下面にてスペーサ106を介したナット108で固定される。尚、アンカーボルト104の位置や本数は適宜設定することができる。例えば、アンカーボルト104一本当り一枚の基礎ベース102を設けても良い。尚、基礎ベース102の固定方法は、これに限らず、基礎となるプレートをホームに固定するその他の方法でも良い。
【0025】
図3及び図4に示すように、可動ステップ装置100は、可動ステップ110をプラットホーム2の上面に沿った略水平の軸で枢支する手段として、基礎ベース102の正面から見て左右に左駆動機構部120と右駆動機構部140とを備える。
【0026】
左駆動機構部120は、ベースプレート122の上に防塵カバー124で収容空間を形成し、その中に、回動軸126を右端より防塵カバー124の外へ略水平に突出させて支持する軸受128と、軸受128の左端にギアボックス130を介して結合されて回動軸126を駆動する駆動モータ132とを内蔵する。
【0027】
右駆動機構部140は、ベースプレート122の上に防塵カバー144で収容空間を形成し、その中に、回動軸146を左端より防塵カバー144の外へ略水平に突出させて支持する軸受148を備える。
【0028】
また、右駆動機構部140は、回動軸146の回転姿勢を検出する手段として、待機姿勢検知センサ150と、作動姿勢検知センサ152とを備える。これらの検知センサは、例えば軸受148の左端より突出した回動軸146にそれぞれ所定の相対角度で固定された揺動片と、ベースプレート122上に設けられて対応する揺動片の接触や近接を検出するセンサ等によって実現される。なお、回動軸146の回転角度を検出する角度センサによって実現するなどの構成で実現するとしても良い。
【0029】
また、右駆動機構部140は、回動軸146の待機姿勢(起立姿勢)及び作動姿勢(横姿勢)を維持するための手段として、軸受148の左端より突出した回動軸146に固定された有孔のロックフランジ160と、ロックフランジ160の孔部に係合するロックシャフト164と、ロックシャフト164をロックフランジ160に向けて進退させるロック用ソレノイド166と、ロック状態検知センサ168とを備える。
【0030】
ロックフランジ160は、回動軸146の外周に、軸方向に対して垂直な面を形成し、その垂直な面の同円周上に待機姿勢と作動姿勢それぞれに対応する孔を備える。それらの孔にロックシャフト164が進出し嵌合することにより回動軸146の回転を規制し、当該孔に対応する姿勢を維持する機能を果たす。
【0031】
ロックシャフト164は、ベースプレート122によって回動軸146の軸方向に沿ってスライド自在に支持されており、スプリング165によってロック作動方向、つまりロックフランジ160へ近づく方向へ付勢されている。
【0032】
ロック用ソレノイド166は、通電時に可動鉄心を引き戻し、非通電時に可動鉄心を突出させるタイプの電磁ソレノイドである。可動鉄心は、例えば接続ピンを介してロックシャフト164に繋げられている。
【0033】
ロック状態検知センサ168は、ロックシャフト164の進退状態を検知する手段であって、例えばロックシャフト164に固定された揺動片と、ロックシャフト164が進出した状態における当該揺動片の接触や近接を検知する第1のセンサと、ロックシャフト164が後退した状態における接触や近接を検知する第2のセンサとで実現される。
【0034】
本実施形態では、左駆動機構部120の回動軸126と、右駆動機構部140の回動軸146とは同一の軸方向を為す。そして、図3〜図6に示すように、回動軸126の右端及び回動軸146の左端、即ち各回動軸の先端部には、可動ステップ110を各回動軸に支持・固定する手段として、各回動軸の外周から接線方向に延設された旋回アーム112が固定されている。旋回アーム112は、回動軸126及び回動軸146が作動姿勢(横姿勢)にある場合に、回動軸126及び回動軸146の下端から軌道側へ横向きとなるように延設された羽子板形状を有している。尚、ここで言う「軌道側へ横向き」とは、厳密な水平を含む事は勿論、プラットホーム2の上面と車両の乗降口までを直線で結ぶ緩やかな斜面を形成した状態を含む。
