説明

軸受装置

【課題】回転部材の撓みを小さくし、一定の回転状態に維持することを可能にした軸受装置を提供する。
【解決手段】転がり軸受4によって回転可能に支持され、かつ、少なくともその一方側が転がり軸受に対して軸方向外側に延長され、その延長部分が当該転がり軸受によって片持ち支持された回転部材2には、当該転がり軸受に対して軸方向内側に、当該転がり軸受に近接させて第1ギヤ機構が構築されていると共に、当該転がり軸受によって片持ち支持された延長部分に、第2ギヤ機構が構築されている支持構造において、支持構造は、回転部材と共に回転部位を構成する回転構造8aと、転がり軸受が装着されるハウジング18と共に非回転部位を構成する非回転構造14とを有しており、回転構造と非回転構造とがアキシアル方向で対向する部位相互間には、スラスト軸受28が介在されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシアル荷重と共に、モーメント荷重の一部を負荷するように構成配置可能な軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転部材には、その回転中において、ラジアル荷重とアキシアル荷重が共に作用することが知られている。そこで、このような荷重を負荷するために、例えば特許文献1には、回転部材としての車軸を、ラジアル軸受とスラスト軸受とを併用して支持する軸受装置が示されている。また、例えば特許文献2には、ラジアル軸受とスラスト軸受とを互いに組み合わせて構成した軸受装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−121725号公報
【特許文献2】特開2009−68679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車軸などの回転部材は、その用途や使用目的に応じて、一方側が上記した軸受装置に対して軸方向外側に延長される場合がある。この場合、そのオーバーハングした延長部分に作用する荷重によっては、当該延長部分が大きく撓んで(傾いて)しまう虞がある。そうなると、回転部材の回転状態(例えば、回転速度、回転姿勢など)を一定に維持することが困難になってしまう。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、回転部材の撓みを小さくし、一定の回転状態に維持することを可能にした軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明は、転がり軸受によって回転可能に支持され、かつ、少なくともその一方側が転がり軸受に対して軸方向外側に延長され、その延長部分が当該転がり軸受によって片持ち支持された回転部材には、当該転がり軸受に対して軸方向内側に、当該転がり軸受に近接させて第1ギヤ機構が構築されていると共に、当該転がり軸受によって片持ち支持された延長部分に、第2ギヤ機構が構築されている支持構造において、支持構造は、回転部材と共に回転部位を構成する回転構造と、転がり軸受が装着されるハウジングと共に非回転部位を構成する非回転構造とを有しており、回転構造と非回転構造とがアキシアル方向で対向する部位相互間には、スラスト軸受が介在されている。
本発明において、第1ギヤ機構は、シャフト周りに同心状に構成された第1ギヤに、他のギヤが噛み合って構成されていると共に、転がり軸受は、相対回転可能に対向配置された内輪及び外輪を備え、内輪がシャフトに嵌合され、外輪がハウジングに嵌合されており、第1ギヤを回転構造とし、外輪及びハウジングを非回転構造とすると、スラスト軸受は、第1ギヤと、外輪又はハウジングとの間に介在されている。
本発明において、スラスト軸受は、相対回転可能に対向配置された中空円板状の一対のレースと、これら一対のレース相互間に沿って転動自在に配列された複数の転動体とを備えていると共に、一対のレースの対向面には、複数の転動体が転動する軌道領域が周方向に沿って連続して形成されており、スラスト軸受を、回転構造と非回転構造とがアキシアル方向で対向する部位相互間に介在させた状態において、軌道領域は、少なくとも、外輪の内径面よりも径方向外側に位置付けられている。より好ましくは、外輪の軌道より外側に位置付けられている。
本発明では、スラスト軸受において、一方のレースは、回転構造に支持され、他方のレースは、非回転構造に支持されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転部材の撓みを小さくし、一定の回転状態に維持することを可能にした軸受装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受装置が適用された自動車のトランスミッションの構成を概略的に示す断面図。
