説明

軽質オレフィン類製造用触媒及び軽質オレフィン類の製造方法

【課題】コーキング劣化が少なく触媒寿命が長い軽質オレフィン類製造用触媒を提供する。
【解決手段】ペンタシル型ゼオライトからなる触媒であって、前記ペンタシル型ゼオライトに含まれるアルカリ土類金属原子及びアルミニウム原子が、原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]=0.2〜15を満たし、及び前記ペンタシル型ゼオライトの窒素吸着法で測定した吸着等温線の傾きの平均値が、相対圧0.2〜0.7の間で30以上である軽質オレフィン類製造用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質オレフィン類製造用触媒及び軽質オレフィン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン、ブテン等の軽質オレフィン類は、各種化学製品の基礎原料として極めて重要な化合物である。これら軽質オレフィン類の製造方法として、メタノール、ジメチルエーテル等の含酸素有機化合物を原料とし、触媒を用いた軽質オレフィン類の製造方法が多数報告されている。
【0003】
上記軽質オレフィン類の製造方法において、触媒としてはゼオライトが主に用いられている。用いるゼオライトとしては、CHA構造のシリコアルミノフォスフェート(SAPO−34)、及びMFI構造のアルミノシリケート(ZSM−5)を用いた例が多数報告されている(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0004】
これらのうち、SAPO−34の方がZSM−5よりも細孔径が小さいため、その表面に炭素質が析出することにより軽質オレフィン類の合成反応に対して有効に作用する活性点(酸点等)が被毒して、触媒寿命が短くなる問題があった(コーキング劣化)。そのため、SAPO−34を触媒とする軽質オレフィン類の製造方法は、例えば流動床型反応器を用いた連続再生方式を採用する。
【0005】
一方、MFI構造を有するZSM−5はSAPO−34と比較してコーキング劣化が遅いため、固定床型反応器を用いた軽質オレフィン類の製造工程を構築することができる(非特許文献3)。固定床型反応器は、流動床型反応器と比較して構造が簡素なため、建設費等の経済的な面で有利である。このような理由から、MFI構造を有するゼオライトを用いた軽質オレフィン類の製造方法において、コーキングをさらに抑制しようとする検討が行われている。
【0006】
特許文献1及び非特許文献4は、MFI構造を有するゼオライトにカルシウム等のアルカリ土類金属を含有させた場合に、コーキング劣化を抑制できることを開示している。また、特許文献1及び非特許文献5は、触媒に用いるMFI構造を有するゼオライトの結晶サイズ(平均粒子径)が小さい場合には、触媒寿命が長くなることを開示している。上述の方法のほかにコーキング劣化抑制のための検討が種々行われているが、十分に長い触媒寿命を有する軽質オレフィン類製造用触媒は得られていなかった。
【特許文献1】特開2005−138000号公報
【非特許文献1】Catalysis Today, vol.106, 2005, p103, John Q. Chen et al.
【非特許文献2】Microporous and Mesoporous Materials, vol.29, 1999, p3, Michael Stocker
【非特許文献3】Journal of the Japan Institute of Energy, vol.84, 2005, p335, 猪俣誠
【非特許文献4】石油学会第48回年会講演要旨集 社団法人石油学会編, 2005, p96, 渡辺裕輔、小俣光司、山田宗慶
【非特許文献5】石油学会誌, 34巻, 1991, p90, 川村吉成、河野保男、松崎健二、佐野庸治、高谷晴生
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、コーキング劣化が少なく触媒寿命が長い軽質オレフィン類製造用触媒を提供することである。
本発明の目的は、メタノール、ジメチルエーテル等の含酸素有機化合物を原料とする軽質オレフィン類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、特定の物性を有するペンタシル型ゼオライトを触媒として用いることにより、メタノール、ジメチルエーテル等の含酸素有機化合物を原料として、長期間安定して軽質オレフィン類が生成できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の軽質オレフィン類製造用触媒等が提供される。
1.ペンタシル型ゼオライトからなる触媒であって、
前記ペンタシル型ゼオライトに含まれるアルカリ土類金属原子及びアルミニウム原子が、原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]=0.2〜15を満たし、及び
前記ペンタシル型ゼオライトの窒素吸着法で測定した吸着等温線の傾きの平均値が、相対圧0.2〜0.7の間で30以上である軽質オレフィン類製造用触媒。
2.前記ペンタシル型ゼオライトがフーリエ変換赤外分光法による赤外線吸収分光測定において、3650cm−1〜3710cm−1の間に吸収極大を有する1に記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
3.前記ペンタシル型ゼオライトがMFI構造を有する1又は2に記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
