説明

軸製品加工装置及び軸製品加工方法

【課題】クランクシャフトなどの軸製品の端面をフライス加工し、センタ穴を形成する場合のフライスカッタのストロークを小さくする。
【解決手段】リング状のフライスカッタ40の中心にセンタドリル42が配置される。まず、軸製品30の端面31Aがフライスカッタ40の内側に向うように、フライスカッタ40を軸製品30に近づける。次に、軸製品30の端面31Aがフライスカッタの内側から外側へ移動するようにフライスカッタ40を動かしつつ、フライスカッタ40で軸製品30の端面31Aをフライス加工する。その後、フライスカッタ40の内側へ軸製品30の端面31Aを戻して、センタドリル42でセンタ穴を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトのような軸製品を加工する装置及び加工方法に関し、特に、軸製品の端面をフライス加工、かつ、センタ穴を形成する加工装置及び加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加工装置として、特許文献1に記載された、端面およびセンタ穴加工用工具が知られている。この加工用工具は、フライスカッタチップがリング状に配置されたフライスカッタ本体と、フライスカッタ本体の回転軸心の位置に配置されたセンタドリルとを有する。
【0003】
この加工用工具での加工手順は、上記特許文献1の第3図に示されており、次に示す通りである。まず、フライスカッタ本体の外側に軸製品の端面がくるように、軸製品に対してフライスカッタ本体を近づける。次に、軸製品の端面がフライスカッタの径方向の外側から内側に移動するように、フライスカッタを動かしながら軸製品の端面をフライス加工し、その後に、センタドリルで軸製品の端面にセンタ穴を形成する手順となっている。
【0004】
【特許文献1】実開昭60−97216号公報(実願昭第58−188557号マイクロフィルム)(特に第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の工具によって加工される代表的な軸製品として、クランクシャフトが挙げられる。クランクシャフトは、端面の近傍にフランジを有していることが多い。また、フライスカッタ本体を、クランクシャフトに最初に近づける際には、作業効率を上げるうえで高速で近づけることが望ましい。
【0006】
通常、このように端面近傍にフランジを有する軸製品を、上述した加工用工具で加工する場合には、最初にフライスカッタ本体を高速に近づける際、位置制御で万一、エラーが生じたような場合であっても、フライスカッタと軸製品とが衝突しないようにするために、軸製品の端面近傍のフランジの外周がフライスカッタの径方向の外側に位置するように、フライスカッタと、フランジとの間隔を十分空けた状態で近づけている。
【0007】
しかしながら、この制御では、フライスカッタとフランジとの間隔が大きい為、次の加工動作、つまり、クランクシャフトの端面をフライス加工する動作において、フライスカッタの移動のストロークが大きいと言う問題がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、フライスカッタで軸製品の端面をフライス加工、かつ、センタ穴を形成する加工装置において、フライスカッタのストロークをより小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの側面に従えば、軸製品の端面をフライス加工し、かつ、センタ穴を形成するための軸製品加工装置は、前端部がリング状のチップ台座と、前記チップ台座の前端部に、環状に配置された複数のフライスカッタチップとを有する、前記軸製品の端面をフライス加工するフライスカッタと、前記フライスカッタの、前記チップ台座の内側に配置された、前記軸製品の端面にセンタ穴を形成するセンタドリルと、前記フライスカッタと前記センタドリルを駆動し、かつ、制御する制御装置とを備える。前記制御装置は、前記軸製品の端面が、前記フライスカッタの前記チップ台座の内側に向って近づくように、前記フライスカッタを前記軸製品の端面に相対的に近づけ、その後に、前記軸製品の端面が、前記フライスカッタの前記チップ台座の内側から外側へと移動するように、前記フライスカッタを前記軸製品に対して相対的に移動させつつ、前記フライスカッタを駆動して前記軸製品の端面をフライス加工し、その後に、前記軸製品の端面が、前記センタドリルの正面に位置するように、前記フライスカッタを前記軸製品の端面のフライス加工時とは逆方向に相対的に移動させ、その後に、前記軸製品の端面にセンタ穴を形成するように、前記フライスカッタと前記センタドリルを駆動し、かつ、制御する。
