説明

軽量材及びその製造方法

【課題】膨張頁岩の粉砕物や更にこれらに廃棄物等の副原料を混合した混合物の成形体であって粒径の小さな成形体(約5mm以下)を焼成した場合であっても絶乾密度が1.0g/cm3以下の軽量材が得られ、また粒径の大きな成形体(約5mm超)を焼成した場合には従来よりも格段に軽い絶乾密度が0.8g/cm3以下の軽量材が得られるとともに、軽量材の歩留まりが向上する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも膨張頁岩を原料として粉砕した粉砕物を成形して得た成形体であって、その密度が1.8g/cm3以上である成形体を焼成してなる軽量材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量コンクリート用細骨材、軽量モルタル用細砂、鉄骨等の耐火被覆板、各種建造物の断熱板、又は盛土等に用いられる軽量材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市販の軽量骨材の大半は、膨張頁岩を所定の粒度に解砕及び/又は粉砕して成形した後に、ロータリーキルン等の焼成炉で加熱・発泡して製造している。また、軽量骨材は、かかる天然原料の一部を石炭灰、焼却灰、建設汚泥等の廃棄物や建設発生土と置き換えて製造することもあり、この場合は廃棄物のリサイクル促進に資することになる。
しかし、従来の軽量骨材の製造方法では、粒径の小さな解砕品や成形体を用いて焼成すると軽量化し難いという欠点があった。また、たとえ粒径の大きな解砕品等を用いたとしても、絶乾密度を0.8g/cm3以下にすることは困難であった。実際、市販品の絶乾密度はせいぜい1.2g/cm3程度に止まり、1.0g/cm3以下の軽量骨材は市販されていない。
【0003】
一般に、膨張頁岩の発泡による軽量化のメカニズムは、以下のように説明されている。
即ち、膨張頁岩の解砕品や成形体を加熱すると、表層部では温度上昇に伴い徐々に溶融してガラスメルト相が生成し、このガラスメルト相の毛細管凝縮現象により表層部に存するガスが放散して空隙が消滅しやがてガスが透過し難い高密度の層が形成される。一方、この内層部では下記の反応により発生した酸素や二酸化炭素等のガスが封じ込められる結果、内層部は発泡・軽量化する。
【0004】
3Fe23 → 2Fe34 + 1/2O2 ・・・(1)
Fe34 → 3FeO + 1/2O2 ・・・(2)
2 + C → CO2 ・・・(3)
【0005】
また、表層部では前記の反応は起こらず表層部内に存する鉄分は酸化されて赤褐色のFe23(ヘマタイト)になるが、内層部では前記の反応が起こり内層部内に存する鉄分は酸化度がより低い黒色のFeO(ウスタイト)やFe34(マグネタイト)になる。そして、軽量材の軽量性は高密度の表層部と低密度の内層部の体積割合の相加平均で表され、高密度の表層部の体積割合が少ないほど軽量性は向上する。
【0006】
ところで、成形体は粉体を原料として固めたものであるからその空隙率は解砕品よりも高く、成形体の内層部は解砕品の内層部と比べ酸素等のガスの拡散速度は極めて大きい。したがって、ガラスメルト相の毛細管凝縮現象による高密度化と同時に、多くの空隙を通して外部から酸素が侵入し表層部に高密度の酸化物層を生成するため、高密度の表層部の体積割合は大きくなる。このため成形体は解砕品よりも重くなり軽量化が難しい。もっとも、成形体を解砕品と同程度に軽量化しようとすれば、加熱温度を高くして内層部の液相量を増やし発泡し易くする方法もあるが、表層部のガラスメルト相の量まで多くなって成形体同士の融着や焼成炉壁面への付着が生じ易くなり安定製造は困難となる。
【0007】
また、焼成炉としてロータリーキルンを用いて製造する場合、バーナとは反対側(窯尻側)から原料を投入するため原料の昇温速度が遅く、ガラスメルト相が生じて硬化するまで長時間を要するから、その間に成形体同士やキルン壁面との接触・衝突により成形体が摩り減って、軽量材の歩留まりは低下する。特に、成形体の粒径が小さいほど、また成形体の強度が低いほど成形体が摩り減り易く、歩留まりは低下して製造上問題となっていた。
【0008】