【0035】
そして、図3及び図6に示すように、これら左右の旋回アーム112の下面には、ステップ取り付けプレート114が横渡しで固定され、図3及び図5に示すように、ステップ取り付けプレート114の上面に可動ステップ110が固定されている。
具体的には、ステップ取り付けプレート114のホーム側の側面と、可動ステップ110のホーム側の側面とを合わせるようにして両者が固定されている。横姿勢の待機状態でいうと、可動ステップ110は、回動軸126及び回動軸146に対して、軌道方向にオフセットし、且つ下方にオフセットした左右両側部で吊り下げられた格好で固定されていることになる。換言すると、可動ステップ110は、回動軸126,146は、可動ステップ110に対してホーム側で且つ可動ステップ110の上面よりも上方にオフセットした位置に設定されているとも言える。可動ステップ110の前後幅(図5における左右の幅)は、想定される車両ドアの位置と当該可動ステップ装置100が設置される地点との隙間の寸法に合わせて個別に設定される。
【0036】
従って、駆動モータ132が駆動することにより、可動ステップ110は、ホーム長手方向に沿った略水平な軸(回動軸126、回動軸146)で揺動されて、プラットホーム2沿いに横に寝かされた作動状態から、プラットホーム2に対して起立した待機状態へ、又はその逆に自在に姿勢変更されることになる。
【0037】
また、本実施形態では、可動ステップ110が横姿勢の作動状態にあるとき、可動ステップ110の上面がプラットホーム2の上面との間でほぼ同一面を形成するように、凹部10の底面から回動軸126及び回動軸146までの高さ、回動軸126及び回動軸146に対する可動ステップ110の相対高さ位置等が設定されている。
【0038】
また、図1、図4〜図5に示すように、左駆動機構部120と右駆動機構部140との間のベースプレート122上のホーム側に寄せて、固定ステップ170が固定されている。固定ステップ170は、プラットホーム2の上面との間で、ほぼ同一面を形成するように設定されている。つまり、作動状態にあるときには、可動ステップ110から固定ステップ170を経てプラットホーム2まで、乗降客が往来する面をほぼ平らに形成する。
【0039】
また、図2〜図3及び図5に示すように、作動状態において対向・当接するベースプレート122の上面と、ステップ取り付けプレート114の下面との対応位置に、それぞれ向き合うようにしてクッション103及びストッパー115が取り付けられている。
【0040】
クッション103は、例えば弾性樹脂のブロック又はスプリング等により実現される。本実施形態では、ステップ取り付けプレート114の下面と、ベースプレート122の上部に設けられた凹部内とに、それぞれクッション103が固定される。これらのクッション103の対は、可動ステップ110が待機状態から作動状態に変化して倒しきる時に、ストッパー115同士の衝突よりも先に対向するクッション103同士が接触・弾性変形して緩衝する。
【0041】
また、本実施形態のストッパー115も、同様にステップ取り付けプレート114の下面と、ベースプレート122の上部に設けられた凹部内とに固定される。そして、ストッパー115は、クッション103同士が接触・弾性変形した後に、対向するストッパー115同士が突き当たり、作動状態における倒れ位置を規制する。尚、ストッパー115の形状(具体的には高さや、底面の角度)を変更することで、待機姿勢における可動ステップ110の上面位置や傾斜を調整するための高さ調整部材として機能する。
【0042】
次に、本実施形態における可動ステップ装置100の制御系の構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態の可動ステップ装置100の動作を電子・電気制御する可動ステップ制御装置190は、隣設された可動ホーム柵2の戸袋部24内に設けられている。そして、可動ステップ制御装置190には、図示されない信号ケーブルや電力線などによって、前出の駆動モータ132や待機姿勢検知センサ150、作動姿勢検知センサ152、ロック用ソレノイド166、ロック状態検知センサ168などが電気的に接続されている。
