説明

軸シール装置及びこれを備える回転機械

【課題】高圧側側板をシール体に追従させるとともに、該高圧側側板の剛性を強化し、フラッタリングを防止することができる軸シール装置及びこれを備える回転機械を提供する。
【解決手段】軸シール装置10は、ロータとロータの外周側を囲うステータとの間の環状空間に設けられ、環状空間をロータの軸線方向において低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置10であって、ステータからロータの径方向内側に向かって延出する薄板シール片20をロータの周方向に複数積層させてなるシール体12と、シール体12の高圧側に沿うようにステータから径方向内側に向かって延出するとともに周方向に複数分割された高圧側側板16とを備え、高圧側側板16における高圧側領域を向く面の一部に軸線方向の剛性を付与する剛性付与手段30を備えること特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータとステータとの間の環状空間を封止して、この環状空間を低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置及びこれを備える回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン、蒸気タービン等の回転機械におけるロータの周囲には、高圧側から低圧側に流れる作動流体の漏れ量を少なくするために、軸シール装置が設けられている。この軸シール装置の一例として、例えば、以下の特許文献1に記載された軸シール装置が知られている。
【0003】
この軸シール装置は、ステータに設けられたハウジングと、多数の薄板シール片からなるシール体とを備えている。
シール体は、多数の薄板シール片がそれぞれの厚さ方向をロータの周方向に向け、互いに微小間隙をあけて積層されている。各薄板シール片は、その径方向内側の端部(先端)がその径方向外側の端部(後端)よりもロータの回転方向前方側に位置するよう傾斜して配置され、後端が相互に連結されるとともに、先端が自由端とされている。
【0004】
このように概略構成される軸シール装置においては、ロータが静止している際には各薄板シール片の先端がロータと接触している。そして、ロータが回転すると該ロータの回転によって生じる動圧効果により、薄板シール片の先端がロータの外周から浮上してロータと非接触状態となる。このため、この軸シール装置では、各薄板シール片の磨耗が抑制され、シール寿命が長くなる。
【0005】
また、上記機構においては、シール体の流体低圧領域側の軸方向一端部を低圧側サイドシール板で覆うと共に、シール体の流体高圧領域側の軸方向他端部を高圧側サイドシール板で覆っている。そして、これら低圧側側板と高圧側側板とにより、薄板シール片の微小隙間への作動流体の流れを規制している。
【0006】
ここで、低圧側側板及び高圧側側板は、通常、周方向に複数に分割されるとともに、互いに分割隙間を有して配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3616016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、回転機械においては回転方向に旋回流が発生することがある。このような旋回流の速度の速い箇所に、上述した軸シール装置を適用すると、流体高圧領域側の旋回流及び高圧側側板・低圧側側板の分割部分近傍における不均一な流れにより、高圧側側板に圧力変動が生じ、高圧側側板にフラッタリングが生じる場合があった。
この場合、例えば、高圧側側板の分割部近傍をはじめとする箇所で、該高圧側側板が損傷を受けるおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、フラッタリングを防止することができる軸シール装置及びこれを備える回転機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る軸シール装置は、ロータと該ロータの外周側を囲うステータとの間の環状空間に設けられ、該環状空間を前記ロータの軸線方向において低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置であって、前記ステータから前記ロータの径方向内側に向かって延出する薄板シール片を前記ロータの周方向に複数積層させてなるシール体と、該シール体の高圧側に沿うように前記ステータから前記径方向内側に向かって延出するとともに前記周方向に複数分割された高圧側側板とを備え、該高圧側側板における前記高圧側領域を向く面の一部に前記軸線方向の剛性を付与する剛性付与手段を備えることを特徴とする。
【0011】
このような軸シール装置では、高圧側側板に剛性付与手段が設けられているため、該高圧側側板の厚み方向の剛性を強化することができる。これによって、振動に対する強度が増加し、フラッタリングを防止することができる。
