説明

軽油組成物及びその製造方法

【課題】排出ガス(特に、粒子状物質)の低減に効果があり、流通系での水分管理を特別に強化する必要がなく、エタノール混合軽油に見られる引火点の低下を防止でき、且つ燃焼効率が悪化しない軽油組成物を開発する。
【解決手段】15℃での密度が0.810〜0.900g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、セタン価が42〜65、水分が1容量%以上10容量%未満、エタノールの含有量が1〜20容量%であることを特徴とする軽油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン用の軽油組成物及びその製造方法、特には、エタノール水溶液と軽油基材とのエマルジョンを含む軽油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気環境の改善は緊急且つ極めて重要な世界的な課題であり、自動車には「CO2と有害排出ガスの同時削減」が強く求められている。自動車業界はこの社会的要求に答えるためにエンジンや排出ガス浄化触媒の改良、車体の改造(軽量化など)、ハイブリッド車の導入などを行っている。また、石油業界では燃料品質の向上(例えば、燃料中の硫黄分の削減など)、バイオ燃料の導入などによるCO2と有害排出ガスの削減を行っている。特に、カーボンニュートラルである植物油由来のバイオ燃料は、大気環境の改善に加えて、非石油系燃料の導入によるエネルギーセキュリティーの観点からも重要であると認識されている。
【0003】
そこで、ガソリンとしては、バイオマス由来の無水エタノールを直接混合したエタノール混合ガソリンや、エタノールからエチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)を製造して該ETBEを混合したETBE混合ガソリンが実用化されている。一方、軽油としては、植物油脂から脂肪酸メチルエステル(FAME)を製造して軽油に混合したFAME混合軽油が実用化されている。また、植物油からFT合成や水素化分解で製造したパラフィン系軽油も商業化が計画されている。さらに、エタノールの利用拡大に加えて、ディーゼルエンジンの欠点である粒子状物質(PM)を低減するために、軽油にエタノールを混合することも注目されている。しかしながら、エタノールの軽油への混合は、大気環境の改善や燃料の多様化の観点では効果的であるが、以下の欠点を有しており、実用化のためには、その解決が強く望まれている。
(1)エタノールは軽油に溶解しない。
(2)混合物の引火点が低下する。
(3)燃費が悪化する。
(4)セタン価が低下する。
【0004】
特に、上述の(1)の解決は、実用化のために重要である。そこで、相溶剤を利用することになるが、相溶剤としては、バイオ燃料導入の観点からFAMEの利用が提案されており、すなわち、軽油/エタノール/FAMEの混合物が効果的であるとの報告がなされている。しかしながら、FAMEを利用しても僅かな水分の混入で、例えば0.1wt%の水分で、相分離が起こってしまう(非特許文献1)。したがって、利用するエタノールは極めて水分含有量の少ない製品が必要であると同時に、同混合物の流通系での厳しい水分管理が必要であり、実用上や経済性の観点から大きな障害になっている。
【0005】
一方、エタノールの脱水は、バイオエタノール製造に係わるCO2削減の観点からも、課題になっている。ある試算によると、バイオエタノールの精製のための蒸留には、エタノール製造に伴う総CO2排出量の23%が費やされ、また、脱水のためには14%が費やされているので、含水エタノールを直接予混合圧縮着火(HCCI)エンジンに投入する研究も見られる(非特許文献2)。しかしながら、HCCIエンジンは、優れた特性を有する将来型エンジンではあるが、実用化には至っていない。また、CO2削減の観点から、ガソリンエンジンよりも燃費特性が優れているディーゼルエンジンの普及・拡大が望まれている現状では、ディーゼルエンジンに対して含水エタノール(すなわち、製造時のCO2削減、水分の混入による相分離の回避が可能なエタノール)の使用が可能になれば、大気環境の改善に加えて、エネルギーセキュリティーの観点からも極めて有益である。さらに、エタノール混合軽油の引火点が常温以下にまで低下することは、組成物のハンドリングに伴う安全性の観点からの懸念事項となるので、実用上の解決すべき課題である。
【0006】