【0043】
図8は、本実施形態における可動ステップ装置100の制御系に関連する機能構成例を示す機能ブロック図である。可動ステップ制御装置190は、第1演算装置192と、第2演算装置194と、比較部196と、制御情報入出力部198と、駆動情報入出力部199とを備える。
【0044】
第1演算装置192及び第2演算装置194は、それぞれCPUとメモリを搭載し、二重系を構成する。そして、第1演算装置192及び第2演算装置194は、各々のメモリに予め記憶されている制御プログラムを実行し、制御情報入出力部198を介して外部装置から受信する作動/待機制御信号や、駆動情報入出力部199を介して入力される各種センサの検知信号などのセンサ情報に基づいて、独自にロック用ソレノイド166や駆動モータ132への制御信号を生成する。
【0045】
比較部196は、ICチップや電子回路によって実現され、第1演算装置192及び第2演算装置194から出力された駆動モータ132やロック用ソレノイド166への制御信号を比較する。そして、双方の制御信号の内容が合致すれば、その制御内容を実現する制御信号を駆動情報入出力部199へ出力し、駆動モータ132やロック用ソレノイド166を制御する。もし、制御信号の内容が異なれば可動ステップ110を待機状態のままにするように、安全側に設定された所定の制御信号を駆動情報入出力部199に出力する。
【0046】
制御情報入出力部198は、例えば、信号線や端子、データ通信を実現する装置などにより実現され、可動ホーム柵2の開閉動作を制御する可動ホーム柵制御装置26(図1参照)とデータ通信を実現する。
【0047】
駆動情報入出力部199は、例えばICチップや制御回路群により実現され、待機姿勢検知センサ150、作動姿勢検知センサ152及びロック状態検知センサ168から検知信号を入力して、第1演算装置192及び第2演算装置194へ出力するインタフェースを実現する。また、比較部196から受信した制御信号に従って、駆動モータ132を駆動させる信号を出力し、ロック用ソレノイド166を作動させるための信号等を生成し出力することができる。
【0048】
次に、可動ステップ装置100が待機状態から作動状態に至る動作について説明する。
入線した車両200の運転台に設けられた車両ドア開閉スイッチ202が操作されると車両情報伝送装置204と地上情報伝送装置206とによる情報伝達を介してドア開信号が総合制御装置210へ送信される。
【0049】
総合制御装置210は、車両200への乗降に関する種々の制御(例えば、アナウンス音声の再生、乗降場所表示の点灯など)の一つとして複数の可動ホーム柵2の開閉を統合的に制御するための制御装置であり、例えば駅の通信指令室やホーム近傍などに設置されている。総合制御装置210は、車両200からドア開信号を受信すると、可動ステップ制御装置190へ作動制御信号を送信する。
【0050】
図9は、本実施形態における可動ステップ装置100におけるステップ作動制御処理の流れを説明するためのフローチャートである。可動ステップ制御装置190は、総合制御装置210から作動制御信号を受信したならば(ステップS2のYES)、ロック用ソレノイド166へ通電してロックシャフト164の付勢力に打ち勝ってロックフランジ160から引き戻してロックを解除する(ステップS4)。
【0051】
ロック状態検知センサ168からロック解除状態の検知信号を受信できなければ(ステップS6のNO)、可動ステップ制御装置190は、総合制御装置210へ故障信号を送信して(ステップS22)、ステップ作動制御処理を終了する。
一方、ロック解除状態の検知信号を受信できたならば(ステップS6のYES)、可動ステップ110を作動状態とするために、可動ステップ110が横たわる方向へ駆動モータ132を順回転させる制御信号の送信を開始する(ステップS10)。
【0052】