また、剛性付与手段は、高圧側側板の一部に設けられているだけであるため、高圧側側板の剛性が過度に強化されることはない。よって、高圧側側板は剛性が強化されたとは言えども、シール体の形状変化に対応することができる程度の柔軟性を残しているため、該高圧側側板をシール体の側面に接触、追従させることができる。
【0012】
また、本発明に係る軸シール装置は、前記剛性付与手段は、前記高圧側側板における前記高圧側領域を向く面に積層されるように前記ステータから前記径方向内側に向かって延出するとともに、該延出長が前記高圧側側板よりも短く設定された支持板部であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、支持板部により、高圧側側板の剛性を確実に強化することができる。
また、高圧側側板の径方向内側部分には支持板部が設けられていないため、該高圧側側板の径方向内側部分の柔軟性を確保し、当該部分をシール体に確実に追従させることができる。
【0014】
さらに、本発明に係る軸シール装置は、前記支持板部は、前記軸線方向に積層された複数の板片からなり、該複数の板片は前記高圧側領域に配置されるほど前記延出長が短く設定されていることが好ましい。
【0015】
これにより、径方向内側から径方向外側に向かって段階的に剛性を強化できるとともに、径方向外側から径方向内側に向かって段階的にシール体への追従性を確保することができる。
【0016】
また、本発明に係る軸シール装置は、前記剛性付与手段は、前記高圧側側板における前記高圧側領域を向く面に、周方向に間隔をあけて複数設けられたリブであってもよい。
【0017】
この構成によれば、高圧側側板はリブにより補強され、その剛性を確実に強化することができる。
また、リブが設けられていない箇所では柔軟性を確保できるため、シール体に確実に追従させることができる。
【0018】
さらに、本発明に係る軸シール装置は、前記薄板シール片は、前記径方向内側に向かうにしたがって前記ロータの回転方向前方側に向かって延在し、前記リブは、前記径方向内側に向かうにしたがって前記回転方向前方側に向かって延出することが好ましい。
【0019】
これにより、高圧側側板の全域にわたってリブを設けることができるため、該高圧側側板の剛性を全域にわたって強化することができる。
【0020】
また、本発明に係る軸シール装置は、前記剛性付与手段は、前記高圧側側板の一部を前記高圧側領域側から低圧側領域側に向かって押圧する弾性部材であってもよい。
【0021】
この構成によれば、弾性部材が高圧側側板をシール体の方に向かって押圧することにより、高圧側側板に剛性を付与することができ、ロータが回転した場合における高圧側側板の振動を抑制することができる。
【0022】
さらに、本発明に係る軸シール装置は、前記剛性付与手段の前記高圧側領域側に、前記径方向に延びるとともに周方向に間隔をあけて複数が設けられて、それぞれ前記周方向に流通する流体を抑制するフィンであってもよい。
【0023】
この構成によれば、フィンにより、高圧側領域における旋回流を低減することができるとともに、不均一な流れを抑制できるため、高圧側側板のフラッタリングを確実に防止することができる。
【0024】
また、本発明に係る回転機械は、上記のうちのいずれか一に記載の軸シール装置を備えることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、上記のうちのいずれか一に記載の軸シール装置を備えるため、高圧側側板をシール体に追従させるとともに、該高圧側側板の剛性を強化し、フラッタリングを防止可能な回転機械にすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る軸シール装置及びこれを備える回転機械によれば、剛性付与手段によって高圧側側板の剛性を強化しつつも該高圧側側板のシール体への追従性を確保することができるため、フラッタリングを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るガスタービン(回転機械)の概略全体構成図である。
【図2】図1におけるS1−S1線断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る軸シール装置を、図2におけるS2−S2線断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る軸シール装置を軸方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係る軸シール装置の高圧側側板を軸方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係る軸シール装置の径方向内側から径方向外側に見た概略図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る軸シール装置を、図2におけるS2−S2線断面図である。
