説明

軸肥大加工機のワーク排出方法

【課題】軸肥大加工機からのワークの排出をワークの飛び出しを招くことなく実施可能する軸肥大加工機のワーク排出方法を提供する。
【解決手段】軸肥大加工機のワーク排出方法は、加圧側スリーブホルダ(4)からワーク(W)の一端部を部分的に抜き出した後、駆動側及び加圧側スリーブホルダ(2,4)からワーク(W)の他端部及び一端部の完全な抜き出しを交互に実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材のワークを部分的に拡径した肥大部を形成する軸肥大加工機に係わり、特に、肥大部の加工後、軸肥大加工機からワークを排出するワーク排出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の軸肥大加工機は例えば特許文献1に開示され、この特許文献1の加工機は一対のスリーブホルダ(保持筒)を備えている。これらスリーブホルダはその内部にワークの両端部をそれぞれ嵌合して保持し、この状態で、ワークに軸線方向の圧縮力及び軸線回りの回転を付与する一方、軸線に対してワークの一端部を傾動させることができる。
上述した圧縮力、回転及び傾動がワークに付与されると、ワークに部分的に拡径した肥大部(カラー)が形成される。このような肥大部の形成はワークの傾動を元に戻し、一対のスリーブホルダが再びワークの軸線上に配置された時点で完了し、この後、加工後のワークは加工機の一対のスリープホルダから排出される。
【0003】
ここで、ワークに上述した肥大部を形成するにあたり、ワークはその肥大部のみにて肥大するのではなく、スリーブホルダ内に保持されたワークの端部もまた肥大しようとする。より詳しくは、ここでの肥大はワークの端部がスリーブホルダにて径方向外側から拘束されているので、ワークの端部にその径方向外側へ張出力を与え、また、前述の圧縮力に起因して軸線方向の弾性反発力を与える。それ故、このような張出力及び弾性反発力を有した状態で、ワークの端部はスリーブホルダと強く結合することになる。
【0004】
このような事情から、一対のスリーブホルダからのワークの排出時には、スリーブホルダからワークを強制的に押出して一対のスリーブホルダからワークを抜き出し、更に、スリーブホルダの開口端側の内周面の部位を開口端に向けて僅かに拡径させた逆テーパ面に形成して、そのワークの抜き出しが容易になされるように工夫している。
具体的には、ワークの排出は以下の手順にて実施される。
【0005】
先ず、一方のスリーブホルダを他方のスリーブホルダから離間させながら、他方のスリーブホルダ内からワークを強制的に押出して抜き出す。この際、ワークは一方のスリーブホルダに保持されたまま状態にある。この後、一方のスリーブホルダ内からもワークを強制的に押出して抜き出し、加工機からワークを排出する。
【特許文献1】特許第3418698号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したようにワークにおける端部の肥大がスリーブホルダにより拘束されていることから、ワークの端部はその径方向外側への張出力及び軸線方向の弾性反発力を内在した状態にある。
このため、前述したように他方のスリーブホルダからワークが抜け出した後に、一方のスリーブホルダからワークが強制的に抜き出される際、ワークの端部の張出力及び軸線方向の弾性反発力が急減に解放されてしまうと、ワークとスリーブホルダとの間の摩擦状況によっては、特に、ここでの弾性反発力の解放がスリーブホルダの内周面に前述した逆テーパ面が形成されていることと相俟って、スリーブホルダ内からのワークの飛び出しを引き起こすことがある。
【0007】
このようなワークの飛び出しは、ワークが加工機に対してワークの搬入出をなすロボットハンドに過剰な負荷を加え、ロボットハンドを損傷させてしまう虞がある。