4.前記ペンタシル型ゼオライトに含まれるケイ素原子及びアルミニウム原子が、原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]=20〜300を満たす1〜3のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
5.150℃以下の温度で水熱合成することにより得られる1〜4のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
6.有機ケイ素化合物を用いて水熱合成することにより得られる1〜5のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
7.1〜6のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒を用いる軽質オレフィン類の製造方法。
8.炭素数1〜4の含酸素有機化合物及び前記軽質オレフィン類製造用触媒を反応させて軽質オレフィン類を製造する7に記載の軽質オレフィン類の製造方法。
9.前記炭素数1〜4の含酸素有機化合物が、メタノール、ジメチルエーテル及びエタノールのいずれか1種以上を含む8に記載の軽質オレフィン類の製造方法。
10.スチームを、重量比[スチーム/含酸素有機化合物]=0.1〜10となるように前記含酸素有機化合物に供給する8又は9に記載の軽質オレフィン類の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コーキング劣化が少なく触媒寿命が長い軽質オレフィン類製造用触媒を提供することができる。
本発明によれば、メタノール、ジメチルエーテル等の含酸素有機化合物を原料とする軽質オレフィン類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の軽質オレフィン類製造用触媒はペンタシル型ゼオライトからなる触媒であって、ペンタシル型ゼオライトに含まれるアルカリ土類金属原子及びアルミニウム原子が、原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]=0.2〜15を満たし、及びペンタシル型ゼオライトの窒素吸着法で測定した吸着等温線の傾きの平均値が、相対圧0.2〜0.7の間で30以上である。
本発明において、相対圧とは、[吸着平衡圧/77Kにおける窒素の飽和蒸気圧]で定義される。
【0011】
ペンタシル型ゼオライトとは酸素5員環の組み合わせで構成されるゼオライトであり、本発明のペンタシル型ゼオライトは、アルカリ土類金属を含む。
本発明のペンタシル型ゼオライトが含むアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられ、好ましくはカルシウムである。
【0012】
ペンタシル型ゼオライトに含まれるアルカリ土類金属及びアルミニウムは、原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]=0.2〜15を満たす。原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]は好ましくは0.3〜10の範囲であり、より好ましくは0.5〜5の範囲にある。
原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]が0.2未満の場合、触媒の寿命が低下し、かつ軽質オレフィン類の収率が低下するおそれがある。一方、原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]が15を超える場合、後述する触媒の調製が困難となるおそれがある。
【0013】
ペンタシル型ゼオライトの、窒素吸着法で測定した吸着等温線の傾きの平均値が、相対圧0.2〜0.7の間で30以上である。
窒素吸着法とは、粉体粒子等の比表面積を測定するための方法である。
本発明においては、一般的に実施されている窒素吸着法を用いることができ、例えば「吸着の科学と応用(2003年、60頁、講談社サイエンティフィック、小野嘉夫 、鈴木勲)」に記載の方法で行うことができる。窒素吸着法により得られた窒素吸着量及び測定温度(通常、77K)における相対圧を、それぞれ縦軸及び横軸にとることで吸着等温線が得られる。当該測定は、例えば日本ベル株式会社やユアサアイオニクス社等の市販の吸着測定装置を用いて行うことができる。
【0014】
尚、ペンタシル型ゼオライトの窒素吸着法で測定した吸着等温線の傾きの平均値が、相対圧0.2〜0.7の間で30以上であれば特に限定されないが、上限値は例えば300である。
【0015】
上記窒素吸着法で得られた測定結果について、横軸に相対圧をとり、縦軸に窒素吸着量をとることにより吸着等温線が得られる。通常、低圧から徐々に高圧へと相対圧を上昇させることにより吸着等温線が得られる。
【0016】
本発明において、相対圧0.2〜0.7の間での上記吸着等温線の傾きの平均値とは、下記式(1)から算出される値である。
【数1】

(式中、Vp(0.7)は、相対圧0.7におけるゼオライト1gあたりの窒素吸着量[cm]であり、Vp(0.2)は相対圧0.2におけるゼオライト1gあたりの窒素吸着量[cm]である。)
尚、上記式(1)において、Vp(0.7)及びVp(0.2)が示す窒素吸着量[cm]は、0℃、1気圧換算した場合の窒素体積であり、吸着等温線から直接的に求めることができる。
【0017】
本発明においては、相対圧0.2〜0.7の間での上記吸着等温線の傾きの平均値が30以上であり、より好ましくは40以上である。上記吸着等温線の傾きの平均値が30未満の場合には、コーキング劣化の抑制効果が十分に得られない。