【図8】本発明の第二実施形態に係る軸シール装置の高圧側側板を軸方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図9】本発明の第二実施形態に係る軸シール装置の径方向内側から径方向外側に見た概略図である。
【図10】本発明の第三実施形態に係る軸シール装置を、図2におけるS2−S2線断面図である。
【図11】本発明の第三実施形態に係る軸シール装置の高圧側側板を軸方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図12】本発明の第三実施形態に係る軸シール装置の径方向内側から径方向外側に見た概略図である。
【図13】本発明の第三実施形態の変形例に係る軸シール装置の高圧側側板を軸方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図14】本発明の第四実施形態に係る軸シール装置の径方向内側から径方向外側に見た概略図である。
【図15】本発明の第四実施形態に係る軸シール装置を、図2におけるS2−S2線断面図である。
【図16】本発明の第四実施形態に係る軸シール装置の高圧側側板を軸方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図17】本発明の第四実施形態に係る軸シール装置の径方向内側から径方向外側に見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第一実施形態)
以下、図面を参照し、本発明の第一実施形態に係る回転機械について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るガスタービン(回転機械)1の概略全体構成図である。
ガスタービン1は、図1に示すように、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する圧縮機(回転機械)2と、この圧縮機2にて圧縮された圧縮空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器3と、燃焼器3から導入された燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するガスタービン(回転機械)4とを備えている。
【0029】
圧縮機2及びタービン4は、それぞれ一体回転するように連結されたロータ2A,4Aと、ロータ2A,4Aの外周側を囲うステータ2B,4Bとを備えている。なお、以下の説明においては、特に言及しない限り、ロータ2A,4Aの軸線O方向を単に「軸線O方向」と、ロータ2A,4Aの周方向を単に「周方向」と、ロータ2A,4Aの径方向を単に「径方向」という。
【0030】
ロータ2A,4Aは、回転軸6c,6と、軸線O方向に間隔を空けて固定されている複数の環状動翼群7c,7と、を有している。各環状動翼群7c,7は、回転軸6c,6の外周に、周方向に互いの間隔を空けて固定されている複数の動翼を有して構成されている。
【0031】
ステータ2B,4Bは、それぞれケーシング2b,4bと、ケーシング2b,4b内において軸線O方向に間隔をあけて固定された複数の環状静翼群5c,5とを備えている。環状静翼群5c,5は、各ケーシング2b,4b内面に、周方向に互いの間隔をあけて固定されている複数の静翼を有している。各静翼の先端には、ハブシュラウドが形成されており、このハブシュラウド(ステータ)が周方向に連結されて全体として円環状になって回転軸6c,6の外周を囲んでいる。
この環状静翼群5c,5は、それぞれ、複数の環状動翼群7c,7と、軸線O方向に交互に配置されている。
【0032】
圧縮機2及びタービン4には、高圧側から低圧側に作動流体(圧縮空気又は燃焼ガス)gが軸線O方向に漏出するのを防止するため、図1に示すように、各環状静翼群5c,5のハブシュラウドに軸シール装置10c,10が設けられている。また、ケーシング2b,4bが回転軸6c,6を支持する軸受け部(ステータ)2c,4cにおいても、作動流体gが高圧側から低圧側に漏出するのを防止するため、軸シール装置10c,10が設けられている。
【0033】
以下、タービン4の軸シール装置10の実施形態について説明する。なお、以下では、タービン4の軸シール装置10について説明するが、圧縮機2の軸シール装置10cも、基本的に同様の構成なので、この説明を省略する。
【0034】
図2は図1におけるS1−S1線断面図であり、図3は図2におけるS2−S2線断面図である。
図2に示すように、タービン4の軸シール装置10は、環状静翼群5のハブシュラウドと軸受け部4cの内周面とにそれぞれ支持された環状空間であるハウジング9内に、円弧状に延びるシールセグメント11が、周方向に複数(本実施形態では8つ)配置されることで構成されている。シールセグメント11は、径方向外側から径方向内側に向かうにしたがって、回転方向前方側に向かうように分割されている。
【0035】