そして、かかる課題を解決すべく従来から各種の技術が提案されてきた。例えば、特許文献1では低酸素状態で焼成を行い、成形体内部での酸素拡散速度を低くして赤褐色部の割合を小さくし、より軽量化が達成できる技術を提案している。また、特許文献2では高酸素状態でも軽量化が達成できるように、原料に炭化珪素を添加し、あらかじめ膨張粘土中の炭素分が十分に消費されるように加熱した後に、炭化珪素により発泡軽量化を行う技術を提案している。しかし、いずれの方法を用いても、粒径が5mm以下、特に3mm以下の成形物を焼成した場合には十分に軽量化できず、また、歩留まりが低下するという課題があった。
【特許文献1】特開平6−263497号公報
【特許文献2】特開2000−226242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、膨張頁岩等の粉砕物や更にこれらに廃棄物等の副原料を混合した混合物の成形体であって粒径の小さな成形体(約5mm以下)を焼成した場合であっても絶乾密度が1.0g/cm3以下の軽量材が得られ、また粒径の大きな成形体(約5mm超)を焼成した場合には従来よりも格段に軽い絶乾密度が0.8g/cm3以下の軽量材が得られるとともに、軽量材の歩留まりが向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、膨張頁岩の発泡軽量化のメカニズムと焼成炉を用いた軽量材の製造方法を鋭意研究した結果、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1]少なくとも膨張頁岩を原料として粉砕した粉砕物を成形して得た成形体であって、その密度が1.8g/cm3以上である成形体を焼成してなる軽量材。
[2]前記粉砕物に、副原料として、石炭灰、都市ごみ焼却灰、下水汚泥、建設汚泥及び建設発生土から選ばれるいずれか1種又は2種以上を混合した混合物を成形して得た成形体であって、その密度が1.8g/cm3以上である成形体を焼成してなる前記[1]に記載の軽量材。
[3]発泡促進剤として、炭材、有機材、酸化鉄及び炭化珪素から選ばれるいずれか1種又は2種以上を前記粉砕物又は前記混合物に添加して成形して得た成形体であって、その密度が1.8g/cm3以上である成形体を焼成してなる前記[1]又は[2]に記載の軽量材。
[4]前記成形体を、焼成炉内の酸素濃度を10vol%以下に保持して焼成する前記[1]〜[3]に記載の軽量材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒径の小さな成形体(約5mm以下)を焼成した場合であっても、絶乾密度が1.0g/cm3以下の軽量材が得られ、また粒径の大きな成形体(約5mm超)を焼成した場合には従来よりも格段に軽い絶乾密度が0.8g/cm3以下の軽量材が得られるとともに、軽量材の歩留まりが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の軽量材及びその製造方法について説明する。
(1)成形体の酸素透過係数等について
本発明に係る軽量材は、図1の概念図に示すように、密度が高い表層部1の体積割合を小さくし、発泡により密度が低い内層部2の体積割合を大きくした軽量材である。即ち、本発明では、焼成前の成形体を高密度にして酸素拡散係数の小さな緻密な組織を形成することにより、前記の反応によって生成した酸素の透過を妨いで表層部に存する鉄分の酸化を抑制し、その結果、表層部1が薄くなり全体として軽量化される。以下に、かかる軽量材を得るために成形体に求められる酸素拡散係数等について説明する。
図2及び図3に、それぞれ成形体の800℃における酸素拡散係数とその焼成物(軽量材)の絶乾密度及び成形体の密度との関係を示す。これらの図から分かるように、酸素拡散係数が小さいほど焼成物の絶乾密度は低く成形体の密度は高くなる。そして、図2によれば、絶乾密度が1.0g/cm3以下の軽量材を得るためには、成形体の800℃における酸素拡散係数は2.0×10-52/s以下であることが必要であり、当該酸素拡散係数を有する成形体の密度は1.8g/cm3以上となる。