この軸製品加工装置によれば、前記軸製品の端面が前記フライスカッタの内側に向うように、前記フライスカッタを前記軸製品に近づける。その後、前記軸製品の端面が前記フライスカッタの内側から外側へ移動するように前記フライスカッタを動かしつつ、前記フライスカッタで前記軸製品の端面をフライス加工し、その後、前記フライスカッタの内側へ前記軸製品の端面を戻して、前記センタドリルでセンタ穴を形成する。その為、前記軸製品を加工する際の、フライスカッタのストロークを小さくすることができる。
一つの実施形態では、複数の前記フライスカッタチップは、前記チップ台座のリング状の前端部の内周寄りに沿って装着する。この軸製品加工装置によれば、ストロークをより小さくできる。
また、一つの実施形態として、前記フライスカッタの、前記チップ台座の内側に設けられているハブと、前記センタドリルとが、少なくとも前記フライスカッタを前記軸製品の端面に近づけている時に、前記フライスカッタチップの刃先に対して後退した位置に配置する。この軸製品加工装置によれば、この近づけ動作の位置制御で万一、エラーが生じて、若干近づけ過ぎとなっても、両者が衝突する恐れを実質的になくすことができる。
また、一つの実施形態として、前記フライスカッタの、前記チップ台座の後端部の内側に固着されているハブに取り付けられている前記センタドリルは、前記フライスカッタチップの刃先に対して後退した位置に配置される。さらに、前記センタドリルの刃先の位置は、前記フライスカッタチップの刃先の位置より、1回のフライス加工で加工可能な追い込み量より大きい距離だけ後退している。この軸製品加工装置によれば、この近づけ動作の位置制御で万一、エラーが生じて、若干近づけ過ぎとなっても、両者が衝突する恐れを実質的になくすことができる。
また、一つの実施形態として、前記軸製品が、前記軸製品の端面近傍にフランジを有し、前記フランジの外径が前記フライスカッタの前記チップ台座の内径より小さい場合、前記制御装置は、前記フライスカッタを前記軸製品の端面に近づける時、前記軸製品の端面近傍のフランジの外周が、前記チップ台座の内周に近づくよう制御する。この軸製品加工装置によれば、端面近傍にフランジを有する軸製品(例えば、多くのクランクシャフト)を加工する場合、フライスカッタの近づけ時に、フライスカッタとフランジが衝突する恐れが回避される。
本発明の別の側面に従えば、前記軸製品の端面が、チップ台座のリング状の前端部に、複数のフライスカッタチップを環状に配置し、装着した前記フライスカッタの、前記チップ台座の内側に向って近づくように、前記フライスカッタを前記軸製品の端面に相対的に近づけるステップと、その後に、前記軸製品の端面が、前記フライスカッタの前記チップ台座の内側から外側へと移動するように、前記フライスカッタを前記軸製品に対して相対的に移動させつつ、前記フライスカッタを駆動して前記軸製品の端面をフライス加工するステップと、その後に、前記軸製品の端面が、前記センタドリルの正面に位置するように、前記フライスカッタを前記軸製品の端面のフライス加工時とは逆方向に相対的に移動させるステップと、その後に、前記軸製品の端面にセンタ穴を形成するように、前記フライスカッタと、前記チップ台座の内側に配置された前記センタドリルを駆動し、かつ、制御するステップとを有する。
本発明の別の側面に従えば、前記軸製品加工具は、回転軸心を中心とする、前端部がリング状のチップ台座と、前記チップ台座のリング状の前端部の内周寄りに沿って装着された複数のフライスカッタチップと、前記チップ台座の後端部の内側に固着され、前記フライスカッタチップの刃先に対して凹ませて配置されたハブと、軸心を前記回転軸心に合せて前記ハブに設置され、かつ、前記フライスカッタチップの刃先に対して前記ハブ側へ後退させて刃先を配置させた、センタ穴形成用のセンタドリルとを有する。さらに、前記センタドリルの刃先の位置は、前記フライスカッタチップの刃先の位置より、1回のフライス加工で加工可能な追い込み量より大きい距離だけ後退している。