ハウジング9は、回転軸6の外周に沿って周方向全周に延びており(図3参照)、円環状の収容空間9aが形成されている。図3に示すように、ハウジング9の収容空間9aは、その開口側、すなわち径方向内側の部分が、幅寸法(軸線O方向の寸法)が小さく形成された内方側空間9bとされている。また、収容空間9aの開口から径方向外側に離間した空間、すなわち内方側空間9bよりも径方向外側の空間が、幅寸法が大きく形成された外方側空間9cとされている。これら内方側空間9bと外方側空間9cとは互いに連通状態とされている。そして、この内方側空間9bの開放部9dが径方向内側の回転軸6に向いている。
【0036】
シールセグメント11は、図3に示すように、多数の薄板シール片20からなるシール体12(図4参照)と、断面U字状をなして多数の薄板シール片20を保持する保持リング13,14と、シール体12を軸線O方向から挟むように設けられた高圧側側板16及び低圧側側板17と、剛性付与手段30とから構成されている。
【0037】
図4は、シールセグメント11を軸線O方向一方側から他方側に見た概略図である。
シール体12は、図4に示すように、薄板状の薄板シール片20が多数積層されてなり(図2参照)、これら多数の薄板シール片20の径方向外側の端部、すなわち薄板シール片20の後端20a側が互いに連結されている。図2に示すように、多数の薄板シール片20は、径方向外側から径方向内側に向かうにしたがって、回転方向前方に向かうようにして配設されている。
また、薄板シール片20は、主に薄い鋼板によって形成された部材であり、図3に示すように、回転軸6の周方向から見てT字状に形成され、その幅方向を回転軸6の軸線O方向に向けて配置されている。換言すれば、薄板シール片20は、その厚さ方向を回転軸6の周方向に向けて配置されている。
【0038】
薄板シール片20は、頭部21と、該頭部21よりも幅寸法及び厚さ寸法が小さく形成されている胴部23と、頭部21と胴部23との間に位置して、これらよりも幅寸法が小さく形成されている首部22とを有している。該薄板シール片20は、回転軸6の径方向外側から径方向内側に向かって、頭部21、首部22、胴部23の順に連続するように形成されている。
【0039】
多数の薄板シール片20は、それぞれの頭部21が互いに溶接されて、相互に連結されている。また、多数の薄板シール片20の胴部23は、弾性変形可能とされており、それぞれの胴部23の径方向内側の端部、つまり当該薄板シール片20の先端20bが自由端とされている。そして、回転軸6の停止時においては、各薄板シール片20の先端20b側が回転軸6に所定の予圧で接触するようになっている。
【0040】
多数の薄板シール片20は、図4に示すように、互いに周方向に微小間隙sを空けて配列されている。多数の薄板シール片20は、頭部21の厚さ寸法を首部22及び胴部23の厚さ寸法よりも大きくすることにより、それぞれの厚さ方向で相互に隣接する二つの薄板シール片20の胴部23間に微小間隙sを形成する。
【0041】
このような多数の薄板シール片20からなるシール体12は、各薄板シール片20の胴部23の側端部20cが多数集合して小口状となった高圧側端部(他端部)12cが流体高圧領域(軸方向他方側)に向けられ、胴部23の側端部20dが多数集合して小口状となった低圧側端部12dが流体低圧領域(軸方向一方側)に向けられている。
【0042】
保持リング13,14は、回転軸6の周方向に延びる部材であって、いずれも軸線Oを含む断面においてU字状をなしている。薄板シール片20の頭部21の高圧側の部分は、保持リング13の溝部内に嵌入され、薄板シール片20の頭部21の低圧側の部分は、保持リング14の溝部内に嵌入されている。これにより、多数の薄板シール片20の頭部21は、保持リング13,14により保持されている。
【0043】
高圧側側板16は、図2に示すように、厚さ方向を軸線O方向に向けて、回転軸6の軸線O方向から見た形状が円弧帯状をなしている。また、該高圧側側板16は、周方向に複数(本実施形態では、8つ)に、径方向外側から径方向内側に向かうにしたがって、回転方向前方側に向かうように分割されている。また、分割された高圧側側板片16pは、それぞれ隣接する高圧側側板片16pとの間に間隙を有して配設されている。
また、図3に示すように、高圧側側板16は、径方向外側の端部のベース部16aと、該ベース部16aから径方向内側に向かって延びるシール板部16bとを有している。
【0044】
高圧側側板16のベース部16aは、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の高圧側の凹みに入り込んだ状態で、保持リング13によって径方向へ脱落しないように保持されている。また、ベース部16aは、その厚さ(軸線O方向寸法)がシール板部16bの厚さ(軸線O方向寸法)よりも厚く、シール板部16bを基準にして軸線O方向に突出している。
【0045】
高圧側側板16のシール板部16bは、その径方向外側の端部をベース部16aの径方向外側の端部と揃えるとともに、該ベース部16aの流体高圧領域を向く面に積層されるようにして、径方向内側に向って延在している。また、シール板部16bの端部、すなわちシール板部16bの先端は、収容空間9aの径方向内側の開放部9dまで延在している。これによって、収容空間9aから径方向内側に向かって延出する薄板シール片20の先端20bは、高圧側側板16の先端よりも径方向内側に延出している。