一方、軽油と水のエマルジョンは、排出ガスの低減に加えて燃費の向上効果があり、欧州の都市部では、PMを低減するクリーン軽油としてバスなどのディーゼル車に供給され、一時期ではあるが、実用に供されている。しかしながら、エマルジョン製造方法や界面活性剤の開発が行われ、技術的な進歩があったにも拘わらず、エマルジョンのPM低減効果は比較的小さく、PM低減に着目した費用対効果の観点などから、軽油と水のエマルジョンは、現在では実用化されていない(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ludivine Pidol, “Ethanol as a Diesel Base Fuel: Managing the Flash Point Issue - Consequences on Engine Behavior”, SAE Paper 2009-01-1807 (2009)
【非特許文献2】Daniel L. Flowers, “Improving Ethanol Life Cycle Energy Efficiency by Direct Utilization of Wet Ethanol in HCCI Engines”, SAE Paper 2009-01-1867 (2009)
【非特許文献3】E. Tzirakis, “Diesel-water Emulsion Emissions and Performance Evaluation in Public Buses in Attica Basin”, SAE Paper 2006-01-3398 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、軽油と水のエマルジョンは、現在では実用化されていないが、該エマルジョンは以下の特徴を有している。
1)排出ガス(特に、PM)が低減する。
2)引火点が高くなる。
3)燃費が向上する。
4)厳密な水分管理は不要である。
【0009】
本発明者らは、上記エマルジョンの特徴から、該エマルジョンをエタノール混合軽油と組み合わせることで、エタノール混合軽油の欠点を補完することを想到し、大気環境の改善とエネルギーセキュリティーの向上を両技術の組み合わせで、解決することを鋭意検討した。すなわち、本発明の目的は、大気環境の改善とエネルギーセキュリティーの向上を「含水エタノールを利用する軽油エマルジョン」で達成することであり、より詳しくは、「エタノール製造時のCO2削減のために含水率5%以上のバイオエタノールの利用」を前提に、「排出ガス(特に、PM)の低減に効果があり」、「流通系での水分管理を特別に強化する必要がなく」、「エタノール混合軽油に見られる引火点の低下を防止でき」、且つ「燃焼効率が悪化しない」軽油組成物及びその製造方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、含水エタノール(製造時に水分を5容量%以上含むエタノール)に水を加えて水分量を20〜80容量%にしたエタノール水溶液を、0.5〜3質量%の界面活性剤を溶解させた市販の軽油に混合して、エマルジョンとした燃料をディーゼルエンジン車に供給することで、流通系での水分管理を特別に強化する必要がない上、燃焼効率を悪化させることなく排出ガス(特に、PM)を低減でき、また、エタノール混合軽油に見られる引火点の低下も防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の軽油組成物は、15℃での密度が0.810〜0.900g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、セタン価が44〜65、水分が1容量%以上10容量%未満、エタノールの含有量が1〜20容量%であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の軽油組成物の製造方法は、初留点が130〜200℃、終点が330〜400℃、全芳香族分が40容量%以下の軽油基材に界面活性剤を0.3〜5質量%添加し、該軽油基材と界面活性剤の混合物を75〜97容量%、エタノールを1〜20容量%、水を1容量%以上10容量%未満配合してエマルジョンとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の軽油組成物は、エネルギーセキュリティーや地球温暖化防止に貢献し、且つ排気ガス中の粒子状物質(PM)を低減する効果を奏し、さらには、流通系での水分管理を特別に強化する必要がなく、また、エタノール混合軽油に見られる引火点の低下を抑制でき、加えて、燃焼効率が良好であるという格別な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の詳細を説明する。本発明の軽油組成物は、エタノール、水、及び軽油基材を混合してエマルジョンにした軽油組成物であって、品質が以下の性状を有するディーゼルエンジン用の燃料である。
