説明

軽量気泡コンクリートパネルの表面処理方法

【課題】本発明は、軽量気泡コンクリート(ALC)パネル表面にモルタル組成物スラリーやセメント系フィラーを塗布、及び乾燥後にパネル表面全体を研磨することなく、薄膜にもかかわらず平滑で防水性、耐久性に優れた性能を有し、簡易塗装のみで鏡面に近い平滑仕上げが可能になるALCパネルの表面処理方法を提供する。
【解決手段】軽量気泡コンクリート(ALC)パネルの表面に、ヤング係数が1.0×10N/mm〜9.0×10N/mmの樹脂系フィラーを塗布することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を平滑に仕上げることが出来るような軽量気泡コンクリート(ALC)の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(ALC)パネルは、鉄筋コンクリートや他のコンクリート二次製品に比べて、断熱性や耐火性、軽量性などその優れた性能を活かして建物の内外装材や床など建築材料として広く使用されている。そして外壁材として使用する場合、建物の耐久性や防水性を確保するため施工後のALCパネルに塗装する必要がある。塗装方法としては、ローラー又はスプレーガン等で下塗り、及び上塗り、或いは下塗り後に中塗り、次いで上塗り塗装を行う。ALCパネルは多孔質であるため防水性を確保するためには一般的には多量の塗料を塗布しなければならない。そうすると、意匠性を損なうことになってしまう。また、昨今の建築物の外壁はシンプルモダンの傾向にあり、押し出し成型版やPC板、金属成型板など表面がフラットでシャープなテクスチャーをもつ外壁材が好まれている。
【0003】
しかし前述の建築材料は、断熱性、耐火性、施工性など多くの性能についてALCパネルに比べて劣るため、従来より建築材料としての性能に優れた、ALCパネルの、表面平滑仕上げが可能な下地処理技術の要望が高い。
【0004】
ALCパネルを平滑に仕上げるための表面処理方法としては、一般的には施工現場にてパネル建て込み後に、ALCパネル表面にモルタルやセメント系のフィラー材を多量にコテ塗り、又は吹き付けコテ押さえを行い、乾燥後にALCパネル表面の全面を研磨するものがある。
【0005】
しかしながら、ALCパネルが既に垂直に施工されているため、多量のモルタルやセメント系フィラーを均一な厚みに塗布する作業や乾燥後に研磨する作業は極めて困難であり、施工品質や工期短縮、現場環境、また建築物全体の重量が増加し構造躯体等の経済性からも好ましくない。
【0006】
また、特許文献1に表面に窪みや凹凸がなく平滑で塗装も容易なALCパネルを製造する方法として、ALCパネル表面にモルタル組成物スラリーを塗布してから研磨して平滑面を形成する方法が記されている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−278962号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前述した一般的な平滑仕上げのための表面処理方法と同様に作業性、経済性、品質に劣ることは勿論、モルタルの固有の性質によって生じる不具合やALCパネルへの悪影響、例えばモルタルのヤング率がALCパネルと大幅に異なることから、応力が発生した場合に伸び性能の違いによる亀裂発生の恐れがある。また硬化乾燥収縮による亀裂発生や付着力低下、防水性低下による雨漏りなどを招いてしまう。
【0009】
本発明の目的は、軽量気泡コンクリート(ALC)パネル表面にモルタル組成物スラリーやセメント系フィラーを塗布して乾燥させた後にパネル表面全体を研磨するという表面処理を施すことなく、薄膜にもかかわらず平滑で防水性、耐久性に優れた性能を有し、簡易塗装のみで鏡面に近い平滑仕上げが可能になるALCパネルの表面処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の代表的な構成は、軽量気泡コンクリートパネルの表面に、ヤング係数が1.0×10N/mm〜9.0×10N/mmの樹脂系フィラーを塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
軽量気泡コンクリート(ALC)パネルの表面に、ALCパネルとヤング係数が類似の樹脂系フィラーを塗布する。これにより、薄膜にもかかわらずALCパネル表面の平滑性、表面強度、防水性を高め、簡易塗装でも鏡面に近い平滑仕上げ可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本願発明について具体的に説明する。
【0013】
オートクレーブ養生後の軽量気泡コンクリート(ALC)パネルの表面に、ヤング係数が1.0×10N/mm〜9.0×10N/mmの樹脂系フィラーを0.1〜1.0kg/mの範囲で塗布することにより、ALCパネル表面の平滑性と表面強度、及び防水性を付与することが出来る。
【0014】
パネル表面に塗布する樹脂系フィラーは、粘度が1000〜150000mPa・sであるものを使うことができる。粘度は、80000〜100000mPa・sであることが好ましい。このような粘度にすることにより、樹脂系フィラーが軽量気泡コンクリートの多孔質で凹凸を有する表面を完全に隠蔽し平滑にするので、薄膜な簡易塗装でも鏡面に近い平滑仕上げが出来る。
【0015】
樹脂の種類は成分中に顔料が分散したものであれば特に制限はなく、公知の樹脂をそのまま採用することが出来る。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、これらの変性樹脂等が挙げられる。
【0016】
ALCパネル表面にザラメと言われる微小突起が発生した場合は、ハケやスクレーパー等でザラメを除去し、数mm程度の大きな凹凸がある場合は、サンダー等を用いて研磨を行うと、平滑性が増すことにより外観が向上し塗装面の仕上がりも良くすることが出来る。
【0017】
また、該樹脂系フィラーの塗布範囲をパネル表面全体、パネル端部小口部分の面取り斜め部、シーリングのために切削加工された箱目地部にのみとすることにより、該樹脂系フィラーがALCパネル小口に付着してパネル幅や長さが増大することはない。このため、施工時何枚も建て込んだ時の累積誤差が低減する。