【0046】
剛性付与手段30は、高圧側側板16における流体高圧領域を向く面に積層されてように配置されており、高圧側側板16の一部に軸線O方向の剛性を付与する。また、剛性付与手段30は、本実施形態では支持板部30aで構成されている。支持板部30aは、シール板部16bの流体高圧領域を向く面に積層された第一板片16cと、該第一板片16cの流体高圧領域を向く面に積層された第二板片16dとを有している。
【0047】
図3、図5及び図6に示すように、第一板片16cは、その径方向外側の端部をシール板部16bの径方向外側の端部と揃えるとともに、該シール板部16bの流体高圧領域を向く面に積層されるようにして、径方向内側に向って延在している。また、第一板片16cの径方向寸法(延出長)は、シール板部16bの径方向寸法(延出長)よりも短くなっている。換言すると、第一板片16cの端部、すなわち第一板片16cの先端は、シール板部16bの先端よりも径方向外側に延出している。
【0048】
第二板片16dは、その径方向外側の端部を第一板片16cの径方向外側の端部と揃えるとともに、該第一板片16cの流体高圧領域を向く面に積層されるようにして、径方向内側に向って延在している。また、第二板片16dの径方向寸法(延出長)は、第一板片16cの径方向寸法(延出長)よりも短くなっている。換言すると、第二板片16dの端部、すなわち第二板片16dの先端は、第一板片16cの先端よりも径方向外側に延出している。
このように、シール板部16b、第一板片16c、第二板片16dのそれぞれの径方向寸法(延出長)は、この順に短くなるようにして形成されている。換言すると、支持板部30aは、高圧側側板16よりも径方向長さを短くしている。
また、第一板片16cの径方向寸法(延出長)は、シール板部16bの径方向寸法(延出長)の約2/3で形成されている。
また、ベース部16a、シール板部16b、第一板片16c及び第二板片16dは、径方向外側において例えばスポット溶接等により固定されている。一方、径方向内側においては自由端としてされている。
なお、上記寸法は一例であり、当該数字に限定されるものではない。
【0049】
一方、低圧側側板17は、厚さ方向を軸線O方向に向け、回転軸6の軸線O方向から見た形状が円弧帯状をなしている。また、低圧側側板17は、径方向外側の端部のベース部17aと、該ベース部17aから径方向内側に向かって延びるシール板部17bとを有している。
【0050】
低圧側側板17のベース部17aは、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の低圧側の凹みに入り込んだ状態で、保持リング14によって低圧側から押圧されている。また、ベース部17aは、その厚さ(軸線O方向寸法)がシール板部17bの厚さよりも厚く、シール板部17bを基準にして軸線O方向に突出している。
【0051】
低圧側側板17のシール板部17bは、その径方向外側の端部をベース部17aの径方向外側の端部と揃えるとともに、該ベース部16aの流体高圧領域を向く面に積層されるようにして、径方向内側に向って延在している。また、シール板部17bの端部、すなわちシール板部17bの先端は、収容空間9aの径方向内側の開放部9dよりも径方向内側まで延在している。また、シール板部17bの径方向寸法は、シール板部16bの径方向寸法よりも短くなっている。
また、ベース部17a及びシール板部17bは、径方向外側において例えばスポット溶接等により固定されている。
【0052】
このシールセグメント11は、図3に示すように、ハウジング9の収容空間9aに遊びをもって収容されている。
より具体的には、薄板シール片20の頭部21を保持した保持リング13,14が収容空間9aの外方側空間9cに収容されており、高圧側側板16及び低圧側側板17と、薄板シール片20の胴部23とが収容空間9aの内方側空間9bに収容されている。そして、収容空間9aの開口から回転軸6に向けて胴部23の先端、すなわち薄板シール片20の先端20bが突出している。
【0053】
このシールセグメント11は、保持リング13,14がハウジング9の外方側空間9cの内壁面に干渉して径方向の変位が制限されているとともに、高圧側側板16及び低圧側側板17がハウジング9の内方側空間9bの内壁面に干渉して軸線O方向の変位が所定の範囲に制限されている。なお、このシールセグメント11は、外方側空間9cに配設された弾性体(不図示)によって径方向内側に付勢されている。
【0054】
上述したシールセグメント11は、ガスタービン1を稼働させると、燃焼ガスgの圧力によって流体低圧領域側に変位して、図3に示すように、低圧側側板17の板面17dが軸線O方向に対向するハウジング9(内方側空間9b)の内壁面9eに押し付けられる。
【0055】
次に、このように構成された軸シール装置10における、燃焼ガスgの流れ及び作用について説明する。
