説明

軸受装置特に自動車用車輪軸受装置及び軸受装置の製造方法

本発明は、軸受装置特に自動車用車輪軸受装置に関し、車輪側取付けフランジ(3)を有するボス(2)を持ち、このボス(2)に、少なくとも1つの内レース(7)及び外レース(8)を持つアンギュラコンタクト転がり軸受(6)が設けられている。軸受装置(1)を安価に製造しかつ作動させることができるようにするため、例えば公知の転がり鋲締め装置におけるような変形及び応力を回避するため、ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)が、少なくとも内レース(7)をボス(2)に締付けるフランジ環(11)と物質適合で結合されている。
本発明は、更に軸受装置(1)特に自動車用車輪軸受装置の製造方法に関し、軸受装置(1)が、車輪側取付けフランジ(3)を有するボス(2)を持ち、このボス(2)に、少なくとも1つの内レース(7)及び外レース(8)を持つアンギュラコンタクト転がり軸受(6)が、軸受装置(1)特に軸受装置(1)の内レース(7)及び/又はボス(2)に締付け力を及ぼす装置(13)により設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置特に自動車用車輪軸受装置であって、車輪側取付けフランジを有するボスをもち、このボスに、少なくとも1つの内レース及び外レースを持つアンギュラコンタクト転がり軸受が設けられているものに関する。更に本発明は、軸受装置に締付け力を及ぼす装置によりこのような軸受装置を組立てる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪軸受は、特に自動車のシャシにある車輪懸架装置用の大きく荷重をかけられる部分であり、異なる作動荷重に耐えねばならない。
【0003】
複合体としての車輪軸受の重要な構成要素はその内レースであり、熱処理及び切削後に適当な大きさの締付け力(軸受の大きさに応じて50kN〜120kN)で軸線方向に固定される。
【0004】
このように大きい軸線方向締付け力を設定する公知の装置及び方法は、車輪フランジと鐘状継手との締付け、車輪フランジ上のナット、又は転がり鋲過程により形成される転がり鋲フランジである。
【0005】
このような転がり鋲フランジは、転がり鋲締めによる冷間変形により車輪軸受のボス端部に形成され、その際内レースをボスに固定するため外方へ湾曲する隆起が形成される。
【0006】
ドイツ連邦共和国特許第4339847号明細書は、ボス及びアンギュラコンタクト転がり軸受から成る自動車用の最初にあげた種類の車輪軸受装置を示し、少なくとも1つの内レースが、転がり鋲締め機において転がり鋲締めによる塑性冷間変形によりボス端部に形成される隆起によって、軸線方向に固定されている。
【0007】
隆起は、断面で見て、外周の方へ延びかつ内レースに対し傾斜している湾曲部を持っている。内レース締付け力を発生するため、最初は変形されない隆起の突出の程度、内レース縁短縮寸法、軸線方向隆起外形用の工具輪郭、及び転がり鋲締め力が重要である。従って狭い公差及び精確な寸法が必要である。
【0008】
適当に大きい締付け力のため転がり鋲フランジの形成は、必然的に転がり鋲側内レースの付加的な半径方向拡張を伴う。即ち転がり鋲締め力と半径方向拡張との間に直接の関係がある。
【0009】
厚くされる内レース断面及び縁短縮部又はフランジ頸部(隆起)の形成のような製品側手段は、半径方向内レースフランジ拡張の限られた減少しか可能にしない。従って部材の機能を保証するため、特別な熱処理、加工段階又は転がり鋲締め中における締まりばめのような付加的手段が必要であり、それにより設計又はプロセスを高価にする。
【0010】
少なくとも1つの内レースを軸線方向に固定するためこのように湾曲した(転がり鋲)隆起を形成するため、ドイツ連邦共和国特許第19613442号明細書から、複数の個別部分から成る転がり軸受装置特に自動車用車輪軸受装置の製造方法が公知であり、1つの軸受レースが軸の肩部へ締付けられるか、又は2つの並んで設けられる軸受レースが互いに締付けられ、冷間変形される隆起又はフランジによりまとめられる。
【0011】
このため軸受レースをボス上へ押しはめる際、軸線方向内レースストッパ面に当てる際、及び隆起の冷間変形の際、電子測定装置により力−変位推移が求められ、所定の値と比較される。所定の力−変位推移に対して偏差があると、この偏差が制御量として、力を制御される変形機械例えば揺動プレスへ導入される。
【0012】
この方法は実現するのに非常に費用がかかる。なぜならば、この方法は電子部品を伴って技術的な監視サイクルを必要とするからである。更に冷間変形により隆起の変形が起こり、それにより応力が生じ、この応力を除去するため、一般に付加的な製造技術的な作業を必要にするからである。更に変形量の大きい分散のため、このような転がり鋲締め装置は、必要な締付け力に関して大きいばらつきがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の基礎になっている課題は、精確で少ない分散を持つ締付け力を発生し、公知の転がり鋲締め装置におけるような拡張の問題例えば変形及び応力を回避し、安価に製造可能な、最初にあげた種類の軸受装置特に自動車用車輪軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の基礎になっている認識は、特に転がり鋲締め法及び転がり鋲締め装置による比較的小さい直径で大きい壁厚(壁厚と穴直径との日が0.2〜0.08)の冷間変形が、大抵の場合転がり鋲側内レースフランジにおける望ましくない付加的な半径方向変形又は応力を生じ、それにより軸受装置の機能及び信頼性が不利な影響を受けることである。