【0018】
ここで、該樹脂系フィラーを塗布するALCパネルの表面端部小口の面取り部分においては、ALCパネル表面と形成する縁部や、シーリングのために切削加工された箱目地部と形成する縁部は、予め概略曲面状に加工しておくと、経時によって角部からのひび割れや雨水の浸入による塗膜の剥がれが発生しないため、耐久性が大幅に向上する。
【0019】
さらにALCパネルの表面端部小口の面取り部の見付け寸法が10mm以下であれば、パネル建て込み後のパネル間の目地幅が、通常のALCパネルよりかなり小さく押し出し成型版以上に意匠性を向上させることが出来る。
【実施例】
【0020】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0021】
[実施例1]
通常のピアノ線切断によって分割され、オートクレーブ養生し脱型して製造されたALCパネルの表面にスクレーパーとエアを用いてザラメ、粉落としを実施し、パネル小口面に樹脂フィラーが付着しないようにパネル小口の四周をマスキングテープを巻いた。
【0022】
次に下地処理としてアクリルエマルション系プライマーを塗布した後、粘度95000mPa・sに調整されたヤング率が概略2.1×10N/mmのアクリルエマルション系樹脂フィラーを塗布量が0.5kg/mとなるようにコテやハケを用いて塗布した。その後、常温で数分間放置して塗布面がある程度硬化したら、コテムラ等をサンドペーパーを用いて研磨した。
【0023】
次に、上塗り材としてJISA6909(建築用仕上塗材)に規定されている複層塗材Eを塗布量が0.5kg/m程度になるようにスプレーガンを用いて塗布したところ、平滑性に優れる鏡面仕上げに近いテクスチャーが出来上がった。この実施例によって得られたALCパネルの一般部の断面を図1に示す。
【0024】
このようにして得られたALCパネル表面に対してJISA6909(建築用仕上塗材)に準じ透水試験、付着試験を行った。透水B法では全ての測定箇所で0.5cc以下であった。付着試験においては、建築研究所が規定した引っ張り試験では全て母材破壊にて塗膜の剥離は無く、クロスカット試験法ではピーリング現象は全く見られなかった。
【0025】
また、JISA6909(建築用仕上塗材)に準じた温冷繰り返し試験と、JSTM7001に準じた実大外壁等の日射熱による熱変形、及び耐久性試験を実施した結果、パネル表面には亀裂や塗膜の剥離は一切見られなかった。さらにJISA5600に規定されれている屋外曝露試験でも、一年以上経過後のパネル仕上げ面にはひび割れや膨れなどの異常は一切発生していないことが確認できた。
【0026】
[実施例2]
図2はALCパネルの表面端部小口の面取り部分において、ALCパネル表面と形成する縁部、及びシーリングのために切削加工された箱目地部と形成する縁部が概略曲面状に加工されているALCパネルを用いて、実施例1と同様の表面処理を行ったALCパネル端部の断面である。本実施例においても、実施例1と同様の効果が得られる。
【0027】
[実施例3]
図3は前記樹脂系フィラーを塗布するALCパネルの表面端部小口の面取り部の見付け寸法が10mm以下であるALCパネルを用いて、実施例1と同様の表面処理を行ったALCパネル端部の断面である。本実施例においても、実施例1と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、ALC外壁材において平滑仕上げを行うための表面処理方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による実施例1に示すALCパネル一般部の断面図。
【図2】本発明による実施例2に示すALCパネル端部の断面拡大図。
【図3】本発明による実施例3に示すALCパネル端部の断面拡大図。
【符号の説明】
【0030】
1…ALC基材
2…プライマー
3…樹脂フィラー
4…上塗材
5…曲面状の縁部
6…面取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートパネルの表面に、ヤング係数が1.0×10N/mm〜9.0×10N/mmの樹脂系フィラーを塗布することを特徴とする軽量気泡コンクリートパネルの表面処理方法。
【請求項2】
前記樹脂系フィラーの粘度が1000〜150000mPa・sであり、塗布量が0.1〜1.0kg/mである請求項1に記載の軽量気泡コンクリートパネルの表面処理方法。
【請求項3】
前記樹脂系フィラーの粘度が80000〜100000mPa・sであり、塗布量が0.1〜1.0kg/mである請求項1に記載の軽量気泡コンクリートパネルの表面処理方法。
【請求項4】
前記樹脂系フィラーを軽量気泡コンクリートパネル表面全体、軽量気泡コンクリートパネル端部小口部分の面取り斜め部、シーリングのために切削加工された箱目地部に塗布する請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の軽量気泡コンクリートパネルの表面処理方法。
【請求項5】
前記樹脂系フィラーを塗布する軽量気泡コンクリートパネルの表面端部小口の面取り部分において、軽量気泡コンクリートパネル表面と形成する縁部、シーリングのために切削加工された箱目地部と形成する縁部が概略曲面状に加工されている請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の軽量気泡コンクリートパネルの表面処理方法。
【請求項6】
前記樹脂系フィラーを塗布する軽量気泡コンクリートパネルの表面端部小口の面取り部の見付け寸法が10mm以下である請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の軽量気泡コンクリートパネルの表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−331974(P2007−331974A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164804(P2006−164804)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】