説明

軽油基材及び軽油、並びにそれらの製造方法

【課題】十分に供給することが可能な石油系原料から、エネルギー消費の少ない製造プロセスによりユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油を提供する。
【解決手段】活性金属元素としてNi及びMoを含む多孔質体を含む少なくとも1種類の触媒を用いて水素化精製を行い、全芳香族分が10〜20vol%、2環以上の芳香族分が0.5〜1.5vol%、90容量%留出温度が320〜360℃、硫黄分が10massppm以下で、高ユニットリスク化合物としてのベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3−c,d]ピレン及びジベンゾ[a,h]アントラセンの合計量が、0.1massppm未満を0massppmとして積算して0.2massppm以下である軽油基材及び軽油を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油基材及び軽油、並びにそれらの製造方法に関し、特にユニットリスクの高い多環芳香族を低減した軽油基材及び軽油、並びに、当該軽油基材及び軽油の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、ディーゼルエンジンの燃料である軽油に含まれる多環芳香族(PAH)の低減が要求されている。これに対して、フィッシャー−トロプシュ(FT)合成軽油のように芳香族分を含まない原料から軽油を製造する方法(方法1)や、石油系の軽油留分を核水添して、芳香族分を除去する方法(方法2)が検討されている。
【0003】
上記方法1は、芳香族分を含まない原料から製造するため、PAHを含まない軽油を製造できるが、原料の供給が限定的であり、合成コストが高くなるという欠点もある。
【0004】
一方、上記方法2は、核水添を行うために大量に水素を消費すること、高圧水素共存下で軽油留分を処理すること、更には、一度精製された軽油留分を更に水素化処理すること等、軽油を製造するための設備投資や運転コストが嵩むという欠点がある。しかしながら、現状、軽油は主に石油留分を水素化精製することにより製造されているため、既存の設備を利用できる経済性や連産品である石油製品のバランスを考慮すると、上記方法2が現実的である。
【0005】
上記方法2については、軽油中に含まれるPAHを低減する技術が種々試みられている。例えば、下記特許文献1は、PAHを低減した軽油組成物を開示しているが、全PAHを2vol%以下に低減した軽油に関するものであって、PAH個々のユニットリスクに関して言及していない。このように、従来のPAH低減技術は、PAH全体を低減する手法に着目したものがほとんどであり、PAH個々のユニットリスクに着目したもの、特に、運転のシビアリティとユニットリスクの高いPAHの低減とのバランスに着目した技術は知られていない。
【0006】
また、PAHを低減した軽油の製造方法として、下記特許文献2が知られているが、ここでもPAH全体を低減する効果について言及されているのみであり、加えて、導入する水素量が非常に多いことから経済的な運転を行うことが難しい。
【0007】
更に、下記特許文献3では、軽油留分を既に他の装置で水素化された油で希釈して水素化処理した後、気液分離装置を用いて液留分のみを更に水素化処理する方法でPAHを低減している。これもPAH全体を低減する技術であることに加えて、通常の水素化精製装置の下流側に気液分離装置を新設する必要がある等、新規に設備投資が必要となる。
【0008】
一方、PAHの個々の物質について、ユニットリスクという観点から健康への影響を評価する試みが行われており、下記非特許文献1には、種々の化学物質のユニットリスクに関する記載がある。該非特許文献1には、PAHの中でも、ユニットリスクの高い物質として、ベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3−c,d]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン(以降、高ユニットリスク化合物と称する)が挙げられている。これに対して、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、フルオランテン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン並びにピレンはPAHの中でも比較的ユニットリスクが低い物質とされている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−067906号公報
【特許文献2】特開2001−064657号公報
【特許文献3】特開2000−198990号公報