【0015】
<密度>
本発明の軽油組成物は、15℃での密度が0.810〜0.900g/cm3である。軽油組成物の密度が0.900g/cm3を超えると、エマルジョンによる粒子状物質(PM)の削減効果が低下し、大気環境の改善に貢献できないので、密度は0.900g/cm3以下、好ましくは0.880g/cm3以下、更に好ましくは0.860g/cm3以下である。一方、密度が0.810g/cm3未満では、容量基準の発熱量が低下して燃費や出力の低下が顕著になるので、密度は0.810g/cm3以上、好ましくは0.820g/cm3以上、更に好ましくは0.830g/cm3以上である。
【0016】
<硫黄分>
本発明の軽油組成物は、硫黄分が10質量ppm以下、好ましくは9質量ppm以下、更に好ましくは7質量ppm以下である。本発明の軽油組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であるため、燃焼生成物である硫黄酸化物が少なく、環境負荷の低減に寄与できる。また、硫黄分は、PMを酸化・除去するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)触媒を被毒するので、硫黄分の低減は、PMの浄化率を維持するために極めて重要である。更に、NOx吸蔵還元触媒を装着した車輌においては、該触媒の硫黄被毒の再生に燃料を使用するので、硫黄分の低減は、燃費の向上にも寄与する。そして、これらの効果は、硫黄分が低い程顕著であるため、本発明の軽油組成物中の硫黄分は、好ましくは9質量ppm以下、更に好ましくは7質量ppm以下である。
【0017】
<蒸留性状>
本発明の軽油組成物の蒸留性状は、エマルジョンを製造するために用いたベース軽油(以下、軽油基材という)の性状で規定する(エマルジョンを蒸留するとエマルジョンが破壊され、正確な蒸留性状を得ることができない)。本発明の軽油組成物の製造に用いる軽油基材は、初留点(IBP)が130〜200℃であり、好ましくは140〜180℃、更に好ましくは160〜180℃である。初留点が130℃を下回ると、高温条件下では燃料の噴射系に燃料蒸気が発生し、必要な燃料噴射量を確保できなくなることが懸念される。また、初留点が低過ぎると、燃料の流通系における取り扱いに伴う危険性が増すことからも、初留点は130℃以上であることが必要である。また、初留点が200℃を超えると、軽油の霧化や気化特性が悪化するので、低温条件下でのエンジン運転性の悪化が懸念される。更に、初留点が高過ぎる軽油は、軽油基材中の軽質留分を軽油として利用していない事となり石油のノーブルユースの観点からも好ましくない。
【0018】
一方、上記軽油基材の終点(EP)は330〜400℃、好ましくは350〜370℃、更に好ましくは350〜360℃である。終点が400℃を超えると、粒子状物質(PM)の排出量増加が顕著になり、環境負荷を十分に低減できない。また、終点が低下すると、PM排出量は削減されるが、軽油基材中の重質留分を利用しないことになるので、石油のノーブルユースの観点からも好ましくない。更に、終点が低過ぎると発熱量が顕著に低下するので、容量燃費が悪化することからも、終点は330℃以上である。
【0019】
<セタン価>
本発明の軽油組成物は、セタン価が42〜65であり、好ましくは44〜60、更に好ましくは45〜50である。セタン価が42未満では、ディーゼルエンジンの低温始動条件下での着火性の悪化によって、排出ガスの悪化や運転性の悪化を起こすので、セタン価は42以上、好ましくは44以上、更に好ましくは45以上である。一方、セタン価がある値以上になると、セタン価の向上に伴う着火遅れの短縮が得られないので、必要以上に高くすることは、エンジン性能上からは無意味である。また、セタン価を高めるためには、軽油基材のセタン価を高める必要があるので、製造時のCO2排出量が増加するばかりではなく、燃料の製造価格が高くなる。そのため、経済性の観点からも、エンジンが要求する最低のセタン価に設定する必要があるので、本発明の軽油組成物のセタン価は65以下であり、好ましくは60以下、更に好ましくは50以下である。
【0020】
<芳香族分>