【0015】
従って本発明は、軸受装置特に自動車用車輪軸受装置であって、車輪側取付けフランジを有するボスを持ち、このボスに、少なくとも1つの内レース及び外レースを持つアンギュラコンタクト転がり軸受が設けられているものから出発する。本発明によれば、ボスの取付けフランジとは反対側の端部が、少なくとも内レースをボスに締付けるフランジ環と物質適合で結合されている。
【0016】
この構造によって、2つの部材により軸受装置のアンギュラコンタクト転がり軸受とボスとの物質適合での結合、即ちボスの取付けフランジとは反対側の端部とフランジ環との結合が行われる。
【0017】
それによりアンギュラコンタクト転がり軸受の少なくとも1つの内レースが、フランジ環により、フランジ環側内レースにおける付加的な半径方向変形及び/又は応力なしに、軸受装置のボスと結合される。
【0018】
本発明による解決策は、自動車用のすべての構造形式の車輪軸受、特に予め設定される内レース締付け力を持つようにする車輪軸受において、車輪軸受にそれ以上の変更又は超過費用を必要とすることなしに使用可能である。
【0019】
更に有利なように、ボスの取付けフランジとは反対側の端部が、フランジ環と溶接されている。ボスの取付けフランジとは反対側の端部が、フランジ環とレーザ溶接により結合されているのがよい。
【0020】
レーザ溶接法により、無接触で熱的にあまり負荷されず精確な溶接法が適用され、高い放射エネルギ及び良好な集束可能性で僅かな放射発散しか持たず、工具として摩耗を受けない。
【0021】
更に本発明は、軸受装置特に自動車用車輪軸受装置の製造方法であって、軸受装置が、車輪側取付けフランジを有するボスを持ち、このボスに、少なくとも1つの内レース及び外レースを持つアンギュラコンタクト転がり軸受が、軸受装置特に軸受装置の内レース及び/又はボスに締付け力を及ぼす装置により設けられているものから出発する。
【0022】
この方法において、アンギュラコンタクト転がり軸受をボス上にはめた後、ボスの取付けフランジとは反対側の端部にフランジ環が載せられる。続いて装置により、はね返り力成分特にボス及び/又はフランジ環のはね返り力成分に加えて締付け力が、軸受装置特に軸受装置の内レース及び/又はボスに及ぼされ、その間にフランジ環が、ボスの取付けフランジとは反対側の端部と物質適合で結合される。
【0023】
この方法により大量生産において締付け力の僅かなばらつきで精確かつ均一な締付け力が維持される。
【0024】
更に本発明は、アンギュラコンタクト転がり軸受用に2つの内レースが設けられている場合、2つの対称な同じ内レースの使用を可能にする。なぜならば、取付けフランジの側で強度の要求に従ってのみ幾何学的縁短縮を設定できるからである。
【0025】
同様に縁短縮の構成がボス端部に形成される隆起の変形特性に直接影響を及ぼす転がり鋲締め装置とは異なり、軸線方向締付け力のため曲げモーメントの減少のために、フランジ環側の縁短縮を非常に小さくすることもできる。
【0026】
更に本発明による方法は、一般に公知の転がり鋲締め装置において起こるように付加的な半径方向拡張の問題、例えば変形の大きいばらつきによる大きいばらつきの発生なしに、軸受装置又は少なくとも1つの内レースにおける任意の所定の締付け力を可能にする。
【0027】
更に精確に計量される押付け力により、締付け力の精確な維持が可能になる。はね返り力成分特にボス及び/又はフランジ環のはね返り成分(ボス及び/又はフランジ環のばね特性曲線は既知であり、それからはね返り成分を求めることができる)に加えて、使用される材料の変形又は材料の応力によっては妨げられない軸受装置への締付け力の作用が特に有利に行われる。
【0028】
更に結合過程の終了後、装置により及ぼされる締付け力が取消され、その際軸受装置特に内レースが、特にフランジ部分はずみ又はボスはね返り力成分及び/又はフランジ環はね返り力成分の値だけ、所望の軸受締付け力へ緩められる。
【0029】
本発明による方法の別の展開によれば、ボスの取付けフランジとは反対側の端部が、フランジ環と溶接される。ボスの取付けフランジとは反対側の端部が、フランジ環とレーザ溶接により結合されるのがよい。この場合レーザ溶接方法を使用すると、変形及び/又は歪みは生じない。
【0030】
本発明が実施例について図面により詳細に説明される。図は、本発明による方法によって組立てられた車輪軸受装置を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
車輪軸受装置1は車輪側取付けフランジ3を有するボス2を持ち、この取付けフランジ3に、結合素子4例えばボルトにより、図示しない摩擦体即ち制動円板及び車輪リムが取付けられる。
【0032】
駆動される車軸に対して通常であるように、ボス5は、内面歯5を介してその内部で相対回転しないように、駆動車軸と結合可能である。
【0033】
図示してないが駆動されない車軸のボスである場合、ボスは、内側にトルク伝達用の素子なしに、むくに又は切欠きを持つように構成される。
【0034】
この場合ボス2上に、2分割の内レース7及び1つの外レースを持つ2列アンギュラコンタクト転がり軸受6が設けられ、内レース7と外レース8との間に球状転動体9の2つの環が設けられている。
【0035】