【非特許文献1】ニュージャージー州環境局,“UNIT RISK FACTORS FOR INHALATION”(April 2003).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、本発明が解決しようとする課題は、十分に供給することが可能な石油系原料から、エネルギー消費の少ない製造プロセスによりユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油、並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、芳香族の低減処理のされていない軽油留分に対して適度なシビアリティの水素化精製を行うことで、ユニットリスクの高いPAHを低減できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明の軽油基材及び軽油は、(1)適度なシビアリティの水素化精製を行うことにより、ユニットリスクの高い多環芳香族を低減した軽油基材及び軽油であり、全芳香族分が10〜20vol%、2環以上の芳香族分が0.5〜1.5vol%、90容量%留出温度が320〜360℃、硫黄分が10massppm以下、高ユニットリスク化合物の合計量が0.2massppm以下である。ここで、上記高ユニットリスク化合物は、ベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3−c,d]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセンであり、0.1massppm未満は0massppmとして積算する。
【0013】
上記水素化精製のシビアリティの設定基準として、水素化精製後の軽油留分中における低ユニットリスク化合物の合計量が0.1〜1.5massppmであることが好ましい。ここで、該低ユニットリスク化合物は、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、フルオランテン、ベンゾ[g,h,i]ペリレンであり、0.1massppm未満は0massppmとして積算する。特に、HPLC法により算出した全芳香族分が13〜18vol%であり、かつ、ピレン含有量が5〜15massppmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の軽油基材及び軽油の製造方法は、(2)上記軽油留分の製造方法であり、活性金属元素として、ニッケル及びモリブデンを含む多孔質体(NiMo触媒)を含む少なくとも1種類の触媒を用いて、芳香族低減処理のされていない石油由来の軽油留分を水素化精製することを特徴とし、液空間速度(LHSV)が0.1〜2.0h-1の条件、特に、0.3〜1.5h-1の条件にて行うことが好ましい。この方法で得られる留分は、そのまま、軽油として用いることができ、また、該留分を軽油基材として、他の基材と混合して軽油とすることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記記載により、石油系原料中の芳香族分を完全に除去しなくても、適度なシビアリティの水素化精製を行うことにより、ベンゾ[a]アントラセン等のユニットリスクの高いPAHを十分に低減した軽油基材及び軽油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の軽油基材及び軽油は、適度なシビアリティの水素化精製を行うことにより、ユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油であり、全芳香族分が10〜20vol%、2環以上の芳香族分が0.5〜1.5vol%、90容量%留出温度が320〜360℃、硫黄分が10massppm以下、高ユニットリスク化合物の合計量が0.2massppm以下であることを特徴とする。ここで、該高ユニットリスク化合物は、ベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3−c,d]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセンであり、上記高ユニットリスク化合物の合計量は、0.1massppm未満を0massppmとして各高ユニットリスク化合物の量を積算した値である。上記水素化精製のシビアリティの設定基準として、水素化精製後の軽油留分中における低ユニットリスク化合物の合計量が0.1〜1.5massppmであることが好ましい。ここで、該低ユニットリスク化合物は、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、フルオランテン、ベンゾ[g,h,i]ペリレンであり、上記低ユニットリスク化合物の合計量は、0.1massppm未満を0massppmとして各低ユニットリスク化合物の量を積算した値である。ここで、PAHの測定方法は、個々のPAHについて、ガスクロマトグラフ−質量分析装置(GC−MS)により定量されたものである。この方法は、成分特有の選択イオンのみを検出して測定する選択イオン検出法(SIM)を用いることで、特定成分を高感度で定量できるものである。