本発明の軽油組成物の製造に用いる軽油基材は、全芳香族分が40容量%以下、好ましくは30容量%以下、更に好ましくは25容量%以下である。軽油基材中の芳香族の含有量が増大し過ぎると、粒子状物質(PM)の排出量が増加するので、エマルジョンによるPM低減効果が相殺されるため、軽油基材の全芳香族分は40容量%以下である。また、特に限定されるものではないが、2環以上の芳香族が1環芳香族よりもPM排出量への影響が大きいので、軽油基材中の2環以上の芳香族の含有量は、好ましくは5容量%以下、更に好ましくは2容量%以下である。
【0021】
<元素分析>
本発明の軽油組成物は、特に限定されるものではないが、水素/炭素のモル比(H/C)が好ましくは1.85以上、更に好ましくは1.87以上、特に好ましくは1.89以上である。軽油組成物のH/C比が小さくなると、粒子状物質(PM)の排出量が増加することに加えて、燃料の単位発熱量当たりCO2排出量が増すので、エンジンから排出されるCO2が増大する。
【0022】
<引火点>
引火点は軽油組成物の取り扱い上の安全性を左右する重要な性状であり、引火点が常温以下では、極めて注意深く扱う必用がある。そのため、本発明の軽油組成物の引火点は、好ましくは20℃以上であり、更に好ましくは25℃、特に好ましくは27℃以上である。
【0023】
<水分>
本発明の軽油組成物は、安定したエマルジョンを生産するために、エタノールと水の合計(以下、エタノール水溶液という)に含まれる水分が好ましくは20〜80容量%であり、更に好ましくは30〜70容量%である。本発明が目的とするエタノール生産時のCO2排出量削減のためには、エタノール水溶液の含水量は5容量%以上であることが好ましいが、更に、長期に渡って安定なエマルジョンを製造するためには、エタノール水溶液中の水分が20〜80容量%であることが好ましい。すなわち、この含水量の範囲を超えると、界面活性剤を用いても安定なエマルジョンを経済的に生産することが困難であり、「エマルジョンを維持するために該軽油組成物の攪拌装置をオンサイトに装着する」か「短期間に使用する」などの制約が生じる。さらに、含水量が多すぎる(エタノール含有量が少なすぎる)と、バイオ燃料の使用量が少なくなりすぎるので、本発明の目的を達成できなく実用的ではないので、エタノール水溶液中の水分は20〜80容量%が好ましい。
【0024】
また、本発明の軽油組成物の水分は、1容量%以上10容量%未満であり、好ましくは2容量%以上10容量%未満である。安定なエマルジョンを経済的及び実用的に生産するためには、軽油組成物の水分は10容量%未満であることが必要である。また、軽油組成物の水分が1容量%未満では、エタノール生産時のCO2排出量が増加したり、長期に渡って安定なエマルジョンを製造することが難しくなる。
【0025】
<エタノール>
本発明の軽油組成物は、エタノールの含有量が1〜20容量%であり、好ましくは3〜20容量%であり、更に好ましくは3〜15容量%である。エタノールの含有量が1容量%未満では、エタノールを添加したことによる本発明の効果が得られず、一方、20容量%を超えると、軽油組成物の着火性の悪化が顕著になるので、エタノールの含有量は1〜20容量%である。なお、使用するエタノールは、脱水工程を省略した含水エタノールでもよいし、脱水された無水エタノールでもよい。また、軽油組成物をディーゼルエンジンで燃焼させた時に発生するCO2を削減する観点から、使用するエタノールはバイオマス由来であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の軽油組成物は、エタノール水溶液の混合量が3〜25容量%であることが好ましく、更に好ましくは3〜20容量%、特には5〜20容量%である。エタノール水溶液の混合量が25容量%を超えると、含水エタノールは着火性が極めて低いので、軽油組成物に必要な42以上のセタン価を確保するためには、使用する軽油基材のセタン価を顕著に高くする必要があり、セタン価向上剤を用いても製造時のCO2排出量が増大するばかりではなく、経済性の観点からも不適切である。一方、CO2削減のためには、本発明の軽油組成物は、出来るだけ多量のエタノールを含有することが好ましい。また、エタノールによるより大きなPM低減効果を得るためにも、多量のエタノールの混合が望まれるため、本発明の軽油組成物のエタノールの含有量は1容量%以上、好ましくは3容量%以上である。また、軽油組成物中のエタノール含有量とエタノール水溶液中の水分含有量の好適範囲を同時に満たす観点から、エタノール水溶液の混合量は、3容量%以上が好ましく、5容量%以上が更に好ましい。
【0027】
<添加剤>
(界面活性剤)