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、軸肥大加工機からのワークの排出時、ワークの飛び出しを確実に防止することができる軸肥大加工機のワーク排出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は前述した一対のスリーブホルダを備える軸肥大加工機に適用されるワーク排出方法であって、このワーク排出方法は、ワークに対する肥大部の形成が完了した後、ワークの軸線上にある一対のスリーブホルダのうち、一方のスリーブホルダを他方のスリーブホルダから軸線方向に離間させながら、一方のスリーブホルダ内のワークの一端部を他方のスリーブホルダ側に向けて押出して、一方のスリーブホルダからワークの一端部を部分的に抜け出させた後、前記他方のスリーブホルダ内のワークの他端部を一方のスリーブホルダ側に向けて押出し、一方のスリーブホルダ内にワークの一端部を押込みながら他方のスリーブホルダからワークの他端部を完全に抜き出し、この後、ワークの一端部の押出しを再開し、一方のスリーブホルダからワークの一端部を完全に抜き出す(請求項1)。
【0009】
具体的には、スリーブホルダからのワークの押出しは、スリーブホルダ内に同軸的に配置された押出しピンによってなされる(請求項2)。
上述したワーク排出方法によれば、ワークの一端部が一方のスリーブホルダから完全に抜き出される先立ち、ワークの一端部は一方のスリーブホルダから所定の長さだけ部分的に抜き出されていることから、ここでの部分的な抜け出しはワークの一端部に内在する張出力及び弾性反発力を解放する。従って、この後、ワークの一端部が一方のスリーブホルダから完全に抜き出されるとき、このスリーブホルダからワークが飛び出すようなことはない。
【0010】
なお、ワークの他端部が他方のスリーブホルダから完全に抜け出す際、ワークの一端部は未だ一方のスリーブホルダ内に保持されていることから、ワークの他端部に内在する張出力及び弾性反発力が解放されても、ここでの解放はワークの飛び出しを引き起こすものとはならない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1,2の軸肥大加工機のワーク排出方法は、ワークの排出時、ワークの端部に内在する張出力及び弾性反発力に起因したワークの飛び出しを確実に防止でき、軸肥大加工機からのワークの排出を安全に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、軸肥大加工機の概略を示す。
軸肥大加工機は一対のスリーブホルダとして駆動側スリーブホルダ2及び加圧側スリーブホルダ4を備え、これらスリーブホルダ2,4は互いに同一の基準線A上に配置されている。駆動側及び加圧側スリーブホルダ2,4は押出しピンとしてのノックアウトピン6をそれぞれ有し、これらノックアウトピン6は対応するスリーブホルダ内に同軸にして摺動可能に配置されている。
【0013】
更に詳しくは、駆動側スリーブホルダ2は基準線Aの回りに回転可能であるともに、基準線Aに対して傾動可能であり、一方、加圧側スリーブホルダ4は基準線Aに沿い駆動側スリーブ2に対して接離可能となっている。
それ故、駆動側スリーブホルダ2から加圧側スリーブホルダ4を十分に離間させた状態で、これらスリーブホルダ2,4間に基準線Aに沿って軸部材であるワークWを配置することができる。なお、ワークWは金属等の塑性変形可能な材料からなっている。
【0014】
この後、加圧側スリーブホルダ4が駆動側スリーブホルダ2に向けて移動させれば、図1に示すようにワークWの両端部は駆動側及び加圧側スリーブホルダ2,4にそれぞれ嵌合され、これにより、ワークWはその両端面にてノックアウトピン6に挟み込まれた状態で、駆動側及び加圧側スリーブホルダ2,4に保持される。なお、このとき、ワークWはその軸線が基準線Aと合致した状態にある。
【0015】
図2は、加圧側スリーブホルダ4の詳細を示す。
加圧側スリーブホルダ4は基準線Aと同軸にしてボア8を有し、このボア8の内周面はその開口端側の部位が開口端に向けて僅かに拡開する逆テーパ面10に形成されている。このような逆テーパ面10は駆動側スリーブホルダ2にも設けられている。なお、図2中、ノックアウトピン6は省略されている。
【0016】