【0017】
適度なシビアリティで水素化精製した場合、高ユニットリスク化合物であるベンゾ[a]アントラセン等を測定限界以下にまで低減できる。ベンゾ[a]アントラセン等は、上記非特許文献1に記載のように、フルオレンやフェナントレンに比べてユニットリスクが100倍程度高い。このようなユニットリスクの高い物質を実質的に減少させることで、軽油燃焼後に発生する粒子状物質(PM)に含まれる高ユニットリスク化合物の割合や、給油時等に蒸散する蒸気が与える環境負荷を低減することができる。なお、シビアリティを上げてフルオレンやフェナントレン等の低ユニットリスク化合物を低減しすぎると、全芳香族分が低下することにより、燃料タンクシールのゴム膨潤性が低下してエンジンへの燃料供給ロスや燃料漏れの原因となることがある。また、マイルドに水素化精製した場合にPAHが低減する場合もあるが、この場合は硫黄分等の不純物濃度が高いため、燃焼ガス中に含まれる硫黄酸化物が、排出ガス中のPM低減に用いる触媒を被毒して、触媒のPM除去能力を低下もしくは触媒寿命を短縮させてしまう。
【0018】
ここでいう全芳香族分は、HPLC法による炭化水素のタイプ分析(石油学会規格JPI−5S−49−97)により測定できる。本発明の軽油基材及び軽油は、この方法により測定した全芳香族分が10〜20vol%であり、13〜18vol%であることが好ましい。また、本発明の軽油基材及び軽油は、2環以上の芳香族分が0.5〜1.5vol%である。ここに示す範囲の芳香族分を残さない場合、前記の燃料タンクシールのゴム膨潤性が維持出来ない。更に、本発明の軽油基材及び軽油は、90容量%留出温度が320〜360℃であり、330〜350℃であることが好ましい。90容量%留出温度が320℃未満の場合、流動性向上剤の添加効果がなく、360℃より高い場合は、軽油基材及び軽油中に含まれるPAHの量が増大することや、燃焼性の悪化によって排出ガス中のPM量が増大する等の悪影響が出てくる。加えて、本発明の軽油基材及び軽油は、硫黄分が10massppm以下であり、5massppm以下、特には3massppmであることが好ましい。硫黄分が10massppm以下であることにより、排出ガス中のPM低減に用いる触媒の寿命を延命できる。
【0019】
上述の適度なシビアリティとは、具体的には、芳香族の低減処理のされていない石油由来の軽油留分の水素化精製を、NiMo触媒を含む少なくとも1種類の触媒を用いて、LHSVが0.1〜2.0h-1の条件、好ましくは0.3〜1.5h-1の条件で行うことを指す。
【0020】
芳香族低減処理のされていない石油由来の軽油留分としては、硫黄分が0.5mass%以上、90容量%留出温度が390℃以下である炭化水素油が挙げられ、FT法等で誘導される合成軽油や植物油メチルエステル等の非石油由来の炭化水素油を含まない。通常、芳香族低減処理のされていない石油由来の軽油留分(以下、原料油と称する)の硫黄分は0.5〜5mass%、特には0.7〜3mass%である。また、通常、原料油の窒素分は、50massppm以上、特には80〜500massppmである。原料油の密度(15℃)は、好ましくは0.795g/cm3以上、より好ましくは0.80〜0.92g/cm3である。上述の条件を満たしている限り、炭化水素油の由来に特に制限はないが、直留軽油留分単独の原料油又は直留軽油留分を主成分とする原料油を用いることが好ましい。また、各種石油精製プロセスから得られるプロセス油を直留軽油留分に混合して用いてもよい。該直留軽油留分は、原油を常圧蒸留して得られ、おおよそ10容量%留出温度が150〜280℃、50容量%留出温度が240〜320℃、90%容量留出温度が300〜390℃である。該直留軽油留分に混合して原料油とすることができるプロセス油としては、例えば、熱分解油、接触分解油、直接脱硫軽油、間接脱硫軽油が挙げられる。
【0021】
上記熱分解油とは、重質油留分に熱を加えて、ラジカル反応を主体にした反応により得られる軽質留分油で、例えば、ディレードコーキング法、ビスブレーキング法あるいはフルードコーキング法等により得られる留分をいう。これらの留分は得られる全留分を熱分解油として用いてもよいが、留出温度が150〜390℃の範囲内にある留分を用いることが好適である。
【0022】