【0018】
ペンタシル型ゼオライトは、好ましくはフーリエ変換赤外分光法による赤外線吸収分光測定において、3650cm−1〜3710cm−1の間に吸収極大を有する。この領域には、ゼオライト上のヒドロキシル基の伸縮振動が観測され、上記領域にある吸収極大は、アルカリ土類金属とゼオライト上のケイ素及びアルミニウムに基づく酸点から形成される新たな酸点と推測される。
尚、フーリエ変換赤外分光法による赤外線吸収分光測定は、「Trends in Physical Chemistry誌、 vol.1、 133頁、 1990、 T.Sano,H.Okado,H.Takaya著」に記載の方法により実施でき、例えば日本分光株式会社等の市販の装置を用いて行うことができる。
【0019】
本発明で用いられるゼオライトはペンタシル型ゼオライトであり、例えばZSM−5、ZSM−11等のMFI構造ゼオライトが挙げられる。(ゼオライトの科学と応用、1987年、87頁、講談社サイエンティフィック、冨永博夫)。
尚、MFI構造とは、国際ゼオライト学会において定義された骨格構造名称である。
【0020】
ペンタシル型ゼオライトに含まれるケイ素及びアルミニウムは、好ましくは原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]=20〜300を満たす。
原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]が20未満の場合、有効な酸点の増加により触媒への炭素質析出が促進されて、触媒寿命が早期劣化するおそれがある。一方、原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]が300超の場合、有効な酸点の減少により触媒活性が低下するおそれがある。
【0021】
本発明の軽質オレフィン類製造用触媒に含まれるペンタシル型ゼオライトは、例えば水熱合成法により合成できる。水熱合成法とは、加熱水の存在下で行う化合物の合成法であり、ゼオライトの合成に広く用いられている。
【0022】
具体的には、シリカ源、アルミニウム源、水、アルカリ塩、アルカリ土類金属塩、構造規定剤(テンプレート)等を、オートクレーブに仕込み、自圧条件下で、60〜200℃程度の温度で1〜200時間加熱・攪拌して水熱合成する。水熱合成した反応生成物を濾過又は遠心分離により分離し、水洗した後、乾燥させ、300〜700℃で1〜100時間焼成することにより本発明のゼオライトが調製される。
【0023】
尚、上記ゼオライトをさらに、酸処理又はアンモニウム型にイオン交換し、再度乾燥・焼成してもよい。酸処理には、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸やギ酸、酢酸等の有機酸を用いるが、そのなかでも、塩酸が好ましい。また、アンモニウム型へのイオン交換は、アンモニウム水、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液中にて実施する。上記焼成工程を加えることでゼオライトをプロトン型とすることができる。
【0024】
シリカ源としては、コロイダルシリカ、水ガラスの他、有機ケイ素化合物等が挙げられ、好ましくは有機ケイ素化合物を用いる。有機ケイ素化合物の具体例としては、テトラエトキシシラン((CO)Si)、テトラメトキシシラン((CHO)Si)等のアルコキサイド化合物が挙げられる。
アルミニウム源としては、アルミナゾル、ベーマイト、有機アルミニウム化合物等が挙げられる。
構造規定剤としては、各種4級アンモニウム塩(例えば、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキサイド等)、アミン類(トリエチルアミン)等が挙げられる。尚、構造規定剤を用いずに合成することも可能である。
アルカリ塩としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、アルカリ土類金属の硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
尚、上述のシリカ源、アルミニウム源、構造規定剤及びアルカリ塩は、単独又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
ペンタシル型ゼオライトの合成の際には、結晶性向上、及び合成時間短縮のため、ゼオライトの種結晶を仕込む場合もある。種結晶としては、MFI型種結晶が適しているが、FAU型、MOR型等、他の構造の種結晶を使用してもよい(FAU構造、MOR構造とは、国際ゼオライト学会において定義された骨格構造名称である)。また、種結晶の平均粒子径は好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。
【0026】
ペンタシル型ゼオライトの合成における仕込み比は、好ましくは原子比[ケイ素/アルミニウム]=20〜300、原子比[アルカリ金属原子/アルミニウム原子]>1、モル比[構造規定剤/アルミニウム]>1、及びモル比[水/(アルカリ金属+構造規定剤)]=2〜30となるように設定する。
【0027】
本発明ではペンタシル型ゼオライトを、シリカ源として有機ケイ素化合物を用い、オートクレーブによる加熱前に、混合した原料の熟成を十分に行い、さらに低い加熱温度で水熱合成すると好ましい。ここで「熟成」とは、混合した原料を室温付近に保ったまま、継続して攪拌する操作のことである。熟成時間は2時間以上、水熱合成時の加熱温度は150℃以下とすると好ましいが、必ずしもこのような条件とする必要はなく、使用する原料に応じた種々の条件を適宜選択して合成することが可能である。