上述したようして駆動側及び加圧側スリーブホルダ2,4間にワークWがセットされた後、加圧側スリーブホルダ4はそのノックアウトピン6とともに駆動側スリーブホルダ2に向けて移動され、一方、駆動側スリーブホルダ2は基準線Aの回りに回転されるとともに、基準線Aに対して所定の傾斜角にて傾動される。
それ故、ワークWはその軸線回りに回転されながら軸線方向に圧縮力を受け、一方、駆動側スリーブホルダ2側のワークWの部位が加圧側スリーブホルダ4側のワークWの部位に対して傾動する。ここで、ワークWの傾動中心は基準線A上にある。
【0017】
このようにしてワークWに対して回転、圧縮及び傾動がそれぞれ付与されると、駆動側スリーブホルダと加圧側スリーブホルダ4との間のワークWの部分はこれらスリーブホルダ2,4により拘束されていないことから、図3(a)に示されるように、その外周面が塑性変形によって膨出し、この膨出はワークWの回転に伴い、その全周に亘って広がる。それ故、ワークWにはその一部に拡径した肥大部Hが形成される。
【0018】
この後、加圧側スリーブホルダ4が駆動側スリーブホルダ2に向けて移動するに従い、肥大部Hは更に成長する。そして、肥大部Hが所望の径の近傍まで達し、駆動側及び加圧側スリーブホルダ2,4間に挟み込まれるような状況に至ると、この時点で、前述した駆動側スリーブホルダ2はその傾動が解消され、ワークWの軸線は再び基準線Aに合致される。
【0019】
ここでも、ワークWの回転及び圧縮は継続されており、これにより、図3(b)に示されるように駆動側及び加圧側スリーブホルダ2,4間に所望の径を有する肥大部Hが形成され、ワークWに対する軸肥大加工が完了する。この後、ワークWの回転及び圧縮は停止される。
次に、図4(a)〜(c)を参照して、軸肥大加工機からのワークWの排出方法を説明する。
【0020】
先ず、加圧側スリーブホルダ4は、駆動側スリーブホルダ2側から離間するように基準線Aに沿って移動され、ここでの移動は加圧側スリーブホルダ4内のノックアウトピン6とは独立して実施される。それ故、図4(a)に示されるように加圧側スリーブホルダ4のノックアウトピン6はワークWの一端部に押出し力F1を駆動側スリーブホルダ2に向けて加え、加圧側スリーブホルダ4内からワークWの一端部の一部を相対的に抜き出す。ここでの抜き出しは例えば、5mm程度の僅かなものであるが、前述した肥大加工によりワークWの一端部に内在する張出力及び弾性反発力を解放する。
【0021】
この後、加圧側スリーブホルダ4の離間移動を継続しながら、そのノックアウトピン6によるワークWの押出しを停止し、そして、今度は、駆動側スリーブホルダ2のノックアウトピン6が加圧側スリーブホルダ4に向けて移動してワークWの他端部に押出し力F2を加え、図4(b)に示されるように駆動側スリーブホルダ2からワークWの他端部を完全に抜き出す。
【0022】
この際の抜き出しに伴い、ワークWの一端部は加圧側スリーブホルダ4内に再び押し込まれ、ここでの押込みはワークWの肥大部Hが加圧側スリーブホルダ4に当接した時点で停止される。即ち、加圧側スリーブホルダ4のノックアウトピン6はワークWの一端部の押込みに伴い、加圧スリーブホルダ4に対し、元の位置まで後退する。
この後、加圧側スリーブホルダ4のノックアウトピン6は、図4(c)に示されるようにワークWの一端部に前述の押出し力F1を再び加え、今度は、ワークWの一端部を加圧側スリーブホルダ4から完全に抜き出し、軸肥大加工機からワークWを排出する。この際、加圧側スリーブホルダ4の離間移動は必要に応じて実施される。即ち、ワークWの他端部が駆動側スリーブホルダ2から完全に抜き出された時点で、駆動側及び加圧側スリーブホルダ2,4がワークWの一端部の抜き出しに必要な距離だけ既に十分に離れていれば、加圧側スリーブホルダ4の離間移動は不要となる。
【0023】
なお、ワークWの排出が完了後、加圧側スリーブホルダ4のノックアウトピン6は加圧側スリーブホルダ4に対して元の位置まで復動され、また、駆動側スリーブホルダ2のノックアウトピン6はワークWの排出完了後、又は、この排出完了に先立ち、駆動側スリーブホルダに対し、元の位置まで復動される。