本発明の軽油組成物には、貯蔵安定性を確保するための界面活性剤の利用が効果的である。界面活性剤としてはノニオン系界面活性剤であるエトキシアミンなどが効果的である。また、該界面活性剤の添加量は、上記軽油基材に対して0.3〜5質量%が好ましく、更に好ましくは0.5〜3質量%である。界面活性剤の添加量が0.3質量%未満では、エマルジョン(軽油組成物)の貯蔵安定性を十分確保することが難しく、一方、5質量%を超えても、貯蔵安定性の向上効果が更に向上せず、製造コストが上昇してしまう。
【0028】
(セタン価向上剤)
本発明の軽油組成物には、必要に応じてセタン価向上剤を添加しても良く、該セタン価向上剤としては、アルキルナイトレート系セタン価向上剤や、有機過酸化物系セタン価向上剤が挙げられる。ここで、上記アルキルナイトレート系セタン価向上剤としては、炭素数6〜12のアルキルナイトレートが好ましく、2−メチルヘキシルナイトレートが特に好ましい。また、上記有機過酸化物系セタン価向上剤としては、炭素数6〜12のジアルキルパーオキサイドが好ましく、ジ−t−ブチルパーオキサイドが特に好ましい。そして、これらセタン価向上剤の添加量は、0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。セタン価向上剤の添加量を増すとセタン価は高くなるが、その増加の割合は、添加量が0.5質量%を超えると極めて小さくなるので、セタン価向上剤添加の費用対効果の観点から添加量は0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
(その他の添加剤)
また、本発明の軽油組成物には、任意に、軽油組成物の安定性を確保するための酸化防止剤、軽油組成物の低温流動性を確保するための低温流動性向上剤、軽油組成物の潤滑性を確保するための潤滑性向上剤、エンジンの清浄性を確保するための清浄剤等を適宜添加することができる。
【0030】
ここで、上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2−t−ブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤や、N,N'−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン等のアミン系酸化防止剤、およびこれらの混合物が挙げられる。ここで、これら酸化防止剤の添加量は、0.001〜0.10質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤の添加効果は大きいので、実用的には0.10質量%の添加で十分な効果が得られるからである。
【0031】
上記低温流動性向上剤としては、公知のエチレン共重合体等が挙げられ、特に、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等の飽和脂肪酸のビニルエステルが好ましい。これら低温流動性向上剤の添加量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
上記潤滑性向上剤としては、長鎖(例えば、炭素数12〜24)の脂肪酸またはその脂肪酸エステルが挙げられる。そして、軽油組成物に対し該潤滑性向上剤を10〜500質量ppm、好ましくは50〜100質量ppm添加することにより、軽油組成物の潤滑性を向上して燃料噴射器の摩耗を抑制することができる。
【0033】
上記清浄剤としては、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミン等が挙げられる。これら清浄剤の添加量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
(軽油基材の調製)
本発明で用いる軽油基材は、原料油として、例えば、常圧蒸留装置、接触分解装置、熱分解装置等から得られる各種の軽油留分、すなわち初留点から終点までの沸点範囲(以下、沸点範囲という)が140〜400℃の範囲で留出する留分を用いて、適宜混合して水素化脱硫するか、水素化脱硫後に適宜混合することにより得られるが、芳香族を多く含む原料油を処理する場合は、製品の硫黄分や芳香族を所定範囲にするために、反応温度や水素分圧を高くし、また水素/オイル比を高くすることが有効である。なお、芳香族を多く含む原料油は難脱硫成分も多く含むことから、水素化脱硫にあたっては硫黄分を選択的に除去する触媒を用いる必要がある。
【0035】