ガスタービン1が停止状態から起動されると、低圧側領域と高圧側領域との圧力差が大きくなっていき、これに比例してシールセグメント11が低圧側領域に向けて燃焼ガスgに押圧される。この際、高圧側領域から低圧側領域に流れる燃焼ガスgは、シール体12の薄板シール片20の微小間隙sを通過する。
そして、流体低圧側領域と流体高圧側領域との圧力差が所定値以上に大きくなると、燃焼ガスgがシール体12及び低圧側側板17を全体的に押圧することで、該低圧側側板17の低圧側を向く板面17dが内壁面9eに対して密着する。
また、流体高圧領域では、燃焼ガスgが高圧側側板16をシール体12に向かって全体的に押圧する。
【0056】
このように構成された軸シール装置10では、支持板部30aがシール板部16bにおける流体高圧領域を向く面に設けられているため、高圧側側板16の剛性を確実に強化することができる。これによって、ガスタービン1が回転した場合に、高圧側側板16に振動が生じても、該振動に抗することができる程に強度が強化される。また、高圧側側板16は剛性が高いためフラッタリングが防止することができ、軸シール装置10は破壊される虞がない。
また、支持板部30aの径方向寸法は、シール板部16bの径方向寸法よりも短くなっているため、高圧側側板16の剛性は過度に強化されることはなく、支持板部30aの径方向内側は自由端とされている。よって、ガスタービン1が回転した場合に、薄板シール片20の自由端側である先端20bが形状変化しても、該薄板シール片20に対応することができる程度の柔軟性は残しているため、高圧側側板16を薄板シール片20に確実に追従させることができる。
【0057】
さらに、支持板部30aの第二板片16dの径方向寸法の方が、第一板片16cの径方向寸法よりも短くなっているため、径方向内側から径方向外側に向かって、高圧側側板16の剛性を段階的に強化することができる。さらに、径方向外側から径方向内側に向かって、薄板シール片20への追従性を段階的に確保することができる。これにより、剛性の強化及び追従性の確保を、より柔軟に実現することができる。
【0058】
また、支持板部30aを高圧側側板16に取り付けるだけの簡易な構成であるため、容易に製造することができる。
【0059】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態に係る回転機械について、図7から図9を用いて説明する。
この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
第一実施形態における軸シール装置10では、剛性付与手段30は、支持板部30aで構成されていたのに対して、本実施形態の軸シール装置10hでは、剛性付与手段30は、リブ30bで構成されている。
【0061】
リブ30bは、シール板部16bの流体高圧領域を向く面に、周方向に間隙をあけて複数設けられている。
複数のリブ30bは、それぞれシール板部16bの径方向外側から径方向内側に向かうにしたがって、回転方向前方に向かうようにして配設されている。また、リブ30bは、その径方向外側の端部をシール板部16bの径方向外側の端部と揃え、その径方向内側の端部をシール板部16bの径方向内側の端部と揃えている。
ここで、シール板部16bにリブ30bを設ける方法としては、エッチングによりシール板部16bの流体高圧領域を向く面に表面加工を施して凹凸を設ける方法が採用される。または、シール板部16bとリブ30bとを別部材として、シール板部16bの流体高圧領域を向く面にリブ30bを熱圧着又は溶接にて固定する方法であってもよい。
【0062】
このように構成された軸シール装置10hでは、リブ30bはシール板部16bの流体高圧領域を向く面の径方向外側から径方向内側の全域にわたって、周方向に間隙をあけて複数設けられているため、高圧側側板16の剛性を全域にわたって強化することができる。
また、リブ30bが設けられていない箇所では柔軟性を確保できるため、高圧側側板16を全域にわたって薄板シール片20に追従させることができる。
【0063】
また、流体高圧側領域側に突出しているリブ30bは、周方向に発生する旋回流に直交する軸線O方向に設けられているため、ガスタービン1が回転した場合に生じる旋回流の構成成分を低減し、不均一な流れを抑制することができる。よって、高圧側側板16のフラッタリングを確実に防止することができる。
【0064】
また、高圧側側板16の分割部分の回転方向前方側では、径方向外側から径方向内側に向かうにしたがって、回転方向前方へ向かうように突出した形状となっている。ここで、リブ30bは、薄板シール片20と同様に、シール板部16bの径方向外側から径方向内側に向かうにしたがって、回転方向前方に向かうようにして配設されている。よって、高圧側側板16の全域にわたってリブ30bを設けることができるため、該高圧側側板の剛性を全域にわたって強化することができる。
【0065】
(第三実施形態)
以下、本発明の第三実施形態に係る回転機械について、図10から図12を用いて説明する。