ここでの抜き出し時、ワークWの一端部が内在していた張出力及び弾性反発力は図4(a)での部分的な抜き出し工程にて既に解放されていることから、加圧側スリーブホルダ4のボア8の内周面に前述した逆テーパ面10が形成されていても、前記張出力及び弾性反発力に起因してワークWが加圧側スリーブホルダ4から飛び出すことはなく、軸肥大加工機からのワークWの排出を安全に行うことができる。
【0024】
この結果、軸肥大加工機に対するワークWの搬入出にロボットハンドが使用されていても、軸肥大加工機からのワークWの排出時、ワークWの飛び出しに起因した過負荷をロボットハンドが受けることはなく、ロボットハンドの損傷を確実に防止することができる。
なお、ワークWの他端部が駆動側スリーブホルダ2から完全に抜け出る際、他端部に内在する張出力及び弾性反発力がワークWを加圧側スリーブホルダ4側に飛び出させるように働くこともあるが、この際にはワークWの一端部は未だ加圧側スリーブホルダ4内に保持されているので、ワークWの他端部の張出力及び弾性反発力が駆動側スリーブホルダ2からワークWを飛び出させてしまうことはない。
【0025】
本発明は上述の一実施例に制約されるものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、一実施例では先ず、加圧側スリーブホルダ4側のワークWの一端部を部分的に抜き出すにようにしているが、駆動側スリーブホルダ2側のワークWの他端部を先に部分的に抜き出してその張出力及び弾性反発力を解放し、この後、ワークWの一端部を完全に抜き出した後、ワークWの他端部を完全に抜き出すようにしても、一実施例の場合と同様な作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】軸肥大加工機の概略図である。
【図2】図1の駆動側及び加圧側スリーブホルダの具体的な断面図である。
【図3】軸肥大加工機による軸肥大加工方法の手順を示し、(a)は肥大加工中、(b)は肥大加工の完了時をそれぞれ示す。
【図4】軸肥大加工機からのワークの排出方法の手順を示し、(a)はワークの一端部の部分的な抜き出し工程、(b)はワークの他端部の完全な抜き出し工程、(c)はワークの一端部の完全な抜き出し工程をそれぞれを示す。
【符号の説明】
【0027】
2 駆動側スリーブホルダ
4 加圧側スリーブホルダ
6 ノックアウトピン(押出しピン)
8 ボア
10 逆テーパ面
A 基準線
F1,F2 押出し力
H 肥大部
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のスリーブホルダ内に軸部材からなるワークの両端部を保持し、この状態で、前記ワークにその軸方向の圧縮力及び軸線回りの回転を与える一方、前記ワークの一端部を軸線に対して傾動させ、前記ワークに部分的に拡径した肥大部を形成する軸肥大加工機において、
前記肥大部の形成が完了した後、前記ワークの軸線上にある一対のスリーブホルダのうち、一方のスリーブホルダを他方のスリーブホルダから軸線方向に離間させながら、前記一方のスリーブホルダ内の前記ワークの一端部を前記他方のスリーブホルダ側に向けて押出して、前記一方のスリーブホルダから前記ワークの一端部を部分的に抜け出させた後、前記他方のスリーブホルダ内の前記ワークの他端部を前記一方のスリーブホルダ側に向けて押出し、前記一方のスリーブホルダ内に前記ワークの一端部を押込みながら前記他方のスリーブホルダから前記ワークの他端部を完全に抜き出し、この後、前記ワークの一端部の押出しを再開し、前記一方のスリーブホルダから前記ワークの一端部を完全に抜き出すことを特徴する軸肥大加工機のワーク排出方法。
【請求項2】
前記スリーブホルダからの前記ワークの押出しは、前記スリーブホルダ内に同軸的に配置された押出しピンによってなされることを特徴とする請求項1に記載の軸肥大加工機のワーク排出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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