上記接触分解油とは、中間留分や重質留分、特には減圧軽油留分や常圧蒸留残油等をゼオライト系触媒と接触分解する際に得られる留分、特に高オクタン価ガソリン製造を目的とした流動接触分解装置において副生する分解軽油留分である。この留分は、一般に、沸点が相対的に低い軽質接触分解油と、沸点が相対的に高い重質接触分解油とが別々に採取されている。本発明においては、これらの留分のいずれを用いてもよいが、前者の軽質接触分解油、いわゆるライトサイクルオイル(LCO)を用いることが好ましい。このLCOは、一般に、10容量%留出温度が210〜250℃、50容量%留出温度が260〜290℃、90容量%留出温度が310〜370℃の範囲内にある。一方、重質接触分解油、いわゆるヘビーサイクルオイル(HCO)は、通常、10容量%留出温度が280〜340℃、50容量%留出温度が390〜420℃、90容量%留出温度が450℃以上であるので、本発明の軽油基材及び軽油の製造に用いる原料油の90容量%留出温度が390℃以下になるよう、HCOを更に分留して軽質な留分を原料油に混合し、また、原料油に混合する量を制限することが好ましい。
【0023】
上記直接脱硫軽油とは、常圧残油および/または減圧残油を直接脱硫装置で水素化精製する際に副生する軽油留分である。また、上記間接脱硫軽油とは、減圧軽油留分を間接脱硫装置で水素化精製する際に副生する軽油留分である。これら直接脱硫軽油や間接脱硫軽油を原料油の一部とする場合も、本発明の軽油及び軽油基材の製造に用いる原料油の90容量%留出温度が390℃以下になるよう、適切な分留を行い、原料油に混合する量を制限して用いることが好ましい。
【0024】
本発明の軽油及び軽油基材の製造方法で行う水素化精製は、バッチ式、流通式、固定床式、流動床式等の反応形式に特に制限はないが、固定床流通式反応装置に充填された水素化精製触媒に水素と原料油とを連続的に供給して接触させる形式が好ましい。
【0025】
本発明における水素化精製は、反応温度が280〜450℃、好ましくは300〜420℃、水素圧力が3〜10MPa、好ましくは4〜9MPaの反応条件で行われる。水素圧力が3MPaより低いと、ユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油中の硫黄分を10massppm以下にすることが困難になり、10MPaを超えるとユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の単位体積あたりの発熱量が小さくなり、好ましくない。本発明における水素化精製は、好ましくは、LHSVが0.1〜2h-1、特には0.3〜1.5h-1の反応条件で行うことが好ましい。LHSVが0.1h-1未満では、一定量のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油を製造するための反応装置が大きくなり過ぎ、LHSVが2h-1を超えると、ユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の硫黄分を10massppm以下にすることが困難になり、好ましくない。
【0026】
また、本発明における水素化精製は、水素/オイル比が100〜1000NL/L、好ましくは150〜500NL/Lの反応条件で行う。水素/オイル比が100NL/L未満では、ユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の硫黄分を10massppm以下にすることが困難になり、1000NL/Lを超えると、水素供給のためのコストが嵩み、経済的にユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油を製造することが困難になり、好ましくない。固定床流通式反応装置で水素化精製を行う場合、水素化精製触媒は、単一触媒床に充填してもよいし、2つ以上の触媒床に分割して充填してもよい。2つ以上の触媒床に分割して水素化精製触媒を充填する場合においては、触媒床間にクエンチ水素を供給することが好ましい。触媒床間にクエンチ水素を供給する場合にあっては、反応器入口に原料油とともに供給する水素とクエンチ水素の合計量と原料油の供給量の比が、100〜1000NL/L、特には150〜500NL/Lとすることが好ましい。
【0027】
本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の製造方法に用いる水素化精製触媒は、NiMo触媒を含む少なくとも1種類の触媒からなる。ここでいうNiMo触媒とは、活性金属元素として、ニッケル及びモリブデンを含む多孔質体であり、好ましくは、ニッケルの含有量が1〜10mass%、モリブデンの含有量が2〜30mass%である。また、該水素化精製触媒は、リン、ホウ素、フッ素等の元素を含んでもよい。更に、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸等のキレート性の有機化合物を含ませた水素化精製触媒も好ましく用いられる。