【0028】
本発明の軽質オレフィン類製造用触媒を用いることにより、エチレン、プロピレン等の軽質オレフィン類を製造することができる。
上記軽質オレフィン類の製造は、例えば固定床、移動床、流動床等の形式の反応器を使用し、本発明の触媒を充填した触媒層に、原料である炭化水素類を供給することにより行う。
【0029】
用いる原料は、好ましくは炭素数1〜4の含酸素有機化合物であり、より好ましくはメタノール、エタノール及びジメチルエーテルのいずれか1種以上を含む含酸素有機化合物であり、最も好ましくはメタノール、エタノール及びジメチルエーテルのいずれか1種以上から実質的になる含酸素有機化合物である。
また、好ましくは本発明の触媒上において、上記含酸素有機化合物に対してスチームを、重量比[スチーム/含酸素有機化合物]=0.1〜10となるように供給する。尚、供給するのはスチームに限定されず、窒素、水素、ヘリウム等を必要に応じて供給してもよい。
【0030】
本発明の軽質オレフィン類製造用触媒及び原料である炭化水素類の反応温度は、通常300〜750℃であり、好ましくは400〜650℃、より好ましくは450〜600℃である。
【0031】
上記のような条件下で、本発明の軽質オレフィン類製造方法を実施することにより、本発明の触媒が、コーキング劣化が少なく触媒寿命が長い触媒とすることができる。
【実施例】
【0032】
実施例1
[ゼオライトの合成]
水酸化ナトリウム水溶液(濃度10wt%)0.25g及び脱イオン水1.2gをテフロン(登録商標)製容器に入れて攪拌して均一の水溶液とした。この水溶液に50gのテトラプロピルアンモニウムヒドロキサイド水溶液(濃度10wt%)を加え、その後0.06gの水酸化アルミニウム、及び0.458gの硝酸カルシウム4水和物を添加して攪拌した。均一になったところで、16.36gのテトラエトキシシランを加え、1時間攪拌した。1時間後に、容器内の添加した原料からなるゲルをオートクレーブ(テフロン製内筒管つき、内容積100mL)に入れた。オートクレーブを水熱合成装置(ヒロカンパニー製)の加熱槽内にセットし、オートクレーブ全体を30rpmで回転させながら、室温(25℃)で24時間、さらに100℃で48時間、加熱・攪拌した。加熱・攪拌後、オートクレーブを放冷し、内容物を回収した。
【0033】
回収した内容物(白色懸濁液)を100mLのナス型フラスコに仕込み、エバポレーションにより水を蒸発・留去させ、白色固形物を回収した。回収した白色固形物を120℃で一晩乾燥させた後、550℃で6時間、マッフル炉内で空気焼成し、白色の粉末を得た。この粉末を0.5Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いて80℃、6時間イオン交換して焼成(550℃、6時間)することにより、プロトン型のゼオライト粉末であるZAC−1を得た。
【0034】
[ゼオライトの評価]
得られたZAC−1についてX線回折分析を行った。RINT-UltimaIII型X線回折装置(株式会社リガク製)を用いて測定を行った結果、ZAC−1がMFI型のゼオライトであることを確認した。
尚、X線回折分析の測定条件は次のとおりである。
X線:Cu−Kα線(グラファイトモノクロメータで単色化)
波長:λ=1.540Å、出力:40kV、40mA
スキャン:ステップ間隔0.02°
スキャン速度:1秒/ステップ
測定範囲:5〜80°
【0035】
得られたZAC−1についてICP発光分光分析法による組成分析を行った。SPS5100型ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて測定を行った結果、ZAC−1はカルシウムを含有し、原子比[カルシウム原子/アルミニウム原子]が3.1であり、また原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]が138であることを確認した。
【0036】
得られたZAC−1を窒素吸着法により窒素吸着量を測定し、吸着等温線を得た。測定にはAutosorb−6型(ユアサアイオニクス社製)を用い、「触媒 第26巻 6号 495頁(触媒学会参照触媒委員会 1984年)」に記載の方法に従って、液体窒素温度(77K)、1kPa〜100kPaの窒素圧力下で、窒素吸着量を測定した。得られた吸着等温線を図1に示す。この図から、ZAC−1の吸着等温線の傾きは、相対圧0.2〜0.7の間で79であると確認した。。
【0037】
得られたZAC−1について、フーリエ変換赤外分光法による赤外線吸収分光測定を行った。ZAC−1をディスク状に成型し、真空排気可能な赤外吸収測定セル中に設置し、400℃で2時間排気焼成を行った。焼成・冷却後、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−550型(日本分光株式会社製)を用いて、室温で積算回数200回、スキャンスピード4mm/secの条件で、3000cm−1〜4000cm−1の波数範囲の赤外吸収測定を行った。結果を図2に示す。
また、比較のため、後述する比較例3で用いる市販のプロトン型MFIゼオライト(HMFI−A、日揮ユニバーサル製、Si/Alモル比=175)についても、同様にして赤外線吸収分光測定を行った。結果を図2に示す。
【0038】