ここで、成形体の800℃における体酸素拡散係数は、矢木・国井(1953)の未反応核モデルを適用して次の方法により求める。まず、800℃に保持された箱型あるいは管状電気炉に成形体を送入し一定時間保持後に取り出す。この保持時間を変化させ酸化層厚みの異なる数種の焼成物を得る。この焼成物の断面を観察し、焼成物の半径(r)と酸化された表層部の厚み(r0)をそれぞれ測定する。この測定値から(4)式により各焼成時間における反応率(Rt)を算出する。
t={πr3−(r−r03}/πr3 …(4)
次に、この数点のRtを外挿し、Rt=1となる保持時間(t*)を求める。このt*と以下の各特性値を(5)式に代入して酸素拡散係数(D)を求める。
D=ρr2/6bCt* …(5)
ρ:成形体中に含まれる炭素分のモル濃度(mol/m3
b:化学量論係数(ここでは1)
C:焼成雰囲気中の酸素濃度(mol/m3
【0013】
(2)粉砕物等の平均粒径及びn値について
前記粉砕物又はこれに副原料を混合した混合物の平均粒径は5〜300μmが好ましい。前記の反応を円滑に進めるためには粒径は小さいほど好ましいが、小さすぎると粉砕コストが増加して好ましくない。一方、粗い粒子が多すぎると粒子間に空隙ができ成形体の密度が低下する。成形体の密度を高くするためには最密充填しやすい粒度分布が必要である。
図4及び図5に、平均粒径が10μmでn値の異なる粉砕物を成形して得た成形体の密度及び圧壊強度を示す。図から分かるようにn値が小さいほど成形体の密度及び圧壊強度は高くなる。したがって、密度が1.8g/cm3以上の成形体を得るには、n値は1.2以下が必要である。ここで、「n値」とは、粉体の粒度分布をロジン・ラムラー線図にプロットしたときの直線の勾配を示す値であり、この値が小さいほど粒度分布が広い。
また、粉砕は、縦型ミル、横型チューブミル、ボールミル、振動ミル等により行うことができ、また、成形は、押出成形機、攪拌式のミキサー、パンペレターザ、圧縮成形機等により行うことができる。
【0014】
(3)副原料について
本発明では、副原料として、石炭灰、都市ごみ焼却灰、下水汚泥、建設汚泥、建設発生土等を使用することができ、その他、高温・低酸素状態で前記の反応によりガス成分が生じる材料であれば使用可能である。副原料の混合割合は副原料の発泡程度により異なるが、副原料は主原料と副原料の混合物の重量の95質量%まで混合することができる。
また、より低温域からガラスメルト相を生成させ、主原料と副原料から発生するガス成分を低温状態で封じ込めることは、軽量化にとって極めて有効な手段である。したがって、本発明では低温域からガラスメルト相を生成させるために粉末状の主原料、副原料に低融点材料を添加することが好ましい。低融点材料として、長石、シラス、黒曜石、真珠岩又は抗火石等のガラス質鉱物、ペグマタイト又はアプライト等の長石、黒曜石から造られるパーライト、廃ガラス、都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰等を挙げることができる。
【0015】
(4)発泡促進剤について
本発明では、さらに発泡性を高めるために発泡促進剤を使用することができる。かかる発泡促進剤として、活性炭、石炭等の炭材、木屑粉、でんぷん、小麦、コーンスターチ、プラスチック粉等の加熱により炭化する有機材、ベンガラ、赤泥等の酸化鉄、及び炭化珪素等の1種又は2種以上を混合して使用することができる。また、発泡促進剤の添加量は成形体の密度とコストを考慮すると、主原料又は主原料と副原料の混合物の重量の5質量%以下が好ましい。
【0016】
(5)焼成炉内の酸素濃度について
膨張頁岩を加熱すると前記の反応が進むと考えられているが、この反応は主に酸素や温度の影響を受け易く、低酸素状態及び高温下で促進される。ちなみに、n値が1.2以下の粉砕物を成形して得た密度1.8g/cm3以上の成形体を焼成した場合には、低酸素状態でなくても平均粒径が5mm以上の成形体から絶乾密度が1.0g/cm3以下の軽量材を製造することはできる。しかし、平均粒径が5mm以上の成形体から絶乾密度が0.8g/cm3以下の軽量材、又は平均粒径が5mm未満の成形体から絶乾密度が1.0g/cm3以下の軽量材を製造するためには、焼成炉内の酸素濃度は10vol%以下が好ましく、6vol%以下がより好ましく、3vol%以下がさらに好ましい。
【0017】