この軸製品加工具によれば、上述した加工装置のように、前記軸製品の端面が前記フライスカッタの内側に入るように、前記フライスカッタを前記軸製品に近づけてフライス加工を行い、その後に、センタドリルでセンタ穴を形成するような方法で、軸製品の端面に対してフライス加工を行うような時であっても、センタドリルがフライス加工時の障害になるようなことはない。したがって、上記の方法でフライス加工を円滑に行うことが可能であるために、上述したように、この加工具のストロークを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軸製品を加工する装置において、軸製品の端面を加工する際の、フライスカッタのストロークを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る、軸製品加工装置について図面を用いて説明する。なお、本発明に係わらない部分については図示を省略してある。
【0012】
図1は、本実施形態に係る、軸製品加工装置の主要な構成を示した側面図である。
【0013】
図1に示すように、軸製品加工装置1は、軸製品加工機本体10、及び制御装置50を有している。まず、軸製品加工機本体10の構成を説明する。
【0014】
軸製品加工機本体10には、ベッド11がX軸方向(例えば、水平方向)に設置されている。さらに、ベッド11には、X軸方向の異なる位置に、2つのクランプ装置20が設置されている。これらのクランプ装置20は、加工対象である軸製品30を、その中心軸がX軸と平行な状態で把持する。
【0015】
この実施形態では、軸製品30は、例えば、クランクシャフトであり、クランクシャフト30は、メインジャーナル31を有し、片側の端面近傍にはフランジ33が設けられている。
【0016】
また、ベッド11のX軸方向の両端近傍には、2つのフライスカッタ駆動台13が載置されており、これらのフライスカッタ駆動台13には、円盤状のフライスカッタ40が、それぞれクランクシャフト30の端面に向って回転自在に装着されている。その詳細は後述するが、上記フライスカッタ40には、その回転軸心を中心とする円周に沿って、多数のフライスカッタチップ41が設けられており、フライスカッタ40の中心部には、センタドリル42が設けられている。
【0017】
各フライスカッタ駆動台13には、各フライスカッタ40を回転駆動させたり、X軸方向に前進又は後退させたり、X軸を垂直な方向、例えば、Y軸方向(例えば、上下方向)、又は、図面表裏方向に移動させたりする為のモータ等(図示略)の機構が内蔵されている。また、各フライスカッタ駆動台13の上述のような動作は、制御装置50によって制御されるようになっている。
【0018】
次に、制御装置50の構成を説明する。
【0019】
制御装置50は、クランクシャフト30の端面31Aをフライス加工し、その後に、センタ穴を形成するという一連の加工動作を決められた手順で実行するように、フライスカッタ駆動台13を介して、フライスカッタ40及びセンタドリル42を駆動しかつ制御するためのプログラム52と、プログラム52を処理するためのマイクロプロセッサ等で構成されている演算部51を有しており、軸製品加工機本体10に電気的に接続されている。
【0020】
図2は、この軸製品加工装置1におけるフライスカッタ40の主要な構造を示す断面図である。
【0021】
フライスカッタ40は、その円盤形の形状の周縁側に、回転軸心を中心とする円リング状のチップ台座40Aを有し、チップ台座40Aの内側には、チップ台座40Aと結合したハブ40Bを有する。チップ台座40Aの前面(つまり、クランクシャフト30に対向する面)の内側寄りの位置に、回転軸心を中心とする円周に沿って、クランクシャフト30の端面31Aをフライス加工するための、多数のフライスカッタチップ41が装着されている。なお、以下の説明では、フライスカッタ40から見て、X軸に沿ってクランクシャフト30に向かう方向を「前方」または「前」、クランクシャフト30から遠ざかる方向を「後方」または「後」と言う。
【0022】
また、ハブ40Bは、その後方中央部にてフライスカッタ40を回転させる為の回転シャフト45に連結される。図2には図示しないが、回転シャフト45は、フライスカッタ駆動台13に装着されており、フライスカッタ駆動台13により、回転駆動させたり、X軸方向に前進又は後退させたり、Y軸方向(又は図面表裏方向)に移動させられたりすることができる。このハブ40Bの前面は、チップ台座40A上のフライスカッタチップ41の刃先41Aよりも大きく後方に(つまり、クランクシャフト30からより遠くに)配置されている。このため、フライスカッタ40は前方から(つまり、クランクシャフト30側から)見ると、リング状のチップ台座40Aの内側が凹んだ形となっている。
【0023】
また、フライスカッタ40のチップ台座の内側の所定位置、例えば、回転軸心の位置には、クランクシャフト30の端面31Aにセンタ穴を形成するためのセンタドリル42が、その刃先42Aを前方(つまり、クランクシャフト30側)に向けて、X軸と平行に取り付けられている。