本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の製造方法に用いる水素化精製触媒は、メソポアの中央細孔直径が、好ましくは、4〜20nmであり、更に好ましくは、4〜15nmである。また、比表面積が、好ましくは、30〜800m2/gであり、更に好ましくは、50〜600m2/gである。本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の製造方法に用いる水素化精製触媒は、粉体ではなく、成形体であることが好ましい。ここで、成形体の形状や成形方法に特に制限はないが、球状や柱状の形状が好ましい。球状の場合は、直径が0.5〜20mmであることが好ましい。また、柱状の場合の断面形状は、特に制限はないが、円型、三つ葉型、四つ葉型が好ましい。柱状の場合における成形体の寸法は、断面積が0.25〜400mm2、長さ0.5〜20mm程度であることが好ましい。上記水素化精製触媒の製造方法に特に制限はないが、多孔質無機酸化物担体に上述の活性金属元素やリン等の添加元素を含ませて製造することが好ましい。多孔質無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア等の酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア等の複合酸化物、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライト、βゼオライト、モルデナイト型ゼオライト及びMCM−22等のゼオライトから選ばれる1種又は2種以上からなるものが好ましい。
【0028】
また、本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の製造方法においては、NiMo触媒の他に1種以上の水素化精製触媒を組み合わせて反応装置内で積層させて用いてよい。NiMo触媒と組み合わせる水素化精製触媒としては、CoMo触媒、NiCoMo触媒、NiW触媒等、活性金属元素として、モリブデン及び/又はタングステン並びにコバルト及び/又はニッケルを含む多孔質体であり、好ましくは、コバルト及びニッケル合計の含有量が1〜10mass%、モリブデン及びタングステンの含有量が2〜30mass%である。また、NiMo触媒と組み合わせる水素化精製触媒は、リン、ホウ素、フッ素等の元素を含んでもよい。更に、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸等のキレート性の有機化合物を含ませた水素化精製触媒も好ましく用いられる。本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の製造方法に用いる水素化精製触媒は、メソポアの中央細孔直径が、好ましくは、4〜20nmであり、更に好ましくは、4〜15nmである。また、比表面積が、好ましくは、30〜800m2/gであり、更に好ましくは、50〜600m2/gである。本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の製造方法に用いる水素化精製触媒は、粉体ではなく、成形体であることが好ましい。成形体の形状や成形方法に特に制限はないが、球状や柱状の形状が好ましい。球状の場合は、直径が0.5〜20mmであることが好ましい。また、柱状の場合の断面形状は、特に制限はないが、円型、三つ葉型、四つ葉型が好ましい。柱状の場合における成形体の寸法は、断面積が0.25〜400mm2、長さ0.5〜20mm程度であることが好ましい。上記NiMo触媒と組み合わせる水素化精製触媒の製造方法に特に制限はないが、多孔質無機酸化物担体に上述の活性金属元素やリン等の添加元素を含ませて製造することが好ましい。多孔質無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア等の酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア等の複合酸化物、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライト、βゼオライト、モルデナイト型ゼオライト及びMCM−22等のゼオライトから選ばれる1種又は2種以上からなるものが好ましい。
【0029】