上記水素化脱硫は、Co、Mo及びNiの1種以上を含有し、又所望によりPを担持した水素化触媒を用い、反応温度270〜380℃、好ましくは295〜360℃、反応圧力2.5〜8.5MPa、好ましくは2.7〜7.0MPa、LHSV0.9〜6.0h-1、好ましくは0.9〜5.4h-1、水素/オイル比130〜300Nm3/kLの条件から適宜選択して、上述の軽油基材が得られる様にするとよい。
【0036】
本発明では、上記水素化脱硫した軽油留分に、灯油留分、GTL、BTXを製造する際の副生成留分、潤滑油を製造する際の副生成留分、ノルマルパラフィン化合物、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン化合物、イソパラフィン系溶剤、芳香族化合物、芳香族系溶剤、バイオマス由来の燃料基材、ナフテン化合物、ナフテン系溶剤等を適宜配合して、上述の性状、品質に合った軽油基材を調製することができる。
【0037】
(軽油組成物の調製)
本発明の軽油組成物は、エタノール水溶液と上記軽油基材とのエマルジョンを生成させることで得られる。本発明の軽油組成物は、上記の軽油基材に、上記の界面活性剤を所定量溶解させた後さらに上記のエタノール水溶液を所定量混合して得た溶液を、エマルジョン状態になるまで攪拌することで得られる。該攪拌は、例えば真空攪拌機を用いて3〜10分間攪拌すればよい。エマルジョン状態は、上記の攪拌後の溶液が常温常圧で相分離していないことを目視で確認する。なお、エマルジョン状態が安定していれば、例えば、攪拌後1週間常温常圧で静置しても相分離は認められない。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
<軽油組成物の調製>
以下のように調製した軽油組成物(燃料−1〜燃料−7)を評価した。これらの燃料の分析結果を表1に示す。
【0040】
・燃料−1:市販JIS 2号軽油
・燃料−2:燃料−1に無水エタノールを10容量%混合したエタノール含有軽油
・燃料−3:界面活性剤を添加した燃料−1に蒸留水を5容量%混合したエマルジョン軽油
・燃料−4:界面活性剤を添加した燃料−1に無水エタノールを5容量%、蒸留水を5容量%混合したエタノール含有エマルジョン軽油
・燃料−5:界面活性剤を添加した燃料−1に無水エタノールを10容量%、蒸留水を5容量%混合したエタノール含有エマルジョン軽油
・燃料−6:界面活性剤を添加した燃料−1に無水エタノールを20容量%、蒸留水を10容量%混合した高濃度エタノール含有エマルジョン軽油
・燃料−7:無水エタノール
【0041】
<エマルジョンの調製>
なお、エマルジョンは以下の方法で製造した。
ベース軽油(軽油基材、燃料−1)に界面活性剤であるルブリゾール社製のLUBRIZOL 1002(商品名)を、燃料−3〜燃料−5の調製においては2質量%、燃料−6の調製においては4質量%添加して、手動で攪拌し溶解させた。この連続相に、試薬特級無水エタノールと蒸留水を規定の比率で混合した含水エタノール(エタノール水溶液)を混合し、EME社製真空攪拌機V−MINI 300を、自転速度600rpm、公転速度300rpmで4分間攪拌してエマルジョンとした。更に、該エマルジョンを、常温常圧で1週間静置しても相分離しないことを確認した。
【0042】
<燃料の性状分析>
・密度:JIS K2249「原油及び石油製品の密度試験法」
・蒸留性状:JIS K2254「蒸留試験法」
・硫黄分:JIS K2541−6「硫黄分試験法(紫外蛍光法)」
・全芳香族分、2環以上の芳香族分:石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」
・セタン価:JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価およびセタン価試験方法並びにセタン指数算出法」
・引火点:JIS K2265−1「引火点の求め方−第1部:タグ密閉法」
・H分、C分、O分:有機元素分析装置(LECO社製CHN−1000型)を用いて測定した。
【0043】
・ナフテン分:Agilent Technologies社製HP−6890N型FID検出器付きGC及び日本電子社製AccuTOF JMS−T100GC飛行時間型質量分析計からなるGCシステムを用いて測定した。詳細な分析条件は次の通りである。
1次カラム:微極性カラム(Supelco社製PTE−5、長さ30m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)、モジュレータ中空カラム:長さ2m、内径0.1mm