【0024】
センタドリル42は、アジャスターボルト43によって、ハブ40Bの前面より前方へ突出した状態でX軸方向にて位置決めされ、かつ、フライスカッタ40の側面からフライスカッタ40内に差し込まれたセンタドリル止めボルト44によって、フライスカッタ40と同心位置に固定されている。また、センタドリル42の刃先42Aは、フライスカッタチップ41の刃先41Aの位置より、1回のフライス加工で加工可能な追い込み量より大きい距離だけ後退した位置に配置されている。ここで言う、1回のフライス加工で加工可能な「追い込み量」とは、クランクシャフト30の端面31Aを1回のフライス加工で加工できるX軸方向の最大の削り量、つまり、クランクシャフト30が1回のフライス加工によって短くなる最大の長さのことを言う。
【0025】
なお、本実施形態では、フライスカッタ40のハブ40Bやセンタドリル42がチップ台座40Aに対して、大きく後退した位置に固定されているが、変形例として、ハブ40Bとセンタドリル42の双方又は一方が、チップ台座40Aに対して、X軸方向に進退可能なようになっていてもよい。この変形例の場合には、後述する加工工程中の少なくとも近づけ工程においては、ハブ40Bの前面とセンタドリル42の刃先42Aとが、フライスカッタチップ41の刃先41Aの位置より、1回のフライス加工で加工可能な追い込み量より大きい距離だけ後退した位置に配置される。
【0026】
例えば、フライスカッタチップ41の刃先41Aが並んでいる円周の内直径を「D」とすると、上記「D」は、クランクシャフト30のメインジャーナル31の外直径「D2」よりも大きいだけでなく、メインジャーナル31の端面近傍に存在するフランジ33の外直径「D1」よりも大きく設計されている。要するに、クランクシャフト30のメインジャーナル31の端部及びフランジ33が、フライスカッタ40のフライスカッタチップ41の円列の内側に多少入り込んでも、クランクシャフト30とフライスカッタ40とが衝突しないようになっている。
【0027】
次に、この軸製品加工装置1によるクランクシャフト30の端面をフライス加工し、その後、センタ穴を形成する工程の制御について図3のフローチャートと、図4、図5及び図6の動作説明図を用いて説明する。
【0028】
まず、図3のステップS1に示すように、制御装置50は、フライスカッタ40をX軸(回転軸)方向に高速に前進させて、クランクシャフト30の端面に近づける。この近づけ工程では、図4(A)に示すように、クランクシャフト30の軸心とフライスカッタ40の軸心が一致するように両者が位置合わせされた状態で、クランクシャフト30の端面31Aに向って、X1方向へフライスカッタ40が高速で近づく。換言すれば、クランクシャフト30の端面31Aとフランジ33とが、フライスカッタ40のチップ台座40Aの内側(つまり、フライスカッタチップ41の円列の内側)に向って進むようにして、フライスカッタ40に近づく。
【0029】
前述したように、フライスカッタチップ41の円周の内直径「D」は、クランクシャフト30のフランジ33の外直径「D1」よりも大きく、かつ、その内側のハブ40Bとセンタドリル42は、フライスカッタチップ41の刃先41Aの位置より、1回のフライス加工で加工可能な追い込み量より大きい距離だけ後退した位置に配置されているので、この近づけ動作の位置制御で万一、エラーが生じて、若干近づけ過ぎとなっても、両者が衝突する恐れは実質的にない。
【0030】
このように、フライスカッタ40が、クランクシャフト30の端面31Aに近づいている間、図3のステップS2で、制御装置50は、フライスカッタチップ41の刃先41Aが、クランクシャフト30の端面31Aのフライス加工を開始すべき位置に到達したか否かをチェックし、到達したならば、フライスカッタ40の近づけ動作を停止する。これによりフライスカッタ40は図4(B)に示すような位置に停止する。
【0031】
次に、図3のステップS3で、制御装置50は、フライスカッタ40をクランクシャフト30に垂直な方向、例えば、図4(C)に示すY1方向に移動させながら、フライスカッタ40を回転させて、クランクシャフト30のメインジャーナル31の端面31Aをフライス加工させる。図4(C)から分かるように、この時、クランクシャフト30の端面31は、フライスカッタ40の外側から内側へ移動しながらフライス加工されることになる。
【0032】