市販のHMFI−Aは、3605cm−1付近に、酸性ヒドロキシル基に基づくピーク及び3740cm−1付近に、シラノール基に基づくピークがみられた。一方、ZAC−1は、3740cm−1付近のシラノール基に基づくピークはみられるが、3605cm−1付近の酸性ヒドロキシル基に基づくピークはみられず、3685cm−1付近に新たなピークがみられた。即ち、ZAC−1の活性点の状態が、通常のHMFIゼオライトとは異なることが確認された。
【0039】
[軽質オレフィン類の製造]
ZAC−1ゼオライト粉末を、60MPaの荷重で圧縮固化させた後、乳鉢で粉砕し篩い分けを行って約1mmφの粒状にした。この粒状成型品1gを内径14mmのステンレス製リアクター(外径3mmの熱電対用内挿管付き)に充填し、厚さ約15mmの触媒層とした。触媒層の上下に石英ウールを詰めて触媒を保持し、リアクターのその他の部分には2mmφのアルミナボール(フジミインコーポレーテッド製、A−901型)を充填した。このリアクターに窒素を60cm/min(0℃、1気圧換算、以下同じ)で流しながら触媒層の温度を600℃まで昇温し、そのまま1時間焼成した。焼成後、触媒層の温度を450℃に保持し、原料であるジメチルエーテルを48cm/minの流量で供給し、さらに窒素を48cm/minの流量で供給して、ジメチルエーテルの反応を行った。
【0040】
反応生成物の分析に関しては、原料流通開始から所定時間後にリアクター出口ガスをオンラインでサンプリング(生成物は全て気化させてサンプリング)し、ガスクロマトグラフィーで生成物収率及び原料転化率を分析した。
尚、本発明において生成物収率及び原料転化率は下記式で定義される。
生成物収率(炭素%)=(生成軽質オレフィン類中の炭素モル量/供給原料中の炭素モル量)×100
原料転化率(%)=(1−未反応原料重量/供給原料重量)×100
(微量に生成するメタノールは、原料(ジメチルエーテルに換算)として計算した。)
【0041】
反応開始時のジメチルエーテルの転化率は、通常95%以上(最大100%)で安定しているが、長時間反応することによって触媒のコーキング劣化が進行し、ある時点で転化率は95%未満となり、その後急激な活性の低下が起こった。
本発明では、触媒上にジメチルエーテルを流し始めてから、ジメチルエーテルの転化率が95%未満に低下するまでに、触媒(ゼオライト粉末)1gあたり反応させることのできたジメチルエーテル(DME)の反応量を触媒寿命[単位:g−DME/g−触媒]と定義した。
【0042】
反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は67.2%であった。そのまま触媒層の温度を450℃に保持して反応を継続し、随時リアクター出口の生成ガス組成を分析した。リアクター出口の生成ガス組成分析で、ジメチルエーテルの転化率が95%未満になった時点までのジメチルエーテルの総反応量を測定したところ、触媒寿命は1539[g−DME/g−触媒]であった。結果を表1に示す。
【0043】
尚、表1において、軽質オレフィン類の製造に用いた触媒に3650cm−1〜3710cm−1の間に吸収極大が確認された場合を「○」とし、確認できなかった場合を「×」とした。同様に、スチーム希釈を行った場合を「○」とし、スチーム希釈を行わなかった場合を「×」とした。
【0044】
比較例1
[ゼオライトの合成]
「日本化学会誌、1号、25頁、1987年」に記載の方法を基づいて、コロイダルシリカ(Cataloid SI−350、触媒化成工業製)、硝酸アルミニウム9水和物、硝酸カルシウム4水和物、水酸化ナトリウム及びテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPABr)を混合して、Si/Al=100、OH−/SiO=0.1、TPABr/SiO=0.1、HO/SiO=40、Ca/Si=0.025のモル組成のスラリーを調製した。
【0045】
得られたスラリーを2Lオートクレーブ内に仕込み、攪拌を行いながら160℃で16時間加熱して、水熱合成を行った。得られた生成物をイオン交換水により十分に洗浄し、110℃にて乾燥後、600℃で4時間焼成した。回収した粉末を0.5Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いて80℃、6時間イオン交換して焼成(550℃、6時間)して、プロトン型ゼオライト粉末であるCa−HMFI−Aを得た。
【0046】
[ゼオライトの評価]
得られたCa−HMFI−Aについて、実施例1と同様にして評価した。
その結果、Ca−HMFI−AはMFI型ゼオライトであり、原子比[カルシウム原子/アルミニウム原子]が1.7であり、及び原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]が91であることを確認した。また、Ca−HMFI−Aの吸着等温線及び赤外線吸収分光測定の結果を、それぞれ図1及び図2に示す。
図2からCa−HMFI−Aは、ZAC−1と同様に3685cm−1付近に吸収ピークを有するが、図1から相対圧0.2〜0.7の間での吸着等温線の傾きが24と低い値であることを確認した。
【0047】
[軽質オレフィン類の製造]
ZAC−1の代わりにCa−HMFI−Aを用いたほかは、実施例1と同様にして軽質オレフィン類の製造を行った。
その結果、反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は99.5%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は55.6%であった。ジメチルエーテルの転化率が95%未満になった時点までのジメチルエーテルの総反応量を測定したところ、触媒寿命は987[g−DME/g−触媒]であった。結果を表1に示す。