軽油留分中に含まれている4−メチルジベンゾチオフェン(4−MDBT)、4,6−ジメチルジベンゾチオフェン(4,6−DMDBT)のように、ジベンゾチオフェン(DBT)の4位及び/又は6位に硫黄原子に対して立体障害となるアルキル置換基を有する硫黄化合物が存在することが知られており、難脱硫性硫黄化合物と呼ばれている[T.Kabe,A.Ishihara,W.Quin,“Hydrodesulfurization and Hydrodenitrogenation”,Kodansha(1999)参照]。従って、軽油留分を水素化精製すると、難脱硫性硫黄化合物が選択的に残留することになる。一方、このような難脱硫性硫黄化合物の脱硫には、DBT骨格中の硫黄原子を直接脱硫する反応ルート(直接脱硫ルート)よりも、DBT骨格内のベンゼン環を水素化して置換基による立体障害を緩和した後に脱硫する反応ルート(水素化脱硫ルート)を取りやすい水素化精製触媒を用いる方が有利であることが知られている。また、コバルト−モリブデン系水素化精製触媒とニッケル−モリブデン系水素化精製触媒とを比較すると、後者の方が水素化脱硫ルートを取りやすいことが知られている。従って、2種類以上の水素化精製触媒を組み合わせて、反応装置内に積層させて用いる場合は、水素化精製触媒中に含まれるコバルトとニッケルの含有量合計に占めるニッケルの比率がより小さいものを原料油が供給される反応器入口により近い側に、コバルトとニッケルの含有量合計に占めるニッケルの比率がより大きいものを反応器出口により近い側に配置することが好ましい。
【0030】
本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油基材及び軽油の製造方法によれば、得られる軽油留分をそのままユニットリスクの高いPAHを低減した軽油として用いることができ、あるいは他の基材と混合してユニットリスクの高いPAHを低減した軽油製品を調製するための軽油基材として用いることもできる。本発明の軽油基材と混合される他の軽油基材としては、例えば、原油を精製して生産される灯油、フィッシャー・トロプシュ法等で誘導される合成軽油、水素化分解軽油、あるいはそれらの半製品、中間製品等の配合用基材が挙げられる。また、植物油メチルエステル、エーテル類等も他の軽油基材として配合することができる。本発明の軽油基材と他の軽油基材とを配合して、本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油を調製する場合、所望の品質の軽油となるように適宜配合することができるが、他の軽油基材の配合割合は、20mass%以下、特には15mass%にすることが好ましい。
【0031】
また、本発明のユニットリスクの高いPAHを低減した軽油の製造方法においては、添加剤として、低温流動性向上剤、耐摩耗性向上剤、セタン価向上剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、腐食防止剤等の公知の燃料添加剤を添加してよい。低温流動性向上剤としては、エチレン共重合体等を用いることができるが、特には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等の飽和脂肪酸のビニルエステルが好ましく用いられる。また、耐摩耗性向上剤としては、長鎖(例えば、炭素数12〜24)の脂肪酸又はその脂肪酸エステルが好ましく用いられ、10〜500massppm、好ましくは、50〜100massppmの添加量で十分に耐摩耗性を向上させることができる。
【0032】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
後述する水素化精製処理生成油のPAH測定を、以下に述べる方法にて行った。
(PAH測定前処理)
試料の一定量を測り取った後、n−ヘプタンで溶解した溶液をアルミナカートリッジカラムに注入した。次に、アルミナカラムに保持したPAH成分をトルエンで溶出し、溶出したトルエン溶液をトルエンで1mLに定容し、測定溶液とした。
【0034】
(GC−MS(SIM)測定)
下記の装置及び条件にてPAHの定量を行った。
GC装置: Agilent社製6890N型GC
検出器: Agilent社製5973N型四重極質量分析計
カラム: Agilent社製HP−5MS
液相: 95%ジメチルポリシロキサン−5%ジフェニルポリシロキサン
カラムサイズ: 内径0.25mm×30m、 膜厚=0.25ミクロン
カラムオーブン温度: 70℃(10分保持)→10℃/minで昇温→300℃(17分保持)
注入口温度: 290℃
トランスファーライン温度: 290℃
検出器温度: イオン源温度=230℃、四重極温度=150℃
カラム流量: 0.7mL
キャリアガス: ヘリウム
注入方法: パルスドスプリットレス 注入時パルス圧=25psi(1.5min)
スプリットベントライン: 50mL(1.5min)
SIM条件(定量イオン)
アセナフチレン=152、アセナフテン=154、フルオレン=166、フェナントレン及びアントラセン=178、フルオランテン及びピレン=202、ベンゾ[a]アントラセン及びクリセン=228、ベンゾ[b]フルオランテン, ベンゾ[k]フルオランテン, ベンゾ[a]ピレン=252、ベンゾ[g,h,i]ペリレン, インデノ[1,2,3−c,d]ピレン=276、ジベンゾ[a,h]アントラセン=278.