このフライス加工工程において、図5(D)に示すように、フライスカッタチップ41の刃先41Aが、クランクシャフト30のメインジャーナル31の端面31Aを完全に通過して、さらに、所定のクリアランス「D3」だけ外側へ進んだところで、フライスカッタ40が停止させられ、フライス加工工程が終わる。
【0033】
次に、図3のステップS4で、制御装置50は、フライスカッタ40を図5(D)に示すY2方向(つまり、フライス加工工程時とは逆方向)に移動させて、クランクシャフト30の軸心とセンタドリル42(フライスカッタ40)との軸心が一致する位置、つまり、図5(E)に示す位置に到達したところで、フライスカッタ40を停止させる。
【0034】
その後、図3のステップS5で、制御装置50は、フライスカッタ40を、図6(F)に示すX1方向に移動させて、センタドリル42の刃先42Aをメインジャーナル31の端面31Aのセンタ穴形成ポイントまで近づけ、続いて、図3のステップS6で、フライスカッタ40と共にセンタドリル42を図6(G)に示すX1方向にさらに移動させながら、フライスカッタ40と共にセンタドリル42を回転させて、クランクシャフト30の端面31Aにセンタ穴を形成する制御を行う。
【0035】
そして、所定の深さまでセンタ穴が形成されると、図3のステップS7で、制御装置50は、フライスカッタ40と共にセンタドリル42を後方(図6(H)のX2方向)に戻し、フライスカッタ40とセンタドリル42の回転を停止させる。これで、端面をフライス加工する動作とセンタ穴を形成する動作の一連の加工工程が終了する。
【0036】
図7は、上述した本発明の一実施形態にかかる軸製品加工装置1におけるフライスカッタ40のY軸方向の移動ストロークの長さL(図7(A))と、特許文献1に開示された従来装置の移動ストロークの長さLL(図7(B))とを比較して示した説明図である。
【0037】
図7(A)に示した軸製品加工装置1におけるフライスカッタ40のフライスカッタチップ41の刃先41Aの円列の直径を「D」とし、図7(B)に示した従来装置におけるフライスカッタ60のフライスカッタチップ61の刃先61Aの円列の直径を「D5」とする。また、図7(A)と図7(B)の両方の場合において、加工対象である軸製品(例えばクランクシャフト)30は同一サイズのものであるとし、そのメインジャーナル31の直径を「D2」、端部近傍のフランジ33の外直径を「D1」とし、また、最初の近づけ工程において軸製品30のフランジ33とフライスカッタ40、60との間に確保される安全のためのクリアランスの大きさを「D4」とする。さらに、図7(A)では、端面のフライス加工が終わった時点でフライスカッタチップ41の刃先41Aとメインジャーナル31との間に設けられるクリアランスの大きさを「D3」とする。
【0038】
ここで、典型的な寸法例を示すと、D=D5=100mm、D1=80mm、D2=40mm、D3=5mm、D4=10mmである。
【0039】
図7(A)に示した軸製品加工装置1の場合、端面フライス加工工程においてフライスカッタ40がY軸方向に移動するストロークLは、
L=D/2+D2/2+D3
となり、上記の寸法例を適用すると、
L=50+20+5=75mm
となる。これに対し、図7(B)に示した従来装置の場合、端面フライス加工工程においてフライスカッタ60がY軸方向に移動するストロークLLは、
LL=D5/2+D2/2+D4+(D1/2−D2/2)
となり、上記の寸法例を適用すると、
LL=50+20+10+(40−20)=100mm
となる。
【0040】
ところで、上記の計算例では、D=D5としたが、実際には、D5の方がDよりも大きくなるのが通常である。その理由は次の通りである。図7(A)に示した軸製品加工装置1と、図7(B)に示した従来装置を比較した場合、センタ穴を形成する時は、フランジ33が、フライスカッタ40、60のチップ台座40A、60Aの内側に入り込む必要があるため、チップ台座40Aと60Aの内径は、ほぼ同径になるであろう。図7(A)の場合は、チップ台座40Aの内側寄りにフライスカッタチップ41が装着され、これに対し、図7(B)の場合は、チップ台座60Aの外側寄りにフライスカッタチップ61が装着されている。その為、D5はDよりも大きくなるであろう。
【0041】
例えば、上記寸法例で説明すると、Dが100mmであれば、D5は140mm位の大きさになるであろう。そこで、この値を基に上記の式から計算すると、フライスカッタ60がY軸方向に移動するストロークLLは、さらに大きくなり120mm程度になる。このことからも分かるように、本発明に従う軸製品加工装置1の方が、従来装置よりも、フライスカッタの移動ストロークがより小さくて済む。