この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0066】
第一実施形態における軸シール装置10では、剛性付与手段30は、支持板部30aで構成されていたのに対して、本実施形態の軸シール装置10jでは、剛性付与手段30は、弾性部材30cで構成されている。
また、ハウジング9の流体高圧領域側に形成された内壁には凹部9jが設けられている。
【0067】
弾性部材30cは、軸線O方向一方側、軸線O方向他方側に交互に屈曲した板状の部材であり、シール板部16bの流体高圧領域側に該シール板部16bとの間に押さえ部材16lを介在させて配設されている。弾性部材30cは、シール板部16bの一部を流体高圧領域側から流体低圧領域側に向かって押圧している。また、弾性部材30cは、その屈曲した一方側がハウジング9の凹部9jの流体高圧領域側の内壁に支持され、屈曲した他方側が押さえ部材16lに支持されている。ここで、弾性部材30cは、例えばバネであり、押さえ部材16lに対して、流体高圧領域側から流体低圧領域側に向かって付勢している。
押さえ部材16lは、円弧状の部材であり、シール板部16bの高圧側領域側に設けられている。また、押さえ部材16lは弾性部材30cに付勢されることにより、該弾性部材30cの付勢力をシール板部16bに対して伝達し、該シール板部16bを薄板シール片20に押圧している。
【0068】
ハウジング9の凹部9jは、ハウジング9の内方側空間9bに面する流体高圧側領域の内壁面9kに設けられ、軸線O方向に形成された凹形状であり、その内部に弾性部材30cを配設している。
【0069】
このように構成された軸シール装置10jでは、弾性部材30cは押さえ部材16lを介在させて、該シール板部16bを流体高圧領域側から流体低圧領域側に押圧している。よって、薄板シール片20が形状変化しても、高圧側側板16を薄板シール片20に確実に追従させることができるとともに、該高圧側側板16の振動を抑制することができる。したがって、フラッタリングを確実に防止することができる。
また、押さえ部材16lを介在させることで、押さえ部材16lの付勢力を高圧側側板16の全域にわたって伝達することがきるため、高圧側側板16を薄板シール片20の全域にわたって追従させることができる。
【0070】
(第三実施形態の変形例)
第三実施形態の変形例として、弾性部材と押さえ部材とを一体として設けてもよい。すなわち、図13及び図14に示すように、剛性付与手段30は、シール板部16bを流体高圧領域側から流体低圧領域側に向かって押圧する弾性部材30dで構成されている。
【0071】
弾性部材30dは、弾性変形可能な弾性本体16sと、該弾性本体16sと一体となった押さえ部材16oとを有している。
弾性本体16sは、軸線O方向からみて略矩形の部材であり、一辺が押さえ部材16oに固着されて、対向する一辺が凹部9jの高圧領域側内壁に支持されている。ここで、弾性本体16sは、凹部9jの高圧領域側内壁から加圧されて力を伝達させて、押さえ部材16oに対して、流体高圧領域側から流体低圧領域側に向かって付勢している。
【0072】
押さえ部材16oは、シール板部16bの高圧側領域側に設けられた、円弧状の部材である。また、押さえ部材16oは、弾性本体16sに付勢されることにより、該弾性本体16sの付勢力をシール板部16bに対して伝達し、該シール板部16bを薄板シール片20に押圧している。
なお、弾性本体16sと押さえ部材16oとは、例えばプレス加工により一体成形で形成されている。
【0073】
このように構成された軸シール装置では、弾性本体16sは押さえ部材16oと一体として構成されているため、高圧側側板16に対して付勢力を確実に加えることができため、追従性を確実に確保することができる。
また、弾性部材30dのシール板部16bへの取り付けが簡易であるとともに、回転機械による振動等により弾性本体16sが押さえ部材16oからはずれてしまう虞がない。
【0074】
(第四実施形態)
以下、本発明の第四実施形態に係る回転機械について、図15から図17を用いて説明する。
この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0075】
軸シール装置10vは、第一実施形態の構成に加えて、ハウジング9の流体高圧領域側の内壁面9kであって、高圧側側板16と対抗する面に複数設けられたフィン16wを有している。
複数のフィン16wは、ハウジング9の流体高圧領域側の内壁面9kから流体低圧領域側に突出して設けられ、径方向に延びるとともに、周方向に間隔をあけて設けられている。
【0076】
このように構成された軸シール装置10vでは、流体高圧領域側における周方向に流通する流体である旋回流を低減することができるとともに、不均一な流れを抑制することができるため、高圧側側板16のフラッタリングをより一層確実に防止することができる。
【0077】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0078】