【0035】
(実施例1)
固定床流通式反応装置に水素化精製触媒HOP−414(NiMo触媒、ART K.K.製)100mLを充填し、水素圧力5.0MPa、10L/hで水素を流通させながら室温から150℃まで昇温し、その後、以下の手順で触媒を予備硫化した。硫化剤(市販軽油に1mass%の二硫化炭素を混合したもの)を水素圧力5.0MPa、水素/オイル比500NL/L、LHSV=2.0h-1、150℃の条件下で2時間通油した。その後、温度以外の条件を一定として硫化剤と水素の供給を継続し、20℃/hで230℃まで昇温して、4時間、230℃で一定とした。その後さらに、17.5℃/hで300℃まで昇温して、4時間、300℃で一定とした。この後、この硫化処理された水素化処理触媒を用いて下記軽油留分A(表1)の水素化精製反応を行った。なお、水素化精製反応は、水素圧力8.0MPa、水素/原料油供給比300NL/L、LHSV=1.2h-1及び反応温度352℃で行った。得られた生成油に含まれる高ユニットリスク化合物の合計量は0massppm、生成油中の硫黄分は1.3massppmであった。また、生成油に含まれる低ユニットリスク化合物の合計量は1.1massppm、ピレン含有量は8.7massppmであった(表2)。
【0036】
(実施例2)
水素圧6.5MPa、水素/原料油供給比350NL/L、LHSV=1.0h-1及び反応温度350℃とした以外は、実施例1と同じ装置・運転手順・原料油・触媒にて水素化精製反応を行った。得られた生成油に含まれる高ユニットリスク化合物の合計量は0massppm、生成油中の硫黄分は3.7massppmであった。また、生成油に含まれる低ユニットリスク化合物の合計量は0.4massppm、ピレン含有量は7.0massppmであった(表2)。
【0037】
(実施例3)
固定床流通式反応装置に水素化精製触媒HOP−467(CoMo触媒、ART K.K.製)を15m3、HOP−414(NiMo触媒、ART K.K.製)45m3を充填した。DMDSを用いて予備硫化した水素化処理触媒を用いて、下記軽油留分B(表1)の水素化精製反応を行った。なお、水素化精製反応は、反応器入口水素圧力6.8MPa、水素/原料油供給比300Nm3/KL、LHSV=1.0h-1、及び触媒重量平均温度350℃で行った。得られた生成油に含まれる高ユニットリスク化合物の合計量は0massppm、生成油中の硫黄分は7.4massppmであった。また、生成油に含まれる低ユニットリスク化合物の合計量は0.1massppm、ピレン含有量は10massppmであった(表2)。
【0038】
(比較例1)
固定床流通式反応装置に水素化精製触媒HOP−467(CoMo触媒、ART K.K.製)を40m3、HOP−414(NiMo触媒、ART K.K.製)20m3を充填した。DMDSを用いて予備硫化した水素化処理触媒を用いて、下記軽油留分C(表1)の水素化精製反応を行った。なお、水素化精製反応は、反応器入口水素圧力5.2MPa、水素/原料油供給比250Nm3/KL、LHSV=2.8h-1及び触媒重量平均温度370℃で行った。得られた生成油に含まれる高ユニットリスク化合物の合計量は0.5massppm、生成油中の硫黄分は38massppmであった。また、生成油に含まれる低ユニットリスク化合物の合計量は0.7massppm、ピレン含有量は9.8massppmであった(表2)。
【0039】
(比較例2)
水素圧5.0MPa、水素/原料油供給比200NL/L、LHSV=4.5h-1、反応器温度345℃とし、原料油を下記軽油留分D(表1)、触媒を水素化精製触媒HOP−467(CoMo触媒、ART K.K.製)100mLとした以外は、実施例1と同じ装置・運転手順にて水素化精製反応を行った。得られた生成油に含まれる高ユニットリスク化合物の合計量は0massppmであったが、生成油中の硫黄分は511massppmであった。また、生成油に含まれる低ユニットリスク化合物の合計量は0massppm、ピレン含有量は2.6massppmであった(表2)。
【0040】
(比較例3)
水素圧5.9MPa、水素/原料油供給比170NL/L、LHSV=0.9h-1、反応器温度345℃とし、原料油を下記軽油留分E(表1)、触媒を水素化精製触媒Z(CoMo触媒、Co:3.5mass%、Mo:15mass%)100mLとした以外は、実施例1と同じ装置・運転手順にて水素化精製反応を行った。得られた生成油に含まれる高ユニットリスク化合物の合計量は0.3massppm、生成油中の硫黄分は7.3massppmであった。また、生成油に含まれる低ユニットリスク化合物の合計量は3.0massppm、ピレン含有量は56massppmであった(表2)。