成形体の焼成温度は1000〜1200℃が好ましい。焼成温度が1200℃を超えると成形体の表層部にガラスメルト相が多くなり過ぎて、原料同士の融着や焼成炉壁面への付着が多くなり軽量材を安定的に製造することが困難になる。また、焼成温度が1000℃未満では前記の反応が遅くなり発泡が不十分になる。
また、本発明で使用する焼成炉は、内熱式又は外熱式のロータリーキルン、トンネル炉等を用いることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により説明する。
[軽量材の製造]
表1に示す膨張頁岩をジョークラッシャーを用いて解砕後、振動ミルを用いて粉砕した。次に、表2に示す配合に従い各種の原料を調合し、これに混練することができる量の水を加えて混練し、手のひらで球状に造粒後、105℃で24時間乾燥して成形体を得た。表3にこの成形体の粒径、n値、密度、800℃における酸素拡散係数、及び圧壊強度を示す。800℃に保持した電気炉に当該成形体を送入し、昇温速度20℃/分で1200℃に昇温後、そのまま10分間保持して軽量材を製造した。表4に電気炉内の焼成温度と酸素濃度、及び得られた軽量材の絶乾密度を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
表4から分かるように、成形体の密度が1.8g/cm3以上の試験例1〜6の軽量材の絶乾密度はすべて0.87g/cm3以下であるから、本発明の課題である絶乾密度が1.0g/cm3以下の軽量材を得ることができた。特に、試験例3、5及び6は、成形体の粒径が2〜3mmと小さいにもかかわらず酸素濃度が3vol%以下の焼成炉(電気炉)で焼成すると、絶乾密度が0.8g/cm3以下の軽量材が得られた。したがって、本発明によれば、従来は軽量化が困難であった粒径が小さいな成形体を用いた場合でも、格段に軽い軽量材を得ることができた。
さらに、成形体の密度が1.8g/cm3以上の試験例1〜6の成形体は圧壊強度が105N以上と高いから擦り減りを低減でき、軽量材の歩留まりは向上することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】軽量材の表層部と内層部を示す断面図である。
【図2】成形体の800℃での酸素拡散係数と焼成物の絶乾密度の関係を示す図である。
【図3】成形体の800℃での酸素拡散係数と成形体の密度の関係を示す図である。
【図4】粉体のn値と成形体の密度の関係を示す図である。
【図5】粉体のn値と成形体の圧壊強度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 表層部
2 内層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも膨張頁岩を原料として粉砕した粉砕物を成形して得た成形体であって、その密度が1.8g/cm3以上である成形体を焼成してなることを特徴とする軽量材。
【請求項2】
前記粉砕物に、副原料として、石炭灰、都市ごみ焼却灰、下水汚泥、建設汚泥及び建設発生土から選ばれるいずれか1種又は2種以上を混合した混合物を成形して得た成形体であって、その密度が1.8g/cm3以上である成形体を焼成してなることを特徴とする請求項1に記載の軽量材。
【請求項3】
発泡促進剤として、炭材、有機材、酸化鉄及び炭化珪素から選ばれるいずれか1種又は2種以上を前記粉砕物又は前記混合物に添加して成形して得た成形体であって、その密度が1.8g/cm3以上である成形体を焼成してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の軽量材。
【請求項4】
前記成形体を、焼成炉内の酸素濃度を10vol%以下に保持して焼成することを特徴とする請求項1〜3に記載の軽量材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−234882(P2009−234882A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85784(P2008−85784)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)