【図2】(a)は、図1に示された軸受装置周りの構成を拡大して示す断面図、(b)は、一実施形態に係る軸受装置の他の構成を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る軸受装置について、添付図面を参照して説明する。
図1には、本実施形態に係る軸受装置が適用された自動車のトランスミッションの構成が示されており、回転部材としてのシャフト2は、一対の転がり軸受4,6によって、1本の回転軸Axを中心に回転可能に支持されている。
【0010】
なお、転がり軸受4,6としては、例えば、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、玉軸受などを適用することができるが、ここでは一例として、シャフト2の一方側(図中向かって右側)の転がり軸受4として、円筒ころ軸受を適用し、当該シャフト2の他方側(図中向かって左側)の転がり軸受6として、玉軸受(具体的には、深溝玉軸受)を適用する。
【0011】
シャフト2は、その一方側が円筒ころ軸受4に対して軸方向外側に延長されており、その延長部分2aが、当該円筒ころ軸受4によって片持ち支持されたオーバーハング構造を成している。かかるシャフト2において、円筒ころ軸受4と深溝玉軸受6との間に第1ギヤ機構8が構築されており、第1ギヤ機構8は、円筒ころ軸受4に対して軸方向内側に、当該円筒ころ軸受4に近接させて構成配置されている。また、当該シャフト2において、円筒ころ軸受4によって片持ち支持された延長部分2aに、第2ギヤ機構10が構築されている。
【0012】
第1ギヤ機構8は、シャフト2周りに同心状に構成された第1ギヤ8aに、他のギヤ8bが噛み合って構成されており、一方、第2ギヤ機構10は、シャフト2周りに同心状に構成された第2ギヤ10aに、他のギヤ10bが噛み合って構成されている。そして、これら第1及び第2ギヤ機構8,10を介して、シャフト2からの回転運動の出力、又は、シャフト2への回転運動の入力が行われる。
【0013】
また、円筒ころ軸受4は、相対回転可能に対向配置された内輪12及び外輪14と、内外輪12,14間(具体的には、内輪軌道面12rと外輪軌道面14rとの間)に沿って転動自在に組み込まれた複数の転動体(ころ)16とを備えており、その内輪12がシャフト2に嵌合(圧入)されており、その外輪14がハウジング18に嵌合(圧入)されている。これに対し、深溝玉軸受6は、相対回転可能に対向配置された内輪20及び外輪22と、内外輪20,22間に沿って転動自在に組み込まれた複数の転動体(玉)24とを備えており、その内輪20がシャフト2に嵌合(圧入)されており、その外輪22はフレーム26に嵌合(圧入)されている。
【0014】
図2(a)に示すように、上記した支持構造は、シャフト2(回転部材)と共に回転部位を構成する回転構造と、転がり軸受(即ち、円筒ころ軸受4)が装着されるハウジング18と共に非回転部位を構成する非回転構造とを有している。そして、回転構造と非回転構造とがアキシアル方向(回転軸Axに平行な方向)で対向する部位相互間には、スラスト軸受28が介在されている。
【0015】
この場合、第1ギヤ8aを回転構造とし、外輪14及びハウジング18を非回転構造とすると、スラスト軸受28は、第1ギヤ8aと、外輪14又はハウジング18との間に介在されている。なお、図面では一例として、外輪14を非回転構造とし、第1ギヤ8aのギヤ端面8tと、これにアキシアル方向で対向する外輪14の外輪端面14tとの間にスラスト軸受28が介在されている。
【0016】
スラスト軸受28は、相対回転可能に対向配置された中空円板状の一対のレース30,32と、これら一対のレース30,32相互間に構成された中空円環状の軸受内部空間に沿って転動自在に配列された複数の転動体34と、複数の転動体34を1つずつ回転可能に保持しながら、当該各転動体34と共に軸受内部空間に沿って公転する保持器36とを備えている。
【0017】
複数の転動体34としては、例えば玉やころ等を適用することができるが、ここでは一例として、その直径が小さく、長さが直径の1.1〜10倍という細長いころ(以下、ニードルという)を適用する。これにより、本実施形態のスラスト軸受28は、スラストニードル軸受として構成されることになる。
【0018】
保持器36としては、複数のニードル34を軸受内部空間に沿って1つずつ回転可能に保持できるものであれば、その種類は問わないが、ここでは一例として、径寸法の異なる断面L字状の中空円環部材36a,36bを2つ用意し、これら中空円環部材36a,36bを互いに被せ合わせて一体化させた保持器36を適用する。なお、かかる保持器36には、周方向に沿って等間隔で複数のポケット36pが構成されており、複数のニードル34は、各ポケット36pに1つずつ回転可能に保持される。