【0041】
(比較例4)
水素/原料油供給比を200NL/L、反応器温度を355℃とした以外は、比較例3と同じ装置・運転手順にて水素化精製反応を行った。得られた生成油に含まれる高ユニットリスク化合物の合計量は0.9massppm、生成油中の硫黄分は5.8massppmであった。また、生成油に含まれる低ユニットリスク化合物の合計量は1.1massppm、ピレン含有量は66massppmであった(表2)。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
上記表2から、実施例における軽油は、適度なシビアリティの水素化精製を行うことにより、ベンゾ[a]アントラセン等のユニットリスクの高いPAHが十分に低減されており、かつ、硫黄分が十分に低いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族分が10〜20vol%、2環以上の芳香族分が0.5〜1.5vol%、90容量%留出温度が320〜360℃、硫黄分が10massppm以下であり、
高ユニットリスク化合物としてのベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3−c,d]ピレン及びジベンゾ[a,h]アントラセンの合計量が、0.1massppm未満を0massppmとして積算して0.2massppm以下であることを特徴とする軽油基材。
【請求項2】
低ユニットリスク化合物としてのアセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、フルオランテン及びベンゾ[g,h,i]ペリレンの合計量が、0.1massppm未満を0massppmとして積算して0.1〜1.5massppmである請求項1に記載の軽油基材。
【請求項3】
ピレン含有量が5〜15massppmである請求項1又は2に記載の軽油基材。
【請求項4】
活性金属元素として、ニッケル及びモリブデンを含む多孔質体を含む少なくとも1種類の触媒を用いて、芳香族低減処理のされていない石油由来の軽油留分の水素化精製を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軽油基材の製造方法。
【請求項5】
前記水素化精製をLHSVが0.1〜2.0h-1の条件で行う請求項4に記載の軽油基材の製造方法。
【請求項6】
全芳香族分が10〜20vol%、2環以上の芳香族分が0.5〜1.5vol%、90容量%留出温度が320〜360℃、硫黄分が10massppm以下であり、
高ユニットリスク化合物としてのベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3−c,d]ピレン及びジベンゾ[a,h]アントラセンの合計量が、0.1massppm未満を0massppmとして積算して0.2massppm以下であることを特徴とする軽油。
【請求項7】
低ユニットリスク化合物としてのアセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、フルオランテン及びベンゾ[g,h,i]ペリレンの合計量が、0.1massppm未満を0massppmとして積算して0.1〜1.5massppmである請求項6に記載の軽油。
【請求項8】
ピレン含有量が5〜15massppmである請求項6又は7に記載の軽油。
【請求項9】
活性金属元素として、ニッケル及びモリブデンを含む多孔質体を含む少なくとも1種類の触媒を用いて、芳香族低減処理のされていない石油由来の軽油留分の水素化精製を行うことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の軽油の製造方法。
【請求項10】
前記水素化精製をLHSVが0.1〜2.0h-1の条件で行う請求項9に記載の軽油の製造方法。


【公開番号】特開2006−160885(P2006−160885A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354259(P2004−354259)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】