駆動モータ132が順回転して、可動ステップ110が図1に示した横姿勢の作動状態に達すると、作動姿勢検知センサ152が検知信号を出力する。
もし、駆動モータ132の順回転制御開始から所定時間内に、作動姿勢の検知がなされなかった場合には(ステップS12のNO)、可動ステップ制御装置190は、可動ステップ110を図2で示すような起立姿勢の待機状態に強制的に戻すために、可動ステップ110を起立させる方向へ駆動モータ132を逆回転させる制御信号を所定時間だけ出力し(ステップS20)、故障信号を総合制御装置210へ送信して(ステップS22)、ステップ作動制御処理を終了する。尚、ここで言う「所定時間」は、待機状態から作動状態に達するまで、又はその逆に作動状態から待機状態に達するまでの標準的な所要時間にある程度の余裕を持たせた値を適宜設定すると良い。
【0053】
一方、所定時間内で作動姿勢の検知信号を受信したならば(ステップS12のYES)、可動ステップ制御装置190は駆動モータ132への駆動制御信号の送出を停止してモータを止める(ステップS14)。そして、ロック用ソレノイド166への通電を解除して、ロックシャフト164はスプリング165の力によってロックフランジ160方向へ移動しロックを作動させる(ステップS16)。
【0054】
ロックを作動させたにもかかわらずロック作動が検知されなければ(ステップS18のNO)、可動ステップ制御装置190は可動ステップ110を立てる方向に駆動モータ132を逆回転制御した後(ステップS20)、故障信号を総合制御装置210へ送信して(ステップS22)、ステップ作動制御処理を終了する。
ロックを作動させた後、無事にロック作動が検知されたならば(ステップS18のYES)、可動ステップ制御装置190は、総合制御装置210と可動ホーム柵制御装置26へ作動確認信号を送信して(ステップS24)、ステップ作動制御処理を終了する。
【0055】
総合制御装置210は、可動ステップ制御装置190から作動確認信号を受信すると、地上情報伝送装置206を介して車両200へ可動ステップの張出完了信号を送り、車両ドアを開けさせる。一方、可動ホーム柵制御装置26は、可動ステップ制御装置190から作動確認信号を受信すると乗降扉22を開ける制御を行う。
【0056】
次に、可動ステップ装置100が作動状態から待機状態に戻る動作について説明する。
乗降完了が確認されると、車両200では車両ドア開閉スイッチ202が操作され、総合制御装置210へドア閉信号が送信される(図8参照)。総合制御装置210は、ドア閉信号を受信すると、可動ステップ制御装置190へ待機制御信号を送信するとともに可動ホーム柵制御装置26へ扉閉制御信号を送信する。可動ホーム柵制御装置26は、扉閉制御信号を受信すると、乗降扉22を閉じ制御し、乗降扉22を閉じると総合制御装置210へ扉閉完了信号を送信する。そして、この扉閉完了信号を受信した総合制御装置210は、可動ステップ制御装置190へ待機制御信号を送信する。尚、待機制御信号は、可動ホーム柵制御装置26が可動ステップ制御装置190へ送信する構成としても良い。
【0057】
図10は、本実施形態における可動ステップ装置100におけるステップ待機制御処理の流れを説明するためのフローチャートである。可動ステップ制御装置190は、待機制御信号を受信したならば(ステップS50のYES)、ロックを解除制御する(ステップS52)。
【0058】
ここでもし、ロックの解除が検知されなければ(ステップS54のNO)、故障発生を通知する所定の故障信号を総合制御装置210へ送信して(ステップS70)、ステップ待機制御処理を終了する。無事にロック解除が検知されたならば(ステップS54のYES)、可動ステップ制御装置190は可動ステップ110を立てるために駆動モータ132の逆回転制御を開始する(ステップS56)。
【0059】