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。
【0043】
例えば上記実施形態では、センタドリル42がフライスカッタ40と同じ位置に配置されているが、そうでなくてもよい。また、軸製品30の両端面をそれぞれ加工する2つのフライスカッタ40を設ける代りに、片側の端面31Aを加工する1つのフライスカッタのみを設けた機械でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る、軸製品加工装置の主要な構成を示した側面図である。
【図2】本実施形態に係る、フライスカッタの主要な構造を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係る、軸製品加工装置が行う一連の加工工程の制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】本実施形態に係る、軸製品加工装置が行う一連の加工工程の動作説明図である。
【図5】本実施形態に係る、軸製品加工装置が行う一連の加工工程の動作説明図である。
【図6】本実施形態に係る、軸製品加工装置が行う一連の加工工程の動作説明図である。
【図7】本実施形態に係る、フライスカッタの移動ストロークの長さと、従来装置のフライスカッタの移動ストロークの長さとを比較した説明図である
【符号の説明】
【0045】
1…軸製品加工装置、10…軸製品加工機本体、11…ベッド、13…フライスカッタ駆動台、20…クランプ装置、30…軸製品(クランクシャフト)、31…メインジャーナル、31A…メインジャーナル端面、33…フランジ、40…フライスカッタ、40A…チップ台座、40B…ハブ、41…フライスカッタチップ、41A…フライスカッタチップの刃先、42…センタドリル、42A…センタドリルの刃先、43…アジャスターボルト、44…センタドリル止めボルト、45…回転シャフト、50…制御装置、51…演算部、52…プログラム、60…フライスカッタ、60A…チップ台座、61…フライスカッタチップ、61A…フライスカッタチップの刃先。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸製品(30)の端面(31A)をフライス加工し、かつ、センタ穴を形成するための軸製品加工装置(1)において、
前端部がリング状のチップ台座(40A)と、前記チップ台座(40A)の前端部に、環状に配置された複数のフライスカッタチップ(41)とを有する、前記軸製品(30)の端面(31A)をフライス加工するフライスカッタ(40)と、
前記フライスカッタ(40)の、前記チップ台座(40A)の内側に配置された、前記軸製品(30)の端面(31A)にセンタ穴を形成するセンタドリル(42)と、
前記フライスカッタ(40)と前記センタドリル(42)を駆動し、かつ、制御する制御装置(50)と
を備え、前記制御装置(50)は、
前記軸製品(30)の端面(31A)が、前記フライスカッタ(40)の前記チップ台座(40A)の内側に向って近づくように、前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)の端面(31A)に相対的に近づけ、
その後に、前記軸製品(30)の端面(31A)が、前記フライスカッタ(40)の前記チップ台座(40A)の内側から外側へと移動するように、前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)に対して相対的に移動させつつ、前記フライスカッタ(40)を駆動して前記軸製品(30)の端面(31A)をフライス加工し、
その後に、前記軸製品(30)の端面(31A)が、前記センタドリル(42)の正面に位置するように、前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)の端面(31A)のフライス加工時とは逆方向に相対的に移動させ、
その後に、前記軸製品(30)の端面(31A)にセンタ穴を形成するように、前記フライスカッタ(40)と前記センタドリル(42)を駆動し、かつ、制御する軸製品加工装置。
【請求項2】
複数の前記フライスカッタチップ(41)は、前記チップ台座(40A)のリング状の前端部の内周寄りに沿って装着されている、請求項1に記載の軸製品加工装置。
【請求項3】