【0019】
一方のレース30は、上記した回転構造に支持されている。具体的に説明すると、一方のレース30は、上記した回転構造(即ち、第1ギヤ8aのギヤ端面8t)に支持される中空円板状のレース本体部30aと、レース本体部30aの内周縁から連続し、軸受内部空間(保持器36)を覆うように他方のレース32に向けて延出したリップ部30bとを有している。
【0020】
この場合、レース本体部30aは、スラスト軸受28を第1ギヤ8a(ギヤ端面8t)と外輪14(外輪端面14t)との間に組み込んだ際、その外周面30sが第1ギヤ8a(ギヤ端面8t)に当て付けられるようになっており、その内周面(他方のレース32に対向する対向面)には、周方向に沿って連続した一方側軌道領域30r(複数のニードル34が転動する軌道部分)が形成されている。また、リップ部30bは、ギヤ端面8tに突設された段部8pに当接し、これにより、一方のレース30のラジアル方向における位置決めがされている。
【0021】
他方のレース32は、上記した非回転構造に支持されている。具体的に説明すると、他方のレース32は、上記した非回転構造(即ち、外輪14の外輪端面14t)に支持される中空円板状のレース本体部32aと、レース本体部32aの外周縁から連続し、軸受内部空間(保持器36)を覆うように一方のレース30に向けて延出したリップ部32bとを有している。
【0022】
この場合、レース本体部32aは、スラスト軸受28を第1ギヤ8a(ギヤ端面8t)と外輪14(外輪端面14t)との間に組み込んだ際、その外周面32sが外輪14(外輪端面14t)に当て付けられるようになっており、その内周面(一方のレース30に対向する対向面)には、周方向に沿って連続した他方側軌道領域32r(複数のニードル34が転動する軌道部分)が形成されている。
【0023】
このようなスラスト軸受28では、一方のレース30(一方側軌道領域30r)と他方のレース32(他方側軌道領域32r)との間に複数のニードル34を保持器36で保持しつつ組み立てた状態において、上記した双方のリップ部30b,32bが、保持器36の両側に対向配置されることで、その軸受構成(一方のレース30、他方のレース32、各ニードル34、保持器36)は、径方向(回転軸Axに直交する方向)に互いに分離すること無く、バレ止めされた状態(非分離状態)で一体化する。
【0024】
そして、バレ止めされたスラスト軸受28を、第1ギヤ8a(ギヤ端面8t)と外輪14(外輪端面14t)との間に組み込んだ状態において、保持器36で保持された複数のニードル34は、一方側軌道領域30rと他方側軌道領域32rとに沿って転動自在となる。この状態で、回転構造と非回転構造とが相対回転し、これに伴って一方のレース30と他方のレース32とが相対回転すると、複数のニードル34が一方側軌道領域30rと他方側軌道領域32rとに沿って転動することで、回転構造としてのシャフト2を円滑に回転させることができる。
【0025】
更に、上記した支持構造において、スラスト軸受28を、回転構造と非回転構造とがアキシアル方向で対向する部位相互間に介在させた状態において、軌道領域(即ち、一方側軌道領域30r及び他方側軌道領域32r)は、少なくとも、外輪14の内径面14sよりも径方向外側に位置付けられていることが好ましい。より好ましくは、外輪軌道より外側に位置付ければよい。
【0026】
以上、本実施形態によれば、トランスミッション駆動時、第1及び第2ギヤ機構8,10において、第1及び第2ギヤ8a,10aは、同時に荷重(ラジアル荷重F1、アキシアル荷重F2、モーメント荷重F3)を受けることになり、このとき、シャフト2には、円筒ころ軸受4によって片持ち支持されている延長部分2aを大きく撓ませる(傾かせる)方向の外力が作用する。
【0027】
この場合、回転構造(第1ギヤ8a)と非回転構造(外輪14)とがアキシアル方向で対向する部位相互間に、スラスト軸受28を介在させると、他方のレース32が、ハウジング18に嵌合(圧入)された外輪14で支持されることとなり、これにより、上記したアキシアル荷重F2、モーメント荷重F3の一部を負荷することができるため、延長部分2aの撓み(傾き)を抑制する効果を得ることができる。この結果、シャフト2の回転状態(例えば、回転速度、回転姿勢など)を一定に維持することが可能となる。
【0028】
また、本実施形態によれば、一方のレース30のリップ部30bが第1ギヤ8a(ギヤ端面8t)に突設された段部8pに当接しているため、一方のレース30のラジアル方向における位置決めがされた状態で、スラスト軸受28を第1ギヤ8aによって案内させるようにすることができる。