次に、可動ステップ制御装置190は、駆動モータ132の逆回転制御を開始してから所定時間内に待機姿勢検知センサ150から検知信号が入力されなければ(ステップS58のNO)、駆動モータ132への逆回転制御の信号送出を停止させてモータを止め(ステップS60)、故障信号を総合制御装置210へ送信して(ステップS70)、ステップ待機制御処理を終了する。無事に所定時間内に待機姿勢が検知されたならば(ステップS58のYES)、可動ステップ制御装置190は駆動モータ132を停止させて(ステップS62)、ロックを作動させる(ステップS64)。
【0060】
ロックを作動させたにもかかわらずロック作動の検知がなければ(ステップS66のNO)、可動ステップ制御装置190は、故障信号を総合制御装置210へ送信して(ステップS70)、ステップ待機制御処理を終了する。無事にロック作動の検知が有れば(ステップS66のYES)、待機確認信号を総合制御装置210へ送信し(ステップS68)、ステップ待機制御処理を終了する。
【0061】
以上に述べた構成及び制御により、本実施形態における可動ステップ装置100は、ホームの長手方向に沿った略水平回転軸を有する駆動機構で可動ステップ110を支持・回転させる「直動可倒型」の新しい転落防止装置を実現することができる。
【0062】
本実施形態における可動ステップ装置100は、可動ステップ110を駆動機構部(左駆動機構部120と右駆動機構部140)の回動軸に対して固定する位置関係を、作動状態(横姿勢)において、回動軸より軌道側へ斜め下方にオフセットした位置関係、換言すると、駆動機構部の回動軸にとってみれば、可動ステップ110よりもホーム寄りで且つ可動ステップ110上面より上方となる位置関係、に設定としている。こうした取付位置関係は、結果として駆動機構部の回動軸より下の一部を凹部10に納めるが、残りの大部分をプラットホーム2の上に露出させるレイアウトを生み出している。
【0063】
よって、凹部10に要求される深さに着目すれば、従来のように駆動機構部、特に駆動モータ132全体を埋設する収容スペースを確保するために、プラットホームを深く掘削する必要が無い。基礎ベース102と、ベースプレート122と、ステップ取付プレート114と、可動ステップ110とを積層した上面がプラットホーム2の上面とほぼ同一面となれば良く、本実施形態における凹部10は従来よりも遙かに浅くて済むことになる。このことは、既存のプラットホーム2に可動ステップ装置100を設置する際、凹部10の形成に要する工数や手間を削減する効果を生む。しかも、凹部10がノンステップタイル8及びその敷モルタル6の合計厚より浅くて済むので、床版4を広い面積に亘って削る必要も無く、プラットホーム2の強度低下などを心配しなくて済む。追加工事で可動ステップ装置100を設置する場合には、特にこのメリットが大きい。
【0064】
可動ステップ110を凹部10内に設置された駆動機構部の回動軸に直接固定した構成は、支持・駆動構造の簡素化と小型化、それに伴う省設置スペース化に寄与する。このことは、結果的に凹部10に要求される深さをより浅くするように作用する。
【0065】
また、駆動機構の構成に着目すれば、ギアボックス130と駆動モータ132を回動軸126の軸沿いに横方向に寝かせて連結する構成としたことで、駆動機構部の上下の厚さを軽減し、凹部10に要求される深さをより浅くするのに寄与している。
【0066】
〔変形例〕
以上、本発明を適用した可動ステップ装置について説明したが、本発明の形態がこれに限られるものでは無く、発明の主旨を逸脱しない限りにおいて適宜構成の追加・省略・変更を施す事ができる。
【0067】
例えば、図11に示すように、駆動モータ132の故障に備えて回動軸146を手動回転させるための非常用ハンドル186の取り付け構成を追加することができる。具体的には、回動軸146にベベルギア180を設けるとともに、当該ギアと直交するベベルギア182を軸受184で枢支し、ベベルギアボックスを形成する。そして、ベベルギア182の軸には、非常用ハンドル186の軸を着脱自在に嵌合し得るキー溝188を設け、防塵カバー144外からアクセス可能とする。これにより、非常時には人力で可動ステップ110を動かす事ができるようになる。
【0068】