実施例1及び比較例1から、ゼオライトがアルカリ土類金属原子を含有しても、本発明の規定する吸着等温線の傾きが小さい場合は、触媒寿命が短いことが分かった。
【0048】
比較例2
[ゼオライトの合成]
特開2005−138000号公報の実施例1に記載の方法を基づいて、9.50gのAl(NO・9HO及び10.92gのCa(CHCOO)・HOからなるゼオライト原料液を750gの水に溶かし、ゼオライト原料水溶液を調製した。このゼオライト原料水溶液に、水333g中に500gのキャタロイドSi−30水ガラス(触媒化成工業製)を溶かした溶液、6質量%NaOH水溶液177.5g、21.3質量%臭化テトラプロピルアンモニウム水溶液317.6g、及びゼオライト種結晶として平均粒子径0.5μmのアンモニウム型のMFI構造ゼオライト(Zeolyst社製、Si/Al原子比は70)15.0g(種結晶を添加せずに合成したゼオライト触媒量の10質量%に相当する量)を攪拌しながら加え、水性ゲル混合物を得た。
【0049】
得られた水性ゲル混合物を3Lオートクレーブ容器に入れ、自己圧力下で160℃で18時間攪拌して水熱合成を行った。水熱合成による白色固体生成物を濾過・水洗した後、120℃で5時間乾燥し、空気中で520℃で10時間焼成した。得られた焼成体を0.6N塩酸中に浸漬させ、室温で24時間攪拌させてプロトン型ゼオライトとした。その後、生成物を濾過・水洗の後、120℃で5時間乾燥し、空気中で520℃で10時間焼成して、プロトン型ゼオライト粉末であるCa−HMFI−Bを得た。
【0050】
[ゼオライトの評価]
得られたCa−HMFI−Bについて、実施例1と同様にして評価した。
その結果、Ca−HMFI−BはMFI型ゼオライトであり、原子比[カルシウム原子/アルミニウム原子]が0.9であり、及び原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]が73であることを確認した。また、Ca−HMFI−Bの赤外線吸収分光測定の結果を図2に示す。
図2からCa−HMFI−Bは、ZAC−1と同様に3685cm−1付近に吸収ピークを有するが、ZAC−1と異なり、さらに3605cm−1付近にも吸収ピークを有することを確認した。また、相対圧0.2〜0.7の間での吸着等温線の傾きが28と低い値であることを確認した。
【0051】
[軽質オレフィン類の製造]
ZAC−1の代わりにCa−HMFI−Bを用いたほかは、実施例1と同様にして軽質オレフィン類の製造を行った。
その結果、反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は99.8%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は58.3%であった。ジメチルエーテルの転化率が95%未満になった時点までのジメチルエーテルの総反応量を測定したところ、触媒寿命は964[g−DME/g−触媒]であった。結果を表1に示す。
実施例1及び比較例2から、微小化したゼオライトであっても、本発明の規定する吸着等温線の傾きが小さい場合は、触媒寿命が短いことが分かった。
【0052】
比較例3
[軽質オレフィン類の製造]
ZAC−1の代わりにアルカリ土類金属を含まない市販のプロトン型ゼオライトであるHMFI−A(日揮ユニバーサル製、原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]=175、相対圧0.2〜0.7の間での吸着等温線の傾きが28)を用いたほかは、実施例1と同様にして軽質オレフィン類の製造を行った。
その結果、反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は57.3%であった。ジメチルエーテルの転化率が95%未満になった時点までのジメチルエーテルの総反応量を測定したところ、触媒寿命は139[g−DME/g−触媒]であった。結果を表1に示す。
実施例1及び比較例3から、アルカリ土類金属を含まず、及び吸着等温線の傾きも小さい触媒は、触媒寿命が短いことが分かった。
【0053】
比較例4
[ゼオライトの合成]
硝酸カルシウム4水和物を添加しなかったほかは実施例1と同様にして、アルカリ土類金属を含まないプロトン型のゼオライト粉末であるHMFI−Bを得た。
【0054】
[ゼオライトの評価]
得られたHMFI−Bについて、実施例1と同様にして評価した。
その結果、HMFI−BはMFI型ゼオライトであり、及び原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]が118であることを確認した。また、HMFI−Bの赤外線吸収分光測定の結果を図2に示す。
図2からHMFI−Bは、3605cm−1付近に酸性OHに基づくピーク、及び3740cm−1付近にシラノールに基づくピークが見られた。3685cm−1付近にも吸収ピークが見られたが、HMFI−Bはアルカリ土類金属を含まないので、3685cm−1付近のピークはアルカリ土類金属に由来するピークではなく、3740cm−1付近のシラノールとは異なるシラノールに基づくピークと推定される。また、相対圧0.2〜0.7の間での吸着等温線の傾きが62と高い値であることを確認した。
【0055】
[軽質オレフィン類の製造]
ZAC−1の代わりにHMFI−Bを用いたほかは、実施例1と同様にして軽質オレフィン類の製造を行った。
その結果、反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は49.3%であった。ジメチルエーテルの転化率が95%未満になった時点までのジメチルエーテルの総反応量を測定したところ、触媒寿命は639[g−DME/g−触媒]であった。結果を表1に示す。