例えば、剛性付与手段30は、高圧側側板片16pの端部近傍、すなわち高圧側側板16の周方向の分割部分近傍にのみ設けられることとしてもよい。この場合は、旋回流と、該分割部分近傍における流れとにより不均一な流れが生じた場合でも、高圧側側板16のフラッタリングを確実に防止することができる。
【0079】
また、第一実施形態における支持板部30aは、第一板片16c及び第二板片16dの2部品で構成されているが、第一板片16c及び第二板片16dを一体として1部品してもよい。あるいは、第二板片16dを設けない構成、シール板部16bと支持板部30aとを一体化した1部品とした構成としてもよい。これにより、軸シール装置10の部品点数を抑えることができ、部品管理が低減される。
一方、支持板部30aを第一板片16c及び第二板片16dの2部品のみならず、さらに多くの板片から構成されるとしてもよい。これにより、高圧側側板16の剛性を強化する位置、追従性を向上させる位置に対して、より柔軟に対応することができる。
【0080】
また、第四実施形態では、第一実施形態の構成に加えてフィンを備えているが、第二実施形態または第三実施形態の構成に加えてフィンを備えるものとしてもよい。
【0081】
また、第四実施形態で、フィンを、径方向外側から径方向内側に向かうにしたがって、回転方向後方に向かうようにして設けてもよい。この構成では、フィンが旋回流と交差する方向に設けられることにより、旋回流の流速をより確実に抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
1…ガスタービン(回転機械)
4A…ロータ
4B…ステータ
9…環状空間
10、10c、10h、10j、10v…軸シール装置
12…シール体
20…薄板シール片
16…高圧側側板
16c…第一板片(板片)
16d…第二板片(板片)
30…剛性付与手段
30a…支持板部
30b…リブ
30c、30d…弾性部材
16w…フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと該ロータの外周側を囲うステータとの間の環状空間に設けられ、該環状空間を前記ロータの軸線方向において低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置であって、
前記ステータから前記ロータの径方向内側に向かって延出する薄板シール片を前記ロータの周方向に複数積層させてなるシール体と、
該シール体の高圧側に沿うように前記ステータから前記径方向内側に向かって延出するとともに前記周方向に複数分割された高圧側側板とを備え、
該高圧側側板における前記高圧側領域を向く面の一部に前記軸線方向の剛性を付与する剛性付与手段を備えることを特徴とする軸シール装置。
【請求項2】
前記剛性付与手段は、
前記高圧側側板における前記高圧側領域を向く面に積層されるように前記ステータから前記径方向内側に向かって延出するとともに、該延出長が前記高圧側側板よりも短く設定された支持板部であることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項3】
前記支持板部は、前記軸線方向に積層された複数の板片からなり、該複数の板片は前記高圧側領域に配置されるほど前記延出長が短く設定されていることを特徴とする請求項2に記載の軸シール装置。
【請求項4】
前記剛性付与手段は、
前記高圧側側板における前記高圧側領域を向く面に、周方向に間隔をあけて複数設けられたリブであることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項5】
前記薄板シール片は、前記径方向内側に向かうにしたがって前記ロータの回転方向前方側に向かって延在し、
前記リブは、前記径方向内側に向かうにしたがって前記回転方向前方側に向かって延出することを特徴とする請求項4に記載の軸シール装置。
【請求項6】
前記剛性付与手段は、前記高圧側側板の一部を前記高圧側領域側から低圧側領域側に向かって押圧する弾性部材であることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項7】
前記剛性付与手段の前記高圧側領域側に、前記径方向に延びるとともに周方向に間隔をあけて複数が設けられて、それぞれ前記周方向に流通する流体を抑制するフィンを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の軸シール装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の軸シール装置を備えることを特徴とする回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−92205(P2013−92205A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234825(P2011−234825)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】