また、上記実施形態では、可動ステップ制御装置190を可動ステップ装置100の専用として可動ホーム柵20の戸袋部24内に設置する構成としたが、可動ホーム柵制御装置26と共用化する構成としても良い。すなわち、可動ホーム柵制御装置兼可動ステップ制御装置を戸袋部24内に設け、当該装置一つで上記実施形態で説明した可動ホーム柵制御装置26の機能と可動ステップ制御装置190の機能の両方を実現させる。
【0069】
その場合、可動ホーム柵制御装置兼可動ステップ制御装置は、可動ステップ装置100の駆動モータ132や各種センサとの信号線を接続することのできる端子を備える。そして、可動ホーム柵制御装置26の単独での機能を実現する第1モードと、可動ホーム柵制御装置兼可動ステップ制御装置としての機能を実現する第2モードとを搭載し、スイッチやプログラムで何れのモードを適用するか切り換え可能とする。そして、可動ホーム柵20単独で設置する場合には第1モード、可動ステップ装置100とともに設置する場合には端子に駆動モータ132や各種センサとの信号線を接続し、第2モードを選択して使用するものとする。
【符号の説明】
【0070】
2 プラットホーム
4 床版
6 敷モルタル
8 ノンスリップタイル
10 凹部
20 可動ホーム柵
22 乗降扉
24 戸袋部
26 可動ホーム柵制御装置
100 可動ステップ装置
102 基礎ベース
103 クッション
110 可動ステップ
112 旋回アーム
114 ステップ取付プレート
115 ストッパー
122 ベースプレート
120 左駆動機構部
124 防塵カバー
126 回動軸
128 軸受
130 ギアボックス
132 駆動モータ
140 右駆動機構部
144 防塵カバー
146 回動軸
148 軸受
150 待機姿勢検知センサ
152 作動姿勢検知センサ
160 ロックフランジ
164 ロックシャフト
165 スプリング
166 ロック用ソレノイド
168 ロック状態検知センサ
170 固定プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動ホーム柵とプラットホームのホーム側端との間に設置される転落防止装置であって、
入線停止中の車両への乗降時に当該車両の乗降口から前記ホーム側端までの隙間を覆うためのステップ部と、
前記乗降口に向かって前記ステップ部の左右に2つ設けられ、前記ステップ部の前記可動ホーム柵側の側部を回転中心側として回転させる回動軸と、
前記回動軸を回動させることで、前記ステップ部を起立姿勢又は横姿勢に変位させる駆動部と、
非乗降時には前記ステップ部を起立姿勢とし、乗降時には前記ステップ部を横姿勢とするように前記駆動部を駆動制御する駆動制御部と、
を備え、
前記ステップ部は、前記横姿勢において、前記可動ホーム柵と前記ホーム側端との間のホーム床部を所定厚さ分切削した切削部にはまり、当該ステップ部の上面が、ホームの上面と略同一面を形成する
ことを特徴とする転落防止装置。
【請求項2】
前記切削部の厚さは、前記ホーム床部の床版の上面に貼設されたタイル上面から当該タイル用の敷モルタル層の下端までの厚さより小さいことを特徴とする
請求項1に記載の転落防止装置。
【請求項3】
前記ステップ部の前記横姿勢における上面位置を調整するための高さ調整部材を有する
請求項1又は2に記載の転落防止装置。
【請求項4】
前記駆動制御部は、前記可動ホーム柵の内部に設けられている
請求項1〜3の何れか一項に記載の転落防止装置。
【請求項5】
前記駆動制御部による駆動制御は前記可動ホーム柵の乗降扉の開閉駆動と連動し、前記ステップ部が横姿勢とされて後に前記乗降扉が開駆動される、
請求項1〜4の何れか一項に記載の転落防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−184020(P2011−184020A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54544(P2010−54544)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】