ボス2の取付けフランジ3とは反対側の端部10は、フランジ環11と物質適合で結合され、即ち溶接なるべくレーザ溶接により、フランジ環11の12で示す内周において結合されているので、隣接する内レース7は予荷重力によりボス2に締付けられている。
【0036】
後述するように、この車輪軸受装置1の製造又は組立ては、概略的に示す装置13により加えられて車輪軸受装置1に作用する締付け力Fを使用して行われる。
【0037】
アンギュラコンタクト転がり軸受6をボス2上へ軸線方向に押しはめた後、ボス2の取付けフランジ3とは反対側の端部10上にフランジ環11がはめられる。続いて装置13により、ボス2(フランジ部分はずみ)及びフランジ環11のはね返り力成分に加えて、締付け力Fが内レース7へ及ぼされる。
【0038】
はね返り力成分は、例えば製造過程に先立って求めることができるボス2及びフランジ環11の既知のばね特性曲線から求められる。
【0039】
同時にフランジ環11は、ボス2の取付けフランジ3とは反対側の端部10と、溶接なるべくレーザ溶接により、物質適合でかつ付加的な半径方向拡張又は内レース7内の応力なしに結合される。
【0040】
溶接過程の終了後、装置13から内レース7へ及ぼされる締付け力Fが取消される。その際内レース7は、ボス2及びフランジ環11のはね返りの値だけ、所望の車輪軸受締付け力に緩められる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】 本発明による方法に従って組立てられた本発明による車輪軸受装置の断面図を示す。
【符号の説明】
1 車輪軸受装置
2 ボス
3 取付けフランジ
4 結合素子
5 内面歯
6 アンギュラコンタクト転がり軸受
7 内レース
8 外レース
9 転動体
10 ボス端部
11 フランジ環
12 溶接個所
13 装置
F 締付け力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受装置特に自動車用車輪軸受装置であって、車輪側取付けフランジ(3)を有するボス(2)を持ち、このボス(2)に、少なくとも1つの内レース(7)及び外レース(8)を持つアンギュラコンタクト転がり軸受(6)が設けられているものにおいて、ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)が、少なくとも内レース(7)をボス(2)に締付けるフランジ環(11)と物質適合で結合されていることを特徴とする、軸受装置。
【請求項2】
ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)が、フランジ環(11)と溶接されていることを特徴とする、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)が、フランジ環(11)とレーザ溶接により結合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の軸受装置。
【請求項4】
軸受装置(1)特に自動車用車輪軸受装置の製造方法であって、軸受装置(1)が、車輪側取付けフランジ(3)を有するボス(2)を持ち、このボス(2)に、少なくとも1つの内レース(7)及び外レース(8)を持つアンギュラコンタクト転がり軸受(6)が、軸受装置(1)特に軸受装置(1)の内レース(7)及び/又はボス(2)に締付け力を及ぼす装置(13)により設けられているものにおいて、アンギュラコンタクト転がり軸受(6)をボス(2)上にはめた後、ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)にフランジ環(11)が載せられ、続いて装置(13)により、はね返り力成分特にボス(2)及び/又はフランジ環(11)のはね返り力成分に加えて締付け力(F)が、軸受装置(1)特に軸受装置(1)の内レース(7)及び/又はボス(2)に及ぼされ、その間にフランジ環(11)が、ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)と物質適合で結合されることを特徴とする、方法。
【請求項5】
結合過程の終了後、装置(13)により及ぼされる締付け力(F)が取消され、その際軸受装置(1)特に内レース(7)が、特にフランジ部分はずみ又はボスはね返り力成分及び/又はフランジ環はね返り力成分の値だけ、所望の軸受締付け力へ緩められることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)が、フランジ環(11)と溶接されていることを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
ボス(2)の取付けフランジ(3)とは反対側の端部(10)が、フランジ環(11)とレーザ溶接により結合されていることを特徴とする、請求項4〜6の1つに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−511325(P2009−511325A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534861(P2008−534861)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/DE2006/001729
【国際公開番号】WO2007/045203
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(506420843)シエフレル・コマンデイトゲゼルシヤフト (80)
【Fターム(参考)】