2次カラム:高極性カラム(Supelco社製SpelcoWAX10、長さ2m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)
昇温条件:10℃/分(50℃(5分保持)から280℃(27分保持))
注入口温度:280℃
注入量:1.0μl
スプリット比:100:1
キャリアガス:ヘリウム(He)、1.0ml/分
モジュレータ温度:下記のコールド温度、ホット温度を繰り返す。
ホットジェットガス温度:150℃(5分保持)から320℃(33分保持)に10℃/分で昇温。
コールドジェットガス温度:約−140℃
モジュレータ頻度:6秒間で0.3秒間ホット温度、その後5.7秒間コールド温度。
インターフェイス中空カラム:長さ0.5m、内径0.25mm
FIDガス条件:水素(45mL/分)、空気(450mL/分)、メークアップヘリウム(25mL/分)
ここで、上記GCシステムは、炭素数7〜44の化合物を測定することが可能であり、測定したピーク(山形)の溶出時間とマススペクトルから、それぞれのピーク(山形)に対応する化合物を同定する。同定された全ピーク(山形)の合計を含有量合計(100ピーク体積%)とし、それぞれのピーク(山形)から対応するそれぞれの化合物の含有量をピーク体積%として算出し、これを容量%とする。
【0044】
<供試機関諸元と運転条件>
直噴ディーゼルエンジン
気筒数:1
排気量:1007(cm3
圧縮比:20
燃料噴射系:コモンレール、高圧噴射
【0045】
エンジン回転速度を1300(rpm)に固定し、20(%)及び80(%)負荷条件での排出ガス、燃焼効率を測定した。
【0046】
<エンジン性能評価方法>
燃焼解析:圧力センサーで燃焼室内圧力を検出して司測研製燃焼装置で、図示平均有効圧力、燃焼変動などの燃焼挙動を解析した。
排出ガス:堀場製排出ガス分析装置を用いて、排出ガス中のPM、NOx、HC、CO、CO2を分析した。
燃焼効率:司測研製燃料流量計で燃料消費速度(ml/分)を測定し、上述の燃焼解析で得た図示平均有効圧力(kg/cm2)から、効率を算出した。
【0047】
<エンジン性能の評価・判定方法>
エンジン試験で各燃料からの排出ガスは、市販軽油JIS 2号軽油(燃料−1)を基準に、これよりも排出ガスが多い燃料を(×)、同等な燃料を(△)、少ない燃料を(○)、顕著に少ない燃料を(◎)として表した。また、燃焼効率も同様に、燃料−1との比較で相対評価し、燃焼効率が悪い燃料を(×)、同等な燃料を(△)、良好な燃料を(○)として表した。これらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
<燃料評価結果>
表1に示したように、各燃料の評価結果は、以下の通りである。
燃料−2:エタノールの含酸素効果で粒子状物質(PM)の排出量は低減されたが、燃焼効率の改善はなく、また引火点も13℃と低下した。また、エタノールを軽油に溶解させるためには、無水エタノールが必要である。
【0050】
燃料−3:エマルジョンの効果でPM排出量の低減、燃焼効率の向上が見られたが、CO2削減やエネルギーセキュリティー向上に寄与するバイオエタノールは、利用されていない。
【0051】
燃料−4:含水エタノールを添加したエマルジョンは、顕著なPM排出量の低減と燃焼効率の向上が見られ、本発明の目的を達成できている。また、エマルジョンの貯蔵安定性にも問題はない。
燃料−5:含水エタノールを添加したエマルジョンは、顕著なPM排出量の低減と燃焼効率の向上が見られ、本発明の目的を達成できている。また、エマルジョンの貯蔵安定性にも問題はない。
【0052】
燃料−6:高濃度含水エタノール添加エマルジョンは、着火性の悪化によると推定される燃焼変動の悪化あり、排出ガス(特に、未燃炭化水素、一酸化炭素)の顕著な悪化あり、燃焼効率は測定できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15℃での密度が0.810〜0.900g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、セタン価が42〜65、水分が1容量%以上10容量%未満、エタノールの含有量が1〜20容量%であることを特徴とする軽油組成物。
【請求項2】
初留点が130〜200℃、終点が330〜400℃、全芳香族分が40容量%以下の軽油基材に界面活性剤を0.3〜5質量%添加し、
該軽油基材と界面活性剤の混合物を75〜97容量%、エタノールを1〜20容量%、水を1容量%以上10容量%未満配合してエマルジョンとする
ことを特徴とする請求項1記載の軽油組成物の製造方法。