前記フライスカッタ(40)の、前記チップ台座(40A)の内側に設けられているハブ(40B)と、前記センタドリル(42)とが、少なくとも前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)の端面(31A)に近づけている時に、前記フライスカッタチップ(41)の刃先に対して後退した位置に配置される、請求項1に記載の軸製品加工装置。
【請求項4】
前記フライスカッタ(40)の、前記チップ台座(40A)の後端部の内側に固着されているハブ(40B)に取り付けられている前記センタドリル(42)が、前記フライスカッタチップ(41)の刃先に対して後退した位置に配置される、請求項1に記載の軸製品加工装置。
【請求項5】
前記センタドリル(42)の刃先の位置は、前記フライスカッタチップ(41)の刃先の位置より、1回のフライス加工で加工可能な追い込み量より大きい距離だけ後退している、請求項4に記載の軸製品加工装置。
【請求項6】
前記軸製品(30)が、前記軸製品(30)の端面(31A)近傍にフランジ(33)を有し、前記フランジ(33)の外径が前記フライスカッタ(40)の前記チップ台座(40A)の内径より小さい場合、前記制御装置(50)は、前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)の端面(31A)に近づける時、前記軸製品(30)の端面(31A)近傍のフランジ(33)の外周が、前記チップ台座(40A)の内周に近づくよう制御する、請求項1に記載の軸製品加工装置。
【請求項7】
軸製品(30)の端面(31A)をフライス加工し、かつ、センタ穴を形成する加工方法において、
前記軸製品(30)の端面(31A)が、チップ台座(40A)のリング状の前端部に、複数のフライスカッタチップ(41)を環状に配置し、装着した前記フライスカッタ(40)の、前記チップ台座(40A)の内側に向って近づくように、前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)の端面(31A)に相対的に近づけるステップと、
その後に、前記軸製品(30)の端面(31A)が、前記フライスカッタ(40)の前記チップ台座(40A)の内側から外側へと移動するように、前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)に対して相対的に移動させつつ、前記フライスカッタ(40)を駆動して前記軸製品(30)の端面(31A)をフライス加工するステップと、
その後に、前記軸製品(30)の端面(31A)が、前記センタドリル(42)の正面に位置するように、前記フライスカッタ(40)を前記軸製品(30)の端面(31A)のフライス加工時とは逆方向に相対的に移動させるステップと、
その後に、前記軸製品(30)の端面(31A)にセンタ穴を形成するように、前記フライスカッタ(40)と、前記チップ台座(40A)の内側に配置された前記センタドリル(42)を駆動し、かつ、制御するステップと
を有する軸製品(30)の加工方法。
【請求項8】
軸製品(30)の端面(31A)をフライス加工し、かつ、センタ穴を形成するのに用いる軸製品加工具において、
前記軸製品加工具は、
回転軸心を中心とする、前端部がリング状のチップ台座(40A)と、
前記チップ台座(40A)のリング状の前端部の内周寄りに沿って装着された複数のフライスカッタチップ(41)と、
前記チップ台座(40A)の後端部の内側に固着され、前記フライスカッタチップ(41)の刃先に対して凹ませて配置されたハブ(40B)と、
軸心を前記回転軸心に合せて前記ハブ(40B)に設置され、かつ、前記フライスカッタチップ(41)の刃先に対して前記ハブ(40B)側へ後退させて刃先を配置させた、センタ穴形成用のセンタドリル(42)と、
を有する軸製品加工具。
【請求項9】
前記センタドリル(42)の刃先の位置は、前記フライスカッタチップ(41)の刃先の位置より、1回のフライス加工で加工可能な追い込み量より大きい距離だけ後退している、請求項8に記載の軸製品加工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−136604(P2007−136604A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333120(P2005−333120)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(394018524)コマツ工機株式会社 (27)
【Fターム(参考)】