実施例1及び比較例4から、相対圧0.2〜0.7の間での吸着等温線の傾きが高く、3650cm−1〜3710cm−1の間に吸収極大(ピーク)を有するゼオライトであっても、アルカリ土類金属を含まない触媒の場合は、触媒寿命が短いことが分かった。
【0056】
実施例2
[軽質オレフィン類の製造]
実施例1で調製したZAC−1ゼオライト粉末を、実施例1と同様にしてリアクターに充填した。このリアクターに窒素を60cm/min(0℃、1気圧換算、以下同じ)で流しながら触媒層の温度を600℃まで昇温し、そのまま1時間焼成した。焼成後、触媒層の温度を450℃に保持し、原料であるジメチルエーテルを24cm/minの流量で供給し、窒素を9.6cm/minの流量で、及びスチームを62.2cm/minの流量で供給して、ジメチルエーテルの反応を行った。
尚、上記スチームは、脱イオン水を3mL/hの供給速度で気化器を通してリアクターに供給した。
【0057】
反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は96.9%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は55.9%であった。そのまま触媒層の温度を450℃に保持して反応を継続し、随時リアクター出口の生成ガス組成を分析した。ジメチルエーテルの総反応量が3000[g−DME/g−触媒]に達した時点でのリアクター出口ガス組成は、ジメチルエーテル転化率が96.7%及び生成物収率が54.7%であり、ゼオライトの劣化は見られなかった。触媒層の温度を530℃にまで昇温し、スチームの供給を止め、ジメチルエーテルを48cm/minの流量で供給し、及び窒素を48cm/minの流量で供給して、ジメチルエーテルの反応をさらに行った。昇温してから1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は71.1%であった。ジメチルエーテルの総反応量が4200[g−DME/g−触媒]に達した時点でのリアクター出口ガス組成は、ジメチルエーテル転化率が100%及び生成物収率が67.6%であり、ゼオライトの劣化は見られなかった。結果を表1に示す。
本発明のゼオライトは、スチームを導入した場合、及び反応温度が高温の場合であっても劣化が非常に少ないことが確認された。
【0058】
実施例3
[ゼオライトの合成]
テトラプロピルアンモニウムヒドロキサイド水溶液(濃度14.5wt%)13.97g及びテトラプロピルアンモニウムブロミド2.66gをテフロン製容器に添加し、攪拌して均一の水溶液とした。この水溶液に水酸化アルミニウム0.049g及び硝酸カルシウム4水和物0.355gを添加して攪拌した。均一になったところで、水酸化ナトリウム水溶液(濃度50wt%)0.038g及びコロイダルシリカ(Ludox AS−40、アルドリッチ製)10gを加え2時間攪拌した。1時間後に、容器内のゲルをオートクレーブ(テフロン製内筒管つき、内容積100mL)に入れた。オートクレーブを水熱合成装置(ヒロカンパニー製)の加熱槽内にセットし、オートクレーブ全体を20rpmで回転させながら、60時間かけて120℃に昇温し、120℃で6時間保持した。加熱・攪拌後、オートクレーブを放冷し、2000rpmで30分間遠心分離を行うことにより白色固形物を回収した。
【0059】
回収した白色固形物を120℃で一晩乾燥させた後、550℃で6時間、マッフル炉内で空気焼成し、白色粉末を得た。この粉末を0.5Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いて80℃、7時間イオン交換し、焼成(550℃、6時間)することにより、プロトン型のゼオライト粉末であるZAC−2を得た。
【0060】
[ゼオライトの評価]
得られたZAC−2について、実施例1と同様にして評価した。
その結果、ZAC−2はMFI型ゼオライトであり、原子比[カルシウム原子/アルミニウム原子]が0.34であり、及び原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]が110であることを確認した。また、ZAC−2の赤外線吸収分光測定の結果を図2に示す。
図2からZAC−2は、ZAC−1と同様に3685cm−1付近に吸収ピークを有することが確認された。また、相対圧0.2〜0.7の間での吸着等温線の傾きが46と高い値であることを確認した。
【0061】
[軽質オレフィン類の製造]
ZAC−1の代わりにZAC−2を用いたほかは、実施例1と同様にして軽質オレフィン類の製造を行った。
その結果、反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/ジメチルエーテル)は56.6%であった。ジメチルエーテルの転化率が95%未満になった時点までのジメチルエーテルの総反応量を測定したところ、触媒寿命は1551[g−DME/g−触媒]であった。結果を表1に示す。
【0062】
実施例4
[軽質オレフィン類の製造]
実施例1で調製したZAC−1ゼオライト粉末を、実施例1と同様にしてリアクターに充填した。このリアクターに窒素を60cm/min(0℃、1気圧換算、以下同じ)で流しながら触媒層の温度を600℃まで昇温し、そのまま1時間焼成した。焼成後、触媒層の温度を500℃に保持し、原料であるエタノールを16.6cm/minの流量で供給し、窒素を20cm/minの流量で、及びスチームを42.5cm/minの流量で供給して、エタノールの反応を行った。