【0029】
更に、本実施形態によれば、スラスト軸受28を、回転構造と非回転構造とがアキシアル方向で対向する部位相互間に介在させた状態において、軌道領域(即ち、一方側軌道領域30r及び他方側軌道領域32r)を、外輪14の内径面14sよりも径方向外側に位置付けるように設定することで、シャフト2の延長部分2aにおける撓み(傾き)の影響を受けることなく、一定の軌道領域(即ち、一方側軌道領域30r及び他方側軌道領域32r)を確保することができる。この結果、スラスト軸受28の回転性能を維持・向上させることができる。
【0030】
この場合、例えば図2(b)に示すように、軌道領域(即ち、一方側軌道領域30r及び他方側軌道領域32r)を、外輪軌道面14rよりも径方向外側に位置付けるように設定してもよい。これによれば、一定の軌道領域(即ち、一方側軌道領域30r及び他方側軌道領域32r)に対するバックアップ確保の点で有効であり、その結果、スラスト軸受28の回転性能を維持・向上させることができる。
【0031】
また、上記した実施形態では、外輪14を非回転構造とし、第1ギヤ8aのギヤ端面8tと、これにアキシアル方向で対向する外輪14の外輪端面14tとの間にスラスト軸受28を介在させる場合を想定したが、これに代えて、ハウジング18を非回転構造とし、第1ギヤ8aのギヤ端面8tと、これにアキシアル方向で対向するハウジング18の端面18tとの間にスラスト軸受28を介在させるようにしてもよい。なお、かかる変形例の効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【符号の説明】
【0032】
2 シャフト(回転部材)
4 円筒ころ軸受(転がり軸受)
8 第1ギヤ機構
8a 第1ギヤ(回転構造)
10 第2ギヤ機構
14 外輪(非回転構造)
18 ハウジング(非回転構造)
28 スラスト軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受によって回転可能に支持され、かつ、少なくともその一方側が転がり軸受に対して軸方向外側に延長され、その延長部分が当該転がり軸受によって片持ち支持された回転部材には、
当該転がり軸受に対して軸方向内側に、当該転がり軸受に近接させて第1ギヤ機構が構築されていると共に、
当該転がり軸受によって片持ち支持された延長部分に、第2ギヤ機構が構築されている支持構造において、
支持構造は、
回転部材と共に回転部位を構成する回転構造と、
転がり軸受が装着されるハウジングと共に非回転部位を構成する非回転構造とを有しており、
回転構造と非回転構造とがアキシアル方向で対向する部位相互間には、スラスト軸受が介在されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
第1ギヤ機構は、シャフト周りに同心状に構成された第1ギヤに、他のギヤが噛み合って構成されていると共に、
転がり軸受は、相対回転可能に対向配置された内輪及び外輪を備え、内輪がシャフトに嵌合され、外輪がハウジングに嵌合されており、
第1ギヤを回転構造とし、外輪及びハウジングを非回転構造とすると、
スラスト軸受は、第1ギヤと、外輪又はハウジングとの間に介在されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
スラスト軸受は、相対回転可能に対向配置された中空円板状の一対のレースと、これら一対のレース相互間に沿って転動自在に配列された複数の転動体とを備えていると共に、
一対のレースの対向面には、複数の転動体が転動する軌道領域が周方向に沿って連続して形成されており、
スラスト軸受を、回転構造と非回転構造とがアキシアル方向で対向する部位相互間に介在させた状態において、
軌道領域は、少なくとも、外輪の内径面よりも径方向外側に位置付けられていることを特徴とする請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
スラスト軸受において、一方のレースは、回転構造に支持され、他方のレースは、非回転構造に支持されていることを特徴とする請求項3に記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−177438(P2012−177438A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40924(P2011−40924)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】