尚、上記エタノールは、エタノールの50重量%水溶液を4.1g/hの供給速度でマイクロポンプを用いて供給した。
【0063】
反応開始から1時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、エタノール転化率は100%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/エタノール)は99.9%であった。そのまま触媒層の温度を500℃に保持して反応を継続し、随時リアクター出口の生成ガス組成を分析した。触媒1gあたりのエタノール反応量が1046gとなった時点(反応開始から510時間後)でのエタノール転化率は100%であり、生成物収率((エチレン+プロピレン+ブテン)/エタノール)は99.8%であることから、本発明のゼオライトは、エタノールを原料とした場合であっても、劣化が非常に少ないことが確認された。
【0064】
【表1】

【0065】
図3は、実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた結果について、相対圧0.2〜0.7における吸着等温線の傾きの平均値、及び触媒寿命[g−DME/g−触媒]の関係を示す図である。図3から吸着等温線の傾きの平均値が30付近を境にして、触媒寿命が顕著に変化していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の軽質オレフィン類製造用触媒は、含酸素有機化合物を原料とすることができ、当該含酸素有機化合物を接触分解し、軽質オレフィン類を高い収率で製造することができる。また、本発明の軽質オレフィン類製造用触媒は触媒寿命が長いため、触媒の再生周期が長くなり再生回数が減少し、生産効率向上及び生産コスト削減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1及び比較例1で作製したゼオライトの相対圧0.2〜0.7における窒素吸着法で測定した吸着等温線示す図である。
【図2】実施例1〜3及び比較例1〜4で用いたゼオライトの赤外線吸収分光測定の結果を示す図である。
【図3】実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた結果について、相対圧0.2〜0.7における吸着等温線の傾きの平均値、及び触媒寿命[g−DME/g−触媒]の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタシル型ゼオライトからなる触媒であって、
前記ペンタシル型ゼオライトに含まれるアルカリ土類金属原子及びアルミニウム原子が、原子比[アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子]=0.2〜15を満たし、及び
前記ペンタシル型ゼオライトの窒素吸着法で測定した吸着等温線の傾きの平均値が、相対圧0.2〜0.7の間で30以上である軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項2】
前記ペンタシル型ゼオライトがフーリエ変換赤外分光法による赤外線吸収分光測定において、3650cm−1〜3710cm−1の間に吸収極大を有する請求項1に記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項3】
前記ペンタシル型ゼオライトがMFI構造を有する請求項1又は2に記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項4】
前記ペンタシル型ゼオライトに含まれるケイ素原子及びアルミニウム原子が、原子比[ケイ素原子/アルミニウム原子]=20〜300を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項5】
150℃以下の温度で水熱合成することにより得られる請求項1〜4のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項6】
有機ケイ素化合物を用いて水熱合成することにより得られる請求項1〜5のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒を用いる軽質オレフィン類の製造方法。
【請求項8】
炭素数1〜4の含酸素有機化合物及び前記軽質オレフィン類製造用触媒を反応させて軽質オレフィン類を製造する請求項7に記載の軽質オレフィン類の製造方法。
【請求項9】
前記炭素数1〜4の含酸素有機化合物が、メタノール、ジメチルエーテル及びエタノールのいずれか1種以上を含む請求項8に記載の軽質オレフィン類の製造方法。
【請求項10】
スチームを、重量比[スチーム/含酸素有機化合物]=0.1〜10となるように前記含酸素有機化合物に供給する請求項8又は9に記載の軽質オレフィン類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−119453(P2009−119453A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170214(P2008−170214)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 天然ガス有効利用技術に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000226219)日揮ユニバーサル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】